―第十三話 蘇る者と思想の闇 ―
ドオォオン!
横島が最初の音、爆音は建物を揺るがし、小竜姫達にも始まりを教えていた。
横島の命を掛けたコンサートの始まりを・・・
「・・・いきますよ」
ガチャッ
ジークはヒャクメの言う結界が有る方へ銃口を向け、静かにヒャクメに問う。
ヒャクメは何も言わず一度頷いた。
小竜姫も何を言わず、ただ見守るのみ。
ピリピリとした空気の中、ジークは撃鉄を起こす。
パァン!
「今なのねっ!」
銃弾は見事に結界に当たり、一瞬だがその存在を不安定にする。
その一瞬はヒャクメにとって十分だった。
ヒャクメは全ての目を全開にし、コンピュータのキーを高速で打つ。
ヒャクメの目は結界の構成を正確に読み取り、解除の為の波動をコンピュータで流す。
無能と呼ばれたヒャクメの真の実力がそこに有った。
文珠の結界は、蒼い光を放ちながら消えていく。
それと同時に巫女服を着たおキヌ、霊体のおキヌとその体が姿を表す。
おキヌは床に膝を付き、俯いたまま動かない。
「助けに来た!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おキヌさん?」
ジークの声におキヌは何の反応も返さず、ただ沈黙を保っている。
そんなおキヌに首を傾げたのは小竜姫だ。
もう1柱は何をしていたかと言うと・・・
「はひぃ、はひぃぃぃ・・・・」
へばっていた。
力の代償は神通力、ヒャクメは普段その力を全開で使う事はまず無い。
かのアシュタロス戦ではエネルギー節約の為全開ではなく視野を広げただけ、
さらに平安京では自分の近くは完全に盲点だった。
しかも、全開で一点集中など、やる機会も無い。
横島とおキヌの捜索に、全開で見た事も有ったがそれは妙神山や神界でだ。
ソレ等の場所でも1分が限界、
そんな力をこんな所で使えば一瞬で力を使い切るのは当たり前だ。
人間で言えば唯の体力不足。
使えるのか、使えないのか・・・有能なのか無能なのか・・・非常に微妙なヒャクメだった。
「お、おキヌちゃん。早く、逃げるのね〜」
ヒャクメが荒い息のままそう言うが、おキヌは俯いたままだ。
良く見れば、その目から真珠に様に大粒で、美しい涙がポロポロと流れ続けている。
おキヌは泣いていた。
「っ!?おキヌちゃん。聞いてたのね〜」
「・・・はい」
「聞いてたって・・・まさか!?」
「横島さんの事なのね〜」
ヒャクメは失礼にもおキヌの心を覗いた。そこは悲しみに彩られた“何故”の文字が所狭しと並んでいる。
そして、それから連想させる事は現状では1つだった。
「今は話をしている時間は無い!早く脱出を!」
「そうなのね〜横島さんは今必死に頑張っているのね〜」
「横島さんの為にも今は逃げる事が大切です」
「・・・分かりました」
ゴン
「いぃっ!?」
3柱の説得におキヌはそう言い、霊体の手で一番近くにいたヒャクメの手をとった。
ジークが無言でおキヌの肉体を肩に担ごうとすれば、鈍い痛みがジークを襲った。
「なっ、何をするんです!」
「女性の体を何も言わずに担ぐのはダメですよ?」
(我慢、我慢だジークフリート少尉!任務中だぞ!)
