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「想い託す可能性へ 〜 じゅう 〜前編(GS)」

月夜 (2007-04-11 02:50/2007-04-12 01:22)
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 ※今回のお話には、一部に性的表現が含まれます。男女の絡み等ではありませんが、不愉快に感じられる方がおられるやもしれませんので十五禁としています。


   想い託す可能性へ 〜 じゅう 〜 (前編)


 令子達がトイレへと行っている間、小竜姫とヒャクメ、女華姫とサクヤヒメの神族達はそれぞれで話し込み、美智恵のみは時々掛かってくる携帯電話の対応により、拝殿内の片隅で小声で西条や他の部下達に指示を出していた。

 「ヒャクメ。転移する時に私達を模した囮を私達が出現する反対側……そうですね、敵の百メートル以内に出す事って出来ますか?」

 小竜姫は転移後の無防備な所を襲われる事を懸念し、どうやって回避できるか考えて一つの案をヒャクメに訊いてみた。

 「んー、やる事は可能なのね。でも、それはサクヤ様が魔法陣に篭められる神気の量にも拠るのよ。全員分となると膨大な神気が必要だし、その膨大な神気にここの神鏡が耐えられるかという問題も出てくるのね」

 小竜姫の提案にヒャクメはいくつか問題点を挙げながらも、可能である事は示す。

 任意の場所に部隊を送り込む為の裏の使い方をする神鏡には、小竜姫が求めている様な機能の幾つかが備わっていた。なぜこの様な機能を神鏡に持たせているのか、その理由は紀元前一千年より前からの神魔の在り様にあった。

 デタントの流れが主流になったのは、ここ二百年前からの出来事である。それ以前になると、神・魔の感覚で頻繁に(人間の感覚では百年から五百年単位の間隔を空けての出来事だが)小競り合いが起こっていた。この小競り合いの名残が、神鏡に残されている裏の機能なのだ。

 だが、現在日本で人間が確認している神の手に拠る神鏡は、伊勢神宮のご神体とされる八咫の鏡(本物は秘かに皇居に安置されている)のみ。女華姫が早苗に預けた銀鏡(しろみ)は二枚目に当たる物だが、美智恵が報告しなければ世間に認識される事は無いだろう。

 ヒャクメが今操作している神鏡は人間の手に拠るレプリカの為、その輸送力・耐久力共に本物には遠く及ぶ物ではなかった。

 「全員は無理としても、美神さんやシロちゃんにタマモさん達を模した囮なら大丈夫なのでは?」

 「うーん、今一つ足りない要素があると思うのね。それが何なのか、ここまで出掛っているんだけど……」

 小竜姫の修正案にそう言って、喉元を指差しながら答えるヒャクメ。

 「…………敵の最初の目的は、おキヌさんの身柄でしたね? ならばおキヌさんの囮を一緒にしたら、敵はそっちに気を取られるのでは?」

 「でも、今のおキヌちゃんの囮を作るとなると、サクヤ様とほぼ同等の…………そうか! 覚醒前のおキヌちゃんに反応していたんだから、その時点の囮を作れば良いのね! それだったら…ここをこうして…こうすると……うん、可能なのね!」

 ヒャクメは小竜姫の提案の問題点を指摘しようとして、さっきまで引っ掛っていた事の答えが閃き夢中でキーボードを叩きだして結論を出した。

 「ああ、なるほど。これは盲点でしたね。今の状態のおキヌさんは、妙神山の結界やここの神域結界で敵には判別されていないでしょうし」

 ヒャクメの言葉に小竜姫は盲点だったと反省する。

 「でも小竜姫、一つだけ不安要素があるのよ。おキヌちゃんの実家に転移した時は、ここほどの結界は張られていなかったから、もしかするとその時にバレている可能性があるのね」

 「それは……心配する事は無いと思いますよ。あの時のおキヌさんはサクヤ様と同等の神気を纏っていましたから、サクヤ様と間違われていると思うのですけど? 少なくとも、取り逃がす直前まで人間であったおキヌさんと結び付けるには難しいと思いますよ?」

 ヒャクメの不安要素を聞いて、小竜姫は少し考えた後に推論を話す。

 「そっか、その可能性もあるのね。じゃあ、おキヌちゃんの囮は覚醒前の状態で作るという事でやってみるのね」

 「これで、誤魔化されてくれれば良いのですけど」

 ヒャクメの言葉に、小竜姫は多少の不安要素を覚えながらも一応の納得を得る。

 「あ、そうだ。どうせなら囮に仕掛けをしておこうっと。くくくく、これされると敵さん怒るだろうな」

 いたずらを思いついた悪童のような表情を浮かべて、喜々としてキーボードを操作して囮を作るヒャクメ。

 ヒャクメが作っている罠は高位魔族相手なら目晦まし程度の物なのだが、今回の敵の様な瘴気を扱うモノ達にとっては最悪の部類に入るだろう。

 「ポンポンポンっと。これで全部の準備は良しっと。あれ? むー、敵の人形への憑依率がまた上がったのね。推定で七十六%ってところかな? 腕の修復だけじゃ飽き足らず、人形の防御に瘴気で侵された樹木や土を纏い始めているみたい。これは、厄介な事になりそうなのね……」

