よく晴れたその日。
「頑張ってね、お兄ちゃん!! でも怪我はしないでね?」
「ファイトでちゅよぉ~!!」
「しっかりね。無理しちゃ駄目だよ」
「気を付けて行きたまえ横島君! 私は娘たちと応援しているよ」
ははははは。
爽やかな声で見送られ、家を出る。
さあ、GS試験後半戦だ!!
がんばれ横島君!!~横島君とGS試験・後編~
今日もよい天気で試験日和!
雪と勘九朗は天候気候関係無しに元気だぞ!!
隣ではしゃがないで欲しいなぁ。同類だと思われたくないし。
ああ、ほら。昨日より視線が痛い!?
く、なんでだ? こんな見るからにごく普通で平凡な青少年をそんな危険人物を見る目で…!?。
納得いかない憤りは胸に秘め、試験会場に張り出されたトーナメント表を眺める。
どうか、こいつらとは当たりませんように。
祈りが通じたか、初っ端から雪や勘九朗と遣り合わなくてすむらしい。
俺の相手は…え~と、ドクター・カオス?
誰だ?
正直、受験者の顔と名前なんていちいち覚えてない。
きょろきょろと、それらしい人物を探してみたが。全く分からん!
あ、傍でまた雪とピートが睨み合ってる。
どーやらこの二人一回戦で勝てば、二回戦で当たるらしい。
二人一緒に潰れてくれないかな?
淡い期待を抱きつつ、今にも殴り合いを始めそうな空気を発している二名から距離をとる。
陰念なんかすでに避難してやがる。
声かけろよ、てめぇ。
勘九朗はにやにやしながら傍で見守ってるし。
碌な奴がいない。
思って、ため息をつけば横合いからぽや~と名を呼ばれた。
「横島く~ん? ああ~、やっぱり横島君だわ~~」
この独特の口調。思い当たるのはただ一人。
「冥子ちゃん!? え、どうしてここにいるの」
可愛らしい白のエプロンドレス姿の冥子ちゃん。足元にはショウトラもいる。
ちなみに一人と一匹はおそろいのナースキャップをかぶっていた。
「冥子ね~、試験会場の救護班なの~。ショウトラちゃんで怪我した人を治してるのよ~」
「へぇ、そっか。偉いんだね、冥子ちゃん」
褒めれば顔を赤らめ、えへへと笑う。ついでにショウトラも自分も褒めろとばかりに足元に擦り寄ってきたので、頭を撫でてやった。
「嬉しいわ~。そうだ~。ねぇねぇ、横島君~冥子この格好似合う~?」
そう言って、くるりとターン。
スカートの裾がふわりと揺れた。
「うん、可愛いよ。よく似合うよ、冥子ちゃん」
「わぁい。ありがと~横島君~。
あ~、冥子お仕事があるから~、もう行くわね~。怪我したらいつでも言ってね~。冥子が治してあげるから~。頑張ってね~~」
手を振って、パタパタと去ってい後姿を見送った。
それしにても。走ってるはずなのに、どーしてか急いでる印象を受けないな冥子ちゃん。
でも冥子ちゃんのおかげで俺も落ち着いたみたいだ。
この場の空気に呑まれて、緊張していたらしい。
うん、すっかり体も心も和んだよ!!
試合の始まりを告げるベルが鳴り、会場内の空気が色が一変する!
さぁて、やりますか……!
「ほぉう、わしの相手はおぬしか小僧」
リング。待っていたのは昨日インタビューを受けていたでっかい爺さん。
にやりと浮かべた笑みが恐ろしい。
感心したようなアナウンスを聞けば、ヨーロッパの魔王と恐れられたほどの人物だとか。
おいおい、なんか大物チックじゃねーか。
「ふっふっふ。行くぞ、マリア!!」
「イエス・ドクター・カオス!」
並んで立つ二十歳ほどの女性。無表情に俺を見る。
「ちょっと、待てぇ! 2人がかりは反則じゃないのか!? おい!」
必死の抗議もけれどすかした顔の審判は、一言。
道具として認められている。
待たんかい。どー見ても人間! 道具ぢゃねぇ!!
「ふははははは!! 驚くのも無理はない!! このマリアこそわしの最大にして最高傑作じゃ!!」
傑作って…ロボットかなんかか、あのねーちゃん!?
その証拠に、ちゃきりと構えた腕が飛んできました!
「ひぃっ!?」
身を捩って交わすが、掠めた頬に鋭い痛み。
ロボットに霊力があるのかと疑問に思うが、その手にはめたなにやら魔方陣がびっしり書き込まれたグローブが原因だろう。
爺さんは爺さんで、マントの前を開いたと思ったら胸に描かれた魔方陣から怪光線が!!
一歩間違うと変態だぞ!!
マリアは道具扱いだが、実質二対一です。どうしましょう!?
マリアはスピードパワーともに文句なく。爺さんは年寄りのくせに元気だし、怪光線が意外と威力あるし。
そしてこの二人、コンビネーションがいい!
マリアが追い詰めて、爺さんの怪光線。もしくは、怪光線を囮にしてマリアが来る。
俺の放つソーサーもニードルも、マリアが叩き落しやがった。
そーいえば俺、複数を相手にするのは初めてだ。
あっという間に、リングの角。追い詰められた。
「くっくっく。観念せい、小僧!!」
「うぐぐ…」
背に当たる結界の感覚。
正面で、ドクターカオスが不敵に笑う。
じりじりと、マリアが距離を詰めてくる。
順位にこだわってるわけじゃないから、負けたって構わないんだけど。
でも、このまま負けるのもなんか悔しい!
