高校を出て帰り道の十字路で、
「じゃあまた後でな。」
そう言って横島はピート達と別れようとする。
「あれ、横島さんはどちらへ?」
「ああ、『無事卒業できました。』って美神さんに報告しようと思ってさ。」
「そうですか。それではまたパーティの時に。」
「ああ、じゃあな。」
「はいですじゃー」
そうして皆と別れて事務所へと向かう一つ目の角を曲がると、
「あれっ? 美神さん。」
そこには令子と、愛車のコブラが停まっている。
「横島君、卒業おめでとう。」
「えっ? あっ・・ありがとうございます。」
令子の言葉に少々驚きつつも頭を下げて礼を言う横島。
「うん。この道を歩いてるって事は事務所に向かうつもりだったんでしょ?」
「はい、そうですけど。」
「丁度良かったわ。私も用事があってこの近くまで来てたんだけど、今日が横島君の卒業式だったのを偶然思い出してね。
どうせ事務所に向かうだろうし、行く方向が同じならついでに乗せていこうかなって思ってここに停まってたのよ。」
「あっ、そうなんですか。そりゃぁどうも気を遣ってもらっちゃって。」
「何言ってんのよ。ついで! ついでだってば。いいから乗りなさい!」
「はい。」
そう言って乗り込みながら令子の服装を見る。厚手の毛皮のコートを羽織っており、寒さからか頬も少し赤くなっている。とても“ついで”で待っていた様子には見えない。
(素直じゃないのは相変わらずか・・・・・でも、嬉しかったっすよ。)
横目で令子を見ながら心の中で感謝する横島。温もりが心の中に染み渡っていく。
そんな感情には気づかず、令子の運転するコブラは事務所へと進んでいった。
『お帰りなさいませオーナー、ご卒業おめでとうございます横島さん。』
コブラを車庫内に駐めると、シャッターを下ろしながら人工幽霊一号がそう話しかけてくる。
「ええ、ただいま。」
「サンキューな、人工幽霊一号。」
「みんなは?」
『おキヌさんはまだ学校から戻っておられません。シロさんとタマモさんは連れだって遊びに行かれました。』
「ふーん、あいつらも仲良くやってんだな。でも、遊びに行く金なんてあんのかね?」
「あの子達にもお給料は払っているわよ。それ程多くはないけど、あの子達が偶に遊ぶくらいなら十分な金額でしょ。」
「俺なんて最初は時給250円だったのに・・・・・・・・」
「あっ、あはははは・・・・・・・・・そんな時もあったわね。」
令子が引きつった笑いをしている間に二人は事務室に着く。
「横島君、ちょっと座って待ってて。おキヌちゃんが居ないからお茶をいれてくるわ。」
そう言った令子が台所に消えると横島は椅子に腰を下ろした。
「お待たせ、コーヒーで良かったかしら?」
「はい。」
二人分のコーヒーをテーブルに置いた令子は横島の対面に腰を下ろした。
「改めて卒業おめでとう横島君。」
「ありがとうございます、美神さん。」
「それで話したいのは、今後のあなたの事。
まずは現在のあなたの状況から説明するわね。今のあなたはランクBのライセンスを所持している。これは、師匠である私が認めれば独立もできるランクよ。実際、この一年であなたが従事した除霊の成功率は100% 誰にも文句を言われないだけの結果を残している。」
「はあ・・・・」
「次に私が認めて独立するとしてその資金。これについても問題無いわね。・・・・・・・・・はい、これ。」
令子は何通かの貯金通帳を横島に渡す。受け取った横島が見てみると全て自分の名義になっている。
「残高を確認してみなさい。」
言われた横島が一通目の通帳を開く。
「・・・えっ?・・・・・・・・・・・・ええっ!・・・・・・・・・・・・どわぁ〜!」
全ての通帳の残高は8桁程の金額を示している。
「みっ、美神さん・・・・・これって?」
開いた口がふさがらない状態の横島だが、何とか令子に問いかける。
「ん? 単に月々の給料15万円以外のあなたの報酬よ。全部あわせるとざっと9000万位かしら?」
平然とした顔で令子が応える。ガルーダもどきを倒した時の報酬がかなりの金額であっただろうし、それに加えて利益の5%プラス月給の横島ですらこれだけの収入があったのだ。令子の収入などはいったいどれほど・・・・・・・・・
