三界を騒がせた事件のあと。
なぜか消滅するはずが、人間として転生してしまい。力も能力も失ってしまったアシュタロス。
しかし、野望は大きく三界征服だったりした…………。
「人は城、人は石垣、人は堀」
拳を握り雄々しく語る我らのアシュ様。
背景が四畳半のボロアパートでなければさぞかし美しい。
「……突然どうしたというのですか?」
そんなアシュ様を土具羅は不思議そうに見て言った。
ちなみに彼の周りには、今日中に納品しなければならない内職の封筒が、列を作って待っている。
「うむ、昔の武将の言葉でな、たしか『武田鉄矢』という」
「……いやそれは違うんじゃないでしょうか?」
そして、土具羅の半眼もなんのその、アシュ様は今回のトンデモワードを喜々として発言なされた。
「力とは人である。だが我が神聖SOA帝国は圧倒的に人不足なのだよ」
「……『神聖SOA帝国』?」
聞きなれない単語を耳にし、問いただす土具羅。
それを受けたアシュタロスは待ってましたとばかりに腰に手をあてた。
「無論、国の名だ。ちなみにSOA帝国とは『(S)世界を』『(O)大いに盛り上げる』『(A)アシュタロスの』『(帝国)団』の略だ」
「……いや、最後の『(帝国)団』はまったく分かりませんが」
そんな土具羅の呟きなどアシュタロスには全く聞こえていないようで、さらに踏ん反り返ると気持ちよさそうにのたまった。
「クーデターは魔王の時にやってしまったから、今回は征服戦争という手段をとることにしたのだが、民間組織ではテロにしかならん。だから私は国家を建国したのだ」
「ですが、いきなり国と申されても……」
現状では不可能ではないか?と危惧する土具羅であったが、アシュタロスは拳を握っていないほうの手をもって、彼の発言を制した。
「フッ言ったはずだ土具羅、私は『建国した』と」
「な、なんと!?」
アシュタロスの言い切りように、建国が既定の事実であると知る土具羅。
まあ、たしかに何をもって国とするかは難しい問題なので、つくったといえば出来てしまうのかもしれない。
「既に、この国にも建国宣言は通知済みだ、日本の外交対応次第では開戦もありうるから注意するのだぞ」
「事がそこまで進んでいたとは……であれば、この土具羅、粉骨砕身でのぞませていただきます!」
土具羅は畏まって頭を垂れた。
ちなみに日本政府に宛てた神聖SOA帝国の建国宣言は次のとおり
『日本政府のみんなー元気かね?ほんとは病気なのに隠してる子はいないだろうか?
そんな事はさておき日本から独立せんとす。
まぁ今後何か困ったことがあったらいつでも言いに来ていいかな?』
──閑話休題
「そこで冒頭の話にもどる。国は建てた。だが我が国は圧倒的に国力の基礎たる人、これは人材、人口全てを指すのだが、それがまったく不足しているのだよ」
「たしかに……ですがこの土具羅、八面六臂で国家の屋台骨を支えてみせましょう!」
そう言うと通常の3倍の速さで封筒張りを再開した土具羅。まるで赤くなって角がついたかのような勢いである。
しかし、そんな土具羅の手をアシュタロスは握って止めた。
うつむき加減に首を振る。
「──お前の忠心、なによりの宝と思う。だが無理をしてお前が倒れでもしたらどうする?」
「ア、アシュ様……なんともったいない御言葉」
土具羅は感涙に震えた。この御方の為ならば一生も二生も捧げて悔いはないと。
「無論、お前にはこれから一肌も二肌も脱いでもらうつもりではいるが、やはり根本的には増やさなければどうにもなるまい」
そこで腹案がある──とアシュタロスは土具羅を伴い部屋を出た。
玄関を出る、右向け右、前進3m、右向け右、ドアを開けた。
「──ん?……のわっ!!」
「──え?……きゃ!!」
扉を開けると、そこは自分達の部屋と全く同じ間取りを持つ部屋。早い話がお隣さん。
そして、その部屋には、今まさに唇と唇の一時的接触を図ろうとしていた男女の姿があった。
「気にせず続けてくれたまえ」
「出来るかっ!」
「出来るわけありませんっ!」
紳士的な態度で臨むアシュタロスだというのに、ヒステリックに喚く男女。
男はGジャン、Gパン、頭にバンダナといういでだちであり、女のほうはボブカットになにやら特撮番組に出てくる悪役幹部のようなコスプレちっくな衣装を身に纏っている。
既にお分かりかもしれないが、ここはかの煩悩少年の部屋。
男の名は横島忠夫、女のほうはルシオラという。
「少年、それにルシオラも、いつも言っているが、突然の事態にも落ち着いて対処せよと──」
「突然の事態そのものが、えらそうに言うなっ!つか、俺の……俺の煩悩を返せっ!!」
アシュタロスの奇怪な行動に怒声をあげる横島。
ルシオラは抱き合っていた格好が恥ずかしくなり、真っ赤な顔で横島の背に隠れた。
さて、なぜ横島を庇って死んでしまったはずのルシオラが、当たり前のように生きているのか?と言われれば──まったく何でなんだろう?と返答してしまう。
元々アシュが何食わぬ顔をして闊歩している世界であるからして、宇宙規模の神秘が働いたのだろう……そういうことにしておきたい。
ちなみに男女不平等な世界らしく、ルシオラは魔族のままだった。
「で?今日はなんの用だ?」
既に日常的な風景になってしまっているのか、動じていない風の横島。今は4人でルシオラが煎れたお茶をすすっていた。
「うむ、じつは──かくかくしかじか」
そう言って用件を話すアシュタロス。
いや、世の中には便利な言葉があるものだ。
「──というわけで、我が『神聖SOA帝国』は人口を増やそうと思うのだ」
「──?それと私たちとどんな関わりが?」
まったく話が分からない、というルシオラの表情。
「もう少し砕いて説明する必要があるか……つまりだ、我が帝国民たるお前達に──」
「ちょっと待て、いつ俺たちがお前の妙ちくりんな帝国民になったんだ?」
聞き流せない戯言に横島の突込みが入る。
このアンポンタンが何かをしでかすのはいつものことだとして、巻き込まれてはたまったものではない。
ここは断固として言及すべきところであろう。
「ふむ────土具羅」
「ハッ!」
横島の突っ込みに、やれやれと溜息を吐くアシュタロス。
土具羅はなにやら手に持ったリモコンのボタンを押した。
すどん!
