あら……いらっしゃい。
お久しぶりね、美神さん。事務所開業祝い以来じゃないかしら? あ、そこ座って。遠慮しないで……って、遠慮するような人じゃなかったわね。
うん、経営は順調よ。ヨコシマって商才すごいのね。初めて知ったわ。今も仕事で外出中よ。おキヌちゃんと一緒にね。
……残念だった?
あはは。そうムキにならないで。お茶出すからちょっと待っててね。……よしっ。
来ぉぉぉいっ! 全自動お茶汲み兵鬼『茶々丸くん壱号』ォォォッ!
……って、何よその顔。いーじゃない趣味走ったって。ヨコシマだっておキヌちゃんだって、微妙な笑顔で許してくれてるわよ?
もぉ……そんなこと言わないでよ。せっかく夕べ完成したばっかなんだから、試したくてしょうがないのよ。あ、できたみたい。
ん~……甘くておいしい♪ やっぱり成功……ってどうしたの?
え? 砂糖は大さじ10杯は入れてるけど……ちょっと足りなかった?
『ハッピーエンドは終わらない』
~四年後・その名はYMN~
ごめんなさい……すっかり忘れてたわ。茶々丸くん壱号、私の味覚に合わせて調整してたのよね……
はい……以後気をつけます……
え? うん……そうね。そういえば、開業してからまだ何ヶ月も経ってないのよねぇ。すっかり忘れてたわ。
もう美神さんのところと肩を並べられる業績出してるし、なんか何年も経営している気分になっちゃった。思い起こしてみれば、私も開業当時はまだ、成長しきってなかったのよねぇ……
うん。おキヌちゃんに産んでもらってから、もうそんなに経ったのよね。
ふふ……そう、ピチピチの一歳半! すっかり昔の姿に戻れたし、若さじゃ負けないわよ!
…………。
……。
…。
……お願い。ツッコんでくれないと、私困っちゃう……
あー……まあとにかく、ね。
私ってば魔族だし、本来ならここまで時間かからなかったんだけど……やっぱり人間の遺伝子が混ざってるせいか、完全に元に戻るまで一年半もかかっちゃったのよ。
思えば、茶々丸くん壱号で見せたドジッ子属性やツッコミを欲しがる芸人魂は、あの二人から遺伝しちゃったのかもね。
……そういうことにしといて? ね?
うん。実はね、最初のうちはそう呼んでたのよ。パパ、ママってね。
でもやっぱり、二人とも私からそう呼ばれるのは違和感があるみたいでねー。今では甘えたい時ぐらいしかそう呼ばないかな? そのたびに微妙な顔をするのが、実はひそかに面白かったりするんだけど。
特にヨコシマにパパって言うと、これがまたおっかしいのよ。引きつった顔して、途端に挙動不審になるの。そこで甘えたりしてみたら、「俺は近親相姦やないんやーっ!」って壁に頭を打ち付けてさ。まったくあいつって、いつまで経っても変わらないんだから。
でもあの様子なら、落ちるのはそう遠くないわね♪
ま、確かにヨコシマの言う通り、形の上では『横島蛍』っていう名前の実子なんだけど、そんなもの私には関係ないし。近親交配なんて、神魔族にとっては当たり前よ?
ふふ。心配しないで。おキヌちゃんとの折り合いはつけるわよ。
でも、美神さんこそ、このままでいいの? まあ、人間の価値観で言えば、確かに既婚者と関係を持つのはタブーなんだろうけど。
はいはい。意地っ張りもそこまで行くと見事なものねー。1000年も待ったっていうからせっかく譲ってあげたってのに、これじゃ何にもならないじゃない。
私としては、もう少し悪あがきしてもらった方が面白……じゃない、譲った甲斐があるってものだけど。
……え? 何? そんな怖い顔して……え? ちょ、タンマ! ごめん! 私が悪かったわ! あ……あ……いや……
きゃああああああああっ!
いやーっ! やめてーっ! 許してーっ! そんな……そんな……
ただ歩くだけとかひたすら回るだけとか、無意味なメカを見せないでーっ!
…………。
……。
…。
ぜー……はー……ぜー……はー……
うぅっ……口は災いの元なんて、人間はいい格言を遺したものね……
おーけーおーけー。もー言わない。言わないから、そのオモチャしまってくれない? いやお願い。まぢで。
え?
あ、うん。順調よ。順調すぎて忙しいぐらい。今は私と愛子さんで電話番だけど、他は全員出払ってるわ。
ライバルだなんて、何いってるの。これだけ仕事が回ってくるようになった原因の一端は、美神さんにもあるんだからね? ほら、表の看板見たでしょ?