 神鏡を使った転移の諸設定をやり終えたヒャクメは、敵の現状を確認する為に敵を映すモニタに注意を向けポツリと零す。

 そこに映っていたのは腕の修復がほぼ終わり、瘴気に侵された周囲の泥濘を人形の身体に纏い始めている敵の姿だった。

 「ヒャクメ。貴女からの見立てでは、あの瘴気で出来ている鎧の強度はどのくらいですか?」

 ヒャクメの呟きを聞き逃さなかった小竜姫は、敵が映っているモニタを指差しながら彼女に問いかけた。

 「今の所はまだ、それほどの強度はないのね。右手の修復に使った材料が余ったのと、シロちゃんの攻撃が思いのほか威力があったからその対策として鎧にしているんだと思う。でも、あの広大な森を取り込むつもりのようだし、鎧の厚さがさっきから変わらない所を考えると、圧縮して密度を上げてるんだと思うわ。時間が経つにつれて、その強度は上がっていくと思っていた方が良いのね」

 「そうですか。そうなるとあの鎧を纏われた状態で、イワナガヒメ様の神通力が効力を発揮出来るかどうかが鍵になりますね。イワナガヒメ様っ、ちょっとお話があります」

 ヒャクメの分析を聞いて、小竜姫は彼女達と少し離れた所でサクヤヒメと話す女華姫を呼ぶ。

 「どうされた、小竜姫殿?」  ふしゅるるるるる〜〜〜〜〜〜

 サクヤヒメと話しをしていた女華姫が小竜姫とヒャクメのもとに来た。サクヤヒメも一緒だ。

 「これを見て下さい。敵が瘴気に侵された森を使って鎧を纏い始めたのです。イワナガヒメ様、この状態の敵に貴女様の神通力で、敵を人形から引き剥がす事は可能ですか?」

 空中に投影された敵を映すモニタを指差し、小竜姫は女華姫に尋ねる。

 「ふむ……妾の神格を剥ぐ神通力は、元々は寿命を司る一端を担う妾が人間の幽体を剥いで魂を身体から抜く事を応用したモノなのだ。であるから、基本的には衣服や鎧等には影響はされぬ。ただ例外として、神気や魔気に守られた鎧等には効きにくい傾向はある」  ふしゅる〜〜

 腕を組んでモニタを睨みながら女華姫は答える。だが、その表情は苦虫を噛み潰したように顰められていて、彼女自身にも確証がないことを物語っていた。

 「では、瘴気に守られた鎧には効かないと?」

 女華姫の様子に小竜姫は、作戦の練り直しが必要かと懸念する。

 「それは判らぬ。試した事が無いでな。浄化の力は妾の得意とするものではないが、妾も神族の端くれ。瘴気になぞ負けるとは思わぬがな」 ふしゅるる〜〜〜

 厳つい容貌も手伝って、周りに威圧感たっぷりに不敵な笑顔を振り撒く女華姫。

 「実際に当たってみないと判らないという事ですか。私の神剣によって浄化されれば良いのですけど」

 腰に佩いた神剣の柄頭に手を乗せながら、思案顔で小竜姫は小首を傾げる。

 「浄化の術は、キヌに任せると良いでしょう。相応の術は授けていますから何とかなりましょう。それよりも森を穢したのです。相応の報いを受けてもらわなければ……

 サクヤヒメが横から思案顔の小竜姫に提案する。が、彼女の怒気に富士山が反応しているのか拝殿内が微かに揺れた。

 「(うわー、また地震が……。自然神の中では最高位神の一柱だから、自然を傷つけられると怖いのね)おキヌちゃんの役割は大きいのね。後衛としての役割に個体浄化までなんて。敵からの攻撃の備えは本当に大丈夫?」

 ヒャクメはサクヤヒメの怒りが良く分る為に怯えながらも、小竜姫に戦闘でのおキヌちゃんを心配して訊いた。

 「八柄の剣があるので大丈夫と思いますよ。私が産屋で悪意の炎にまかれた時も守ってくれましたから」

 小竜姫が答えるよりも先に、サクヤヒメは陰りのある笑みを浮かべながら横から言い添える。

 「悪意の炎というのはどういう事ですか? サクヤ様はご自身の潔白を証す為に、自ら産屋に火を点けて御子様方をご出産されたのでは?」

 今まで聞くとはなしに聞いていたサクヤヒメの言葉の中に、聞き捨てならない物があったヒャクメは思わず彼女に訊いた。

 「それは……もう過ぎた事です。いくら事実を申しても、世に広まり永き時により真実となってしまった物を覆す事は容易ではありません。正史として記された真実とは違いますが、あの剣は確かに私と御子達を護りました。それでは駄目でしょうか? それに、私達に向けられた悪意の元であった者達は、それ相応の報いを良人より受けております。私達にはそれだけで……あの方の想いを得られただけで良いのです。ましてや亡んだ者に鞭打つ事など忍びないですから」

 サクヤヒメは悲しくもどこか誇らしさを覗(うかが)わせる微笑みを浮かべながら、ヒャクメの問いに答えた。

 「しかしっ…………判りました。今は訊かないでおきます。ですが、この事件が終わった暁には事実をお話し下さいますようお願い致します。私の職務には、不正を行う神族の証拠を集める事も含まれるのですから」

 サクヤヒメの答えになおも訊こうとしたヒャクメだったが、彼女の微笑みの中に強い意志を感じ取って思わず退いてしまう。だが、ヒャクメにも自分の職務に譲れぬ矜持を持っている。なので、事件が終わった後の聴取を望んだ。普段の彼女からは思いもつかぬ迫力が、その身から滲み出ている。

 「…………判りました。貴女方にはこの件での恩もあります。終わった暁には応じましょう」

 ヒャクメの申し出をしばらく目を閉じて考えていたサクヤヒメは、一つ頷くとヒャクメを真っ直ぐに見て聴取に応じる事を承諾した。

 「ありがとうございます、サクヤ様」

 サクヤヒメの承諾に、ヒャクメはホッと胸を撫で下ろす。

 サクヤヒメとヒャクメのちょっと緊迫したやり取りの間、小竜姫と女華姫は敵への攻撃の段取りを話しながらも彼女達のやり取りに意識の一部を割いていたが、二柱の間の雰囲気が緩むのに合わせて、同時に安堵の溜め息を吐いた事に顔を見合わせて軽く笑い合う。