マリアの腕が発射体制をとる。
道場で鍛えられた体が無意識に反撃のチャンスを窺い、逃げ道を捜す。
ばしゅう!!
高速で迫る白い腕!
[屈んで突っ込め、兄弟!!]
瞬間、頭の中に響く声!!
反射的に従って。ぎりぎりのタイミングで交わした腕は、俺の頭上を虚しく通り過ぎてゆく。
[そのまま、そのねーちゃんの腹にサイキック・ソーサーだ!!]
またあの声が。
左手に生み出されたソーサー。急ごしらえで形も不安定で、小さいが。
眼前にマリアの蹴りが迫る!
だが、霊力の無いそれは直前で見えない何かに防がれて。
代わりに俺の左手が、彼女の腹に叩き付けられた!
…っごぉぉぉ!!
いつもより控えめの爆発。
けれど、マリアをリングの中ほどまで吹き飛ばすには充分。
おかげで距離が取れた。
爺さんはマリアの名を叫びながら、煙を噴き上げている彼女に駆け寄っている。
今のうちに呼吸を整えて…って、さっきの声は!?
[おうおう、せっかく危ないところを助けてやったのに。俺の事を忘れるとはつれないねぇ]
頭の中に響く声。
誰だ、お前!?
俺の疑問を受けて、苦笑の気配が広がってゆく。
[あー、詳しい説明はメンドーなんで後。まず左手見てみな]
言われて、左手を持ち上げて――凍った。
ありえないものが、あった。
生き物なら絶対に持っているもの。けれどその場所には絶対無いはずのもの。
単刀直入に言おう。
生えていた。俺の左手の甲に。目が。
[おいおい、雑草じゃねーんだからよぉ。もう少し言い様ってもんがあるだろ、兄弟?]
兄弟言うな! 俺は一人っ子じゃ!!
目玉の親父みたいな兄弟なんぞ欲しくないわい、気持ち悪い!!
[つれねぇなぁ。文字通り一心同体だってーのによ。
ま、俺の事は気軽に魔眼と呼んでくれ! それより、向うさんも体制立て直しちまったみたいだぜ?]
ああ、確かに。
こいつ――魔眼と掛け合いやっている間にマリアは何事も無かったかのように立ち上がり、爺さんと一緒にこちらを見ている。
二人、均等に距離を開け。またもじりりと間合いを詰めてくる。
どうしようかと思案すれば、また魔眼が軽い口調で語りかけてきた。
[まずはあの女の方だぜ。あのグローブが霊的攻撃を可能にしてる。あの腕壊しちまいな!!]
そー簡単に言うけど、結構強いんだぞ!
[ロケットパンチの瞬間を狙え! 飛ばせるのは左だけだ。ワイヤーには霊力を感じなかったから、それをぶった斬っちまいな。接近を許さなければやりやすいぜ。じーさんはその後でいい!!]
よーし、わかった!!
答えて、手の中に生み出すのはニードル。
迫るマリアと爺さんから逃げ回りながら、常に一定の距離を保つ。
その間もニードルを放って牽制。
やがて待っていたその時が。
鋭い音をさせ、マリアの腕が飛ぶ! ピン!と、張ったワイヤー。
狙うのは、その根元。彼女の肘付近!
「喰らえ、サイキック・ソーサー!」
ドッゴォォゥ!!
放ったソーサーはきれいな弧を描きつつ、狙い通りに着弾。
「マ、マリアァ~~!?」
意外とダメージがあったのか黒煙を吹き上げぐらりと倒れ込むマリアの姿に、頭を抱え悲痛な叫びを発するドクター・カオス。
[ぃよぉ~し、今だぜ兄弟!!]
「おうよ、いっけぇ~!!」
左手に生み出されたソーサーは言葉とともに、マリアに駆け寄ろうとした爺さんに真っ直ぐに向かい――
「あ゛っ!?」
気付いて振り向いたその顔面に直撃した。
ぷすぷすと焦げた音をさせながら、床でぴきぴきと呻く爺さん。
無表情のまま身を起こして、その爺さんの身を案じているマリア。
そうして審判は俺の勝利を宣言した。
他の連中の試合は見なくても大体分かる。
一回戦はちゃんと勝っているんだろう。
と、思いきや。
陰念が、ミス・クロウに負けた。
嘘だろ?
試合展開はほぼ一方的。
陰念がどれほど攻めてものらりくらりときれいに交わして致命傷にはならず、なのに向うの攻撃は恐ろしいほど正確にクリーンヒット!
昨日の試合で使えるようになった、肘まであるごついあの篭手でも防ぎきれずに吹っ飛ばされて。
素早さでかく乱しようにも、動きを先読みされてことごとくが失敗に終わる。
なんと言うか…圧倒的な実力差。
俺だけでなく、他の受験者達も注目している。
もしかすると勘九朗より上なんじゃないだろーか?
試合が終わる頃にはすっかりぼろぼろだ。
大丈夫かと駆け寄れば、てっきり悔しがっていると思った陰念はとても清々しい顔をして呟いた。
「や、やっと…まともな奴と戦えた……」
そのままがっくり気を失って。
担架に乗せられ運ばれてゆくのを見送る以外、一体どうすればよかったのか?
