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「言尽くしてよ 永く想わば 第三話(GS)」

金平糖 (2007-03-28 19:16)
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「で、忠夫。毎晩中学生の女の子とデートしてるってのはどういう事なのかしら?」

――こっちが訊きたいです、まいまざー。


言尽くしてよ 長く想わば 第三話


 夜も深まった23時。
 明日も中学校があるというのに横島家は全員居間に集合していた。
 緊急家族会議第七十七回、議題は中学生の夜間デートについて。

 泣きたくなってきた。
 そう思わないでもないが、ここで泣いても自体は何も変わらない事を横島はよく理解している。
 瘴気すら背負っているような錯覚を受けながら、それでも勇を奮い威武に屈せず声を出す。

「美神さんのお母さんからなんて聞いたかは知らんけど。
 とりあえず毎晩美神さん――同い年の女子中学生と逢ってるのは本当や」

 膝の上の赤兎がぎゅっと手を両手で挟んでくれる――大丈夫だと言ってくれるみたいに。

「ふん…どういう経緯で知り合った子かしら?」

 その言葉には嘘はなさそうだ。
 長年の母として、親としての観察眼に加えて、伝説のOLとしての経験がそれを裏打ちする。
 隣で父親――大樹が何か言いたそうに顔を変えたが、黙らす為にテーブルの下の足を踏み抜く。
 一気に青ざめたようだか問題はない。

「聞いてないんか?」

 どうも近親者――というか大阪在住時代からの付き合いがある人間に対しては大阪弁っぽく言葉が変化する癖がある横島。

「ええ。聞いてないわよ。毎晩忠夫と自分のトコの娘が一緒に出歩いてるみたいだけどどういう事なのか分からないかって訊かれただけですもの」

 その場では分からないので忠夫に訊いてみる、と返事をしてそれで話は終わったのだが。

「出歩いてはいないって。
 毎晩俺が神社の境内の公園で独り稽古してるんは知っとるよな?」

 これは事実だ。最初のうちこそホントに修行なのか、夜遊びじゃないのかと確認の為に自分で確かめに行ったり、料理からハッキングまでそつなくこなす夫の部下に監視を頼んだりして確認したものだ。
 結果は息子にしては珍しく真面目に――時折妙ににやけた顔をする以外は――身体を動かしていたみたいなので、最近は見に行く事も監視をつける事もなかったのだ。

「で、三ヶ月前位の学校帰りに、悪霊に襲われてる女の子を助けたんよ。
 まー、それこそGS見習い以前の俺ですら祓える程の低級霊だったんだけどな。
 で、霊能力者について興味があったらしくて、おやつ奢ってもらいながら霊能力について話が咲いて」

 実際は話が咲いたという程穏やかな雰囲気ではなかったのだがそんなことは割愛。
 気の強い女性に弱い――単に若干マザコン気味なだけだが――横島が押し切られる形で何事も話が進んだのだ。

「んでまー、毎晩そこの神社の境内の公園で独り稽古してるって教えたんよ。
 したら毎晩顔出すようになって。さすがに雨の日は修行してても来んかったけど」

「ふむ。ではお前はその――美神さんだったか。そのお嬢さんとはそれだけの関係でデートの一つもしたこともなければ間違いの一つも起こしてないというのだな」

「ま、間違いってなんじゃ! いくら何でもンな親父みたいな事するかっ! したくないとは言わないがっ!!」

 がんがんっ!

 白い牙も真っ青な勢いの高速二連打で夫と息子を黙らせる百合子。

「…経緯はわかったわ。嘘も吐いてないようだし…」

 そもそも息子に毎晩遊び歩く甲斐性もお金もない事くらい分かり切ってる筈なのにこの科白。
 横島百合子はやはり並大抵の壁ではないらしい。

「…嘘なんぞ吐くかい」

――すぐバレるしな。泣けてくるが。

 テーブルに突っ伏した身体を起こしながら、ぼやく。本当に泣けてきそうだった。

「とはいえ! 毎晩女の子とそんな場所で会うなんて、親御さんが心配するのも当然でしょう!」

「そうだぞ忠夫! 忠夫の癖にそんな羨ましい目に会ったらどうしようと父さん心配じゃぶげらっ!?」

 大樹が余計な口だししたので黙らされた。どうでも良いが。

「そ、そうかも知らんが」

 いくら言っても来るのを止めようとしなかったのは――勿論、本気で止めた事は一度もない――美神さんなのに何故怒られてるのは自分なんだろう、と思わなくもないが、しかし百合子の言ってる事は正論そのものなので横島には反論は出来ない。

