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「光と影のカプリス 第51話(GS)」

クロト (2007-01-25 21:37)
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 部屋に戻った横島が風呂に入る前に着ていた服をハンガーにかけている間に、彼の影法師は備え付けのポットと急須でお茶を注いでくれていた。
 和室で浴衣姿で世話を焼いてくれる美少女と2人きり、という非常にそそるシチュエーションではあるのだが、変なことを言ったら殴られるのは自明なので、横島は普通に礼だけ言って湯呑みを手に取った。

「お茶請けもあるがもうすぐ夕食だからな。今はそれだけにしておけ」
「ああ、分かってるよ。でもおまえも飲み食いできればいーんだけどな」

 いつもの事とはいえ、女の子を目の前にして自分だけ食事を楽しむというのは多少の罪悪感がある。しかしカリンは別に気にしていないようだった。

「いや、その気持ちだけで十分だ。それにこの体もそう悪くはないからな」

 確かに飲食の楽しみはないが、代わりに飢えも渇きもないし、便秘や下痢とも無縁だ。胃腸の弱い女性ならむしろカリンを羨むかも知れない。
 横島はそれを聞いて気が楽になったらしく、あっさり頷いて話題を変えた。

「んー、なるほどな。ところで2階の遊戯室に卓球台があったけど、やっぱ温泉宿の定番なんかな?」
「そうだな。今日はもう風呂に入ってしまったが、明日はみんなでやってみるのもいいかもな」
「おお、そりゃ楽しそーだ」

 普通に遊んでも楽しいだろうが、激しい動きで浴衣がはだけて胸元や太腿が見えたりしたらそりゃあもー!
 カリンや小竜姫を振り回すのは難しそうだが、ヒャクメならわりと簡単にいけそうだ。明日の楽しみが1つ増えた!
 お茶を飲み終えたら、そろそろ夕食の時間である。場所は宴会用の広間なのだが、そこにカリンを連れて行くのは差し障りがあるので、横島は食事が終わるまで引っ込んでいてもらうことにした。

「そうだな、ではまた後で呼んでくれ」

 とカリンが横島の背後から彼の中に戻る。あくまで浴衣の中を見せる気はないようだ。
 少女が着ていた浴衣がぱさりと床に落ちる。横島はそれを拾い上げてハンガーにかけたが、何となく残念そうな顔つきをしていた。

「パンツとかは自前だから残らんのか……タマモもそーだけどサービスが足らんよなぁ」

 変態である。それとも匂いをかいだりしないだけマシというべきであろうか?


 横島たちが広間に入ると、そこにはすでに4人分の席がしつらえてあった。メニューは五目野菜の釜炊きご飯、猪肉と山菜の鍋、鹿肉の刺身、鮎の塩焼き、など等である。特に猪鍋は味噌とダシがここのオリジナルで自慢の一品らしい。
 仲居さんが土鍋の下に火を入れてくれた。他のものを食べている間に煮えてくることだろう。
 ご家庭ではなかなか味わう機会がない豪勢な料理だが、小竜姫だけは宗教上の理由で肉と魚は食べられない。とりあえず、鮎と鹿刺は隣のヒャクメに譲ってやった。
 ヒャクメがそれを微塵の遠慮もせず受け取って、ひょいひょいっと口の中に放り込む。

「くうーっ、美味しい。それにしても竜神族は不自由なのね、こんな美味しいものが食べられないなんて」

 ヒャクメも神族だが特定の宗教に帰依しているわけではないので、神族としての一般的な規則とモラル以上に彼女を縛るものはない。
 もちろん人界での飲食に制限はなかった。鹿肉の次は勝手に注文した熱燗を手酌でぐい飲みする。ちなみに銘柄は地元の名産「堕少年」だ。

(こ、この娘は……!)

