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▽レス始

「二人三脚でやり直そう 〜第三十七話〜(GS)」

いしゅたる (2007-02-18 23:07/2007-03-05 20:32)
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 横島忠夫の身辺調査報告(秘) (※死津喪比女の事件以降)

 ・氷室キヌ蘇生後、妙神山にて三日間の再修業。その後、美神令子除霊事務所に復職。
 ・学校の出席率は52%。残り48%は全て美神令子除霊事務所の勤務に宛てている模様。
 ・給料は時給制で5000円と記録されている。ただし、この記録には不審な点が見受けられる。要追跡調査。
 ・悪魔パイパーや夢魔ナイトメアといった賞金首の魔族を、除霊依頼として事務所メンバーにて駆逐。
 ・対外的には美神令子の弟子。今年のGS試験を受験する意思がある模様。
 ・実際に教えを受けたのは妙神山の竜神小竜姫であるが、その妙神山への訪問頻度は一ヶ月に一回以下。
 ・度重なる除霊により実戦経験が積まれ、着実に力を着けているとの報告あり。詳細不明。
 ・事務所の同僚は、以下の二人。
      氷室キヌ    ネクロマンサー
      ブラドー伯爵  吸血鬼(真祖)


「……ふぅん」

 ぱさり、と。
 今は何も置かれていない食卓のテーブルに、彼女は読んでいた書類を投げ出した。
 それは、日本にいる部下――正確には夫の部下だが――のクロサキから送られてきたものであった。内容は細かく、かつ正確なもので、それなりの文章量があった。
 が――それを簡潔に要約すれば、上記のようになる。

 彼女はしばし、テーブルの上の書類を睨み続ける。
 そこに――

「百合子さん、そろそろ時間ですジャー」

 部屋の外から、男の声が聞こえてきた。

「わかったわ。ちょっと待ってて、今行くから」

 彼女――百合子は、そう言って書類を手に取り、脇に置いてあったトランクの中に入れる。トランクを閉め、それを手に取って部屋の外へと向かった。


 彼女の姿が部屋から消えると、そこには人がいなくなる。
 ただ、部屋の中央に置いてある食卓テーブルの上には、彼女が書いたであろうメモ書きが一枚乗せられていた。


『私がいないからって浮気したら、一回ごとに十セット。バレないと思わないことね♪』


 ……何が十セットなのかは、激しく気になるところである。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第三十七話 母よ、母よ!……え? 虎? 誰?【その1】〜


 ゴオォォォォ……

 ――成田国際空港・滑走路――
 星空の下、離陸する飛行機が遠くに見える。その真下で、美神の神通ヌンチャクが光を発している。

「……手こずってんな」

 双眼鏡でその様子を眺めながら、横島はつぶやいた。

「ヤバいのか?」

「いや、さすがにそこまでじゃないけど」

 訊ねてくる魔理に双眼鏡を手渡しながら、言葉通りに大した心配もない様子で答える。
 魔理が双眼鏡を覗くと、今回の除霊対象であるキマイラと立ち回りを演じる、美神とブラドーの姿が見えた。
 そこから少し離れて、愛子とかおり。愛子は破魔札や霊体ボーガンなどの道具を美神の指示通りに手渡し、かおりは何もせずに戦いの様子を見守っている。

 愛子はもはや、ほぼ完全に美神の荷物持ち扱いである。そしてかおりは、GSのバイトを認めない父親をどうにか説得し、見学までならという妥協案を引き出していた。彼女が手を出していないのは、その約定のためである。
 もっとも、両者ともがそれぞれの理由で現状に不満を持っているのは、言うまでもない。

 そして今、横島と魔理は万が一に備えて後方待機である。
 今交戦中の美神とブラドーで片が付くならそれで良し。だが――


 ザッ――


 不意に、横島の腰のあたりからノイズ音がした。直後、『横島クン、聞こえる!?』という美神の声が響いた。
 横島は腰のベルトに差し込んであったトランシーバーを取って、スイッチを押しながら口元に近づける。