お前もホント苦労してるんだな。
そんな感傷などお構い無しに、頭の中に響く声。
[よぉ、兄弟。俺の事について教えてやるからどこかゆっくり話せるところにゴーだぜ!!]
はいはいと、頷いて。
試験場裏手の階段に腰掛ける。
この辺りにはほとんど人気が無い。
流石に手に生えた目玉と会話してるところなんて、見られたくないしなー。
瞑った状態だと、そこに目があるとは全く思えない。
魔眼の話を要約すると、こいつは俺の霊力とアシュタロスさんに貰ったお守りに宿った力が混ざり合って生まれた存在らしい。
俺がお守りを精神集中の要と、霊力のブースターとして使用していたせいで無意識にお守りの持つ力が俺の中に溶けて、結果魔眼といった存在になったとか。
アシュタロスさんがお守りに込めた力はごくごく僅かなものだったのだが、腐っても魔神。
その僅かな力でも、人間の体に変調をきたしてしまう。
もっとも魔眼の場合は俺の霊力も関係しているらしいが。
確かに生まれたのはお守りのせいもあるが、育てたのは俺の霊力なのだと。
俺が霊能修行をして力をつけたために、体を巡る霊的エネルギーが活性化して成長を促し自我を持つに至ったとか。
魔眼という存在は俺の霊力に頼っているので俺が死ねば一緒に死ぬ、と。
まさしく一心同体。
嬉しくない。
ちなみにお守りは外すだけなら問題ないが、壊れるとやっぱり死ぬらしい。
本人はもう少し育てば、お守りがなくなっても平気になるとかなんとか。
[ま、アシュタロスの旦那の力を少々貰ったせいか兄弟よりも知識があるし。精神部分に根付いてるから、霊力コントロールにも手を貸してやれる。
これからは俺がサポートしてやるから、頑張れよ。兄弟]
だから、兄弟言うな。
はぁ。仕方が無いか。
引き剥がすとか、出来そうに無いし。
「よろしく頼むぜ、魔眼」
一通り話し終えて、会場へと戻る。
試合会場の扉、開けたその向こう側に立っている人。
年若い女性。赤い髪。二本の角。油断無く光る目。肩から下げられた剣。
スカートから伸びるすらりとした足には黒いタイツ。…これはこれでいいかもしれん。
て、そうじゃなくて。
はて? この人から放たれる空気、感覚。前にどこかで。
記憶を探って、思い出す。
デパートで一緒に騒いだお子様を。
「そうだ、天龍、天龍の気配とよく似てるんだ!!」
うっかり声に出しました。
彼女はくるりと振り向き、真っ直ぐに俺を見た。
「殿下を知っているのですか? あなたは何者です!」
凛とした、うそ偽りを一切許さないといった声。鋭くこちらを射抜く目。
これは、下手な事言ったら斬られるな。すでに剣に手をかけてるし。
別に隠す事でもないので正直に話す。
デパートに一緒に行って楽しく過ごしただけだし。
「そう、そうですか。あなたが…。殿下からお話は窺っています。
申し遅れました。私は小竜姫。妙神山の管理人をしています」
「あ、俺横島です。初めまして」
話を聞いてなにやら思案気な顔をしたが、すぐにまた真っ直ぐ俺の目を見てきりりと名乗る。
天龍のことを殿下と呼ぶくらいだから、この人は部下か何かだろうか?
「ええ~と、小竜姫さんでしたよね? どうしてここにいるんですか。神族でしょう? いていいんですか?」
いや、そりゃあ神様だしいちゃあ悪いわけじゃないけど。
なんていうか目立たないようにこそこそしてる感じがして。
俺の言葉に彼女は一瞬視線を伏せて、言う。
「すみませんが、それに答えるわけにはいきません。一つ言えるのは、とても重要な任務のためです。
あなたは殿下の見込んだ人間だから信用しますが、私の存在は他言無用でお願いします」
「わ、わかりました。絶対言いません」
思わず息を呑む。さすが神様。威圧感が普通じゃない!
去っていく背中が小さくなってから、俺はようやく息を吐いた。
任務って、一体なんだろう?
神様がやるくらいだから、きっと凄い事なんだろうなー。
っと、俺の次の試合はまだか?
そう思ってリングを見るがどーも一回でも多く勝ち残ろうとみんな粘るらしく、なかなか試合が終わらないようだ。
あ、雪とピートだ。丁度試合が始まるところらしい。
うわぁー、睨み合ってる睨み合ってる。
お、俺の名前が呼ばれた!
雪たちのすぐ隣のリング。
あの~。こっちにまで悪い空気が来るんですけど。
対戦相手も嫌な顔色になってるし。
どーにかならんか、あの二人?
俺の相手は顔にペイントして、どこぞの原住民的な衣装を身につけた若いにーちゃん。
開始の合図とともに、祈りのような言葉を紡ぐ。
それにあわせ、風が!
吹きすさぶ風が凝縮され、向かってくる!
「おわぁ!!」
避ける、が、道着が少しばかり裂けていた。
[ほうほう、風の精霊に働きかけて真空の刃を作ったな。霊力が篭ってるから、人間の肉くらいきれいに切れるぜー、兄弟]
軽く言うな、この野郎。
投げたニードルは相手に届く前に、見えない何かに阻まれた。
魔眼が言うには相手を取り巻く風の壁があるらしい。
今までの対戦相手と違って、直接目に見える攻撃を仕掛けてくるわけじゃないからやり辛いな。
見えない刃は霊力を視抜いた魔眼のアドバイスで、避ける。
俺は基本的に近距離~中距離で、相手は遠距離を得意としているようだ。
俺の攻撃は風で防がれ、相手の攻撃はかわす。
微妙に相性が悪く、こう着状態。どーしたもんか?
