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▽レス始

「栗色の髪の少女 横島! 第五話(GS)」

秋なすび (2007-03-12 15:07)
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「ルシオラ…」


俺は何度も自分の中に掌の上の塊と同じ霊気を探そうとする。


「ルシオラ……」


全く見あたらない…
涙が溢れてくる…
俺はこの2ヶ月余りの間、自分の中に自分のものではない霊気を感じとっていた。しかし、あの朝、俺の中から忽然とその霊気は消え、そして、この塊が現れた。
その塊からは、ずっと自分の中に感じていた霊気が微かに感じられる。
パピリオはこの塊を見て“ルシオラ”と呼んだ…おそらくこれはルシオラの魂の欠片なのだろう…


「…」


お前はもういなくなってしまったのか…?
この塊はやはり欠片でしかないのか…?


「俺はまた…お前を…」


一筋の涙が頬を伝った…


私は時々思うことがある。アシュタロス戦役終結後、横島クンはルシオラを失った一時の喪失感から一応立ち直ったようにも見えていた。実際、以前とほとんど変わった様子はなかった。それが逆に不気味でもあり、痛々しくもあったのも事実ではあったのだが、彼は良く言えば天性のエンターテナーであり、私としてもその方が調子が出るので正直言うとかなり助かっていた。(悪く言えばそうね、ただの元気なバカ?どちらも”過ぎる”がつくが)だが、それは必ずしも周りのことを気にしてだけではないことは私にも解っていた。
──俺は、俺らしくしてなきゃな。でないとルシオラががっかりするよな。──
彼は自分が、自身の生命を落としてまで愛してくれた彼女の見ていた自分らしくあり続けることが最も重要なことであったのだろう。彼は決して無理をしているわけではないようだが、時々見せる寂しそうな表情は、未だに彼の心が彼女に縛られていることを如実に表しているように思えてならなかった。
すでに死んでしまったルシオラは彼にとって一体どういう存在なのだろうか…彼にとって私は一体…


陽は傾き空は赤く夕焼け色に染まっている。周りを断崖に囲まれたこの修行場からは夕陽を見ることはできない。
修行場の中の少し開けた場所、そこで栗色の髪の少女は赤く染まった空を見上げていた。
辺りは薄暗く、その表情はよく見えない。


「横島クン…」
「……」


密かに一つ溜め息を吐き話しかけると、少女はぴくりと肩を揺らし顔を背けてしまった。
肩が小刻みに揺れている。もしかして、泣いていたのだろうか…?
気まずい空気が漂う。


「俺は、またルシオラに何もしてやれませんでした…」
「……」


重苦しい空気に黙り込んでしまっていると、少女はぽつりと呟くように口を開いた。
やはり、ルシオラの魂は消滅してしまったのだろうか…空気がさらに重くなったように感じた。


「また…また、俺はルシオラを見殺しにしてしまったんです!」
「──!」


──違う!横島クンのせいじゃない!──
その科白が喉まで出かかったが、なぜか引っ掛かって出てこない。


「俺は…どうすれば良かったんでしょうか…?美神さん…教えてくださいよ…俺は……一体……」
「横島クン…」


ルシオラが死んでからまだ2ヶ月。その間に子供を作るなどということは不可能ではないにしても、今の彼の状況では無理な相談でもあった。
彼は未だ高校生であるし、そもそも、彼には彼自身の目的のために他の女性の身体を踏み台にするようなことができるとはとても思えない。
バカでスケベな彼は、いつも美女を見れば口説きまわるが、一方では女性を傷つけることを非常に嫌うところがある(軽率な行動で傷つける事は結構多いが)。ルシオラが彼の子供として転生する可能性は、彼にとって大きなジレンマになってしまったのだ。その不整合を清算するにはあまりにも時間が短すぎた…
涙を流す少女の姿に、あの時の横島クンの姿がダブって見える。姿は変わってしまったが、それが返って余計に痛ましく感じられる。


「誰も、こんなに早くこんな事になるなんて想像もできなかったわ…。あんたは、きっとやれることはやってたと思う。だから…だから、あんまり自分を責めないで……ね?」
「──何を…俺が何をしていたっていうんですか…!」
「……」