「いやっ、今日まで高校生だった俺がこんな金を自由にしても良いんですか?」
「当たり前でしょ、そのお金を増やすも減らすも横島君の責任。もう社会人なんだから。」
何言ってんのこいつとばかりの視線を横島にくれて令子が応える。
「しかし・・・・・・あの赤貧だった俺にこんな金があったって、いったいどうすれば・・・・・・」
「まあそれは自分で決めるのね。そうそう、今年の確定申告は私のと一緒に済ませておいたから、その金額は純然たるあなたの取り分よ。」
「はあ、そうっすか・・・・・」
閉じた通帳の束を見ても実感が湧いてこない。俺の人生ってこんなに変わってたんだ、と漠然とした考えが頭に浮かぶのみである。
「・・・・・・話の続きは少し気を落ち着けてからの方が良さそうね。お茶でも飲みましょ。」
そう言って、令子は自らカップに口を付けた。
「どう? 落ち着いた?」
カップを皿に戻しながら令子が尋ねる。
「・・・・・・・・はい・・・・なんとか。」
「じゃあ話を戻しましょうか。っとその前にご両親は帰国しなかったの? まさか全然連絡をしていないんじゃぁ。」
「いえ、親とは電話やメールで連絡は取り合っています。親父の話じゃ、ナルニアで新たに大規模なレアメタルの鉱床が発見されて、その採掘権を巡って交渉の最中なんだそうです。それを手に入れて採掘を軌道に乗せれば重役間違いなしで帰国できるってメールに書いてありました。もっともそれにはもう2年位向こうに居ないといけないそうですけど。
おふくろからは、親父が交渉しているナルニア政府の代表がえらい美人で、親父の病気が出ないためにも監視しておく必要があるからって・・・・・・・・・。
まあ、世間様に後ろ指さされるような仕事でなかったら好きにしろって書いてありました。」
「そう・・・・・・・・・・・・・・」
令子が目を瞑り、唾を飲み込んでから話を切り出す。
「それで横島君は、今後どうしたい?! もちろん仕事の事よ。
横島君が独立したいって言うんなら、それを選んでもいい。能力的にも資金的にも問題はないでしょう。
私も師匠としてきちんと推薦状その他の書類は作るわ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・残念だけど・・・ね。」
言い終えた後で寂しそうな笑顔を浮かべる令子。
「美神さん・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺って今、この事務所の従業員でしたよね。」
「ええ、そういう契約よ。」
「俺、これからもこの事務所で働きたいんですけど・・・・・こんな俺でもこのまま雇ってもらえますか?」
真剣な表情で令子にそう告げる。
「いいの?・・・・・・・あなたはそれで?」
「はい! 俺はここで成長した。みんなにも出会えた。色々な絆も出来た。その場所であるここで働きたいんです! ・・・これからも・・・・・」
令子はほっと息をはきだした後で、
「じゃあ、改めて処遇面での契約をしましょう。」
そう言いながら椅子から立ち上がり、机の方へと向かう。
「えっ? 俺は別にこのままでも・・・・・今ですらこんなに給料を貰っているわけですし。」
「何を言ってるの。今までのは学生という上での契約だったのよ。これからは社会人なんだから、それに見合った待遇にしないと・・・・・・・・・どこかの事務所に引き抜かれでもしたら大変だし・・・・・」
「いやっ、俺にその気はありませんし、そもそも俺みたいな奴を引き抜こうなんて事を考えるようなGSはいませんって。」
「どうかしら? 今の横島君の実力を知ったら、引く手数多だと思うけど?」
「美神さんにそう評価されるのは、もの凄く嬉しいっすけど、俺なんて『その他大勢』の内の一人ですよ。過大評価もいいとこっす。」
「・・・・・・・・まあ、横島君がそう思っているのなら良いけどね(私としても・・・ね)。
じゃあこれが新しい契約書よ。目を通して。」
横島は渡された契約書に目を通す。
「えっ?・・・・・・・・・ええっ?!・・・・・・・・・・・・ええ〜?!!」
