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▽レス始

「妖との仲介人 28件目(GS)」

ラッフィン (2007-04-03 00:58)
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「卒業証書授与」

いつもは運動部で賑わっているはずの体育館に響き渡る緊迫した声。壇上には国旗がかけられ、校長が真ん中に立っている。その傍らには、賞状らしき紙が置かれていて、壇の下には綺麗に並べられたパイプ椅子にクラス毎に並んで座っている生徒たちが校長を見上げる格好になっていた。
最初の言葉でも解るとおり、今日は卒業式の日であった。卒業証書を受け取り、来賓の人や校長のながったらしい話を聞き終え、生徒たちは教室に戻ってくる。

「うぅ・・・」
「・・・ぐす」

卒業ということでクラスの半数以上が泣いている。普段は学校行くのだるいな〜と言っていた生徒たちまでも泣いているくらいだ。その中で特に目立っているのは強面の巨漢であった。

「うおおおおおおおおお!今日で卒業なんジャー!」
「わかったから少し落ち着け!」
「ぅぅ・・・神よ。この旅立ちの日を迎えられたことに感謝します。でも、明日からはこの学校とも、みなさんともお別れなんですね。なんだか、寂しくなります」
「大丈夫だって。卒業してもまた会えるって、別に二度と会えないわけじゃないだろ?」
「それでもですよ〜・・・うぅ」
「ああ〜もう、泣くなって」

その近くでは金髪のイケメン兄ちゃんことヴァンパイアハーフのピートまでもが涙を流していた。その二人に挟まれるような形でいるバンダナを巻いている青年は宥めるのに必死で別の意味で泣きそうであったが。まぁ、彼は余裕があったとしてもいつも通り振る舞い、泣いてしまうということはないであろう。
一方、女子のほうは。

「愛子〜、雪蛍〜・・・」
「卒業しても友達だからね〜」
「瑞希、麗奈。これっきりなんてさせないわ。卒業しても会いましょうよ」
「そうだよ。瑞希ちゃん、麗奈ちゃん。私達は友達なんだから」
「「うん」」

「ああ、卒業式で友達と別れの挨拶で泣きあう。まさに、青春ね!」

別れを悲しみつつも、青春を謳歌している愛子はどこか満足気であったとさ。そして、卒業式の定番といえば?そう、気になる人の第二ボタンをもらうことだろう。それはある意味では戦いになる。そして、この横島のいるクラスでもその戦いが行われようとしていた。

「ピート様〜♪」
「私に第二ボタンをください!」
「あっ!何言ってるの?私がもらうことになってるのよ!」
「あんなの気にしないでいいです。あの、私にボタンを下さい!」

そう、学校一のイケメンことピートの第二ボタンをもらおうと、学校中の女子のほとんどが殺到しているのだ。その中には女教師の姿も見えたりしていたりする。一方、男のほうは、そんなモテモテ男に憎しみの視線を放っている。憎しみで人を殺せたら・・・そんな怨念がひしひしと伝わってくるかのように。そんな女子の熱い眼差しと男子の殺気を漲らせた視線に挟まれた格好のピートは溜まったものではない。
周囲を見回し助けを求めるが、唯一の安全地帯である人達、横島と雪蛍、愛子、タイガー、麗奈、瑞希は窓際の席で楽しそうに会話していて助けてくれそうな気配は皆無である。

麗奈、瑞希は横島達と親しくしていたためにピートに対しては友達程度の認識。
雪蛍、愛子は横島LOVEのため論外。
タイガーはモテているピートに嫉妬しているが、自分は彼女持ちなので不参加。
横島はこの後のことを考えてるために面倒ごとには関わりたくない。

以上の心情により、助ける気すらなかった。

「横島さ〜ん!タイガ〜!助けてくださ〜い!?」

「ここにしようか」
「いいと思う」
「じゃ、何時にする?」
「5時くらいでいいんじゃないの?」
「そのくらいが妥当だな」
「ワシも異論はないノー」

ピートの救援要請にも耳を貸さず、この後の卒業記念パーティ兼お別れ会のことを話し合っている。だが、ピートは最後の頼みである6人に諦めずに救援を求め続けた。

「お願いしますよ!助けてください!!」

横島達はいい加減にやかましいと思ったのかピートに言葉を返す。

「簡単じゃねぇか。お前が誰かにボタンをあげればいいだけだろ?」
「そんなことできませんよ〜!もらえなかった人が可哀想じゃないですか」
「全く、贅沢な奴だな」
「そんなこと言われても!」
「だったら解決法なんて・・・いや、あったな」