「大体、そういう事をなんで言わないの!」

「いや、助けられたってーならともかく、助けたなんてえらそうに言う事でもないし…大して強くもない雑魚だったし……」

 強大な圧力に言葉尻が萎んでいく。
 これで師匠にはちゃんと伝えておいたって事がバレたら説教がどれだけ延びるやら。
 GSに関わる事だから師匠には伝えて、「助けた」なんて偉そうに話す程の事でもないから両親には話さなかった、ただそれだけなのだが。
 命に関わるので急いで話を逸らす。

「その親御さん――じゃない、美神さんのお母さんに一度会って話がしたいって言われたんよ、今日、ついさっき、お師さんちの電話で」

 何故師匠の家なのか、との問いには美神家はGSの家系なのだと説明したら納得はしてくれた。

「…まあ当然よね。自分の娘に変な虫がついたら敵わないもの」

「じ、自分の息子を変な虫扱い…」

 いつもながらとはいえ、非道い扱いもあったもんだ。
 しかしそこは横島。あっという間に精神を立ち直らせる。

「今度会う約束したから。
 ちゃんと説明して納得してもらうよ」

「そうしなさい。
 ったく…変なトコだけ父さんに似るんだから…」

 大樹に似たんではなく前世が前世だから、と言えなくもないが、実際この父親と息子はそっくりなので何とも言えない。
 横島は額の汗を拭うと膝の上で応援し続けてくれた赤兎の頭を、身体を撫でてあげた。
 くすぐったそうに目を細める赤兎。

「そーいや赤兎って半分妖怪化してるんだって」

「それがどうかしたの?」

 意味が分かってるのか分かってないのか、テーブルの上を片付けながら本気できょとんとした顔を横島に向ける百合子。

「…いや別に」

「なら構わん。空を飛ぼうが火を吐こうが赤兎は赤兎だろう」

 さすがに火を吐くようになったら対処を考えねばな、と豪快に笑い飛ばす大樹。
 いつの間にか冷蔵庫から取り出したのか、片手にビールを持ってテレビのスイッチを入れていた。

「どういう家族だ…」

 お前の家族だ、という天の声を無視して赤兎を頭に乗せ、一言。

「寝るわ。おやすみ」

「おう、遅刻するなよ」

「おやすみ」


 ☆ ☆ ☆


「しっかし…よく分からんな」

 最近はめっきり頭の上が定位置になった赤兎に人参を食べさせながら、ぼやく。
 学校帰りだろう、制服姿のままぶらぶらと街を歩いていた。

 あれから一週間が経った。今日は約束の美神令子の母親――美神美智恵と会う日だ。
 師匠にも――隠すと後が怖いので両親にもそれは伝えてある。
 よってよほど非常識な時間でない限り遅く帰っても文句は言われないだろうが…

――なんで俺を除霊に連れてかなーあかんねん?

 それを師匠に言ったら「美神の嬢ちゃんは一流だからな。勉強してこい」とあっさり承認されたし。
 勉強してこいってあんた、まだ14歳のガキなんですけどこっちは。等という反論は通じない。
 既に除霊の現場に何度か連れて行かれてるし、小鳥遊の手を借りず――勿論、現場には小鳥遊も一緒にいた――独りで除霊した事もあるから、全くもって意味のない反論ではある。

 ちなみに一流GSが受けているような高額な依頼ではなく、簡単、お手軽かつ安めな――勿論それでも時給換算するとそこいらのバイトなんて雀の涙ほどではあるが――依頼を、修行と小遣い稼ぎを兼ねてやっているのだ。
 稼いだ金の半分以上は「今後の学費」という名目で母親に接収されているが、それでも普通の中学生が持つ小遣いよりはよほど持っているのが現在の横島だった。

 小鳥遊は平行世界の誰かさんのようにせこくもケチでもないので、実質的に横島が独りで片付けた仕事の報酬に関して、取り上げるような真似はしない。
 それもあって安い依頼しかさせられない、というのもある。まだ中学生の横島にそれほど大金を与えてろくな事にはならない、というのは分別ある大人の考えだろう。

