おー、よしよし。なんで泣いてんの? ん? もしかしてオムツかな?
……あちゃ。やっぱそっか……ねえ人工幽霊。オムツどこにあったっけ?
……ん、ありがと。
まったくもう……美神ったら、育児休暇ぐらい取ったらどうなのよ。乳幼児ほっぽり出して仕事なんて、母親のすることかしらね。
ん? 何よ、人工幽霊?
……あー、まあ、そう言われれば悪い気はしないわね。信頼されてるから、か……まったく、妖怪を信用して赤ん坊預けるなんて、一体誰の影響かしらね?
さて、オムツ替えましょっか……ちょちょいのちょいっと。ま、ひのめで慣れてるから、簡単なもんよね。
あら……眠っちゃった。ふふ、寝顔は可愛いもんね。とてもあの二人の子供とは思えないわ。
ん? 人工幽霊、どーかしたの?
客ぅ? 美神は今外出中だから、また後日にしろって言っておいて。……何よ? はっきり言ったら?
……はぁ!? ほんと!? あいつが帰ってきたの!? わかった、すぐに通して!
…………さ、てと。一体どの面提げて帰ってきたのかしらね、あのバカ犬は。
『ハッピーエンドは終わらない』
~六年後・狐が想う明日~
で……
いつまで扉の前で突っ立ってるつもり? さっさと中に入ってきなさいよ。
……ん。久しぶりね。三年……いえ、四年ぶりかしら? 見ない間に随分しおらしくなっちゃったわね。それとも、猫かぶってるの、あんた?
はいはい。犬でも猫でもなくて狼って言うんでしょ。そーやって毎度の馬鹿丸出しなフレーズ出してた方が、あんたらしいわよ。
――ストップ。この程度で噛み付いてくるなんて、あんたも大概成長してないみたいね。口喧嘩するために帰ってきたわけじゃないんでしょ?
ま、多少は元気が戻ったみたいで、安心したけどね。
そーよ。これでも心配してたんだから。
……何よその目。私だって成長するのよ? 昔みたいに意地張って突っ張ってるばかりじゃないってこと。あの頃はそうとは見えなかっただろうけど、私はあんたのこと、仲間と思ってたわ。
私だけじゃない。美神も、人工幽霊も心配してた。それに……横島と、おキヌちゃんもね。
…………どーしたのよ? ここに帰ってきたってことは、気持ちの整理がついたってことじゃないの? 謝りに行くんでしょ? 横島とおキヌちゃんに。
あんたが二人の結婚式をボイコットして、人狼の里に引き篭もって四年……二人とも、随分心配してたわよ。横島のこと諦め切れなかったからって、あれはちょっとマズかったわね。
……そうね。考えてみれば、あんたって見た目はそれでも実年齢は小学生だったっけ。
でも、そんな「子供だったから」なんて言い訳はよしなさい? 私なんて、あんたと出会った時は一歳にもなってなかったけど、あんたよりは精神年齢高いつもりよ。
武士を名乗るなら、潔く謝りに行きなさいよ。元よりそのつもりだったってんなら、尚更。ここに寄るぐらいなら、最初から横島たちの家に……
……え?
あー……そっか。ごめん、忘れてたわ。横島たちが事務所と家を手に入れたのって、あんたがいなくなった後だったわね。住所知らないのも無理なかったわ。
待ってて。今、住所と簡単な地図書くから。えっと、メモはっと……
……ん、まあね。今は美神と私だけで切り盛りしてるわ。あ、消しゴム消しゴム……
そうね……三人も抜けたから、いまいち稼ぎづらいって美神がぼやいてたわ。……ここの信号、二つ目で合ってたかしら? ま、いーか。角のコンビニが目印になるでしょ。
だいじょーぶよ。この私がついてるのよ? 業界No.1の座は、まだ誰にも渡せないわね。っとと、消しゴム……あ、消しすぎた。
はい、できたわよ。ここの『YMN』って看板掲げてる事務所が、横島たちの事務所。この時間ならいるはずよ。依頼があって出かけてるんじゃなければね。
……ん? ああ、あの子? そういえば話してなかったわね。あの子は、美神の子供よ。あんたがいない間に、美神も一児の母になったってこと。……あは。驚いたみたいね?