 ちょうどそこに、トイレに行っていたおキヌちゃん達が慌てた様子で戻ってきた。

 「お、お待たせしました。私達の準備は万端整いましたから、いつでも行けます。ところで、私達が居ない間に何かあったんですか?」

 おキヌちゃんが全員を代表してそう言う。しかし、姉の怒気を感じて急いできたのに小竜姫達の雰囲気が切迫していない事に戸惑う。

 「待たせたわね。わたしも準備は良いわ。さっさと片付けてしまうわよ!」

 照れを含んで、続いて入ってきた令子もおキヌちゃんに続いて言う。

 「ああ、皆さんお帰りなさい。皆さんが席を外している間に、敵に変化が起きました。どうやら瘴気に侵された森を取り込んで鎧にしているようなのです」

 小竜姫は、令子やおキヌちゃん達が戻ってきた事に気付くと、令子達が居ない間に起こった敵の変化を伝える。

 「ああ、お姉ちゃんから伝わってきた怒気はそれだったんですね。何事かと思って急いで戻ってきたんですよ。そういう事ならば、一刻も早く倒しちゃいましょう

 小竜姫の説明におキヌちゃんは自分が感じた姉の怒りに納得し、イイ笑顔でみんなを急かす。なんかこうサクヤヒメと同様に、命や自然に対する不当で理不尽な扱いには容赦が無くなってきた感じだ。

 「(あわわわわ、おキヌちゃんまでサクヤ様に共感しだしたのねーっ。うわーうわーー富士山に影響出まくり!? 何とか話を逸らさないとぉ!)おキヌちゃん? 敵のあの瘴気の鎧を浄化する事ってできる?」

 内心の焦りを何とか面に出さないようにして、ヒャクメは敵が映るモニタを指差しながら訊く。そのコメカミから冷や汗がつつつーと流れ落ちているのは、辺りが軽く揺れているせいだからかもしれない。

 というより、長周期振動によって首都のビル群に影響が出るのも時間の問題とも言える。一刻も早く、彼女達の怒気を鎮める必要があった。

 「(…………あの鎧、たくさんの生命の悲鳴が聞こえる!)やってみない事には判りませんが、森の子らの悲鳴が聞こえます。あの子達の悲痛に叫ぶ声を止められるなら、私は何でもしますよ」

 キっと眦(まなじり)を吊り上げ(それでも彼女の可憐さは失われない)、おキヌちゃんはモニタに映る敵を睨みながら答えた。

 「一刻の猶予も無いようね。ヒャクメ、転移するわよ! 準備はできてるっ?」

 辺りの微振動を感じ、サクヤヒメとおキヌちゃんの様子を見た令子は、背中に流れる冷や汗を感じながらヒャクメに焦った様に問いかける。

 「いつでもオーケーなのねー。後はサクヤ様に転移と囮の中身に必要な霊力を、神鏡に注いでもらうだけでスタートできるのね」

 令子の焦りがとても良く判るヒャクメは、打てば響くような感じで答える。

 一人と一柱のやり取りに、シロ・タマモ・小竜姫・女華姫は、それぞれヒャクメとおキヌちゃんを中心にしてこの拝殿に来た時と同様に円を描く様に並び集まる。

 全員が集まるのを見ていたサクヤヒメはヒャクメから神鏡を受け取ると、鏡の部分を令子達に向けて霊力を篭めだす。すると、淡い輝きを纏いだした神鏡が霊力を注がれる度合いにつれて輝きを増していく。

 輝きが直視するには難しい光量に達すると、その鏡面から拝殿の床におキヌちゃんを中心とする転移魔法陣を投影した。

 不思議な事に、鏡から光が発して令子達にとっては真正面から床に魔法陣が投影されているのに、彼女達の背後にも影が出来ることなく光による陣が描かれている。

 「神鏡に焼き込まれている転移魔法陣の起動を確認。霊力臨界点まであと一分半。転移に必要な霊力量まであと一分。転移先座標干渉プログラム、作動。転移先、敵の予想感知範囲ギリギリの一キロメートルの岩場! おキヌちゃん、神気を抑えて! あと三十秒で転移するわ!」