 ちなみに余り金銭欲もない上に成人指定系のアイテムは師匠が与えてくれるので、大半は貯金に回り、残りが漫画や買い食いなど、所謂「使途不明金」に化けている。
 貯金は大人になったらいけない事に使おうと考えている横島だった。

「ま、なるようにしかならんよな、赤兎」

 頭の上の赤兎に声を掛けて、待ち合わせ場所の喫茶店へ足を入れた。
 ちなみにペットお断りだが、美智恵がGS免許を見せた後に式神だと言い張ったら通じた。
 影に仕舞う事も出来ない式神などそうは存在しないのだが、世の中そんな事を知ってる人の方が少ないのだという好例だった。


「で、改めて自己紹介するわね。私は美神美智恵。娘が随分迷惑かけたみたいね?」

「横島忠夫っす。別に迷惑なんて思ってませんよ? 修行の邪魔された事もないですし」

 普通の喫茶店だ。間違ってもメイドとか大正浪漫とかは関係ない。
 向かい合って坐った二人はとりあえず自己紹介を済ませ、美智恵はアイスコーヒーとショートケーキを、学校帰りで腹が減っていた横島は烏龍茶とスパゲティを、ついでに赤兎の為に野菜サラダ(ドレッシング一切なし)を頼んだ。
 赤兎を頭の上から降ろしテーブルの上に置くと、喉が渇いたのか両手でコップを挟んで水を飲み始めた。

「…随分……」

 さて、なんと表現したら良いのか。
 さすがの美智恵もこの兎を適切に表現する言葉が咄嗟には出なかった。

「…随分、器用なのね、この子」

「なんか半分妖怪化してるらしいんすけどね、お師さんの話じゃ」

「へぇ…長い間霊力に晒された存在は妖怪化しやすいのは確かだけど…」

 ここまで悪意のない存在に昇華するのもまた珍しいと言わざるを得ない。
 これは妖怪化したモノに悪気がなくても人間側に受け入れる気がないと、どうしても妖怪は悪事を働かざるを得ない。
 或いは悪意がなくても本能からの行動の結果が人間に取っての迷惑に価する事も多い。
 また、悪事を働いていようといまいと、妖怪を懐広く受け入れろというのも、基本的には無理がある。
 基本的に人間にとっては妖怪や魔物と言ったモノは天敵でしかないのだ。
 少なくとも戦えるだけの力がない人間にとっては。

「まあ良いわ。で、うちの令子とどういう関係かしら?」

 またこの質問か。
 いい加減うんざりだが、かといって説明を拒否する気はない。
 そもそも疚しい事は何もないのだ。

 疚しい事を妄想しなかったとは言わないが。


「なるほどね…」

 一週間前に両親に答えた内容とほぼ同じ事を繰返す。

「ふむ。令子の話と大差ないわね……まああの子が男の子とどうにかなるなんて、そうそうあり得ない話だとは思ったけど…」

 ならなんで呼び出し受けてるんだろーか。
 首を傾げると、美智恵がそれに気付いたのか、小さく笑った。

「あの子、友達いないでしょ? 悪い子じゃないんだけど、どうしても打ち解けないって言うか……今はあの子の駄目な面だけが前に出すぎてるのよね」

 だがその理由の大半は親のせいだろう。
 父親はいるのだかいないのだか、それすら美神は伝えられていない。
 母親は常に世界を飛び回っていて長くても一ヶ月が長期滞在。
 異能のせいで理解し合える友人がいない。
 それでいて自由になる金が一般家庭の子より遙かにある。
 これで不良にならない思春期の子供がいたら尊敬に値しよう。

「で、初めてなのよね、あの子が執着見せる程度には親しくなれた子って」

「はあ…」

「で、君は令子の事どう思ってるのかしら?」

「ど、どうって言われても…」

 挑発的かつ魅力的な瞳で問われる。
 この年頃の子供相手に駆け引きは無用、と考えた美智恵の判断は正しかったらしい。

「どうって言われても…そうっすねぇ…勿体ない、かな」

 視線だけで疑問を問うと、苦笑しながら言葉を紡ぎ、サラダに夢中になっている赤兎の頭に手を乗せた。

「だって。どう考えても才能あるじゃないっすか。
 どういう理由か知らないけど、勿体ないなぁって思います」

 霊能に興味はあるのだろう。毎日修行を見に来るのだってそれだろうから。
 さすがに自分に会うのが第一義と自惚れる程馬鹿ではない、と横島本人は思ってる。
 母親の事も尊敬している事は言葉の端々から察せられた。それほど自分の事を話す少女でもなかったが。
 霊能力者に――GSになる気はある、と思うのだが努力しようって気が見られない。
 それが横島の見る美神令子という少女、その一側面だった。

