目玉焼きにトースト、サラダという簡単な朝食が美味いと感じる。
あの世界にいたときは、ほとんど食事がレーションだけだったからだろう。
中学生の美神さんがこちらを睨みつけるようにしながら、トーストを食べている。
朝のニュースをBGMに簡単な食事が終わると、美神さんが腕を組みながら俺に声を掛けた。
昨日の夜、突然私の前に現れたこの男。
今はただ一心不乱に私の作った朝食を頬張っている。トーストに目玉焼き、それとサラダ。
何の変哲も無い簡単な朝食。それを嬉しそうに食べている。
一体この男は何者なんだろう。
少なくとも、悪霊や魔族じゃない。
ママが有名なゴーストスイーパーだったから、その辺の知識は持っているし、不快な感じはしない。
でも、怪しさはたっぷりだ。
私は意を決して質問した。
「ねぇ、あなた何者?名前は?突然私の前に現れるし、あのバッタみたいなものは何なの?」
見られていたか、タイムジャンプしてきたところと、変身が解けるところを。
さて、どうしたものかと俺は考える。
グラスホッパーはオカルトアイテムとして通じるとしても、俺が現れた瞬間だな。それに俺の名前か。
正直に未来から来たと話すか?
多分笑われて終わりだな。まだ、美神さんの時間移動能力は目覚めていないんだから、馬鹿なことと思われるだろうな。
ならば……
「オカルトアイテムの実験をしていてな、その実験の最中の事故だ。そのアイテムっていうのが、あのバッタ型の奴だ」
俺はそういうとかたわらにおいてあったコップに牛乳を注ぐと一気に飲む。
「俺のことはそうだな……グラスホッパーとでも呼んでくれ。本名はわけがあっていえない。さて、俺は自分の名前を名前を名乗った。今度は君の番だ」
俺は二杯目の牛乳をコップに注いで美神さんを見る。
「本名を名乗っていないのに、私の名前を聞くなんて都合がいいじゃない。……まぁ、いいけど。私は美神令子」
知っているよ。
俺はそう心の中で呟いた。
この男、グラスホッパーは何かを隠している。
オカルトアイテムの実験というのも怪しい。
でも、なぜだろう。この人の近くにいるととても安心できる。
私の第六感というのか、霊感というのか。それがこの人は安心できると教えてくれている気がする。
「ま、いいわ。どうせ、あなた行くとこないんでしょ?しばらくいればいいわ」
そういって私は席を立った。
「ま、いいわ。どうせ、あなた行くとこないんでしょ?しばらくいればいいわ」
美神さんがそういって席を立つ。
おいおい、いくらなんでもマズイだろ?
年頃の女の子と男が一緒にいちゃ。
「待て!俺は出て行く。年頃の女の子と男が一緒にいるのは不味いだろ」
「出てってもいいけど、泊まるところとかお金あるの?」
奥の彼女の部屋から答えが返ってくる。
泊まるところは野宿で何とかなるだろうが、金は……ないな。
もってはいるが、この世界の金じゃないから使用できない。
俺がどうするか悩んでいると、中学の制服に身を包んだ美神さんが現れる。
「すぐに答えられないってことは、当てがないんでしょ?あんたが、私に手を出さない限りここにいてもいいわよ。それじゃ、行ってくるから。出かけるときは火の元の確認してね。鍵は郵便入れに入れておいてくれればいいから」
彼女はそういうと、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ……」
俺はそう呟いてソファの上に寝転がる。
「さて、どうしたものか」
俺は目を閉じて考えを巡らす。
ここは俺が美神さんと出会う五、六年前といったところか。
当初の計画では月からの魔力供給計画が行われる前に、アシュタロスの本拠地に乗り込みぶっ潰す計画だった。
グラスホッパーの力をルシオラの欠片から作った霊力ブースターで、限界まで高めれば勝算はあった。最も勝てる可能性はゼロに近いが……。
だが時間を越えすぎてしまい、ルシオラを失った今はこちらの戦力強化を図るしかない。
美神さん、エミさん、冥子ちゃん、この時代の俺、おキヌちゃん、唐巣神父、ピート、雪之丞、タイガー、シロ、タマモ、西条……。強くなってもらわなければならないな。
だが、大きく動くと時の修正力をまともに受けてしまい、計画自体がご破算しちまう。今、俺がここにいるだけでも修正力は動いているのかもしれない。
「大きな修正力が働くかもしれないが、動くしかないか……」
俺がそんなことを呟くと、何処からとも無くグラスホッパーが現れ、俺の上に飛び乗る。