ふと頭に浮かんだ方法に横島はニヤリと笑いピートに語りかける。

「ピート、解決法があった。少しまってくれ。助けてやる」
「あ、ありがとうございます〜!!」
「いや、お礼はいいよ。ふふふふふ

そういうと横島はタイガーに耳打ちをする。すると、タイガーまで横島と同じようにニヤリと笑いどこかへと電話をかけ始めたのだ。内容を知らない雪蛍達は疑問に思うが、二人は教えてはくれなかった。ただ「後でわかる」とだけ言われただけで。しかし、その答えはわずか五分後にやってきた。

ブォオオオオオオオオオオオオオオン

キャキャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

何かのエンジン音が遠くからきて、すぐにタイヤの擦れる音が耳に届く。さらに地鳴りがするくらいに激しい足音がこの教室に向かって近づいてくる。横島とタイガーは一層ニヤリ笑いを深め、愛子達4人は困惑の表情を浮かべている。アンサーが出るのはまもなくだ。

バァアアアアアアン!

教室のドアが勢いよく開かれると同時に一本のロープが伸ばされた。そのロープはピートに巻きつき動きを封じると、教室の出口に向かって引き寄せられる。手が封じられ物を掴むことが出来ず、足も封じられふんばることが出来ない。抵抗できないピートはなすがままに教室の出口までひっぱられてしまった。出口まで引っ張ったところでそのロープを投げたであろう人物が姿を現す。

「ピート♪助けにきたワケ」
「え、エミさん!?」

ピートを助けたのはタイガーの働き先の所長で自称・美神令子のライバル、小笠原エミであった。

「あんな乳臭い小娘から襲われそうになって、可哀想なピート。でも、もう大丈夫なワケ。私があのメスどもからピートのことを守ってあげるから♪」
「え?あの・・・エミさん?」
「あん、もう♪わかってる。ピートが好きなのは私だってことは。でも、心配になっちゃうワケ」
「いや、ちが・・・」
「もう、ピートったら照・れ・屋・さん♪人が見てるからって素直じゃないんだから〜♪わかってるワケ。今からデートにいきましょうね〜」

ピートの言葉に聞く耳も貸さずいつの間にロープを外して自由になったピートの腕に自分の腕を絡めて引っ張っていった。今までピートに群がっていた女子、殺意の視線を向けていた男子達はあまりの展開についていけず、呆然と見送るしかなかったとか。唯一の例外は、これを思いついた横島とエミに連絡したタイガーだけであった。

ちなみに・・・
その日から3日間、二人は姿を現さず3日後に教会へと帰って来たピートを見た神父の証言によると、げっそりとやつれ目には生気のかけらも残っておらず危険な状態だったということである。また、タイガーの情報によれば久しぶりに事務所へ現れたエミは上機嫌でお肌もツヤツヤして若返ったようだったとのこと。二人の間に何があったかは依然謎のままである。


舞台は戻って、ピートがいなくなった後。教室に小鳩がやってきた。内気な小鳩は上級生の教室とあっておずおずとといった感じで横島のところにやってきたのだが、教室にいる生徒は誰ひとりとして反応していない。さきほどのことがあまりにも衝撃的過ぎて時間が停滞しているようだ。

「あの、みなさんどうしたんですか?」
「ん?ああ、気にしないで。ちょっと刺激が強すぎただけだから。さ、帰ろうか?」
「はぁ・・・」
「ほら、雪蛍達も固まってないで帰るぞ」

困惑している小鳩に苦笑して答えながら、クラスメイトとともに固まっていた雪蛍達を正気に戻し支度を始める。唯一固まっていないタイガーも帰り支度を始めていた。

「じゃ、また後でな」
「またジャー」
「「「「またね〜」」」」
「またです」

タイガー、瑞希、麗奈と別れ横島達は帰路につく。小鳩も後のパーティに参加することになっており、横島が迎えにいくことに決まっている。その途中、横島はおもむろに制服の第一ボタンをむしりとると小鳩に差し出した。

「小鳩ちゃん、これ」
「え?」
「俺は一足先に卒業しちゃうからね。そのボタンはウチに就職させるって約束の証だと思ってよ。第二ボタンじゃなくて悪いけど」
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます。横島さん」

