……あら?
いらっしゃい。珍しいわね? あんたがウチを訪ねるなんて。
どーせあんたのことだから、用もなく寄ったってわけじゃないんでしょ?
ま、ね。そりゃわかるわよ。亭主と一緒に帰国した時からの付き合いなんだし、あんたがそこまで暇人じゃないってのは知ってるつもりよ。オカルトGメンの人手不足も深刻なんだってね?
ともかく立ち話もなんだし、上がりなさいな。心配しなくても、もてなしはするわよ。こっちはあんたと違って、いつまでも昔のこと引きずってるよーなウジウジした態度取ったりしないから。
あら? 気に障った? ……ふふ、そうそう。そうでないと、美神の名がすたるわよ?
はいはい。そんなことはどーでもいーから、さっさと上がった上がった。
どうせまた、ウチの馬鹿息子のことでしょ? あんたがあたしに用がある時って、いっつもそれなんだから。
ま、詳しいことはゆっくり聞くとして、まずは……リビングはわかるわよね? そっちで適当にくつろいでて。お茶の用意しとくから。
……まったく、あの馬鹿……今度は何やらかしたんだか。
『ハッピーエンドは終わらない』
〜五年後・彼の命はいくつある?〜
はい。最高級の玉露よ。ふふ、味わって飲みなさい?
ん〜……あー、おいし。で? 忠夫ってばどうしてるの? YMNだっけ? 経営は順調にいってるかしら?
……まーね。クロサキ君からはちょくちょく報告書もらってるし、あんたの言う通り、だいたいわかってるけど……でもやっぱり、身近な人間からの直接の話ってのは聞きたいものじゃない?
そもそも、あたしもクロサキ君もオカルト畑の人間じゃないから、どうしてもわからない部分ってのは出てくるのよ。そこんとこ補完するためにも、同業者の意見も聞いておきたいんだけど……いいかしら?
……………………
…………ふぅん。
……………………
……ふんふん。
……………………
……そんなこともあるの? 話し合いだけじゃ上手く行かないってのは、人間も妖怪も一緒なのね。
……………………
……通常の除霊業務、か。報告書で知ってはいたけど、やっぱ『妖物交渉事務所』を謳ってるとはいえ、それだけじゃやってけないのかねぇ。
……………………
あー……やっぱ年収はそれぐらいになるのね。本社専務に昇進したウチの宿六より、遥かに高給取りじゃないの。やっぱり定年後は、息子夫婦の家に厄介になるので決まりかしら?
……………………
……美人妖怪には特に熱心って……あの馬鹿息子……もう一度根性叩き直した方がいいかしらね?
……………………
……ふんふん、なるほど。ま、それでもまともに業務をこなしているわけね。
ところで……ひとつ聞いていいかしら? クロサキ君の報告だと、収入の割には消費が異様に少ないみたいだけど、あの子貯金してたりする?
ええ。これでも息子のことは信用してますし、おキヌちゃんやルシオラちゃんっていう頼れる身内が付いてるから、心配はしてないんだけど……万一、人様に言えないようなお金の使い方してるようなら、一度教育し直さないといけないと思って。
というわけで、何か知ってるなら話してくれないかしら?
…………は?
えっと……もう一度言ってくれないかしら? 今、「山を買う」って聞こえたような気がしたんだけど……
はぁ……聞き間違いじゃないのね? でも、一体どうして?
…………
……
…
…………なるほどね。保護した妖怪の……忠夫も一応、考えることは考えてるのね。確かに妖怪の中には自然の中じゃないと暮らせないのもいるみたいだし、道理は通ってるわ。
けど、山を一つまるごと、か……とんでもない財産築き上げたものね。高校時代、その日のご飯にさえ困ってたあの子がねぇ……世の中、何がどーなるかわかったもんじゃないわね。
……なに? その含み笑い?
