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「極楽大冒険 Report.06(GS)」

平松タクヤ (2007-03-19 22:25/2007-03-19 22:26)
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-Side of Yokoshima-


 「ふぁ〜ぁ……」

 まだ午前六時だというのに目が醒めてしまった。流石にあのオンボロアパートからいきなりこんなだだっ広い新居に引っ越せば、違和感ありまくりでなかなか寝付けねーのも無理はねぇ。まったく、お袋め……。

 「とりあえず顔でも洗うか……」

 まだ慣れない新居で、戸惑うことも多いんだよなぁ。えっと、洗面所ってこっちだったか?アパートのときは全てが目に見える位置にあったから、そういう意味では便利だったけど。お、ドアがあった。さて……と。

 ガチャ

 俺がドアを開けると、そこには結構立派な洗面所……ではなくて…………


 「え……?」

 「……あっ……」


 ……六女の制服に着替えてる途中なのだろうか、前の開いたブラウスとそこから覗く純白のパンティーとブラジャーしか身につけてないおキヌちゃんがそこにいた…………。白い肌に白い下着が俺の目に眩しく見える中、時間が静止していた……。


 「……ち……ち……」

 「え?いや……あの……その……」

 「ちゃんとノックしてください!!横島さんのバカァーッ!!!」


 ドゲシッ!!!


 「たわばっ!!」

 時間が動いたのは、おキヌちゃんの投げた目覚し時計が見事俺の顔面にクリティカルヒットしてしまったその時であった……。


 「ああ……痛てぇ……」

 朝っぱらからいきなり意図せずに覗きをやっちまうとは……。これが女の子と一緒に暮らすってことなのかねえ。
 でもおキヌちゃん、俺の知らない間に随分と色っぽくなってたなぁ……。俺のスカウターではさしずめ戦闘力(バスト)83のCカップといったところか。うん、なんつーか、俺好みの身体になってきたって感じ?やっぱり身体は三百年も氷漬けになってたから、その反動ですごい勢いで育ったんやろうか。
 俺はグッと拳を握り締め、鼻血を垂らして何か成長したみたいな感じを覚えた。 

 ちゃららちゃっちゃっちゃっちゃ〜♪

 よこしまは 今の『姿』を深く心に刻み込んだ!!


 「横島さんっ!!」

 わっ、まだ着替え中のおキヌちゃんがドア開けて突っ込んできたよ……。


 「もうっ、早くこのお家に慣れてくださいよっ」

 「いや……俺って広い家に住むのって違和感ありまくりでさ……」

 台所からはフライパンで目玉焼きか何かを焼く音が聞こえる。そこには既に六女の制服に着替え、その上にエプロンをつけてるおキヌちゃんがいた。エプロン姿の女子高生って……なんつーか、萌えるよなぁ。

 「でも……、横島さんが私の着替えを覗いたこと……実は嬉しかったりするんです、きゃっ♪」


 ブハッ!!


 「ゲホゲホ……、な、なにゆーてんねん!!」

 不慮の事故とはいえ、何で着替え覗かれて嬉しがるんや!!思わずコーヒー吹いちまったぞ!!そんな俺に対して、悪戯っぽくウインクなんかするおキヌちゃん。

 「だって、横島さんって美神さんの着替えやお風呂はしょっちゅう覗くのに、私のは全然覗いてくれなかったんですもん」

 「ちょっとまっとくれ!!おキヌちゃんにんなことしたら俺、完全に悪者やん!!」

 「ウフフ、どうでした?私も以前よりはずっと女らしい身体つきになったでしょ?」

 おキヌちゃん、さらに煽るか。確かに生き返った直後の頃と比べると、身体は色気を増してるし、胸も育ってるし……。こりゃあもう……いや、いかん。何考えてるんだ俺は。

 「なんだったら、夕べは一緒に寝ても良かったんですよ?」


 ドガシャァン!!!


 「よ、横島さんっ!?」

 何爆弾発言かましとるんや!!今度はテーブルに頭打ち付けちまったぞ!!

 「いくら同居生活始めたからって、流石にそこまではちょっと……。それにおキヌちゃんまだ高校生だろ。間違い起こったら……」

 「あら、私は構いませんけど?むしろ年頃の男女が一つ屋根の下に居るんだったら、間違いがあってしかるべきだと……」

 『しかるべき』って何考えとるんやっ!!しかもその言葉の後、顔真っ赤にしてるし!!やっぱ女性週刊誌の悪影響かなんかか?

 「きゃ〜っ、私ったら、私ったら〜!!!」

 で、頬に手を当てて、頭から湯気出しながら身体クネクネさせてるよ……。こりゃ『一緒に寝よう』なんて言おうものなら大暴走間違い無しだな。でもそんな妄想で暴走する姿も結構可愛かったりする。
 何で俺とおキヌちゃんが同居生活始めたか?と聞かれると、お袋の陰謀というのが理由だったりする。俺とおキヌちゃんが付き合い始めたってことで、お袋が『独立開業しなさい』っつーもんだからこうなったということだ。で、住居もボロアパートじゃなくてこんな高層ビルの事務所兼用の立派な4LDKなんぞになったんだよな。あの放任主義の親がここまでしてくれるとは、おキヌちゃん効果の派生型かなんかだろうな。一応、おキヌちゃんの家族や美神さんも認めてはくれたけど。