渡されたボタンを大切にギュっと両手で握り締めお礼を言う小鳩。雪蛍と愛子は一緒に事務所を経営するためにボタンはもらっていない。横島は第二ボタンをあげる人物はすでに決めていて、二人もそれに同意していたりする。無論、それを決めるのに一悶着があったのは言うまでもない。ちなみに静琉にもあげる予定だ。第三ボタンではあるが。では、第二ボタンは誰にあげるのだろうか?それは後でのお楽しみである。
小鳩を家に送り届けた後、いよいよ横島は覚悟を決めてある場所へとむかう。

「あ、お兄ちゃんちょっといい?」
「話があるの」
「ん?なんだ?」
「「実はね・・・」」


「こんにちわ〜」
「あ、横島さん。こんにちわ」
『いらっしゃい。横島さん』
「あら?今日は一人なのね。珍しい」

美神除霊事務所。横島が働いているところである。出迎えてくれたのは所長の美神令子、事務所である人口幽霊一号、横島と同じく令子の助手である氷室キヌであった。令子の言葉通り、横島は一人で訪れている。いつもなら隣には雪蛍、タマモ、愛子の3人がいるのだが、今日のところは雪蛍達は家、愛子は横島の中で眠ってもらっている。それはこれから大事なことを伝えるためである。

「美神さんにお話があるんス。おキヌちゃんにも聞いて欲しいからいてくれるかな?」
「何よ?話って・・・(まぁ、あのことでしょうけど)」
「あ、はい。わかりました」

令子はわかっているようだが、おキヌは首をかしげている。ただ、雰囲気からとても大切なことだとは伝わってきていたので、真剣に聞こうと思った。

「あの独り「却下」・・・最後まで言わせてください。ってか内容も聞かずに問答無用で却下ですか!!」
「え?なんなんですか?」

横島の言い返した言葉にキッ!っと睨み返す美神。あまりの展開についていけなかったおキヌはオロオロと視線を横島と美神にいったり来たりさせている。

「あんたのことだから、独立させて欲しいって言いたいんでしょ?」
「なんでわかったんですか!?」
「そうね、大体3年に進級する前あたり、正確にはタマモと出会ったときかしら?あんたがこそこそと動き回り始めたのは」

大正解である。内緒でGメンからの仕事をしていたと思っていた横島だが、実際にはバレていたのだ。そのことを母に問いただしたのだが『別に悪いことしてるわけじゃないし、いいじゃない。そんなことばっかで縛り付けてたら横島君は離れてっちゃうわよ』と言われたことにより、天邪鬼な性格が本領発揮。『縛り付ける?はん、あんなやついなくなっても問題ないわよ!』と突っ返してしまい、何も言えなくなっていたのだった。最も、いざ独立させるとなると別問題で、いろいろと難癖つけて却下してやろうと思っているあたり、ただでは起きない美神らしいと言えばらしいだろう。

「え!横島さん独立しちゃうんですか?」
「うん、そう考えてるよ」
「なんでですか?まさか、私のことが嫌いになったんですか?それとも、美神さんの仕打ちに耐えられなくなったんですか?」

横島が独立するという内容におキヌが反応する。若干、失礼なことを言っているが言った本人はもちろん横島も気がついていない。唯一気がついた者は額に青筋を浮かべていたが、特に追求することはしなかった。今は横島のことを片付けるのが先決だと決めているらしい。

「ごめんね、おキヌちゃん。これはもう決めたことなんだ。美神の仕打ちに耐えられなかったとか、おキヌちゃんを嫌いになったってわけじゃないから」
「じゃ、どうしてですか?」
「守るため」
「え?」
「ある存在達を守るために独立するんだ。今のように雇われている状態じゃ守れないんだよ」

そういって笑いかける横島。その目は強い決意と優しさで溢れていて、おキヌは思わず見惚れてしまう。

「だから、ごめんね。一緒には働けないんだ。わかってくれるかな?」
「・・・はい」

ぽ〜っとしたまま返事を出してしまうおキヌ。横島の目を見てしまっては反対することはできなかった。おキヌが納得したと見た横島は再び美神に向き直り、先ほどの話の続きに入った。

「用件がわかっているなら話は早いです。なんで却下するんですか?」
「独立するにもいろいろとあるのよ?それをわかってるの?」
「はい、それは理解しているつもりです」
「じゃ、GS協会に申請した?事務所の場所は?業務開業の申請は出した?それから・・・」

