暗い闇の中を俺は突き進む。
俺の目の前に、今までの出来事が映画のスクリーンのように流れてくる。
美神さんと出会った時の事、おキヌちゃんと出会った事、ピートやタイガー、雪之丞と出会い、馬鹿笑いしながら過ごした日々。
そして、俺が初めて真剣に愛したルシオラのこと。
ベルトに火花が散り始める。
頼む、ベルト!頼む、グラスホッパー!そして……ルシオラ!!あと少しもってくれ!!
体に激痛が走る。まるで体を引き裂くような痛みだ。
次第に火花が多くなってくる。
あと少し、あと少しなんだ!!
俺の目にわずかな光が見えてくる。
そのとき、すさまじい激痛が俺の体を走り、火花が酷くなる。
(……ごめん、ヨコシマ……。私、もちそうにない……)
俺の頭の中に懐かしい女の声が響く。
俺はベルトの左側にはめられた、ブローチを見る。
ルシオラの欠片から作られた、霊力ブースター。それはすでに外装が剥げ、中身が見えていた。
そして、次の瞬間、それがベルトから外れる。
「ルシオラァァァァァァァァァッ!!!」
俺はあらん限りの声を上げ、手を伸ばす。
だが、手は届かず、ブースターは……ルシオラは次第に小さくなり、闇の中に消える。
「俺は、あいつを二度も失うのかよ……」
俺はもう一度、光を見る。
光は次第に小さくなる。
「俺の手は、あの光にもルシオラにも届かないのかよ……」
俺の視界は全て闇に染まった。
その日、私は久しぶりにマンションに帰ってきた。
私は駐輪場にスクーターを止めると、エレベーターに乗り込み、自分の部屋がある階へ向かった。
ママが亡くなってもうすぐ三年。
親父は研究のためにジャングルの中。ママが死んでも、研究のためにすぐにジャングルへ。
最も、小さい頃から離れて暮らしていたから、父親という実感はない。だから、親父が旅立つときも、なんとも思わなかった。
でも、ここに帰ってくると、寂しさを感じる。
ずっとママといたから。
一緒にお風呂に入ったり、料理をしたり、絵本を読んでもらったり……。
そんな楽しい思い出が浮かんできて、自然と涙が流れてきて、この世で私は一人ぼっちなんだと感じる。
だから、私は知り合いの家を渡り歩いて暮らしていた。
でも、その日はなぜか帰らなければいけないような気がした。
私はエレベーターを降りると、自分の部屋へと向かう。
もうすぐ私の部屋というとき、突然天上に火花が散って、光が広がる。
そして、その中から全身を緑色のバッタを模した様な鎧を纏った人が現れる。
その人は、膝から崩れ落ちるように倒れる。倒れる瞬間、ベルトのバックル部分からバッタのようなものが飛び出し、どこへととも無く消え去る。
後に残ったのは、袖の無い皮のロングコートを着込み、髪の長い男の人だった。
「ちょっと……大丈夫……?」
私は恐る恐る近付いて、声を掛けながら、男の人を起こす。
その男の人の顔は格好いいわけではないけど、なんとなく安心を感じる。
「……俺の手は……あの光にもルシオラにも届かないのかよ……」
そう男の人は呟くように言ったきり、目を開けない。
(ここに放って置くわけにもいかないわよねぇ……)
私はため息を付き、男の人に肩を貸しながら、部屋に入った。
部屋に入ると、私はその人をソファに寝かす。
「虫の知らせってやつかしらね」
私はそんなことを呟きながら、浴室へと向かった。
俺の耳に多くの人の悲鳴が聞こえてくる。
俺はゆっくりを目を開け、周りを見る。
俺の目に映ったのは、黒い蝙蝠のような翼を持つ異形の者に追われ、傷つき、殺されていく人々だった。
「やめろぉぉぉぉっ!」
俺は栄光の手を構え、そいつを切り捨てる。
この光景は、アシュタロスの反乱から一年ほどで起こった神魔大戦の最初の頃じゃないか!!
