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▽レス始

「がんばれ、横島君!! 12ぺーじ目(GS)」

灯月 (2007-02-22 23:21/2007-12-02 02:42)
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「あらん? 良い男発見☆」

人ごみ。目ざとく好みのタイプを見つけ出し、そちらへ突撃かます勘九朗。

「おお、なかなか強そうな奴がいるぜ!!」

血に餓えた野獣のようにぎらりと目を輝かせる雪。

「あいつらと同じ道着の俺たちはもしかして同類に見られてる?」

「お前はまだましだろ、横島。俺の方が視線が痛い」

うな垂れた俺の肩を、遠い目をした陰念がぽんと叩く。
GS試験会場。
溢れる多種多様な人々の中、連れ二人からわずかばかり距離を置いてこっそりと息を吐いた。


がんばれ、横島君!!〜横島君とGS試験・前編〜


GS試験。
それはGSを目指す者たちが受ける国家試験。
現在の科学では定義できない妖怪・幽霊。
それら――なんだかよくわからないものと渡り合えるなんだかよくわからない力を持った者を、国が正式に認め資格を得るための試験。
受験者は毎年千名以上。合格枠は三十二名。
特殊な力を持ったものにおいそれと国家資格を渡すわけには行かない、といったところだろう。

「で、だな。そのGS試験がもうすぐあるから。君受けに行きたまえ」

「軽いですねー。そんな重要なこと」

「別に一発合格なんぞ、期待しとらんわ。実戦の空気を味わってくればいいじゃろ」

俺の言葉に返したのはドグラ。
おお、なんか久しぶりに会った気がするぞ。
それもそうかと頷いて、

「確かに。試験て毎年あるんですよね。だったら急ぐ必要は無いか。
腕試しのつもりで頑張ってきます」

「ああ、しっかりやってきたまえ。経験に無駄なものなど何一つ無いのだからね」

「そうじゃな。それに試験で死んでも事故で済むらしーからな! せいぜい…どぎゃあ!!?」

「「なんて不吉なこと、言うのよ(でちゅ)!!」」

最後まで言えなかったドグラ。
俺が苦笑で済ませたセリフも子供たち――ルシオラちゃんとパピリオちゃんにとっては許しがたいものだったらしく、節分の時にアシュタロスさんが大量に買ってきた豆の残りを全力で投げつけていた。
豆はまるで散弾銃の如くドグラに食い込み、ついでに壁と床にも穴を開けた。
ちなみに珍しいことにアシュタロスさんは巻き込まれていない。
豆まきに加わっていないべスパちゃんの傍で静かにドグラの冥福を祈っている。
いや、助けてやれよ。
あんたのお手製の部下だろーが。
仕方ないから俺が止めた。

「はい、そこまで」

「でも、お兄ちゃん!」

「ドグラがひどいこと言ったでちゅよ!」

「二人とも、これ以上は家具に被害が出るから駄目です! 床とか穴開いたし。
わかった?」

「「はーい、ごめんなさぁい」」

「わしは家具以下か…」

ぽっそり泣き言が聞こえたが気にしない。
まぁ、そんなこんなでいつもの日々。
ほんの少しだけ何かが動き出したような、気がした。

GS試験。やはり雪たちも受けるらしい。
雪なんかはもう今から殺る気満々だ。
試験の形式は簡単。
簡単な一次審査で霊力の無いものが落とされて、二次審査で実技。
つまり受験者同士の試合。
一日目で三十二名。残りは明日というわけだ。
だから雪は嬉しそーなのだ。
試験とか嫌うタイプなのにわくわくしてると思ったら。
戦えればなんでも良いな。これだからバトルマニアは…。
筆記試験の類が無い、という事実がさらにそれを増長してやがる。
普通はあるはずだが、GS試験においては無い。
いや、以前はあったらしいが。
なんでも数年前の筆記試験の最中に、試験特有の沈黙と緊張感とプレッシャーに耐え切れなくなった式神使いが暴走を引き起こしとんでもない騒ぎになったから、らしい。
そのせいで試験に合格しても自分の師事しているプロのGSに認められないと、一人前だと認定されなくなったとか。
……その暴走した式神使いって、冥子ちゃんじゃないよな?
試験までの数日間、遠足を控えた子供のような雪の相手をずっとさせられてました。
はしゃいでるおかげで通常時の1.5倍だ! 赤くなると3倍だ!!
逃げるな、陰念。お前もやれ!!
おかげで無駄に回避能力が上がったのはここだけの話。


