六道女学院。霊能科と呼ばれる、日本でただ一つの霊能力者を育てる学科が存在する学び舎である。
中等部、高等部に分かれているため生徒数は役5000人にも及び、その内の三分の一ほどが霊能科に属し日々修行を積んでいる。
しかし、単に霊能科といっても一つではなく、いくつにも部門が分かれている。GS試験こそ国内では半年に三十二名しか受からないのだから当然だろう。
霊能力者とは単に除霊業務に携わる者の総称ではない。例えば悪霊が寄ってこないよう結界を張る者、GSが使用する道具を精製する者などバラエティに富んでいる。
何故このような学び舎が必要になるのかは、現代の時代背景を見れば納得できるもの。
ビルに悪霊が立てこもれば仕事はストップされ、ホテルに住み着いてしまえば客が来なくなり、またいずれも死者が出る。
それがもし善意を持った霊だったとしても、一般人にとっては『お化け』に分類されてしまうのだから始末が悪い。
だからこそ、悪霊を撃破し浮遊霊を成仏させられる能力者『GS』とそのバックアップに携わる者などが求められるのだ。
そして、そんな存在へと成長する可能性を秘めた存在が霊能力保持者なのである。
霊能力はただ持っているだけでは意味がない。だから、ただ持っているだけの少年少女を育てるための学校が必要になった。
そんな時代の中で多大な利益を上げるために、GSの名家と呼ばれる六道がこの世に生み出したもの。それが、六道女学院。
「あっ! おはようございます! マウ先輩」
そんな六道女学院の中等部に、先生陣、生徒陣に止まらず社会的な期待を寄せられている生徒が在籍している。
「おはようございまちゅ」
学院内で今最も人気のあるGS、美神令子の右腕として多大な成果をあげ、
「お姉さま、おはようございます」
実力、学力、容姿、多くの分野で他の生徒に圧倒的な差をつけ、
「ご機嫌ようでちゅ」
中等部、高等部共に大きな人望を獲得した『魔族』の少女。その名を、ドクター・美神マウスという。
身長141センチ、体重30キロ、バストは堂々のCカップと、その体型だけでも大きく異彩を放っている。
加えて銀に近い灰色の髪の毛は霊能力者としての風格を十二分に漂わせ、作り物でない純粋な笑顔に溢れる優しさも大きな魅力だ。
「なんかこうしてると、自分が付き人みたいに見えてくるから不思議だな」
「何でぇ~? お友達が寄り添ってるのは当たり前だわぁ~」
別に当たり前でもないのだが、一般常識に欠ける六道家の息女には通用しない。
「付き人とか、そんな居心地の悪そうな考え方ちゃれると辛いでちゅ」
「あっ、ごめんごめん。別にそういう意味じゃなくて、ただ何かシュールだなぁってそう思っただけだって」
必死に弁解する魔理。本当に必死だ。
「自分の知る範囲外まで出来る奴もいるんだなって思ってさ。……友達としては、誇りに思うよ」
魔理にとって、人気を一身に受け尚一層輝くマウスの姿は少々眩しく、だけど誇りだった。隣にいられる事が嬉しいのだ。
「ありがとうございまちゅ。すごく、嬉しいでちゅよ」
そんな魔理の気持ちを知ってか知らずか、マウスは微笑む。
彼女の小さな体の中には、友達や自分に好意を寄せてくる者を精一杯大事にする、大きな器があるのだ。
「う……うん!」
魔理は顔を赤くして頷いた。嬉しかった。
「うふふ~」
校舎内に足を踏み入れたとき、世界が変革を表した。
それは、余程に勘の良い者にしか気付けない、空気そのものの異なりだ。
一階から四階までが一緒になって大きな空間を作り出している、かなり珍しい設計の玄関フロアに走る異質に、マウスは目を鋭くさせる。
注意して周りを見渡してみれば、いつものように歩く学生たちの姿が見られるが、それでも不快な違和感は拭えなかった。
「どうかした?」
マウスの様子が変化した事に気付いた魔理が問いかける。
「学院に、いつもと全然違うモノが漂ってまちゅ」
「本当ねぇ~。どうしてかしらぁ~?」
見れば冥子も気付いていたようだ。いよいよ怪しくなってきた事態に、マウスはより一層注意深く周囲を観察するべく首を回す。
感覚を研ぎ澄ましてみれば、やはり明確な変化が『起きた』事がわかる。それも二度だ。
まず始めに、学院内を清める目的で近くの山から校舎内へと続いている川の水。フロアを丁度二分する位置に真っ直ぐ走るそれが、変わっている。
何が変わっているのか、直ぐにわかった。普段場を清めるためにあるはずのそこから、妖気らしきものが漏れているのだ。
だが、妖気には別に問題となる要素は感じられない。妖気が流れてきていること自体が問題といえなくもないが、その妖気に清い力を感じたため保留とする。