「ギギ!アイツハ横島トカイウ奴ジャナイカッ!」
一人の魔族が俺を指差す。
「アシュタロスヲ倒シタ奴ヲ倒セバ、俺モ魔王ニナレル!!」
一斉に魔族が襲い掛かってくる。
俺はポケットに忍ばしておいた文殊を取り出し、『爆』の文字をこめる。
「弾けて、消えろ!!」
俺は爆を魔族どもに向かって、投げつける。
文殊は魔族どもの真ん中ですさまじい爆発を起こし、一瞬にしてやつらを消し去る。
だが、休むまもなく魔族が、神族が俺に襲い掛かる。
どいつもこいつも、俺に味方に付けといってくる。
味方にならなければ殺す……と。
俺は文殊と栄光の手、サイキックソーサーを駆使してそいつらを倒していく。
「……どいつもこいつも……俺は人間の味方だ!貴様ら神魔の争いに、俺達人間を巻き込むんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺は最後の文殊を手にして投げつけようとする。
そのとき、俺の脚を誰かが掴む。
俺は自分の足元を見た。
俺の脚を掴んでいたのは、女の手だった。
俺はその手の先を見た。
赤く長い髪をもった女性だった。
俺の師匠で、金に汚くて、天上天下唯我独尊だけど、やさしくて、格好いい、そして……死の間際で俺を好きだといってくれた人。
「美…神さん?」
俺は彼女の名前を呟いた。
「ねぇ、何で神族か魔族に付かなかったの……?」
彼女の声は、まるで地獄から響くかのようなおどろおどろしいものだった。
「あんたが、どっちにつくかはっきりさせなかったから、私、死んじゃったじゃない!」
美髪さんが顔を上げる。
その顔は半分が腐乱化していた。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
俺は声をあげ、飛びのくが、何かにぶつかる。
後ろを振り返ると、巫女服を着た長い黒髪の女にぶつかる。
「おキヌちゃんか!」
生活能力のまったく無い俺に、いつも飯を作ってくれた、心優しい少女。
「美神さんの言うとおりですよ。……横島さんの文殊を使えば、どちらかを勝利に導いて、世界は平和になって、私も幸せになれたんですよ?」
そういって彼女は俺を後ろから抱きしめる。
彼女から伝わってきたのは、氷よりも冷たい温度。
「くそっ!!」
俺は必死に逃れようとするが、びくともしない。
「先生さえ、はっきりさせてくれていれば……」
「そうよ、横島」
俺の脚を、人狼少女シロとその相棒のタマモが抑える。
「横島さん」
「ヨコシマ」
「横島さん」
「ヨコチマ……」
「ポチ……」
俺の体を、俺達に協力してくれた小竜姫、ワルキューレ、シャクメ、パピリオ、ベスパが押さえつける。
「横島ぁぁぁぁっ!」
「横島さん」
「横島さん」
下半身のない雪之丞が、右半分が無いピートが、頭の半分が無いタイガーが這い蹲りながら俺の脚を掴む。
「クソ!文殊『浄』!!」
だが、文殊は煙となって消える。
「ねぇ?」
いつの間にか美神さんが俺のすぐ後ろに立って、耳元でささやく。
「自分だけ過去に逃げて、幸せに暮らすつもり?」
違う!違うんだ!!俺は未来を変えるんだ!皆が笑って過ごせる世界に!!
「自分だけ幸せになるなんて、許しませんよ?」
全員が口々に俺をののしる。
「違うんだぁぁぁぁっ!!」
俺は全てを振り切るように、そこを飛び出した。
「違うんだぁぁぁぁっ!!」
俺は自分の叫びで目を覚ました。
……夢か……。
「はぁはぁ……」
俺は乱れた呼吸を必死で整え、周りを見る。
どうやら俺が寝ていたのはリビングのソファだったらしい。それも高そうだ。
ソファだけじゃない。部屋の調度品全てが高そうだ。
俺が部屋を見回していると、キッチンと思われるほうからいい匂いがしてきた。
「起きたのね」
キッチンから一人の少女が現れる。
赤い髪を肩ぐらいで切りそろえ、セーラー服をきた目つきが少し鋭い少女。
どこかで見たことのある少女だ。
俺は必死で頭の引き出しから、彼女のことを思い出した。
……そうだ、確か中学生ぐらいのときの美神さんだ……。
「ねぇ?朝食一応作ったけど食べる?」
美神さんがキッチンに向かいながら俺に声を掛けた。
「ははっ。戻ってきたはいいけど、ちょっと戻りすぎだろ」
俺は自分にしか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
あとがき
TIME JUMPER第一話をお届けしました。
何かまだプロローグかよって感じですが、お許しください。
変身シーンとかなくてゴメンナサイ。
次はある……はずです。
仕事が、ちょっと忙しくなってきそうな雰囲気なんで、確約は出来ませんが近いうちに続きを投稿しようと思ってます。
アサガミさん、白兎さん、焔 竜介さん、くろがねさん、寄席さん、R-44さん感想ありがとうございます。これからがんばっていきますので、よろしくお願いします。
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