そして、やってきました! GS試験!!
人が多いし、多国籍!! そしてなんだその素敵衣装。どこの民族衣装だ? 秘密結社だ!?
俺たちの道着姿なんて普通、普通!
見るからに危ないオーラを放ってる人多数。
一般人でなくても道を譲りそうな奴がいたり。
静かに佇んでるだけなのに妙に隙が無かったり、不気味だったり。
いや、危ない奴なら俺のすぐ傍にもいるけどな。二名ほど。
遠くでどこかで見たような黒尽くめのでかいじーさんがインタビューを受けている。
あんな年寄りも受験者かよ。
受付を終えて、受験者番号をそれぞれ貰って。
しっかし、俺の十三番て…不吉な。
試験が開始されるまで、まだ時間はある。
どうするかとしばし思案していると、人ごみから声がかかった。

「横島さん!? 横島さんも来てたんですか? うわぁ、偶然ですね!」

人を掻き分け、ねーちゃんたちの視線を一身に集める金髪美形。ピート。

「おお、久しぶりだな。元気だったか」

一応知り合いなので挨拶ぐらいはしてやる。
ピートはほっとしたように深く息を吐いて笑った。

「そっかぁ〜、横島さんもGSを目指してたんですね!
……故郷の期待を背負っててプレッシャーが凄くて! 一人で心細かったんですよー!!」

「だー!! 抱きつくな、ピート!!」

後半、微妙に暴走したピートが勢いに任せ抱きついてくるのを俺が叩き落すよりも速く。
俺の真後ろ、側頭部すれすれで通り過ぎた拳が打ち落としていた。

「何やってやがる、てめぇ!? 横島、こいつ誰だ?」

拳の主――雪がそれはもー不機嫌に顔を歪ませ立っていた。
いや、誰って。殴ってから聞くなよ。

「あー、こいつはピートって言って。俺の知り合いだよ」

「はっ、そーかよ」

簡潔な説明に、雪は半眼のまま地に伏しているピートを睨むだけだ。
なんでこいつはこんなに機嫌が悪いんだ?
わけが分からずクエスチョンマークを飛ばしていると、小さく呻きながらピートが身を起こした。

「大丈夫か、お前?」

「平気です。……それより、いきなり人を殴るなんてどういうつもりだ!?」

優男然としたピートにはあまり似合わない鋭い眼差し。
鼻で笑うのは雪。

「はっ! あの程度も避けられないような奴がGS? 諦めた方が良いんじゃないのか!!」

挑発するように、吐き捨てるように。

「なんだと!? 言わせて置けば…!
横島さん、こいつとどーいった知り合いなんですか!?」

いや、なんでそこで俺に振る?

「横島と俺は同門なんだよ! 道着を見れば分かるだろうが!」

「お前みたいな奴と同門なんて…。横島さんも大変ですね」

「てめぇ、そりゃあどー言う意味だ?」

ふーやれやれと言わんばかりに肩をすくめるピート。噛み付くような空気を発する雪。
どうでもいいが、俺を挟むな!
よそでやれ、よそで!!
周囲の注目を集めて、恥ずかしいんだよ!

「ねぇ、さっきからなんなのかしら? あの三人」

「あの金髪の人素敵なのに…やっぱり恋人!?」

「美形はその手の趣味が……」

「じゃあ、目つき悪い彼との三角関係!?」

「いえいえ、もしかしたらバンダナの子をダシにしてあれはあれで愛情表現をしてるだけかも!」

「今流行のツンデレね! どっちが上なのかしらー」

こそこそひそひそ。
ええ、何ですか周りのオネーサマ方!?
ちょ、違いますよ! 断じて違いますよ!
いやや〜、そんな目で見んといてぇぇぇ!!
陰念はとっくに遠巻きにしてやがるし!
勘九朗。何だその、あらお仲間?って視線は!? 嬉しそうにするな! 
畜生!
それもこれも全てこいつらのせいだ!!