 ドンドン、ドンドン……


 玄関からドアを何回もしつこく叩く音が聞こえてきた。

 「私が出ましょうか?」

 「いや、おキヌちゃんは飯作ってる途中だろ?俺が出るよ」

 俺は椅子から立ち上がって玄関へと向かった。こんな朝っぱらからドア叩きまくって、近所迷惑だぞ、ったく。

 ガチャ

 「はい、どなた―「せんせぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!」うわっ!!!」

 ドアを開けると、いきなりその向こうから何かが襲い掛かってきた。俺は廊下に押し倒されてしまう。

 「せんせぇ、何で、何で拙者を置いて出て行ってしまったのでござるかーっ!!」

 そう、俺の一番弟子こと人狼の娘のシロである。身体こそ急成長で大人になってるが、中身はまだガキなんだよな、こいつ。

 「朝っぱらからやかましいぞ!!俺たちはまだここに入居して間もないんだから、厄介事を起こすんじゃねー!!」

 「先生、散歩いこ、散歩!!」

 「ちょっ、い、痛てぇ!!は、離せっ!!」

 こいつ……興奮していて周囲に迷惑かけてることに全然気付いてねーな……。尻尾ブンブン振ってとにかく散歩行こうって気になってて周りが全く見えてない。

 「横島さん、どうしたんですか……?」

 おキヌちゃんまで手にフライパン持ったまま出てきた。

 「え……シロちゃん?」

 「おキヌ殿……」

 突如現れたおキヌちゃんを睨みつけるシロ。何やら親のカタキでも睨みつけるような視線だった。嫌な予感がするな……。

 「……おキヌ殿だけズルいでござる!!拙者の……拙者の先生と一緒に駆け落ちするなんて!!」

 「で、でも……これは……その……」

 戸惑うおキヌちゃんを、シロは容赦なく問い詰める。

 「口先八寸で丸め込んで先生を誘惑したのでござろう!!先生が本当に必要としてるのは……拙者の『らう゛』なのでござるっ!!」

 何言ってるんだこいつは。おキヌちゃんもこの言葉で何かが切れたみたいな顔をして、フライパンをシロに向かって突きつけたぞ……。

 「何ですって……?いい、横島さんは私の彼氏さんなのよ!やっとの思いで両想いになったんだから!!」

 「拙者は先生の弟子でござる!!弟子は常に師匠の下にいるものでござるっ!!拙者の『らう゛』で師弟共に心技体を鍛えて強くなるのでござるっ!!」

 「そういうのを『略奪愛』って言うのよっ!!」

 「なら、拙者はその『りゃくだつあい』とやらに殉じるでござる!!」

 なんかこのままじゃ泥沼化する気がする……。昔は二人とも仲良くしてたはずなのにどうしてこうなっちまったんだ?ここは俺が仲介しねーとまずくなるな……。

 「シロ、お前が俺のことを慕ってくれるのは良くわかる」

 「そうでござろう!ならこれから拙者と……」

 俺は掌をシロの目の前に突き出す。

 「待て。でも俺は、俺の意志でおキヌちゃんの気持ちを受け入れたんだ。それにお前は人狼の里から『美神さんが預かってる』んだから、勝手な行動は許されないだろ」

 「いや、拙者を預かってるのは先生でござろう……」

 「お前は人狼の里を美神さんの敵にするつもりか?それにお前が俺のところに来たら、只でさえ二人減った美神さんトコの従業員がさらに減るじゃねーか。これ以上美神さんに迷惑かけるわけにはいかねーの」

 「それでも、それでも拙者は!!」

 聞き分けのねー奴だな……。やっぱ中身はガキだなこいつ。このままじゃ話が平行線のまま進まなくなるぞ……。

 「拙者も『あいのとうひこう』ってやつで先生の下へ……ギャウッ!!

 後ろからシロの頭に瓦割りチョップをクリティカルヒットさせた奴がいた。シロが落ちると、その姿が見えた。

 「やれやれ……。なーにが『愛の逃避行』よ、まったくこのバカ犬は諦めが悪いんだから。私は朝はダメだっていうのに世話かけさせるんじゃないわよ、ふぁ〜あ……」

 それは妖狐の娘・タマモであった。シロとは違ってこっちは割と常識人(狐?)だから、シロを連れ戻しに来たんだろうな。欠伸なんかして、相当迷惑そうな顔してるぞ。

 「横島におキヌちゃん、ごめんね。こんな朝からこのバカ犬に付き合わされて」

 「ううん、私もさっきは言い過ぎちゃったところがあったから」

 「いいのよ、おキヌちゃんがそんなこと言わなくたって。大体おキヌちゃんは正々堂々と横島に告白して受け入れてもらえたんだから、ガツンと言ってもバチなんて当たんないわよ」

 容赦のねー台詞だな。

 「躾の悪い犬に必要なのは言葉じゃなくて身体で覚えさせることなのよ。でないと駄犬になるからね。じゃ」

 そう言ってのびてるシロを引きずってタマモは帰っていった。タマモ、そうとうシロの扱いが上手くなったな。


 そんなこともあったけど、俺達は無事朝飯も食い終わった。やっぱおキヌちゃんの手料理は美味い。これから毎日食えると思うと、俺って幸せもんだと思う。人生捨てたもんじゃ無いかもな。
 おキヌちゃんはまだ終業式を迎えていないため、これから六道女学院に通うことになる。

 「じゃ、これ新しい通学路の地図と定期券ね。また迷子になったりしないように」

 「もうっ、私だって何時までも方向オンチなままじゃないんですから」

 拗ねた顔をするおキヌちゃん。こういう顔も可愛くていい。

 「俺はこの後、GS協会で手続きとかやってくるから。いろいろめんどくせーけど、唐巣神父が手伝ってくれるから大丈夫だろ」

 「いいんですか、そんなことで?でも、横島さんらしいですね」

 ま、そういうのが俺の性分だからな。おキヌちゃんもそれはよくわかってるのか、呆れながらも微笑んで返してくれた。

 「じゃ、行って来ます」

 おキヌちゃんは元気な笑顔を俺に見せて、玄関のドアを開けて学校へと向かった。


 「極楽大冒険」
 Report.06 Horizon


 おキヌちゃんが出かけた後、俺は開業準備の手続きでGS協会に向かうために電車に乗って移動中。その間に提出する書類を封筒から出して確認した。


  事業者名:横島霊能事務所

  住所:東京都港区芝公園○−×−△ ラインハルトビル30F

  資本金:二億円

  所長:横島忠夫
     霊能力の系統:怪しい霊能力+煩悩パワー 備考:文珠使い

  助手:氷室キヌ
     霊能力の系統:ネクロマンシー+神道系 備考:元幽霊


 と、現段階ではこんなもんだろ。まあ、俺の霊能力が煩悩を変換するという怪しいものであることは否定できないのが哀しくもあるが。ちなみに名称を『除霊事務所』ではなく『霊能事務所』としたのは、まだ駆け出しのペーペーだってことなので除霊以外の仕事にも対応できる所だという事をアピールするためのものである。
 資本はお袋が美神さんから頭下げさせて得てきたという二億円(実際には何故か多少の上乗せがあった)を使っている。最も俺は霊波刀、サイキックソーサー、文珠と自前でアイテムを調達できるし、おキヌちゃんだって笛と幽体離脱があるので、霊能アイテムについては多少の破魔札やら見鬼くんやらを用意する程度だ。したがって運営コストは安上がりで済む。
 後はもう一、二人くらい助手が欲しいところか。事務担当とかも。それならやっぱり美女がいいな……。美女に囲まれてウハウハやーっ!!