うん。見ての通り、生まれたのはついこないだよ。
ふふ……知りたい? 言っておくけど、美神は未婚よ。シングルマザーってこと。
そーよ。あんたの言う通り。あの子の父親は、美神と子供作っておきながら籍も入れようとしない、男の風上にも置けないよーな無責任男。女の敵。……ぷぷっ。
知りたい? 知りたいのね? 「知ったらこの霊波刀で天誅食らわしてやるでござる」って顔してるわね?
わかるに決まってるでしょ。そーゆーところは相変わらずねー。もっとも、隠す気もなかったんでしょ?
はいはい。せかさないせかさない。教えてあげるわよ。その子の父親はねー……
…………あんたの恩師、おキヌちゃんの夫。横島の奴よ。
あっはっはっ! なにその顔ーっ! 馬鹿丸出しじゃないの! まさしくバカ犬!
はいはい。で、どーするの? 本気で天誅食らわす気? 言っておくけど、別に面倒なことになってるってわけじゃないから。横島もおキヌちゃんもルシオラも、結構頻繁にこの子に会いに来てるぐらいだし。
……ああ、あんたはルシオラのことも知らないままだったんだっけ。簡単に説明すると、彼女はおキヌちゃんの胎内を使って蘇生した魔族よ。戸籍上は、横島たちの第一子ってことになってるけどね。
今は、横島の内縁の妻で、一児の母。おキヌちゃんも新しく子供産んだし、横島の両親も同居してるし、家族……えっと、ひーふーみー……七人で仲良く暮らしてるわ。
うん。そゆこと。それにしても横島ほど珍しい男もいないわよね。三人の女に種付けして、修羅場らしい修羅場もなく平穏に過ごしてるんだから。
……ん? どーしたの? ……おーい? シロ……うひゃあっ!? あっ! ちょ、コラ! 待ちなさいって!
……あーあ、行っちゃった……
一体、どーゆー思考の飛躍すればあーゆー行動になるのかしら? 横島との子供なんて、百合子さんが許すはずないのにね。なんせ、あの人からすれば、美神ですらアウトだったんだから。あれ以来、ガード硬くなってるし。
ま、美神がいいんだったら自分も……って単純思考は、あいつらしいって言えばあいつらしいんだけど。どーせ、一時間もすれば戻ってくるでしょ。
……泣いて帰って来なければいいんだけど……無理かな?
それにしても……
あんだけバカ犬が騒いだってのに、よくもまあスヤスヤと寝続けられるもんね。このふてぶてしさは誰に似たのかしら。
お前のことだぞ、こら。……ふふっ。柔らかいほっぺね。えいっ、えいっ。クスクス……可愛いもんね。
美神も「ママに嵌められた」なんてぶつくさ文句言ってるわりには、堕ろさずしっかり出産した上にやたら可愛がってるし……しかも名前に『忠』の1文字まで入れておいて、説得力ないと思わない? ね、忠志?
さて……と。このまま忠志の寝顔見てるのもいーけど、いい加減私もお腹すいちゃった。確か、冷蔵庫に昨日のお稲荷さんが残ってたわね。
お昼ご飯お昼ご飯……っと。シロが戻ってくるまで、のんびりくつろいでよっと。
…………。
……。
…。
ん? どーしたの、人工幽霊?
あ、帰ってきたんだ。で、様子は……ああ、やっぱいいわ。どうせすぐわかるし。予想はつくけどね。
……お帰り、シロ。どーだった、結果は?