ガズガズッ!!

今だ言い合っていた雪とピートは強制沈黙!
なんかきれいに意識飛ばしてぴくりとも動かないけど、気にしない。
こいつらが悪い。
ふーっと一息ついた途端――

「横島さぁ〜ん! わしじゃぁー!! わっしは…わっしはキンチョーして……!!」

二メートル近い大男がしがみ付いてくるんじゃない!!
ええい、どいつもこいつも…!


結局一次審査の開始時刻になっても二人は目を覚まさなかったので、勘九朗に運ばせました。
勘九朗は、とっても楽しそうでした。
陰念がすげー気の毒そうに見ていたが、自業自得だ。
目が覚めた野郎どもは己の現状を理解した途端、手負いの獣の様に暴れだしたけど。
嫌がる男二人を喜々として抱えるオカマ。
ちょっとシュールな光景。
ほら、周りも引いてるから。
そんなプチアクシデントもありながら、試験会場へ。
一次審査は霊波の測定らしい。
舞台に立って、ラインに沿って霊波を放出させる。

「では、始め!!」

試験官のおっさんの合図で一斉に周りの連中から霊力が放射される。
ああ、皆輝いている。
って、言ってる場合か。
俺も意識を集中し、霊波を放つ。
周りの連中に比べると出力が少々弱く不安定。
そもそも俺は左手に霊力を集中して扱うから、それ以外から力を出すのって苦手なんだよ。
それでもなんとか霊波を高める。
そうこうしてる間にも次々と失格だの帰っていいだの、おっさんのだみ声が飛んで。
そこまで!の声と俺の番号が聞こえたときには足がふらついてしまった。
一時審査は何とか通過したな。
あ、雪や他の奴らも合格してました。
当然だろーけど。
次の実技試験はお昼を挟んでからだ。

「お弁当作ってきたわよ〜」

うふふと、笑顔で出された大き目の弁当箱。
おにぎりと玉子焼きとミートボールと。オーソドックスな中身。

「あ、俺も作ってきたけど」

俺もバスケットを取り出した。
一応こいつらの分もある。
中身はサンドイッチ。
雪がたくさん食うとはいえ、正直この量は男四人でもちと多い。
仕方が無いので近くでもそもそとパン耳を食っていたタイガーを呼んでやった。
うぉんうぉん吠えながら有難がって、がつがつ口に運んでました。
雪は微妙に不機嫌だったが、ピートのときよりましだった。
食事が終わった後、何故かピートがどうして呼んでくれなかったのかと詰め寄ってきたが。
そしてまた雪と言い争っていた。
だからなんであの二人はあんなに仲が悪いんだ?
初対面だろ。
首を傾げていると、勘九朗がニヤニヤ笑って囁いた。

「横島も罪作りよね」

何が?
意味を問おうと陰念を見れば、思いっ切りあからさまに視線を逸らされた。
……俺、何かやったか?
ま、いいや。
腹ごなしに軽く準備運動をすれば、ちょうど試合時間だ。
二次試験会場は結構立派なところでした。
四角いリングらしきものが九つ。
床に描いているだけだがきっとそうだろう。
観客席にもぽつぽつと人が座っている。
大半が受験者の応援などの関係者だ。
ほえ〜と感心していると、アナウンスで説明が流れる。
試合は特殊な結界の中で行われ、原則でルール無しのストリートファイト!
うわぁ、雪が喜びそうな…。
霊力を使わない限りダメージを与えられないのが結界の特徴らしい。
二回勝てばそれで合格。
その後に行われる試合は、成績になるらしい。
つまり上位になればなる程優秀と。
俺の目的はルシオラちゃんたちを守る事だから、別に上位入賞はいいや。
うん、隣にいる約一名が凄くテンション上げてるけど気にしない!
とりあえず今日の試合でその合格者が決まる。
実況によると組み合わせを決めるのはラプラスのダイス。
何でもそのさいころで決定した事は絶対公平且つ宿命なんだとか。
純粋に運がよければ早いうちから強い奴と当たらなくてすむらしい。
解説の小さいおっさんが言ってました。
そのうち悪乗りして、店の宣伝始めたもんで実況役に拳で沈黙させられたけど。
で、組み合わせ決定。
俺は八番コートか。
待っていたのはむきむきマッチョ。
うっかり帰りかけたぞ、この野郎!
むさい男が相手ってだけでもやる気無くすのに、なんで上半身裸なんだよ…。
勘九朗なら喜んだだろうけどなぁ。
はぁ〜。
急降下気味のこちらの気分などお構い無しに、対戦相手――蛮がにやりと笑いかけてきた。