次々に問題を出していく美神。しかし、これはいじわるではなく独立開業するなら当然やらなければならないことである。それをわかっている横島は何も言い返すことはなく、指摘された問題を順々に答えていった。

「協会に申請はしましたし、事務所はある場所に確保してあります。業務申請も出しました。その後のことも大丈夫です」

美神の指摘した問題は全てやっていた。これはひとえに、令子の母である美智恵と横島が独立すると聞いてやけに協力的になった西条の指導の元に行われていた。もちろん、GSの除霊の相場も教えてもらっているので神父のようにお金をもらうことをしなかったり、令子のようにふっかけることもないだろう。その後もいろいろ言われたのだが、悉く『それもちゃんとやっています』と言われ、さすがの美神も言うことがなくなってしまった。

「これでもまだ独立しちゃいけないんですか?」
「と、当然じゃない!いくら一人前と認めたからってね、あんたはまだまだ知らなきゃならないことがたくさんあるのよ!!」
「じゃあ、どうす「うるさいわね!あたしの丁稚のくせに口答えするの?」」

おきまりの台詞で横島の独立を認めることはないと主張している。こうなってしまっては誰の言うことも聞かなくなってしまう美神だ。半ば諦めかけた横島だったが、そこに救世主が現れる。

「いいかげん我儘を言うのはやめなさい!!」

声のした方向へ同時に振り返るとそこにはひのめを抱きかかえた令子の母、美智恵が怒りの形相で立っていた。突然の母襲来に驚くもすぐに気を取り直し反論をする。

「ママは関係ないでしょ!」
「関係あるわ。横島君に恩があるしね。それはともかく令子、いいかげんに独立を認めたらどうなの?」
「なんでよ?」
「さっきから聞いてればどうみてもあなたが言っていることが滅茶苦茶だって気がつかない?」

正論で返される上に、普段から美智恵には頭の上がらない令子は最後には白旗をあげてしまう。やけになったとも言うが。

「ああ、もう。認めればいいんでしょ?認めれば!独立でもなんでもすればいいじゃない!!」

そういって自分の部屋に篭ってしまう令子。そんな娘の様子にため息しか出ない美智恵は横島に向き直り話かける。

「令子が無茶言ってごめんなさいね。はい、これが許可証だから。独立おめでとう」
「はい、ありがとうございます」

「独立ってどういうことでござるかぁああああああああ!!」

美智恵から事務所の開業許可証を受け取った直後、ドアが激しく開き散歩から帰って来たシロが怒鳴り込んで来た。

「先生!独立するって・・・」
「ああ、俺は独立してGSとしてやってく」
「それじゃ、拙者も!」
「それは駄目だ」
「何故でござる!?」

シロは人狼族の長から令子に預けられている身であるため、おいそれと出来ないことを説明するも、まだ子供なシロに通用するはずがなく。

「拙者もついていくでござる〜〜〜!」

といって聞かなかった。本当ならおキヌもシロと同じ気持ちなのだが、しっかり者のおキヌは自分だ美神に預けられている、ある意味シロと同じような立場だと自覚しているために言えないのだ。シロの主張は、横島にはどうすることも出来ない問題であるし、何より令子の事務所でシロは大事な前衛である。横島が抜けた後はもっとも頼りにされるといっても過言ではないくらいだ。それを考えると一緒に連れて行けはしない。横島は少し考え、雪蛍とタマモから授かった策を使うことにした。

「シロ。これは修行だ」
「修行でござるか?」
「ああ、シロもそろそろ俺から離れてやっていけるかどうかを見るためのな」
「拙者はまだまだ先生が必要でござる!」
「駄目だよ。いつまでも俺に依存していては立派な武士にはなれないぞ?お前も力をつけたからな、そろそろ俺から離れてもいい時期だ」
「先生・・・」
「シロ、たとえ離れていてもお前は俺の弟子には変わりない。困ったことがあったら助けにくるから。頑張れよ」
「わかりました!この犬塚シロ。見事にこの修行をやり遂げてみせるでござる!」

張り切っているシロの頭を撫でながら、心の中でエールを送る。頑張れよ、と。

「さて、さすがに美神さんをこのままにしておけないよな〜」
「横島さん、美神さんのことをよろしくお願いします」
「よろしくって俺の言うことなんて聞かないでしょ」
「ふふ、横島さんなら大丈夫ですよ」
「なんかわからんけど、なんとかしてみるよ」

