―第七話― 陰謀と思いと ―
雨霰と銀と鉛の弾丸が一方的に襲いかかる。実に一方的に。
だが、青い光が一閃に向かえばそれは裂き、黒き剣は断ち、
手刀で突き、拳が、蹴りが砕く。
彼等の首を、胴を、腕を、脚を、横島は裂き、断ち、刺し、砕く。
次々と量産される屍の山と血の小川。
横島の着ていた服は所々破れ、ボロボロになり紅に染まる。
「当れ!あたれよぉおお!」
ズダダダダダダダダダ
寝食を共にした仲間たちが次々とモノ言わぬ肉塊となっていく。
数は圧倒的有利だというのに、殺されていく。
正に悪夢。
男は半狂乱になり、ガトリングガンを乱射するも、
横島はある時は彼等の体で、霊気の盾で、剣で、身を守り、
床を壁を天井を縦横無尽にかける。
「う、うわああぁああああ!」
ズシュッ
ぷしゅううううううう
絶叫し乱射する男を横島は剣で胸を貫いた。
返り血を浴びに浴びるも、横島は無表情で変わりない。
その瞳は殺気と狂気で爛々と妖しく輝く。
気がつけば、横島の周りに生きている者は横島のみになっていた。
「・・・ぐっ」
気が少し抜けたのか、横島の体に激痛がはしり、片膝をついた。
「つぅ・・・筋肉痛、いや、筋断裂か?」
長い時間、まったく動かさなかった体を、柔軟も無しに急に使ったのだ。
霊力で強化した体とはいえ、簡単に筋断裂をおこしてしまう。
(【治】か【療】で・・・いや、ここは・・・)
横島は体内で文珠を発動させる。【超回復】の文珠を。
文珠の効果は凄まじいモノが有った。
筋繊維が回復し、強化され、大きく強靭になる。
だが、けして大きすぎはせず、動きを阻害しない程度のもの、
鋼の様に強靭でなおしなやか。
戦う為の体、獣の様な体・・・それが横島の肉体となった。
横島は痛みを感じなくなると走り出した。
奴を狩る為に。
(しかし、あの声は何だったんだ?なんで奴の声が?
それに、この剣は一体何なんだ?
この剣を構成しているのは霊力じゃない・・・魔力だぞ?なぜだ?)
走る横島の頭には疑問が飛び交っていた。
だが、走る速度は緩めない。
急がなければ、奴は逃げてしまう。
一方その頃美神は・・・
(落ち着くの、落ち着くのよ美神令子。冷静になりなさい)
突然切られた念話と、ソレと同時に襲った、背筋が凍る様な悪寒。
それは、美神を動揺させるには十分なものだった。
深く事務所の椅子に座り込み、目を瞑る。
(・・・横島クンがおキヌちゃんの蘇生より優先したヤボ用て何かしら)
落ち着いたのか、目を開け、親指の爪を噛み、考え始める美神。
その目は鋭い。
(情報を整理すると・・・
横島クンはおキヌちゃんの居場所が分からなくて、
その安全を考えて、おとなしくしていた。
で、おキヌちゃんは殺された・・・と言う事は枷が無くなったって事ね。
横島クンがすぐに体を修復、保存が出来たって事は・・・
目の前で殺された?
!?待って!じゃあまさか・・・
でも、一年で横島クンの価値観が変わっていたら!?)
そこまで考えた美神は、自分が行き着いた答えに顔を青くする。
思いすごしと否定し様とするが、否定出来ない。
人は時間や、何かの要因で簡単に変わるものだ。
例えをあげると、こんな話しが有る。
あるコック志望の男が、妹と呼べる親しい少女と、
幼馴染の女と共にいた。色々と有ったが、当人達は幸せだっただろう。
だが、幸せは脆くも崩れ去る。
男が幼馴染の女と結婚し、新婚旅行に行った時の事だ。
二人はある者の手により拉致られ、人体実験の材料にされた。
結果、男は五感のほぼ全てを失い、女は生きているか分からない姿にされた。
男は友人により助けられたが、女は助けられず、奴らの手の中・・・
男は復讐に心を染め、力を得、女を助け出した。
だが、男は彼女達の元には戻らない。
もしかしたら、変わってしまった自分を否定されたくなかった。
そうのかも、しれない。
それはさて置き・・・
一度敵と認識した人物を普通はどうするか?
無視する、悪口を言う、暴力を振るう。
人によれば答えは変わるだろうが、大体はこの3パターンのどれかだ。
今の横島はどうするだろか?人質と言う枷を壊された彼は?
憎しみを増大させ、殺すと、滅ぼすと決めたなら?
奴らを滅ぼす力を持っていたとするならば?