 「はいっ」

 テキパキと転移シーケンスをこなしながらヒャクメはおキヌちゃんに指示を出し、彼女は力強く返事をする。令子達もおキヌちゃんに合わせて、それぞれの隠行術を発動する。

 「転移まであと二十秒。余剰霊力をダミーに注入。ダミーの転移先、敵から百メートル付近に設定。転移まであと十秒!」

 ヒャクメは転移シーケンスを淡々と読み上げ、カウント十で全員に注意を促す。

 「姉さま、キヌ。それに皆様、頼みます」

 「安心しろ、サクヤ。永き因縁に決着をつけてくれる」 ふしゅる〜〜〜

 「行ってくるね、お姉ちゃん」

 サクヤヒメの言葉に、女華姫とおキヌちゃんが短く答え

 「軽く片付けてくるわ」

 令子の言葉を最後に令子達の姿は一瞬光り輝いたかと思うと、次の瞬間には拝殿から掻き消えていた。

 「それではサクヤ様、私はこれから東京に戻ります。この件が終わりましたら、またお伺いします」

 令子達の転移を見届けた美智恵は、サクヤヒメにお辞儀をしてそう告げる。

 「この地より動けぬこの身がもどかしくありますね。吉報を心より待っていますよ。御武運を……」

 サクヤヒメは美智恵の辞儀に言葉をそえて、彼女がこれから受けるであろう数々の悪意を退けられる様にと祝福を授ける。

 「ありがとうございます。それでは、またお会いできる日まで息災であられますよう。失礼致します」

 サクヤヒメから祝福を授けられた美智恵は、再び深くお辞儀をしたあと踵をかえして拝殿を退出していった。

 真夜中なのでヘリが使えないのが痛い。許可申請はしているが、下りる可能性は低いだろう。東京までの車だったら三時間半の距離をどうするかが、美智恵の最初の懸念だった。


 一方こちらは、人々の間から名が廃れた神族の成れの果てである妖怪、忌御霊(便宜上不便だからこう呼ぶ)。

 (口惜しや。サクヤヒメが結界から出てきておったのに動く事叶わぬとはっ。おのれっ、かえすがえすも忌々しい奴らめ〜〜)

 修復中の人形の右腕を睨みながら忌御霊は悔しがる。

 見失ったサクヤの分御霊とは比べ物にならない大きさの神気を先ほど新たに感知したが、人形の支配率が落ちていて満足に動けなかったのだ。

 (くそう! よもや右腕を吹き飛ばされただけでここまで人形の支配が難しくなるとは、思いもしなかったわ! どういう事なんだ、これは!)

 永き時を使って順調に支配を強めていった人形が、右腕を吹き飛ばされただけで再支配に時間が掛かる様になり、しかも気を緩めると内包された神格のエネルギーが人形から溢れ出しそうになって抑え込むのにも一苦労していた。それにより、余計に再支配に時間が掛かっていた。

 (くそ忌々しい! この人形に施されている封印が弛んできていると知って好機と思ったが、思わぬおまけが付いておったわ。これは右腕を修復した後は、より強固に支配する為にも鎧を纏うしかないか。幸い材料には事欠かないしな)

 周りを見渡しながら人形の支配をどうやって強めるか思考する忌御霊。修復中の右腕に集まる瘴気を纏った泥濘に胡乱気(うろんげ)な目を向けて思考を纏める。

 忌御霊が人形を支配出来ているのは、実は施された封印に拠る所が大きい。本人は気付いていない所が物悲しいところだが。

 なぜ人形に、ニニギよりも下級な神族の成れの果てが支配できるような封印が施されているのか? それは、人間に転生したニニギが再び神格を必要とした時に受け渡しを容易にする為である。人の身で神格を受けるのは、道真公を例にとっても判る通り不可能なのだ。(仙人修行を行うなら別だが)

 神格を得る為には一度身罷(みまか)る必要があって、肉体を捨てなければならない。しかも、その時点ではまだ魂に幽体がくっついている状態なので神格に入り込む事も出来ない。

 そこで魂から幽体を剥ぐプロセスが必要になってくる。その幽体を魂から剥いで神格に魂を移す術式が、人形の封印の正体だった。設定目標が人間の幽体であった為、忌御霊でも永き時を使って人形の中に少しずつ入り込む事が出来ていた。

 口が極端に狭く設定されている壷を思い浮かべてもらえれば、この封印の概要が朧げならも理解してもらえるだろうか。人間ならば入り口が狭くても楽に人形の中に魂を入れる事が出来るのだが、いかんせん神族は保有しているエネルギーが莫大な為に少しずつでしか入れないというジレンマに陥る事になる。

 しかも人形の右腕に施されていた術式が無くなってしまった事により、壷に例えるなら所々に皹(ひび)が入った状態になってしまい、そこからエネルギーが漏れようとしているのを必死になって外から押さえ込んでいるというのが忌御霊の現在の状況だった。

 (くっ、今しばらくは動く事は出来んか。だが、必ずサクヤの分御霊を捜し出して取り込んでくれる。そうなれば忌々しいサクヤを護る結界も意味を為すまい。その後は……くく…くぁーははははははははは!

 準備が整うまでの時間を忌御霊は、分御霊であるおキヌちゃんを嬲り尽くして取り込み、その後のサクヤヒメを嬲り尽くす夢想に耽るのだった。

 覚醒前のおキヌちゃんならその妄想も現実になる可能性はあったが、覚醒したおキヌちゃんは若干サクヤヒメに劣るものの今の忌御霊に遅れを取る存在ではない。その事を未だ知らずに哄笑する忌御霊は、更に深く己の妄想に耽っていった。


 闇い妄想に耽って妖力を高めながらも、右腕の修復が済んで余った泥濘を鎧として纏い始めて少し経った頃、忌御霊は近くで空間が揺らぐのを感じた。何かが転移してこようとしている様だ。

 (なんだ? あの空間の揺らぎは? …………ほう、これはサクヤの神気か! よもや向こうから出向いてくるとはな。この有様によほど頭に来たとみえる。未だ完全に支配は終わっておらぬが、あの甘いサクヤならばこの人形を傷付ける事はしまいて。あのニニギの姿に似せたこの人形にはなぁ。くくくくく……)

 空間の揺らぎから感じられるサクヤヒメの神気に気付くと、忌御霊は歓喜にうち震えた。


 同じ頃、敵から約一キロメートル離れた岩場に、令子達は転移を終えていた。

 「上手く囮に引っ掛かってくれたようなのね。なんだか気味悪いくらいに高笑いしてるけど……」

 転移後すぐにヒャクメは、虚空から何やらヘッドセットディスプレイみたいな物を取り出して装着し、千里眼で敵の状況を見定める。

 浅間大社の拝殿でやっていたような千里眼はトランクの機能を使わないと出来ないが、このヘッドセット型ディスプレイはトランクの簡易版の様な機能を持っている。また、ヒャクメの能力に合わせた秘密機能が盛り込まれていた。