そして、俺の霊力にリンクしてマンションの前と思われる映像を見せる。
それには無人のトラックに飛び乗る大きな翼をもった鼠のような生き物。
「こいつは……グレムリンか!」
グレムリンが飛び乗ったトラックがゆっくりと坂道を下って行く。
そして、その先には小さな子供とそれを抱きかかえて、倒れる美神さん。
「まずい!行くぞグラスホッパー!!」
俺はグラスホッパーを握り締め、マンションのベランダに飛び出る。
「変身ッ!」
俺はベルトのバックルにグラスホッパーをはめ込む。
『HENSIN』
電子音声と共に俺の体を緑色の鎧が包む。
『CHANGE GRASSHOPPER』
俺はベルトの右側のスイッチに手を置く。
小竜姫様、力を借ります。
「クロック……アップ」
俺は呟くようにいい、スイッチを押す。
『CLOCK UP』
電子音声と共に、俺の周りの時間がスローモーション、いや止まっているのと同じくらいゆっくりになる。
眼下を見下ろすと、美神さんにぶつかる寸前のトラックが見えた。
俺はグラスホッパーの脚部を跳ね上げると、ベランダから飛び降りた。
私は無我夢中だった。
マンションの玄関を出ると、幼稚園生ぐらいの男の子が遊んでいるのが見えた。
その男の子に迫るトラック。
母親は近所の人と話しこんでいて気付いていない。
「危ないっ!!」
私はそう叫ぶと飛び出し、男の子を抱きしめ、トラックから逃げようとする。
その瞬間に右足に激痛が走り、力が抜ける。どうやら、飛び出したときに右足を痛めたらしい。
トラックが目の前に迫る。
「もう、ダメ……」
私は呟くようにいい、目をきつく閉じた。
「もうダメだとかいうな」
そんな男の声が聞こえた次の瞬間、凄まじい衝突音が響く。
私が目を恐る恐る開けると、そこには緑色の鎧に身を包み、右腕を突き出しているグラスホッパーと名乗った男がいた。
グラスホッパーはゆっくりと右腕を戻し、変身をときながら振り返る。
「大丈夫だったか?」
グラスホッパーはそういって、やさしく微笑む。
次の瞬間、私は泣きながら彼に抱きついた。
飛び降りた俺はトラックと美神さんの間に割ってはいる。
クロックアップは膨大な霊力を消費する。トラックを止める力を残すことを考えると、ここまでか。
『CLOCK OVER』
時間の流れが元に戻る。
「もう、ダメ……」
俺の耳に美神さんの呟きが聞こえる。
「もうダメだとかいうな」
俺はグラスホッパーの脚部を元に戻す。それと同時に、右腕のアンカーが縮み、火花が散りながら霊力が集まり圧縮される。
俺はそのまま右拳を突き出す。
拳がトラックに当たると同時に、アンカー伸びる。そして、圧縮された霊力が一気に開放されトラックを穿つ!
凄まじい衝突音と共に、トラックはフロント部分がぐちゃぐちゃになって止まる。すでにグレムリンは離れているようだ。奴の霊力を感じない。
俺はゆっくりと変身を解除して、彼女に振り向く。
あの世界で俺は、彼女を助けられなかった。でも、この世界の彼女を助けることが出来た。
それは代替行為なのかもしれない。でも、助けられたことはとても嬉しかった。
自然と微笑んでいた。
「大丈夫だったか?」
俺がそういうと、美神さんが泣きながら抱きついてきた。
長い間、私は休止状態にあった。
でも、私のスイッチが入ったということは、クソ親父も無愛想な姉さんもやられたということね。
「さてと……」
私はプログラムされていた通りに動く。
「まったく面倒くさい」
私は近くのガラスケースに近付く。その中にはメカニカルなカブト虫、クワガタ、トンボ、蜂、サソリ、バッタが二匹いた。
私に与えられたプログラムは、こいつらを過去に届けること。
「さ、いきな」
私がスイッチを押すとケース内に火花が散り、虫たちが光の中に消える。
それを確認すると、私はアームガンを連射し、周りの機械全てを破壊する。
全てを破壊し終わると同時に、何者かが部屋に入ってくる。
「カオスが作った時空間移動装置はどこだぁ!」
「おい、そこのアンドロイド。時空間移動装置はどこだ」
まるで牛のような奴と鳥の様な奴が私に声を掛ける。
奴らの体から出る霊波からすると、魔族か……。
「残念だけど、私が全部壊させてもらったわ」
私は勝ち誇ったような笑みを浮かべながらいった。
「この腐れアンドロイドがぁぁぁぁ!」
牛の形をした魔族が襲い掛かってくるが、私は冷静に攻撃を避け、アームガンで応戦し、襲い掛かってきた奴を倒す。
