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▽レス始

「言尽くしてよ 永く想わば 第四話 前編(GS)」

金平糖 (2007-04-04 01:06)
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「む!?」

 きゅぴーん
 引き締めた顔を虚空に向ける小鳥遊。

「あら? どうかしました? 小鳥遊先生」

 今晩は忠夫が除霊に出かけている為、横島家の夕飯に呼ばれていた小鳥遊。
 おかずをテーブルに並べながら、今の今まで大樹と談笑していた小鳥遊の様子が変わった事に訝しむ百合子。

「うむ。屁が出そうで出なかった」

 がこんっ!

「まあ先生ったら冗談ばかり♪」

「…」

 何事もなかったかのように台所へ引っ込む妻を尻目に、首の角度が怪しくなっている小鳥遊の為、グラスにビールを注ぐ大樹であった。

「ネタの分からん嫁御だのぅ…死んだばーさんそっくりじゃ…」

「百合子も関西人な筈なんですけどねぇ」


言尽くしてよ 永く想わば 第四話 前編


「と、言う訳でやって来ました除霊現場」

「誰に向かって説明してるのよ、あんたは」

 背後からジト目で睨みつけてくる令子のツッコミは、誰にも届かなかった。
 お約束という奴なので仕方がない。
 機嫌最悪の令子と、妙に機嫌の良い、というか玩具で遊んでいる子供のような笑顔の美智恵とに挟まれて生きた心地のしない横島。

 しかし、除霊現場を前にした以上、死ぬ可能性もあるのだ。
 パンっと自ら両手で頬を叩き気合いを入れると、視力を霊視モードに切り替える。

「…外から見た感じじゃ、そんなに浮遊霊は集まってませんね…」

 今回の依頼内容は極々簡単な自縛霊の除霊だ。
 依頼主である不動産会社が手に入れた不良債権の一つがこの住宅、普通の家としか表現しようがない程普通の二階建屋だ。
 東京郊外の土地であり、築20年ほど経ってる事から、そこまで不動産的な価値はないだろう。
 とは言え開発ラッシュの昨今、土地を無駄に遊ばせている余裕はない。
 どのような土地であれ都内や関東近辺の土地は今後の開発次第では化ける可能性も否定出来ない。
 よってとっとと除霊して壊して更地にしたいのだ。

 霊に取っては実にシビアな世の中である。

「霊視ゴーグル無しでそこまで見えるの?」

 美智恵が驚きの声を上げる。
 令子は母親がそこまで驚いた事には驚いたようだが、その本質には気付いていない。

「俺、目が無駄に良いんすよ」

 横島の霊力は木の属性を持っている。
 陰陽道では万物全てを五つの性質に分類する事が出来るという。
 これは陰陽術を使役しない人間でも同じだ。
 『木(もく)・火(か)・土(ど)・金(こん)・水(すい)』の五つであり、分類には人の感覚や内臓すら含まれる。
 方角や季節、色や惑星なども五行に当てはめられているが、木の気で成り立っているとされる五感(この場合は五つの感覚器官の事)が目であり、五塵(五感から生まれる感覚そのもの)が色(この場合は視覚の事)なのだ。

 霊能力が覚醒した後、浮遊霊すら霊力を集中せず、気軽に「視える」状態――しかもそれは通常のGSが霊視ゴーグルを使った時と同様の精度だった為、霊障に苛まれる事になった――だった横島だが、小鳥遊の指導でそれを抑える事が出来た。
 そして苦労の末、自ら霊視状態と通常状態の切り替えを可能としたのだ。
 今後は更に鍛えて千里眼を会得する予定だ。
 目的? 賢明なる読者諸兄には今更語る必要はあるまい。

