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「魂の行く末は 第四話(GS)」

麻緋 (2007-04-15 19:17)
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「横島さん!」
 部屋に入ってすぐに、キヌは横島に抱きついた。
「良かった……。本当に良かったです」
「おキヌちゃん……」
 その声からキヌが泣いている事に気が付いた横島は、彼女の気が済むまでこうしている事にした。
 いつもなら煩悩爆発する所だが、ルシオラとの辛い別れによりそれ所ではなくなっている。
 いくらルシオラの為にも自分らしくした方が良いと言っても、意識せずにらしく振舞えるほどの精神状態ではなかった。

「……こほん」

 キヌの嗚咽のみが、かすかに聞こえる。
 そんな柔らかな時間。
 それを打ち破ったのは遠慮がちな咳払い。
 キヌは自分の行動に今更ながら真っ赤になりつつ、横島から距離を取る。

 部屋には横島とキヌだけではなく、ヒャクメとワルキューレ、ジークに美神母娘と西条もいたのだから。

「えーと、話を始めてもいいかしら?」
「す、すみませんでした! はい、構いません!」

 遠慮がちに美智恵が声を掛け、話し始める。

「まずは横島君。どこまで知ってるのかしら?」

 そう切り出し、本題に入る美智恵。
 まずはアシュタロス事変の終盤で、横島が美神令子に完全に吸収された事。
 二人を分離する為にあらゆる試行錯誤が繰り返された事。
 どのように分離したのかと言う事。
 その他にも細かい事まで説明し、情報の摺り合わせを行った。

「横島君。ここまではいいかしら?」

 横島は美智恵の確認に頷く。
 美智恵は横島がここまでの話を理解したのを確認し、頭を下げる。

「今回の件は本当に申し訳なかったわ。私なんかが頭を下げたぐらいじゃ償いにならないと思うけど、出来るだけの事はさせてもらうわ。令子! 貴女もほらっ!」

 突然の謝罪に横島がうろたえている合間に、美智恵は娘の頭を鷲掴みにして、無理矢理頭を下げさせようとする。

「ちょっと、ママ! 止めてよ!」

 美神は抵抗し、その手を振り払う。
 美智恵はそんな我が子を叱り飛ばすが、美神はなかなか謝ろうとしない。
 周りの人たちも最初は黙ってその様子を見ていたが、次第にエスカレートする言い合いに止めに入る。

「ちょ、ちょっと、止めてくださいよ! こうして無事なんですから、いいじゃないですか」

 そう言って、横島までが止めに入る。
 だが、それが美神の気に触ったらしい。

「別に、謝らないって言ってるわけじゃないじゃない! 横島クン! わるかったわね! ご迷惑お掛けしました!」

 「本当にそれで謝ってるのか?」と言いたくなるような勢いで言い切ると、美神は不機嫌な顔で横を向いてしまった。

 美神としては謝る気があった。
 だが美智恵に無理矢理頭を下げさせられたのと、今までの横島への態度から素直に言い出せなくなっていたのだ。

「令子! そんな言い方がありま……、え?」

 逆切れした美神に美智恵が更に小言を言おうとした所で、雰囲気が一変している事に気が付いた。
 誰もが不安な顔をして、何やら呟いている。
 不審に思った美神母娘は彼らの呟きに耳を傾けてみる。

「あ、謝った?」
「そんな、美神が?」
「あの、傍若無人が?」
「やっぱり、融合した事で……」

 等々、美神が謝った事が信じられないようだ。

「あんたら、私が謝ったらそんなにおかしいかーーーっ!」

 叫ぶ美神を見ながら美智恵は思う。
 美神もその周りの人達も、美神が謝る事により何かが変わることを恐れていたように思える。
 だから、美神は素直に謝れず、周りの人達は逆切れ気味に謝った美神を茶化すように振舞ったのではないか。

――いい関係じゃないの。

 そう思いつつも、「うちの娘のイメージって……」そう、嘆かずにいられなかった。


   ***


 暴れだした美神を宥め、何とか次の話題に移る。
 今度はヒャクメによる美神と横島の検査の結果報告だ。

「えーとですね〜。
 二人とも零基構造に少し欠損が見られるけど、自然治癒で治る程度なのね〜。
 それとー。
 多少混ざってるけど人格に影響が出るほどじゃないのね〜。
 とりあえず、問題らしい問題は無いのね〜」