むしろ注目すべきは二つ目の変化。校舎内全体に、何か力場が発生したらしい痕跡が、空気からありありと感じ取られた。
「……気持ち悪いわぁ~」
(同感じゃて。気色悪い圧力がわしの所まで届いとる。こうまでハッキリしてると人間の仕業とは思えんぞ)
「全然違うものって……何?」
「……まだ、良くわかりまちぇん」
当たり前だ……と、マウスは思った。人間の持つ霊力で学院全体を覆えるはずがない。出来るとするならば、それこそ神族か、魔族、妖怪などに限られる。
下駄箱に靴を入れながら考えを巡らせるマウスに、通りかかった女性が話しかけた。
「おはようマウスさん。様子が変だけど……やっぱりわかるかしら?」
「石島先生……。はいでちゅ。原因は知っているでちゅか?」
『わかる?』と聞かれたことが、生じた変化を事実化する。教師が気付いていてくれたことに安心して、マウスは一度深く呼吸した。
現れた女教師の名は石島澄子(いしじますみこ)といい、病気で入院した保険医の代理を勤めている二十台中ごろの若い女性だ。
澄子は、科学的な治療よりもむしろ霊能力によるヒーリングに長けている。病状を見極める鋭い霊的感性が、この異常を捉えたのであろう。
「先生は一時間ほど前に来てたんだけど、その時にはもうこんな感じだったわ。先に来てた先生たちもそのせいで大騒ぎ。原因もよく解らなくって、でも放っておけないでしょ? だから考査の準備がない私や図書の藤原先生が調べて回ってるんだけど、今のところ収穫無しなのよね」
(……よく喋るのぅ)
(だから、そこがいいんでちゅよ)
その通りだと言えた。張り詰めていた空気が、明るい口調で喋る澄子によって中和されたのだ。
集中して真剣に考えるのもいいが、軽い気持ちでいたいのも本音。集中とリラックスの対比は生きていくのに重要な要素である。
「ところで石島先生、川の水から流れてる妖気の根本、わかりまちゅか?」
力場と関係があるようには思えなかったが、どこかで繋がっている可能性はゼロじゃない。
そんな『もしも』の可能性を考慮するよりは、しっかりとした答えを得た上で考える方が何倍もマシだった。
「へ? ……妖気?」
(知らんかったようじゃの)
力場のように、力の集まった空間ならば霊感によって感じ取ることが出来る。しかし、妖気は違うのだ。
何故なら、妖怪が身を隠すのに長けているから。一人の人間と比べれば強い力を持つ妖怪でも、多くの人間には歯が立たない。
だから絶対数の少ない妖怪は皆、人里を離れてひっそりと生活しているのだが、人間がそんな妖怪を見つける事はほとんど皆無。
当然だ。人間に気付かれないための最善の法を持っているのだから、そう簡単に見つけられるわけがない。
「水はいつもと同じなんでちゅけど、なぜか妖気が篭ってるんでちゅよ」
「そうなのぉ~?」
(嫌なものではないが、何かしら予感を感じるぞい……)
「あら、本当。生徒の霊力にまぎれて気付かなかったけど、これ妖気じゃない……」
通常、妖気の存在に気付くのはとても難しい。では、どうしてマウスが妖気を感じ取れたのか、それは簡単に言うと……、
「マウスさん、この妖気の持ち主と余程波長が合うのねぇ……。とっても素敵なことよ」
「羨ましいわぁ~(妖怪が)」
人間の社会ではひどく語られがちな妖怪だが、霊的な波長の問題で彼らに会うことが出来たなら、それは縁起の良いことだといわれる。
得に今回の場合、誰も気付けなかったような妖気に気付けたマウスは、妖怪との相性が非常にいといえるだろう。だがしかし、
(マウチュと波長の合う妖怪を一人知ってまちゅ)
(うぬ。わしも知っとる。それもこの学校の近くにおるのぉ)
この時、マウスは確信していた。妖気の根本の存在が何なのか、思いつくのは一つだけ。
(でも……ということは……)
(封印が、解けかけておるのじゃろうな)
「!」
「て、おいどうしたんだよマウス!」
マウスは夢中だった。急ぎ足で川に近づいて、高鳴る胸を左手で押さえながら右腕を水の中に入れる。
「! タマちゃん!」
期待通りの感覚が体を駆け巡ったのに気付いて、マウスは友達の名を叫んだ。
水の中から感じられる妖気は、今は封印されているマウスの友人、タマモのものに間違いない。
『え!? マウス……どうして……?』
殺生石の中にいるであろうタマモから伝わってくるコトバ。どうやら驚いているようだ。
(それよりも、でちゅ。川に妖気が行き渡ってるのは、封印が解けかかってる証拠でちゅよね?)