 『今の発言、おキヌちゃんが聞いたら明日の朝日は拝めないだろうな……』

 誰だ!!人の妄想にツッコミ入れたのはっ!!……でも、冷静に考えればやっぱ……

 『よぉぉぉこぉしぃぃまぁさぁぁぁん…………最低!!お仕置きですっ!!!』

 『ぎょうあぁぁぁぁぁっ、耳が、耳がァァァァァッ!!!』

 ……こうなるのは間違いないだろうな……。
 というのは置くとしても、経営とかの面でも以前美神さんがオカGに引き抜かれそうになったときに所長代理やってたこともあって結構その厳しさを知っている。人を雇うってことは責任のいることだからな。まだペーペーの新米事務所で人を雇う余裕があるかどうかもわからんし。経営が軌道に乗るまでは二人でやってくかな。
 そうこう考えてるうちに、俺はGS協会へと辿りついた。

 「おはよう、横島君」

 「どうもです、神父」

 門では待ち合わせの約束をしていた唐巣神父が俺を待っていた。神父って肩書きで呼ばれても、悪魔祓いを生業とするGSなんかやってる関係でキリスト教からは破門されてるけど。
 いきなり独立開業しろとか言われても、俺にはあんまノウハウねーから誰かから伝授してもらうしかなかったわけだからな。美神さんに聞いても、言っちゃ悪いがあの人は商売に関してはどっか常識から逸脱してると思うし、エミさんだって美神さんの1.25倍タチが悪いことは身を持って体験している。冥子ちゃんは問題外、魔鈴さんもどこか常識からズレてるっぽい感じがするし。従って消去法で唐巣神父しかいないわけだ。神父は美神さんの師匠だし、仕事での縁も深いしな。ただあまりにも人が良すぎて商売人としては駄目っぽいけど。

 「いやぁ、横島君。とうとう美神君から独立か。しかもこんな僅かな期間で。私なんて一人立ちしたのは二十歳過ぎだったからね。立派になったものだ」

 神父は俺の肩をポン、と叩いた。神父もおキヌちゃんや美神さんと並んで、役立たずの荷物持ちだった頃からの俺を知ってる人である。

 「ありがとうございます。独立っていってもお袋の強引なやりかたなんですけどね。それでも美神さんが理解を示してくれたのには助かりましたけど」

 「へぇ、そうなのか。美神君も快く君を送り出したところ、成長したようで師としてなによりだよ。それに横島君の実力なら、充分一人でやっていけるはずさ」

 神父はどことなく安心した顔をしていた。美神さんが大人になったのがよほど嬉しいんだな。

 「いや、一人じゃないッスよ。おキヌちゃんと一緒ッスから」

 「なるほど。おキヌ君か……君にとってはベストパートナーじゃないのかい?」

 「な……何言ってるんスか!!た、確かにプライベートでは付き合ってるけど……」

 「そりゃあ、幽霊の頃から君にずっと憑いてきてるのを見ているからね。プライベートだけじゃなく、仕事の面でも二人で歩み始めたか。いい傾向だね」

 「ちょ、ちょっと神父!」

 神父にまで突っ込まれた。それほどにまでお似合いなのかねぇ、俺とおキヌちゃんって。なんかこっぱずかしくなってきたので俺は話題を変えるべく、神父に質問する。

 「ところで神父って、四月からGS協会の幹事長になるんですよね?」

 「え?ああ、協会から推薦を受けてね」

 神父は破天荒な人物の多い日本GS協会の中でもきっての良識派でかつ潔白な人物である。アシュタロスとの戦いでも大活躍した功績を買われて、GS協会の幹事長という役職に就くことになったのであった。これで神父も俺と同じく貧乏生活からおさらばか?

 「神父なら、数年も立たないうちに会長になれると思いますよ」

 「いや、私はそこまで評価されるような人物じゃ……」

 「謙遜することないッスよ」

 今度は俺の番だって感じで、俺は神父を褒めちぎってやった。


 その後、俺は神父の手伝いもあって開業に必要な手続きをあらかた片付けてきた。思っていたよりずっと簡単な手続きで終わったが、これでいいのだろうかと思ったりもする。まあ、神父が大丈夫って言ってくれたからこれでOKだろう。なにはともあれ、これで『横島霊能事務所』は四月一日に開業する運びとなった。

 「色々とありがとうございました」

 「どういたしまして。まだ開業まで間があるから、その間に他の準備もしておくと良いよ」

 「他の準備……といいますと?」

 「GSという仕事は結構あちこちを動き回るからね。機動力を確保しておかないと」

 機動力……ああ、そうか。そういうことね。さすがに移動だけで文珠ポンポン使うわけにもいかねーし。

 「クルマを用意しておけ、ってことですかね?」

 「ああ。美神君やエミ君も持っているからね。横島君も免許くらい、もう持っているだろ?」

 「ええ、まあ……」

 運転免許についてだが、俺は美神さんとこの仕事でコブラの運転代わったり、人工幽霊のサポート付とはいえF1マシンを運転したこともあったがそれらは全てバリバリの無免だった。流石は漫画だ。で、『無免許バレたらどうするつもりなのよ!!』と美智恵隊長が怒鳴り込んできたものだから、十八になった高校最後の夏休みの空いた日に自動車教習所に行かされて免許を取ってきたわけだ(費用は隊長が美神さんに全額払わせたのは言うまでもない)。それがこんなところで役に立つとはな。

 というわけで神父と別れたあと、俺は仕事で使うクルマはどんなのがいいか考えてみた。まず、仕事で使う以上、最低でも五人は乗れないといけない。美神さんみたいに2シーターのコブラに無理やり三人以上乗せるみたいなマネはさすがにマズいだろうし。次にそれほどデカくなく、扱いやすいサイズ。そして決定的事項として……

 「どうせ買うなら、女の子にモテるクルマだよな!!」

 そう、『ヘーイ、彼女〜』とかいって窓越しにハンドル握ってナンパして、綺麗なねーちゃんを助手席に乗せて行く当てもなくドライブして、『ねぇ、アタシとクルマ、どっちが好きィー?』とか言われてその後ムフフな事になって……これだよ、これ!!これこそ男のロマン!!男の青春!!俺がやりたいのはこれなんだっ!!


