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「ハッピーエンドは終わらない 〜二年後〜(GS)」

いしゅたる (2006-07-28 22:25/2007-01-19 21:16)
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 一文字さん、弓さん。無事、終わりましたね。

 はい。これで私達も、卒業です。

 ……ふふ。大丈夫ですよ。この業界、広いようで意外と狭いんですから、いつだって会えます。

 はい? 時間……ですか。そうですね、明日の打ち合わせはありますけど……大丈夫です。

 いいんです。学校生活最後の日なんですし、少しぐらい我侭言っても、あの人なら笑って許してくれます。

 それじゃ、行きましょう! いつもの喫茶店でいいんですよね?


   『ハッピーエンドは終わらない』
      〜二年後・卒業式のその後に〜


 あ、おいしい〜。やっぱりここの“けーき”は、甘くておいしいですね。

 ……はい。色々ありましたね。この三年間、いっぱいいっぱい思い出ができました。本当に、私……生き返れて良かったと思います。

 はい? 後悔って、なんでですか? 私、今すっごく幸せですよ。明日が待ち遠しいです。

 あれ、そういえば話してませんでしたっけ? 私たちの馴れ初め。

 そうですね……どこから話しましょうか。付き合い始めた頃……ううん、やっぱりあそこから話そうかな。
 あれは、アシュタロスの反乱が終わって最初の七夕でした。私もシロちゃんもタマモちゃんも、それに美神さんも。みんなが短冊に願い事書いて笹に吊るしてたんです。でもあの人、いきなり短冊でいっぱいの紙袋を両手に提げて持ってきて、笹を折っちゃったんです。
 しかも、願い事が……。

 そうです。よくわかりましたね? ほんと、すっごいバカなんですから……ふふ。それで織姫さまが降臨なさって、あの人を攫って行ったりして一騒動起きたんです。その時は、大事に至る前にあの人を取り戻せたんですが。
 その翌日ですね。私、あの人の部屋にお掃除に行ったんです。それで、見つけちゃったんですよ。

 ……お二人は、ルシオラさんって名前は覚えてます? 前に話したことあると思うんですが。

 はい。その人です。で、ですね。その掃除の時に見つけたのが、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨ててある、一枚の短冊なんですよ。途中でやめたんでしょうね、書きかけで捨てられてました。
 ……なんて書いてあったと思います?

 はずれです。その短冊には、『もう一度、ル』って書いてありました。ほんと、バカな人です。本当に叶えてもらいたい願い事は書かずに、数え切れないほどの短冊にあんなことを書いてたりするんですから。
 でも、そんなあの人だからこそ、私は好きになったんです。ルシオラさんのことを忘れられないところも含めて。
 私は、その短冊をこっそり貰っていっちゃいました。あの人への想いを再確認して。

 それからだいぶ時間が過ぎて……アシュタロスの反乱からちょうど一年目です。

 ……はい。ルシオラさんの命日。

 その日の夕暮れ時、私は紫苑の花束を用意して、幽体離脱で東京タワーに行きました。
 そしたら……やっぱりいたんですよ、あの人が。文珠で空でも飛んだんでしょうね。普通は人が入れない第二展望台の屋根の上に、あの人は何をするでもなく、ただ夕焼けを眺めていたんです。
 私は、後ろから話しかけました。そしたら、びっくりして振り向いたんですよ。私が幽体だとわかると、すぐに納得顔になりましたけどね。それで、持ってきた紫苑の花束を渡したんです。
 紫苑の花言葉は、『追憶』……そして『君を忘れない』。あの人があそこに捧げるとしたら、ぴったりな花じゃないですか。それを伝えて、そこに供えてもらったんです。あの人自身の手で。

 それで……告白、しちゃいました。

 私の想いを、全部ぶつけました。いつから見ていたのか。どれぐらい想っているのか。そして……ルシオラさんを、どう想っているのか。
 あの人は、困惑顔で聞いていましたけど……私が全部言い終えたら、笑ってくれたんです。それで、私の気持ちに応えてくれました。
 その時の私は、嬉しくて涙が出そうでしたけど……その前に、やらなきゃいけないことがあったから、こらえました。
 一輪だけ隠しておいた紫苑の花を、あの人が供えた花束の隣に、ちょこんと供えたんです。それから、夕焼けに向かって誓いました。あなたが愛せなかった分まで、この人を愛しますって。この人と同じぐらい、あなたを愛しますって。
 そしたら、なんとなく……夕焼けが微笑んだような気がして。私もあの人も、一緒になって微笑んで。

 その日から、私たちは恋人同士になりました。

 そうですよー。長い間水面下で行われてた争奪戦、私が勝っちゃいました♪

 あれ? 知りませんでした? あの人、意外にモテるんです。私とルシオラさん以外にも、最低でも四人は。
 あの人のお隣さんの小鳩さん、クラスメートの机妖怪の愛子さん、人狼族の女の子のシロちゃん。それと……美神さん。

 弓さ〜ん……なんて顔してるんですか。せっかくの美人が台無しですよ?

 あ、はいそうです。それから今まで付き合ってて、やっと明日なんですよ。大丈夫ですよ、一文字さんだって、がんばればすぐに“ごーるいん”できますって。あ、もちろん弓さんもですよ?

 ふふ、そうですね。やっぱり誰が見てもわかっちゃうのかな? もうずっと、顔がにやけちゃってにやけちゃって……幸せすぎて、とろけちゃいそうです。

 ……え?

 …………ええ?