「聞こえてます! どうしました!?」

『キマイラがそっちに逃げたわ! 手負いだから、とどめはお願い!』

「マジっすか!?」

『文句は受け付けないわよ! きっちり仕事しときなさい!』

 悲鳴じみた叫びを上げる横島に、美神はそれだけ言い捨てて通信を切る。

 横島はこちらに迫ってくるキマイラを遠目に見た。その姿は、いまだゴマ粒程度にしか見えない。
 二人がここに配置されているのは、こういうことが起きた場合に備えてのことだ。彼らの背後に控える空港ターミナルには、多くの一般人がいる。そんな場所にキマイラを行かせるわけにはいかない。

「横島! 都合のいーことに、真っ直ぐこっちに向かって来てやがるぜ!」

 魔理は双眼鏡を投げ捨て、持ってきていた木材を構える。その顔には、どっかのマザコンバトルジャンキーを彷彿とさせるような好戦的な笑みが浮かんでいた。
 対し横島は、気の抜けた表情で栄光の手を霊波刀状態で展開する。

「できれば美神さんとこで終わっててもらいたかったんやけどなー。めんどいし怖いし。ま、仕方ないか」

「よ、横島、お前って……」

 そのやる気のない台詞に、気合をすかされて思わず肩を落とす魔理。

「しゃーないやんか! 獣も妖怪も、手負いっちゅーんは手強いもんなんだよ! あー怖っ……逃げていい?」

「ダメに決まってんだろーが! 真面目にやれよお前!」

「わかったわかったって……逃げて美神さんにド突かれるのも怖いし、いっちょやったるか!」

「仮にも先輩なんだから、しっかりしてくれよな!」

 そして二人は、それぞれ構えて迫り来るキマイラを睨み付けた。


 ――同空港内、とある機の乗降口――

「ご搭乗ありがとうございましたー」

 フライトアテンダントが、列を成して降りて行く乗客たちを、営業スマイルで見送って行く。
 不意に、彼女の視界が大きな影に遮られた。

「え?」

 彼女がその影の主を見ようと視線を向けると、そこには――

「ひっ!?」

 彼女は驚き、飛び上がった。
 そこには、身長2メートルを越すかというような、スーツ姿にサングラスという威圧的な大男がいた。その顔には、虎を連想させるような特徴的な縞模様が刻まれている。
 が――なぜかその全身は震えており、顔はダラダラと脂汗でびっしょりだった。

「わ、ワッシに近付かんでツカサイ……」

「は……?」

「わ……わ……ワッシは……ワッシは……」

 大男の震えが、次第に大きくなる。
 ――そして――


「ワッシはおなごが怖いんですジャアアーッ! わっ、わからんですかああーっ!」

「きゃあああああああっ!?」

「何やっとるかアンタわああーっ!」

 ずげしっ!


 フライトアテンダントに向かって、錯乱気味に迫る大男。悲鳴を上げて逃げようとするフライトアテンダント。そこに第三の声が、豪快な打撃音と共に割り込んだ。


 ゾクッ!

「…………ッ!?」

 一瞬、背筋に寒いものを感じ、横島は震え上がった。

「どーした? そんなに怖いのか?」

「い、いや……今、なんか……?」

 からかうような魔理の口調に、しかし横島は挙動不審に周囲を見回した。


 ――そして、横島が悪寒を感じたと同時――


『ギャ……ギョヘーッ!?』

 横島たちの方向に向かっていたキマイラも、横島と同じものを感じたのか、その足を止めた。
 そして、怯えるように回れ右して逃げて行く。
 その先には――キマイラを追っていた、美神たち一行。
 彼女たちは戻ってきたキマイラに戸惑いながらも、吸印符でキマイラを封印する。そしてその足で、そのまま横島たちの方にやってきた。