気休めにしかならないことは解っている。でも、言わずにはいられなかった。ルシオラが彼の子供として転生する可能性を教えたのは私なのだ…
空は情熱的なまでの赤に染まっている。それとは対照的に冷たく暗いこの空間に少女の嗚咽が静かに響いている…


「──あんたはずっと悩んでいた。こんなに早くどうにかできる状況じゃなかったのよ…それで十分だと思うわ…。それに、あんたが転生したのはきっと何か因果あってのことなのよ、だから…」
「仕方なかったなんて…言わないでください…」


少女は顔を激しく振りながら言葉を遮る。
私はそれを無視し、言葉を繋げる。


「──きっとルシオラも、あんたを苦しめたくなんてなかったはずよ。きっと…きっとこれで良かったのよ…」
「そんな…そんなの…」


生者の勝手な言い分にすぎない…そんなことは解っている。しかし、そう割り切るしかないではないか…
──横島クンは、やはり未だにルシオラを見ている──
そう思うと、なぜかちりちりと胸が焼けるような感覚に襲われた。
何か解らないが、とにかくやるせない…そんな気分に…
その感覚に引き込まれそうになり、はっとする。
──何を考えているんだ、私は…──
頭を振りその気分を無理矢理追い払った。


「もしかしたら…ルシオラの魂は、はじき出されただけかもしれない…。そうだとしたら、将来転生したルシオラと出会えるかもしれないわよ…?ほら、ヒャクメが言ってたじゃない、あんたは今は妖怪なんだって。多分それくらいは生きられるわよ」
「──そういえば、俺ってもう人間じゃなかったんでしたね…全然実感無いな…」


そう…もうこの栗色の髪の少女は人間ではないのだ、人間では…。それに性別まで変わってしまっている…


「こんな姿になった俺を見たら、ルシオラ、なんて言うでしょうね…?」


そう言うと少女は少しだけ笑みを零した。その笑顔には涙が伝い、返って痛々しさを増す。
徐々に暗さの増すこの空間に再び静寂が訪れ、しばらく俯き音もなく涙を流し続けていた少女は不意に闇色が混じりはじめた灼熱色の空を見上げた。


「昼と夜の一瞬のすきま…短時間だから美しい…」
「…?」


少女は涙を流しながらも微笑みを浮かべ、そう呟いた。


「ルシオラの言葉です…ルシオラは美しかった…今まで出会った女性(ヒト)の中で一番美しかった…そして、これから出会う…誰よりもきっと美しい…と思います…きっと…きっ…と……」


徐々に嗚咽が混じり聞き取りにくくなっていくその言葉に、自分の中に何かが込み上げてくるのを感じた。
知らぬうちに頬が濡れていた…


それからしばらく、私たちは夕焼けを見上げていた。
空が闇色に染まろうとした頃「──戻りましょうか…」と横島クンが呟いた。「そうね…」と返すと二人で居間の方へ歩いていった…


「あ、そういえば何の用だったんスか?」


居間に辿り着いた頃、横島クンが訪ねてきた。小竜姫とヒャクメはどこかへ行ってしまったのか、もうそこには居なかった。
少女のまだ赤く充血した瞳が少し痛々しく思え、目をそらしてしまう。


「あぁ…とりあえずこれ着けてみて」
「?なんスか、これ?」


小竜姫から渡された遮霊環を出し横島クンに渡す


「これを腕に着けると霊気が遮断されるわ、その代わり霊力が全く使えなくなるし、防御もできなくなるから気をつけて」
「へ〜…それじゃこれ着けたらテンプテーションの封印もできるんスね?」
「そういうこと」


横島クンはそれを受け取ると右腕に取り付けた。するとさっきまで感じていた彼の霊気が全く感じられなくなった。


「ホントに何にも感じなくなったわねぇ」
「ほえ〜…ん〜〜〜〜…ん?あれ…?」
「どうかした?」
「いや…あの、霊力をこめてみたんですけど…ん、この輪っかのせいかなぁ…」