「…霊能以外では何とも思ってないのかしら?」

 強い視線に晒される。
 この強さは、種類は違えど自分の母親並だ、などと場違いな事を考えて逃避しかけた思考を無理矢理戻す。

(どう思うも何も、美少女。掛け値なしに、誰が見ても美少女やな。
 気も強い。意地っ張りというのとは少し違う気はするが。
 少々自虐的な面もある。というより自分が嫌いなんだろうか。
 かまってあげないと拗ねる子供っぽい面もあるし…うーむ。
 将来有望なナイスばでー。いやこれを口に出したら殴られそうだが」

「出てるわよ、口に」

 珈琲に口をつけながら、冷たい声音が響く。

 後頭部にでかい汗を張り付かせる横島。

「…またやってもぉぉぉたぁぁぁぁ!!?? すんませーん!!!」

 米つきバッタの如くぺこぺこ謝る。
 そして、視線で問いに対する答えを要求され、少し黙考した後、呟く。

「あー…現在気になる女の子って事で勘弁してください」

 頬を染め、ぽりぽりと掻いて視線を逸らす。
 その答えに満足したのかどうか、微笑みながら珈琲カップをテーブルに置いた。
 実際、微笑ましいと言える返事ではあるし、独り言のように口に出た思った事も、そう的外れではない。

「ま、令子の事は置いておいて。
 今日手伝ってもらう仕事なんだけど、これが依頼書ね」

 テーブルの上に出された封筒に視線を落とすと、赤兎が封を切って中身を出し始めた。

「そうそう、小鳥遊先生には貴方を借り受ける許可は取ってあるから安心してね」

「うちのお師さん知ってるんですか?」

 封筒の中身を取り出す赤兎の頭を撫でてやり、依頼書を受け取る横島。

「…知ってるも何も…もしかして横島君、小鳥遊先生の事何も知らないの?」

「えーと、アフォでスケベで無駄に元気なくそジジイって事は知ってます」

「………どうやって小鳥遊先生と知り合ったのかしら?」

「えーと、前世の記憶と霊能力が目覚めて、色々弊害が出て洒落じゃ済まなくなった頃、うちの両親にお師さんの家に連れられて、「今日から霊能力の指導してくれる先生だ」って紹介されたんすよ」

「……小鳥遊先生はね、先代のGS協会幹事長だった方で、第二次世界大戦後の日本オカルト業界で六道家と共に現在のGS協会の基礎を築き上げた方よ…今は表舞台からは一切手を引いて隠居暮らししていらっしゃるって話だったんだけど」

 まさか自分が師事している相手の素性を知らないとは思わなかったのだろう、多分に呆れた視線で依頼書を読んでいる横島を見遣る。

「どうして小鳥遊先生に師事しようと思ったのかしら?」

「うちの両親は規格外ですからね、色々と。「ただの人」や「実力だけある人間」に自分の息子任せるような人たちじゃないんで。
 まあ一日師事しただけで手応えありましたしね。
 別にGS協会のお偉いさんだから師事した訳じゃないっすから。
 今の今まで知らなかったし、ンな事」

 そう、初っぱなからちらつかされた成人指定映画のチケットに煩悩やる気を出し霊視の基礎をやらされたのだが、一週間ほどで無意識に霊を視てしまう状態を自分で解除出来るようになった。
 ついでに自分で霊視モードと通常モードの切り替えが出来るようになったのが更に一ヶ月後だ。
 これには霊視して初めて読める成人指定読本が多いに役に立ったと記しておく。

 類は友を呼ぶ、ではなかろうが、魂が共鳴したのであろう、年齢を超えた同好の士としてお互いが認め合った結果だ。
 修行の後、AVを鑑賞して何処がどうだったのと品評会を開くのもまた一興。