 と小竜姫は憤りを禁じ得なかった。彼女は腥物(なまぐさもの)は食べられないし、横島とタマモの手前飲酒も控えている。だというのに、この不良神族はそれを自分に見せつけているかのようだ。もしかしてさっき胸の件でしぼってやった事を根に持っているのか?
 しかしヒャクメが肉食したり飲酒したりすること自体は問題のないことで、咎めるわけにもいかない。ぐっと耐えるしかなかった。

「……」

 横島はそんな対照的な2人の様子を眺めながら、人間と神様の違いについて考えていた。
 この業界に入る前は、神仏というのはたとえば聖書の「主」とか大日如来とかのような、どこか抽象的で超越的な存在だと思っていた。しかし目の前にいる現実の神族は能力こそ強大だが、頭の中身は人間とほとんど変わらない。尊敬はしているし親しみやすくもあるが、信仰の対象にはならないような気がする。
 ……特にヒャクメは。

(何つーか、サギだよなぁ……)

 それとも対象をよく知りもしないで勝手に崇拝している人間達の方がお間抜けなのか。
 そんな物思いにふけっていた横島の腕が横からつつかれた。

「横島、鍋そろそろ煮えてきたんじゃない?」
「ん? ああ、そうだな」

 土鍋の蓋の空気穴から白い蒸気が噴き出している。蓋を開けると、肉はもちろん椎茸やらネギやら豆腐やらがきれいに並べられていて、美味しそうな香りがぐつぐつと匂い立ってきた。

「ん、もう良さそーだな。いつもはこんなの食えねーからな、めいっぱい食えよ」
「……。それって年頃の女の子に言う台詞じゃないと思うけど……」
「だっておまえ、支部長さんと朧寿司行ったときだってブラックホールみたいに食ってたじゃねーか」

 横島は恋人ができても相変わらずデリカシーはないようで、レディに向かってひどい譬え方である。当然タマモは柳眉をぴんっと逆立てた。

「あんたねぇ……っていうかお揚げは別腹なの。あんたと行ってるときはセーブしてあげてるんだから、むしろ感謝してほしいわね」

 横タマは小山事務所に転職してから給料は上がったが、まだ1回しかもらってないので金持ちというほどではない。だからタマモも家計には配慮しているのだ。

「そ、そっか。ありがとな」

 横島はタマモの主張は多少信憑性に欠けているような気がしたが、そういう気持ちを持ってくれているだけでも嬉しいことだ。素直に礼を言ってとりあえず場を収めた。
 そしていよいよ鍋の中に箸を伸ばそうとしたとき、今度は小竜姫に声をかけられた。鹿と鮎はヒャクメにあげたので、猪は横タマにくれるらしい。

「ああ、そういえば所長は肉は食べられないんでしたね。んじゃ遠慮なく」
「ありがとう」

 とタマモも一応は礼を言ったものの、彼女はお揚げ以外の食事の量は14歳女子の平均と変わらない。小竜姫にもらった分は全部横島に譲ることにした。

「そっか、サンキュー。でもこの鍋うまいな。こーゆーのを五臓六腑にしみわたるってゆーんかな?」
「炊き込みご飯も美味しいわね。お揚げほどじゃないけどいけるわ」

 タマモも気に入ったらしい。そして横島がふと正面に目を移すと、小竜姫とヒャクメもいつの間にか仲直りして和やかに談笑していた。神様でも美味しいものを食べると心が広くなるようだ。
 しかしヒャクメは酒も気に入ったのか、徳利を何本も空にしている。横島は彼女が「暑くなったのねー」とか言って浴衣を脱ぎ出したりはしないかと期待していたのだが、ヒャクメは酔う気配すら見せなかった。うわばみなのだろうか?


 夕食でお腹いっぱいになった後、横島は腹ごなしにタマモと一緒に館内を散策することにした。小竜姫とヒャクメは部屋に帰ってTVでも見るそうなので、2人きりでということになる。
 横島がさりげなくタマモの手を取ると、少女はちょっとびっくりした様子だったが特に何も言わなかった。
 1階のみやげ物売り場を冷やかした後、2階の遊戯室に行く。明日卓球で遊ぶ約束を取りつけた後、ゲームコーナーに移動した。
 こういう所にあるのはたいてい年代物のレトロゲームと相場が決まっているのだが、なぜか1台だけ最新のものがあった。

