言尽くしてよ 永く想わば 第二話
どうしたのか、などとは訊かない。
訊いて簡単に答えられる事なら、そもそも尋ねなくても勝手に話すだろう。
まだ数ヶ月の付き合いだが、少なくともそれ位は分かる程には美神令子という少女の事は理解している――つもりだ、横島という少年は。
だから、
「せいっ!」
いつも通り振る舞う事だ、今の横島に出来る事は。
美神令子は見るともなく見ていた、いつも通り振る舞う横島を。
いつもより遙かに早い時間に来た事を尋ねもしない。
そのくせこちらが尋ねれば「今日はお師さんの修行が早めに終わったから」と何でもない風に答えた。
そして自分のペットの兎――赤兎というらしい――を押しつけて、流とやらを繰り返している。
嘘つけ、と言いたい。
先ほどの鳩は式紙とやらで、霊能力で動くラジコンのようなもので、鳩の目を通して 早めに美神が来ていた事を見たという。
この時点で横島が嘘――或いは気を遣っているのが分かる。
彼は自分が泣いてるのを見て急いで来たのだ、恐らく師匠に修行の早退きを願ってまで。
時折吹く風が冷たく、つい手がGジャンを寄せてしまう。
赤兎は今、ベンチに腰掛けた美神の太ももの上でちょこなんと座って横島を見ていた。
足の上の赤兎が、そして手の中の横島が買ってきてくれた缶コーヒーが暖かい。
腕時計を見ると、19:30を指している。
街頭の下、横島はただひたすら流を続けていた。
唐突に、くるりと赤兎が美神の方を向く。
長い耳がぴくぴくと動いて、ぴょんっと右肩に乗ると――
手を伸ばして、頭を撫でてくれた。
不意に涙が溢れた。それはどういう意味の涙だったのか、今は美神本人も分からないとしても、涙はそうそう簡単には止まりそうになかった。
ただ、頭を撫でてもらっただけなのに。
思わず赤兎を肩から引きずり降ろして強く抱きしめる。
「美神さん、そんなに抱きしめたら赤兎が圧死しちゃいますよー、ただでさえ平均以上なんだから」
何処がなどと突っ込んでは行けない。ならそんな事言うなと言いたいところだがそこは横島忠夫なのだ、仕方がない。
顔を上げると、いつの間にか目の前に来ていた横島が、すっと赤兎を取り上げて自分の頭の上に乗せた。赤兎は見事にフィットすると言わんばかりにぴったりと横島の頭に収まり、美神は隣に座った横島の胸に強制的に顔を埋めさせられた、横島の手によって。
「っにすんのよっ!」
語気は荒いが、力はなかった。殆ど抵抗なく顔を埋めたまま、涙は流れ続けた。
「女の子が泣いてるの見て何もしない奴ぁ死んだ方が良いと思うんすけど?
辛い事があるなら泣いた方が良いのは科学的に証明された真理っす」
辛い事など。
「あんたなんかにあたしの何が分かるってのよ!?」
辛い事しかない。少なくともここ数年は、辛い事が右肩上がりに増えていた。
大好きな母親の期待に応える事も出来ず良い子でいる事すら出来ず。
異能の力のせいで友人など出来ようもなく、母から受け継いだ誇るべき力すら疎む日々。
針の筵よりなお非道い生殺しのような日々。
しかもそれら全てが自分に起因する現実。
誰がこんな自分の苦悩を分かると言うのか。
それをこの男は、
「なーんも分からんっすよ? 美神さんの事なんて。気の強い美少女って事以外は。
だからって目の前で泣いてる女を放っておくなんて出来ませんって」
何て事でもないと言わんばかりの口調。
だがその実、その声にはこちらを気遣う思いやりが心底籠もっていた。
「大体、ンな事いうなら美神さんは俺の事どれだけ分かってるっんすか」
「馬鹿でスケベな中坊…」
横島の肩まで降りてきた赤兎が、再び美神の頭を撫で始める。
「違いないっすけどねぇ」
苦笑。
「それでも俺は男だから」
そう、男は誰かを、何かを護らないといけない。
理屈ではないのだ。
強いとか弱いとかではなく。
ただ、護る為に男はいるのだと。
それは未だ14歳の少年に過ぎぬ、しかし前世の記憶を追体験し続け、普通ではあり得ない知識と経験を得た横島の譲れない信念だった。
であれば。
喩え誰であれ目の前で泣いている女の子を――ましてや最近気になる女性No1の美神令子が泣いているのを、どうして見て見ぬふりなど出来ようか。
「放っておけないっす。
まあ、犬にでも噛まれたと想って、泣いてください」
そう呟いて、美神の後頭部に手を当てて、少し自分の胸に押しつける。
「…この馬鹿」
「うい」
「………馬鹿」
後は無言だった。すすり泣く声だけが春とも冬ともつかぬ季節の夜に響く。
(しっかし良い匂いやなぁ~。シャンプーか?香水か?