ジークが叩かれた後頭部を擦りながら振り返れば笑顔の小竜姫がいた。
文句を言えば理不尽な答えが返ってくる。ジークは自己暗示をかける様にそう心の中で叫ぶ。
ワルキューレが横島の寝顔を見て、似たような事をした事をジークは知らないが、流石は姉弟だ。
「確かにそうですね。配慮が足りませんでした。しかし、いきなり神剣で殴るのは・・・」
「すいません」
ジークが少し引き攣り気味の顔で言えば小竜姫は素直に謝った。その事に疑問に思うのはヒャクメだ。
「小竜姫どうしたのね?いきなり殴るなんてらしく無いのね〜」
「なんでかしら?私も分からないの」
小竜姫のらしくない行動にヒャクメは本人に聞くと、返ってきた答えも非常に微妙なモノだった。
小竜姫はそう答えながらもおキヌの肉体を担ぐ。
「それじゃあ逝くのね〜」
「・・・何か違う気がするのは何故だろう」
ヒャクメの合図で、彼等は妙神山へ転移した。転移の際ジークの呟いた一言に答える者はいない。
誰もいなくなった空間に、何故か冷たい風が吹いたのは・・・気のせいだ。
妙神山に着いた彼等は大忙しだ。【保存】の文珠の効果が切れれば厄介な事になる。
妙神山に着いた限りそうでもないが、問題は早めに解決した方が良い。
「じゃあ霊視を始めるのね〜」
妙神山の母屋にて、おキヌの肉体を寝かせ、蘇生の準備を始める。
ヒャクメののん気な声に、緊張感の欠片も失せてしまった。
ちなみにパピリオはまだ寝ている様で、斉天大聖老師は不在だ。
「・・・・・・・・・なるほどな〜のね〜」
「何が必要なの?」
しばらくすると、ヒャクメがそう呟く。
ヒャクメが軽くしたつもりの空気は電気でも流れてそうな程張り詰めていた。
小竜姫は早速行動しようとそうヒャクメに問う。
「別に特殊なものは要らないのね〜要るのは高エネルギーなのね〜」
「高エネルギー?」
「肉体の破損は横島さんが完全に治してあって、後は魂を肉体に定着させ、
再起動させる為のエネルギーは気脈並みの膨大な量が必要なのね〜
本人の魂もあって、霊体も肉体もピチピチ(死語?)。蘇生に問題無いのね〜」
「・・・あの時と同じなんですか?」
ヒャクメの説明を聞いていた面々だったが、おキヌは不安そうな顔でヒャクメに問う。
ヒャクメはおキヌの言う“あの時”を考え、答えを直ぐに出した。
「おキヌちゃんの言うあの時じゃ死津喪比女の時なのね〜?
確かに状況は似ているけど、違うのね〜記憶も無くならないから安心して良いのね〜」
「そうですか・・・じゃあお願いします」
「了解なのね〜。という事だから小竜姫とジークさんお願いするわ」
「正と負、両方を均等に混ぜたエネルギーで蘇生させるのね?」
「そうなのね〜」
おキヌはヒャクメの言葉に再び横島や美神達の事を忘れないですむと安心し、頭を下げた。
二つの力を混ぜ、プラスマイナス0にする事は必要だ。霊力は基本的に中間、0なのだから。
神通力や魔力のみでも蘇生は十分可能だが、どうしてもソッチよりになってしまう。
例えば小竜姫の竜気のみで蘇生した場合、竜神と人の中間・・・竜人になる。
「「「3・・・2・・・1・・・」」今なのね!」
ギュウゥアァァァァァァァァァァァァァ
3柱は同時にカウントし、ヒャクメの合図で小竜姫とジークは同時に力をおキヌの体に流し込む。
2種類の力はヒャクメが微調整し、共鳴しながら霊力に近いモノになる。
おキヌの体がまるでブラックホールの様に2つの力を飲み込む。
「おキヌちゃん!」
「はい!」
カッ!!!
力が十二分に充満し、ヒャクメの言葉におキヌは自分の体に、幽体離脱から戻る様に重なる。
そして重なると同時におキヌの体が閃光を放つ。
小竜姫とジークは力を流し込むのを止め、行く末を見守る。
「・・・・・・・・・ふぅ〜。成功なのね〜」
「「はぁ・・・」」
閃光が止み、力無く床に眠るおキヌをヒャクメが霊視し、
ヒャクメの霊視の結果に小竜姫とジーク、ヒャクメ自身も安心し、肺に溜まった空気を一気に吐き出す。
「うむ。見事じゃったぞ」
「「「斉天大聖老師!?」」」
いつの間にかいたキセルを吹かす民族服を着た老猿、斉天大聖孫悟空に3柱は驚いた。
気配なく背後をとられ、安心した瞬間に言われたのだ。
例え神魔だろうが、妖怪だろうが人間だろうが普通は驚く。
「ふむ。小竜姫も鍛練が足りんの〜ジークフリート少尉も軍人としてはなっとらんぞ」
「「は、はぁ・・・」」