横島の口からは驚きの声しか上がらない。
「じゃあ確認するけど、月の基本給は120万。歩合制の部分は、横島君一人または横島君が指揮を執っての除霊の場合は経費を引いた利益の10パーセント。私の指揮または事務所全員で行った除霊の場合は利益の8パーセントがあなたの収入になる。
これで何か不満はある?」
「いえ、金額に関しては十分すぎます。」
「そう、よかった。・・・・・・・・・・・・ん?・・・・・・横島君?」
横島はひたすら契約書を凝視していた。それこそ目を皿のようにして。
契約書を持ち上げ、窓の方を向いて光で透かす。コピー機を使って複写をし、オリジナルと見比べる。
遂には『探』の文珠まで発動させようと。
「やめんか!(ガィン!)」
令子の金属バットでの一撃。横島との練習もあり、すっかり手に馴染んでいる。
「いっ、いたひ・・・・」
床に倒れている横島。
「さっきから何をやっているのよ! その契約書には別に『仕込み』はしていないわ。」
「でっ・・・でもですね・・・・」
横島は何とか床から体を起こし、椅子に座る。
「この契約書には損害が出た場合の賠償金についての項目が無いんですけど・・・まさか・・・遂に俺が100パーセント負担するんですか?」
「違う違う。実はね、最近の損保って外資系も入ってきて、国内系も統合や合併を繰り返しているのよ。そんな中、新たな顧客を求めて『GS除霊損害保険』ってのを販売する事にしたんだって。
それで、『私も加入しています。』ってのに私を使いたいから是非加入してくれって頼まれてさ・・・・・・名前も肖像権も提供する換わりに、思いっっっっっっきり有利な契約をしてやったの。」
ニヤリ笑いの令子。
(ああ、この間真っ白になって帰って行った二人組がいたっけな〜。美神さんに関わったばっかりに・・・・・かわいそうに・・・・・)
「だから、損害賠償に関しては全て必要経費に含まれてるの。なら、その項目は必要ないでしょ。」
「そぉっすね。」
頷く横島。
「・・・・・にしても・・・・・」
令子は横島を睨め付ける。
「横島君がそこまで私を信用していなかったとはね・・・・・」
視線が更に鋭くなる。
「だっ・・・・だってだって・・・前回の契約では俺が95パーセント負担することになってたんすよ。毎回冷や冷やものだったんすから。」
「まあ、あの時は・・・ね。何か完全に認めるってのも悔しかったし・・・その場の勢い?」
「そんなんで契約書を作らんで下さいよ!」
「まあまあ、しっかり読まなかったあなたも悪かったって事で。」
「そりゃまあ・・・そうですけど・・・・・・」
「でも一度も損害を出さなかったじゃない。」
「それなりに注意はしてましたから。」
「まあ、その契約も今月でお終い。来月からは新たな契約になるんだから。」
「そうっすね。」
「じゃあ横島君、改めて聞くわ。この契約でこれからも働いてくれる?」
「はい、よろしくお願いします。」
頭を下げる横島。
「じゃあ契約書にサインして。」
「はい・・・・・・・・・・・・・・これでいいですか?」
サインをした契約書を令子に渡す。受け取って確認した令子は、
「うん、これでいいわ。」
そう言ってテーブルの上に契約書を置いて立ち上がり、
「これからもよろしくね横島君。今まで以上に期待してるわよ。」
横島へ右手を差し出す。
「美神さん・・・・・はい!! 俺頑張ります!」
一瞬呆然としたが、慌てて立ち上がり令子の手を握り返しながらそう応える横島。
「うん!」「はい!」
共に笑顔で頷きあう。
この二人が今まで以上に努力なんぞしたら・・・・・『美神&横島除霊事務所』と名前が変わるのも夢ではないかも・・・
「横島君はこの後どうする? まだパーティまで時間があるけど。」
「一度帰って着替えます。」
「学生服を着るのも今日が最後なんだからそのままでも良いんじゃない? このままおキヌちゃん達を待ってれば?」
「まあそれもいいんですけどね・・・・ボタンの無くなった制服をずっと着てるってのも・・・・」
そう言いながら自分の胸元に視線を移す横島。
(やっぱ、格好の良いもんじゃないよなぁ)