 「あー、あれ見てると何だか問答無用でシバキ倒したい気分になるわね。私の盾に小竜姫の霊波砲ぶち込んでもらって、あれに当てたい!」

 刻水鏡(ときみかがみ)の盾の機能の一つである刻見(ときみ)を使って盾の表面に敵の姿を映し見ているうちに、嫌な雰囲気を漂わせて高哂っている敵にうずうずと攻撃をぶちかましたい衝動に駆られる令子は、小声でそう宣(のたま)う。

 刻見とは、刻水鏡の盾に備わっている機能の一つ。その刻見によって盾の表面に映されるのはその時点で最も可能性が高い五秒〜二十秒先の未来と、その時点の令子のテンションと対象にも拠るが一千年ほど前まで遡った過去である。最大の欠点は音声が無いことであり、最大の利点は視点をポリゴン画像のようにぐるぐると変えられる事である。

 「私、さっきから鳥肌が治まらないんですけど、やっぱりアレが原因なんでしょうか? どうもアレの事を思い出そうとすると気分が悪くなって吐き気がしてくるんですが……」

 おキヌちゃんは着物の袖をまくって、鳥肌が立った腕をみんなに見せながら青い顔をしている。ただ、吐き気に関しては別の意味もあるのだが、令子の盾に映っている敵も心情的な要因になっているのは間違い無い。

 「キヌよ、無理に思い出そうとするでない。アレが行ってきた数々の婦女暴行は目に余るものがある。サクヤすらもその対象になりかけていたのだ。キヌが思い出せないのは、サクヤが記憶を消してしまったからだが、完全には消せるものではないでな。一刻も早くアレを人形から剥いで滅ぼせば、その気分の悪さも晴れよう」  ふしゅるる〜〜〜

 女華姫はおキヌちゃんを気遣って、その厚い胸に彼女を抱き寄せて安心させようとする。

 「ありがとう、お姉ちゃん」

 力強く抱き寄せられたおキヌちゃんは、少しは安心したのかホっとした表情を浮かべていた。

 「しっかし悪趣味な色の鎧を纏うでござるなぁ。この辺の土もあのような色をしているでござるが、これも敵の影響でござるか? それに凄く変な臭いが辺りに漂っているでござるよ」

 シロは周りを見渡しながら鼻を押さえて、眉間に皴(しわ)をよせる。

 タマモもシロと同じらしく、ポケットから出したハンカチで鼻と口元を覆いながら辺りをげんなりした様子で警戒していた。彼女達が居る場所の土の色はヘドロ色というか、暗い色の絵の具を何色も混ぜた黒っぽい色をしていた。

 「これは瘴気によって出される毒気ですね。生者が長時間曝(さら)されると身体に様々な障害が出て、幽体や魂さえも穢されていきますので、意識的に練り上げた霊気を纏って防いで下さい」

 小竜姫が辺りを警戒するシロとタマモに注意を促す。

 彼女ら犬神は、常に霊気の臭い等を嗅いで状況を把握しようとするので当然の注意だった。彼女らが無意識に纏っている霊気では、防げない程の瘴気が周りには満ちていた。

 「おお、霊気を纏うと臭いがあまり気にならなくなったでござる。小竜姫殿、かたじけないでござるっ」

 小竜姫の注意を受けてシロは霊気を纏い、その効果に喜ぶ。タマモは言葉には出さずに、目礼にて感謝を示した。

 「何? 宿六やおキヌちゃんって、そんな事も教えていなかったの? (……あっ、これはわたしが教えていないのが原因なんだわ)」

 シロやタマモの様子を見て、思わず令子は少し呆れた様な感じで言う。しかし、すぐに自分の思い違いに気づいて自己嫌悪に陥る。

 「はぁ…令子さんの所から独立した後は、これだけ大きな瘴気を出す様な除霊依頼はありませんでしたし、普段の依頼も私が先に粗方を浄化してから当たっていましたので、二人がここまで酷い瘴気に曝される事はありませんでした。なので、私も学校で習っていた対処方法を教える事を失念していましたね」

 すみませんと言って、令子の言葉に気落ちしたおキヌちゃんが答える。

 「まぁ、おキヌちゃんに当たるのはおカド違いだったわ。ごめん、それって本来は私が教える事なのよね。この時空のわたしって、本当に才能に胡坐をかいていただけだったわ」

 おキヌちゃんが謝ってきたのを、令子は素直に謝り返してそう答える。

 令子は才能に胡坐をかいていたわけではない。むしろ自分の才能を最大限に磨く事に腐心してきたと言っていい。ただ、その才能に人を導く事がものの見事に備わっていなかったのだ。

 それでも彼女がそれなりに人生経験を経ていれば多少は身に付く事ではあるが、彼女は二十代前半で現役でありながら指導する立場にも立たされた。

 中学生の時から培ってきた唯我独尊な性格が災いして、壁にぶち当たった時に美智恵や唐巣神父に相談する時も彼女的に切羽詰っていた時くらいだった。なので、彼女にとっては些細な部分の指導に気が回っていなかったのが真相だった。

 しかも間が悪い事におキヌちゃんの指導は六道女学院が行っており、ますます人を導く機会から遠ざかっていた。横島に至っては、彼自身の生存本能によって自然に身に付けていたし、そもそも“狂った除くモノ”に彼に対して指導する気さえ起きないようにされていた。

