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「魂の行く末は 第三話(GS)」

麻緋 (2007-04-01 22:30)
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   タイトル:「魂の行く末は」 第三話:「トゥ ビィ」


 彼はひとり、そこにいた。
 そこは暖かく、柔らかで、居心地のいい場所。
 いつからそこにいるのか、どうしてそこにいるのか。
 彼には思い出せない。
 自分が何者なのか、名前すら思い出せない。
 だが、それは彼にとって、どうでもいい事。
 だから彼は思考を停止し、全てをこの場所に委ねようとしていた。


『でも、それでいいの?』

 消え行く彼に、何処からともなく語りかける声。

『いいも何も、俺に出来る事なんか無いだろ?』

 彼はその声に疑問を持つ事すらない。

『あるわ。……にしか出来ない事が』

 その声は力強く、優しく、彼に沁み込んでいく。

『どうでもいいよ……』

 それでも、彼が消えていくことを止められない。
 今の彼には何もないのだから。
 消える事に抵抗などありはしない。

『……これでも!? 彼らを、彼女達を悲しませたままでいいの!?』

 泣いてるのだろうか、その声が震えている。
 言葉と共に、幾つものイメージが彼に伝わっていく。


――神通棍を使い、除霊を行う亜麻色の髪の女性。

――子守唄を歌う、巫女服を着た女性。

――台所に立つ、みつあみの女性。

――戦いの最中、嬉しそうに笑う男。

――教室で人から奪った弁当を食らう男。

――女の子に囲まれて慌ててる男。


 他にも沢山の人々。

 そして……。

 そして。


――真っ赤に染まる東京タワーでの……。


『あ……』

 涙が零れる。

『まだ、何も終わってない……』

 彼の言葉に力が満ちる。
 思い出す。
 大切な。
 大切な人の事を。

『いえ、何も始まってないのよ?』

 優しく、彼の言葉を訂正する。

『そうだっ。……が待ってるんだっ!』

 そう、何も始まっていない。
 これから幸せになるんじゃないか。

『まだ、キスしかしてないのにーーーっ!!』

『……そ、そう来るか』

 彼の煩悩丸出しの台詞に、声も呆れているようだ。

『戻る! すぐ戻る! だが、どうすれば良いのか分からねぇーーっ!』

『……にしか出来ない事があるでしょ?』

 どうすればいいのか分からなくて七転八倒する彼に、気を取り直した声が道を指し示す。

『……できるのか? 今の俺に』

 戸惑う彼。
 声が言う、彼にしか出来ない事。
 それを今の状態でも出来るのか。
 彼は全く自信が持てないようだ。

『……ならできるわ』

 些かの惑いも無く確信している声。

『そうだな。やるしかねぇもんな』

 自信満々な声に勇気を貰い、彼は集中し始める。
 彼の力だけではなく、周りからも力を集める。
 もう半ば周りと融合している彼にとって、それはたやすい事だった。

 だが、そこで周りに異変が起きた。


――……やり直したい。


 今まで聞こえてきた声とは違う意志が現れる。

『まずいわ』

 今まで聞こえてきた声にも焦りが混じる。

『なんだ?』

 彼もまた、嫌な予感がし始める。
 その為、出来るだけ急いでそれを形成。
 既に結晶化し始めたそれを、目的に合った能力へと制御する。

 だが、間に合わなかった。


――やり直せるもんならやり直してやるーーーーっ!!


 周りの意志がそれに伝わる。
 それが、目的以外の能力も持ち始める。

 そして、発動。

 彼は周りから引き裂かれ、移動する。
 傷は癒され、足りない物は補充される。

『さようなら。ヨコシマ』

 遠ざかる声。
 必死に伸ばす腕。
 届かない手。
 今なら分かる。
 その声の正体。
 彼女以外に誰がいるというのか。


『ルシオラーーーッッ!!!』


 彼女を呼ぶ声だけがむなしく響くのみだった。


   ***


 横島が目を覚ましたとき、世界は赤く染まっていた。
 窓から差し込む夕日。
 彼女といた時間。
 甦る思い出。
 横島の頬には涙が伝っていた。


   あとがき

 むずかしいです。
 横島らしくなりません。
 でも、ルシオラが絡んだシリアスだからこんなかんじでいいかな?
 次回以降はもうちょっと、横島らしくなる予定です。

 前回の感想への返信は前回の感想欄に書いておきました。

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