うん、そう。わかってて聞いてる。丸わかりだもん。股の間に尻尾挟んでるし。
あらあら……反論の声も元気なくしちゃって……よっぽどこってり絞られてきたのね。ま、百合子さんは怖いからねー。無理ないか。
何よ? 聞く前に飛び出して行ったのはあんたでしょ。そんな文句をつけられる謂れはないわよ? ま、諦めることね。百合子さんに逆らうのは無謀ってもんだし。
情けない声出さないでよ……ってゆーか、気持ちの整理してきたんじゃなかったの? まんま、未練たらたらじゃない。
……ま、いーけどね。それはそれとして、ちゃんと謝ってきた? 当初の目的、まさか忘れちゃいないでしょーね?
あ、ちゃんと覚えてたんだ……本末転倒になってないあたり、あんたも成長したってことかしらね。よしよし、えらいえらい。
あっはっはっ! ムキにならない、ムキにならない♪
……で、あんたこれからどーするの? またここに下宿するんでしょ? 美神も夜には帰って来るとは思うから、勝手にくつろいでいればいいと思うけど。
……は? 今、なんて言ったの?
あ、そう……そうよね、考えてみれば、あんたには故郷ってもんがあるもんね。こっちで暮らしてたことの方が、むしろ異例だったんだ……少し、寂しいかな。
んー……そりゃまあ、昔の私だったら「あんたがいなくなるなら清々する」って言うんだけど……まあ、さっきも言ったけど、いつまでも子供のままじゃないし。あまり意地張ってても意味ないでしょ。
……先に言っておくけど、「素直なお前はらしくないでござる」なんて言わないでよね?
う゛……あははー。ナンノコトデショウカ? ケッシテ、コモリガメンドウダ、ナンテコトハアリマセンヨー? アワヨクバ、しろサンニオシツケヨーナンテ、オモッテマセンヨー?
…………えーと……
…………あのー……
ごめんなさい。しっかりはっきり打算がありましたです、はい。だからその怖い笑顔はやめてください。お願いぷりーづ。
わかってるって。あんたにはあんたの都合があるんでしょ? 子守りさせたいだけで引き止めるわけにもいかないわよ。
うん、そうそう。何事も平和が一番♪ そーは思わないかしら?
……………………。
とか油断させといて狐火ィッ! 殺られる前に殺れっ! 先手必勝ォッ!
って何ィッ!? 防がれたっ!?
なるほど……あんたもこの四年間、何もしなかったわけじゃないってことね……!
んー?
……あー、いやー……その……なんとなく、ね。
分が悪くなったよーな気がしたもんだから、つい♪
あっはっはっ。いーじゃないの。どーせこの程度じゃ、あんた死なないし。
だからごめんね♪ 許してちょ♪
……ちっ。さすがに誤魔化せないか。そうね。久々に会ったんだし、四年前の決着つけるのもいーかもしれないわね。
ならば見せてあげるわ! ここに居候するようになってから六年、ずっと美神のやり方を一番近くで見ていた私の『美神流勝利の方程式』を!
覚悟することね……シロ!
…………。
……。
…。
ぜはーっ……ぜはーっ……
う、腕を上げたじゃない、シロ……。この私の裏技反則技を、ことごとく捌くなんて……
そりゃ、た、確かにあんたも美神流は見てただろーけどさ……ぜはーっ……それにしたって、あんたの真っ正直な性格じゃ対応できないはずの手も使ってたのよ、私。
なのに……
……は? 弟子? あんたが? 何の冗談よ?
ほー……へー……マジで? だから、弟子持つ身でおいそれと負けるわけにはいかないってゆーの? たったそんだけで、あんだけ反則技に対応できるって言うの? 理屈になってないわよ、それ。
こーゆーの、何て言うんだっけ……バカ犬の一念、岩をも通す……だっけ?
