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「二人三脚でやり直そう 〜第三十五話〜(GS)」

いしゅたる (2007-01-05 01:01/2007-01-05 07:04)
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「おキヌちゃんが大変って、どーゆーこった!?」

 コブラの助手席――そこで魔理が、隣で運転している美神に詰め寄った。
 彼女は愛子と共に、現在美神令子除霊事務所でアルバイトとして務めている。それで事務所で待機していたところ、横島から連絡が入って緊急出動と相成ったのだった。

「こないだ、カオスと厄珍が何かの開発資金を要求しに来たの、覚えてる? その開発ってのが、昔のカオスの技術を復活させよーって話だったのよ。
 で、それで完成したアンドロイドが、今おキヌちゃんを狙ってるらしいの」

 魔理の問いに、美神は前方から目を逸らすことなく答えた。

「なんでそこでおキヌちゃんが狙われるんだよ?」

「なんか、厄珍堂に置いてあった超強力なホレ薬が、どーゆーわけかそいつにかかっちゃったらしーのよ。それで、薬の効果でおキヌちゃんに惚れ込んだそいつが、おキヌちゃんを追い掛け回してるって話」

「……なんだ、そんなことか……」

 ホレ薬と聞いて、肩の力を抜く魔理。――しかし、その安堵感は、すぐに消え去ることになる。

「ちなみに『超強力』ってのは伊達じゃなくてね。あまりに強力過ぎて、そのホレ薬を使われた者は、相手の背骨が折れるまで抱き締めて、窒息するまでキスしてくるらしーわよ。カオスのアンドロイドだったら、背骨どころか胴体がちぎれて御陀仏ってところでしょうね……」

「「んなっ!?」」

 その説明に、魔理のみならず愛子まで身を乗り出した。愛子は本体である机をコブラのトランクの中に入れていた――サイズの関係で蓋が閉まらず、半開きのままロープで固定していた――のだが、その物騒な話題を耳にし、本体内に仕舞っていた体を思わず外に出してしまった。

「わぷっ!?」

 突然襲い来た風圧に目を回し、愛子は再び本体に体を引っ込める。
 彼女はそろそろと本体から頭だけ出し、トランクの蓋越しに美神の方に顔を向けた。

「美神さん……それって、かなり大変なんじゃないですか?」

「だから大変って言ったでしょ。事によったら愛子、お願いね」

 口調は淡々としているが、その表情は険しく、余裕などなさそうに見えた。彼女のその言葉に、愛子はひくっと口の端を引き攣らせた。

「うー……私は本来、机でしかないんだけどなぁ……でも、おキヌちゃんのピンチなら仕方ないか。困ってる友達を助けるのも青春よね……」

 心から渋々といった様子で、しかしいつものフレーズを口にしながら、愛子は承諾した。

「とにかく急ぐわよ! 掴まってなさい!」

「おキヌちゃん、無事でいろよーっ!」

「……振り落とされませんよーに、振り落とされませんよーに……」

 そして三人を乗せたコブラは、さらにスピードを上げた。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第三十五話 鋼鉄の姉妹愛が止まらない!【その2】〜


「ああん! 見失っちゃったー!」

「おキヌさーん! いずこにーっ!」

 場面は変わって、とある住宅街の中。
 周囲をせわしなく見回しながら叫ぶのは、テレサと華。彼女らは、ものの見事におキヌをロストしていた。

「こうなったら……ちょっとそこの物体X!」

「誰が物体Xですかっ!」

「あんたに決まってんでしょーが! ともかく、こーなったら手分けして探すわよ! 先に見つけた方がおキヌちゃんをモノにする! それでどう?」

「物体X呼ばわりは撤回してもらいたいものですが……まあ、こうしてても埒があかないのは間違いのないこと。鉄人形ごときの提案に乗るのは癪ですが、この際贅沢を言ってはいられません」

 鉄人形呼ばわりされるのみならず『ごとき』とまで言われ、テレサの頬が引き攣った。しかし彼女は、額に井桁を浮かび上がらせこめかみをピクピクと痙攣させながらも、なんとか感情を抑える。