 「今はその事は置いておくのね。私が用意した罠はいつでも敵に仕掛けられるから、美神さん達は早く準備をして欲しいのね」

 ヒャクメが敵を囮を使って牽制しながら監視しつつこちらに誘導し、令子に向かって今は敵を殲滅する事が先決だと注意する。時々ヘッドセットをいじっている所が見られるので、これで囮を操っているらしい。

 「分かっているわ。敵がヒャクメの罠に掛かった直後にタマモの狐火による幻術で私達を隠して、その間に小竜姫が敵に初撃を与える。一撃を与える場所は右腕。そこから、神剣の神気による浄化を敵をひきつけながら行う。女華姫さまは敵の攻撃が小竜姫に集中する事を防ぐ為に、要所々々で牽制に回る。そして私達はおキヌちゃんを中心にして、彼女が行う浄化の術を邪魔されない様にする。で、敵を浄化した後は女華姫さまによって、人形から敵を引っ剥がす。その後はみんなで寄って集ってタコ殴り」

 忘れてないわよと言いながら、令子は締めくくる。

 「んじゃ、そろそろ配置に就いて欲しいのね。そろそろ敵の攻撃から囮を逃がすのも限界に近いから。後、敵の攻撃には気を付けるのね。今囮を攻撃しているのは鎧の各所から伸びてきている触手だけど、これに触られた所は普通の服とかだとすぐに溶かされて剥(む)かれちゃうのね」

 実は囮の服が結構溶かされているのよねーと言いながら、敵の攻撃について教えるヒャクメ。

 「なっ、肖像権の侵害よ! どうにかしなさいよヒャクメ! あんなのにわたし達の裸を見られるなんて、偽者でも願い下げよ!

 ヒャクメの注意に心底イヤそうに小声で叫ぶ令子。ヒャクメのことだ、無駄にディテールは正確に反映させているだろう。

 「だから、早く準備をするのねー。ぐずぐずしてると、全部剥かれちゃった上に十八歳未満閲覧禁止な展開になるのね。敵は、逃げ惑う囮を楽しみながら追いかける為に手加減してるから、私の遠隔操作でもこっちに誘導しながら何とか逃げられているけど、それもそろそろ限界なのねー。こっちとの距離四百五十メートル!」

 四人分の囮を操りながら、だんだん声に余裕が無くなってきているヒャクメは、コメカミを伝う汗を不快に感じながらも令子に準備を急かせる。

 (あいつ、とことん女の敵だわ。自分を害する事が出来ないと分かったとたんにいたぶり始めたし、一番弱く設定しているおキヌちゃんを執拗に嬲ってくる。ホント虫唾が走るのね!)

 「ヒャクメ、いつでも良いわよ。タイミングお願いっ」

 ヒャクメが結構必死になりながらも心内で敵に悪態を吐いて囮を逃がしていると、令子から準備が整った事を告げられた。正直、タマモの偽者が敵に捕まった所だったので助かった。今この時もタマモの偽者は触手から分泌されている粘液によって服を溶かされ、胸や秘所を触手に嬲られて挿入されそうだったから。

 「じゃ、敵に特攻させるのね。サクヤ様の浄化の神気がたっぷり詰まった攻撃を浴びるのね!! 美神さん、今なのね!」

 一番敵に近い囚われたタマモの偽者に取らせていた怯えた動きを不意に止めさせ、顔を敵に向けて不敵に笑わせて……爆散させた。

 囮の中に詰まっていた、浄化の神気を圧縮させて作った神水を身近で浴びせられた敵はのたうち回る。瘴気で出来ていた鎧は所々から煙を噴き上げ、その吹き出た煙も余す所無く浄化していく。

 残り三体の囮も順次敵に突撃させて、敵へ神水が掛かる様に指向性を持たせて次々と爆散させていく。

 令子達はヒャクメの合図と共に岩場を飛び出して敵の下へと急ぐ。敵との距離は四百メートル。令子の足で約四十秒弱。しかし、小竜姫と女華姫、シロにタマモにとっては十秒と掛からない距離だ。

 小竜姫と女華姫は即座に空中に飛び上がり敵を目指す。タマモは腕を翼に変化させて、空中から敵を幻惑させるべく十六個の狐火を戦闘域と設定した範囲に飛ばして、ゆらりゆらりと踊らせる。

 ヒャクメとおキヌちゃんは、軽く宙に浮かんで令子に付かず離れずの距離をあけている。おキヌちゃんは浄化の術を行うべく祝詞の詠唱を行い、ヒャクメは周囲に気を配っているようだ。

 シロは令子の前を軽い足取りで敵へ向かって走っているが、時々令子達と距離が開き過ぎて令子に注意を受けたり、自分で気付いて敵に吶喊するのを自制していた。

 程なくして小竜姫が敵を制空圏に捉え、襲い掛かる!

 (おのれぇ、サクヤめ! 姑息な手を使いおって。どこだっ、どこにいる! くそうっ、ただでは済まさん! 命乞いするまで嬲り尽くしてくれる! どこいった、サクヤ!)

 散々に浄化の神水を浴びせられて、纏った瘴気の鎧も所々に罅(ひび)が出来たり剥げ落ちたりしている。忌御霊の方にもダメージがあったらしく、のたうち回った後に片膝をついて血走った目で周りを警戒するが遅かった。そこに突然感じた事も無い神気を纏った者が突っ込んできたからだ。

 忌御霊が突っ込んできた者が女だと認識できた時には、すれ違い様に修復間もない右腕が斬り飛ばされていた。

 続いて女華姫が、腕を斬り飛ばされて剥き出しになった人形の肩口に顔を顰めながら触れて、応急処置としての封印術式を施そうとするが……

 「綻びし封じの印 我イワナガヒメの名において閉じ直す その内に秘めし……

 「おのれっ、誰だ! この人形に再び封じの術を施そうとする輩は!! 疾く離れよ!!!