 それで先述の三つの条件に合致するクルマを探すべく、自動車情報誌を読みに本屋に行くことにした。まず入念に情報を仕入れておかないとな。

 「いらっしゃい・ませ」

 とりあえず適当に見つけた本屋に入ると、なんか無愛想というか、無機質というか……そんな声で俺は出迎えられた。で、カウンターにいるその声の主を良く見ると……。

 「こんにちは・横島・サン」


 ドガシャァン!!!


 な……なんと、カウンターにいたのは自称『ヨーロッパの魔王』ドクター・カオスの造ったロボットじゃなくてアンドロイドのR・田中一郎マリアだった……。

 「マ、マリア!!何やってるんだよこんなところで!!」

 「マリア・ドクター・カオスの・家賃・稼ぐため・ここで・アルバイト・始めました」

 また家賃滞納してんのかよ、カオスのじーさん。甲斐性ねーなぁ……。でも何で殆ど無感情のマリアが客商売なんてやってるんだか。

 「ビル建設の・アルバイト・終了して・マリア・新しいアルバイト・探していたら・ミス・六道に・この職場・紹介・されました」

 六道……ああ、冥子ちゃんか。つーことはここって、六道財閥の系列の本屋なのか?俺は一旦外に出て、店の看板を確認する。するとそこには『六道書店』とデカデカと書かれていたんだよな。俺、おったまげたぞ。

 「学校だけじゃなくて本屋とかも色々やってるんやなぁ、六道って」

 「六道・財閥・ティッシュ・ペーパーから・宇宙・ロケットまで・何でも・取り揃えて・います」

 なんか、うちの親父の会社並に怪しいと思うな、六道財閥って……。あんま関わりあいたくないような気がするぞ。
 健気に働くマリアに『頑張れよ』って目線を送って俺は自動車情報誌のコーナーへと向かい、そこで『Coo』という中古車情報誌を手に取った。今後の経営がどうなるかもわからないから、なるべくなら少しでも安くしておきたいってことで中古車を買うことにしたからだ。

 「ほー、男の価値は車で決まるんかい。やっぱ買うなら女の子にモテる車やなぁ〜」

 『車を持ってない奴はモテない』なんて記事があったので、他人事じゃねー俺はその記事を熟読する。まあ、女の子に一番乗ってもらいたい車といえば、そりゃ『口車』だけどな。口車に乗ってもらえばどんな女も俺のモンじゃぁ!!と、そんな下心丸出しで記事を読み続ける俺。

 「う〜ん、これはちょっとイマイチやなぁ、これも後部座席が狭すぎるし、これはチト高いな……」

 なかなか条件に合致する車が見つからない。

 「お!?」

 悶々とする中、俺はすげえ物件をついに見つけてしまった。

 「え?マジ!?」

 俺はその記事を見て『これだ!!』と背中にエレクトリックサンダーが走った。

 「何か怪しいな……。でも、騙されたと思って乗ってみるかね」

 怪しいと思いつつも、俺はこの記事の載った情報誌を買うことにした。

 「すんません、コレ……え?」

 「ピ・ピ・ピ…………」

 カウンターで仕事をこなしていたマリアの目が、なんか警報機の如くピカピカ光っていた……。

 「エマージェンシー・エマージェンシー・万引き・発見。マリア・万引き犯・追跡・します」

 な、なんか嫌な予感がする……。

 「ジェット・エンジン・始動。マリア・発進!」


 ドビュゥゥゥゥゥン!!!!!!!


 自動ドアが開く前にガラスをぶち破ってマリアは滑空していった……。周りの客が全員引いてるぞ……。つか、万引き犯……死ぬな。合掌。


 物騒なこともあったが、俺は購入した情報誌に掲載された記事の店に辿りついた。つか、六道書店のすぐ近所だったのか。

 「いらっしゃい」

 なんか、どこか如何わしい風貌のオッサンが出てきた。なんというか、厄珍みたいな感じの胡散臭いオッサンだ。しかし人を外見だけで判断するのは愚の骨頂ともいうし、とりあえず気にしないことにした。まあ、何か有ったらそのときだが。

 「あー、すんません。この本に載ってるクルマのことなんスけど……」

 俺は例の記事をオッサンに見せる。

 「おー、アレのことですか。それならここにありますよ」

 オッサンに案内されて、俺はお目当てのクルマとご対面となった。ちなみに記事に書かれていた内容はというと……。

 H1○年式インプレッサSti 
 白・無事故・走行距離千km・フル装備・エンジン及びサスペンションフルチューン・車検二年付・価格五万円・購入後すぐ乗れる

 この内容で『五万円』というのがすげえと思ったんだ。五万円だぞ、五万円。一昔前の俺の時給の二百倍の値段だぞ。なんかワケありっぽいけど、実物を見てみないことにはそうそう判断は出来ない。というわけで俺はいっぺん見に行くことにしたのである。実用性があって、大きくなくて、かつ女の子にモテるクルマという条件は全部パスしてるしな。
 実物を見てみると、外見は特に修理した感じもしない、一見すれば新車と見間違うくらいピカピカである。内装だって別に怪しい感じはしない。念のためエンジンも見てみたが、ここも別にボロが出ているようには見えなかった。これがどうしてたったの五万円なのか。