「なめないでもらいたいものだわ。ヨーロッパの魔王ドクターカオスが作った最後の傑作、テレサMK-兇髻!」
私に与えられたプログラム……それは対神魔用バトルスーツ『マスクドライダーシステム』を無事に過去に送ることと、研究所の破壊。
襲い掛かってくる魔族の数が増えてくる。それに伴いボディーの損傷箇所も増えてくる。
腕がもぎれ、足もへしゃげる。
頼むよ虫ども。この世界を変えておくれ。
クソ親父と無愛想な姉さん、そして最初の私と今の私が仲良く暮らせる世界に……。
……A damage degree limit value breakthrough. An operation stop.(損傷度限界値突破。稼動停止)……
私は銃のグリップのようなものを握り締め、廃ビルの前に立つ。
私が今いるのは、悪霊が集まった霊団と呼ばれるものが住み着くビルだ。
このビルを取り壊して新しい施設を建てようとしたところ、霊団が工事要員たちに襲い掛かってきたというのだ。
私がこのビルのことを調べると、昔このビルで女性が殺されるという事件があった。その後からさまざまな事件が起きているのだ。
恐らく霊団の核となっているのは、その女性の悪霊だろう。
私はビルに一歩踏み込む。そこは昼間なのに薄暗く、嫌な霊気に満ちている。
そんな私に、大きなコンクリート片が飛んでくる。今まで何人ものゴーストスイーパーが失敗している。一瞬でも油断すれば、命は無い。
「オオオオオオオオォォォォォオオオオ!!」
霊団が雄たけびのようなものを上げ襲い掛かってくる。
そんな私の前にメカニカルなトンボが現れ、手にしたグリップに装着される。
「変身……」
『HENSIN』
私の呟きと同時に、電子音声が流れ、体をスカイブルーとシルバーをメインカラーとした潜水服のような鎧が私を包む。
「シネェェェェェェェェェッ!!」
霊団が私を包み込む。
だが、これは私にとっては好都合だ。
「キャストオフ!!」
私はそういうと、トンボの尾を引く。
『CAST OFF』
電子音声が流れ私の霊力を圧縮し、一気に開放される。
それと同時に、潜水服のような外装が吹き飛び、私を包み込んでいた霊団を吹き飛ばし、核となっていた悪霊が現れる。
外装が吹き飛んだ私の姿は、トンボを模したスーツだ。
『CHANGE DRAGONFLY』
電子音声が流れ、私の額のランプが光る。
「チィッ!」
悪霊が壁に向かって逃げる。恐らく壁にもぐって逃げようとしているのだろうが、そうはさせない!
「クロックアップ!」
『CLOCK UP』
私がベルトのバックル部分にある六角形のアクセサリーを腰の右側まで移動させると、電子音声が流れ時間がほぼ止まった状態になる。
「……君は悪霊になりたくてなったわけではないだろう。生前に受けた屈辱が君をそうさせてしまったかもしれない。だが、だからといって、生きている者を傷つけていいということはない。願わくば、来世では幸せに暮らせるように。……アーメン」
私はトンボの羽を畳み、尾を引く。
「ライダーシューティング」
『RIDER SHOOTING』
電子音声と共に、霊力が圧縮されトンボに集まっていく。
私は悪霊に狙いを定め、引き金を引いた。
圧縮された霊力は大きな弾丸となって悪霊に襲い掛かり、悪霊を消滅させる。
『CLOCK OVER』
時間の流れが通常に戻る。
それと同時に、トンボがグリップから離れ変身が解除される。
「いつも私に力を貸してくれてすまないね。ドレイク」
私の頭の上を飛ぶ彼に礼をいう。
彼はまるで気にするなというかのように、私の頭の上を飛ぶとどこへとも無く飛び去る。
私は手近な公衆電話を見つけると依頼人へ電話をする。
「唐巣ですが、先日ご依頼を受けましたビルの除霊がすみましたのでご報告をと思いまして」
第二話、何とか完成しました。
ついに登場、ドレイクと唐巣神父!
残りのゼクターが誰の元へ届くのかは、ご想像にお任せします。
ふとまわりの作品を見ると、萌えなキャラが出ていたり、笑いがあったりと、何か自分のやたらシリアスで殺伐としてるっぽい作品が場違いに思えてくることが……。でも最後まで書き上げたいと思います。
それと、私風邪を引いた模様。皆さん、体調管理はしっかりと。
R-44さん、アサガミさん二度目の感想ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
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