―第十七話 対談と魔界のヒ・ミ・ツ(?) ―
横島はワルキューレの案内で魔界最高指導者の執務室へ向かっていた。
途中、魔界軍人達が珍しいモノを見たと言わんばかりイイ笑顔をし、ワルキューレにサムズアップし、
ワルキューレが顔を赤くしたまま発砲するといった珍事が有ったりするが関係無い。
余談だが、次の日魔界毎夜新聞の一面記事に『ワルキューレ大尉、熱愛発覚!?お相手は新米軍人か!?』
といった記事が載り、ワルキューレのパパが暴走するのだが、本編には関係無いのでとりあえず割愛する。
「横島、この奥に魔界最高指導者様がいる。失礼の無いように頼むぞ」
「・・・・・・失礼うんぬんの前にワルキューレ、顔がまだ赤いぞ?」
「う、煩い!」
「くくく・・・」
魔界最高指導者の執務室に着いた一人と一柱、そしてワルキューレは完全に横島のオモチャにされていた。
横島の一言にワルキューレは更に顔を赤くし、大きな声でそう叫ぶ。
横島はワルキューレのそんな可愛い反応に小さく笑う。
「わ、笑うな・・・!」
「別に良いだろう?おまえが可愛いからなんだから」
「なっ!?」
ワルキューレは横島が笑っていると知り、軽く俯きながらそう言う。
気付いていないだろうが、軽く上目使いになっており横島の悪戯心を大いに刺激した。
横島はワルキューレに近づくと微笑ながら顎の下を軽く押し上げ、耳元でそう囁く。
第三者的に見れば愛を囁く少し意地悪な彼氏と翻弄される彼女に見えなくも無い。
ワルキューレは更に顔を赤くし、硬直してしまった。
ちなみに監視カメラが有り、その光景を見ていた魔界最高指導者は大いに楽しんでいたりする。
『お~い。愛を語らっている最中にすまんがええかげん入ってくれんか~?』
「!?は、はい!失礼します!」
「ふふふ・・・」
サッちゃんはまだこの面白いモノを見ていたかったが、時間の都合上何時までも見ているワケにいかず、
外部スピーカーを使いそう言った。
サッちゃんの一言で我に返ったのか、ワルキューレはまだ顔を真っ赤にしながらそう言いながら扉を開き、
中へと入っていく。ワルキューレは我に返ったがまだ気が動転していたのだろう。
「はい」と言ってしまった事に横島は、大声で笑いたいのを我慢しながらも、
小さく笑いながら後を追い、中へと入っていく。
魔界最高指導者の執務室は以外な程整理整頓され、見ていて気持ち悪くなる様な装飾は無い。
床、壁、天井の全てを少し紫が入った黒い石で作られており、
机までは鮮血の様に深紅の絨毯が机まで伸びている。
執務用の机は裁判官が使うの様な物で、魔界最高指導者は黒い皮製の豪華な椅子に威風堂々と座っている。
(美形だな・・・)
横島が見た最高指導者の第一印象はコレだった。
軽いウエーブのかかった金髪に力強い雄牛の様な2本の角、猛禽を思わせる黒い12枚の翼。
元神の使いで美しい中性的な顔をした堕天使にして、現魔界最高指導者。
堕天する前は神の右手とも、明けの明星と言われた元大天使長等の肩書きを持つ実力者、それが彼だ。
彼は何も言わずに立ち上がり、横島の近くへ歩いていく。
歩を進める毎に彼の持つ力が半端では無い事を凄まじい威圧感と共に横島に伝える。
「横島、此方が魔界最高指導者サタ・・・」
「気軽にサッちゃんって呼んだってーな。よろしゅうな。あ!そうや!横っち、て呼んでええか~?」
ワルキューレが真面目な顔をし、かの名を横島に言おうとした時、サッちゃんの方が先に口を開いた。
何と言うかサッちゃんの発言は色々な意味で様々なモノを台無しにする発言だった。
「あ、ああ。別に良いけど・・・って何故に関西弁でそんなに軽いんだ!?」
「う~む。なかなかやるやないか。ワイにつっこめるやなんてな~」
「って何でやねんな!ええ加減にしい!話が進まへんやろ!