「…どうかしたかしら?」

 依頼書から視線を外さず会話していた筈の横島が、急に表情をにへらっと崩したのが気に掛かったのだろう。

「いえ、何でもないっす。…これ、ホントにおばさんが受けた依頼っすか?」

 瞬間、世界が凍る――

「…あ、あ……美神さんのお母さん、の事は…なんてお呼びすれ、ば…?」

「…そうね、美智恵♪ って呼んで♪」

 そして世界が動き出す。
 自分の背中が総毛立ち、冷たい汗をぬぐえずにいたが、それでも耳を伏せ震えている赤兎の背を撫でてやる、安心させるために。
 どちらかと言えば安心したいのは横島自身であったが。

「…で、で、すね。み…美智恵さん、美智恵さんってS級GSじゃないっすか。
 いくら何でもこれは美智恵さんが受ける依頼じゃないと思うんすけど…」

 震える声で尋ねる。
 額面通りに依頼書の内容を受け取るなら、見習いGSが受ける依頼と判断せざるを得ない内容だった。
 如何に何でもS級GSである美神美智恵が受ける依頼とはとても思えない、という横島の判断は間違いではない。
 実際、S級にこんな依頼までやられてしまうようになれば、GS市場が混乱する事請け合いだろう。
 これが除霊内容に即した報酬を払えない依頼人から、というならまだしも、今回の依頼人は不動産会社だ。バブル全盛のこの頃(*1)、不動産業者が持ってる金を考えれば依頼料を支払えないという自体は考えにくい。

 ぶっちゃけて言えば報酬は30万円。
 そういえばこの依頼が美智恵が行うLvではないという事は明確に伝わると思われる。

「へぇ…ちゃんとそういう事も勉強してるのね。えらいわ」

「お師さんが持ってくる依頼は必ず嘘がどっかにありますからね…依頼書は気をつけて読むようにしてます」

「必ず?」

「うい。お師さんが俺にやらす仕事は基本的には見習い以前でも出来る依頼なんすけど…
 依頼を受けた後、お師さんが自分で――か人使ってかは知りませんが――調べて、依頼書に嘘がない事を確認して来るんすよ。
 で、その後、「お師さんが嘘を交えて作った依頼書」が俺に渡される訳っす。
 まあ依頼書に対する姿勢を勉強させる為だって言ってましたけど」

「なるほど…」

 確かにその方法なら、弟子が依頼書を適当に読み流す事もなくなるだろうし、騙される事も極端に減らせるだろう。
 自分で実地に調べた結果に対して嘘を吐く訳だから、逆に言えば依頼人が嘘吐いていた場合は即座に判明する。
 その場合は嘘があった事を理由に破棄してしまうなり報酬の上乗せを要求するなり対応はいくらでも取れる。
 自分の弟子で除霊可能かどうかを見極める意味でも有効な方法と言える、手間はかかるが。

「どれくらいの頻度で実際の除霊の仕事をしてるのかしら?」

「一ヶ月にいっぺん位っすね。今は修行の時期だから、場慣れ出来れば良いんであって除霊自体を上手くなる必要はないって、お師さんは言ってました」

「……流石は小鳥遊先生、と言ったトコかしら…」

 自身の娘に殆ど修行をつけてやれない自分の不甲斐なさを思うと泣けてくるが、これは前提条件が違い過ぎる為仕方がないとも言える。

 世界を股に掛けて奔走し、オカルトGメン日本支部設立の為に日夜色々なモノと闘っている美智恵と、悠々自適の隠居生活のアクセントとして孫を鍛える感覚で横島に修行をつけている小鳥遊とではその密度も熱意も違って当然だ。
 基本的に小鳥遊は暇人なのだ。暇人の方が「趣味」にかける時間が多いのは理の当然だろう。

「…で、手伝ってもらえるかしら?」

「それは構いませんけど…?」

 そういえば先ほどの質問には結局答えてもらっていない。
 それを思い出して、視線で問う。

「実を言うと、横島君がどの位の実力か、見てみたいだけなのよね。
 だから報酬は必要経費以外は全額、君にあげるわ。
 ああ、一応下見はしておいたから、その依頼書には嘘はないわよ?」