おキヌに見送られ、横島は令子の部屋の前に立つ。まずは外から声をかけてみた。

ドンドンドン!
「美神さ〜ん、出てきてくださいよ〜」
「うっさいわね!私のことは放ってさっさと独立でもなんでもすればいいでしょ!!」

完全に拗ねてしまった令子は出てくる気配はない。扉にも鍵をかけたらしく開かなかった。ちょっと強引だが、このままでは話が出来ないと思ったので文珠で無理やり通り抜けることにした。

<開>

発動と同時にドアの鍵が開き、素早く開けると体を滑り込ませる。令子はベットにうつぶせになって寝ていたらしく、横島が入って来たのを知ると慌てて体を起こした。

「何よ!覗きの次は強姦?本気で警察に訴えるわよ!」
「美神さん・・・」
「な、何よ」
「美神さん、俺の話を聞いてください」
「や・・・こないで!」

必死に話を聞くように訴えるも令子は聞く耳を持たない。それどころか耳を塞いでしまう始末。これでは話を聞いてもらえないので、強引にいくことにする。
横島は令子に歩み寄っていくすると令子はそれをやめさせるよう枕を投げつける。横島はそれを避けさらに近づいていく。令子もそれに伴い後ろに下がる。幸い、投げるものが見当たらず何かを投げつけて牽制することが出来ないようだった。

「こないで・・・くるなぁ!」

もはや拗ねて駄々をこねている子供そのものだ。ついに窓側まで追い込まれ逃げ場を失った令子。横島は静かに近づいていき捕まえた。

「やぁ・・・」
「美神さん」

まだ抵抗する令子に静かに呼びかけ、両手を掴む。すると無駄だと諦めたのか抵抗をやめ静かになった。

「俺がやろうとしていることは独立してないと社会的に見ても周りから納得してもらえないんです」
「・・・わかってるのよ」
「美神さん?」
「わかってるの!あんたはもう充分GSとしてやっていけるって。実力は私よりも上になってるって、わかってるの!あんたがやろうとしていることも全部!」

なんだかんだいいつつも令子は横島のことをパートナーみたいに思っていた。おキヌも含めて3人は家族のようなものだと。ずっと一緒にやっていけると思っていたのだ。しかし、現実は横島が独立してこの事務所からいなくなってしまう。それは幼いころに母親がいなくなってしまったというトラウマを呼び起こしてしまったのだ。だから、いつもは強気に言ってくる令子が今回は幼い駄々をこねている子供のようになってしまったのである。しかし、自分の本心をさらけ出してしまった今となっては認めるしかなくなって、けれどやっぱりどこか素直になりきれなかった。

「ありがとうございます。俺、美神さんに認められることが目標だったんスよ」
「ふん・・・」

令子は頭を横島の胸に預ける。その拍子に横島の両手が離れたので、自由になったその両手を背中に回し抱きしめる格好で頭をうずめるようにしている。

「・・・ヘマすんじゃないわよ?やるなら私に恥をかかせないでよね」
「はい」
「たまには顔を見せなさい。おキヌちゃんやシロが寂しがるから・・・・・私も・・・
「はい、わかりました」

最後の呟きは小さすぎて聞こえてはいなかったが、返事を返す。横島は令子の背に腕を回し軽く抱きしめる。すると令子のほうも抱きしめていた腕にさらに力が入った。横島は胸の部分が少し湿ってきたことに気がついたが何も言わずに黙ってただ抱きしめる。

「しばらくこうしてなさい・・・」
「美神さんの気が済むまでいますよ」

しばらく二人は静かな時間を共有した。


ガチャッ

「あ、横島さん!」
「なんとか納得してもらったよ」

令子の部屋から出て来たのを確認して駆け寄るおキヌ。ただ、相変わらず令子が出てこないのが気になった。

「美神さんは?」
「ああ、なんか眠くなったから寝るって言って追い出された」

横島の言うとおりあの後令子は「眠いから寝るわ」と言って寝てしまった。もちろん「寝るからとっとと出て行け」ということは忘れてはいなかったが。
苦笑しながら話す横島に今まで黙っていた美智恵が話しかける。

「あら?令子は寝ちゃったの?」
「ええ」
「ちゃんと説得できたかしら?」
「はい、ちゃんとわかってもらえました」

「そう、じゃ私は帰るわ」と言って美智恵は帰っていった。シロは待ちくたびれたらしく自分の部屋で眠ってしまっているとおキヌから聞く。

「じゃ、俺も帰るよ」
「あ、お見送りしますね」

二人は連れ立って事務所を出る。それと同時にどこかの部屋のドアが開く音がしたのだが、二人は気付かず出て行った。
事務所前に出ると横島は制服の第二ボタンを引きちぎる。