魔眼はあくまで俺が勝ちやすいようにアドバイスをくれるだけ。それ自身がどうこうといったもんじゃないし。
向うも俺と同じらしい、風を起こして近付かない。
静かな空気。緊張が間を支配する。
周囲に雑音がやけに大きく響く。
そして、聞こえた。
隣のリングの、声。
「あなたのような野蛮な人がそばにいると横島さんに悪影響があります!!」
「はっ、だからどうした!? てめぇみてーななよなよした奴がいた所で何の役にも立たねぇだろうが!!」
「…横島(さん)は渡さない(ねぇ)!!」
……………………。
「って、なんっじゃそりゃー!!」
びばしぃ!!
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
――あれ?
ふと横を見れば、ぐったりと這い蹲った対戦相手の姿。
え~と、何が?
[兄弟、お前突っ込みとともにあいつに高速で裏拳叩き込んでたぞ?]
魔眼の言葉にはっとする。
雪とピートの会話を聞いて、うっかり対戦相手に突っ込んでしまったらしい。
ついでにうっかり渾身の力を裏拳に込めてしまった、と。
ぴくぴくしてる対戦者に心の中で謝る。
…こんな納得のいかない負け方させてごめんなさい。
そそくさとその場を後にした。
とりあえず、雪とピート。後で覚えてろよ?
少し離れた所から見守る。
雪の霊波砲が降りそそぎ、ピートが霧となって宙に浮く。
雪はすでに魔装術を発動させているが、実力は拮抗している。
凄い戦いだ。
けれど心から戦いを楽しんでいる雪が気迫で勝っている。
雪を相手にするのは獰猛な獣と戦うよりもずっと大変だからなぁ。
これは、雪が勝つかな。
そう思った俺の間近。
同じように試合を見守っていたミス・クロウが、叫んだ。
「しっかりしたまえ、ピート君! 君の力はその程度ではないはずだ!!」
聞き覚えのある声。
「……神父?」
「はぅ!? しま…ああいや、知りません。私の名前はミス・クロウ! フリーの聖職者よ。唐巣神父なんて存じませんわー。オホホホホ…」
視線を逸らして笑ってごまかす、が、あからさまに作り声。
ついでに俺は神父とは言ったが唐巣神父だとは言ってない。
まぁ、弟子のピートがあれだから。師匠がどんな趣味をしてても不思議じゃないけど。
思いつつも、自称フリーの聖職者から距離をとる。体は正直だ。
そんなやり取りの間にも試合は進み。
師匠の声援で調子を取り戻したか、ピートが巻き返してきた。
相変わらず切れた笑みを浮かべる雪と、それに負けず劣らずヤバイ表情を返すピート。
実はこの二人似た者同士なのかもしれん。
体と一緒に口も動くらしく、全力で戦闘しているにも拘らず物凄い言い争いも平行してやっている。
霊波砲の爆音にまぎれ、耳に届くそれ。
曰く、手料理が上手いことを知ってるか?
曰く、まるでママのよう!
曰く、聖母でも可!!
曰く、自分の方が友人として相応しい。
曰く、弱い奴には任せられない!!
曰く、お前なんぞ認めない!
…なんだか内容がおかしくないか? ん??
ある特定の個人について、語ってないか? お前ら。
試合中じゃなかったら、口論の内容についてしっかりじっくり問いただすところだ。
そうして、二人の戦いは持久力に優れたピートの勝利で終焉を迎えた。
「横島さん、見ててくれましたか!? 僕が勝ちましたよ!!」
終了後、うっれしそーに駆け寄ってきたピート。
はっはっはっ。しっかり見てたぞ聞いてたぞ、このやろう。
「おう、見てたとも。で、だな…誰が聖母だって? ん??
ちょっとこっち来て話し合おうかー?」
「は、いやそのあの…横島さん!? えっと僕これから用事が……」
「却下」
ひぃぃぃぃぃぃぃ!?
アシュタロスさん並に情けない悲鳴を上げるピートを引きずって、関係者用の扉へと。
途中、治療の為に医務室に向かう雪を拾って。
雪、人の顔を見た途端に腰を抜かすな。失礼な。
先程の非常に醜い口論について、叱っておきました。正座させて。
公衆の面前でつまらない私情に走るんじゃありません!!
全く。これが一応国家試験だって忘れてるな、こいつら。
開放と同時に二人とも白目むいて気を失ったけど。大げさな。
その後医務室に直行したピートは、ドクターストップがかかって結局三試合目はリタイアとなってしまったようだ。
雪との試合でよほど疲れたのだろう。
ちなみに、棄権ではないのでGS資格は取り消しにはならない。
それにしても、ピートと雪を診たお医者様のなにやら物言いたげな視線が気になります。
何も言われなかったので大した事ではないのだろう。
そーいや、冥子ちゃんはどうしたんだろう?