突き破られるアシュ家と横島家を隔てる薄っぺらな敷居。
にょっきりと突き出た丸太によって、壁は貫通していた。
「これで、この部屋は我が国と地続きとなったわけだ。そして我が国はこれをせんりょ──」
「やかましい!」
すぱんっ!
どこからともなくハリセンを取り出した横島の突っ込み、アシュタロスの頭をはたき落とした。
「!い、いまのは物質変換か?それとも投影魔術!?」
「んな高等なもんじゃねえ!関西人なら誰でももってるスキルだっ!」
あ〜どうすんだこれ──と穴の開いた壁を見ながら横島は嘆いた。
「さて、これにより我が帝国の人口は倍増したわけだが、正直いってまだまだ足りない」
ハリセンの一撃により、頭にでっかいコブをつけたアシュタロスは言った。
ちなみに二人が帝国民なのは、もはや既定の事らしい。
「そこでだ、君達にはさっそく────『増やして』もらいたい」
「は?」
「え?」
アシュタロスのもの言いに、クエスチョンマークをでっかでかと浮かべる二人。
いつものことではあるが、コイツの言っていることはまったくもって理解不能だ。
だが、ただ一人、アシュタロス第一の忠臣である土具羅は、その真意を察して無言のうちに部屋の隅へと移動する。
「ふむ、説明せんとわからんか……つまり子供をバンバンポコポコとつくって人口をふやしてほしいと言っているのだ。生めよ増やせよというヤツだな」
…………
「──なにも難しい注文ではあるまい?君らが夜毎行っている行為を『ゴムなし』にするだけなのだから」
…………
「いや、毎夜毎夜よくもまあと関心するくらい励むものである。小鳩一家が我々に部屋を譲るのももっともだ」
…………
「だがしかし、喜びたまえ、その行為に我が至高の事業の手伝いという意義がついたのだ、これからは誇るがいい」
完璧なる自説を披露し悦に入るアシュタロス。
完全だ!パーフェクトである。
そして、フルフルとうつむきながら震えている蛍の化身。
それは恐怖そのものだった────と後に横島は語る。
「……聞いてたんですか?」
「うむ、録音もしてある。この前ベスパに聞かせたらな、結構評判がよかっ──」
しかし、元魔王は言葉を全て言い切ることが出来なかった。
ゆらりと立ち上がるルシオラ。
真っ黒な瘴気を身に纏うその様は、まさに魔王の娘。
「アシュ様が……」
そのまま一歩踏み出す
「泣くまで……」
彼女は元魔王にして自らの創造主の襟首を掴んだ。
「殴るのをやめないっ!!」
夕刻、一台の救急車が安普請のアパートに停車し、重症となった一人の男を搬出する姿が目撃された。
本日の戦果
入:人口2
出:医療費
壁の修理費
レターセット一式
人口2
おしまい
後書きのようなもの
え〜と、こんばんわキツネそばです。
突発的アシュ様モノその2です^^;
次話のプロットはまったくありませんm(_ _)m
オチを少し修正
レス返しです
>スケベビッチ・オンナスキーさん
魔神だったころの知識や技術はあるでしょうが……決定的なネジが抜けているらしい
当アシュ様だとどうなるのでしょうね?^^
とりあえず のんびりと頑張ります^^
>夢識さん
ベスパなんですよね〜
ネタ的にどこかで出さないといけないキャラなのですが、まだキチンと書けるかどうか
不安なキャラであります^^;
>アミーゴさん
ベスパの紐なんですね、やっぱりw
アシュ様と土具羅は確固とした君臣の愛で結ばれているのでたとえ三畳一間になっても
大丈夫なはず?です。
>Quesさん
アシュ様は決定的な何かを失ってしまったようです^^;
というか魔王だった本編でも、圧倒的な力ではありましたが、決定的なところは
元々ぬけていたようにも思えてしまいます^^
だから、好きなんですけどね♪
>ダヌさん
神聖SOA帝国の領土は旧小鳩邸でありました。
二人はもう少しだけ裕福になっているんだと思います……たぶん^^;
どのくらいかというと──とっておきが冷凍食品くらい?
……意気投合できそうですね(TT)
>akiさん
ど、土具羅を売るなんて!彼は優秀ですよ〜。
頭をはずして逆さにすれば、土鍋にもなれます( ̄ー ̄)