「横島クン!」

「あ……美神さん。その様子だと、終わったみたいっスね」

「そうだけど……一体、何があったの? キマイラが突然引き返してきたんだけど」

「いや、俺にもよくわからないっス。ただ、なんか怖いものは感じたっスね。なんつーか……遺伝子的に絶対逆らっちゃあかんよーなおっかない気配が、こー背中を……」

「いやに具体的ね……? まあいいわ。どの辺からかわかる?」

「すんません、そこまでは」

 美神の問いに、横島は首を横に振る。

「仕方ないわね……でも気になるわ。調べるわよ」

「ういっす」

 ターミナルに向かう美神に、横島と他のメンバーは頷き、その後に続いた。


 そして、そのターミナルの中では――

「ナルニアからわざわざ、すまないわね」

「そっちこそ、わざわざ出迎えてくれてありがとうね」

 発着ロビーで、二人の女性が会話していた。
 方や、漆黒の髪が美しい、褐色のエキゾチック美人。方や、白いスーツを着こなした中年女性。

「で……どうしたの、それ?」

 エキゾチック美人――エミが指差しているのは、中年女性――横島百合子の足元に転がる大男。完全に気を失っているように見える。

「ああ。例の病気が出たんで、黙らせただけよ」

「あ、そう……」

 なんでもないように答える彼女に、エミはそれ以上追及する気が失せた。

「まったく……多重人格障害みたいなもんかしらね? 『セクハラの虎』なんて噂を聞いた時は、どんなケダモノがのさばっているのかと思ってたけど……」

「それで、成敗に向かった後なワケよね? あんたがアタシをそっちに呼んだのって」

「そ。ちょうど、馬鹿亭主のことでイラついてたからね。鬱憤晴らしも兼ねてって思ってたんだけど、蓋を開けてみれば『セクハラの虎』状態の反動からか、極度の女性恐怖症の大男が一人いただけ。聞いてみれば色々と霊能関係の問題があったから、GSの出番かなって思ったのよ。
 で、私の知ってるGSといえば、唐巣神父とあんただけ。正直、唐巣神父でも良かったんだけど、女性恐怖症の克服もした方がいいでしょ? だから、女性の近くにいた方がいいと思って、あんたに任せようと思ったのよ」

「……まあ実際、そいつの能力をコントロールするには、呪術のエキスパートのアタシしかできなかったワケ。ヘンリーたちが度重なる怪我で戦線離脱しちゃったから、丁度こーゆータフネスな男が必要になってたとこだしね」

「なら問題はないわね。……ほら、起きなさいよ」

 百合子はそう言って、足元の大男に気付けをする。すると、大男は目を覚ました。

「……はっ。ここは……ワッシは……」

 そして、大男は目の前のエミに気が付いた。

「お……おお! え、エミさん! 会いたかったですジャーッ!」

「ええい、泣き叫ぶなうっとーしい!」

「げふっ!?」

 いきなり騒ぎ出す大男に、エミは怒鳴ってその顔面に肘をお見舞いして黙らせる。

「それじゃ、そいつのことは頼んだわよ」

 百合子は、そう言って二人に背を向ける。

「わかったワケ。……でもいいの?」

「ん?」

 エミの問いかけに、彼女は肩越しに振り返った。

「たぶん、アタシの次の仕事では、令子の事務所とやり合うことになるワケ。息子の敵の戦力を増強させることになるのよ?」

「なーんだ、そんなこと。あの馬鹿息子に遠慮なんていらないわ。気にせずやっちゃいなさいな。それこそ、手加減無用でね」

 なんでもないことを聞かれたかのように、百合子は苦笑した。

「それじゃ私は、これからその馬鹿息子の顔を見に行くから。あんたも頑張りなさいな、一流を自認するならね」

 そう言って、彼女は歩き出す。その背を見送り、エミはぽつりとつぶやいた。

「……とんでもない親なワケ」

「百合子サン、いろんな意味で凄い人でしたケンノー」

 そのつぶやきに、大男も同意した。


「結局、なんだったのかしらね?」

 ――東京都豊島区、美神令子除霊事務所――

 そこの事務室兼応接室で、自分の椅子に腰掛けて背もたれに体重を預けながら、美神がつぶやいた。

「何にも見つからなかったしなー」

 答えるのは、応接テーブルの前にあるソファに座る横島。
 その対面のソファには、かおりと魔理が座っている。待機組で運動量の少なかった魔理がピンピンしているのとは対照的に、広い滑走路を走り回ったかおりは、いまだに疲れが抜け切っていない様子だ。
 そして窓際では、愛子が自分の机の上にオセロを置き、ブラドーと対面している。盤の上がほとんど真っ白になっていて、ブラドーが「ぬぬぬ……」と歯噛みしているところを見るに、愛子の圧勝のようだった。
 二人とも運動量ではかおりと大差ないはずだが、それほど堪えてないのは妖怪ゆえにだろうか。