「なら問題ないっす。お師さんにも言われて来た事だし。
 よろしくお願いします」

 持ち前の明るさを前面に出した声で、はっきりと礼を言い頭を下げる。
 テーブルの上で同じように頭を下げる赤兎だった。


 ☆ ☆ ☆


「……なんで美神さんがいるんすか?」

 さて、夜。夕日も落ちきった午後7時。
 東京郊外の駅、その改札前に三人と一匹は立っていた。

「やーねぇ、横島君、私も美神さんなんだけど?」

「…ママ、これはいったいどういう事?」

 楽しくて仕方がなさそうな美智恵と、不機嫌極まりない令子、そして困惑するやら怖いやらで如何ともし難い横島、そして横島の頭の上で太平楽を決め込んでいる赤兎。

「まあ、とりあえず現場に向かいましょうか」

 楽しそうに呟き、足を駐車場に向ける美智恵。
 不機嫌そうにその後ろをついて行く令子に、申し訳なさそうにその横を歩く横島。
 横島の腰や腕には札が納められているだろうポーチが、そして背にはそれなりに大きいバックが背負られている。
 美神親子はそういうモノは一切持っていないが、駐車場に駐めた車に積んであるのだろう。

「…どういう事?」

 ジト目で横島を睨む。
 令子にしてみれば折角久しぶりの母親と二人きりの除霊だったのだ。
 それを邪魔した罪は月より重い。

「どーいう事も何も…美智恵さんから除霊を手伝ってくれって言われて…聞いてないんすか?」

「聞いてないわよ! って言うかなんでママの事名前で呼んでるわけ!?」

「…おばさんって呼んだら――ひぃ!!?」

 ぎろっなどと擬音は付かない。
 むしろ、ニコっという擬音が付きそうな程にこやかに――冷たい笑顔で、立ち止まり振り返る美智恵。

「何か言ったかしら?」

 青ざめた表情で首振り人形よろしく顔を右に左に振り回す二人。
 そう、と呟き艶然と微笑むと、前を向いてまた歩き始める。

「…というわけです、はい」

 震えの為に頭からずり落ちた赤兎を抱っこしてやりながら、敗残者の科白。

「…よく分かったわ…」

 少し頭が痛そうに米神を抑える令子。
 友達付き合いは殆どない令子ではあるが、同級生の母親はどれほど若くても「おばさん」と呼ぶのが当たり前な事くらいはよく分かる。
 実の娘としては若くて綺麗な母親は自慢なのだ、おばさんと言われたくない気持ちは分からないでもないが、ここまで過敏にならなくても良いのではないかと思う。
 怖くて口にはとても出せないが。

「で、ママは名前で呼ぶのにあたしは美神さんな訳ね」

 打って変わって憮然とした顔を浮かべる。

「は?」

 きょとんとした顔。
 これはこれで年相応の可愛い表情と言えなくもないのだが、明らかに令子が怒ってる原因について理解していないと断言しているようなものだ。
 抱っこされて横島のお腹の辺りにいた赤兎が立ち上がる。

「ん? どうし――たぐはっ!?」

 どむっ
 赤兎の拳が鳩尾を正確に叩いた。
 言うまでもなく急所の一つであり、かなり弱い力で叩かれてもそれなりに痛い上に横隔膜が叩かれる為、呼吸に不備が出る。
 勿論兎の力で叩いた程度では本来、人間がどうにかなる事はないのだろうが、最近の赤兎はやたらとパワフルだった。
 横島の関西人の血が感染ったのかも知れない。

 咳き込み腹を抱える横島の手から逃れて令子の胸に飛び込む。

「よしよし」

 いい気味だ、と言わんばかりに微笑み、抱きついてきた赤兎の頭を撫でてやる。

「せ、赤兎…な、何故…」

 苦しみながらも微妙に余裕のある横島。

「駄目ねぇ、もう少し女の子の気持ちが分からないと」

 口元に手を当てて笑う美智恵。

「何か気に障る事をしましたでしょーか?」

 その言葉に令子のボディブローが決まり。
 赤兎がやれやれと首を振って。

 美智恵は笑いながら足を止め、車のキーを差し込んだ。


後書き

 しまった…_| ̄|○
 公彦と令子は小学生の時に会ってたんか…<ワイド版19巻(GS美神'78)参照

 ……このSSの中では「14歳の現在、一度も会った事ない」という事で通させて頂きます…

 これもワイド版18、19巻だけ器用に紛失したせいか…_| ̄|○
 今回、買い直したんですけどね…。・゜・(ノД`)・゜・。

閑話休題

結構多いですね、再構成or逆行モノで完結前に連載が終わって(投稿がとぎれて?)しまった作品…(´・ω・`)続きが読みたいのに読めないのは悲しい事ですね。
ゆっくりでも必ず完結しようと思います。
先は果てしなく長いですが…なんせまだ原作の時間帯にすら届いていない(ノー`)
この感じだと第一部は20話は確実にかかります。長くなりますがお付き合いお願いしますね(・ω・)ノ