 「ちょっと質問なんスけど、何でこのクルマ、こんなに程度いいのに五万円なんスか?」

 「いえいえ、特に疚しいことは無いですよ。むしろ出血大サービスの大チャンスですよ」

 「つか、なんかヤバいことにでも使われたんスか?または無事故を装った事故車だとか、エンブレムだけ変えたニセモノとか……」

 ひょっとして、犯罪にでも使われたのか?だいたいこんな極上車が五万で売られてたらとっくに誰かが買ってるはずだ。なのに俺が来るまで誰も手をつけてないとはどういうことなのか。

 「いや、別にヤバいことに使われてたわけでもないですし、無事故でニセモノじゃないのは紛れも無い事実です」

 「それ、信用してもいいんですか?」

 「はい。この通り車歴書もございます」

 オッサンの口調は、別に何か隠してるわけでもない、至って普通の口調であった。出された車歴書を見たら以下の通りであった。

  H1○年 前オーナーが新車で購入
  H1×年 前オーナーの父親が本車を売却

 なるほど。前オーナーが買ったはいいが、何らかの理由で親父に売り飛ばされたってわけか。ちゃんとした履歴もあるというのに五万円、誰も買わないなんてますます謎が深まるばかりだぞ。それでもこの極上車が五万円というのは非常に魅力的だ。やっぱ貧乏性やなぁ、俺……。

 (この機会に頂いちまうか?いや、何か裏がある可能性は絶対捨てきれない……う〜ん……)

 悩む中、俺はある結論に至った。せっかく五万で買えるのだから、とりあえず買っておいてその後何かあった場合はこのオッサンの店に文句つければいい、という結論に。ある意味暴論でもあるが、客に変なもの売りつける店は文句言われたってしょうがねーしな。それこそ裁判モノだ。

 「じゃ、とりあえずこのクルマ買いますわ」

 「毎度あり。やっと買い手がついてくれてこのクルマも喜んでおりますよ」

 『やっと』ってのが妙に引っかかるが、何かあったら文句言ってやる。それだけのことだ。


 登録や税金・保険などの手続きを一通り済ませ、俺は五万で買った極上車の運転席に座る。うん、流石極上車。ヘタりも何も無い、いい座り心地だ。まだ新車の匂いもほのかに香るくらいだ。余韻に浸った後俺はクラッチを踏む。結構重てぇ。そしてキーを最後まで回してエンジンを始動させる。


 グォォォォォォォォン!!!!!!


 すげぇ甲高い音でエンジンが唸る。フルチューンというのも嘘偽りねーな。ホント、お得なお買い物したぜ。ギアを1速に入れ、クルマを走らせる!!


 ウォォォォォン!!!!


 音も凄けりゃ加速もすげぇ。なんつーか、美神さんのコブラにも匹敵するくらいだ。こんなのを五万で手に入れた俺って、ひょっとして人生の幸運全て使い切ったのか?と疑ってしまう。

 「イヤッホォィ!!!」

 シフトアップ、シフトダウン、ヒールアンドトゥ、フルスロットル……気分は小学生のミニ四駆に燃えてた頃の『浪花のペガサス』に戻ったみてぇだ。これで助手席に美女がいればカンペキだよなぁ……。

 『キャーッ、はっやーい♪』

 『そうだろそうだろ?このまま愛の終着点に向かってアクセル全開じゃーっ!!!!』

 『わーい♪私をどこまでも連れてってね、ダーリン♪』

 これこそ青春じゃ!!俺が求めるのはこういうウレシハズカシな青春じゃーっ!!!

 『そうッスよねぇ……』

 ん?何だこの声は?このクルマには俺しか乗ってないはずなのに。ふと助手席のほうに目を向けると……。

 『やあ』

 !!!!!!!

 キキキィィィィィィィッ!!!!!!

 助手席で見た異様な光景に、俺は思わずブレーキをこれでもかといわんくらいに踏みつけた。そこには何か冴えない感じのにーちゃんが居た。しかも何かぼやけて見えるし、背後には人魂が二つ漂ってる……。ヲイ……これって……。

 『どうッスか、俺のクルマ?なかなかのもんでしょう……「なんだーっ!!!お前はーっ!!!!!」う、うわっ!!』

 俺はいきなり助手席に現れた幽霊に向かって怒鳴りつけた。なるほど……このクルマが極上なのに五万という破格で売られてたのはこういうわけだったのか。つか霊能力者のくせに幽霊憑きだってことに気付かんかった俺もまだ未熟だが。

 「あのオッサン……よくも俺をハメやがったな!!文句言ってやるぞ!!」

 『あ、あのぉ……』

 「許るさーん!!!!」

 隣の幽霊を無視して、怒り心頭の俺は今来た道を引き返して例の店へと向かった。


 キキキィィィィッ!!!バタン!!


 「くぉら!!!幽霊憑きだってこと隠してたな、このクソオヤジィィィィッ!!!!!!」

 俺はさっきの店に怒鳴り込んだが、案の定店の事務所には張り紙がしてあった。

  沙羅双樹の華が見たくなったので京都に行くため暫くの間休業いたします 店主

 「死ねっ!!」

 逃げやがったか!!俺は正拳突きで張り紙ごとガラスをぶち破ってやった。まんまとハメられちまったってわけだ……。

 『あのー、すんません』

 例のクルマに憑いてた幽霊が俺に何か尋ねてくる。ん?まてよ?このクルマ、幽霊が憑いてたから安く売られてたわけで、霊が憑いてなけりゃ普通のクルマだよな。そして俺はGSときた。ならこいつを除霊しちまえばお買い得なクルマであることになんら変わりはねーことになる。
 でも、こいつ見てるとなんか、そんじょそこらの雑霊みたいに無理やりにでも除霊したる!!とかいう気分にならねーんだよな。なんというか、俺と同じニオイがするようで、親しみすら感じてしまう。

 「さっきは脅かして悪かったな。なあ、お前さぁ、どうして幽霊になったんだ?」

 『え?』

 「幽霊ってのは、死んでから何か思い残すことがあったから成仏できずに現世に留まってる霊のことだからな。一体何が未練なんだ?俺でよければ成仏するの手伝ってやるからさ」