何か違和感があるらしい。横島クンは遮霊環を外してまた霊力を込めてみようとした。


「…あれ??」
「どうしたのよ?」
「あの…美神さん…霊気ってどうやって凝縮するんでしたっけ…?」
「はぁ??」


横島クンが盛大に冷や汗をかきながら、とんでもないことを言ってきた。
空気が凍り付いた…


これはどういうことだろうか!?まともに霊気が固められない!!
掌に霊気を集めようとするが、まるでそよ風のように吹き抜けていく感じだ。ほとんど集まらない。イメージ通りにいってくれない…
ソーサーも栄光の手も霊波刀も…駄目だ、全然駄目だ!それじゃ…それじゃ、まさか!?
広げていた右手をすぼめ、人差し指、中指、親指のそれぞれの指先を向かい合わせ丸い空間を作る。そして、その中心に霊気を集中させようとする。しかし…


「文殊も…できない…」
「えっ!?」


俺の言葉に美神さんも焦りの声をあげた。
あれから一度も文殊を作っていない。普通ならもうできるはずだ。例えできないとしても、何らかの手応えが感じられるはずなのに、今はその兆候すら見られない…


「どういうことよ!?」
「──わかりません…霊気が全然集まらないんです…」
「そんな…嵐を起こすほどなのになんで…?」
「嵐…?」
「あ…なんでもないの、気にしないで。ほほほ…」


何のことだろう…?
いや、そんなことより


「ど、どうすればいいんでしょう…?ていうか、どういうことなんスか!?あぁ!これも転生が原因なんでしょうか…!?そ…それとも、ルシオラが…!!?」
「お、落ち着きなさい!」


落ち着けと言われても落ち着けるようなことじゃない。はっきり言えば、これは俺にとって霊力が全く使えないということに等しい。俺は美神さんのように神通棍が使えるわけではないし、いろいろな霊具が使えるほどの知識もない。何より虎の子の文殊が作れないなんて…


「とにかく落ち着きなさい!!集中はできなくても、霊気は感じられるんでしょ?なら霊能者としては問題ないわ!集中は訓練すればまたできるようになるわ!あんたは、天然でできるようになったからわからないでしょうけど、普通の人はそうするものよ!そういえば、前に霊気が“ブレ”るって言っていたわね。多分だけど、それが原因だと思うわ。確か、夢を見始めたのと“ブレ”だしたタイミングが一緒だったって言ってたわね。あの夢はおそらく、転生が近づいていたからだと思うわ!」


一気に捲し立てられた。俺は、あまり理解できなかったが、その勢いに呆気にとられたおかげで冷静さを少しだけ取り戻した。とりあえず訓練をすればなんとかなるということは理解できたのだが…


「文殊は…文殊はまた作れるようになるんですか!?」
「た、多分できるようになるわ!」
「本当ですか!?」
「多分…ね…」


だんだん尻つぼみになっていく美神さんの言葉に不安が募る。


『あ、お二人ともこちらにいらしたのですね……どうかしたのですか?』


2人とも沈黙してしまっていると小竜姫様がひょっこり現れた。


「あ…小竜姫様…」
「小竜姫…そうだ!これから行気法の修行をするわ、横島クン!あれができるようになったら多分霊気の集中も問題ないと思うわ」
『?霊気がどうかしたのですか?』
「えぇ、横島クンどうも転生の反動かなにかで霊気の集中ができなくなったらしいのよ。文殊も作れなくなったって…」
『え!?全くですか?』


それを聞いた小竜姫様は驚いた顔をし、俺に尋ねてきた。俺はそれにコクリとうなずき返す。
それを見ると小竜姫様は黙り込んでしまった。
しばらくすると小竜姫様はゆるりと顔を左右に振り


『そうなると行気法は少し無理かもしれませんね…あれは、そもそも丹田に霊気を濃縮させることから始まる技術なのですから…』
「あ゛!」


小竜姫様がそう言うと、今度は美神さんが固まってしまった。
どうやら行気法は体中の霊気を丹田(臍の下あたり)に濃縮して溜め、それを体中に巡らすものらしい。つまり、霊気集中ができないとそもそも不可能ということだ。
それを理解すると、俺の頭は混乱の渦に飲み込まれてしまっていた…


