―第五話 発現 ―
横島に床に崩れ落ちるおキヌの姿は、スローモーションに見えた
ドサッ
(何、が・・・)
冷たい床に倒れふせ、自分の周りを己の赤い血で赤く、紅く染め上げる
おキヌ、その姿に横島は何が有ったのか、ただ分からず、
ただ唖然と立ち呆けるのみ。
「ククク、クハハハハハハ!」
そんな時、笑い声が聴こえた。声は酷く楽しそうで、気持ち良さそうだ。
横島にとって、その笑い声は聞き覚えの有る声だ。
声がする方を横島は見た。
横島が入った扉の対称の位置にあった壁には隠し扉が有り、
そして扉は開かれており、そこに立つのは、
右手に銃を持ち、一人、大声で馬鹿笑いするハマードの姿があった。
横島はこの時理解する。
コイツが…コイツがおキヌを殺したんだと、命を奪ったんだと…
怒りが…憎しみが…悲しみが…横島の心を駆け巡る
「ハハハハハハ!ドウダネ?再び奪わレた気分は!?」
「黙れ・・・」
狂喜するハマードに横島は睨みつけ、小さな声で言った。
その声は小さいにも関わらず、まるで地の果てまで届く様だった。
並の人間なら、恐怖で心を芯から凍て付かせる程冷たい。
そんな声音だというのに、ハマードは気付かない。
ただ狂った様に笑い続けるのみ…
ドクン
(殺す・・・)
明確な殺意は、怒りに染まり、熱くなった頭を冷やす。
心臓が強く脈打った。
心の底から噴出すマグマの様な憎悪と激怒は魂を震わせる。
霊気は横島の殺意に応えるかの如く、右手と光を失った左眼に集まる。
横島の左目から一筋の、赤い涙が流れた。
ドクン・・・ドクン・・・
(熱い・・・苦しい・・・心が・・・)
横島は右手が、左目が焼ける、燃えている様に熱く感じた。
地獄の業火の様に、熱く、苦しく、痛い・・・
だが横島にとって、そんな痛みも、苦しみも、
己の心が感じているのだと思った。
脈打つ心臓が更に強く、打ち続ける。
[やれやれ、やっとかね]
横島の脳裏にある者の声が響いた。
そして、横島の霊気は本人の黒き思いに応えた。
右手のソレは形を成し、左目が朱く、妖しく光る。
横島はハマードとの距離を一瞬で詰め、右手のソレを横薙ぎに払った。
「ハハハハハハハハハ!は?」
ゴトッ
ブシュウウウウウウウウウッ! ドサッ
振るわれたソレはハマードの首を断ち、頭は宙を舞った。
ハマードは突如視界から横島が消え、代わりに見えた首のない体に、
不思議そうな声を上げた。それが彼の最期の言葉になった。
右手のソレは一振りの剣だった。
漆黒の…夜の闇を思わせる黒き刀身と柄、
刃だけが清められたように澄んだ蒼の片刃の片手剣。
蒼銀に輝く刃は美しいのに、心に何か冷たいモノを感じさせる。
鍔も無ければ、他の装飾も無い簡素な形状。
だがソレは禍々しく、ソレでいて高潔な雰囲気をかもし出す。
それはまるで、剣は″私は魔剣″だと自己主張しているかの様。
そして夕日を思わせる緋色に変わった左の瞳はただ妖しく輝く。
その剣を右手に持ち、何の価値の無い物を見る様にハマードの死体を、
ただ冷たく見る横島。
その瞳に、慈悲は無い。
瞳に写るのは怒りか・・・憎しみか・・・それとも、悲しみか・・・
ソレは横島自身分かってはいないかもしれない。
「っ!おキヌちゃん!」
そんな目をしていた横島だったが、我に返ったかの様に、
おキヌの体に駆け寄る。無意識に放した剣は音をたてず床に刺さった。
おキヌの目に光は無かった。
「頼む!」
右手に文珠を一つ出し、文字を込めた。込められた文字は【蘇】。
横島のお前が頼みだと、希望だと、
縋る様な叫びに文珠は光を放ち発動する。
おキヌの体を暖かな光が包み込む。
「・・・っ、クソ!2文字ならどうだ!」
傷口は見事に塞がった。
だが、心臓は動きださず目に光は戻らない。
右手の指で首の動脈に触れ、その事を知った横島は次に二つ文珠を出し、
【蘇生】を発動させる。
「4文字ならどうだ!」
だが、何の変化も無かった。
【完全蘇生】
横島が使える最大個数で、強い念を込められた文珠は光を放ち発動する。
淡い光がおキヌを包み込む。
「・・・くそぉ!」
ドカッ!