「あんたはナンパしてばっかで全然何も探してなかったでしょーが」

「あー……美人に声かけるのは男の義務っていいますか……」

 ジト目で睨む美神に、横島は冷や汗を滝のように流して言い訳する。美神のみならず、かおり、魔理、愛子――要するに、事務所の女性陣全員――の視線も突き刺さっていた。

『オーナー』

 突然、どこからともなく声が聞こえてきた。この事務所を管理する人工幽霊壱号である。

「なに?」

『唐巣神父がお見えになりました』

「あら? 何の用かしら。ま、いいわ。通して」

『はい』

 人工幽霊が頷くと、少しして唐巣神父が事務所に現れた。

「やあ美神くん」

「先生、どうしたの? こんな時間に」

「いや、大した用事じゃない。ブラドーはいるかい?」

「……む? 余か?」

 唐巣の問いに、ブラドーが顔を上げる。
 その眼前にあったオセロ盤は、完全に白で埋め尽くされていた。どこからどー見てもブラドーの完全敗北である。

「借りていたもの、返しに来たよ」

 唐巣はそう言って、懐から一冊の雑誌を取り出してブラドーに手渡した。雑誌のタイトルは『ヤング○ングア○ーズ』。

「……先生って、漫画読んでたんだ……」

「いや、読んでたからこそじゃないっスか……?」

 呆れ顔でつぶやくのは、美神と横島。特に横島の脳裏には、いつだったか悪魔パイパーの時に見せた暴走が思い出されていた。

「ふむ。これだけの用ならば、別に今日でなくとも良かったのではないか?」

「いや、さっき来た時に除霊の仕事に出ていたと聞いてね。ここしばらく話もしていなかったし、美神くんに限って心配ないとは思うが、世間話ついでに調子でも聞こうかと思ったんだよ」

「それこそ心配ないわよ。メンバーも充実してるし、向かうところ敵なしってところね」

「はは。そう言うと思ってたよ」

 不敵に笑う美神に、唐巣は朗らかに笑った。

「でも、今日の除霊はフルメンバーで行ったそうじゃないか。それほど手強い相手だったのかい?」

「相手の強さ自体はそれほどでもなかったわ。キマイラ……中の上ってところかしら。ただ、場所が場所だったから、二手に分かれられる人数が欲しかっただけ」

「というと?」

「場所が空港だったのよ。一般人もいるから、万一逃げられた時に備えて、後方に横島クンと一文字さんを配置したの」

「なるほど。懸命な判断だね。さすがは美神くんだ」

「褒めたって何も出ませんよ? ……まあ、今日の除霊にはちょっと不審なところはありましたけど」

「ほう?」

 怪訝そうに片眉を上げる唐巣に、美神は逃げたキマイラが何かに怯えて引き返したこと、その原因がまったくわからないことを話した。

「なるほど。確かにそれは奇妙だね。もっとも、空港みたいに人間の大勢集まる場所には、どんな人物がいたとしても不思議ではないが。それこそ、キマイラが逃げ出すような霊圧を持つ誰かがいたとしても」

「先生は、霊能者が原因だと?」

「可能性の一つだよ。あるいは……積荷に紛れて何かがいたってことも考えられる。まあ、可能性としては低いだろうけどね。いずれにせよ、魔獣であるキマイラが怯えるようなものといえば、オカルト関係以外にはありえないだろう」

「ふーん……ま、いずれにせよ今回の依頼と別件なら、私には関係ないけど」

「美神くん……そういう態度はどうかと思うよ」

 美神のドライな態度に、唐巣は苦笑を漏らす。
 金が絡まなければ積極的に動こうとしない美神に対し、唐巣ならば万一のことを考えて徹底的に原因究明することだろう。危険の芽は早めに摘んでおけば、被害は未然に防げるのだ。
 だが、今更それを言ったところで、彼女は態度を改めたりしないだろう。
 それに、その「依頼以上のことはしない」というスタンスは、薄情とも取れる反面、経営者としては非常に正しい。そういった割り切った考え方は、唐巣にはない長所とも言える。
 ゆえにこそ、師弟でありながら経済的な面で天と地ほどの差が生まれてしまうのだ。

「そういえば、横島くんは最近妙神山に行ってるのかな?」

「へ? 俺?」

 唐突に話題を振られ、横島は目をしばたかせた。

「そうだよ。曲がりなりにも君は、素人の状態から妙神山の竜神の教えを受けたんだ。ある意味、小竜姫さまの直弟子と言ってもいいのだから、彼女の指導を受けに妙神山に通うのは当然だろう?」