 ヒャクメの説明は簡単な物だったが、取り合えず大丈夫らしい。
 だが、その説明を聞いた美神は、困ったような表情で何か言いたそうだ。
「……あー。こいつの記憶らしきものがあるんだけど……」
 意を決した美神が横島を指差しながら発言する。
 それを聞いたヒャクメは最初は不思議そうにしていたが、数秒で令子の言いたい事を理解したらしい。
「融合してたんだから当たり前なのね〜。しかも二週間もあれば相当なものなのね〜」
「ちょっと待って」
 ヒャクメの発言から美神は何かに気が付いたようだ。
 横島はその横で嫌な汗をかきながら逃げ出そうとしている。
 だが、その行動が目的を達する事は無かった。
 底知れぬ握力と怨念にも似た感情に彩られた手で首を絞められていたからだ。
 ちなみに、片手で。
 その手はヒャクメから目を逸らさずに腕を伸ばしている美神に繋がっている。
「こいつも私の記憶を持ってるって事?」
 手にはますます力が込められ、美神の顔はヒャクメとの距離を近づけていく。
 近距離から睨み付けられているヒャクメは、その勢いに怯えながらその質問に肯定の意味で首を縦に振る。
「……ふっ、ふふふふふ」
 出来る事なら否定してもらいたかった質問の答えを受け取った美神は、俯くと不気味な笑い声を搾り出し始める。
「あっ、……がっ、がはっ!」
 そろそろ横島の息が詰まりそうになっているが、それどころではない。
 誰もが美神の恐ろしいまでの重圧に、身動きひとつ出来ないでいるのだから。

「……忘れなさい」

 それは突然の呟き。
 だから誰もその呟きを即座に理解する事は出来なかった。
「忘れなさいっ! って言ってるでしょっ! 忘れるのよーーっ!」
 美神は顔を真っ赤にしながら泣き叫び、今度は横島の首を両手で締め上げながら前後に激しく揺さぶる。
 横島は失神寸前の状態で既に抵抗するどころではなく、このままでは首の骨が折れてもおかしくないだろう。
「そうよっ! 文珠を使うのよっ! それで忘れなさいぃっ!」
「まっ、待つのね〜! それは駄目なのね〜!」
 事ここに至って、ようやく全員が令子を止めに動く。
 美神の起こすヒステリーを止めるのはこれで本日三度目である。
 融合した事で情緒不安定気味なのだろうか?


   ***


「ただでさえ色々あって霊気構造が不安定になってるから、これ以上刺激を与えるような事は駄目なのね〜」
 何とか美神を横島から引き離し、横島への凶行を止めさせる為の説明を行う。
 一応おとなしく聞いてるが、いつ暴発するかわからない状態だ。
「解ったわ。忘れさせるのは無理って事ね。ただし……」
 美神は一応解ってくれたようだが、横島を睨み付ける。
「喋るんじゃないわよ?」
「イ、イエッサー!! わかっておりますっ!」
 これを反故にすれな命は無いと瞬時に理解した横島は敬礼をしながら即答した。
 これにてひと段落したと、誰もが安堵したとき。
「遅れました」
 そう言いながら部屋に小竜姫が現れた。
「ちょっと、手続きに手間取りまして」
 理由を説明する小竜姫に続いて、パピリオとベスパが現れる。
 パピリオとベスパはアシュタロスの部下だった。
 その為、現在は一時的に妙神山預かりになっている。
 そして許可なしに妙神山から出ることが出来ないくらい、その行動を著しく制限されていた。
 横島の所に来る為に小竜姫が上に許可を取りに行ったのだが、かなり手間取ったようだ。

 パピリオが両手で何かを大切に持ちながら、ゆっくりと歩いてくる。
「ヨコシマ……」
 パピリオは横島から1メートルほど離れた所で立ち止まる。
 何かを躊躇うようなその行動。
 その顔には涙を堪えるような、悲しみの表情が張り付いている。
 そっと、差し出された両手。
 その掌の上には。
「ルシオラ……」
 一匹の蛍が淡い光を放っていた。