俺はあんたが用が有るて聞いたさかい来たんやで!?」
「おお!そうやった!そうやった!」
横島のつっこみにソッチの方を評価するサッちゃんに横島はつい故郷の言葉でそうつっこんだ。
ワルキューレは急な展開について行けず硬直していたりする。
ガシッ!
「サッちゃん。あんたとは上手くやっていけそうだ」
「ワイもそう思うで、横っち」
横島とサッちゃんは一連の行動からか双方共に個人的にも気に入った様だ。
堅く、力強い握手をし、爽やかに笑う一人と一柱。友情を深めるのは良い事だが、実に色々と間違っている。
「それはさて置き・・・俺に何の用だ?」
「そうやったな。おいワルキューレ」
「は、はい!なんでしょうか?」
だが、お遊びの時間は終わりだと言わんばかりに真面目な顔をする横島に、
サッちゃんも同じく表情と声の質を真面目なモノへ変える。
ワルキューレもそんなサッちゃんの様子に表情を堅くした。
「ワイはよこっちと大切な話しが有る。門の外で別命が無い限り待機や」
「はい。分かりました。失礼します」
サッちゃんの指示にワルキューレは短くそう言いながら敬礼し、退室した。
扉の閉まる音がやけに大きく聞こえ、密室となった執務室はその本質を横島に見せる。
「横っち。ワイはワレにアシュタロスの霊波片が有る事は知っとる。
アイツから何か聞いたんやったら教えてくれへんか?」
「・・・一年後位にアスタロトが何かをしでかす。
そいつが何をしでかすかは、まだ分からないが・・・厄介な事になるのは間違いない」
薄暗い部屋でサッちゃんは横島にそう言った。口調は頼む様なモノだったが、本質は命令だ。
横島はそれに対して何も言わず、自らもまだ判断しきれないものが多々有る為、
内容の重要と感じたモノを整理し、簡潔にそう言う。
不明な点はや不確定要素はかなり有るが、間違い無く起こりえる事が良いモノとは感じていない。
「さよか。アスタロトが人界で何やるか調べるんはまあ置いといて・・・
で?横っちはどないする気やねん。黙って見ている気は無いんやろ?」
「まあな・・・アシュタロスと話をして、考えた結果・・・アスタロトは俺が殺す。
どうやらおキヌちゃんと俺が捕まったのはそいつが原因らしいからな」
「復讐ってワケやないみたいやけど、まあええ。それに関しては別にワイは何も言わん。
ワイにとっての本題に入るで」
サッちゃんの言葉に横島は首を傾げた。そして考える。今話した事が本題では無かったのかと。
「本題って・・・どういう事だ?」
「そのままの意味や。
ええか?アシュタロスがおらん様なって神魔のバランスが崩れたんは分かるやろ?