『そうみたいだけど……てっ! マウス、水の中から手を抜いて! 早く!』
(ぬ……これは……いかん! タマモの言う通りじゃ。マウス、手を抜け!)
どうして……? とマウスが思ったときには遅かった。水がまるで生き物のように、マウスを取り込もうと迫る!
「マウス!?」
「マウスさん!」
(しまったっ! もう逃げれんぞ!)
(! ……まちゃかこの水は……力を吸収ちて……)
水に『掴まれた』右腕を初め、瞬く間に体全体が、生きた水によって覆いこまれる。
それに気付いた回りの生徒たちが騒ぎ出し、その中で冥子は……涙目になりながらマウスに近寄ろうと走り出していた。
「ちょ、冥子! 戻って来い!」
(マウス。この水は、殺生石の封印を破壊するために、力を蓄えておる。急に止めれるようなものじゃない。吸われるぞ!)
千年にも及ぶ封印を解くためには力が必要だ。それを集めるためにタマモは自然の中から力を集めていたのだが、そこに、マウスが入ってきてしまった。
別に人間が入ってきたというのなら何も起こらなかった。マウスであったのが問題なのだ。
タマモの妖気を持って一時的な生を得た水は、タマモにとってこの世で最も大きな存在であるマウスを取り込んでしまったのだ。タマモには、止められなかった。
「! カハッ……」
カオスが言うまでもなく、マウスはその体でもって知る。体中から魔力が根こそぎ吸い取られ、身動き一つ取れなくなっていた。
「マウちゃん!」
そんなマウスの耳に届いた声。紛れも無く彼女の親友、六道冥子のものだ。
(マズイぞマウス……あの子が……冥子が近づいて来とる!)
今にも泣きそうな顔だった。いや、既に泣いていたのだろう。そんな冥子の顔をマウスは見てしまった。
感覚すら失いかけていた体に、一瞬の火が灯る。
マウスが目覚めたとき、目の前にあったのは白い天井だった。空がまだまだ暗い時間だ。
そう……彼女が今日眠りから覚めた時と同じ、朝の六時半。
忠夫が目覚めたとき、目の前にあったのは木造の茶色い天井だった。窓から光の差す時間だ。
そう……彼が今日眠りから覚めたときと同じ、朝の七時半。
新!? GS美神 極楽大作戦 マウチュ! 天使と悪魔な女の子
Act.Ⅰ-Ⅲ 非日常 ~回転~
☆後書きコーナー byマウス&タマモ
『……作者も相当意地が悪いわね』
「同感でちゅ。いちいち続きが気になるようなところで終わらちぇて……」
『でもまさかこの話がループ物だったとは思わなかったわ』
「作者ちゃん曰く、原作にあった話は少し手を入れれば面白くなりまちゅが、オリジナルの話はしっかり練らないと楽ちんでもらえないからだちょうでちゅ」
『それでループ物ね……。でもそれって……」
「そうでちゅ。これで一気に謎解きの要素が強くなりまちたから、しっかり設定を練ってないと話が壊れまちゅ」
『そのへん作者はどういってるの?』
「えとでちゅね、ループ物には初挑戦みたいでちゅけど、一度書いてみたかったジャンルだちょうで、やる気はあるみたいでちゅ」
『……不安が半分ってとこね』
「あとでちゅけど、別にマウスが何かをしたせいでループしたわけじゃあないみたいでちゅ。真犯人は誰なんでちょうか?」
『力場が発生したって言うのが、やっぱり大きいわね」
「でもサスペンスじゃあないみたいでちゅから、深く考える必要はないみたいでちゅ」
『ループを使った仕掛けが主題ってことね』
「はいでちゅ。でも前回の次回予告で実力考査編でちゅって言っちゃいまちたけどどうちまちょう?」
『たぶん、そこまで書くつもりだったけど区切りがいいから区切ったってとこでしょうね。ほっときなさい』
「……そうでちゅね。ちょれでは次のコーナーでちゅ」
☆ご返答コーナー
尾村いすちゃま
「作者ちゃん曰く、小説は読んでもらうために書く物だちょうで、楽しめるかどうかにはわりと力を入れてるみたいでちゅ」