「んー、自縛霊が占拠してから余り時間が経ってないから、まだ浮遊霊が集まる程じゃないんすかね」

「恐らくはそうね。尤も、家の中までは分からないけど」

 一応、神通棍を取り出し、霊波を通わせないまでも棍として伸ばしておく。
 今日の主役は横島なので、美智恵としては令子の護衛が仕事だ。

「別に近くに霊障の原因となりそうなモノもないみたいだし、原因はやっぱりこの家で起きた心中事件でしょうね。あー、やだやだ」

 うんざりと頭を振る。

「なによ、怖いの?」

 ふふん、と鼻で笑う令子。彼女は幼少時から母親の除霊の仕事にくっついて現場にいたので、この手の現場で恐怖を感じるという事は今では殆どなかった。

「怖いに決まってるじゃないっすか! 死んだら痛いし!
 まだ裸の美女で埋め尽くされた日本武道館でもみくちゃにされながらジョニーBグッドを歌ってないんすよ!!?」

「ナチュラルにセクハラするなっ!」

 ずどむっ
 令子の頭の上にいた赤兎の跳び蹴りが頭を、令子の拳がボディを捉える。

「ぐはっ」

 血反吐吐いて倒れる横島。

「あのね、令子。怖いって想う事は大事な事よ?
 少なくとも馬鹿にすべき事ではないけど?
 そりゃあ、恐怖に負けて逃げるなら馬鹿にされるべきかも知れないけど。
 私だって怖いって想う時くらいあるし、ましてや横島君は見習いGS以前の子なのよ?  怖いって思って当然だと想うわ」

 怖いから危険を察知出来るし、怖いから理解不能なモノを理解しようと、或いは排除しようとする。
 それが本能であり、それを否定するのは間違いだろう。
 そもそも怖さを知らなければ何が危険か危険でないか、分からないという事になる。
 それがGSの仕事にどれだけ不利益か、美智恵はよく分かっている、骨身に徹して。
 それを分かっていながら「見習いGS以前の子」に除霊させようという辺り、GSという職業はなかなか厳しいモノがある――のかも知れない。

「…そうなの?」

 美智恵には怖いモノなどない、と想っていたのだろう。
 一流の呼び名に恥じない美智恵の除霊しか見ていないのだ、当然かも知れない。

「大事なのは恐怖に負けない事よ。
 怖いって思うのは感情なんだから」

 そう呟くと、横島の腹の上でトランポリンを楽しんでいた赤兎を猫のようにつまみ上げて令子の頭に乗せた。

「ほら、横島君もとっとと起きて仕事仕事」

 唸りながら腹を押さえる横島を引っ張り上げ無理矢理立たせた。


「んじゃあ、気を取り直して」

 腰に二つ、左腕に一つあるポーチの中身を確認し、背負ったバッグの中から更にポーチを二つ取り出し、両太ももに嵌める。
 更にバッグから取り出した弾丸ベルトを腰に巻く。尤も納めてあるのは弾丸ではなく五寸釘が10本だが。

「横島君の前世は陰陽師だったわよね? 呪殺用の五寸釘かしら?」

「ええ。尤も、好きじゃないんで呪殺はしたくないんすけどね、色々使えますから」

 横島の話によると、前世の高島が最も得意とした呪殺用の特殊な五寸釘で、釘芯そのものに呪が掛けられており、単なる投擲で相手に当てるだけで呪いが発動し、相手が霊ならば存在そのものが、人間や妖怪なら五寸釘が触れた部分が腐っていくというモノらしい。
 更に刺さった後に呪言で効果を加速させる事が出来る。

 陰陽師・高島の必殺武器と言っていいが、生憎と現在の横島の技術では生前の高島が使っていた精度での復刻は不可能だった。
 せいぜいが霊的存在にも投擲ダメージが発生し、刺さり方によっては相手を縫い止める事が出来る、と言った程度。
 勿論、呪言での追い打ちを掛ければ、刺さった存在に霊的ダメージを与える事が出来る。

 イメージ的には霊体ボーガンより威力が弱い代わりに刺さった後に追加コマンド入力で追撃が入る、と言った感じか。

「あとは自分で作った破魔札と五行符、それから結界札、式神符です。俺以外には微妙な威力なのばかりっすけど」

 軽く身体を動かし、ポーチや弾丸ベルトが邪魔にならないか、外れないか確かめつつ。

「え? 自分で作った!?」

「……確かに陰陽師系のGSには自分で札を作る人もいるけど…」

 自分で札を作る場合、対費用効果は抜群に高い代わりに強力な札を作ろうとすると斎戒沐浴を初めとした作成の前段階から相当な手間がかかる。
 その上自分で作った札は人に使わせると威力が格段に落ちると言った弊害も出てきやすい。
 現在、世に出回っている破魔札などはGS協会の管理の下、専属の陰陽師達が毎日作成に励んでいる結果だ。
 正直、昨今の陰陽師は式神使いか、でなければ札作成係か、どちらかに落ち着いているのが現状。
 前者は兎も角、後者は一流のGSに匹敵する収入は得られる。
 安全に稼げる以上、そう間違った選択ではあるまい。
 つまり、誰が使っても一定の、安定した威力を持った札を作るにはそれを専業とする位の修練が必要だという事だ。