「ふっふっふ。初戦がこんなガキとはついてるぜ。
サービスだ。10パーセント! 10パーセントの力で相手をしてやろう!!」

ぼぎぼぎと指を鳴らして自信満々。
確かにこいつから感じる霊力は高い。が、それほど凄いとは思わんなー。
雪相手の命がけの組み手や、勘九朗相手の広い意味で危険な追いかけっこを経験した俺にはこの程度、なんでもない!
こんなところで役に立つとは、忠ちゃん予想外。
そして、試合開始を告げる声!

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

蛮が力を解き放つ! 結界内の空気がびりびり揺れる!

「サイキック・ニードル!!」

スコ・スコーン!!

あ、いい音。
開始早々、俺の放ったニードルが蛮の額と胸に見事に突き刺さってくれた。
自信があるのはいい事だが、逆に隙だらけだったもんで。思わず。
的も大きかったし。
だらだらと血を流しながら、ゆっくりとスローモーションのように倒れ行く蛮。
おい、もしかしてこれで終わりか?
雪なんか五・六本刺さっても平気で向かってくるぞ?

「まだ、まだだ…。あと90パーセントの力がぁ……」

床に突っ伏してぶつぶつ言っているが、審判は無情にも俺の勝ちを宣告した。
……いいのか、こんなんで?
勝ったけれどなんだか釈然としませんでした。
実況と解説にも面白くもなんとも無い試合って言われてるし。
とりあえず、他の奴らの試合がどうなっているのか見てみると――

「おらぁ!!」

一撃で決めるのは雪。
あっさり終わって不満のようだ。

「うふ。あなたなかなか好みのタイプよ♪」

実力差とかそんなものとはまったく別の危険を感じて相手が青褪めているのは勘九朗。
気の毒に。

「てめぇはどこのゲームキャラだぁ!!」

泣いているのか、笑っているのか。
陰念は丸禿で火を噴いて手足が伸び縮みする相手を、力の限りぶん殴っていた。
その他、ピートもタイガーも勝ったらしい。
このまま勝ち進めば、こいつらのうち誰かとも当たるんだよな。
うう、やだなぁ。

「おー、横島やっぱり勝ったか! それでこそ俺のライバル!!」

勝手にライバル扱いすんな。
喜々として語りかける雪。その後一拍遅れてやってきたピートとの無言の睨み合い。
だから、やるならよそでやれ。空気が悪い。

「他人の試合を見ておくのも勉強よね。誰かに気なる人でもいたかしら?」

「んー、俺はようわからん」

「俺はあそこのコートで試合した奴が気になったぞ」

そう陰念が指したのは、一人静かにたたずむ…女性?
黒尽くめで黒いストレートヘア。丸メガネが特徴的。
女にしては背が高く、がっちりしている。
十字架を手にしているところを見ると聖職者関係なのだろう。
あまりぱっとしない外見で、凄そうには見えないが。

「なんかふつーだぞ?」

「あの女、多分実力を隠してやがる」

俺の問いに、陰念が小さく答える。
本人もどこか釈然としない様子では合ったが、霊感の強いものは直観力にも優れているらしいので、何か引っかかるものがあったのだろう。

「ふぅん、それじゃあ一応要注意ね。
あ、そーだ聞いて! さっき戦った彼ったらねぇ!!」

そんなこんなで雑談していると、第二試合の時間となった。
指示されたコートに出向くと、居たのは――

「タイガー!!」

「よ、横島さん!?」

うわぁ、早速か。
タイガーの幻術が厄介なのは知っているから。

「ま、お手柔らかにな。タイガー」

片手を挙げて軽く言えば、呆けていたタイガーも勢いよく頷いた。
そして、試合開始。
タイガーは予想通り幻術によりジャングルを作り出し、姿を消す。
この幻を本物だと思い込めば、たとえ偽者でもダメージを受けると。
そのうえ、下手をすると死ぬ危険もある。
ちなみにこれらはタイガー本人に聞きました。
だからタイガーも俺に幻術が効かないことは知っているだろうし。
だとしたらこのジャングルはただの目くらましだろうな。
目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。
…右後方、微かな気配!
大きく横に跳べば、虎と化したタイガーの姿が一瞬浮かび上がりすぐに消えた。