 封じの術の気配に敏感に反応した忌御霊に邪魔されて、女華姫の意に反して強制的に人形の身体から十メートルほど離されてしまった。

 「何!? もう言霊を!!」 ふしゅっる〜〜

 封じの詠唱の途中でいきなり、吹き飛ばされたとは違う己の身体の動きに原因を覚った女華姫は驚く。

 「おお、やっとこの人形から声を出せるようになったか! これで言霊が使える!! では早速使わせてもらうとするか。我に従わぬ者! …………!! なっ! (従え)が言えぬ!?「させません!」 ぬおぅ!!」

 女華姫が忌御霊の言霊に驚いて硬直した隙に、忌御霊は言霊を唱えようとして出来ずに狼狽し、それを阻止せんとした小竜姫は一歩遅かったが斬り付ける動作を阻まれる事は無かった。

 忌御霊は迫り来る神剣の腹を紙一重で狼狽しながらも躱すが、無様に泥濘の上を転がる。

 忌御霊が小竜姫の剣を躱せたのは偶然と、小竜姫が剣を斬る目的ではなく引っ叩く目的で揮った為に空気の抵抗を受けて剣速が鈍った為だった。

 (なるほどな。自分の身に危険が迫った時の撥ね退けるような言霊は出せても、能動的な言霊はまだという事か。危ないところであった。もう少し接敵するのが遅れていたら拙い事になっていたやもしれん)

 女華姫は一瞬の驚愕からすぐに抜け出すと、忌御霊と小竜姫の攻防を見てそう推測する。

 「竜姫殿!!」 ふしゅっ

 一旦女華姫は、忌御霊から距離をおいて小竜姫を名で呼ばずに彼女を呼ぶ。

 小竜姫を神名で呼ばなかったのは、言霊使いに神名を知られればそれだけで危ういからだ。自分の名が知られているのは仕方ないとしても敵に利する事はしない女華姫。

 普段呼ばれ慣れない名で呼ばれた小竜姫は戸惑うも、女華姫の真剣な表情に一つ頷いて彼女の許に飛んで敵に向かって油断無く身構える。

 「どうされました、イワナガヒメ様?」

 「うむ。あ奴の言霊が自分に危害を加えるモノ限定で発動されるようなのだ。その事を伝えておこうと思ってな。これで無闇に攻撃できなくなってしまった。どうしたものか……」  ふしゅるる〜〜

 小竜姫の問いに、彼女を呼び寄せた理由を告げて、この後の展開をどう運ぼうかと思案する女華姫。

 「おのれぇ、イワナガヒメか! またも我の邪魔をするか! 我の食指も動かん容姿をしているくせに、鬱陶しい奴腹め〜!!」

 「あんな事ほざいてますよ?」

 敵の、女華姫を悪罵する言葉に蔑んだ目で敵を睨む小竜姫。

 「捨て置かれよ、竜姫殿。妾の真実をあ奴が知るのは滅びの時のみ。それすらも、本来は知られたくは無いのだが、妾の神通力の特性上致し方ない。それにそなたらが知っておればそれで良いのだ」 ふしゅるる〜

 小竜姫が気遣う事に面映いものを感じながら、女華姫はそう答える。

 「しかし厄介な事になりましたね。私の剣の神気で浄化を図る手はずでしたが、敵の言霊が防御だけでも有効だとするとそれすらも難しいですね」

 「まだ奴も、その事に完全には気付いていない様だ。さっきから必死に言霊を発しようとしているが、徒労に終わっておる。だが、こちらが攻撃を続ければ自ずと知られよう。むぅー、神名を知られている妾は余計に言霊に縛られ易い。しかし、少しでもダメージは与えておきたい」 ふしゅるる〜〜

 二柱は敵の動向を窺いながら、小声で話し合うが結論が出ない。簡単な言霊だけとはいえ、それでも脅威になってしまうのが言霊という能力だった。

 「ほぉう? イワナガヒメの隣の女は竜神か。そういえば竜神とは、まだ試しておらなかったな。竜は多淫と聞く。さぞや楽しめるであろうなぁ。くくくくくく

 女華姫に憤っていた忌御霊は、少しだけ落ち着くと彼女の隣に立って身構えている存在に気付いて、妄想を膨らませる。

 「おぞましい視線ですね。あの者の視界に、一分一秒でもこの身を捉わせるのは怖気が走ります」

 敵の視線から局部を隠す様に半身に構え、左手で胸を隠す小竜姫。

 「先ほどの突入時に、あ奴は反応できていなかったな。そこを突くしかあるまい。キヌの準備が出来次第、ヒャクメ殿より連絡が来るのであろう? それまで耐えるしかないであろうな」 ふしゅるるる〜〜

 「ええ、そういう手筈になっています。それまではこの身、敵の視界に捉えさせずに彼の者を張っ倒して見せましょう。行きます!」

 女華姫の状況把握からの推論を聞いた小竜姫は、作戦の骨子を彼女と再度確認しあってから、敵に向かって宣言通りに忌御霊の視界に捉われずに突っ込んでいく。

 「(目に見える妾も攻撃の素振(そぶ)りを見せれば、小竜姫殿もやり易かろう)妾も行くか」 ふしゅる〜

 虚空より槍を出して、女華姫も戦場へと向かった。

 女華姫が攻撃の素振りを見せて、それに反応する度に死角から小竜姫の剣の腹で張っ倒されて無様に転がされる忌御霊。なまじ女華姫が見えるように攻撃してくるので、小竜姫の攻撃に反応出来ないでいた。