「ふ、ふふ……さすが、いい度胸しているわね。あなたみたいな顔面岩石におキヌちゃんを探し出すなんて知性ある行動ができるとは思えないけど、その筋肉で出来てるっぽい脳味噌で、せいぜい負けた時の言い訳でも考えてなさい」

「そっちこそ。所詮ロジックでしか物事を考えられない電卓脳味噌で人間の行動を読めるというなら、せいぜい頑張って読んでみると良いでしょう」

「「ふふふふふふ……」」

 二人は不敵に笑い合い、そして――

「「ふんっ!」」

 同時に顔を背け、反対方向へと走り出した。


 ――二人が去っていった後――

「……行ったかしら……?」

 すぐ傍の民家の壁の裏から、おキヌがひょっこりと顔を出した。
 周囲を見回し、テレサの姿も華の姿も見えないことを確認する。そして、「うんしょっと」と小さく声を出しながら、壁を乗り越えて出てきた。

「はぁ……これからどうしよう……」

 再びきょろきょろと周囲を見回しながら、おキヌは途方に暮れた。
 横島さんなら、きっと助けに来てくれる――そうは思っても、この事態を収拾するのにどうしたら良いかというのは、正直思い付かない。

「とにかく、捕まらないよう逃げなきゃ」

「残念だけど、それは無理な相談なのよねぇ」

「…………」

 独り言に返事が来て、おキヌは硬直した。
 おそるおそる声のしてきた方に振り返ってみると――そこには、怪しい笑顔を浮かべたテレサの姿。

「おキヌちゃん……見ーつけた♪」

「な、なんで……」

「実は最初から、そこに隠れてたのは知ってたの。熱源センサーってのがあるからね。ま、それはそれとして――


 私の愛を受け取ってね、おキヌちゃん!」

「いやーっ!」

 叫び、両手を広げてタックルしてきたテレサを、おキヌは半泣きになりながらも大袈裟な動作でかわした。

 ――その結果――

 ドゴォォォンッ!

 おキヌが背にしていた壁が、ものの見事に粉砕された。

「ひ、ひえええええっ!?」

「……よけるなんて、ひどいじゃない。私はただ、抱き締めようとしただけなのに……」

 がらがらと壁の欠片を振り払いながら、テレサは不平を漏らしつつ起き上がる。

「そ、そんな力で抱き締められたら、胴体がちぎれちゃいますーっ!」

「大丈夫っ! 愛があれば耐えられるわっ!」

「説得力のないことを自信満々で言い切らないでくださいーっ!」

 叫ぶおキヌは、わりと本気で泣きが入っていた。命がかかっているから当然だが。
 が――その直後、テレサの両手が弾けた。

「!」

 声すら上げる暇もなく――その両手はテレサの腕を離れ、気付いた時にはおキヌの両腕を掴んでいた。

「つーかまーえたっ♪」

「ひえええええっ!?」

 底抜けに明るい声で、テレサが笑う。どんどんと退路が絶たれていく状況に、おキヌは悲鳴を上げた。
 そして――急速に、テレサの顔面が近付いてきた。

「ひっ!?」

 横島ならば、あるいはこれさえよけられたのだろうが――とっさのことに、おキヌは体が動かない。できたことといえば、きつく目を閉じたぐらいだ。
 コンマ単位の時間の超スピードで迫るテレサに、あわや頭蓋骨陥没かと思ったその時――


 めきょりっ。


 まぶたに閉じられたおキヌのすぐ近くで、そんな音が聞こえた。

「…………?」

 最初はそれが、自分の顔が砕ける音だと思ったが――痛みが襲ってこなければ、意識が途切れたりもしない。不審に思い、恐る恐る目を開けてみると、目の前には小柄な黒い背中。

「テレサ・やっと・見つけました」

「マリア!?」

 思わぬ救いの手に、おキヌは歓声を上げる。そのマリアの肘は、ものの見事にテレサの顔面に突き刺さっていた。

「ね、姉、さん……」

 テレサは一歩引き、キュポンッ、とコミカルな音を立ててその肘を顔面から抜いた。おキヌの両腕を掴んでいたロケットアームを巻き上げ、肘が突き刺さっていた部分を左手で覆い隠し、その指の隙間からマリアを睨みつける。