『ひとまず霊気集中の修行をする必要がありますね…こちらに長く居られるのであれば修行をつけて差し上げられますけど、無理なようでしたらとりあえず簡単な行気法の修行方法だけ教えておきます。どうしますか?』
「こっちに長くなんて居られないわよ!仕事もあるし明日の朝にはもう帰るわ。今すぐ修行法を教えて!」
『ま、まあそう焦らず、ひとまず夕食にしませんか?支度はできています』


小竜姫様は両肩を掴み凄む美神さんの勢いにたじろぎながらも、ニコリと微笑み美神さんを宥める。どうやら夕食ができたので呼びに来たようだ。
それから、3人で食事の準備ができている居間の方へ向かった。そこにはヒャクメがいた。ヒャクメはどこか心配そうに此方の方を見ている。


「小竜姫様、パピリオは…?」
『──彼女は出かけています…』


どうやらパピリオは修行場を抜け出してどこかへ行ってしまったらしい。
実は、パピリオがこうして修行場を抜け出してしまうのは今に始まった事ではないそうだ。パピリオは修行が嫌で、しばしば鬼門に”小竜姫からお使い頼まれたでちゅ”と言っては外へ遊びに行っているようだ。ペットを飼うのが趣味な彼女にとって外はいろいろと面白い生き物で溢れているらしい。最近では、さすがに鬼門もそのことが解ってきていたらしく、パピリオがお使いと称して出かけようとすると、引き留められては小竜姫様を呼ばれお仕置きされるようになってきていたようだ。今日もお使いと称して出かけようとするパピリオを鬼門は呼び止めようとしたが、どこか寂しげな彼女の姿に何も言えず、とぼとぼと歩くいつもより小さな背中を見送ることしかできなかったらしい。


「パピリオ…」
『大丈夫ですよ…彼女はきっと帰ってきます』
「──そうですよね…きっと帰ってきますよね…」


パピリオは俺に“また来るでちゅよ“と言った。きっと帰ってくる…


小竜姫様が作ってくれたという精進料理を食べている間も、右手に箸を持ちながらも左手に霊気を集中させようと試みてみるが…
──全然だめだ!──
口惜しさに奥歯を噛みしめる。


「……」


俺のそんな姿を微妙な表情で美神さんが見ている。


『横島さん、あまり焦らなくてもいいのですよ?ゆっくりやっていけば、きっとまた前のようにできるようになります』
「──そう…ですね…」


小竜姫様が諭してくれた。俺は嬉しいような悲しいような微妙な気分だった…
夕食を終えると、美神さんは小竜姫様に行気法の修行法を教えて貰うと言って、俺には先に風呂に入るようにと言い、先に部屋を出て行った。その時小竜姫様は


『他に男性がいるわけでもありませんが、さすがに今の姿で男湯というのもなんでしょう?お一人ですので女湯の方へ入ってください』

と言ってきた。美神さんはその言葉に少し反応したが何も言おうとはしなかった。俺にしても少し困惑したが、とりあえず小竜姫様の言葉に従うことにした。
というわけで、今、俺は女湯の湯船に浸かっている。


「……」


普段なら狂喜乱舞で、ありとあらゆる部分から血をまき散らすであろう。いくら他に誰も入っていないといっても、女湯と女子トイレは桃源郷なのだ。


「………」


しかし、今は何の感慨も湧かない。


「何やってんだろ俺…」


数年来に渡る宿願は、開けてみるととても甘酸っぱい味がした。この広い風呂場で一人湯船に浸かっていると何か孤独感が増していく。
右手に霊気を集中してみようとするが、やはり全く集まる様子はない…
──結局俺には誰も守る事なんてできやしないのか…──
湯船の中で深く溜め息を吐く。


──いつか将来生まれてくるあんたの子供に愛情をそそいでやれば……ルシオラもしあわせになるんだし……ね!?──


俺は美神さんのあの言葉に納得していた。というより納得せざるを得なかった。他に方法がなかったのだから。でも、頭では納得できていてもやっぱり心の中にはずっともやもやしたものがあった。これから先、生まれるであろう自分の子供が最愛の恋人なんて悪い冗談でしかないだろう。俺はそれをはっきりと割り切れるほど大人じゃなかった。しかし、それがこの結果に繋がったのではないのか…?俺の自分勝手な、自分中心の考えがこの結果を生んだのではないのか!?まだ高校生なんだし、しかも、相手もいないのにこんな短いうちに子供を作るなんて無理だったなんて言い訳にもならない!でも…でも早すぎるよ…ルシオラ…