「横島さんには日ごろ世話になってますけぇ、心苦しいんじゃが。
……わっしもエミさんのために負けられないんじゃー!!」

おいおい。心苦しいとか言う割にはためらいが無いぞ!
次々と襲い掛かってくるが、それらを何とか避けかわす。
まずいな、完璧にタイガーのペースだ。
しかも俺はあまり動き回れない。
このジャングルのせいで視界が悪い。調子に乗って動き回ると結界にぶつかる。
そーこーしてる間にもタイガーが攻撃してるわけで。
ああもう、厄介な!!
俺の回避能力が高いから、今のところ平気だがそれも時間が経てばどうなるか。
とゆーか、タイガーの方が体力あるからなぁ。
とりあえず、手の中小さ目のニードル。
タイガーのわずかな気配を……捉えた!

ヒュヒュッ!!

空を切り飛ぶニードル。
直後、鈍いうめき声。
だが、すぐに気配は移動して。
やっぱりこの程度じゃ、どうにもなら無いか。
タフさが自慢だって言ってたもんなー。
さて、どーするか?
そーいえば、タイガーは確か能力が高い分制御が難しいって。
で、長時間力を使っていると暴走するとかなんとか言ってたような。
それまで頑張って待つか? いやいや、タイガーもそれを避けて勝負を仕掛けてくるだろうし。
意識を集中して作り出すのはニードルではなく、ソーサー。
今度こそ。
死角から俺に迫るタイガー!
だが、甘い!!

「喰らえぇ!!」

その顔面めがけてソーサーを解き放つ。
もちろん俺はすぐに、その場から身を翻し。
そして、爆音。

「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

顔を抑えてのた打ち回るタイガーの姿が、はっきり見える。
やはり虎の姿のままなので、いまいち分からないが結構なダメージがあったはず。
それなのに視界を覆うジャングルは変わらない。
もう一撃、入れとくか?
手の中、霊気を集中して気付く。
うずくまっていたタイガーの姿が、無い!
もろに喰らったくせにもう動けるのか?
油断した。
気配は――つかめない。
今度こそ本当に気配を消した!?
いや、でもそれだったら何でさっきそうしなかったんだ。
悠長に考えていると、背後から異常なまでの気配が!

「うぉわぁ!?」

ざがしゅ!!

駆け抜けたのは、やはりタイガー。
だが、様子がおかしい。むしろ目がおかしい。
なんつーか、偶然アシュタロスさんの湯上りに遭遇した勘九朗のよーな。
ヨダレ垂れてるぞ、おい。
やばい。こいつはやばい。
タイガーは目の前にいる俺などまるで眼中に無いかのよーにぐるぐる辺りを見回して、ぶつぶつと呟いた。
聞き取りにくいが、聞き取れた。
主に聞かない方が良かった部分。

「うへ、うぇへへへへっ。女、女…色っぽいねーちゃん
おんな、おぉぉぉぉぉんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

吼えるな変態ぃ!!

きゅどがっ!!

は! 思わずソーサーを!!
が、直撃したにも拘らずタイガーはぴんぴんしてる。
ちょっと待てぇ、どこまで丈夫だこいつは!?