「う〜……何するのよ! 人の恋路を邪魔する気!?」

「ノー・テレサ。それ・薬のせい。正しい恋路・違います」

「そんなの知ったこっちゃないわよ! せっかくのキスまで肘なんかで邪魔してくれちゃって!」

「それも・ノーです。あれは・ほとんど・ヘッドバット。ミス・おキヌ・頭蓋骨陥没・します」

「今度は人の愛情表現にまでケチつけるっての!? もーいい! 力ずくで「……そんな・ことは・どうでもいい・です」……も……?」

 テレサの台詞を遮ったマリアは、何やら異様な雰囲気に包まれていた。
 前髪の影が顔の上半分を覆い、その中から両の瞳だけがギラギラとした光を発している。そしてなぜか「ゴゴゴゴゴゴゴゴ……」という地響きのような音まで聞こえていた。

「テレサ……これ以上・マリアのイベント・無断で続けるなら・強硬措置に・踏み切ります。すなわち・ドイツ語で・言うところの――


 いてこましたるわゴルァ・という・やつです!」

「それは断じてドイツ語じゃなーいっ!」

 かなり意味不明なことを言い出したマリアに、テレサは思わずツッコミを入れてしまった。


 ――そして、姉妹がそんな対立をしている後ろで――

「……おキヌちゃん、おキヌちゃん……」

 呆然とするおキヌの背後から、トントンと誰かが指で肩を叩いた。

「ひゃうっ!?」

「しっ」

 思わず声を上げそうになるおキヌを、その人物は制した。振り向いてみれば、そこにいたのはバンダナの少年――

「よ、横島さん!」

「おキヌちゃん、テレサの注意がマリアに向いているうちに逃げるよ」

「は、はい!」

 頷き、おキヌは横島に手を引かれるまま、その場を離脱した。


 ――だが、そうは問屋が卸さないもので。


「あんたっ! 私のおキヌちゃんをどこに連れて行く気よーっ!」

「「ひああああああっ!?」」


 おキヌの姿が消えていたことに即座に気付いたテレサによって、数分後には二人は追い掛け回されていた。
 ――そして――

「テレサ! まだ・逃げますか! こうなったら・あなたを・破壊します!」

 当然のように、テレサの後ろから追いかけてくるマリアの姿もあった。
 ちなみにアンドロイド二人は、空を飛んでいる。地上を逃避行する横島とおキヌでは、引き離すどころか追いつかれるのも時間の問題だった。

「えーいっ! 姉さんったらしつっこいわね!」

 舌打ち一つ。テレサはそう言いながら、脚部のハッチを開いて中からミサイルを発射した。右足と左足で一基ずつのミサイルは、尾を引いてマリアに迫る。
 しかしマリアはそれをよけた。目標を見失ったミサイルは迷走し、そのまま電柱にぶつかって爆発した。それでも一瞬の回避行動はタイムロスに繋がり、マリアとテレサの距離は大きく開いた。
 そして、テレサの横島とおキヌの二人との距離も縮まる。

「うふふ……もう秒読みね。愛してるわよおキヌちゃん!」

「そうは・させません!」

 二人の背中に向かって手を伸ばすテレサ。そこに、マリアが懐から何かを取り出し、思いっきり前方に放り投げた。
 それは放物線を描き、しかしテレサのいる方向とはまるで見当違いな方向に飛んで行った。

「はっ! 姉さん、バグがひどくなってるみたいね……何を投げたか知らないけど、見当違いも――」

 嘲笑するその言葉が、最後まで続くことなく途切れた。テレサの視界が、投げられた『それ』を捉えたのだ。
 放物線を描いて飛んでいくもの――それは。


 ――かぷっ!

「…………はっ!?」


 テレサが次に気が付いたのは、彼女は放り投げられた『それ』――骨っこを口でキャッチした瞬間だった。
 突如として犬のごとき奇行に走ったテレサに、横島とおキヌは思わず「だああっ!」とずっこける。
 これはこの場にいる中ではマリア以外に知らないことだったが、テレサの開発にはアンドロイド犬『バロン』のパーツが流用されている。そのため、バロンの癖までそのまま移植されていたのだ。流石にカオスのやることだけあって、いーかげんな仕事をする。

「な、何が……!?」

 そんなことも知らないテレサは、自身の奇行に驚きを隠せない。
 しかし、驚いている暇はなかった。その眼前に、ロケット弾頭が近付いてくる。

「……はっ!?」

 気が付いた時には既に遅し。


 ドゴォォォンッ!