「ルシオラ…俺どうすればよかったのかな…?どうすれば…」


私は今、例の地平線の見える異空間で小竜姫から行気法の修行法を教わっている。行気法はそもそも健康法の一種である。しかし、ある程度極め、丹田の霊気を錬成すれば身体能力を飛躍的に高めることができる。しかし、これは内へ向けて霊気を集めるため、外へ向けては放出できなくなる。そのため、徒手空拳の武術には応用できても、神通棍のような霊具を使った格闘には向かない。このような理由からGSの間ではあまりポピュラーな技術ではない。そういうわけで、私もこの修行はしたことがないのだが、以前にも言ったようにこれは霊気コントロールを向上させるのに優れた修行になるのだ。これを覚えるのは私にとっても都合が良い。


「なるほど…案外簡単なのね」
『基本はそうですね。でも応用させていくと随分深いものですよ。とりあえず、今回は霊気を丹田に留め巡らす方法だけです、これを続けていけばいずれ自然と霊気が漏れることはなくなると思います』
「なるほどね…」


それにしても、横島クンの様子は小竜姫の言うように何か焦っているように見える。普段の彼からはあまり想像ができない。霊力がほとんど使えなくなってしまったのだから無理もないが、それにしても…。やはり、ルシオラがいなくなってしまったことがかなりショックだったのだろうか…。ショックなのは間違いないだろうが、何をそんなに焦っているのだろうか…。やはり、彼の心は未だにルシオラの残像に縛られているのだろうか…


──今まで出会った女性(ヒト)の中で一番美しかった──
──これから出会う誰よりもきっと美しいと思います──


あの言葉は、ルシオラとの永遠の決別を意味していたのだろうか…それとも、永遠の誓いだったのだろうか…


私は一体どうすれば良いのだろう…


風呂からあがり、身体を拭く。昨日事務所で目が覚めると完全装備になっていて、それから自分の身体は全然見ていなかった。脱衣所に備え付けてあった、身体全体が映せるほどの大きさの鏡に自分の姿が映り込んでいる。それは、今まで見たことのない姿。


「……」


細い首、細い腕、細い胴、細い足…何もかもが華奢で頼りない。今までも頼りがいのある肉体だったかと言われれば疑問だが、それにしてもどこもかしこも丸まった身体はどことなく弱々しい…
一つ溜め息を吐くと小竜姫様が用意してくれていた小さな修行服に袖を通す。今日はこれで寝ることになった。
脱衣所を出ると美神さんと小竜姫様とヒャクメの姿があった。どうやら俺が出るのを待っていたようだ。


『横島さんの身体可愛かったのね〜』


と、ヒャクメ。覗いてたのかよお前…
ジト目でヒャクメを睨みつつも


「すみません、それじゃ、お先に…」
『はい、お休みなさい』
『お休みなさ〜い』
「……」


そう言うと寝室へ向かった…


一人きりの寝室。布団の上で横になり右手で握った塊を眺めながら一つ溜め息を吐く。
今日はもう何もする気になれない。いつもの俺なら風呂を覗きに行って、美神さんや小竜姫様に殴られているだろう。いつもの俺なら…


──ばっかね〜〜〜〜!!いやなわけないでしょ、ぜんぜん。──


ルシオラは、馬鹿なことをやる俺を前にしても受け入れてくれた…
何やってんだろ俺…こんなの俺らしくないよな…
俺は誓ったはずだ、俺は俺らしくしていなくちゃならないって…これじゃルシオラに会わせる顔がない。
暗闇の中、また一つ溜息を吐く。
でも…でも、今日くらいはいいよな?許してくれるよな?ごめん…ルシオラ…


そう思いつつ俺の意識は暗闇へと吸い込まれていった…


「…横島クン…寝てるの…?」


少女の寝室の前、かすかに開いた襖の隙間からは暗闇が見える。何も返事がないことを確認すると、そっと襖を開け中に忍び込んだ。
廊下から漏れる僅かな明かりに、微かに寝息を立てる栗色の髪の少女の顔が映し出される。
まだ見慣れないその顔はとても綺麗に見えた。