「おお、まさかこんな山奥の旅館に『絶対美貌GS』が置いてあるとは!」

「絶対美貌GS」というのはGSのチームを操作して悪霊軍団と戦うというゲームである。プレイヤーはリーダー役として個々のGSに指示を出すという立場なので、格闘アクションではなくリアルタイム戦術ゲームの方にジャンル分けされていた。
 さすがに実在の人物は登場しないが、スリットの深いチャイナドレスを着て大きな扇を武器とする主人公「ミカ・レイ」、文珠という魔法じみた術を使う「縦島」、精神感応の術でサポートする「虎」など、どこかで見た覚えがあるようなキャラクターは存在する。
 横島が筐体を覗きこんでみると、画面にはロン毛でスーツ姿の若い男が剣で浮遊霊を斬り倒すシーンが流されていた。

「あ、俺この『東条』って奴なぜか虫が好かないんだよな。使うときは大抵1人で突っ込ませて自滅させてるし」
「美形だから?」

 タマモの突っ込みもかなり遠慮がなかったが、横島は別に怒らなかった。いや握り拳を震わせて思うところを力説する。

「んー、確かにそれもあるけど。でもそれより何かこー、魂がシャウトするんだよ。こいつは敵だ!って感じに。
 そうだ、せっかくだから対戦でもしねーか? ハンデつけてやるから」
「いいわよ」

 タマモはゲームセンターに行ったことはないが、今は他にすることもないので承知した。対面側に移動してコインを入れる。
 横島はそれを確認すると操作方法の説明を始めた。
 まずはシチュエーションの設定である。
 GS同士、あるいは悪霊同士ででも対戦できるが、やはりGS対悪霊という構図の方が盛り上がるというものだ。話し合いの末、古い洋館に棲みついた妖怪と除霊の依頼を受けたGSたちが対決する、という設定になった。横島がGS組でタマモが妖怪軍団なのは、両者の出自からいって順当な所であろう。

「次は使うキャラを選ぶんだ。好きなの選んでいいけど、基本的に強いヤツほどコストが高いから気をつけろよ。まあ初心者は強いの選んで人数減らした方がやりやすいけど」

 タマモは横島の説明を聞きながら筐体に張られたキャラクター解説を読んでいたが、やがて最初の感想を口にした。

「……えっと。一般GSがコスト5でCレベル悪霊が3、東条も3で虎が2、ね……で、縦島が1でミカ・レイが50? 何これ」

 プレイヤーの所持コストは30だから、ミカ・レイは主人公のくせに選択不可能だ。というか他キャラとの落差が激しすぎるのではないか?
 横島もミカ・レイのコストについては疑問を持っていたが、ここでそれを議論しても仕方がない。

「もう1コイン入れると所持コストが60になるから、そーすりゃ使えるようになるよ。入れてみな」
「うん」

 つまりそれがハンデということか、とタマモが頷いてコインを追加する。横島が言った通り、使えるキャラの数が2倍になった。

「まあおまえは妖怪軍団なんだし、無理してミカ・レイ使うこともないんだけどな。
 で、次はリーダーを選ぶんだ。そいつが倒されたら負けで、逆に相手のリーダーを倒せば勝ちになる」
「つまり将棋とかチェスみたいなゲームなのね。
 で、リーダーは……えっと、混毛百眼九眉の狐? うーん、何かすっごく胡散くさいけどこいつにしてみようかしら」

 どうせなら舞台に似合った妖怪を選べばより雰囲気が出るのだが、タマモはそこまでの配慮はしなかったようだ。そして横島が使うリーダーはむろん「縦島」である。

「んじゃ始めるぞ。手加減はしねーからな」
「望むところよ。返り討ちにしてあげるわ!」

 相手は初心者とはいえ、十分なハンデをやった以上横島に手加減をする理由はない。タマモもそれを望んだりはしなかった。そうでなくては、妖狐の知略のほどを見せつけることができないからだ。
 いよいよバトルが始まる。横島はまず斥候として、調査系のGSを1人門扉に近づかせた。慎重にカギを開けさせて中に入れる。
 その次の瞬間。壁の内側の植え込みの中から1体の自爆霊(地縛にあらず)が跳躍してGSに体当たりした!