 テレサは回避行動に移る暇もなく、爆炎に包まれた。
 ――そして――

「おキヌちゃん! 横島クン!」

 直後に、二人の目の前に見覚えのあるシェルビー・コブラが停車した。

「美神さん!」

「それに、一文字さん!」

「私もいるわよ」

 現れた援軍に横島とおキヌが歓声を上げ、コブラのトランクから愛子が顔を覗かせた。

「話は後! 二人とも、座席空いてないからとりあえず愛子の中に入ってて! 逃げるわよ!」

「う、ういっす! 愛子、頼む!」

「はいはいっと。ちょっと我慢してね」

 愛子は横島の頼みに頷くなり、本体から腕を出して二人を掴むと、そのまま机の中に引きずり込んだ。
 美神はそれを確認するなり、即座にコブラを発進させた。目指すは郊外――採石場。
 そこならば思う存分火器を使って迎撃できる。


 目的地に到着した美神は、そこでコブラを停車させると、装備を点検しつつ車から降りる。

「……この辺でいーわね。とりあえず愛子、二人を出して」

「はーい」

 愛子は返事し、横島とおキヌを外に出す。

「なあ美神さん。おキヌちゃんの安全を確保するんだったら、隠しておいた方がいいんじゃねーか?」

「それで済むって保証があれば、私だってそうするけどね……」

 魔理の疑問に、美神は浮かない顔で首を横に振った。

 実際のところ、隠してやり過ごしたところで根本的な解決にはならない。薬の効果が時間の経過で切れるのであればそれも有効な手ではあるが、そうでなければテレサを確保した上で、中和剤を作るなりして処理しなければならないのだ。
 そもそも、美神たちがおキヌを連れ去ったのは、テレサも見ていたはずだ。爆煙で視界が塞がれていたなどという希望的観測もできないこともないが、それで楽観視するような愚は冒さない。
 テレサは確実に、おキヌを追って自分たちの前に姿を現す。その時におキヌの姿がなければ、無差別に暴れだす可能性は決して低くなかった。ならば、おキヌを表に出し、それを全員で囲って守る方が確実に戦いやすいことだろう。

 美神がそう説明すると、魔理は納得したらしく頷き、おキヌの傍に寄る。
 と――その時。

「……うん? なあ美神さん。あっちに誰かいないか?」

「え? こんなところに……?」

 魔理が指し示す方向には、なるほど確かに人影があった。
 そして、そちらの方もこちらに気付いたらしく、近付いてきて――

「……って、突進してくる!?」

 魔理の言う通り、その人影はこちらの姿を認めるなり、真っ直ぐに走ってきた。

「おおおおーんっ! おキヌさんを探して道に迷い、途方に暮れていたところに、これぞ天の導き! これはもはや、私におキヌさんと愛を語り合えという神の采配に他なりません!

 さあおキヌさん! 私と共に愛の園へと旅立ちましょうぞーっ!」

「「「何この物体Xーっ!?」」」

「は、華さんっ!?」

 感極まったような様子で突進してくる物体X――言わずもがなの華である――に、初見の美神、魔理、愛子の三人は、思わずドン引きして叫んだ。
 しかし、その間にも華は土煙を上げながら超スピードで近付いてくる。

「くっ――!」

 ドン引きしている暇はないとばかりに、魔理がおキヌを庇うように華の前に立った。

「も、もしかしてこいつが、ホレ薬をかぶったもう一人ってやつ!?」

「そ、そーっス! ……って、美神さん上!」

 横島と美神も華の前に立ちはだかろうとしたその時、横島が上空から接近してくるものに気付き、声を上げた。

「ぬぉぉおおおおっ!」

「どぅりゃあああああっ!」

 美神が上を見上げるのと、魔理が華のタックルを真正面から受け止めたのは同時だった。華の女性としては規格外――もっとも、外見通りという話もあるが――のパワーに、魔理は顔を真っ赤にしながらも懸命に押し返している。
 そして、美神と横島が見上げた先には――尾を引いて接近してくる、空飛ぶテレサとそれを追うマリア。