 『……幽霊に優しく語り掛けるなんて……、アンタ、変わった人ッスねぇ……』

 そりゃあ、GSなんて仕事やってる上に、いろんな幽霊やら妖怪やら見てきて全部が全部悪い奴等ばかりじゃないってことは俺が一番良く知ってるからな。

 「だってさ、お前、全然悪い幽霊に見えないからさ」

 『……アンタ、一体何者なんスか?』

 「俺の名は横島忠夫。一応ゴーストスイーパーなんてやってる身だ」

 『ゴ、ゴーストスイーパーっ!??ひーっ!!!』

 俺がGSだってことを話すと、幽霊はビビってクルマのシートの影で震えていた。

 『アンタ、俺を強制的に除霊しようとしてるッスね!!俺、消えたくないッス!!誰か助けてッスーッ!!』

 「おいおい、俺は別にお前を無理やり除霊しようって気は毛頭ねぇよ。だからそんなにビビんなって」

 『え?GSって幽霊を除霊するのが仕事じゃないッスか?』

 「生憎俺はまだ開業してないからな。これはプライベートの行動だ。お前の心配するようなことはしないから安心しろ」

 俺がクルマの運転席に腰かけて諭してやると、幽霊も一先ず安心したようだ。幽霊のくせに小心者なんだな、こいつって。

 「で、お前がどうして幽霊になって、このクルマにとり憑いてしまったのか。話してもらいたいんだが」

 『ハイ……。俺の……この世の未練……』


 俺には、付き合ってた彼女がいたッス。
 彼女、カッコイイクルマに乗ってる男が大好きっていうから俺、死に物狂いで働いて七百万円稼いでこのクルマを買ってバリバリにチューンしたッス。
 で、このクルマで彼女と初デートとしゃれ込もうとした矢先……。

 「そういうわけだから……」

 「そういうわけって……。どういうわけだよ深雪ちゃん……」

 「私……他に好きなヒトが出来たの!だから……もう貴方とは会えない……」

 「ちょ、ちょっと待っ……」

 「ゴメンなさい!」


 ガォォォォォン……ズザァァァァァッ!!!!


 俺の目の前に、突然フェラーリが現れたッス。そして彼女、まるで子猫のようにフェラーリのドライバーにベッタリで……。

 「お待たせ、深雪」

 「ダーリン!!」

 (ダ……ダーリン!!???)

 「ゴメンね〜、こういうわけだから」

 バタン……

 「なあ、何が食べたいんだい?」

 「高いものなら何でも〜♪」

 「ゴメンねぇ〜、負け犬君!」


 ガォォォォォォォ…………


 『俺……彼女のために必死で七百万稼いでクルマ買ったのに…………。その彼女、フェラーリに乗ってるプレイボーイに浮気して、俺……ものの見事にフラれたッス!!そしてショックのあまり、俺はこのクルマの中で自ら命を断って…………』

 な……なんちゅう悲惨な……。

 『俺はそのことが未練で、この車に地縛霊……この場合は車縛霊っていうんスか?になったんス。俺の死後、このクルマは親父が中古車販売店に売り飛ばして、『呪いのクルマ』という噂が付いて誰も買わずに……ってわけッス』

 車縛霊……。最近は車内で自殺を図る事件も多いし、そのうち幽霊の一ジャンルとして定着するかもしんねーな……。

 『横島サン、このクルマ一体いくらで買ったんスか?』

 「五万円」

 『ご……ごまんえーん!!!????俺の……俺の青春と七百万円をかけたクルマがたったの五万円…………』

 只でさえ冷たい幽霊の表情がさらに冷たいものになる。そらそうだろ。七百万円かけたクルマが五万円で売りに出されりゃ幽霊じゃなくても血の気が引くぞ。しかし、それ以前に大きな問題がこいつにはある。

 「お前ねぇ……女に一回フラれたくらいの事で命粗末にしてんじゃねーよ!!」

 『で、でも……俺……ショックだったんスよ!!アンタも男ならわかるでしょ!!本気で惚れた女に裏切られたショックがどれほど辛いかを!!』

 「アホ!!自慢じゃねーが、俺なんてナンパ四十人連続で失敗したことがあるんだぞ!!」

 『な、何ですとーっ!!???』

 さすがの幽霊も驚いて、その後同情するかのような生暖かい眼差しをむけている。いらん、いらんぞ!!そんな眼差しは!!!

 「それでも俺は生きることを諦めたりはしなかった!!生きてりゃそのうちいいこともあるってことを信じてな!!それなのにお前はたった一回の失恋で人生にピリオド打ちやがって……バカだよ、大バカ野郎だよお前は……」

 『横島サン……』

 そうだ。俺だって色々と辛い思いをしてきた。ナンパ成功率ほぼゼロパーセント、美女を追っかけては殴られる。しかしそれでもいつか明るい未来が来ることを信じ続けて俺は人生を捨てたりはしなかった。こいつも生きてりゃいいことあっただろうに……。

 『……俺、横島サンの言葉で目が醒めたッス。そうッスよね。世の中には俺なんかよりももっと辛い思いしても生きることを諦めない人がいるのに、俺なんて……』

 「ああ。せめて再び生まれ変わるときには、道を誤らねーことだ……」

 なんか、コイツ見てるとあの時の俺を思い出すな。ルシオラを失って、人生投げかけていたときの俺を。それでも俺を励まし、叱ってくれる人がいてくれたから、今の俺がある。しかしコイツにはそういう存在が居なかった。あの娘が居てくれなかったら俺もああなっていたかもしれねぇ……。それを考えると、俺はこいつに同情したくなってくる。

 『横島サン!!』

 「幽霊!!」

 俺はすっかり幽霊と意気投合し、互いの腕を組み合っていた。なんつーか、男の友情というやつか?一昔前の俺だったら即座に拒絶反応起こしてただろうが。俺も成長したもんだなあ。まあ、これも昔ほど女に餓えてないおかげだな。


 「……横島さんって……、ホモさんだったんですか……?」


 クルマの外から、馴染みの可愛らしい声が聞こえてきた。車外を良く見るとそこに居たのは……。

 「お、おキヌちゃん!!???」

 そう、そこにはおキヌちゃんが目を丸くしてつっ立っていたのだった。今の時間は一六時ジャスト、つまりもう下校時間だからここに居てもおかしくは無いよな。でもよりによって、男の幽霊と腕組んでるところを見られちまうとは。挙句の果てにホモ呼ばわりだぞ……。