いやいやそんな事は今はどうでも良くないけどどうでも良いとして。
やはりここはなんで泣いたのか訊いた方が良いのか?
いやいやいやいや訊いたって絶対答えなんて出せんぞ俺は。
しかし気が強すぎる位強い美神さんが泣いてるような事をみすみす見過ごすのはあんまりつれなさすぎるじゃなかろうか」
横島の悪癖がまた出た。
どうもこの男は本気で考え込むとそれが口に出てしまうらしい。わざとだったら身を捨てた計算高さと言わねばならないような気もするが、それはないだろう。
単に間が抜けてるだけだ。
それにしても「気の強すぎる位強い」とはどういう事か。
直前まで動いていた横島の身体は暖かく、美神の涙がそのシャツを濡らしている。
涙で描かれた絵が視界に入ると少しずつ頭が冷えて行くような感覚に――
「っくしゅ」
小さく嚔。なんて事はない、冷えたのは身体だった。
「あ…寒いっすよね。こんな吹きさらしじゃ。ちと暖かいモノ落として来ます」
ポケットからハンカチを取り出し――多少くしゃくしゃなのはご愛敬だ――肩の赤兎と一緒に押しつけ、自販まで走り出す。
いつの間にか手からこぼれ落ちてしまっていた缶コーヒーは、地面に転がっていた。
それを拾ってベンチに置くと、腿の上に座っていた赤兎が立ち上がり、美神の手にある横島のハンカチを持って目元を拭ってくれた。
「…嬉しいし可愛いとも思うんだけど…あんたホントに兎?」
何をおっしゃるうさぎさん、ではなかろうが、心外だと言わんばかりに仰け反って驚いて見せる。この辺りのオーバーアクションは絶対に横島の影響だろう。
今度は鼻にハンカチを当てて来た。鼻をかめという事か。
気が利くのは良いのだが……
「…ありがと」
――所詮あいつのハンカチだ、問題ない。
心の声が聞こえたのかどうか、赤兎が手を組んで顎を乗せていた。
☆ ☆ ☆
がこん
「ちょっといいかしら?」
缶コーヒーとホットレモンティーを落とすと、声を掛けられた。
年は30代か。トレンチコートに身を包み、自動販売機の灯りに煌々と照らされたその女性は掛け値なしに美人だった。
――うおっめちゃくちゃ美人!!
美人を見て横島が飛びこまなかったのは奇跡のようだが、手の中の缶の熱さで美神が待っている事を思い出したからだ。
如何に何でも泣いてる女性を放ってナンパなんぞしてたら前世の高島の事をどうこう言えなくなる。
その程度の自制で終わるなら、普段を見ている他人から見れば大差ないだろうというツッコミが入るだろうが、悲しいかな横島は自分を客観視する視点に著しく欠けていた。
とはいえ珍しく――というか14歳までの人生で恐らく初めて女性から声かけられた横島としては、ドギマギしながら女性を見つめてしまい、声をかけられたというのに返事する事さえ忘れてしまっていた。
そして漸く気付く。よく見れば先ほどまで横島の胸で泣いていた美神令子そっくりの顔立ちと雰囲気を持っていた。
霊波動そのものも美神とほぼ同じ感じを受けるので、まず間違いなく身内だろう。
――美神さんの一族は美形揃いなんだろーか?