「一文字さん、そいつは頼んだわよ! 私たちはテレサの相手するから!」

「お、おう! 任せ、とけっ!」

 答える声には気合こそ入っているが、かなりキツそうだった。

「ぬおおおおおっ! おどきなさい! 私とおキヌさんの恋路を邪魔するというなら、容赦はしませんよ!」

「う・る・せぇぇぇぇっ!」

 二人の暑苦しい気合の声をBGMに、テレサの方も「ズシャッ!」という音と共に大地に降り立つ。それから少し遅れて、マリアもテレサの前に降り立った。

「姉さん……まだ邪魔する気?」

「何度・でも!」

「なら、一気に終わらせてあげる!」

「悪いけど、そーはいかないのよっ!」

 二人の間に割り込むかのように美神が声を上げ、手に持ったバズーカをテレサに向けて撃った。


 ドゴォォォンッ!


 再び、爆炎に包まれるテレサ。
 ――しかし――

「――効かないわよ!」

 声と同時、爆炎の中からロケットアームが飛び出し、美神のバズーカを弾き飛ばした。

「なっ!?」

「美神さん!」

「ミス・美神!」

 衝撃で美神自身も弾き飛ばされ、地面に激しく体を叩き付けた。
 そして、それに駆け寄るのは――横島。

「大丈夫ですか美神さん! 今すぐ人工呼吸心臓マッサージその他諸々、まとめて処置――」

「この非常時に何を考えているかお前はーっ!」

 すぐさま起き上がり、渾身のツッコミを入れる美神。手をワキワキと怪しく蠢かせていた横島は、あえなく撃沈されることになった。
 ――が。

「あ、あれ……?」

 美神は体をふらつかせ、再び地面に尻餅をつく。どうやら、先の衝撃で軽い脳震盪に陥ってしまったようだ。

「――どうやら、邪魔者は一人減ったよう「テレサ・捕まえました」――なっ!?」

 美神が戦闘不能になったと見てほくそ笑んだテレサだったが、その台詞が終わる前にマリアに背後を取られ、驚愕の声を上げる。驚いた時には、既にマリアの両腕は、テレサの胴体をがっちりとベアーハッグで捕らえていた。
 マリアはそのまま、テレサの胴体をぎりぎりと締め上げる。

「ね、姉さん! 本当に、私を壊す気……!?」

「さっきも・言ったはず・です。


 そんなことは・どうでもいい。ハニワという・理由だけで・十分だ・と!

 マリアブリーカー・死ねぇっ!」

「言ってないし意味不明ーっ!?」

 テレサのツッコミもなんのその。そんなものは意にも介さず、マリアはそのままテレサを締め上げる。

「あうあうあうあうっ! 姉さん色々な意味でそれダメだから千切れる千切れるーっ!」

 そして――テレサの胴体が泣き別れになるかというその時。


「……う……ん、こ、この……あ、愛子っ!」

 いまだ脳震盪の影響が残る体に鞭打ち、起き上がった美神が愛子を呼んだ。

「は、はいっ!?」

「こーなったらもー手加減なし! あれ出して!」

「や、やっぱ使うんですかーっ!?」

「いーから出すっ!」

「はひぃっ!」

 どうやら、ダメージを負ったことで何かを吹っ切ったような気配である。据わった目で睨まれ、愛子は言われるがままに自分の中にしまってあったものを取り出し、美神に渡した。
 愛子が心の中で「私は武器庫じゃないのに……机なのに……」と涙を流していたのは、残念ながら誰も知ることはない……。

「って、美神さんそれは――っ!」

 それを見て、横島が青ざめる。美神の手に収まったそれは、携行式対戦車ミサイル――

「プレデターじゃないっスか!?」

「横島君、よく知ってるわね……?」

 驚愕する横島に、愛子が眉根を寄せて疑問を投げかけた。
 二人がそうしている間にも、美神はプレデターを発射し――そのミサイルの向かう先は、無論テレサ。

「生まれたてのガキがこの美神令子に逆らおうなんて……って」

 啖呵を切ろうとして、ふとその台詞が途中で止まる。
 当然のことだが……このままでは、テレサを締め上げているマリアもまとめてミサイルの餌食になろうことは、想像に難くない。しかし脳震盪の影響が残ってた上に怒りでテレサしか見てなかった美神は、マリアの方は視界に入ってなかった。

「やばっ……!」

 それに気付いて声を上げるが、時既に遅し。発射したミサイルが戻ってくるはずもなく、ものの見事にミサイルは着弾し――


 ズドォンッ!