コッチが劣勢やから魔界の過激派は大人しゅうしとんのや。
せやけど、神界はちゃう。
キーやん・・・神界の最高指導者の事やけど・・・・・・言うには抑えるのが大変らしいとの事や」
「・・・俺にアシュタロスの後を継げと?たかだか人間が魔神クラスにはなれんだろう。
勿論、魔族化してもその差はかなり大きいと思うぞ?」
サッちゃんの言い分は理解は出来る。天秤で一方が足りなくなり、傾いた場合、新たに足す。
もしくはもう一方を減らし、均等にすれば良い事だ。
だが自分の価値を正確に理解出来ていない横島は思う。自分だけでそのバランスは取れるのか?と。
「まあそうやねんけどな。今は少しでも力がいるんや。
アスタロトが動きだすんに、そんなに時間は残ってへんし・・・
それに、魔族化したら所属が正規軍でデタント派やと色々とワイにとってもやり易い上、
ワイも横っちに、正式に援護できるんや。
それに、正規軍の仕事はアスタロトを殺ってからやし、給料や休暇も有る。
人界風に言やあ、そうやな・・・就職先が内定しとる。っちゅーこっちゃ」
「・・・・・・サッちゃんが何を考えているかは今はもうどうでも良い。
俺にとっちゃあ魅力的な話だし、まあ・・・よろしく頼むわ」
サッちゃんの言い分に横島は考える。良い話には基本的に何かが付いて来るからだ。
しかし、多少のリスクを負ってでも、サッちゃんの言う条件は今の横島にとって良いモノだった。
結果、下した判断はYes。
自分の立場を正式なモノで固める必要が有る。
新たに魔族になった奴は恐らく古参の魔族にとって気持ちの良いモノではないが、
魔界では力が大概の優劣を決める。
よって実力者になればそれだけ性格等、問題の有る人物が多かったりするのが魔界だったりする。
魔界で生きるには、要は、人望やカリスマ性等よりもまず力で得るものなのだ。
とにかく、まだ完全に魔族となってはいないが、時間の問題な横島には、
魔族となった後の就職先等を得る必要が有るのだ。
横島の下した判断にサッちゃんは一瞬だが、こっそりと魔王と言うべき笑みを見せる。
そして、それに気付かない横島では無い。
「ほなこの書類に名前を書いて~な」
「・・・一応条件とか見るぞ」
「・・・・・・・・・・・・別にええで」
サッちゃんの出した契約書には何点か注意事項みたいなモノが多々書かれていた為、横島はそう言った。
以前の横島なら何も言わずにサインしていただろう。
サッちゃんがそう言うまで、何故か間が有り、不自然に長かった。
「・・・なあサッちゃん。
この、『階級が上の方々や各魔王、魔神の命令は原則的に絶対だが、気に入らなければ、
何らかの勝負で勝利すれば断る事が出来る』ってのは何なんだ?」
「まあ昔から有る魔界の風習や」
「あと、『軍服が気に入らなければ最高指導者に直談し、許可を得れば変更が可能。
原則的に、意を申す場合最高指導者と直談せよ』や、
『脱退するならば、その意思を明確なモノとし、最高指導者と直談せよ』、
『魔神、魔王に昇格した場合、最高指導者と直接対談し、様々な条約の取り決めを行う』ってのは?」
「まあ、魔界にも色々有るっちゅう事や」
横島の問いにサッちゃんは何でもない事の様にそう言う。
条件というか、取り決めが何故か微妙な事が何点か有った。
魔界特有のある意味実力主義と取れる事柄に横島は契約書を見る目を厳しいモノへと変える。
「最後につっこみ所満載なコレ・・・
『既婚者(女性)に手を出すのは禁止。発覚した場合覚悟せよ byサッちゃん』」
ギクッ!
横島の言ったこの事に何故かサッちゃんは横島から目を逸らす。
様子から冷や汗をダラダラと垂らしている要だ。
「・・・まさかだとは思うけど、奥さんの浮気防止とか?」
「ノ、ノーコメントや・・・」
「心配なんだな・・・・・・・・・」
サッちゃんはしみどろにそう言い、その反応に横島はコメカミをピンポイントに襲った頭痛に、
軽くマッサージしながら溜め息気味にそう言った。
「しゃあないやないか!リッちゃんは夜魔の女王って言われたモンやぞ!?
アダムん奴がヘタレで、リッちゃん曰く夜の生活はサッパリらしかったんやぞ!?