「なっ、いきなりかよ!?」

 派手な爆音とともにGSと自爆霊が散華する。GSのコストが5で自爆霊が2だから相打ちではない。

「タマモおまえ、このゲームやり込んでいるなッ!」
「答える必要はないわ」

 驚愕もあらわに詰問する横島と、無駄にクールな笑顔でそれをはぐらかすタマモ。なかなか良いコンビだった。
 もっともタマモは本当にこのゲームは初めてだ。罠をしかけたのは、単に狐の狩りの応用に過ぎない。ただそれを素直に言ってしまうのは芸がないので、ちょっととぼけてみただけである。
 しかし横島にそんなことは分からない。思った以上の強敵を前に、戦術を改める必要を感じた。
 思い切ってリーダーの縦島を前に出し、文珠《爆》をぽいぽいっと敷地内に投げ入れる。
 これは見た目は小さな水色のビー玉に過ぎないが、手榴弾に匹敵する破壊力を持っている。熱火と爆風が荒れ狂って、たちまち玄関の辺りを廃墟にしてしまった。もちろん隠れていた自爆霊たちは全滅である。

「ちょっと横島、そんなことしたら報酬さっぴかれるんじゃない?」

 タマモは実際に除霊事務所で働いている身だから、それが気になるのは当然だ。しかし横島は涼しい顔で、

「問題ねーよ、このゲームには報酬の概念はないからな。ぶっちゃけ建物ぶっ壊して圧死させても勝ちになるんだ」
「ズルいわよ横島ー!」

 とタマモが怒声を張りあげた。そういうルールなら、妖怪側は建物にこもるより山林や洞窟に散らばった方がよほど有利ではないか。妖狐であるタマモにとっては尚更だ。
 なのに横島はこのルールを説明しなかった。勝つために隠し事をするとは、何という卑劣な男か!
 しかし横島はそこまで外道ではなかったようで、

「いや、さすがにそれはしねーって。でも家具が燃えたりとかシャンデリアが落ちてきて潰されるとかはアリだから気をつけろよ」
「な、何でそこまでリアルに……!?」

 タマモは納得したのかあきれたのか、とりあえず静かになった。そして横島が行動を再開し、安全になった敷地にGSたちを進入させる。吹き飛んだ玄関から建物の中に入った。
 横島はここでの迎撃を警戒していたのだが、なぜかそれはなかった。続いてホールに入り込むが、ここにも何もいない。
 だがそのとき、突然天井がみしみしと悲鳴をあげた。今さっき横島が言及したように、かかっていた大きなシャンデリアが天井の板ごと轟音を上げながら落ちてくる。

「なっ、何だ!?」

 いきなりのことでGSたちも反応できず、数人がシャンデリアの下敷きになった。
 そしてその上には、身長4mはあろうかという巨大な人影がうずくまっていた。こいつが2階の天井から飛び降りたため、床が抜けて1階に落ちてきたのである。
 これはタマモが横島の台詞から考えついた策で、本来なら自分のキャラがいない部屋の様子は分からないのだが、「九眉の狐」がいれば彼女の特殊能力で全てのエリアを見ることができるのだ。
 巨人が腕をぶんっと振り回すと、避けそこねた数人のGSがまとめて吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。体が大きいぶんパワーと体重があるので、破壊力が段違いなのだ。外見はとある山奥で門番をしている鬼にそっくりだったが、たぶん他人の空似であろう。

「うわ、こいつ結構強いじゃない」

 とタマモがその戦果に感嘆の声をあげた。
 さすがコストが25もかかっただけのことはある。実は彼女が玄関で待ち伏せをしなかったのは、これにコストをつぎ込んだからなのだ。

「こらタマモ、家ン中でそんなヤツ使ったらどーなると思ってんだ!」
「いいんじゃない? どーせ『九眉の狐』の所有物ってわけじゃないんだし」

 と、今度は横島の怒号をタマモが軽く聞き流した。似た者同士とはこの事であろう。
 そして気がついてみれば、生き残っているGSはもはや縦島1人であった。しかもHP(残り体力)は残り3割を切っているではないか。
 絶体絶命のピンチだが、さいわい彼にはまだ文珠という切り札が残っている。

「えっと、まずは《治》でHPを回復して……んでもって隠しコマンド《巨》でケリをつける!」

 初心者相手に隠しコマンドまで使うのはいかがなものかと思われるが、もはやなりふり構っていられなかった。横島がコマンドを入力し終えると同時に、縦島の体がむくむくと大きくなっていく。

「WOOOOOーーーッ!」

 いまや鬼とほぼ同じ体格になった縦島がどこぞの初号機のような雄叫びをあげ、そのまま鬼に躍りかかった。タマモが天井を崩してくれたおかげで、かがまずに立ち回りができるのだ。