しかし、おキヌの心臓は動く事は無かった。
横島は右手をおキヌの首から離し、俯きそのまま床を殴りつけた。
「何が文珠使いだ!俺は!俺は誰一人助ける事も出来ないのか!」
横島は憎い。
ルシオラに続きおキヌを助けられなかった自分が・・・
おキヌを自分への人質とした奴等が、その仲間が・・・憎い。
涙は流れない。
悲しみよりも、憎しみが勝っている為だろうか・・・
立ち上がろうと前を向こうとした横島の目に、ふとおキヌ死に顔がはいる。
何があったのか分からない。そんな表情をしていた。
「くっ・・・」
その顔に横島は苦悶の声を漏らし、震える手でおキヌの目を、
そっと閉じさせる。
ふとその時、横島の頭に雷光が疾る様にある事を思い出した。
「可能性が、無い訳じゃない・・・」
ソレは死津喪比女の時の事。
おキヌは幾つかの条件の下、反魂の術で生き返ったのだ。
そう呟いた横島の行動は早かった。
そのままの態勢ですぐさまおキヌの体を文珠、【保存】を使用する。
横島は細かい事は憶えていなかったが、膨大なエネルギーと、
本人の魂、蘇生可能な保存状態の良い体が必要な事は憶えていた為だ。
(あとは美神さんにワンダーホーゲルを説得する様に頼むか・・・
いや、小竜姫様の方が良いか?)
「・・・考えても仕方が無い」
横島はそう言い考えを打ち切ると立ち上がり、
文珠【結界】でおキヌの体を守る結界を張る。
「万が一だ」
だが、それだけでは不安になり文珠を3つ出し、1つを【印】と込め、
おキヌの側に置き、次に2つに【遮断】と込め、
その効果をおキヌを守る結界に付加する。
結果外と内を遮断し外からは見えないが内から見え、
音も内側からは洩れない結界となった。
『美神さん。』
『!、横島君。何?何か分かったの?』
横島は文珠【伝達】を使い美神に連絡をとる。
横島の真面目な声に美神は何か新しく分かったのかと問いかける。
『美神さん落ち着いて聞いて下さい。おキヌちゃんが殺られました。』
『!?』
『おキヌちゃんはあの花、死津喪比女でしたっけ?
とにかくその時生き返りましたよね。ですから・・・』
『それ以上は言わなくていいわ。おキヌちゃんの体はちゃんと保存した?』
『ええ』
美神は横島の言い様とした事を察し、横島の言葉を遮る様に言った。
美神の問いに考えの違いは無いと判断した横島はすぐさま答える。
『ただ、おキヌちゃんがまだ幽霊になって無いですが・・・』
『霊体になるのは個人差があるの。特におキヌちゃんは元幽霊、
それに生き返ってからは幽体離脱が得意だったでしょ?
霊基構造の組み換えに時間がかかると思うわ。
それより、前言っていた文珠を使った転移はしないの?』
横島の疑問に答えた美神の憶測に半ば納得し、そして、
美神の言った一言に、心の黒いモノが疼きだす。
『試していない事をこんな時に試す気になれませんよ。
それに、俺は…少しヤボ用があるんです。』
横島はそう言い美神が何か言う前に文珠【伝達】の効果を切る。
こうして、準備は整った。
「少しだけ待っててくれ」
横島はおキヌの体にそう言う横島の目には優しさの色があった。
立ち上がり剣を抜き部屋から出ようと扉へ向かう。
その目には先程の優しさは欠片も無い。
ドクンッ
心を黒い感情が支配する。
心臓が再び強く脈打った。まるで、歓喜している様だ。
その黒い感情が解放される事に・・・
そうして横島は部屋を出た。ただ狩る為に・・・
「うん・・・!横島さん!」
それを幽霊となったおキヌが見た。
そして横島の名を呼ぶも、横島にはその声は届かない。
「っ!横島さん!」
おキヌは横島を追いかけ様としたが文珠の効果で、
結界から出る事は出来ない。
文珠の結界、
それの効果はおキヌを守るモノであり拘束するモノでもあったのだ。
横島を止められるモノはもうこれで無くなった。
―後書き―
久しぶりの更新、憶えていた人はいるかな?と心配気味、
笑っちゃうわ。自分の情けなさに。
句読点の有る無しは…正直ただの失敗です。ご迷惑かけました。
声の主は後々分かるんでご容赦を・・・
次の話からは戦闘(?)が始まります。
更新できたら暇つぶしでいいんで見てください。
〜レス返し〜
・いしゅたる様
一応は復活させる気だったんですよ。
レスを控えるのを忘れて、記憶を頼りにレス返しをしました。
すいませんでした。
・DOM様
ええそうです。モデルが劇ナデなんですよ。
あの黒アキトの姿がなぜか横島と上手い具合にマッチして
これで行こう!と書いてみたらこうなりました。
ぶっちゃけおキヌの死亡フラグは唯の思い付きです。
・ちょっと通りますよ様
それはちゃっと・・・(汗)
できれば感想を書いて下さい。
・ZEROS様
事前調査はしてますよ。まぁ、傲慢なバカですから山岡は・・・
それだけじゃ無いんですが・・・それは後々に・・・
文珠の贋作については少し違います。
あれは急造の文珠で、失敗作。
老師の修行が終わり妙神山から降りた次の話で横島の文珠、
暴発(?)したでしょ?アレです。
・ドライフルーツ様
楽しんで頂いてありがとうございます。
まぁ、時間があり、気が向いたら見て下さい。