「イラクかここはーっ!?」


 爆風に煽られ吹っ飛びながら、横島は律儀にツッコミを入れていた。
 そして、その衝撃で二人は空高く吹き飛ばされ、ついでにマリアの拘束も解けて二人はバラバラに宙を舞った。

 ――だが――

「……くっ……こんなことで……諦められるわけない……せめて、キスの一つだけでもーっ!」

 宙を舞いながらも、テレサはそう叫び、ジェットを噴射して落下地点の調整をする。
 目指す先は――無論、おキヌ。

「…………え?」

「おキヌちゃーん! 私の唇、受け取ってーっ!」

 んー、と唇を突き出しながら落下してくるテレサ。なんとゆーか、異様な光景である。

「あ……え、えっと……え?」

「お、おキヌちゃん!」

 変な落下物を前に、おキヌはうろたえる。横島の悲痛な叫びが、耳に入った。

 ――そして――

「い……」

 おキヌの両手に、霊波の光が灯る。

「いやあああああああーっ!」

 叫ぶと共に、かざした両手から霊波砲が放たれた。

「「「「え!?」」」」

 それを見ていた横島、美神、愛子、テレサの驚愕の声が重なる。特に横島と美神は、おキヌと霊波砲という組み合わせは想像もしていなかった分、驚きが大きい。もっとも、白龍会に入った以上は、修得しても不思議ではないのだが――いかんせん、イメージに合わないのだ。
 ともあれおキヌの霊波砲は、真っ直ぐにテレサへと向かい――


「ぺぎゅるっ!?」


 変な声を上げ、迎撃されたテレサはそのまま弾き飛ばされた。
 そして、その向かう先は。

「…………へ?」

 間抜けな声を上げ、きょとんとする魔理。当然、その眼前には華がいる。

「う、うわわわわっ!?」

「む?」

 思い出したかのように突如として逃げ出した魔理。その様子に不審感を抱き、彼女が直前まで見ていた方角――すなわち背後に振り向く華。
 振り向いた時には、視界いっぱいにテレサが迫っていた。そして、何の因果か、真上からは落下してくるマリアがいた。

「んなっ!?」

 ――叫びを上げる暇もあればこそ――


 ごっちん。


 なかなか豪快な音を立てて頭をぶつけ合わせ、テレサ、マリア、華の三人は、折り重なるようにして地面に倒れ伏した。


「「「「「……………………」」」」」

 突如として訪れた沈黙。台風一過というにも程があるといったぐらい唐突な終わりに、ひゅるるる〜……と風の音だけが響いた。

「……えーと……終わったの……かしら?」

「たぶん……終わったんじゃないっスかねぇ……?」

 揃って目を渦巻にして倒れた三人を見ながら、美神の呆然としたつぶやきに、横島も同じような様子で返した。


 ――その後――

 マリアとテレサ、そして華の三人をカオスと厄珍に預け、二人のメンテとホレ薬の中和剤を頼んだ。
 無論、頼んだと言ってもその二人は事件の一端を担っていたので、当然のことながら無償である。
 中和剤は(美神が神通ヌンチャク片手に急がせたのも手伝って)すぐに出来上がり、華は即日元に戻ることが出来た。その際、彼女はおキヌを始めとした美神令子除霊事務所の面々に対し、平謝りに謝っていた。

 一方、マリアとテレサの方であるが、二人ともメンテで故障箇所が色々と見つかり、修理することとなった。もちろんその際、テレサの方に中和剤を使うことも忘れない。
 そして、その修理の結果か、はたまたテレサと頭部を強打したせいか、マリアは元の機能を取り戻すことに一応の成功を見せた。これで、もう変な暴走はしないで済むだろう。
 テレサの方も、プログラムの方にホレ薬の影響が微妙にインプリンティングされている以外は、おおむね順調に修理できた。