釣られたように視線を移した令子は、
「そういえば第2ボタンが無いわね。女の子にでも強請られた?」
「ええ、愛子に。卒業式っていう『青春』の1ページは、第2ボタンを貰わないと完結しないとか何とか・・・・・」
頭を掻きながら応える横島。
「あの子もまぁ・・・・・・流石は学校妖怪って事か・・・・・・今でもそんなセレモニーが残っているなんて。」
呆れた表情の令子。
「まあ愛子には世話になりましたし、こんな物一つであいつが幸せになるんなら良いだろうと思ったんで。」
「そうね。そういえば愛子ってこれからどうするの?」
「また2年からあそこで学生をやるって言ってましたよ。学校妖怪の存在意義は学校に居なければ無くなってしまうとか言って。そうそう、在校生送辞を読んだのも愛子だったんですよ。」
「心が広いというか何というか・・・・・横島君が通っていただけあって普通じゃないわね、あの学校・・・・」
「いやっ、何もそこまで言わんでも。」
室内に呆れムードが漂う。
「じゃあ俺一度帰ります。おキヌちゃん達にはよろしく言っておいてください。」
「ええ、分かったわ。ああ横島君、急ぐんなら車を使っても良いわよ。」
「いえ、シロとの『散歩』で慣れてますんで、走ればすぐですよ。それじゃあ。」
そう言うと横島は部屋から出て行く。階段を降りていると、
『良かったですね横島さん。』
そんな声が聞こえる。
「ああ、ありがとうな人工幽霊一号。そんな訳なんでこれからもよろしくな。」
『はい、こちらこそ。』
「じゃあな。」
『はい、また明日。』
その声を聞きながら横島は走り出す。
やはりこのメンバーがパーティをするとなると、その場所は、魔法料理『魔鈴』となる。
会場には令子、おキヌ、シロ、タマモ、美智恵に西条、唐巣神父にエミ、カオスにマリア、小鳩に貧、厄珍、おキヌの同級生の弓かおりや一文字魔理の姿も見える。(冥子は六道女学園の卒業パーティに出ています。)
(まあ、いつものメンバーだわな)
会場には雛壇がしつらえてあり5つの席が準備されていた。
(5つ? 俺、ピート、タイガーに愛子・・・・・後1つは誰のだ?)
まあ、でもこの程度は些細な問題である。
「で・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でお前がここにいる?」
視線の先には雪之丞が居た。
「何でって・・・・・・ダチの卒業パーティだぞ、参加して何が悪い?」
「呼ばれた場合はな・・・・・・・で、お前は誰に呼ばれた?」
「それは・・・・・・・・いいじゃねぇかよ。入口で止められもしなかったし、会費だって払ったんだぜ。
ったく・・・・・・俺はお前の師匠でもあるんだから、ちゃんと声を掛けろよな。」
「師匠だぁ〜?! おめぇがそんな立派な奴かよ。」
「じゃあ先生、先輩でも可。」
「バトルを条件にしたジャンキーのくせに。」
「でも俺に頼んだのはお前だ。」
「「う゛〜!!」」
睨み合う二人。
「まあまあ、二人ともそのくらいにして。今日はおめでたい席なんだから良いじゃない。」
美智恵の取り成しで何とか落ち着く二人。
「じゃあ、そろそろ始めましょう。伊達君は席について。横島君は入場から始めるから隣の部屋へ。」
「そんな大げさなんすか? たかが高校を卒業したくらいで。」
「まあまあ、もう一つサプライズがあるのよ。ほらほら早く。」
そう美智恵に急かされて移動する横島。隣の部屋にはピート、タイガー、愛子が待っていた。
「遅かったですの〜横島さん。」
「わりぃ、雪之丞の奴とちょっとな。招待もしてないのに居やがったから。」
「それは、雪之丞君の彼女の弓さんが教えたんじゃないの? いいじゃない。青春にパプニングは付きものだわ。」
「・・・・・まあいいか。んで、段取りはどうなってるんだ?」
「司会進行は美神隊長がするそうなんで、名前を呼ばれたら会場に入っていって椅子に座ればいいそうですよ。」
「ん、分かった。」
「では、パーティを始めたいと思います。先ずは今日の主役達の入場です。
タイガー寅吉君、卒業後は小笠原エミ除霊オフィスで働く事が決まっています。」