救護班ならここにいるはずなのに。どこか他のところで治療に当たってるのかな。
顔を見ておきたかったが、いつ俺の試合が始まるか分からないので戻る事にする。
会場に戻れば、途端襲い掛かる独特の熱気に気分が悪くなる。
なんとゆーか、男の暑苦しさとか汗臭さとか。主にそんなので。
女の子もいるんだけどなぁ。
俺の試合はまだ先らしい。暇だ。
何気なく、観客席を見上げ――硬直した。
先ほど会った小竜姫さん。
座席。奥の方。抜き身の剣を手にして、ただならぬ雰囲気で。
その切っ先が向かうは、メドーサさん!
悠然とイスに腰掛け、小竜姫さんの事など気にも留めていない様子。
だが、小竜姫さんは今にもメドーサさんに斬りかからんばかりに白い手できつく柄を握り締め。
……まずい!
魔族と神族は仲が悪いとアシュタロスさんが言っていた。
鉢合わせした場合問答無用で戦いになることが多いと。
神族の小竜姫さんが魔族のメドーサさんを快く思うはずが無い。
いや、それよりも。何よりも注意しなければならないことが一つ――!
そこまで考えて、俺の足は無意識に動き。
出せる限りのスピードで、俺の体を小竜姫さんのところまで運んでくれた。
はぁはぁはぁはぁ!
荒い息を整え、背後から小竜姫さんに近付く。
相変わらずつまらなそうな顔をしているメドーサさんは俺の存在に気付いたが、一瞬猫のように目を細めただけで何も言わなかった。
小竜姫さんまであと三歩、二歩、一歩。
メドーサさんばかりに神経がいっているのか、気付く素振りも無い。
「ここで何をしているのです! 答えなさい、メドーサ!!」
「どこで何をしていても勝手だろう? それともいちいち神族の許可がいるのかい」
はぁっとため息をついて、わざとらしく肩をすくめて。
激昂している小竜姫さんをさらに煽るように。視線を試合会場から動かしもせず。
ぎりぎりと怒りの波動がこちらまで飛んでくる。
神族の霊力なんて怖い、怖いが! 言わなくてはならない事が!
意を決して、息を吸う。
「小竜姫さん!」
「え、貴方は……横島さん!? なんですか、ここは危険です。早くどこ…!?」
中途半端に途切れた言葉。俺が、刃の部分を手を切らぬようにそれでも強くつまんだから。
危ないと。口を動かそうとした小竜姫さんよりも先に、言った。
「駄目じゃないですか、こんなところで刃物を振り回しちゃ!!」
「…は、えぇ??」
「だから、こんな人の多いところで刃物を抜いちゃ駄目だと言ってるんです! うっかり誰かに怪我をさせたらどうするつもりですか?! 小竜姫さんは神族でしょう? 神様がそんな事でどうするんですか、一般常識ですよ!」
びしり!と指を突きつければ、小竜姫さんはなんとも言えない情けない顔をした。
いやでもしかし、魔族がメドーサが…と。口の中で呟く小竜姫さんにひたりと視線を合わせて、もう一言。
「駄目と言ったら、駄・目・で・す! 没収しますよ?」
それでもなお小さく唸る小竜姫さんに、メドーサさんがどこか面白がるように声をかけた。
「大人しく言う通りにした方がいいよ? でないと――潰されるから」
「ええ!? 殺されるとかじゃなくて潰される、ですか!?」
「メドーサさん、俺は潰したりしませんよ。人聞きの悪い事言わないで下さい。ちゃんと原形はとどめます!!」
「な、何を…何をするんですかぁ!!?」
半泣きだ、小竜姫さん。
でも素直に剣を鞘に収めたので、良しとしよう。
それにしてもいくら魔族と神族の仲が悪いからって、こんな所で剣を抜くなんて。
小竜姫さん、ホント何やってるんですか?
俺が呆れながらにそう問えば、しぶしぶながらも教えてくれた。他言は無用だと、強く念を押して。
なんでも魔族と結託した人間がGS試験に一般の受験者を装って潜り込み、GSになろうとしているのだとか。
そんな連中が試験に合格すれば、GS業界の内情がもろばれ!警察が悪党を手を組むよーなもの。
大変な事になってしまう。
一体誰がその手先なのか分からないので、こうして小竜姫さんがじきじきに出向いて調べているんだとか。
試験会場に来たらメドーサさんがいて頭に血が上り、剣を抜いてしまったらしい。
それにしても、世の中にはとんでもない事を企む奴がいたもんだ。
魔族と結託してって…俺たちはメドーサさんに鍛えてもらってるけど、別に手を組むとかじゃないし。
潜り込むにしてもマザコン戦闘狂と苦労性チンピラとオカマで一体何をどうするんだよ。
第一小竜姫さんはメドーサさんを疑っているようだけど。メドーサさんの上司はアシュタロスさんなわけで。
そうすると主犯はアシュタロスさんになるわけで……あの人にそんな大それた事、出来るわけが無い!
「で、誰がその悪い奴なのか分かったんですか?」
「いえ、それがまだ…。目ぼしい人物は調べてはみたんですが」
がっくり項垂れる姿はちょっと可愛い。
「その情報持ってきたのって誰なんですか? そいつに聞けば何か分かるんじゃないですか?」
「あ、教えてくれたのは私の友人である神族のヒャクメです。彼女もどこかの魔族がそういったことを企んでいるとしか分からないと…」
微妙に曖昧で信憑性が無い情報だなぁ。
そんなんで動いていいのか、神様?