 イワナガヒメを一度無視して竜の女神を捕らえようとした時は、本当にイワナガヒメに槍の柄で張っ倒されてしまい、イワナガヒメを無視できなくなってしまっていた。

 神剣が触れる度に鎧としている瘴気で出来た泥濘が浄化されていくが、槍の柄で張っ倒された時は浄化される事が無い代わりに忌御霊自身にダメージが届いてしまい、余計に警戒しなければならなかった。

 (くそ忌々しい奴らめ! 醜女や淫売のくせに図に乗りおってからに! 巧妙に隠しているが、サクヤがこの場に来ておるのは判っておるのだ。まずはそちらから崩してくれる!! 上手くいけばそのまま嬲る事も出来よう。くっくくくくく)

 剣と槍による打擲(ちょうちゃく)に耐えながら、忌御霊は己の瘴気で侵された泥濘から感じ取れる複数の気配と昔から良く知る神気に、一発逆天の奇襲を掛けるべく準備する。

 (うん? 動きが妙におとなしくなった様な気が……何かするつもりか? 嫌な予感がする。あ奴の自由にさせてはならぬ!)

 忌御霊の動きが鈍くなってきたのを感じた女華姫は、ダメージが効いてきたかと最初は考えたが、瘴気を浄化し尽くした訳でも無い上に忌御霊の闘気が衰えていない事に気付いて、何もさせじと突っ込む。

 「イワナガヒメ、“寄るな!”」

 突っ込んでくる女華姫に、忌御霊は言霊を放つ。今度は上手く発動した。

 「ぬぉ!? か…身体が……思い通りにならぬ!? (あ奴に近づこうとすると、途端に動きが鈍くなりよる! まだ完全に妾を御する力は無いようだが、厄介な……)」 ふしゅっるる〜〜

 忌御霊に近づこうとするとどうしてもスピードが鈍くなり、襲い掛かってくる触手を打ち払って斬りふせながら仕方なく離れる女華姫。

 神名を知られているが為に、弱い言霊でも行動の制限がされてしまうのに歯噛みをする思いだ。

 (何とかイワナガヒメの介入だけでも防ぐ事が出来たか。何が切っ掛けで発動するか判らぬが、これは行幸。後は、淫売の竜女神を警戒すれば良い。それに仕込みは済んだしなぁ……くっくくくくくくく)

 忌御霊は女華姫がこちらに近付く事が容易に出来なくなった事に溜飲を下げ、小竜姫を警戒しながら先ほどから準備していた策を発動させた。


  後編へ続く


 こん○○は、月夜です。
 想い託す可能性へ 〜 じゅう 〜 (前編)をここに投稿です。
 私の文章を読んで楽しんでいただけたら幸いです。
 誤字・脱字、表現などでおかしい所がありましたらご指摘下さい。
 感想を頂けるとホント嬉しいですね。では、レス返しです。

 〜アミーゴさま〜
 感想ありがとうございます。レスが付いていると、ホントに嬉しくなります。
>シロが珍しく考え込んだり……
 彼女が一番成長を書く上で表現がし易かったというのもありますが、これからも何かにつけては書きたいです。
>タマモが気持ち悪いくらいにラブリー……
 不愉快な表現でしたでしょうか? 私の頭に浮かぶタマモは可愛いんですが、それを表現仕切れていないのかもしれません。精進します。もっとラブ痒なタマモや令子さんを書きたい♪
>ふんわかとした雰囲気の中にも……
 何とか場の緊張感が伝わって頂けている様で嬉しい限りです。会社で上司に隠れながらコツコツと書いていますので、ペースは遅いですが頑張ります。

 〜読石さま〜
 いつも感想ありがとうございます。読んで頂けていると思うと嬉しいです。
>シロは事が解決した後は……
 今回の話でも出ていますが、令子さんは今までの彼女達への対応の拙さに気付き始めています。なので、シロの危うさ等もちゃんと導いていきます。
>ほっぺを突く美神さん達の姿に……
 彼女達の仕種に和んで頂けると、書いている私も嬉しいですね。頭に浮かぶ彼女達をあます所無く伝えれる様、精進します。
>それと八柄の剣ですが……
 やっぱ槍ですよねー。ジャベリンみたいな投擲槍が最も近い形でしょうか。なんで剣って言うんでしょうね。古代中国の名残でそう呼ぶのかもしれませんけど。
>まさか「隠」れて羞恥プレイ
 えー、令子さんが睨んでまして答えられません。でも、令子さんは横島限定で快感にy(ドゴッ) シバかれました><


 〜冬8さま〜
 感想ありがとうございます。HN変え了解しました。理由が想像も付きませんが、十年もHNが変わってない私はこれからも変わらないと思います。
>今回はシロの苦悩編っすね
 まだまだ彼女は悩むでしょう。持ち前の明るさで乗り越えて欲しいものです。
>後10時間強ですが
 これはこの世界に横島が戻ってくる時間を指しているので、今回の敵に関しては間に合わないんですよ。冒頭でちゃんと令子さんの回想ってしていますよ。
>メガさんは……
 女華姫さまは、普段はふしゅるるる〜な姿を好みます。元の姿になると、寄って来る虫が多いので鬱陶しいようです(汗
>どうニニギと戦うのか
 ご期待に副えているか不安ですが、後編も週末には上げますので読んで頂ければ幸いです。


  週末には後編を投稿できると思います。それまで失礼します。

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