「今の俺じゃ全身全霊を篭めて10万クラスの破魔札、吸引札が良いトコっすけどね」

 各ポーチに入っている札を確認しながら、美智恵との世間話を続ける。

「あのね、横島君。自分の能力をぺらぺらと他人に喋るのは感心しないわよ?」

「…のぉぉぉぉ!? そーいやお師さんに釘の事とか口止めされてた!!」

 しーん…
 がっでむ、と両手で頭を抱える横島に追い打ちを掛ける沈黙。

 自分の能力が世間に広まらないようにするのは、GSとしては当たり前の心得だ。
 誰に利用されるかも知れないし、弱点になりえるかも知れない。
 「有能さ」を適度に知らしめるのはGSとして稼ぐには必要だが、「能力そのもの」の情報の漏洩はGSとしては死活問題だろう。

 その意味で美智恵の指摘と小鳥遊の指導は間違っていない。
 というよりも、

「…迂闊すぎ…」

 ぼそっと呟く令子の一言に全てが集約されている。
 それがネクロマンサーのような有名過ぎる能力ならまだしも、有用で誰も知らない能力ならば、そのアドバンテージを自ら捨てるのは愚の骨頂。
 赤兎もふっと鼻で笑っている…ように見えたのは横島の心がそう見せたのだろう、多分。


 ☆ ☆ ☆


「ところで二人とも霊衣に着替えなくて良いんすか?」

 後ほど必ずやってくるだろう小鳥遊による説教に対して、座り込んで頭を痛めていた横島がふと思い出したように顔を上げる。
 そういう横島はGパン、Gジャン(返してもらった)にTシャツ、バンダナだ。
 人のこと霊衣とか言う前に自分が着替えろと言われそうな服装ではある。
 だが実はこのGパンとGジャンには防弾防刃繊維を縫い込んである特注品であり、更に裏地に大祓の祝詞の縫い取りがしてあり、霊的な防御力をほんの少々持っている。
 これは息子の身体を心配した母親が、小鳥遊と相談した結果作られ、小鳥遊の手で横島に渡された。
 横島の場合は陰陽師が着るような服を着れば良いと思われるかも知れないが、生憎と彼は変なトコで常識人なのでコスプレそのものの格好には大層抵抗があった。
 耐衝ベストを装備させないのは小鳥遊の主義だ、曰く「食らうな、避けろ」
 その他の理由としては耐衝ベストが必要な程の除霊は基本的にランクが高いので、横島にはさせられない、というのもあるが。

 ちなみに令子は中学の制服、美智恵はパンツルックの藍色のスーツにネクタイという、三者三様の服装ではあるが共に除霊に行く目的があるとは思えない。
 尤も、美神母子は精霊石のイヤリング×2とネックレスで身を飾っている為、総合的な攻撃力/防御力は横島より高いかも知れない。

「ええ、構わないわ。そもそも私が闘う事があるとは思えない依頼ですもの」

「折角ママと一緒の除霊なのに…」

 赤兎を頭から降ろして抱きしめる令子のふくれっツラはそれなりに可愛いのだが、視線の強さはかなりキツい。

「んじゃ行きますか」

 視線を避けるように身体を回すが、背中に突き刺さるだけだった。
 極力それを意識しないようにして、現場の玄関のノブに手を掛ける。


「さてさて…浮遊霊の類はいない、か。陰気は陰気っすね」

 玄関に入ると、電気の通っていない薄暗い空間が目の前に開く。
 霊が支配する空間特有の陰気さはあるものの、強力な悪霊の証拠でもある雑多な浮遊霊がそこらを漂っている、というような事はなかった。
 勿論、浮遊霊がいないから悪霊ではないとか弱いとか決まりきってる訳ではないが。

「…とりあえず電気は――通ってない、か」

 下駄箱の上の壁にあるスイッチを何度かかちゃかちゃ押して見るが、反応はない。
 左腕のポーチから一枚、符を取り出して左手を刀印、或いは手剣などと呼ばれる形――握り拳から人差し指と中指を伸ばした状態の事――にして、右手から左手の二本の指で符を挟んで持ち替え、符を翳す。