「竜神の教えって……本当ですの、それ?」

 唐巣の言葉に、かおりが疑わしげに眉根を寄せる。彼女からしてみれば、横島は臆病者の卑怯者以外の何者でもない。唐巣の言うような、ある意味六道女学院以上のエリート教育を受けているようには見えないのだ。

「本当だよ。私が紹介状を書いたのだからね。ああ……ちなみに、私が紹介状を書いたのは、彼の才能が飛び抜けているからであって、妙神山が素人でも行ける場所だなんてことは有り得ないから、勘違いしないでくれたまえよ」

「そ、そんな……こんな人が?」

「褒めすぎっスよ、神父」

 なんでもないように答える唐巣に、かおりはショックを受けたかのように目を丸くする。横島の方といえば、照れくさそうに頬を掻いていた。
 そして、美神は――正直、唐巣の言葉を否定したいところだが、内心では横島の才能を認めているため、何も言えずにいる。その表情は、実に不機嫌そうだった。

「で、どうなんだい? 妙神山には行ってるかい?」

「いやぁ……」

 改めて問われ、横島は気まずそうにあさっての方を向いて曖昧に答える。

「先生……こいつにそんなの求めても無駄よ。痛いのは嫌って言って、妙神山に行くどころか碌に霊能修行らしいこともしないんだから」

「……そうなのかね?」

「いやでも、栄光の手は進化したっスよ?」

 もっと正確に言えば、逆行前の形態に戻ったというところである。とはいえ、その言い回しでは美神の言葉の否定にはなっていない。それどころか逆に、肯定しているも同然だ。
 横島の言葉に、唐巣は呆れたように眉間の皺を指で揉んだ。

「まったく……君はそれほどの才能を持っていながら、向上心に欠けるのが欠点だね。エミくんだって、妙神山の修行で力をつけたというのに……」

「エミが小竜姫のところに?」

 唐巣が出した名前に、美神は寝耳に水とばかりに訊ねた。

「ああ。君は知らなかったんだね。彼女の得意分野は黒魔術だから、竜神の修行でどの程度パワーアップしたかはわからないが……君は仕事柄、よく彼女と対決することになるんだろう? 気をつけたまえよ、次に対決する時は、前のようにはいかないだろうからな」

(はぁ〜、エミさんが小竜姫さまのところで……か。そういや、ここらでなんか起きなかったっけ? 確か……うーん……なんかいたよーな気が……)

 唐巣の説明に、前に聞いたことがあるようなデジャ・ヴを覚え、逆行前の記憶を探る横島。しかし、なかなか思い出せない。

(……ま、いっか。思い出せないってんなら、どーせどーでもいいことなんだから)

 もし思い出してもらえない当人が聞いていたら「ひどいんですジャーッ!」と泣き叫びそうなことを考える。実に友達甲斐のない……いや、正確にはまだ知り合ってさえいない状態なのだが。