「うがあぁ〜〜〜!!」

それでも機嫌を損ねたか、その太い腕で俺は見事にぶっ飛ばされた。
い、痛ぇ。
くそう、暴走するってこういう意味か。
タイガーはもはや姿を隠す事をせず、ずんずんと進む。
そして結界を殴りつけた。
俺を無視して。
実況も自体を把握できず、
こいつ、もしかして結界から出ようとしてる?
何の為に?
あ、女かぁ!!
このまま放っとけばタイガーは勝手に自滅してくれる。
試合中にリングから出るのは棄権と同じだ。
だが、こいつをリングから出すという事は外に居る女の人が襲われるという事で。
……………。あかん! それはあかん!!
クラスメイトから性犯罪者が出るのは迷惑!
想像してみよう。朝の通学路で顔の映らんインタビュー。
シャレにならん!
愛子ならそれも青春と喜びそうだが。
仕方が無い。
出来る限りのニードル、創造!!
外見を霊力で覆っていても所詮は人間。
いくらタフでも関節に、ニードルを打ち込まれれば効くだろう。
後ろを見せて隙だらけだし。

「行けぇ!!」

キュキュキュ! キュン!!

「ぐぉがぁ!!?」

直撃。肘や膝を押さえてうずくまる。
さらにソーサーで追い討ち!
だが、交わされる。
直後、まさしく獣そのものの気迫で拳を振り上げるタイガー。
まずい! 交わせん!!

ごっがぁああ!

いい音がしました。
ごろごろと情けなく床に転がる俺。
痛い。本っ気で痛い。
ああ畜生。泣けてくる。
…………よく考えたら何で俺がタイガーの、男の為に痛い目見なきゃならないんだ!?
そもそもタイガーもあんなヤバイ暴走の仕方するなら、せめてそれを直してから来い!
ぶっ飛ばそう。うん、はじめからそうしてれば良かったよ。ははは。

「たぁ・いぃ・がぁ〜?」

立ち上がり、にっこり微笑んで見せた俺にびくぅ!!と大仰に巨体が揺れる。
周囲のジャングルが歪んで見えるが、きっとそれはタイガーの精神的な揺らぎのせいだろう。
別に俺の霊気で陽炎っぽく見えてるわけじゃないぞ?
ホントだぞぉ?
俺が一歩近付けば、タイガーは二歩下がる。

「あっはっは。どーしたタイガー?」

「ひぃぃぃぃぃぃ!! す、すみません!! 調子乗ってしまっただけですじゃー!! 許してつかぁさい!!!」

いまさら正気に返ったところでもう遅い。
反 省 し ろ !!

「ぐぎゃべらめじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

聞くに堪えない汚い絶叫。
審判もうっかり俺の勝利宣言忘れるくらいだぞ、タイガー☆
白衣の連中がすぐさま駆けつけ、脈をとったり瞼をこじ開けたり大忙しで。
脈拍が!とか心音が!とか言いながら、大急ぎで担架に乗せて去っていった。

『いやー、なにやらすさまじい戦いが繰り広げられていたようですが…残念な事にタイガー選手の幻覚のせいで視界が悪くて何も見えませんでした! ええ、見えませんでしたとも!! 見てない見てない私も何も見てないんだぁ…!』

『本当あるなー! いやー残念ある残念ある!! あは、あはははははははは!』

声が上擦ってるぞ、実況と解説。
そーいや、タイガーをぶっ飛ばしてる途中から霊力をこめるのを忘れていたような気がするが。
たぶん気のせいだろう。
しっかりダメージ与えられたし。
そうして、一人うんうん納得している俺の頭上から。

『横島選手、GS資格取得――!!』

華々しいその一言。
あ、目的忘れるところだった!!
受かった受かった! やったぜぇ!!
って、あれ?
なぜだろう、周りの視線が少ぉし痛い。
う〜ん、俺の戦い方どこかおかしかったか?
あ、やっぱ最後怒りに任せてどつき倒したのはまずかったか!?
ま、受かったから良しとしよう。
で、他の奴らは。
雪と勘九朗はもう終わったらしく余裕の表情で腕組み。
俺の姿を見て、勘九朗が微妙に頬を引きつらせたが気にしない。
雪はどこかうっとりした声でママ〜と呟きやがった。
俺はてめぇのママじゃねぇ。
ピートの試合も終わったらしい。
肩で息をしながらも勝利宣言を受けている。
そして陰念。
刀を構えたちょっと時代錯誤な格好の、だがナイスバディなねーちゃんと向かい合っていた。
羨ましいな、おい!
お互いじりじりと距離を詰め、先に動いたのはねーちゃんの方。
振るわれる刃は速く、その動きに一切のためらいはない。
あれは人を斬る為の動きだと分かる。
彼女はどこか雪を彷彿とさせる切れた目で、笑った。