『小説は娯楽だものね』
「マウチュも楽ちんでもらえて嬉しいでちゅ」
『ところでマウス、これからマウスが横島を好きになることってあるの?』
「……ちょれは此処ではお話できまちぇんでちゅ。次々回あたりでどんでん返しがあるかも知れまちぇんから」
『どんでん返し?』
「これ以上は話せまちぇん!」
somosomoちゃま
『……やっぱりあの男って影薄くなるの?』
「違いまちゅよ」
『え?』
「作者ちゃん曰く、一度登場ちたキャラクターには必ずどこかで見せ場を作るんだちょうでちゅ。特に原作で影の薄いトラちゃんは、一ちゅカッコいい見せ場を用意ちてるみたいでちゅ」
『……私の見せ場は?』
「いっぱいありまちゅ! むしろメインでちゅから』
『つまり見せ場が多いか少ないか、に差が出てくるわけね』
「はいでちゅ!」
甲本昌利ちゃま
『そういえば作者って、実際のところロリコンなの?』
「……否定ちきれまちぇんけど、好みのタイプは同い年か一才年下だちょうでちゅ」
『それ前にもどこかで聞いたわね』
「他の方のご返答の時に一度話ちまちたね」
『うん。今思い出した』
「それでマウチュがロリキャラな理由でちゅけど、作者ちゃん曰く、万人向けを狙ったからだちょうでちゅ」
『確かに、二十代越えた男のオリキャラとか出すよりは馴染みやすいものね』
「はいでちゅ。抵抗なくすんなりと入れて、純粋に物語を楽ちめるようにちゅるのが、作者ちゃんの狙いでちゅ」
DOMちゃま
『マウスって、学校でどのくらい人気があるの?』
「えとでちゅね、作者ちゃん曰く、百合系の作品で皆からお姉さまって呼ばれてる人よりも人気があるちょうでちゅ」
『基準がよく解らないんだけど……』
「わかる人にはわかるちょうでちゅ」
『そういえば前回から横島っていう男が忘れられたように出てこないけど、そこんところどうなの? 最後にちょっと出てきたけど』
「次回はマウチュと一緒に主役だちょうでちゅ」
『どういうこと?』
「詳しくは次回予告でちゅ」
ハーリンちゃま
『……何で行くの字が逝くになってるの?』
「ちょれはでちゅね、とてもとても深い事情があるんでちゅ」
『どんな?』
「これを読んでる人なら皆知ってまちゅ。GS美神ではもう常識でちゅ」
『そうなんだ……』
「はいでちゅ。マウチュも一度だけとんでもない目に合いまちた」
『知らぬが仏……みたいな感じ?』
「どっちもどっちでちゅ。知ってても、知らないでも恐ろちいでちゅ」
ZEROSちゃま
「美神ちゃんがマウチュをああやって呼ぶのは時々でちゅ。良くわかりまちぇんけど面白いらちいでちゅ」
『本当によくわからないわね』
「冥ちゃんの炉化は、マウチュの学園生活に使う調味料の一つだちょうでちゅ。六道女学院のエピソードはほとんどオリジナルでちゅから、楽ちんでもらうために他にもたくちゃん味付けをちたみたいでちゅ」
『その一つがループっていうこと?』
「ちょれが、ループは全編を通して使っていくみたいでちゅ。今作最大の特徴の一つだちょうでちゅ」
『それじゃあ、主要イベントを二度繰り返したりもするの?」
「どうなんでちょうか? 二度も同じことをちたら面白くないでちゅから、いろいろとやるみたいでちゅ」
『例えば?』
「次回予告を参照でちゅ」
☆次回予告
「次回は、六道女学院から一転、ヨコチマに視点を変えて進める話から始まるちょうでちゅ」
『つまり、ループで同じ事を繰り返して暇にさせないよう、視点を切り替えながら進めていくってこと?』
「それもありまちゅけど、特殊な条件下に置かれたキャラクターの心情を描いても話は面白くなりまちゅから、場合によって使い分けていくみたいでちゅ」
『……なるほどね』
「ではでは、また次回! でちゅ」
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