「横島クン…」


なんでこんなことになってしまったのだろう…どうしていつも横島クンばかり…?結局今度も私は彼に何もしてあげられなかった…どうして…
一つ溜め息を零し、顔を左右に振る。
私は一体何を考えているのだろう…今日は本当に横島クンの様子に振り回されっぱなしだ。こんなのいつもの私じゃない。いつもの私はもっとこう…
そう考えてみて、今日何度目かの溜め息を零すと、また顔を振る
でも…今日くらいはいいか…
少女の眠るベッドに近づくと、少しはだけた布団をかけ直してやる。


「横島クン…


─おやすみ─


あとがき

うむ!TS要素・関係無し!(汗
というわけで第五話です。
今回はどん底まで落とされる横島クンと、落ち込んでる横島クンに弱い美神さんでした。
もうホントに落ちるとこまで落とされたって感じですねぇ…可愛そう…
でも、横島クンってとことん落ち込む割に心の切り替えは結構早いような気もしますね。
これでひとまず前置き終了ですね。ヒャクメのおかげで謎は多いままですが、これからは少し日常に戻っていくことでしょう。
今回のオリジナル、行気法はもともと身体に気を巡らす呼吸法のことです。
作中では練丹術における胎息法という呼吸法の行気法と練気法を混ぜ合わせたような形になってしまいました。いずれも無呼吸状態で気をコントロールするというもののようです。
それにしても、この美神さん良く横島クンのことを理解してらっしゃる。擦れ違いも多いようですがね。
というわけで、今回はこんなところで…


レス返し

>Februaryさん
ヒャクメは役立たずですねぇ…それでも、人間でないことを突き止めたのはヒャクメだし、それは良かったのかな?一番最初の構想では何も解らずじまいというダメダメぶりを発揮していましたとも…(笑
しかし、今回は覗きしてますが…ね!
そして、ご指摘ありがとうございます(汗
全くもってその通りでございます。こんなミスしているとは…何を思っていたのかなぁ…?勘違いかな?


>ペレ伊豆さん
学校ですか?
ええ、もちろん行きますとも。
いずれ、学校も舞台になると思いますよ。


>七位さん
違和感ありまくりですねぇ…しかも、今のところあまり女性化関係の描写がないので余計ですね。
この話は、シナリオはシリアス、流れはギャグがモットーになっているのですが、この二話はかなりシリアスでしたねぇ…


>サスケさん
お褒めにあずかり恐縮です!
本当は、もっとじっくり描き込んで、色の深みとか出したいところだったんですけどねぇ…
また、いずれ描けたら描こうと思います。


>ポラリタさん
まだまだ謎が多い物語ですが、読んでくださって嬉しく思います。
イラストも時々描いていこうかなとか思ってます。


>SSさん
絵も修行中の私。
これからも、たまには描いていこうと思います。
ご期待に添えるようなものが描けると良いのですが…


>SOH KAGAMIさん
そうなんですよね、GS美神のTSモノって極めて希少ですよね〜
ほとんど何でもありなこの世界、変化してしまう理由にはことかかないのに…
なんとか、いい物語にできるように頑張りたいです。


>T城さん
やっぱりルシオラ関係でした。
というか、やっぱり変化してしまうと避けては通れないものだったので…
絵はざっと描いてしまったので、荒いし完成度は低いですが、それなりに雰囲気は出せたのではないかと思います。また描けたら描こうと思います。


>内海一弘さん
西条さんは、こんな娘が好きなんでしょうかねぇ…?
ヒャクメの役立たずはデフォですね。もうどうしようもないことなんです。
それにしても、西条さんはこんな娘に襲いかかっていたかと思うと…(笑


>鹿苑寺さん
関係ないですよ〜(汗
右目の色も違うですしね、もしそうだとすると笑えますが(笑


>尾村イスさん
な、なんか混乱してますね…
グ、グレートマザーをっスか…?なんか、禁断のかほりが…怖いですねぇ…(汗
それはともかく、これからどうなるのかなぁ…

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