拍手の中、タイガーが進んでゆく。緊張のあまり手と足が一緒になっている。それを見た魔理はテーブルに突っ伏していた。
「次にピエトロ・ド・ブラドー君、卒業後はICPO超常犯罪課、通称オカルトGメンへの入隊が決まっています。」
これまた緊張した面持ちで進んでいくピート。
「次は横島忠夫君、卒業後は美神令子除霊事務所で働く事が決まっています。」
前の二人を見て笑ったせいで緊張が解けた横島は普通に進んでいった。
「そして、机妖怪の愛子さん。今回卒業はしましたが学校妖怪という関係上、再び2年生からやり直す事となっています。」
すまし顔で歩く愛子、これで机さえ背負っていなければ・・・
4人が席に着く。
「これで今日目出度く卒業した4名が席に着きました。
そしてもう一人、皆で祝いたい人がいます・・・・・どうぞ。」
美智恵がそう言うと扉が開き、魔鈴に先導され照れ笑いを浮かべた唐巣神父が入ってくる。
「ご存じの方も多いと思いますが、昨今GS協会の上層部で使途不明金や怪しげな品物を販売している会社に対してGS協会認定証を発行するなどの問題が起こり、警察、国税局そして私の所属するGメンの合同捜査チームによる査察が入りました。
結果、かなりの人が逮捕される事態となり、GS協会は上層部を一新し、新体制に移行する事を発表しました。そこで清廉潔白で知られている唐巣先生を協会の副理事長として招く事が決定したのです。
唐巣先生の今後の活躍を期待しまして、皆でお祝いをしたいと思います。」
美智恵が話している間に唐巣神父も席に着く。
「お祝いの言葉や今後の豊富を語って貰うのは後にして、先ずは乾杯といきましょう。」
その後、西条の音頭で乾杯となり、食事や歓談の時間となる。
横島も皆と色々な話をしていたが、会場を歩き回っている時に唐巣と会い、話を始めた。
「唐巣神父、おめでとうございます。」
「ありがとう。横島君も卒業おめでとう。」
「はい、ありがとうございます。でも神父はこれからGS協会を建て直さなければならないんですから大変ですね。」
「たぶんそうだろうね。でも、皆に信頼されるGS協会にするために努力は惜しまないつもりだよ。」
「神父が頑張ってくれるならきっと何とかなりますよ。でもそうなると、教会の方や除霊の依頼はどうするんですか?」
「うーん、それなんだよね問題は・・・・・ピート君もGメンに行ってしまうし、私の所に来る依頼は基本的に貧しい人からのものが多いから他のGSに頼むというのもなかなか・・・・・・・・・
まあ、なるべくGS協会の建て直しを急いで現場に復帰する位しか考えつかないんだよ。」
「そうですか・・・・・難しい問題ですね。」
「そうだねぇ。」
二人が暗くなりかけたところに、
「唐巣先生、その件なら心配しないで下さい。」
そう言いながら西条が近づいてくる。
「我々も国内の支部を増やして、経済的に恵まれない人達への対応を早急に行う計画を立案中です。」
「本当かね西条君?」
「はい、Gメンの本来の任務は貧富の差など関係なく、全ての良識ある人々への奉仕なのですから。
幸いにも情報収集には我々だけでなく、既存の警察等からも提供してもらえるようにする方向です。」
「うん! それが実現できれば、霊障に遭っていながら私を知らなかったが為に救えなかった人々も助かる事になる。ぜひ頑張って早期に実施してくれたまえ。」
「はい、努力します先生。」
「いい話を聞かせてもらってありがとう西条君。では私はこれで。他にも挨拶をしておかないとね。」
そう言って笑顔のまま唐巣が去っていく。残されたのは天敵同士の横島と西条。
「横島君、卒業おめでとう。めでたい席なんで、一応お祝いの言葉位は言わせてもらうよ。」
皮肉を込めた西条の発言。
「ありがとう西条さん。」
それに対し、横島は礼を言って軽く会釈する。
「“さん”! “西条さん”だって?! どうしたんだい横島君? 何か悪いものでも食べたとか?」
「ここじゃあ魔鈴さんの料理しか食べてないよ。それに食べ物のせいでもない。
実力も能力も無いのにいきがっていられた学生時代は終わったって事さ。これからは実力と能力がものを言う社会人としての生活が始まるんだ。