 「わ、私というものがありながら……、一つ屋根の下で一緒に暮らすようになったのに……、男の人とクルマの中で二人っきりだなんて!!横島さん、実はホモさんだったんですね…………」

 涙をこぼしそうな顔をして、おキヌちゃんは呟いた。

 「私、もう笑えないよ……笑えなくなっちゃったよ…………」

 「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!違う、違うんやぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 おキヌちゃんの思考の暴走っぷりに俺は絶叫し、クルマを飛び出して彼女をひたすら説得する。

 「俺は断じてホモじゃなーいっ!!俺は健全な思考と肉体を持った、煩悩がアホみたいに多いだけの優良男児やーっ!!!」

 「え?違うんですか?」

 「当たり前やろ!!年がら年中女の子の事しか頭に無い俺がホモだなんて、天地がひっくり返っても有り得んわっ!!」

 「……良かった……」

 安心して俺にすがり付くおキヌちゃん。まったくどこまで天然なんだこの娘は。とりあえず、誤解されなかったのは良かったけど。

 『……嘘つきましたね……』

 「げ……」

 クルマの中から寒気がした。そう、幽霊が悪寒のするオーラを纏っていたのである。所謂『悪霊化』の一歩手前の状態だ。

 『俺にはあんなこと言っておきながら、自分はそんな可愛い彼女が居るなんて……。ズルイッスよ、卑怯者ッスよ!!』

 今度は幽霊が俺に嫉妬してきやがった。そりゃあ、こんなに可愛い女の子が隣に居れば無理も無いだろうが。

 『祟ってやるッス!!恨めしや〜ッス!!』

 「お、落ち着け!!俺がさっき言った『生きてりゃそのうちいいこともある』っていうのはこういうことなんだよ!!お前だって生きてりゃ、お前のことを理解してくれる可愛い彼女が出来たかもしれねーっつーのに、お前はその可能性を自分で捨ててしまったんだぞ!」

 『……!!』

 幽霊も俺の言ったことを理解してくれたのか、禍々しいオーラを引っ込めてさっきの気の弱そうな変な幽霊に戻った。

 『そうッスよね……。俺だって生きてれば……それなのに……』

 「わかってくれればいいんだよ、わかってくれればな……」

 『横島サン……すんませんッス……』

 和解した俺と幽霊はガッツポーズの後、バロムクロスを組む。友情クロスだ。

 「やっぱり……横島さんはホモさんだったんですね……嘘つき」

 「違うってゆーとるやろ!!」

 またおキヌちゃんが悲しげな顔して、俺をホモ扱いしてるよ……。

 「すみません、あまりにも仲がよさそうだったんでつい……」

 「頼むから、早とちりはしないでくれよな……」

 『あのお、お取り込み中すんませんが、その娘は一体?なんか、俺見ても待ったく怖がらないし……』

 俺とおキヌちゃんの漫才と言っても否定できそうに無いやり取りに、蚊帳の外の幽霊が割り込んできた。

 「ああ、彼女は俺とGSの仕事やってるんだ」

 「あ、はじめまして。氷室キヌといいます。よろしくお願いしますね」

 ペコリとお辞儀するおキヌちゃん。幽霊歴ならこいつよりずっと長いから、幽霊見たってどうってことないんだよな。

 『は、はい。こちらこそよろしくッス。し……しっかし可愛いッスねえ……』

 おキヌちゃんを見た幽霊、なにやら色目を使い始めたぞ……。

 『ねえ、良かったら僕とこのクルマでドライブを……「くぉらぁ!!この娘は俺のモンじゃーっ!!!」あべしっ!!!』

 死んでるくせに人の彼女ナンパしてんじゃねーっ!!俺は怒りのフライングレッグラリアートを幽霊にぶちかましてやった。

 『ご……ごめんなさいッス……。あまりにも可憐で大和撫子なもんだから……』

 「空気読め!!今度やったら強制的に除霊してやるぞ!!」

 俺が幽霊シバいた隣では、おキヌちゃんが『横島さんが……私を自分のモノだと言ってくれた……嬉しいです……』なんて呟きながら顔を真っ赤にしていた。

 しばらくたっておキヌちゃんは我に帰るが、まだ顔が赤い。俺もさっきあんなこと言ったので少し照れてるけど。

 「あの……。その幽霊さん、どうしてこのクルマに憑いてるんですか?」

 「ああ。彼女にフラれて自殺して車縛霊になったんだよ」

 「し……失恋で幽霊になったんですか……」

 おいおい、おキヌちゃんも呆れた顔してるぞ。

 『すんません……。本当にすんません……』

 「べ、別に私に謝らなくてもいいんですよ。でも、そういう経緯で幽霊になったのならいずれ怨み辛みで悪霊化する可能性が非常に高いから、早く成仏しないと……」

 さすが幽霊歴三百年の大ベテラン、幽霊の気持ちがわかるおキヌちゃんじゃなきゃ言えない台詞だ。

 『そ、そうッスか……。でもそれには、俺がこの世の未練を断ち切れないと……』

 「そういうことなら、私にお任せください」

 おキヌちゃんは学生鞄の中から笛を取り出した。備えあれば憂いなしってことで彼女は常に笛を持ち歩いている。何せ霊団に身体を狙われてたこともあったからな。

 『な、何をするんスか?』

 「心配するな。アレはお前のこの世の未練を断ち切らせ、気持ちを癒して成仏に導くための笛さ。苦しむことは無い、むしろ心地よい気分になれるんだよ」

 『ホ、ホントッスか!?』

 「ああ」

 俺も何度かあの笛の音は聴いてるが、実に心地の良い、癒されるメロディだ。ねじくれた心が解かれる、そんな感じだ。他をいたわる大きな愛を持つおキヌちゃんでしか、あの笛の音は奏でることは出来ないといっても過言じゃない。