「ちょっと横島! そんな事までできるヤツがコスト1って、どーなってるのよこのゲーム」
「いや俺に言われても……」

 ゲームバランス的に言うなら、縦島のコストはミカ・レイと同じ50でもおかしくない。横島はタマモの指摘はもっともだと思ったが、同じキャラを複数は使えないことになっているのでさほどの問題はないのだろう。
 そしてむくつけき大男どもが建物を壊しながら殴り合いをする光景はまことに見苦しいものだったが、幸いにもそう長くは続かなかった。ゲームに関しては1日の長がある横島が、うまいこと鬼の背後を取ったのだ。

「文珠《縛》! これで決まりじゃ!!」

 縦島が鬼の背中に文珠を押しつけて発動させると、鬼の動きがぴたりと止まった。文字通り荒縄で縛り上げられたかのごとく。
 そのあと縦島の情け容赦ない暴力行為によって、鬼はついにHPが0になってリタイアした。


 完全に廃屋と化した洋館の庭で、1組の男女が睨み合っている。
 男は言うまでもなく縦島、女は神通扇で武装したミカ・レイだ。

(コスト60じゃ足りねーはずだけど……タマモのやつコイン追加したのかな?)

 しかしタマモが無断でそんなことをするだろうか。横島は少し疑問に思ったが、まあどちらでもいい。いくらミカ・レイが強かろうと、文珠《巨》が効いている内ならひと捻りだ。
 正面から蹴散らしてくれる!とばかりに縦島が大股で間合いを詰めていく。だがミカ・レイはそれを迎え撃とうともせず、ぐいっと胸を反らせると大声で叫んだ。

「こらー縦島、私に逆らう気ッ!?」
「ひいっ!」

 縦島がびくっと身をすくませ、あろうことか巨大化を解除すると土下座して許しを乞い始めた。普通に戦えば勝てるはずなのだが、魂が完全に屈服してしまっているらしい。
 実はこの辺りが縦島がコスト1になっている理由だったりする。

「そうか、その手があったかぁぁぁ!!」

 横島が頭をかかえてうめいた。縦島はミカ・レイの事務所の従業員で、彼女には逆らえないよう骨の髄まで調教されているという設定なのだ。いかに戦闘力で上回っていても、戦う意志がなければどうにもならない。
 しかもこのミカ・レイは偽者であった。縦島が元の大きさに戻ると同時に、彼女も変身を解除して「混毛百眼九眉の狐」の姿に戻ったのだ。元々タマモはコインの追加などしておらず、狐の変化の能力でミカ・レイに化けさせていたのである。

「しまったぁぁぁ!」

 横島が悲鳴をあげたがもう遅い。狐の眉から放射された9色の炎によって、あわれ縦島は彼女の夕食になったのだった。

「ああ、俺ってやつは……年下の女の子にハメられて負けるなんて……」

 ハンデを与えてのこととはいえ、負けは負けである。横島は屈辱のあまり操作台に突っ伏して、しばらく起き上がることができなかった。


 散策が終わったら、タマモは当然に小竜姫たちの部屋に戻ることになる。横島は自分の部屋に1人きりという事になってしまうが、本当に1人きりというわけでもない。

「楽しかったか? お茶でも入れるからひと休みするといい」

 横島は日本でも珍しい影法師使いなので、暇なときは影法師を呼んで話し相手になってもらう事ができるのだ。ちなみにさっきまで引っ込めていたのは、もちろん恋人と2人きりだったからである。
 カリンもその辺の事情は分かっているから、呼ばれなかったからといって文句をつけるようなことはしない。

「そだな、メシはうまかったし風呂も気持ちよかったし。もうちょっとサービスがよかったら言うことねーんだけど」

 温泉旅行で美(少)女の中に男が1人、という絶妙のシチュエーションなのだから、横島としてはもう1歩踏み込んだイベントが欲しいのだ。たとえば家族風呂とか、マッサージしてくれるとかさせてくれるとか。

