「たった五年で、人間の文明はものの見事にぶっ潰れたな…」
一人の若い男が高台からかつて東京と呼ばれた街を見下ろしながら呟く。
男は二十代前半といったところであろうか。
長い髪を後ろでまとめ、カーキ色のランニングシャツの上から、袖の無いレザーコートを纏い、左腕には赤い布を巻いている。
下はレザーパンツとレザーブーツを履いている。
「作るのは大変な時間と労力が必要じゃが、壊すのはあっという間じゃ」
男の後ろから黒いコートを纏った六十過ぎの男がレザードレスを着込み、ジェラルミンケースを手にした美しい女性を伴い現れ、そういった。
「カオスか」
カオスと呼ばれた男は、若い男の隣に立つ。
「完成したぞ、小僧。一式な。マリア」
「イエス・ドクター・カオス」
カオスは後ろに控えていた女、マリアに声を掛ける。
マリアは返事をすると手にしていた、ジェラルミンケースを開く。
ケースの中には金属製のベルトのようなものがあり、バックル部分にはバッタをかたどったものが横向きではめられている。
そのベルトの隣には、銀色に輝く蛍のブローチのようなものがあった。
「良かったのか、メインがバッタで?」
「ああ。バッタは一生懸命作った作物を食い荒らす害虫だろ?俺は奴の計画を食い潰す害虫になるのさ。それに、結構しぶといところとか似ているだろ?」
男は、カオスの問いにそう答えると自虐的に笑い、マリアの持つケースの中からベルトとブローチを取り出す。
「……簡単なテストはしたが、それも数分の時間を飛ぶ程度じゃ。何時間、何日、何年という時間を越えるテストはしとらんぞ。なにぶん、年単位での時間跳躍は膨大なエネルギーを消費するからの。あの蛍の娘の欠片と、お前さんの中の魔族因子、協力してくれた神魔のエネルギーを使っても足りるか分からん……。お前さんの文殊が封印されていなければ容易じゃったんだが」
「無いものねだりしてもしょうがないだろ?」
男はそういうと、ベルトを腰に巻きつける。
『CHANGE GRASSHOPPER』
という電子音声と共に、男の体がベルトから広がるように緑色の鎧に包まれていく。尖った左右のショルダーアーマー。右腕と左足につけられた、バッタの足の形をしたジャッキの様なもの。
男の頭部がバッタのようなヘルメットに完全に覆われると、赤い目の部分が輝き、額中央部が白く光る。
「魔装術みたいだな……」
男が誰にでもなく呟く。
そして、蛍のブローチをベルト左側の溝にセットする。
「小僧、必ず成功するという保障はない。時間を遡るということは、来た道を後ろ向きで足跡をたどりながら戻るのと同じじゃ。それも一歩の間違いも無く、寸分たがわずその足跡に自分の足を合わせねばならん。一歩でも間違えば、それはここにつながる時間でなくなる。成功率はほぼゼロじゃぞ」
「分かってるさ。でも、やってみなきゃわかんないだろ?少なくとも、俺はこんな世界だけは見たくなかったんだ。……なんか俺一人こんな世界から逃げる感じで申し訳ないけどな」
「貴様は逃げるのが得意じゃったろ?」
「……忘れてた」
男がカオスとマリアに頭を下げる。
「行ってくる」
男は二人に背を向けると、ベルトの左側にはめ込まれた蛍のブローチに触れる。
「行くぞ、ルシオラ……」
『TIME JUMP START』
男が呟くと同時に、ブローチが輝き女性の声のような電子音声が流れる。
「カオス、マリア、世話になったな」
「とちるなよ?」
「グッドラック・横島・さん」
マリアに横島と呼ばれたその男は、ベルトのバッタ型のバックルの足を下に押し下げ、腰を落とし空を見上げる。
それと同時に、左足のアンカーのようなものがぐっと縮み、火花が散る。
「タイム……ジャンプッ!」
横島が呟くと同時に、バックルの足が跳ね上がり、それと連動して左足のジャッキも跳ね上がる。
それは彼の体を一気に大空へと舞い上げ、すさまじい光と共に消えた。
「横島忠夫よ、見事この世界を変えてみよ!この絶望と血臭、硝煙と恨み、復讐が支配するこの世界を昔のような、くだらなくとも、あの素晴らしき世界に!!」
カオスが空へ手を広げて叫ぶと、彼の前に四つの光の柱が現れ、その中から六枚の白い羽をもった男女が現れる。
「カオスよ、ついに彼は過去へ旅立ったのだな」
「セラフ、ミカエルか。横島が、貴様達神族に加担しないというと即座に文殊封印の術を行った張本人」
カオスは、声を掛けてきた鎧を着込んだ女にそういう。
「文殊は人間には過ぎたる代物。それを封印する行為のどこが悪いのだ?」
そういうと、彼女は剣を抜く。
「ドクターカオス、時間逆行は人間には過ぎたるもの。偶発的なものは仕方ないと処理できるが、貴様は時間逆行のシステムを組み上げてしまった。それを魔族側に流さないためにも、貴様には我々についてもらいたい」
「ふはははははははっ!拒否すれば、殺すということか!」
「返答は?」
ミカエルの問いにカオスはにやりと笑う。
「小僧の、横島忠夫の言葉を借りるならば、俺は人間の味方だ!神にも悪魔にも属しない!!」
そういうと、カオスは懐に忍ばしておいた閃光弾を投げつける。
「マリア!!」
「イエス・ドクター・カオス!!」
マリアの腕から小型の銃が現れ、ミカエルに向けて発射される。
「おのれ!機械人形が!!」
ミカエルはそれを手にした剣で弾くと、そのままマリアを横一文字に切り捨てる。
「マリアァ!」
カオスの体に書かれた魔方陣から怪光線が発射されるが、それはミカエルが腕を振るっただけでかき消され、逆に彼女の持つ剣によって一刀の元に切り捨てられた。
(不死といっても、やはりこやつらの前では、無意味か……。小僧…しく…じ……る)
カオスの目に映った空が次第に闇に飲まれていった。
初めまして、ICE DRYといいます。m(_ _)m
仮面ライダーカブトとのクロスで逆行ものを書いていきますので、よろしくお願いします。
私はカブトよりキックホッパーが好きなんで、横島君には矢車さんのようになってもらおうかと。(マテ)
つたない部分もあるかと思いますが、どうかよろしくお願いします。