「横島さん?」
「おキヌちゃん、これ・・・」

おキヌの手をとって自分の第二ボタンを握らせた。

「おキヌちゃんにはいつも迷惑かけてたからね。それに今回もなんの相談もなしに決めちゃったし」
「横島さん・・・」
「これ渡すのは最初からおキヌちゃんにって決めてたんだ。俺からもらっても嬉しくないだろうけど、もらってくれないかな?」
「ありがとうございます。私嬉しいです・・・大切にしますから」

おキヌは横島の第二ボタンを大切に、大切に両手で握り締める。

「じゃ、お互いに頑張ろうね」
「はい!」

横島が事務所から離れていく。それを所長室の窓から見下ろしていた美神はポツリと呟いた。

「ガンバレ。横島君」

横島の姿が見えなくなるとおキヌが戻ってくる前に自室へと引き上げる。


こうして横島は美神除霊事務所から独立した。これから彼を待ち受けているものは?全ては彼の頑張り次第だろう。


おまけ

「ただいま〜」
「「おかえりなさい」」
「ふぁ、おはよ〜」
「「「愛子(ちゃん)おはよう」」」

「「「あれ?」」」

その瞬間、雪蛍、タマモ、愛子が同時に気がついた。

「さてと着替えなきゃな」

事務所から帰宅した横島はすぐさま着替えて今度はクラスメイト達のお別れ会に参加するために再び家を出る予定だ。そのために自分の部屋に行こうとしたのだが、それを雪タマにとめられてしまう。横島は「なんだ?」と返そうとして失敗した。

「ねぇ、女の人の匂いがするんだけど・・・なんでかな〜?」
「これって美神さんのだよね〜?独立の報告にいったんじゃなかったのかな?」
「私も是非知りたいわ〜。どういうことなのかな?」

そこには3人の修羅がいたからだ。恐怖で顔を直視することができない。直視した瞬間に意識を失うだろうという確信がもてるくらいに。なんとか誤解を解こうと言葉を紡ごうとするも恐怖で上手く発声できず、カチカチと歯をならしていた。

「お兄ちゃんの・・・」
「横島の・・・」
「横島君の・・・」


「「「ばかああああああああああああああああああ!!」」」


横島は星になった。


あとがき

もう4月になってしまいました。ラッフィンです。

3月中には完結させるつもりだったのに、もう4月。しかもまだ完結していないという失態。 
どうやって独立を認めさせようかと悩み、詰まって・・・他作に逃げました。
ごめんなさい。
いざ、ネタもまとまり書こうと思っていた矢先、手を怪我して執筆が出来ない状況になりしばらくは読むほうに専念してました。そして、ようやく書きあがりました。

はい、予告通り次でこの話は完結です。これだけは本当です。では次回にお会いしましょう。ラッフィンでした。


レス返しです。


ういっす様

修羅場にはなりませんでした。今回はどうやって独立を認めさせるかに頭を悩ませていたためにそこまで余裕がなかったというか・・・。


whiteangel様

少なくとも横島の周りには境界線はありませんからねw
横島君の苦労は続く〜。


ren様

初めまして。

あれ?人数が多くありません?っておキヌばっかりじゃないですか!?
まぁ、黒でも白でもおキヌは大好きですよw


秋桜様

そうですね。横島兄妹とその関係者だけで世界を牛耳れますからね。
修羅場にはなりませんでした。


DOM様

無自覚だから威力がすごいwそれがフラグクオリティw
小鳩ちゃんは事務員ですよ〜。


内海一弘様

黒キヌを期待されてました?
すいません、期待を裏切りました・・・


アイク様

横島の場合は自己嫌悪というか自分の評価が最悪ですからね。それがジャマになっているんだと。

嫉妬パワーをエネルギーに変換する技術を発明したら、それはもう自然に優しいですよねw


シシン様

最終兵器美智恵がいればなんとか攻略できます!・・・たぶん。

>笑ってごーごーなのですよ
某うっかり魔術師の妹を思い出しましたw


趙孤某様

私もあんなイイコが彼女に欲しいです・・・まさか、理想を反映しているのか!?そうなのか!!??

これはたぶん白キヌでしょうか?

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