答えは一つしかない。
「横島クンの目的は、奴等の皆殺し?」
美神は戦慄しながら、そう呟いた。
美神の脳裏には、霊波刀とサイキックソーサーで、
次々と人間を肉塊と変えていく横島の姿が浮かぶ。
そして、それは実際に起こっている事だ。
美神は慌て気味で受話器を取り、電話をかける。妙神山へだ。
横島とおキヌが攫われ半年ほど経った時の事だった。
猿神が神魔最高指導者の2柱にダメ元で言ったのだ。
横島とおキヌの救助を・・・
結果は条件付でのOK。
二人の居場所が判明した時の突入とその居場所の調査、
さらに、霊的治療の許可の3点。
条件としては、反デタントの神魔族に覚られぬ様行う事に、
実際行動する神魔の限定の2点。
破格の待遇だ。
最高指導者の2柱曰く、横島への功績に対するものらしい。
美神から連絡を受けた小竜姫はすぐさま猿神に報告し、
猿神はヒャクメに、最高指導者への報告を命じ、準備をする。
ヒャクメが戻り、居場所が分かればすぐに行ける様に。
「話しは分かりました」
「援軍に、ワルキューレとジークを送るわ」
神々しく光輝く、かの一神教の方と強大な魔力を持つ十二枚の翼を持つ方。
最高指導者の間でかの2柱はヒャクメの報告にそう言った。
「一応言うとくけど、期限は明日の夜明けまでやで。」
「りょ、了解しました。では、失礼します」
サッちゃんがそう言うと、ヒャクメはすぐさま転移で退室した。
「さて、これが吉と出るか・・・凶と出るか・・・」
「まあええやん。それより、そっちん方はどないや」
そう呟くキーやんにサッちゃんは、声の質を真面目なモノにし尋ねる。
「かなり過激な事しか言いませんね。
一年経っても、開戦を望んだままですよ。特にウリエルが酷くて・・・」
「ウリ坊か・・・ま、しゃあないな。ミカ達の方は?」
「ミカエルとラファエルは我知らずを決め込んで、
ガブリエルがウリエルを止めるってな感じですよ」
キーやんの口調から、相当疲れているのが分かる。
そんなキーやんに、サッちゃんは苦笑いするだけ。
「しっかし、神界は大変やな。大方、ウリ坊が大暴れしとんねやろ?
魔界ん方がまだ安全とちゃうか?」
「頭が痛い限りですよ・・・」
事実、サッちゃんの言った事は正しいらしい。
キーやんは頭を抱え込んだ。
「キーやん痛ないんか?茨、手に刺さっとるで」
「!そういう事は早めに言って下さい!」
「ははははははははっはははっはっははははははは!」
サッちゃんの言葉で、手の痛みに気づいたキーやんの姿に、
大笑いするサッちゃん。キーやんが非難を込めた目で見る。
「んじゃあワイは仕事に戻るとするわ。
アシュタロスの後釜の件、ソッチも頼むで」
「分かってますよ」
サッちゃんはそう言い魔界へと戻って行った。
キーやんはふと手に持つ書類を見る。書類にはこう記されていた。
《神魔バランスの考慮
アシュタロスクラスの魔神一柱必要である。
もしくは、神界もアシュタロスクラスの最上級神族を一柱、
封印、又は消滅させなければならない。
新しく魔神になる可能性が有る魔族は多いが、
可能性として、半人半魔 横島忠夫
を魔神とするのが、魔界としては望ましい。
魔界最高指導者サッちゃん 》
「・・・正規の書類なんですから、
自分の名前をちゃんとした正式名称で書いて下さいよ」
キーやんの声は溜め息混じりで呆れが半分だった。
ちなみにこの時魔界のある部屋では
「ん〜良い労働力が手に入りそうや〜」
とご機嫌のサッちゃんの姿が有った。
―後書き―
いいかげん美神の方はどうなったかと書こうと思いこうなりました。
何かありきたりな感じがして、少し微妙かな?と思ったんですけどね。
ちなみに、コレは“ダ”と“バ”の標記いりますかね?
まだマシだと思うんですが・・・
まぁ念のために、“バ”はいれときます。
ちなみに作中の例は劇場版ナデ○コです。
感想が欲しい限りです。あつかましいですが・・・
レス返しに、最高で最低な演技の方も入れときます。
〜レス返し〜
・皇 翠輝様
ニュータ○プの様な良い勘をしていますね〜内心ヒヤヒヤします。
横島の性格については、次回更に歪んだ横島が登場します。
・DOM様
横島の強さについては、あの美神に勝利し、
結構前ですが、西条の弾丸を霊波刀で弾く事が出来ました。
更に、相手は“一般人(少し違うけど)”です。
ですから・・・まぁ、横島にとっては雑魚なんです。
追いかける方は・・・内緒です。
最高で最低な演技、レス返し〜
・むじな様
ええ。はじめまして。
ワイド版18巻を読んで、ルシオラが横島の中に消えたシーンで、
思いついたんですよ。
思いをもう少し分かりやすく伝えたならと思うと・・・
シロを出したのは、横島の朝、第一に起こりそうな事は何か?
それはシロとの散歩!みたいな公式が頭にあるからです。
この、闇に染まるもよろしく!
・マイジ様
続編ですか・・・考えときます。
とりあえず、コッチを終わらしてからで、ご容赦を・・・