「螢惑招来」

 しゅぼっ
 横島の言霊に応じて火行符が火を噴いて辺りを照らした。

「へぇ〜…ちゃんと符を使えるんだ。…すぐ燃え尽きそうな紙なのに…?」

 ぱちぱちと手を叩いて褒めてくれる赤兎を抱いたままの令子が驚いていた。
 なかなか明るく、ちょっとした懐中電灯よりは電気の通わぬ空間を照らしている。
 符に篭められた霊力で燃えている為、符自体は篭められた霊力が尽きない限りは燃え尽きたりしない、と美智恵が令子に解説する。

「…三ヶ月ちょっと人の修行見物しておいて、俺の事なんだと思ってたんすか…」

 背中で交わされている会話を聞きながらぼやく横島。
 しかし眼は油断なく辺りを探り、足はすり足ながら確実に前に進んでいる。

 玄関からまっすぐ廊下が伸びて左右に引き戸がある。
 突き当たりに扉があり、その横には二階へ続いているだろう階段がある。

「だってあんた、サイキックソーサーだっけ? アレしか霊能力っぽいの見せてくれなかったし」

 令子の呆れた声にもめげず、左右の引き戸を開けて中を確認する。
 霊感に引っかからない以上、霊がいないとは思うが何事も安全第一。
 なんかあったら怖いから。

「夜中の自主トレは身体作りと霊力の体内循環が目的っすからねぇ」

 15時頃まで中学、その後、小鳥遊の所で霊能力の指導、夕飯を自宅、もしくは師匠の家で済ませて、それから夜中の自主トレ、が横島の基本的なスケジュールだ。
 日にもよるが小鳥遊の所で霊能の修行をしている以上、夜中の自主トレは別メニューになるのは当然ではある。

「あんた達ねぇ…もう少し真面目にやりなさいよ」

 まるっきり緊張感がない娘とそのボーイフレンドに対して、感心するやら呆れるやら。
 気負いがないのは多いに結構なのだが、油断しているように見えて仕方がない。

「失礼な。真面目にやってますよ。具体的にはこの先の居間に問題の自縛霊がいる感じっす」

「…分かってるじゃない」

 真面目かどうかはともかく、仕事はちゃんとやっている。
 正直、14歳の子供がここまでやれるとは思わなかったのは事実だ。
 というかまず落ち着き具合が14歳のそれではない。令子とて幼少時から除霊現場に連れて行って慣れさせたからこの落ち着きがあるのだ。

 霊能力の方も得意不得意の差は激しい、との自己申告だが、得意な方の能力は下手な中堅GSと互角と言って良い程の制御を見せている。
 その証拠が灯りとして使っている火行符だ。
 未だ煌々と光を放っているが燃え尽きる様子はない。
 符に篭められた霊力が強大なのか、尽きる前に符に霊力を注いでいるのか。
 前者なら14歳にしては破格の霊力と技術と言っていいし、後者ならかなり器用と言っていい。
 尤も全長30僂硫亶塢笋寮菽5僂里澆鯒海笋径海韻詈佞蝓符術使いとしてはなかなか器用なのは事実だ。

 尤も、火行符をこういう形で使うGSは普通はいないが。
 懐中電灯一本で事足りるからだ。

「…そーいえば懐中電灯、なんで持って来なかったのかしら?」

「普通の家じゃないっすか、依頼物件。電気通ってると思ったんす」

「…次からはそういう油断しないようにね」

「さー・いえっさー、マム」

 居間へと続く扉に手を掛ける。
 ぞくっと背中に走る寒気を押さえ込むように息を吸って、扉を開けた。

「いましたね…」

 霊視する必要すらない程はっきりとした霊が、居間のテーブルの上に所在なげに浮かんでいる。
 腰から抜いた五寸釘に火行符を深く刺し、投擲しテーブルの近くの床に突き刺す。
 蛍光灯とまでは行かないまでも、部屋全体が弱い裸電球で照らされる程には明るくなった。