別にあんたを好きな訳じゃあないけど、実力の備わっている人と話す時に名前に“さん”を付けるのは当然だろ?」
「へぇ、君がそこまで僕を認めていたとはね。」
「ガルーダもどきの事件の時にな。ああいった指揮をするなんて今の俺には出来ない。霊能だけが実力じゃないって事だろ。」
「ふぅーん。“今の俺には”かね?」
「いや、もしかしたら一生出来ないかもな。悔しいが、視点が違う。俺の視点は低すぎる。西条さんがどうやって今の視点を自分のものにしたかは分からないけど、俺が成長したとしてもその高みに到達できる自信は・・・・・無い。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まあそんな訳で尊敬もしてるんだ。だからこれからは“西条さん”と呼ぶ事にするよ。」
「そうか、君の意見は理解したよ。」
「じゃあ改めて、よろしく西条さん。」
「ああ、こちらこそ横島君。」
二人は握手を交わす。
しかしその手に段々と筋が浮き上がってきて・・・・・
「ぐっ!・・・・・なかなかやるね、西条さん(ギリギリ)。」
「ふぐっ!・・・・・君もね、横島君(ギリギリ)。」
会場の中、汗を流して握手を続けるバカ二人。さっきの雰囲気は何処行った?
そんな事をしながらも時間は経過し、お開きの時間となる。
横島も西条だけでなく事務所やその他のメンバーとも楽しめたようだ。(雪之丞だけは除く。バトルになりかけ、令子と美智恵にしばかれた。)
「じゃあまたな。」
「またねー」
それぞれ挨拶を交わしてから小鳩や貧とアパートへ向かう。(小鳩の母用に魔鈴さんが料理を包んでくれました。)
「楽しかったですね。」
「うん、楽しかった。なんだかんだいって、あれだけの人が集まってくれたんだから、俺の生活って恵まれてたのかもな。」
「そうですね。私もその一員になれたんですから嬉しいです。」
「そっか・・・・・・・そうだね、俺も嬉しいよ。」
「・・・・・・ありがとう・・・ございます。」
小声で小鳩が言った礼の言葉は横島の耳には届かなかった。
「じゃあここで、おやすみ小鳩ちゃん。じゃあな貧」
「おやすみなさい横島さん。」「ほなな横島。」
横島はアパートの自室に入ると机の椅子に座り引き出しから箱を取り出す。その箱をそっと机に置き、ゆっくりと蓋を開ける。
その中にはルシオラの遺品(蛍の形をした霊基構造の塊とバイザー)が入っている。
それをしばらく見つめてから横島が話し始める。
「ルシオラ・・・俺さ、今日何とか高校を卒業したよ。これからも美神さんのところでGSをすることになった。信じられるか? “あの”美神さんが更に俺の給料を上げてくれたんだぜ。
思い返すとさ・・・色々あった高校時代で、なんだかんだいっても楽しかったよ・・・・・・・お前を失った事以外は・・・・・・・・
美神さんの事務所でバイトを始めて、それが切っ掛けで霊力なんてものに目覚めて、それから色々とやっかいな事に巻き込まれちゃったけど・・・もしも美神さんとこでバイトをしていなかったら、霊力に目覚めていなかったら・・・・・お前には出会えなかっただろうしな。
そう言えばルシオラに俺の高校生活の事って話した事なかったよな。
一年の時はさ、クラスの俺の前の席に小坂って奴が座っていて、こいつが変な奴でさぁ〜、授業時間になると・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
横島とルシオラの会話は翌朝まで続いた。
『あとがき』
どうも「小町の国から」です。
卒業の日(後編)でした。
「その18」のあとがきでも書きましたが、この作品に目を留めてもらい、一話から読んで下さる人がいてくれて作者としても嬉しく思っています。
1年もの長い間更新できなかったのに、ログを管理して下さっている米田鷹雄様にも感謝します。
うちの横島君も遂に高校を卒業しました。社会人となった彼がどんな道を歩んでいくのか、皆さんの期待に添えるように頑張ります。
それでは「その20」でお会いしましょう。
「小町の国から」でした。