 あ……あの、話さなければだめ……ですか?

 んもう……しょうがないですね。恥ずかしいから……他の人には言わないでくださいよ?

 私たちが初めて……その……したのは、付き合い始めてからそれほど時間が経ってない頃でした。初めての“でーと”の夜でしたね。私が住んでるところは同居人がいましたし、あの人の住んでるところは壁が薄いから声が漏れちゃうし……結局、ホテルで一晩明かすことになったんです。

 ふふ……そう思います? けど違うんですよ。意外に思うでしょうけど、あの人って本当はすっごい奥手なんです。いつもいつも自分から飛び掛るくせに、逆に女の人の方から迫られた時とか最後の一線を越える時とかになると、とたんに物怖じしちゃうんです。
 だから……恥ずかしかったけど……私の方から、迫ってみたんです。

 ……はい。痛かったですね。とっても。
 けど、それより何倍も……嬉しかったんです。あの人と一つになれたことが。
 嬉しくて嬉しくて……私もう、正気を保っていられませんでした。ただ、目の前の人が愛しくて愛しくて、欲しくて欲しくてたまらなくって……初めてだったのに、何回しちゃったのか覚えてません。

 ……って、そこで真っ赤にならないでくださいよ! 私だって、恥ずかしいの我慢して話してるんですから!

 え……? ま、まだ話さないとだめなんですか?

 う〜……。

 そ、それ以来……ですね。あの人とは、わりと頻繁に、その……愛し合うようになりました。さすがに危険日は控えましたが。
 始めるのは、どっちかって言うとあの人からの方が多いですね。あとはどちらからともなく、雰囲気に流されるままにって感じで。それと……私の方から始めるのも……たまに……。
 けど、一度始めちゃうと、いっつも激しくて……しかも、“おかわり”を求めるのは、ほとんど私の方なんです……。全部終わって熱が冷めてくると、いっつも思うんですよ。私ってなんでこんなにエッチなんだろうって……その……わかってますっ!? これ話すだけでも、すっごく恥ずかしいんですよ!

 あ……すいません。恥ずかしさのあまり、つい……。

 え? えーと……その……だいたい、週に四、五日ぐらい……かな?

 あ? え? そ、そんなに……多いんですか? これって……。

 はぅ……。

 ……はい?

 あ、それはですね……去年のイブの時でした。
 いつもみたいに“でーと”して、夕食をレストランで食べてた時に……あの人、指輪くれたんですよ。それで、言ってくれたんです。「卒業したら式を挙げよう」って。
 もちろん、私はその場で頷きました。それで、その夜初めて、子供を作るのを目的に、その……したんです。もちろん、危険日でしたよ。
 あの夜は……その……特別に、激しかったですね……。数え切れないほど……しちゃいました……。私、繋がったまま寝ちゃうなんて、初めてでしたよ。……はぅ。

 けど、子供はできませんでした。お正月の新年会でヒャクメ様に診てもらったんですけど。あの時のあの人の残念そうな顔ったら……うふふ。

 その後も、私たちは子作りしてました。ヒャクメ様にもちょくちょく来てもらって……結局、妊娠できたのがわかったのは、先月の十四日……そうです。バレンタインデーです。
 私たち、二人して喜びましたよ。思わぬバレンタインプレゼントになっちゃいました。

 それで……あの人に、出してもらったんですよ。ずっと約束してたことですから。
 ルシオラさんの……霊破片。
 お腹の赤ちゃんに魂が宿る前にそれを入れれば、ルシオラさんが生き返れるんです。

 ……ありがとうございます。けど、私はつらくないですよ? だって、約束したのは本心からだもの。東京タワーで誓いましたから。あの人と同じぐらい、ルシオラさんを愛しますって。
 けどやっぱり、あの人ったら最後の最後で足踏みしちゃうんですよね。ずっと前から決めてたことなのに、いざって時に「本当にいいのか?」なんて聞いてくるんです。
 だから、強引に奪っちゃいました♪
 それで、あの人の目の前で霊破片をお腹の中に入れて……言ったんです。みんなで幸せになりましょうねって。

 あっ……。

 ううん、なんでもない。お腹の中の子が、少し動いたみたい……。魔族だからかしら。普通の胎児に比べて、随分と成長が早いみたいなの。これじゃ、お腹が膨れてくるのもすぐね。

 あ、いっけない。もうこんな時間。それじゃ私、先に帰ってますね。

 お二人とも、明日はちゃんと来てくださいよ? 神魔族まで招待する結婚式なんて、たぶん世界で私たちだけなんですから。来ないと損ですよ?
 あ、そうだ弓さん。明日からは「氷室さん」なんて呼ばないでくださいね。苗字が変わるんですから♪

 はい。それじゃ、また明日! あーん! 間に合わないー!


 …………。


 …………。


 …………。


 ねえ、聞こえてますか、ルシオラさん?


 私、あなたを生むの、本当に楽しみにしてるんですよ?


 だから……早く、私たちの前に姿を見せてくださいね。


 私の最愛の恋敵さん、次は負けませんよ?


 ――あとがき――

 こんにちは♪ 二人三脚シリーズでお目汚ししてますいしゅたるです。
 思い付いたが吉日とばかりに書き上げた実験作です。二人称ですが、会話として不自然にならないように、読者の方が弓と一文字の台詞を想像できるようにと、試行錯誤して書き上げました。
 こんな作品でも楽しんでいただけたなら幸いです。では、二人三脚シリーズでまた会いましょう♪

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