   *** 


「何か方法は無いんですか!?」
 横島の切なる叫びが部屋に響き渡る。
 横島を救う為にその命を使ったルシオラ。
 彼女の霊破片を集めたが最低量に僅かに足りずに復活する事が出来ずにいた。
「ひとつだけ可能性があるわ」
 一人だけその声に応える者がいた。
「本当ですか!? 美神さん!」
 横島は発言の主である美神に詰め寄る。
 あくまで可能性の話だと前置きし、令子は説明を始める。
 横島が目覚める前に病院内で妊婦を見たのが思いついたきっかけらしい。
 要は横島の中に大量にある、ルシオラの霊気構造を利用した転生。
 つまり、横島の子供に転生する事により、霊気構造の必要量を満たす事が出来るのではないかという話だった。
「俺の子供に?」
 それを聞いた横島は動揺していた。
 言いたい事は何となくわかるが、それをどう認めたらいいか分からない。
 恋人が子供として生まれ変わるというのだ。
 素直に納得しろというのは無理というものだろう。
「少し考えさせてください」
 横島はすぐに答えを出す事が出来なかった。
 逃げたといえない事も無いだろう。
 それでも時間が欲しかった。
 もう、ルシオラの声は聞こえない。
 独りで決めなければいけないのだから。
「あまり時間は無いわよ」
 追い詰める事になるかもしれないが、それは言っておかなければいけなかった。
 少ない霊気構造のみでそう長く持つ物ではない。
「……はい」
 部屋には多くの人がいる。
 だが、言葉少なに応える横島に誰も何も言えなかった。


   ***


「横島さん!」
 ピートが動いた。
 両手を広げ、ベッドへと突進するが横島に無造作に避けられてしまう。

「何で避けるんですかっ!」
「避けるに決まってるだろーがっ!」
「何でですかっ!」
「男に抱き付かれてたまるかっ!」

 そんなやり取りをしていると、横からタイガーに無き叫びながら抱く。
 タイガーとしては横島が生還した事を喜んでくれているのだろうが、横島から骨でも折ってそうな嫌な音がしているのを気にした方がいいだろう。

 そんな友情のやり取りを周りは微笑ましく眺めている。
 中にはピートを目当てにしたエミや見舞いの品を持って帰ろうとしているカオス等がいたが、その人数の多さから患者の人徳が、いや、人付き合いの広さが伺われるだろう。

 横島が美神から分離し生還した時に公園を覆うほどの光が発生した。
 それを近所の住民が見て警察に連絡、駆けつけた警察に唯一意識があったエミが事情を連絡し、救急車及び各所に連絡が行われた。
 ちなみに、エミは酔いが回って立ち上がれなかったそうだ。
 その日の昼ごろには美神の、夕方には横島の意識が戻った。
 翌日の午前中までに粗方の検査診察等が終わり、午後には面会が許され、今に至るわけである。

 西条のように皮肉を言う人間もいるが、大方の人間は横島の生還を喜び、それに対する横島の対応もいつも通りのように見受けられる。
 だが、キヌを含めた親しい人物からすれば、横島のそれは何処か無理をしているように感じられた。


   ***


「いいの?」
 それはその日の夜の事。
「はい」
 横島は例の方法を選択した。
 彼の判断を聞いて、提案したものの美神も本当にそれでいいのかつい、問い返してしまう。
 だが、横島は無理をしているようにも見えるが、迷いは無いようだ。
「恋人にはなれないけど、まだ幸せにしてやれる方法があるなら、それを選択するしかないじゃないですか……」
 笑おうとして失敗する。
 彼には事実上選択肢なんかなかった。
 それでも諦めたくなかったから迷ったのだ。
「ルシオラは大切で、あいつが生きてた頃は恋したたのかどうか良く分からなかったけど、今でも良く分からないけど……。それでも、あいつには幸せになって欲しいんですよ」
「横島クン……」
 顔をくしゃくしゃにして声を上げずに涙を流す横島を美神がそっと、抱きしめる。

「さよなら、ルシオラ。また会おうな」

 その様子をヒャクメが複雑な表情で見ていたことを、横島は気付かなかった。


   タイトル:「魂の行く末は」 第四話:「ロマンチストの独白」


 私は見る事に長けた神族で、それを仕事にしている。
 だから人の秘密を見ることが多い。
 今回の件もそうだ。
 彼がこのことを知ったらどうするのか。
 彼は彼女を選ぶのか?
 私はそれが怖い。
 彼が誰を選ぶにしても。
 この事とは関係なしに選んで欲しい。
 だから私は秘密にする。
 そして彼が幸せになる事を祈っている。
 彼は今回の件で、大きな代償を払ったのだから。
 彼が幸福な選択をしますように。

 私は願っている。


「はふぅ〜。真面目に語るのは疲れるのねぇ〜」


   あとがき

 これにて、アシュタロス事変関連の後始末はひとまず終わりです。

 何と言いますか、説明の場面は苦手ですね。
 なかなか上手く行きませんでした。

 美神が色々やってますが、ここまで何か彼女が貧乏くじ引いてますね。
 そんなつもりはないのですが、彼女か横島が暴走するのが彼ららしいかな、と思ってますのでつい、こんな風になりました。

 前回の感想への返信は前回の感想欄に書いておきました。

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