3柱の反応に斉天大聖は2柱にそう言う。
言われた当人は少し頭がパニック気味なのか、唖然とした顔でそう言う。
ヒャクメは・・・斉天大聖も期待していない様だ。
「さて、ジークよ。コレを最高指導者から預かっておる」
「はっ!ありがとうございます。サー!」
斉天大聖がそう言いながら一通の封筒をジークに渡す。
ジークは敬礼し、封筒を受け取ると、部屋の隅に行き中身を確認する。
「!!!・・・あの、老師。本当にコレがですか?」
「・・・すまぬ。間違えた。こっちじゃ」
引き攣った顔でジークは手に持つ紙を斉天大聖に見せる。
斉天大聖はジークの持つ紙に懐を再度確認し、
正しい方をジークに渡すと、ジークの持つ紙を大切そうに、懐になおした。
ジークの手に有ったのは・・・ゲームステーション3の割引券だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
老師、私に帰還命令が出たので魔界に戻ります。
あと、横島クンは無事です。その治療は魔界最高指導者様が受け持つとの事です。
ちなみにそれには神界の最高指導者様も認めている様です」
「知っておる。行け」
「失礼します」
ジークは再度同じ方法で内容を確認すると、書いてある事に2、3疑問を持ちながらも、
斉天大聖にそう言い、帰還の許可を得るとすぐに転移してしまった。
「・・・なぜ横島さんの治療を魔界でするのでしょうか」
「さあの?まぁ、悪い様にはせんじゃろ・・・」
小竜姫の疑問にキセルを吹かしながら斉天大聖はそう言った。
小竜姫の顔には疑問の色が強く有った。
ヒャクメは・・・いつの間にか寝ていた。
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一方魔界では、最高指導者の居る部屋の前に、横島を抱きかかえたワルキューレの姿があった。
「失礼します」
「お!待っとったで。上手くやった様やな」
「はっ!」
ワルキューレは横島を優しく床に寝かせると最高指導者の言葉に敬礼する。
「さて、もうええぞ。ワルキューレ。
あ、戻るついでに第六治療槽はワイの権限で使うと事務部に言うといてくれ。コレを一緒に渡してな」
「了解しました!(なぜ、わざわざココまで横島を運ぶ必要が有ったのだ?)」
ワルキューレは疑問を感じつつ、最高指導者から一枚の書類を受け取り退室する。
扉が閉じられると同時に、部屋が暗くなったかの様にな雰囲気になる。
最高指導者は鎖で固定したあった玉を取り、横島の胸の中心に置く。
ズブズブと音をたて、玉はゆっくりと横島の体の中へ沈んで行った。
「さて、どうなるやろうな?クソ宇宙意志。
ワレもそれが見たいんとちゃうか?まぁ見てろや・・・・・・
どないなるかワイも分からんけど、ワレが望む最高の結果にならんとだけは保障したるわ。
自分を犯す可能性の有る者共の死・・・横島忠夫の死は絶対にさせん」
魔界最高指導者の呟きは、誰に聞こえるモノでは無く、魔力に満ちた部屋に溶け込んだ。
ココからが本当の始まりかもしれない。
―後書き―
花粉症と風邪が一気に襲い掛かって来た〜
さて、一応一段落が付き安心したアイクで〜す。風邪のせいで更新が遅れました。
ちなみに今も鼻をかみながら、咳をしながら書いてま〜す。
次回は横島の体に起こった様々な変化の原因が分かります。
シロちゃん大暴走!の後日談、タマモ編を書く事にしました。
自信は無いですが頑張ります。皆さんの望む作品になれば良いな〜と思いながら、
風邪で回らない頭で構想を練ってます。
ですから、シロちゃん大暴走のレス返しはそちらに書きます〜
書く前に風邪が治って欲しい・・・季節外れのインフルエンザだったら嫌だな・・・・・・
〜レス返し〜
・アミーゴ様
ワルキューレさんは戦“乙女”ですから・・・この一言に尽きます。
サッちゃんは・・・魔王で魔王らしくない様な無い様な?で行くつもりです。
・February様
続きが気になってくれていると?感激です!(涙)
ワルキューレのフラグは・・・どうなるかはお楽しみでお一つ・・・
前回サッちゃんが笑ったのは両方の意味です。
ちなみに悪魔も悪魔、大魔王ですから。
・DOM様
魔王らしい魔王が壊れそうで少し鬱になりそうです。
『時ナデ』見れたそうですね。良かったです。ハーレムモノ(?)ですが、面白かったですか?
・とおりすがり様
玉の正体は次回で明らかになります。