別れて他に男を探すリッちゃんを取りあえず魔界に誘おて、
堕天させて魔界に来たリッちゃんの磨きが架かった美しさにワイは一目惚れしてもうて、
ものごっつー頑張ってモノにしたんやぞ!?男のプライドを何度も犠牲してやで!!?」
「あ~・・・ものすごく親近感が沸くが、職権乱用じゃあないか?」
逆切れして開き直り、そう言ってしまったサッちゃんに横島は美神の馬車馬の様に働いていた、
約1年前の事を懐かしく、そして変わってしまった自分を自覚しながらそう言う。
「別にええやん。ワイ、今魔族やし、そのトップやし」
「良いのかよ・・・」
サッちゃんの弁に横島は書類に、机の上に置いてあった執務用の万年筆で契約書にサインする。
少し、魔界の今後に心配しながらだが。
「ほい。コレで良いか?」
「ん~・・・ん。問題無いな」
サッちゃんは横島から契約書を受け取ると確認し、引き出しから判子を出し、
ポンポンと押すとそう言った。契約書の控えの一部を引き出しに入れ、その他をファイルに閉じる。
「細かい事は後で考えるとして、どうすっかな?」
「とにかく妙神山へ行ったらどないや?猿んとこの嬢ちゃん達が心配しとるやろうしな」
「・・・この際、妙神山で色々と考えるわ」
「ワルキューレに道案内でも頼みい。コレを見せたら大丈夫や。あと、その万年筆はやる。
まあ契約の証って奴や」
サッちゃんはそう言いながら何時の間に書いた命令を書いた紙に、妙神山へ入る為、
人界へ行く為に必要な書類等等を準備し、横島に手渡した。
「高そうな品だけど、そういう事ならありがたく貰うわ」
「・・・リッちゃんにあの事は内緒やで?リッちゃんのお仕置きは過激やさかいに」
「んなもん。言われんでも分かーっとるわ」
サッちゃんの使っていた万年筆を横島はそう言いながら軍服の上着のポケットに入れながらそう言い、
サッちゃんが顔を真っ青にし、ガタガタと振るえ、魔界最高指導者の威厳の欠片も無い姿に、
横島は手をヒラヒラさせながらそう言い、退室して行った。
魔界最高指導者と言えど奥さんは怖い様だ。
―後書き―
シリアスにしたくてもシリアスになりきれなくなった事で良かったのか失敗したのか、微妙なアイクです。
昨日は一日ダウンしてました。
連日5回を頑張ろうとしていたのに・・・
まあ風邪を引いている時に挑戦する様な事じゃあないんですがね(苦笑い)
前話で一気にコメディになった結果、もう戻れないかもしれないと思ってしまった・・・
まあ息抜きは持って来いな話だったんで問題無いか。
ついでに・・・
脳内会議で、タマモ出す事にしようと8割程決定しました。最終回は遠そうです。
~レス返し~
・良介様
シリアスになりきれませんでした。サッちゃんはまあ・・・楽しければ問題無しとの事だと思います。
・南部鉄瓶様
取りあえず、完結までにはまだ時間がかかります。
タマモとかを出そうとしたら余計に書きたい事が倍に増えたりするからです。
卵酒は一度でも良いから飲んでみたいですね。
・アミーゴ様
ベスパはまあ頑張ったんです。横島は無意味にフラグを立ててます。
・February様
サッちゃんとの対談はこうなりました。
魔界の全てを握るのは最高指導者ではなく、その奥さんの様です。
・DOM様
横島のナニがアナコンダ級なのは常識でしょう。そうじゃないと面白く無い(何か間違えている?)
あと、べスパ=説明オバさんはちょっと待ってあげて下さい。
劇場版では30を過ぎてしまったとは言え、まだ30代前半なんですから・・・
女性に年齢と体重、そして胸の大きさは禁句です!
・内海一弘様
さあ?横島の事ですから、言うのを忘れるか、口を滑らすかの2つに1つでしょう。
サッちゃんは・・・何を考えているんでしょうね?作者の自分も分かりません。
シリアスに戻れる日は・・・来るのだろうか?風邪が治らない限り、その日は来ないでしょうね。
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