うっ……あれね。
――ええ、そうよ。それが一番驚いたわ。
まったく、世の中何がどーなるかわからないって言っても、あれはないでしょう、あれは。何の因果で初孫があんなんなっちゃったんだか……事情が事情だから、忠夫との仲を引き裂くわけにもいかなかったし。
やめさせるか、応援するべきか……あそこまで、モラルと人情の板挟みで困ったことはなかったわよ。結局あの子は、忠夫の内縁の妻みたいな位置に納まっちゃったけど。
第一、おキヌちゃんが許してるのに、姑があれこれ言うわけにもいかないしね。
……当たり前でしょ。それはそれとして、お仕置きは必要だったから。
そもそも、あの亭主の息子なんだから、あの程度の出血どーってことないわよ。あんたんとこの娘さんだって、昔は毎日のよーにあれと同じことしてたらしいじゃない。
ふぅ……お互い、育児には苦労してたみたいね……
ま、ともあれ。
あんなこと、何度も繰り返させられちゃたまんないし……忠夫にはあれぐらいの釘で丁度いいのよ。実際、病院なんか必要なかったでしょ?
今度、おキヌちゃんが『本当の意味での初孫』を産んでくれるから、今度こそ子育てには失敗したくないわね。ルシオラちゃんも三ヶ月遅れで初産らしいし、今から楽しみだわ。
……わかってるわよ。見損なわないで欲しいわね。半人半魔だからって、誰が可愛い孫を虐待するものですか。
ま、二人の女の子に子供産ませるなんて、本人たちが納得してるとはいえ、あたしとしては確かにまだ納得できないものはあるけどね。
ふぅ……
一度は死に別れて、蘇った恋人……か。
ん? 何を暗い顔してるのよ? あの子が忠夫を助けるために命を分け与えて死んじゃったのは、あんたのせいじゃなかったんでしょ?
そりゃ、結末を知っておきながら、事件は過去の自分に任せて暢気に妊娠してた……なんて、確かに褒められたことじゃないでしょーけどさ。
前にも言ったでしょ? 娘が生き残る未来を変えたくなかった――母親としてのその想いは、あたしにも理解できるって。第一、忠夫はあんたを恨んでなんかいなかったんだ。本人が恨んでないものを、どうしてあたしが恨めるのさ?
それに、今はもう、あの子らは一緒に暮らして一緒に笑ってるんだ。それで十分じゃないの。
過ぎたことなのよ……もう、何もかもね。
だから、もう気にするんじゃないよ。いい大人が、いつまでも引きずって暗い顔してちゃ、若いもん達の模範にならないんだから。わかった?
ん。よろしい。そうそう、全部過ぎたこと……
……………………
……何? その顔は?
…………
……
…
…………ほっほ〜ぅ…………
つまり……あんたんとこの娘さんが。
いつまでも素直になれずに忠夫争奪戦から脱落してたあの娘さんが。
25過ぎても独身貴族の行き遅れが。
他人の亭主と不倫した、と。
そー言いたいわけね?
……………………
……本気?
……妊娠三ヶ月ってのも?
わざわざ訪ねてきた用件ってのも、それだったわけね?
…………ふ…………
……ふ、ふふふふふ……
忠夫……首を洗って待っときい……葬式の費用ぐらいは、あたしが用意したるで……ふふふふふふ……それが、親としてのせめてもの情けっちゅーやつやから……くっくっくっくっくっ……
……あら? 何かしら、美智恵さん?
うん……確かにそーね。これも、過ぎたことなのよね……過ぎたこと……
にできるわけないやろーがっ!
あんたは自分の娘に何をけしかけてやがったんねん!
……あっそう。わかった。よーくわかった。
どーやら、美神家の女とは、いっぺん本気で決着をつけた方がええみたいやな……ええで、そこに直りい。覚悟することやな……『村枝の紅百合』と呼ばれたこの私が――
直々に社会のモラルを叩き込んだるわ!
忠夫……このアマ終わったら、次はあんたやで……ッ!
――あとがき――
二人三脚シリーズでお馴染みのいしゅたるです。今回は『息抜き程度の気分で書く』と宣言していたあの作品の三作目をお贈りします。
これも一応シリーズになってしまったようなので、今回からタイトルを統一しました。同時に、前回までの分も改題しておきました。ちなみに「○年後」というのは、原作終了の時系列から数えての数字とゆーことで解釈しておいてくださいw
さて……原作からして何度も殺されてるよーな感じの横島くんですが、また命を減らすことになりそーです。彼の命は残りいくつにまで減ってるのでしょーかw
なお、二人三脚シリーズの方は、少々思うところあるので少しの間更新停止します。月末ぐらいには再開しようかと思ってますが。
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