 と――横島がそんなとりとめのないことを考えている間に。

『オーナー』

 再び、人工幽霊が美神に呼びかけた。

「人工幽霊? 今度はどうしたの?」

『またお客様です』

「また? こんな夜更けに、千客万来ね……誰よ?」

『初めて来訪なされる方です。除霊依頼に来たという様子ではなさそうですが』

「セールス?」

『……ではないようです。どうやら、横島さんのお知り合いらしいですが……』

「俺の?」

 思わぬ報告に、横島は目を丸くした。

「ふぅん……? ま、いいわ。通して」

『わかりました』

 人工幽霊は美神の指示に頷いた。そして彼が沈黙すると、事務所の人間の視線が一斉に横島に集まる。

「誰かしら?」

「俺に聞かれても……まあ、すぐわかるでしょうけど」

 横島が首を捻りながら答える。すると彼の言った通り、いくらもしないうちに事務室の扉が開かれて、その訪問者が姿を見せる――


 ぴしりっ。


 その姿を視界に入れた途端、横島は石化した。

「やっほー。忠夫、元気にしてた?」

「……誰?」

 朗らかに挨拶してきたのは、白いスーツの中年女性。初めて見る顔に、美神は眉根を寄せる。

「お、お、お……」

 横島が、全身どころか声帯までも震わせ、その女性を凝視する。
 そして――


「お袋おおおおおおおっ!?」

「「「「ええええええええっ!?」」」」


 横島の言葉に驚く女性陣。ブラドーはあまり関心がないのか動じておらず、唐巣は驚く女性陣を尻目に「お久しぶりです」と挨拶していた。


 ――グレートマザー横島百合子、美神令子除霊事務所に襲来――


 ――あとがき――


 う゛あ゛ー、風邪ひーたー。

 どうも皆さん、二週間ぶりのいしゅたるです。今回、諸事情により更新遅れちゃいました。
 理由その1。某所にバレインタインSSを投稿するため、そっちにかかりっきりになっていました。
 理由その2。取り掛かる段階になって、グレートマザーを絡ませるというネタを思い付き、そっち方面にプロットを練り直してました。
 理由その3。はやりの風邪にかかり、モチベーションが上がらなかった。

 しかも書き上げてみれば、文章量のわりには話が進んでないし、タイガー編と予告しつつ名前も出てない上、サブタイでさえないがしろにしちゃいましたし……どーしましょ?(汗

 ともあれ、レス返しー。


○1. 平松タクヤさん
 お皿っΣ(´・ω・`) その手がありましたかw あ、でも、『眠る』んだったらやっぱりお線香の方かな?お皿だったら「一枚足りないー!」って起きちゃいそうでw

○2. アイクさん
 端役C君の冥福をお祈りしておきましょう……陰念の願いが叶うのは、このシリーズの根幹を崩壊させると同義です(^^; タイガー? 活躍するどころか、一話目では名前すら出てきてませんでしたが(ぉ

○3. 山の影さん
 女日照りのところに美少女一人。こういった状況で当然起こる事を無視せずに起こし、かつコメディに落とす。これがやりたかったんですよ、私w

○4. 内海一弘さん
 さすがに、いつまでもジェネレーションギャップしてられない現役女子高生ですからね、おキヌちゃんはw 不幸にもわかってしまったからこそ眠れなくなっちゃいました。可哀想(´・ω・`) 陰念はどーあっても末路は一緒でしょうねw

○5. 文月さん
 おキヌちゃん傷物にしたら、色々なところから報復来ちゃいますからねぇ。特に今回登場した『未来のお義母さん』とかw タイガーが影薄いキャラとして定着したのは、ひとえにバベルの塔でのことが原因だと思います。その場にいたのに台詞一つなかったからw

○6. Februaryさん
 いえ、マリアがバ○チョップをテレサと陰念の両方にかましたのでダブルKOです(^^; メドさんが番外編で色々溜まっていたというのは……ご想像にお任せw

○7. ワックさん
 さすがにその辺は分別ついてる……と思いたいです。きっと外に連れ出してヤっちゃったんでしょうw

○8. SSさん
 陰念がおキヌちゃんにやることといえば、失敗することが前提になってますからねぇ。原作よりも善人になってるとはいえ、三下のチンピラっていう基本的な性格はあまり曲げたくなかったんです(^^;

○9. 秋桜さん
 男達の努力は、どーあっても無駄に終わってしまう運命ですw タイガーは、影が薄すぎて一話目では名前が出てきませんでしたw

○10. とろもろさん
 ああっ、予測されてしまってたんですね……知ってたらネタ変更してたのに。私もまだ未熟。
 切羽詰ってたのは、やはりライバルが多すぎたからでしょう。先手必勝とばかりに(^^;

○11. いりあすさん
 横島くんほど突き抜けた馬鹿(褒め言葉)がいないですからねー。メドーサみたいな強力な存在は、やはり「ええチチしとる女」じゃなくて「おっかない女」になっちゃうんでしょう。修行より夜這いの方が盛り上がるのは、やはり女に飢えた男どもだからでしょう(^^;

○12. ロスさん
 その演説、陰念にやらせてみたいですねw まあ、機会があればですが。

○13. ショウさん
 あの時おキヌちゃんの部屋にいた人物に関しては、その場のノリで書いたために考えてません(^^; その辺は読者諸兄の脳内補完でお願いします。銀ちゃんの受難は、【みっかめ】で考えております♪ 乞うご期待w

○14. わーくんさん
 私の目指す先は犬で雀なあの偉大なお方ですからー。やはりこの程度で満足してはいられないんですよw わーくんさんが変人扱いされるように頑張りますね♪(マテ


 これにてレス返し終了ー。……次回こそタイガーの名前出してあげられればなぁと思いつつ。

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