彼女は百面相をしている横島に幾分警戒心を惹起されたのか、表情を少し険しくてして、
「どうかしたかしら?」
「あ、いえ。何でもないっす。美神さんのお姉さん」
「あら、ありがと。でも私は令子の母親よ?」
少し年かさの美神さん、という雰囲気そのものだったのでついお姉さんという呼び方になったのだが、母親だったとは…
(14歳の子の母親という事は常識的な範囲でなら最低でも32歳辺りか?
しっかし若いなー。うちのおかんとはえらい違いや。
美神さんももっと年取ったらこうなるのか…めちゃくちゃ美人になりそーやなぁ」
心の声がだだ漏れだ。それほど真剣に考えてるという証拠でもあるのだろうが。
大人の余裕、とでも言う顔で、口元に手を当てて笑う美神の母。
「面白い子ね? 横島君」
「あ? はい?」
戸惑っているのだろう――まあ当然だが――、横島にメモ用紙を握らせる。
「あ、令子には私に会ったことは秘密にしておいてね」
じゃ、と手を振って踵を返し、暗い夜道に消えていく背中。
「……え?……」
唐突に現れ唐突に去っていく美神の母。
思考が混乱しまくっている現状に思考が付いていかず、呆然と彼女が消えた道を見つめて――
手の中の紙には、美神美智恵という名前と、電話番号、そして令子と別れたら電話して欲しい、とメモされていた。
そのメモを読んで漸く――と言っても3分ほども時間は経ってないが、とにかく美神を待たせていた事に気付き、メモをGパンのポケットに突っ込んで公園に戻る横島だった。
「遅かったわね」
キッと意志の強い瞳で睨まれる。
寒かったのか、引っかけただけだったGジャンに袖を通してボタンを全て留めていた。
「すんません、小銭がなくてちと遠くまで行かざるを得なかったもんで」
はい、と缶コーヒーを渡す。
赤兎が何かしたのか、独りで決着をつけたのか、殆どいつもの美神と同じ顔、同じ雰囲気だった。
当の赤兎は戻ってきた横島に飛びついて這い上がり服の中、具体的にはTシャツの中に潜りこみ、首から上だけを襟首から出していた。
本人――本兎、か?――はえらい満足そうだが、横島としては非常に邪魔くさい。
引きずり出してホットティーの缶を持たせて足の上に丸くさせる。
「まあ良いけどね……ごめんね、修行の邪魔しちゃって」
缶コーヒーに口をつけ、雲がかかった三日月を見上げて、ぽつりと呟く。
未だ数ヶ月、しかも夜の修行を見物しに来るだけの間柄だが、どう見ても御礼や謝罪を素直に言うタイプには思えない、気の強い少女という印象が強い横島はその言葉に仰け反る程驚いた。
どうでもいいがペットと同じ行動か、やはり飼い主に似るらしい。
美神からしてみれば、随分みっともない所を見せてしまったのだ。
今更気取ったところで、と言ったところか。
それでも、素直に謝罪の言葉が出た事は、自分でも驚く事だったから突っ込まないが。
「で、訊いて欲しいっすか? 訊かない方が良いっすか? 口に出して誰かに聞いてもらうだけでも悩みってのは軽くなるってうちのお師さんが寝転がって鼻くそほじりながら言ってましたけど」
ついでにその時小鳥遊 薫(たかなし かおる)(70)が読んでいた本は横島の年齢では購入不可能な本だった、と記しておく。
「…有り難みも何にもないわね……」
どういう師匠だ、と聞いた人間100人中100人が持つ感想を思いつつ顔を引きつらせる。
「まあ言ってる事が間違ってた事ぁなかったっすけどねぇ」
「…不良娘がたまに帰ってきた親に反抗して家を飛び出しただけよ」
そう、それだけの話だ。
「美神さんのお母さんは確か一流のGSでしたよね。お師さんも名前知ってましたよ。女性のGSに限らなくても日本で五本の指に入る実力者だって」
――その上あんな美人なんて世の中不公平に出来てるなぁ…
先ほど美神の母親に会った事は秘密という事なので最後は心の声に終始したが、それは横島の実感だった。
高島の人生もそうだったが、どうもツキもお金も才能すら寂しがり屋なのではないかと疑りたくもなる。