「こいつは――!」

 キッと眦を上げて、息を吸う。

「酒に溺れ借金まみれの博打狂い旦那に病弱な息子を抱え、三日前に苦悩の余り旦那と息子を殺して首を括った女性の霊!」

「一目見ただけでそこまで…!」

「いや依頼書に書いてあったんすよ」

 どごぅ!
 強烈な前蹴り――所謂やくざキックが横島を前のめりにぶっ倒す。

「なにすんすかっ!?」

 立ち上がり、大声で抗議する――視線も意識も霊からは離さずに。
 特に何をするでなく、正しく浮遊しているだけなのだが油断は禁物。

「やかましいっ! あたしの感動を返せ!」

「令子、霊能者にはハッタリも大事なのよ?」

「そーっすよ? お師さんも霊能者はハッタリが重要だと、どっちの料理シ○ーを見てる時にふと思い出したかのように言ってたっす」

「…あんたの師匠ってホントに凄い人なの?」

「…小鳥遊先生は色んな意味で凄い人だわ、確かに」

「とまあ一悶着挟んでも反応なしっすか。
 奥さーん、毎度ゴーストスイーパーでーす。
 よろしかったらお話伺えませんでしょーかー?」

「あら…お客さ…んでしたか…どうも…お構いもしませんで…」

 若干、声が遠いようだが、意志はあるようだ。
 手で背中の二人にもう少し下がるように合図しながら、話を続ける。

「どうも自縛する程、執着があるようには見えないんすけどねぇ…
 奥さん、どうしてこの世に留まってるんすか? 幽霊なんてヤクザな事してないでとっとと成仏して輪廻の輪に戻った方がお互い幸せだと思うんすけど?」

「そう…言われても……どうしたら…成仏で…きるん…でしょう…か?」

「なんかこの世に心残りがあるんじゃ? 俺で良ければ手伝いますけど」

「…心の…こり…む…すこが…まだ…」

「息子さん? 息子さんは確か奥さんが殺したんすよね?」

「そう…なの……私が…殺した…殺したの!」

 ごうっ!

「…やばっ!? トラウマに触っちゃった?!」

 横島の言葉に触発されたのか、突然霊圧が上がり居間の家具が荒れ狂う!

「きゃあ!」

「――減点1よ! 横島君!」

 令子を背中にかばいながら、神通棍で近づく家具を叩き落とす美智恵。

「――存思の念・災いを禁ず! 動くな! 藤田加奈子!!」

 びんっ!
 張り詰めた空気に縛られるかのように硬直する幽霊――生前の名を藤田加奈子。
 同時に居間を荒れ狂っていた家具達もその場に墜落した。

「…ふぅ…俺の禁術が効くLvで助かった…」

「ど、どういう事?」

「…陰陽師が用いる術の一つよ。極簡単に漸くすると「森羅万象を禁じる」術ね。
 勿論、術者の技量によって禁じる事が出来ない事の方が多いけど」

「まー、神様とか悪魔には通じない事の方が多いみたいっすけど、妖怪とか悪霊なら少々Lvが高くても通じるみたいっすね。
 今の俺の力じゃこの藤田さんでもギリギリみたいっすけど」

 手早く五枚の札を取り出し、中心に幽霊を置いた五つの極点に結界札を設置し、五芒星を構成した。

「――捕縛せよ! んでもって動け! 藤田加奈子!」

「え? なんで禁術を解くの?!」

 令子が抗議の声を上げるが、赤兎がぽんぽんと胸を叩いて宥めていた。
 美智恵も手を挙げて令子を制する。

「奥さん、落ち着いて!
 息子さんの事はどうにかしますからっ!」

 大声を上げて説得。

「とっとと除霊しちゃえばいいじゃない!」

「令子は黙ってなさい!」

 一喝。その一言は強烈な言霊となって令子を縛る。
 その間に横島はどうにか自縛霊の藤田と会話を続行。

 その結果分かった事は、

 1:藤田加奈子本人には特に執着と呼べる程の感情は残っておらず、
   知性も生前と比べると大分劣ると思われる。
   ただし、息子の事はそれなりに後悔している模様で、
   それに触れなければ大人しい。
 2:執着がなく知性も低い為、本人に自縛する意志がないと見るのが妥当か。
 3:結論として何モノかに引っ張られる形でこの家に縛られていると予想される。

 そして火行符を一枚取り出し、ポケットから取り出した依頼書を照らし、もう一度内容を確認する。
 依頼書には「基本的には変哲のない平屋」とあった。
 平屋、とは一階のみで構成された家、という意味だ、説明するまでもないが。