うるさいわねぇ。そのフレーズは聞き飽きたわよ。
それにしても、あんたが師匠ねぇ……
……馬鹿にしてるわけじゃないわよ。ただ……ちょっと、感心してただけ。
で、あんたの弟子ってどんな子? どーせ今日は泊まって行くんでしょ? 時間もたっぷりあるんだし、せっかくだから話してみなさいよ。
……ふーん。
……ほー。
あっはっはっ。なにそれ?
へぇー……
…………ねえ、シロ。なんかさ……
んー、ちょっとね。その弟子のこと話すあんたって、なんだか『可愛がっている弟を自慢する姉』に見えちゃって。どーも師匠から見た弟子って感じじゃないのよね。
……何赤くなってんのよ。
っとと、もうこんな時間? ま、いいか。その『可愛い弟』のことは、また後で聞くわね♪
あっはっはっ♪ ムキにならないでよ♪ それじゃ私は、そろそろ夕飯の支度に取り掛かるから。忠志が愚図り出したらお願いねー♪
…………ふぅ。
まいったなー……
ん? ああ、人工幽霊か。どうしたの?
あ、そう。帰ってきたんだ。それじゃ、美神の分も料理盛り付けなきゃね。
……ん。別に、そんな心配されるような大したことじゃないわよ。ただ……みんな、変わらないようでいて変わってるんだなーって……ね。
横島とおキヌちゃんは結婚して、独立してここから出て行ったし……
シロはいなくなったと思えば、今じゃ弟子を持つ身だし……
美神だって、いつの間にか一児の母……
そりゃ、私だってシロに何度も言ったように、昔のままじゃないって自負はあるわ。
けど……考えてみたら、私の立ち位置は六年前から変わらない。
だから、私もそろそろ、先のこと考える時が来てるのかなーって思ってね……いや、ここから離れる気はないんだけどさ。なんだかんだで居心地いいし。
でも……だからって、ぱっと思いつく未来もないってのは、我ながらどーかなーって思っちゃって。
もしかしたら私、このままじゃ自分だけ取り残されるって感じてるのかもしれない……まあ、そんなことないってのは、わかってるつもりなんだけど……ね。
……ん? 何?
学校……? 人工幽霊、あんた大丈夫? 私みたいな妖怪が、そうそう簡単に人間の学校に行けるわけがないじゃない。横島みたいな変人を受け入れてる学校ならいざ知らず。
まあ……でも、そうね。選択肢の一つとしては悪くないかも。行くとしたら、美神に相談して、横島に学校との交渉を頼むって形になるのかしら?
ともあれ、今すぐに結論出すよーなもんでもないか。とりあえずは、目の前の料理を完成させるところから始めてみましょーか。
さーて、献立は……っと。
……………………。
よしっ。決めた。久々にシロが帰ってきたことだし、お揚げ料理のフルコースで行こっと。
ついでに横島一家も呼んで、パーティーにしちゃうのもいいかもしれないわね。何せ、シロとは四年振りなんだし。
そうと決まれば……っと。料理に取り掛かる前に、美神に許可取っとくとしよっか。
ちょっとー! 美神ー! そこにいるんでしょーっ?
ねえ、今夜の夕食のことなんだけど――
――あとがき――
スランプです……脳内の壊れギャグ用スイッチが入りません……
二人三脚四十二話、執筆止まってます……orz
とゆーわけで、リハビリ兼ねてこっちを投稿しました。シリーズのお約束通り、語り手は自分の本名を明かしてません。バレバレですので問題ないですが。
そして前回のアレで、グレートマザーが直々に浮気防止のガードしてるよーです。撃退されて泣いて帰ってきたシロ、哀れです。
ちなみに、横島第二世代異母兄弟三人組の名前は、おキヌちゃんの子が絹華(キヌカ)、ルシオラの子が蛍護(ケイゴ)、美神さんの子が忠志(タダシ)です。この先、まともに出番あるかどーかわかりませんがw
さて、次は『どっちのお題つけまSHOW』用の投稿作品の構想でも練りましょうかね……
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