そ。『YMN』ってでかでかと書いてある看板。その横に、協力者の名前が並べてあるじゃない。
上から、『ICPOオカルトGメン』『六道財閥』『美神令子除霊事務所』『唐巣教会』『妙神山修行場』……こんな豪華キャストが事務所立ち上げに協力したら、どうしたって有名になるわよ。
それに、メンバーも凄いしね。所長のヨコシマは美神さんの後継者ってことで密かに有名になってるし、妻のおキヌちゃんだって世界有数のネクロマンサー。ヨーロッパの魔王ドクター・カオスとその最高傑作のマリア、それに、オカGから研修の名目で出向しているピートさん。
まあ、伊達さんは裏はともかく表じゃまったくの無名だし、愛子さんはただの妖怪だし、私なんか数年前は世界の敵だったけど……このメンツが揃って話題にならない方がおかしいわよ。
ま、その話題性に便乗して固定客をガッチリ掴んだヨコシマの手腕も、かなりすごいけどね。
とはいえその反面、私たちの急成長をやっかんで嫌がらせしてくるのもいるんだけどね。私やピートさんや愛子さんを名指しして、「妖怪や悪魔と手を組む背教者め」なんてわめき立てるの。馬鹿馬鹿しいったらありゃしないわ。
そもそも、人類と妖物との橋渡しがうちの活動方針なんだから、妖物全て滅すべし、なんて頭の固い連中とは相容れないわけよ。いちいち相手にもしてられないわ。
あ……ごめんなさい。ちょっと愚痴になっちゃったわね。聞き流しておいて。
ともかく、現在進行形で結構忙しくてね。事務員の愛子さんと私以外、全員仕事に出ちゃってるのよ、今。
本当なら私も手伝いたいんだけど……ほら、私って形式上はまだ赤ん坊じゃない。百歩譲っても保護者同伴じゃないとまずいのよ。人間の社会って面倒よね。
あはは。そうしたいのは山々なんだけねー。ヨコシマはともかく、おキヌちゃんはわりと常識人だから、法律に触れるようなことはわりと止められちゃうのよ。美神さんのところで働いていた時みたいにはいかないわ。
ま、それはともかく……世間話も過ぎちゃったかしら。今日は何の用で来たの? ただヨコシマとおキヌちゃんの顔を見たかったってだけじゃないんでしょ? 伝えとくわよ。
……うん。……へえ……なるほどね。わかったわ。確かにそれ、うち向きの仕事ね。化け猫親子かぁ。仕事のランクとしては、そうね……C級ってところかな?
で、報酬は? ……うん? 何?
……え?
えええええっ!?
まったく……この業界も狭いわねー。それじゃ、ヨコシマ本人が行った方が一番確実じゃない。ほんとーに昔かっら変わらないわね、ヨコシマって。……ふふっ。
あら……当時のヨコシマって、そんな弱かったんだ? それで美神さんに立ち向かったの? まったく、無茶というからしいっていうか……まあ、そこでその親子を見捨てるようなら、私もおキヌちゃんも惚れてないんだろうけど。
いいわ。ヨコシマに伝えておく。でもそういう事情だと、もしかしたら事務所のメンバーが増えることになるかもね。事務員一人追加って感じで。
賑やかになるのは歓迎だから、問題ないと思うけどね。
で? 他に用事は?
……うん、そう。あ、もう帰るの? もう少しゆっくりしていけばいいじゃない。予定通りなら、あと一時間ぐらいで帰ってくるわよ?
まったく……意地っ張りと言うより意固地ね、あなた。会うぐらいいいじゃないの。なんだったら、ヨコシマを押し倒したっていいのよ?
……何吹き出してるの。テーブル汚れちゃったじゃない。
いいのよ。おキヌちゃんだって美神さんなら許す……というか、そうなってもらえたら嬉しいって思ってるぐらいなんだから。
美神さんだって、形はどうあれ昔みたいに三人で仲良くやりたいって思ってるんでしょ? おキヌちゃんも一緒よ。あなたたち、もうとっくに『家族』になっちゃってるんだから、その辺自覚してよ。
私? 私は平気よ。まあヨコシマはあれで結構倫理観強いし、抵抗するでしょうけどね。
最近は、おキヌちゃんと毎晩頑張ってるみたいだから、近いうちに私の弟か妹が出来るかも。そうなったらしばらくヤれなくなるから、私はその時にアプローチかけるつもりだけど……美神さんも一緒にどう?
あはは。真っ赤になっちゃって、案外可愛いところあるのね。
……実のところ言うと私、おキヌちゃんと約束してるのよね。ヨコシマが落ちたら、一度二人でヨコシマをいじめてみようって。もちろん、ベッドの上で♪ ……あ、ヨコシマには内緒ね?
うふふ。いいのよ? 美神さんも参加したって。
うんうん、わかったわかった。そーゆーことにしといてあげるわ。でも気が向いたら、いつでも言ってね♪
…………。
……。
…。
あーあ、行っちゃった。
まったく、もう少し素直になればいいのに。あの様子だと、また来世まで待つ羽目になるんじゃないかしら?
さて、と。美神さんも帰ったことだし、茶々丸くん壱号を片付けよっと。
……あ、電話。
いーわよ、愛子さん。私が出ますからー。
はいはーい。今出まーすっと。
……お電話ありがとうございます。ワイ・エム・エヌ『ヨコシマ・モンスター・ネゴシエーションズ・オフィス』です。本日はどのような御用向きでしょうか?
――あとがき――
二人三脚シリーズの進行具合が、どうも原作トレースのオンパレードになりかかってるので、練り直ししたいなーと思いつつ。気分転換にぱぱっと数時間で書いてみました。
とりあえず、本作は「卒業式のその後に」から続いています。横島一家独立後のひとコマといった感じで。ところで横島くんは、除霊屋よりも、対妖物交渉人といった仕事が合っていると思うのですが、いかがでしょうか?
こっちもシリーズ化するかもですが、なにぶん息抜き程度の気分で書くものなので、完成度、更新速度、共に期待しないでくださいませ^^;
二人三脚のレスはそちらにてー。
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