「ヒャクメ、ヒャクメねぇ。おしゃべり好きで人のプライバシーを覗くのが趣味の神族だね、確か。
ああ、自分の能力を駆使してあんたのセミヌード写真を撮って売りさばいて小遣い稼ぎしてたっけ」
メドーサさんがぽつりともらしたその一言に、小竜姫さんが凍りついた。
「な、ななななですかそれ!? いい加減な事を言わないで下さい!!」
「事実だよ。魔界の方にも流れてきてたし、写真」
顔を真っ赤にして食って掛かる小竜姫さんに、さらりと告げるメドーサさん。
小竜姫さんの友人て……。この分じゃあその情報もガセっぽい。
俺のじとっとした視線に気付いたか、赤い顔を今度は青褪めさせてあうぅ~と言葉にならない声を上げた。
もはやどうしていいのか分からないのだろう。剣の柄に手をかけたまま抜く事も、その場から動く事も出来ず意味の無い言葉ばかりを繰り返している。
少し可哀相になってきた。
とりあえずイスに座って気分を落ち着かせて下さい、小竜姫さん。
メドーサさんの隣なので居心地は悪いらしいが、わざわざ離れた場所に移る気力も無いらしい。
まるで真っ白に燃え尽きたボクサーのよう。
メドーサさんは隣にいる小竜姫さんを特に気にしていないらしく、じっと試合を見詰めている。
その手の中に、小さなビデオカメラがあることにようやく気付いた。
問いかけようとして口を開くと、歓声と爆音と轟音が響く会場の中。かすかに聞き覚えのある女の子の声。
きょろりと辺りを見渡すと、ふよふよ浮いてる女の子。おキヌちゃん。
大きくも可愛らしい声で小竜姫さんを呼んでいる。
呼ばれた当の本人は半分死んでる状態なので、代わりに俺が返事をしました。
轟音にかき消されそうになりながらも、何とか届いたらしくおキヌちゃんはこちらに気付いてくれた。
「あ、横島さんお久しぶりです。小竜姫様とお知り合いだったんですか?」
「ついさっき知り合ったというか…。それよりもずいぶん慌ててたみたいだけど何かあったの。おキヌちゃん?」
「あ、はい。そうでした!
大変なんです、小竜姫様! 外で美神さんが、美神さんがぁ!!」
今にも泣き出しそうな声で美神さんが!大変だ!と繰り返す。
それを聞き、生気を取り戻したのか小竜姫さんが勢いよく立ち上がった。
「分かりました、すぐ行きましょう!
メドーサ、今回は引きますが決着はいつか必ずつけます! 御仏の裁きを下してやりますからねー!!」
三流悪党並の捨て台詞を吐いて、幽霊であるおキヌちゃんの手を引き、ダッシュで去っていった。
何だったんだろうか、一体?
メドーサさんはうんざりとした声音で、別につけなくてもいいよと呟いた。
ビデオカメラはアシュタロスさんがルシオラちゃんたちにせがまれて、試合を撮ってくるよう命じたせいだと。
だから本来来る気の無かったメドーサさんが今ここに居る、と。
毎度ご苦労様です、メドーサさん。
そして気付いたら俺の試合でした。
何回も名前呼ばれてたみたいだ。
もう少しで棄権とみなされる所だった。アブネー。
……いや、棄権した方が良かったかな?
むしろ今すぐギブアップと叫びたい!
俺の相手、勘九朗です。
神は俺に死ねと言う。
トーナメント表をちゃんと確認しなかった俺が悪いと言われれば、それまでだが。
[兄弟、運が無かったな…]
魔眼が心底痛ましい口調で言いやがった。
お前俺のサポートのためにいるんじゃねぇのか!? 諦めるな!!
[誰しも出来る事と出来ない事があるんだぜ、兄弟]
畜生、この役立たず!
眼前で勘九朗はニヤニヤ笑っているし、医務室から戻ってきていた雪・陰念・ピートも気の毒そうな視線を送ってくるし。
無常にも、試合開始を告げる声が降り――
……………。
試合ですか? 負けましたよ、はっはっはっ!
勘九朗は強いなぁ!
え、嫌だなぁ。明らかな実力差ですよ。魔眼と相談して勘九朗の攻撃に合わせ自分自身にサイキック・ソーサーを向け、わざとリングアウトして負けたなんてそんな事してません。
ふぅ。太陽が眩しいや!
[ここは屋内だぜ、兄弟]
やかましい!
ごめんね、ルシオラちゃんベスパちゃんパピリオちゃん。お兄ちゃん勝てなかったよ。色々なものに!
努力はしましたよ。ただ無理だっただけで。
何が無理だったのかは、突っ込まないように。
勘九朗はすっごく残念そうな目で見てきたけど。知りません!
そして雪とピート。お前ら俺の無事を喜ぶのかいいがそれはどういった意味でだ、こら。
俺の試験はこれで終わりだけど、上位三名には表彰とかあるし閉会式もある。
まだ帰れない。
それにあんまり認めたくないけど一応勘九朗も仲間なので、どこまで勝ち残るか見届けたいし。
トーナメント表によると、勘九朗の次の相手は…ミス・クロウか。
コメントし辛いな、この組み合わせ。
神父だってばれなきゃ大丈夫だよな! 勘九朗、女に興味が無いし!