「美智恵さん、これってどういう事でしょうか?」

 思いっきりジト眼でやぶにらみに美智恵をにらみ付ける横島。
 対して、全開の笑顔で嬉しそうに声を上げる美智恵。

「あら〜、バレたかしら?」

「…で、二階っすかね?」

 依頼書を握りつぶすようにしながらポケットにしまい、部屋の四隅に結界札を設置して更に結界を構築する作業に入る。

「二階よ」

 意外と堅実な横島の行動に、心中で花丸をつけながら、ゆるりと見物。
 令子はと言えば美智恵の後ろで訳の分からぬ事態の推移に憤りを感じつつも、先ほど美智恵に一喝されたのがよほどショックだったのだろう、黙って赤兎を抱きしめ、横島の行動を見つめていた。

「えーと…俺で大丈夫っすかね??」

「大丈夫だと思うわ。
 それとも、私がやりましょうか?」

「俺がやりますよ。
 失敗したら絶対悪霊になって風呂覗きに行きますからねっ」

 言い捨てるような口ぶりだが別に美智恵に対して怒ってる訳ではなく、現場に着いた時点で気付かなかった自分に呆れているのだ。

「あら、おばさんの裸なんて見ても楽しくないでしょうに」

 他人に言われるのは駄目で自分で言うのは良いのか、口元に手を当てて笑う美智恵。

「さっき外から見た感じ、二階は一部屋とベランダがある程度の狭さっすよねぇ」

「そうね。まあ廊下があるから見物する分には問題ないんじゃないかしら?」

「じゃあ奥さんはとりあえず放っておいて、二階行きますか」

 式神符を鳥の式に変え、監視の為に残して居間を後にする三人だった。


 ☆ ☆ ☆


「食べる前に飲む!」

「おお! 良い飲みっぷりじゃ! 酔っとるのぅ、大樹君!」

「先生こそ酔ってますなぁ! それグラスじゃなくて茶碗ですよ!」

 何がおかしいのか絶えず笑いながら、ウィスキーを飲みまくる二人。

「なんのなんの! 腹に入れば同じ事じゃ!」

「ごもっとも! おーい、百合子ー酒がおくれー」

 既に接続詞がおかしい大樹。

「百合子嬢は相変わらず可愛いのぉ! ばあさんが若い頃にそっくりじゃ」

 酔っぱらいの相手などしたくもないのだろう、奥に引っ込んでいた百合子が日本酒の瓶と多少のつまみを持って二人の宴会場に足を入れた。

「先生の奥方はどのような方だったんで?」

「ほほう。訊きたいか? アレは新西暦194年の事じゃった…」

「先生が生まれたのは大正3年じゃありませんでしたっけ?」

 疲れた顔で小鳥遊に突っ込みを入れる百合子。

「おお、そうじゃった。太正3年に黒之巣会という悪の秘密結社がじゃな…」

 とりあえず横島家は平和だった。


後書き

長い_| ̄|○ 冗長っていうかなんて言うか…
あんまり長いんで前後編です。
後半はバトルっぽくなる&前半の説明不足(勿論大部分がわざとです)を補う予定です。
ツッコミどころがあったらどんどん突っ込んでくださいませー、未だ未熟な筆者ゆえ。

基本的に作中の陰陽道解釈他は独自解釈です。ツッコミは歓迎しますが筆者自身はこれが100%正しいなんて欠片も考えていない事は明記しておきます。
文献によって、五行配当は全く別だったり微妙に違かったり大変です…


以下個別レスです。皆様ありがとうございます。頑張ります(`・ω・´)


1:yujuさん

 誤解してたんではなく、百合子に誤解させる為に嘘吐いたんじゃないですかね?

 第一義はあの文では「本来の目的」位の意味で使いました。わかり辛かったですかね(´・ω・`)申し訳ないです。

 原作でタマモがおキヌに化けた時、右手を火傷して化けそこねてましたよね?
 あの時のタマモの手はキツネのそれっぽくありつつ人間の手に近い感じでしたが、赤兎の手もあんな感じに兎っぽくありつつも人間の手に近づいてると思ってくれると嬉しいです。

2:1さん

 赤兎フラグはどうなんでしょう?
 兎のままだとしても赤兎はきっと横島の事大好きなのは間違いありませんがヽ(´ー`)ノ
 米神については次の鹿苑寺さんのレスで。
 ご指摘ありがとうございます_| ̄|○

3:鹿苑寺さん

 はい、ご指摘ありがとうございます_| ̄|○知らんかったです<米神が地名
 次からはひらがな表記でこめかみを書きたいと思います。

 こうして比較するとやってる事は偉いかも知れませんが美智恵さんは母親失格ですねぇ…まあ頭良いから、二度目の失敗はしないよう気をつけてひのめの教育を行うでしょうが。

 個人的にはクロサキ君以外にも有用な部下がいそうな気がしてるんですがまたオリキャラになっちゃうしなぁと悩みどころです。
 横島大樹は…身体張る時は張れる男だと信じてますw きっと…