「そう…そしてあたしは出来損ないの娘ってわけ」
現在GSを目指して努力している最中の横島なら知っていて当然だろう。
それでも他人の口から母親の事が出るたびに感じる居心地の悪さは筆舌尽くしがたい。
「出来損ないって……美神さんが出来損ないじゃ俺なんかミジンコっすか」
苦笑して、赤兎の背を撫でる。ぴくぴくと耳を動いた。
「……どうしてそうなるのよ」
「だって美神さんの霊力、凄いっすよ? 正直俺なんかじゃ比較にならない程――云い方変えれば、まだ修行初めて一年と少しの俺ですら美神さんのポテンシャルが分かり過ぎる位分かるってぇ程、美神さんの霊力は凄いってのにそれで自分の事を出来損ないとか言われたら立場ないっすよ」
そう美神令子の内在霊力、とでも言うべきモノは素人目で――勿論霊能力が使えるだけの素人、という意味だが――見ても人一倍ある。
その存在感は既にGS、それも中堅どころのソレに等しい。
霊能力があろうとなかろうと、側にいるだけで無言の圧迫力となって、それは人を襲う。
美神本人にそれを抑える術がないのだから当然だが、彼女に友人が出来ないのはそれが理由なんじゃないかと、横島は考えていた。
勿論、気の強さや誇り高い性格も一因ではあろうが。
なに、殆ど高島と同じなのだ、今の美神は。
高島も少年時代、貧困に喘いで飢えと闘っていた頃、独りだった。
その高い霊能力を制御する術がなかった上に今より遙かに「闇」を恐れる時代だったのだ、彼の孤独はある意味での必然でもあった。
まして彼は貧困層の生まれ――或いは貴族層で生まれたものの何らかの原因で家が没落したのだろう、大差はないが――だ。
当時のオカルト技術、というよりも知識全般は貴族が独占していた。貧困層の少年少女は算数一つ、読み書きの一つも覚える事はあり得ない時代だった。
無知、故に知らぬモノ、理解出来ぬ全てを恐れる。
それは生物の本能であり、万物の霊長を詠う人間ですら変わらない。
尤も、高島は霊能力を無意識にでも使って悪事を色々働いていたようだが。
倫理観も時代の状況も違うのだ、横島とてそこで嫌悪感を抱くような事はない。
「こんな力…っ…欲しいなんて頼んだ覚えはないわよっ!」
目尻に涙すら浮かべて睨む美神。
はは、と力なく笑う横島。
「そら俺だってそうっすよ。こんな力も前世の記憶もなきゃ、もっと気楽にきれーなねーちゃんのケツでもおっかけてられたでしょうね」
はあ、とため息吐く横島の顔は、不相応に老けて見えた。
「でもまあ、欲しかろうとそうでなかろうと手に入れたからにゃあ、使いこなす方向で考えた方が前向きだと思うんすよ。この力がなきゃ出来ない事だってあるでしょうし」
そう、前後の事情がどうであれ手に入れた以上は有効活用すべきだ。
面倒な事は嫌いだが、それを上回る報酬があれば別の話。
(どれほど修行が辛かろうとも一流のGSになるんや! そーすればモテモテ! 美人の嫁さん手に入れて退廃的な生活じゃあ!」
相変わらずの思考を相変わらず心の声――か本気で口に出したのかいまいち判断しづらい内容だ――が外に出てる横島。
こんな癖を持っていながら普通に生きている横島はある意味尊敬に値すると思う。
「……」
それはともかく、呆れる他ない、というべきか。
美神に取っては様々な感情が一気に爆発したような感じだ。
いつもふざけた態度でセクハラしてくるくせにこんな真面目な事考えてたのか、とか。
そういえば雨が降ろうが必ずここに来て修行していたなぁ、とか。
さすがに雨の日は来てるの確認したら帰ったけど。
こいつは自分の力を受け入れて、自分の望みの為にそれを使う努力をしているのに、自分は? とか。
一流のGSが退廃的な生活を送れるのか? 少なくともうちの母親は違うぞ、とか。
結論としては。
「………こんな事で悩んでたあたしが馬鹿だったってことかしら?」
妄想の世界で幸せになってる横島を横目に、ふうっと一息。