勘九朗の試合が始まるまで、ただひたすら祈るしか出来なかった。
プロのゴーストスイーパーだし、平気だろう。それにもしばれたとしても、勘九朗の射程範囲内だとは限らないし。
その名を呼ばれ、勘九朗とミス・クロウがリングへと。
今大会屈指の実力者同士の対決。
見守る全ての人々が息を呑む。
実況と解説も注目する中、試合開始が告げられた。
その途端、二人の間に流れる空気ががらりと変わる。
緊張から静謐に。
勘九朗はしたたかな笑みを浮かべ、一瞬にして間合いを詰めた。
だが、ミス・クロウはそれを読んでいたかのごとく、勘九朗の重い拳をひらりと流す。
続く体術の数々にも涼しい顔で応戦する。
凄いぞ神父!…いや、ミス・クロウ!!
第一印象ではただひたすら頼りないだけの人だったのに、実はこんなにも強かったのか!
隣で雪も眼をぎらぎらさせてるぞ!
十字架から繰り出される霊波砲。ピンポイントのそれは一切の隙無く、勘九朗に襲い掛かる。
的確な攻撃。流れるような動き。力強い詠唱。
凄い、と思わずもらしたのはピート。うん、あれお前の師匠だろうが!
ピートは正体を知ってるんだよな?
ああ、深く考えるのは避けてたけどプロが試験に出るなんてかなりおかしい。
もしかして小竜姫さんと何か関係あるのか? だとしたら、あの格好は趣味じゃないのか!?
そこんところどうなんだろうなー?
などと愚にも付かない事を考えていると、いつの間にか勘九朗が魔装術を発動させていた。
三人の中で最も高い完成度を誇る勘九朗の魔装術。
白い面。輝く長い髪。均整の取れたしなやかな体。どこか中性的なその姿。
おそらく勘九朗の理想なのだろう、その立ち姿にミス・クロウも眼を見張り油断無く構え直す。
行くわよと、相変わらずの調子。面の下で笑う。
あの口調も魔装術の姿だと、違和感が少ないから不思議だ。
勘九朗の様子を見詰め、ミス・クロウが詠唱に入る。
いつでも迎撃できるように。
びりびり。ちりちり。
結界内の気迫が外にいる俺たちの肌まで突き刺さる。
正直、勘九朗は敵に回したくない。怖いから。
誰かが、詰めていた息を吐く。
それが合図とでも言うように、二人は同時に動いた。
先程までとは全くレベルの違う攻防。
スピードや力そのものは勘九朗のほうが上。圧倒的に。
ミス・クロウが対等に渡り合っているのは、そのテクニックとそして経験。
綱渡りのような危うい均衡。
崩れるのは――一瞬だった。
ほんの少し、勘九朗の踏み込みが早かった。ほんの少し、ミス・クロウが目測を誤った。それだけで。
全てが崩れた。
勘九朗の爪が、ミス・クロウの肩口を裂いた。髪を巻き込んで。
ずるり。髪が落ちる。いや、正確にはかつらが。
現れた顔に会場全体がざわめく。
かつらが無くなればそこにいるのはただのおっさん。唐巣神父。
「先生!? どうして!!」
横手でピートがあんぐりと口を開け、美形には似つかわしくない表情をさらす。
その様子は演技ではなく、ピートも知らされていなかったのだと悟る。
ついでに陰念もあごが外れるんじゃないかって程の驚愕を示していた。
陰念、見掛けで人を判断しちゃあ駄目だぞー?
解説役のちっさいおっさんが興奮気味に神父の事について、語っていた。
世界的に見てもトップレベルのゴーストスイーパーだとか、年中無休の極貧生活だとか。
そんな凄い人だったとは。全くそうは見えないのになぁ。
唐巣神父もしまったという顔をして、頬をかいている。
正体がばれてしまってはもはや試合の続行は無理だろう。何せ相手はプロだし。
勘九朗も驚きのあまりか魔装術を解いていて。
ざわつく会場。そのどよめきの中、不吉な呟きが聞こえました。
「あらぁ、なかなかいい男♪ さりげない渋さが好みだわ」
何が!?
いつの間にやら神父に近付き、ふぅっと耳に息を吹きかけて。
神父は全身に鳥肌を立てながら、ばね仕掛けのおもちゃのようにその場から大きく跳んだ。
うふふふふふふふふふふふふふふふふ。
怪しさ全開の笑みを受けべたまま、勘九朗は一瞬見失うほどのスピードで神父の背後を取りがしりとその体を捕まえた。
「神父ったら、反応が可愛いわぁ。うふ、楽しみ」
「楽しみって…何が!!? 離したまえ、どこを触って!! わーわーわー!!
審判、審判、審判、審判、審判、しんぱぁ~んっ!!」
喉から絞り出される必死の声。
それを受け審判は、目を、逸らした。
むしろ会場全体が、顔ごと逸らした。
ピートなんて後ろを向いてしゃがみ込み、耳を塞いでしっかり目を閉じている。
恩知らずな弟子だな。
まぁ、あれだ。
会場がかつて無いほど一体感を感じている証拠だろう。
早い話が…関わりたくない、と。
直後。広い会場全てに余すところ無く響き渡るような、壮絶な絶叫が迸った。
結果ですか。神父が勝ちましたよ。
後半から怒涛の反撃に出たのだ、神父が。凄かった。あれは凄かった。
後世に語り継がれる死闘だった。
決め手はやはり神のご加護アイアンクローか、それとも聖母式パイルドライバーか。いやまて、主の怒りローリングソバットも捨てがたい。
とにかく凄い試合だった。早いとこ伝説にして内容をぼかしたいくらいに!