「………………諦めろ」

 ほうじ茶とせんべいを横島の方に押しやりながら、カリンは深くため息をついた。だいたい今回は職場の慰安旅行なのだから、そんな破廉恥な真似はタマモが許しても小竜姫が許すまい。
 横島はその講釈にうなだれつつも、とりあえず目の前に置かれたお茶を口に含んだ。

「おまえが1番厳しいよーな気もするんだが……でもこうしておまえと2人きりでのんびりするのも久しぶりだよな」

 タマモは家も学校もバイト先も同じなので、別々になるのは横島が男友達と、あるいはタマモが女友達と遊びに行く時くらいである。彼女は恋人だからそれはそれでいいのだが、時には別々の時間も欲しくなるのが人間の心の仕組みというものだ。

「そうだな。たまにはこういう静かな雰囲気もいいものだ」

 窓を開けると川のせせらぎや風が木々を揺らす音が聞こえてくる程度で、人工的な騒音はまったく聞こえてこない。カリンはさわがしい都会より、こういう静かなところの方が好きだった。
 そのまま2人は何もせずただ向かい合って座っていたが、横島が突然微妙に真剣な表情で口を開いた。

「さて、そろそろ寝る時間になったが……その前にぜひやっておくべきことがある」
「夜這いとか言い出したら殴るからな?」
「……」

 横島は沈黙をもって答えた。
 カリンは予想通りの反応に激しく脱力したが、押さえつけるばかりでもよろしくないと思い直したのか折衷案を提示した。

「まあそう肩を落とすな。今日はおまえが寝つくまで膝枕しててやるから」

 これなら横島が夜這いに行くのを確実に防げるし、彼も不満は抱くまい。カリンはそう考えたのだが、横島は恋人ができたことで要求水準が上がったのか満足する所までは行かなかったようだ。

「膝枕か……悪くないけど、どーせなら添い寝の方がへぶっ!」

 結局カリンは腕力で横島を黙らせた。


 その後カリンは横島が逃げ出さないよう両足を浴衣でくくってから布団に運び込んで寝かせたのだが、それでも約束は守ってやったらしい。


 ―――つづく。

 進行が遅くて申し訳ないっスm(_ _)m
 あと祝辞を下さったみなさま有り難うございました。
 ではレス返しを。

○らじおさん
 はじめまして、私の文でこの界隈に戻っていただけたとは光栄です。
 これからもよろしくお願いします。

○北条ヤスナリさん
 はじめまして。つたない文ではありますが、今後とも楽しんでいただければ幸いです。

○遊鬼さん
 筆者もこの桃源郷をビジュアルで見たいです○(_ _○)
 魔鈴さんはこの物語ではGS試験前から登場しておりますが、時系列については気にしないで下さい(ぉ

○KOS-MOSさん
 横島は夜這いも封殺されましたが、明日になったらきっと溜まった煩悩でカリンを振り切ってくれることでしょう。魔鈴さんも来ることですし。

○ばーばろさん
 こんな文でよろしければ、どうぞいくらでもおかずにして下さいませ(ぉぃ
 小竜姫さまはカリンには香港でもいじめられたので、コンプレックスがあるんですよー。ヒャクメはますます素行が悪いですが、彼女も仕事で疲れてる身ですので大目に見てやって下さい(笑)。
 タマモが横島の小竜姫さまへの浮気(ぉ)を許すかどうかは難しい所ですねー。横島のことですから1人許したら歯止めが効かなくなりそうですし。それ以前に当人が拒否してますがw
 魔鈴さんは……店のスタイルからいって、お揚げ料理がメニューに入る可能性は低そうですねぇ。横島はそれが無くても通ってますがw
 あとブログにコメント書かせていただきました。

○whiteangelさん
>我が生涯一片も悔い無しですよ
 むしろ何が何でも死ねませんです(笑)。

○いりあすさん
 GSルシも長編ですので、あまり根詰めずに気長に読んで下さいねー。
 横島にはそろそろ原作なみの不幸な目に遭ってもらいたいものですが、誰がその巻き添えになるかが難しいところですな。
 カリンは人間にはなれませんが、神魔族っぽい存在にはなれそうですねー。というか小竜気を極めれば小竜姫さまそのものに<マテ
>万が一横島とカリンがまかり間違ったりしたら
 は、仰る通り横島は2倍の快感を味わえるのであります。横島がそれに気づいてしまったらカリンの貞操は大ピンチに(^^;