 「それでは、いきますよ」

 おキヌちゃんは落ち着いて、笛を口に当てる。だが……。


 ガォォォォォォォン…………


 どこからともなく、やけに甲高い爆音が聞こえてきた。おそらくはクルマのエンジン音だろう。その音が聞こえるや否や、幽霊の表情が変わった。

 『あ、あのエンジン音は……』

 「どうしたんですか?」

 『フェ……フェラーリ……』

 幽霊が顔を向けたほうには、一台のいかにもスーパーカーって感じのクルマが止まっていた。クルマに詳しくない人間でも、それがフェラーリだってことは一目瞭然だ。

 『フェラーリ575Mマラネロ……ということは……』

 フェラーリの運転席から誰か出てきた。それはいかにもキザなプレイボーイって感じの軽い男だ。遠くから見ても解ってしまう。

 『ヤツは!!あの時の……』

 「あの時って……まさかお前の彼女を奪った奴のことか!?」

 『ええ!!俺から深雪をケダモノのように奪い去ったアイツッスよ!!』

 なるほど、あれがこいつを自殺に追い込んだフェラーリ乗りってわけか。そしてそのフェラーリ乗りの元へ、一人の美女が近づいてきた。

 「お、ねーちゃんや。エエ乳しとんな〜、じゅる……あばばばばばばばば!!!!

 ぎぃち〜

 「よ・こ・し・ま・さ・ん?」

 美女の乳に見とれてたら、おキヌちゃんにジト目で容赦なく耳をつねられた。メチャクチャ痛てぇ……。

 『!!……深雪!?……じゃない!!』

 痛がる俺の隣では、幽霊が呆然としていた。『深雪じゃない』って言う台詞で、あのねーちゃんがこいつの元彼女じゃないって事は俺にもわかった。やっぱりプレイボーイだな、このフェラーリ男。

 「ねーぇ、ダーリン♪これからどこ行こうか?」

 「フッ……二人っきりならどこでもいいさ」

 「じゃ、アタシ、海行きた〜い♪」

 お……思いっきりクサイ会話してやがる……。なんつーか、見ていてムカついてくるぞ……。

 『ハァ……バカな女だよ、深雪……。思いっきり弄ばれてさ……』

 「幽霊……」

 自分を自殺にまで追い込んだ女がプレイボーイに弄ばれた。その現実に落胆する幽霊。

 『でも……そんなバカな女に惚れちゃって……フラれて自殺までしてしまった俺は…………もっと大バカ野郎ッスね……』

 幽霊は、自分が惚れた女と、自分自身のバカさを呪っていた。なんか、信じていたものが失われたというのはこういうのをいうんだろうな。

 『横島サン……俺、あのフェラーリ野郎に一泡吹かせてやりたいッス!!』

 「え?」

 全てを悟った幽霊は、あのフェラーリ男への復讐を誓ったようだ。

 『アイツにギャフンと言わせてやらなきゃ、俺の気が収まらないッス!!未練が断ち切れないッス!!』

 「そ、そんなのダメです!!人を怨んじゃダメですよっ!!」

 おキヌちゃんが止めようとするが、俺はそれを制止した。

 「よ……横島さん?」

 「止めるな、おキヌちゃん。俺もな、ああいう女の子の気持ちを弄ぶようなサイテー野郎はなんというか、男として許せねーんだよ……」

 「で、でも……」

 優しいんだよな、おキヌちゃんは。それでもどうしても許せない奴はいる。アイツはその最たる例だ。

 「わかった、幽霊。お前の無念晴らすの手伝ってやるぜ、お前の手塩をかけたこのクルマでな!!」

 『横島サン……』

 「コイツであのフェラーリぶっちぎってやれば、アイツのプライドはズタズタだろうからな!!」

 『ええ!!七百万かけたこのクルマで、あのフェラーリ野郎の鼻っ柱を折ってやろうッス!!』

 「でも五万で買ったけどな」

 『それは言わないでくださいッス……』

 俺と車縛霊は、あの女たらしのフェラーリ野郎をぶっ飛ばすために、再度バロムクロスを交わすのであった。

 「フハハハハ!!女の子を泣かすような奴は、この横島様が成敗してくれる!!」

 『そうッスよ!!あんなナンパヤローは孫の代まで祟ってやるッス!!』

 「『ドワーッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!』」


 「こ、この人たちって……」

 高笑いする俺たちの隣で、おキヌちゃんが不安な顔をしていた……。




 あとがき。

 「開業準備編」、まずはクルマの購入から始まりました。
 五万円で幽霊憑きのクルマ買ったというのは、某地獄先生が元ネタですが車にとり憑いた幽霊と意気投合してナンパヤローを成敗するという展開に持っていきました。
 自分のことを完全に棚に上げる男、それが横島忠夫である(爆死)。

 今回、オリキャラというべき車縛霊と絡めてみましたが、実に難しい。
 改めて文章書きの難しさと言うのを思い知りました。

 次回はカーチェイスで大激突です。

 レス返し。

 >kntさん
 愛子ですが、まあ横島の性格を考えれば可能性は充分にあるでしょうね。
 ただおキヌちゃんと確執もあるでしょうけど。

 >ゆんさん
 やっぱ元シャフ○ジャパン企画7課ですから(爆死)。
 グレートマザーに逆らうことは死を意味します(どきっぱり)。

 >海鮮えびドリアさん
 最早声優ネタはお約束と化してるのが私のスタイルです(コラ)。
 クロサキ君は……かつては黒いレ○バーも操縦してましたし(爆笑)。

 >SSさん
 ハイ、その浪漫譚です。
 あのシーンがお気に入りだったので、使わせてもらいました。

 >ペテン師さん
 グレートマザーと光画部部長の関係は……さあどうなんでしょうかね?
 クロサキ君の昔の上司もとんでもない人でしたからねえ(謎)。

 >内海一弘さん
 ゆうきまさみ先生は偉大です(笑)。
 今回、シロと一悶着ありましたよー。
 今後も何かありそうですが。

 >meoさん
 マリ姉好きなので(大爆笑)。
 Rですが、塩沢さんに続いて鈴置さんも亡くなられましたからね……。
 それを考えると寂しいです。

 >いりあすさん
 やっぱりおキヌちゃんは、誰からも愛される娘ですからねー。
 グレートマザーもお気に入り。
 美神さんも、やっぱり『大人の女性』に成長するものなのですよ。

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