まぁ、そーゆーわけで勘九朗は四回戦で敗退。
それでも俺たちの中では一番勝ち進んだのだから、大したものだ。
唐巣神父が試験に混じっていた事について、再試験を行うという話も出たらしいが結局無しになった。
残った受験者でトーナメントを組みなおし、試験は続行された。
今までの試合で合格した者も、そのまま。
理由はラプラスのダイスを使用したからだとか。
ラプラスのダイスで決定した事項は絶対的公平。すなわち運命。
唐巣神父に当たって合格できなかったものは、今回は運が無かったのだと。
運も実力のうちという言葉があるが、ゴーストスイーパーは正にそれ。
運すら自力で掴まなくてはならない。
それが出来ない者に、悪霊と戦い生き延びるなど不可能!と審判長と呼ばれたおっさんが力説いていた。
……もっともらしいこと言ってるが、ホントは再試験なんぞやってまた勘九朗による被害が出るのが嫌なだけでは?
そう考えるのは俺がひねくれているからでは決して無いだろう。実際目が泳いでたし。
色々あったが、ゴーストスイーパー試験は閉幕。
全員無事合格だ!!
冥子ちゃん、最後まで見なかったな。合格したって伝えたかったのに。
「てめぇ! その肉は俺のだぞ!!」
「雪ちゃんの分だけじゃないんでちゅよ!? 取りすぎでちゅ!!」
「もう、がっつかないでよ。品が無いわね」
「そうよ。パピリオと同レベルなんて。子供ね」
「元気だな、雪之丞……」
「たくさん闘えて嬉しかったんでしょう」
合格祝いの焼き肉パーティー。
がつがつとに肉ばかりをむさぼる雪に、パピリオちゃんのお叱りが飛び。
ルシオラちゃんとベスパちゃんは呆れ顔。
色々あってぐったりした野菜しか手をつけていない陰念と、ハッスルしたおかげか満身創痍ながらもつやつやとした勘九朗。
食事前にアシュタロスさんのお祝いの口上があったが、聞いていたのは誰一人としていない。
ちょっとショックだったのか、いじけたがそれすらスルー。
メドーサさんも誘ったが、断られた。
ゆっくり休みたいらしく、カメラを押し付けて帰っていった。残念。
どんな試合で、どんな相手と闘ったのか。熱く語る雪に子供たちは楽しそうに聞き入っている。
まぁ俺と勘九朗が試合をしたと聞いた途端、ルシオラちゃんが真っ青な顔をして何もされなかった?と抱きついてきたけど。
心配かけてごめんねルシオラちゃん!
話がひと段落して、もう一度アシュタロスさんが口を開いた。
「これで君たちもゴーストスイーパーだが、まだまだ見習いの立場だ。私の方から仕事を回して、出来るだけ早く一人前のゴーストスイーパーだと認定されるよう手配しよう。
メドーサにも頼んでいるから、頑張ってくれたまえ」
「はい、分かりました」
「よぉし、任せとけ!!」
「アシュ様ったら、私の為にそんな……!」
「それは絶対違うと思うぞ」
食事も終わって、各自いつものようにフリータイム。
俺はアシュタロスさんを廊下に呼んだ。勘九朗が寂しそうな表情を見せたが、譲れない。
一応、念の為に確認したい事があったから。
「アシュタロスさん、今日試験会場で神族に会ったんです。
その人が言うには魔族の中に、ゴーストスイーパーと結託してGS業界に裏から手を回そうと企む奴がいるとか。
心当たりありませんか?」
「――アハハハハハハハハハハ。嫌だね、横島君! 心当たり? ありませんよ! ええ無いともさ!! それとも何かい、私が関わっているとでも? ふ、言いがかりはよしてくれたまえ! 私はそんな安っぽい魔族ではないよっ!」
しゃっきーん!
光り輝くポージング。だが、その全身はあからさまに挙動不審!
汗はだらだら、顔は土気色。体は震えて、視線はきょろきょろ。無駄に饒舌、聞いていない事までぺらぺら話すという事は完璧黒。
「アシュタロスさん、あんたまさか?」
指をボキボキ鳴らしながらひたりひたりと近付けば、面白いほど真っ白な顔色へと変化した。
「ち、違う! 違うんだ、横島君! これは誤解だ、見解の相違というやつだ! だから、だから話を――ひいいぃぃぃぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
喉よ裂けろ、世界に轟けこの想い!と言わんばかりの絶叫は月の昇る夜空の元に、物悲しく消えてゆくのでした。
消し炭だかなんだかよくわからないモノになったそれを、手際よく片すハニワ兵を見守って。
哀しげな視線を向けるベスパちゃんと勘九朗に、なんでもないよと微笑みかけて。
俺は空を見上げるのだった。ふぅ、いい汗かいた。
試験には合格したけど、また厄介な事が発覚しました。俺の人生前途多難!!
続く
後書きと言う名の言い訳
長! 今回今迄で一番長いです、多分! どうやったらもっと短くまとめられるのか! 前半部分が進まないこと! 小竜姫登場辺りから何とか書けるようになりましたが。
次回は小竜姫メインのうらめんです! 美神さんの出番を楽しみにして下さっていた方、次回登場です。
……今回と前回采マークを付けた方がよろしいでしょうか? 何気に雪ピーがはじけてアレなので。ついでに陰念の新技はまだ名無しなので何か良い案があれば!!
新キャラ魔眼はこの先もちょくちょく出る予定。ですが出来るだけオリキャラは出したくないのであまり出番は無いかしれません…。
ではここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!!