「実を申しますと私、人を斬るのは初めてなんですの。
――嗚呼、楽しみですわ」

うふふふふふふふふ。
あ、妖しい。
あのねーちゃん、見た目は美人だが駄目なタイプだ。きっと色々と。
陰念はなんだかとっても泣きそうな顔で、

「なんで俺の周りにはこんな奴しかいねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉ!?」

魂の叫びだな、陰念!!
両手に集った霊気が光を放ち、硬質化しはじめる!
それはとげとげのついたナックルとなり、ひるんだ相手の刀を叩き折り、さらにその勢いのままねーちゃんをぶっ飛ばした。

「きゃー!?」

おお、結界突き破ったぞ。
ダイナミックな爆音とともに放たれた衝撃は大きく、彼女は結界の外。ごるんごるんと転がっていく。
実況役も感心した声を上げ、陰念の資格取得を告げた。

「凄いじゃない、陰念!」

「おいてめー、いつの間にあんな技を覚えやがった!?」

戻ってきた陰念に早速勘九朗と雪が絡んでいる。
確かに、あれは俺もはじめて見たなー。
当の陰念はというと、戸惑った顔であわあわしていた。

「いや、俺もあんなのは初めてでよ。無我夢中ってか、ただぶっ飛ばそうと思っただけで!
 ……そうなんで俺の相手だけあーゆータイプなんだ?何もしてないだろ俺?むしろ普通じゃねーかこいつらに比べたらそれともあれか普通だからこそバランスとってアレな奴と戦りあえってか冗談じゃねぇぞおい

どーやら非常識な試合相手が続いたせいでフラストレーションがたまり、無意識に新しい能力が発現したらしい。
すげぇな、陰念!
ちなみに、陰念が気にしていた女性――ミス・クロウと言う様だ――も合格だった。
第二試合は俺も見たが、なんだかあっさり勝ちすぎて。
逆に実力が分からなかった。
それにしても…あの人どこかで見たような?
印象強いんだか弱いんだかよくわからない人なので、思い出せないが。
ま、そんなこんなで白龍会メンバー全員合格!


「お兄ちゃ〜ん! 合格おめでとう!! 応援にいけなくてごめんね?」

「おめでとう、お兄ちゃん。これでお兄ちゃんもGSね!」

「パピリオちゃんは信じてまちたよぉ〜!」

家に帰れば子供たちが我先にと駆け寄ってきて、口々にお祝いの言葉を述べてくれた。

「ありがとう、皆。明日の試合も頑張るよ」

「うん! 頑張ってね!! あ、そうだお兄ちゃんあのね。えっとそのぉ……」

ルシオラちゃん、急に顔を紅くしてもじもじと。
どうしたのかと、顔を覗き込めばさらに俯いてしまった。
後ろではパピリオちゃんがファイト!と声をかけ、ベスパちゃんが小さく苦笑している。

「ほら、姉さん頑張って! 一生懸命作ったんだから」

その声に押されるように、ルシオラちゃんはやはり俯いたまま何かを差し出した。
一目で素人がラッピングしたとわかる、可愛い包み。

「あの、そのね! あげる!! ベスパたちと一緒に作ったの。バレンタインのチョコレート!!
ほら、疲れたときは甘いものがいいって言うから。あ、市販のチョコレートをね、ハーピーに買ってきてもらって溶かして型に流しただけだから味は問題ないと思うの!!」

そこまで一気に言って。
ちろり、と上目遣いに俺を見た。
可愛いなぁ。
ほわ〜んと。思わず和んでしまった。

「ありがとう、ルシオラちゃん。大事に食べるね」

「うん!!」

可愛い可愛い。
ぽふりと頭を撫でれば、ルシオラちゃんはそれは嬉しそうに笑ってくれた。

「パピリオちゃんも作ったんでちゅよー! お兄ちゃん、受け取るでちゅぅ〜!!」

ぐがは!!