「悩みなんて解決しちゃえば大概そんなもんですって」
唐突に振り向き、若干真面目な表情で独り言に突っ込んでくる横島。
「い、いきなり戻って来るわね……まあ、解決した訳ではないけど」
それでも少し軽くなったのは事実。
「ああ、家飛び出して来たって言ってましたよね? ちゃんとお母さんに謝った方がいいっすよ。親御さんに心配かけちゃいけませんって」
お母さん、美人だったし。と心の中で呟く。幸い、これは口には出なかったようだ。
「…そーね」
「美神さんちはどうか知りませんけど……俺がそんな事したらおかんが………ああああああ!?」
なにやらトラウマに引っかかったらしく、別の意味であっちの世界に行ってしまった横島に、すっかり寝こけてたと思われた赤兎がいきなり空中蹴りを決めた、横島の顎に。
そう、飛び上がり、身体を半回転させ逆立ちのような姿勢で上空に蹴りを放つその姿は電光ライ○ーキックを思わせた。
「はぶっ!?」
「……無様ね」
意図した訳でもなかろうが、ペットの兎に蹴り飛ばされる飼い主は正しく無様でありシュールな光景だ。
更に空中で半回転し、足から横島の足に着地した赤兎が美神に向けてサムズアップ。
「ったく…もう少し優しくしても罰はあたらんぞ、赤兎」
「ま、今日は色々あったし、もう帰るわ」
立ち上がり、大きくのびをする。
さしあたっては母親に謝る事にしよう。
自分でも驚く程、今は心が軽い。
別段何も解決したわけではないのだが、確かに誰かに話す事で気が楽になるという事はあるようだ。
「そっすか。何も手助け出来なくてすんません」
嘘つけ、と思う。
横島がいなければ今も独りでうだうだと悩んでいたろうし、素直に母親に謝ろうという気にもなれなかっただろう。
――ああ、お人好しなんだ、こいつは。
つまりはそれが結論で答えなのだろう。
知れば知る程不可解な男だ。
スケベで馬鹿で間が抜けてると思えば誰よりも優しくて嘘も偽りもない、裏も表もない言葉をくれる。
子供っぽい我が儘を言う時もあれば年寄りじみたとさえ言える程大人びた言葉で人の心を打つ。
出会った当初から――不本意ながら悪霊から助けられたあの時から、興味を持ったのは本当だが、それが一層強まるのを自覚させられた。
「ま、いいけどね」
そんな言葉で思考を中断させると、とりあえずは今日、一番感じた事を口にする。
「とりあえず、思った事を口に出す癖、どうにかした方が良いわよ」
そう言い捨てる。そのおかげで色々助かったのは秘密だ。
は?と固まっている横島を尻目に原付のキーを入れて手を振り、走り出して去ってしまった。
「…あー、またやってたのか、俺」
うんうん、と頷き、ととっと軽快に横島の頭の上に移動する赤兎。どうやらとっとと帰宅しよう、と言いたいらしく、ぺしぺしと横島の頭を叩いていた。
「しかしなかなか治らんな…この癖…誰に迷惑かけてる訳でもないけど…」
そう、最終的な被害は自分で被っている以上はそこまでしゃかりきになって治す必要がある訳ではないのだが、今後の人生を考えると治さないと色々不味い気がする。
「あー……Gジャン持ってかれた」
ついでにハンカチも。
まあ仕方ない。女の子の匂いを纏って返却される事を祈って、今日の所は退散するしかない。
「帰るか」
頭の上で赤兎が大きく頷いたのを感じつつ、美神が飲まなかった冷めた珈琲を手に取って帰路につく横島だった。
☆ ☆ ☆
「ただいまー、お師さん」
頭の上の赤兎もしゅっと手を挙げて挨拶をしていた。
「おう」
○HKの大河ドラマから目を離さず、居間に入ってきた横島に軽く返事をする。
この時期(昭和63年頃)の大河ドラマは武田○玄だ。
伏せる意味があるかどうかは置いておくとして、大河ドラマ史上最高の一作だという事には変わりはない。
小鳥遊がハマるのも無理がないというものだ。
横島は師匠の趣味を熟知しているので、口を出すつもりはない。
何しろこの手の時に下手な理由で邪魔すると修羅がこの世に顕現するので。