*1 平成5年度のGS試験に原作の横島が受験、当時高2年とすると17歳。
  で、美神令子が21歳とすると、このSSは美神令子が14歳に時間軸が設定されている為、原作から数えて7年前とする。
  であればバブル時期最盛期だと思われます。バブルが終わったのは平成入った直後辺りと記憶してるので。


以下、個別レスです。毎度励みになる感想、ありがとうございます。

1:枯鉄さん
分量は毎回悩みますね…皆さん今の量が良い感じみたいなので一安心ですがヽ(´ー`)ノ
展開スピードは今回の話で少しアップですねー。次ももう少し時間が加速してるといいなと思います(・∀・;ゞ

2:アミーゴさん
 高島の人生を何回もビデオ放映のように毎晩見まくってますからねぇ。人生経験という意味では普通の14歳ではあり得ないですね。原作よりきっとモテてるに違いないっす、学校では。そしてそれに気付かない、と…(ノー`)

赤兎は横島君のペットなのです。それが答えです。

3:SSさん
これからも穏やかに、時として激しく読み応えのあるモノを頑張って書いて行きたいと思いますヽ(´ー`)ノ
しっかし令子さんが目立てませんね…まだ不良娘してるから仕方ないんですけど。

4:冬8さん
初めまして。
 そうですねぇ、前世の記憶を持ちながらこつこつ地道に修行していくってのは確かに珍しいかも知れません。
 どうも横島君は「修行嫌い」というイメージが先行してるみたいですが、修行が嫌いなのではなく、「自分に必要ではない行為」が嫌いなんだと僕は考えてます。
 ルシオラの為に「美神さんが怪我して現場に来られなくなる程の修行であるシミュレータ」に自分から志願するのは単なる煩悩だけでは出来ないと思うのですよ。

 赤兎と師匠が、オリキャラが受け入れられると嬉しいものですね。これからもよろしくお願いします。
 最終的には美神と横島で砂吐く程甘く……なるのか? まあ、とりあえず違った育ち方したらどうなるか、お楽しみ下さいw

5:川川さん
 初めまして。遅いながらも頑張って書き続けますのでよろしくお願いします。
 設定に不備などあったら教えてくださいませ〜しっかりしたモノを書きたいと思いますのでヽ(´ー`)ノ

6:yujuさん
>赤兎の手について
 基本的には真っ白なピーターラ○ットでオッケーですよ。少なくとも僕はそういうイメージで書いてます。
 頭を撫でる、と言ってもあくまで赤兎主観であって、美神から見れば動物の手がこすりつけられた、って感じでしょうか? ここら辺、描写が甘かったかもですかね。申し訳ありません。
 ギャグモードになるときっとバックスバ○ニーになる……とか?(・∀・;ゞ

 師匠は実はこんな感じでした。
 そして危惧通りグレートマザーは誤解してました。
 多分フリでしょうけど( ´ー`)y-~~

7:DOMさん
 それが世界の選択、と言わんばかりに真面目モードの横島の魅力は無敵ですからね…敵ですら陥落してしまう程w

 霊能力者としては二流、というのは基本設定ですからね…しかし凄い人物であるのは間違いないですヽ(´ー`)ノ
 今回はその片鱗が見られましたがいかがでしたでしょうか?

8:wataさん
 らしくいかないと書いてる意味がないですから。そう言ってもらえると嬉しいです。
 今回はいかがでしたでしょうか?
 GMは理不尽に見える時はあっても基本的には正論で相手の弱みを突くのが基本戦術だと認識してますので、間違いがなければそこまで怖がる事はないかとー。

9:狐日光さん
 色々お褒め頂きありがとうございますヽ(´ー`)ノかなり嬉しいですw
 やはり皆さん赤兎の獣人化に期待しているんでしょうかw まだ未定なんですけどね〜
 応援ありがとうございます、これからも頑張ります。

10:ぞらさん
 ありがとうございますヽ(´ー`)ノ

 その通りですねーそして金や虚栄よりもっと孤独を埋めてくれるモノをそのうち見つけ出すのです。

 横島が真面目なのは……なんでだろう?(ぉぃ
 原作とは随分違ってくると思いますがお見捨て無きようお願いします。

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