完全に気が抜けているときに、パピリオちゃんのタックル炸裂!
効いた……。
すいっと。倒れ付した俺の傍、ベスパちゃんが色違いの包みを置く。

「はい、あたしからのチョコレート。ちゃんと食べてね」

「うん、ありがとうベスパちゃん…」

答えた声が弱々しかったのは黙認してください。
パピリオちゃんのタックルがタイガーに殴られたところに直撃したんです。
そして、よろりと立ち上がった俺が目にしたもの。
リビングのドアから半分ほど顔を出し、こちらをそれはもう恨めしそうにじっとり見詰める雇い主の図。
しかもしゃがみ込んでるのでウザさ倍増。
ぶつぶちと呟いているその内容は聞かずともわかる。

「チョコレート、子供たちからのチョコレート! 手作りチョコレート。一度はやってみたいランキングに入る少女の夢! ああ、なぜパパに渡してくれないんだ!? どうして真っ先に横島君に渡すのだ? くそう横島君め、これで勝ったと思うなよ!!」

いえ、別に思ってませんから。
あと、ドアに爪を立てないで下さい。傷がつく。ドアの傷って目立つんですよ?

「はいはい、パパ泣かないの」

「ベスパ!? しかし、チョコレートを横島君に…!」

「パパの分がないなんて言ってないでしょう? はい、あげる」

「ベスパ――パパは嬉しいぞぉ〜!!」

ぽとりと頭上から落とされる包み。
感極まって娘の背骨をへし折らん勢いで抱きしめる父親。
あまりの痛みにうっかり喉元に手刀を叩き込み、反撃する娘。
しかも凪ぐ動きじゃなくて、突く動き。
実に平和な光景だ。
そしてこの平和をぶち壊す訪問者登場。

「アシュ様ぁ〜♪ お邪魔しまぁ〜す」

「横島! 明日に備えて上手い飯を食いに来たぜ!!」

「毎度毎度ホントすまん……」

呼ばれてないのに参上しやがったよ、三人組。
はいはい、アシュタロスさん。硬直しないで下さい。

「アシュ様〜、はぁいチョコレートですわぁ。私の○○○をかたどった手作りです。食べてくださぁ〜い☆」

「いやぁぁぁぁぁ!? お約束ぅ!! って、何かね○○○って?! 何ゆえ伏字!!
ってゆーか、あれ!? 結界はぁっ!!?」

「うふふふ。愛の前には全てが無力ですわ〜ぁ♪」

ずざざざ!と飛び退くその動き。
ずいぶん切れがいいのはきっと慣れたから。
リビングで見守ってるドグラが凄くハラハラした顔してる。

「まったく、飽きないわねー」

「ホントでちゅね。あ、雪ちゃん陰念ちゃんチョコレートでちゅよ」

「どうせ来るだろうと思ってたから、用意してたの。はい」

「おお、いいのか。貰っておくぜ!」

「へぇ悪いな。ありがとよ」

準備がいいなぁ、皆。
ところで雪、ルシオラちゃんたちからチョコレート貰えたならいいだろう?
どーして俺を見る?
ないぞ。あってもやらん!
プロ顔負けのラッピングが施された箱を片手に、アシュタロスさんに迫る勘九朗。
優しく生暖かく見守るベスパちゃん。
試験がどうだったのか?と雪と陰念に問うルシオラちゃんとパピリオちゃん。
この日常が。小さな、でも平和な世界が守れるように強くなろう。
そう誓って、ハニワ兵と一緒に夕飯の支度に勤しむのだった。


貰ったチョコレートはハート型。ホワイトチョコで字が書いてありました。


続く


後書きと言う名の言い訳

やってきましたGS試験! 初の前後編です。
本来GS試験は一日目では一次審査と第一試合のみですがキリが悪かった為、ここで合格者が全員決定する事に…! 誰が魔族の手先か調べられんなぁ。
一応その話はあるんですが横島君サイドにはほとんど絡んできません。後編に小竜姫が登場予定です。ミス・クロウの正体も後編です。
雪とピートのいがみ合いは、自分のお気に入りをとられたくないという子供の嫉妬からであって決してそっちの気があるわけではありませんとも!!
試験編、どーしても書きたいシーンがあってはじめたものです。そのシーンは後編に!
では、ここまで読んで下さった皆様ありがとうございます!!

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