――自分の事、二流だのそこまで強くないとか言ってた割にはキレた時のあの反則的強さはなんなんだろーか。
そんな事を疑問に思っても仕方ないのだが…まあ世の中そんなものだ。
赤兎も大河ドラマに興味あるのか、横島の頭から飛び降りると卓袱台の上に鎮座しテレビに食いつくように鑑賞し始めた。
さて、横島がわざわざこの時間――既に20時を過ぎている。14歳の少年に取ってはかなり深夜だろう。少なくとも両親は良い顔しない、それを回避する為だった。
別に独り稽古を隠すつもりもないのだが、本当にしてるかと疑われるのは不本意だ。
しかし、普段の横島を――つまりちゃらんぽらんな学校生活などを見てる両親が真面目にやってるかを疑うのは必須。
という訳で師匠の一言がたまに必要になるのだ。
ついでに今日はそれ以外にも用があった。
テレビに熱中している一人と一匹を放って廊下にでる。
昔懐かし黒電話を手に取り、ポケットからメモを取り出す。
そう、女性からのお誘い――それが喩え同年代の子の母親だから何だというのだ。あんな美人からTell番もらって電話してくれと頼まれたのだ。
いざ、とダイヤルに手を掛けた時だった。
「そういえば忠夫ー」
居間の方から声が聞こえる。テレビの音も聞こえるので視線はテレビに釘付けなのだろう。
妙に語尾が間延びした言葉がそれを裏付けている。
「なんすか」
「百合子嬢が怒っておったぞー」
「…は?」
いつのまに最凶の暴君の怒りを買うような真似をしたのか、ここ最近の行動を振り返ってみて――思い当たる事が多すぎて考えるのを辞めた。
「いやなー、美神の嬢ちゃんの事でなー、母親の方の美神の嬢ちゃんがおぬしに礼を言うつもりでなー、自宅に電話したそうじゃー」
齢70のジジイからしてみれば、どちらもお嬢ちゃんだという事には変わらない。
「なンですと!?」
「後で説明しておけよ」
――このくそジジイっ!!
と怒りを師匠にぶつけても何も解決しない。
諦めて、そして改めて美神の母親へ電話する為、ダイヤルを回し始める横島だった。
横島は気が付かなかったが、美神家の女性を「嬢ちゃん」呼ばわりとはこのジジイは何者か?
その答えを数日後、横島は知る事となる。
後書き
書けば書く程先が長く想えてきますね…高校入学まで一苦労です。
出来に自分では納得してるんですけど皆様に受け入れてもらえるかどうかは自信がないという微妙な自己採点。
今回のお話、いかがでしたでしょう? 率直な意見お待ちしております。
美神が素直すぎるって意見もあるかと思うんですが、これについては少なくとも自分の中ではある程度論理立てて説明がついているので、そのうち作品内で説明するかと思います。
最悪でも、第一部(GS免許取得後~高校卒業辺りの予定)が終わるまでに説明出来なかったら、後書きで触れると思いますのでお待ちください。
もし、どうしても今理由訊かなきゃ先を読む気がしないって言う方がいましたら、メールくだされば返事の中で、現段階での設定を交えてお答えしても良いです。
ただし盛大なネタバレになりますので、その点はご容赦。
以下、個別レスです。皆様、読んでくださり、感想くださりありがとうございます。
感想はやはりSS書きのエネルギー源ですね。本当にありがとうございます。
1:たぬきちさん
小鳥遊との出会い、赤兎との出会いは……書くとしたら外伝ですかね…(・∀・;ゞ
まあ予定は未定という事で(;´ー`)y-~~
2:wataさん
そりゃあ横島ですから(´ー`)ノ
今回も遅くなりましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
3:SSさん
兎違いです。
しかし最初の原案での名前が「同じ」だったのは公然の秘密です(;´ー`)y-~~
世の中毎日更新続けてる方々もおられますからね…前回はたまたまあの程度の時間で掛けましたが…今回は(´Д⊂
今回も楽しんでいただけましたでしょうか?