4:冬8さん

 この頃の美智恵さんは人生に疲れてる時期ですしねぃ。
 そもそもあんな男――云い方が悪いのは承知ですが悪意はありません――と結婚したらまともに子供と接するのは難しいって分かり切ってるのに「死んだふり」とか選択しちゃう辺り…こう何か斜め上って感じです。

 そして横島家でGMに勝てる存在はいませんw 嫁さんが強気で仕切ってる方が安泰というものです。横島家はちょっと行き過ぎな面もありますが…いろんな方向にw

 趣味で鍛えてる以上、「良い作品」を作ろうと努力するのは当然ですからね〜
 美智恵さんとは熱の入れようが違ってしまうのは当然です。

 完結まで頑張ります(`・ω・´) 時間はかかりましょうが…(´・ω・`)

5:DOMさん

 令子とつきあえる友人が必要って事かも知れませんが、そもそも原作の設定だと六道冥子と幼なじみでも全然おかしくないんですよね…唐巣も美智恵も六道傘下な訳ですし。
 なのにGS試験の時「初めて声かけられた」ってのは…ねぇ?
 単に冥子のぷっつんを恐れてなのかも知れませんが。

 そして師匠の日常はきっとDOMさんの想像通りなんですよヽ(´ー`)ノ
 時折思い出したように真面目になるのです。格好良さ倍率ドン。

6:アミーゴさん

 女心が分かる横島君なんて横島君じゃないやー。
 そしてママ大好きっ子なのでママとのデートを邪魔した横島君にはいつも以上に攻撃的なのですよ、きっと。

 横島夫妻は過保護とは思えませんねぃ、僕は。
 むしろ、いくら何でも美智恵さんの放任主義っぷりに吃驚ですよ。原作では「死んだふり」する中学生以前の生活に触れられてませんが、僕の感覚では令子は母親がずっと側にいてくれる環境なら不良にはならないんじゃないかなと。→世界を飛び回ってるかどうかは別として留守がちな環境だったと推測してこのSSが出来てる訳ですが。
 まあ母親が死んだのが切っ掛けでぐれたのかも知れませんが、だとしたら落ちるトコまで落ちてそうですしね…父親は絶対側にはいなさそうですし。

 霊能力なんてモン持ってる娘に対して放任主義ってどうなのよって感じで。
 この辺は自身が一流の霊能力者である美智恵さんと、オカルト知識がないが故に慎重にならざるを得ない横島夫妻との「霊能力を持つ子供」に対する態度が違うのは当然なのは分かるんですが。
 …作中で語れよって感じですね…(でも書き直さない)
 今回の話はいかがでしたでしょうか?

7:枯鉄さん

 師匠の現役時代はきっと激しい時代だったと思います。
 第二次世界大戦で死んだ人は山ほどいましたしねぇ…
 正直ここら辺の話はネタの宝庫ではあるのですが、救いがない話になりがちかつ政治的に微妙な事になりそうなんで(´・ω・`)

 今回のお話は楽しんで頂けたでしょうか?

8:SSさん

 いやいや、まだまだ力量不足です。(´・ω・`)精進いたします。
 でもお褒めに預かり光栄ですヽ(´w`)ノ
 頑張って完結させますのでお付き合い下さいませ。

9:engさん

 初めまして。読んで頂きありがとうございます。
 依頼書のトコはない頭捻って考えたので褒められると嬉しいですね〜(・∀・)
 頑張って完結させますのでお付き合いくださいませ。

10:内海一弘さん

 美智恵が何企んでるかは今回のお話で。
 依頼書のトコが褒められて嬉しいです(・∀・)
 前世の記憶が無駄にあると引き摺られる可能性がありますからね…きっと師匠はそこら辺のトコも考えてる筈です。そしてこういう事は本編で語れ(でも書き直さない)

 そして美智恵さんももう少し年が上行けば諦められ…るんじゃないのかな?(・∀・;ゞ
 30代前半は微妙なお年頃です(´ー`)┌

 今回の除霊シーン、いかがでしたでしょうか? 半分ですが_| ̄|○
 上手く纏められず申し訳ありません…

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