○minoさん
 進行が遅くてすみませんですぅorz
>小竜姫さま
 事実ほど人を怒らせるものはありませんので、口外するときはくれぐれも周りに気をつけて下さいね(ぉ

○読石さん
 タマモさんはキツネなので、そう簡単に本心をさとられるようなマネはしないのですよー。
>ヒャクメ
 もう少し頭のネジが締まってれば有能な女神として崇めてもらえると思うんですが、宇宙意志は残酷ですねぇ。

○内海一弘さん
 魔鈴さんは次回こそ……!
>タマモの真意
 さすがのカリンもキツネの内心までは読み切れないのであります。

○通りすがりのヘタレさん
>原作のように煩悩が暴走しないのはやはり恋人タマモのおかげのようですね
 そうですねぇ、原作の彼も恋人ができた時は「世界って美しい」なんてたわ言いう余裕があったくらいですから(酷)。
>魔鈴さん
 は、少なくとも初登場の時は有力なヒロイン候補だったのですが○(_ _○)

○Februaryさん
>横島君、敵を減らしたつもりが増やしていたとは
 彼は墓穴を掘る行為が似合う男ですから(酷)。
>ここの横島君って式神使えましたっけ?
 式神ケント紙は使えますけど、自前では作れませんです。なので覗きはできません(笑)。
 それ以外にはお札や金縛りの術はフェンリル編でも使ってますが、陰念戦で使った破術はなかなか出番がなかったりしますorz

○LINUSさん
 魔鈴さんの貞操観念はよく分からない所がありますが、ここには西条がいないので原作よりは見込みがあるかも知れません(ぇ

○UEPONさん
>横島ならカリンの痛みを感じるようにして視覚も感じとるのではと思ったんですが
 そんな都合のいい能力は天が許しても筆者が許しません!
>つまり自分には被害がないから気にならないんだな!
 おお、そういう解釈もありますねぇ。
 さすがは傾国の生まれ変わり、恐るべきです。

○とろもろさん
>(それを繰り返せば、その内・・・)
 カリンの場合疑わしきは処刑しますので、さすがの横島君にもそこまでの根性はないです。
 しかし明日こそは本懐をとげてくれる事でしょう。たぶん、きっと、めいびー。
>これが大きな理由(主目的)と考えたのは私だけではないでしょう♪
 横島君の精力は底なしでしょうからねぇ。
 困ったものです(何が)。

○ありすさん
 いやいや、そこまで持ち上げられると恐縮であります。
 今後ともよろしくです。

○逃亡者さん
>魔鈴さん
 は、彼女にはぜひこの物語での古株としての実力を発揮してほしいものであります。
>後は横島クンが上手く立ち回れば
 それが1番難しいんですよねぇ(笑)。
 頭は悪くないと思うんですが、煩悩が大きすぎてすぐ吶喊してしまうのが惜しい所であります。
>前作(GSルシオラ)を超える勢い
 は、道はまだ半ばという気構えで頑張らせていただきますです。

○casaさん
>カリン、恐ろしい子
 夜這いも阻止しましたが、実はそのぶん溜め込まれて爆発力が大きくなるだけなのかも知れません。
 果たして2日目夜は凌ぎ切れるのか!?

○適当さん
>黒猫
 しかし彼が功績にふさわしいご褒美をもらえるかどうかは、まだ未定なのであります。
>魔鈴さん
 胸は大きそうですが運動神経はそれほどでもなさそうですからねぇ。ぜひ卓球大会に参加してほしいものです<マテ

○HALさん
>魔鈴さん
 生理年齢は最年長なので、ぜひ大人の色気で(中略)してほしいところですな。
>月神族
 原作ではジークが精霊といってますが、ならどうして月「神族」なんて呼ばれてるんでしょうねぇ。

○TA phoenixさん
>100話
 ネタはまだ色々ありますので、何とか大台に乗せてみたいものです。
>マンドラゴラ
 カリンは普通に声を聞けるので、耳栓せずに抜いたら横島と一緒にあの世行きです(^^;
 魔鈴さんのことですから、きっと安全な方法を考えてあるでしょう。
>駄目神族コンビ
 そのうちヒャクメも研修を命じられるかも知れませんねぇ。

   ではまた。

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