4:yujuさん
正史で馬の名前が登場するのは実に赤兎馬のみですからね…これだけ取ってみても赤兎馬が如何に抜きんでた名馬かが知れますよね~(・∀・)
最強にならない程度に三倍ですΣd(・∀・)
最終的には六道家とはひと味違ったモノになる筈です(・∀・)bあくまで最終的にはですが…最初からンな強いの出せないし。と言っても最強SS程じゃないですけどw
今回も楽しんで頂けてると嬉しいですヽ(´ー`)ノ
5:万々。さん
読みやすいと言ってもらえるのは嬉しいですね(・∀・)ありがとうございます。
横島は横島らしくっセクハラ一つしないだけでも違和感が出ますからね…気をつけないとw
これからも応援よろしくお願いします。
6:アミーゴさん
赤兎が人気で嬉しいですね、ありがとうございます(・∀・)b
多少まともになろうが横島は横島ですから(´ー`)┌
原作とはひと味違った小賢しさを目指して頑張ります(`・ω・´)
7:meoさん
イェーイ…_| ̄|○当分頭から離れないっす…
式神の製造法は…どうしても某作品の影響は受けざるを得ないって感じですね…(・∀・;ゞ
あの作品の製造法は隙がなさすぎて原作と同じ位の影響力を僕の中で持ってます。
最初はその名前だったんですけどねぇ…兎という時点でかぶってるのに、という事を執筆途中の息抜きの読書中に気付かされまして(・∀・;ゞ
8:DOMさん
横島の師匠としては最高なんじゃないかと自負しておりますヽ(´ー`)ノ
育成計画の某兎さんはこれ執筆してから(正確には二話執筆途中)知ったんですよね…(・∀・;ゞ
兎としての個性もかぶらないよう努力しますです。
能力に関しては陰陽術が基本になるでしょうね…多分(ぁ
9:内海一弘さん
皆様に受け入れられたようで書いた甲斐があります(ノー`)<師匠
赤兎の人化は……予定は未定という事で(・∀・;ゞ
美神へのフォローはこんな感じでいかがでしょうか?
10:益田四郎時貞さん
原作よりも少し穏やかで、やっぱりGS美神の雰囲気な作品を作りたいと頑張っております。
美神の記憶の方はどうしようかなぁってトコですね…予定は未定(こればっか
きっと小鳥遊師匠も同じように鍛えられたんですよw
そして名前の読みの方、助言感謝です。
11:枯鉄さん
ありがとうございます(・∀・)b師匠をこれからもよろしくw
12:Dさん
色々お褒めくださりありがとうございますm(_ _)m
僕もどの作品の二次創作であれ余りオリキャラを好きにはなれない質なので、自分が気に入れて、作品に違和感のないキャラを作ろうと頑張ってみました。受け入れて頂いたみたいで一安心ですw
これからもゆるりとですが頑張っていきたいと想います。
13:滑稽さん
違和感ないと言って頂けると嬉しいですね(・∀・)これからも頑張りますw
時間はかかりましょうがお見捨てなきよう…
14:むじなさん
初めまして。
原作と違って美神と横島が対等な展開もコンセプトの一つですからね~頑張って違和感なく展開していこうと想います。
師匠と赤兎が皆様に受け入れられて一安心です。
師匠や赤兎のこれからの立ち位置や絡みは期待してください(・∀・)b
良作になるよう頑張りますヽ(´ー`)ノ
15:TAKUさん
ありがとうございますヽ(´ー`)ノ
やはり横島を導く師匠はスケベでないとw 分かり合えるって素晴らしいヽ(´ー`)ノ
16:諫早長十郎さん
師匠大人気ですねヽ(´ー`)ノ嬉しい限りですw
兎は寂しいと死んでしまう、というのは昔とあるアイドルがドラマかなんかでそういう科白があったから定着したらしいんですが。
コメントの後半は不勉強にて分かりません(´Д⊂ジョキャニーナってなんだろう…