 ――そして――

「おキヌちゃーん! また遊びに来たわよーっ!」

「ひえええええっ!?」

「ま、また来やがったかあのロボット女!」

「元気ねぇ〜」

「まったく、飽きもせずよくやりますね」

「…………俺にゃー関係ねぇな」

 その事件以降、たびたび白龍会に訪問してくる女性型アンドロイドの姿があったとかなかったとか。
 めでたくもあり、めでたくもなし……?


 ――おまけ――


「……そういえば……」

 マリアとテレサを回収し、修理のため厄珍堂の地下へと運び込んだ後。
 地上に戻る横島たちを尻目に、おキヌはぽつりと呟き考え込んだ。

「ん? どうしたんじゃ?」

「いえ……あのホレ薬、横島さんにもかかってなかったっけと思いまして……」

「そういえば、ボウズには効果が見られなかったあるな」

 カオスの問いに答えると、その疑問に厄珍も首を捻った。

「ふむ……あの薬、見たところ霊薬の類のようじゃったが、レジストされたのではないか?」

「れじすと?」

「レジスト、あるか……」

 おキヌが聞きなれない単語に首を捻ってる横で、厄珍が顎に手を当てて思案顔で頷いた。
 ちなみにレジストとは、和訳で『耐える』の意。

「確かにあれは霊薬ね。高い霊力を持っていれば、効果をレジストするのは理論上は可能あるが……正直、あのボウズに、あの強力過ぎるホレ薬の効果を相殺できるほどの霊力があるとは思えないある。そもそも、霊力による霊薬のレジストなんて、最初からそのつもりで体に霊力を張り巡らせていないと出来ないあるね」

 あの状況で、ホレ薬がかかる前にとっさに霊力を体に張り巡らすなど、神業に等しい。

(……それでも、横島さんならやりかねないんですよね……)

 自らの想い人の非常識さを思えば、といったところだろう。おキヌは二人とは違い、そういうことかも、と納得しかけていた。
 その当の横島は、既に階段を上がっていて、ここにはいない。

 と――

「ふむ……ならば、残る可能性としては……アレかのう?」

 納得しかけていたおキヌの耳に、カオスが新たな可能性を示してきた。

「アレってなんですか?」

「つまりじゃな」

 疑問を向けるおキヌに、カオスはニヤリと笑い、人差し指をぴっと顔の前で上に向けた。
 そして――


「使用者に対し、既に惚れている者には効果が無い……ホレ薬の王道じゃな」

「……え゛」


 突然投下された爆弾に、おキヌの動きがフリーズした。その代わり、思考がぐるぐると目まぐるしく回転する。

(え……? そ、それってつまり……横島さんが、私にほ、ほ、ほれ、惚れてるってこと……ですか!? い、いやいや、そそそそんなことはありませんよね? よよよ横島さんにはルシオラさんって人がいるわけで、ああでも横島さんって結構気が多いところもあるし、もしかしたら私にも気をかけてくれてるんじゃないかなって、でも本当にそうなんでしょうか私にもチャンスがあると取ってもいいってことなんでしょうか期待していいんですかいいんですね私自信持っていいんですねこれはもーそのままゴーってことで――)

「おーい……嬢ちゃーん……」

 色々と混乱しまくってるのか、プスプスと頭から黒い煙を立ち上らせ、両目を渦巻き模様にしているおキヌ。その光景を前に、さすがのカオスと厄珍もヤバいものを感じ始めたのか、後頭部にでっかい汗をかいていた。

「お嬢ちゃんお嬢ちゃん、戻って来るあるよー」

「……ダメじゃな。完全に自分の思考に没頭しとる」

 とりあえず呼びかけてみるが、「これはもー……」とか「でもやっぱり……」とかブツブツ呟くばかりで『戻って』来ない彼女に、カオスはやれやれとばかりに肩をすくめた。


「で、本当のところはどーゆーことだったあるか?」

 そんなおキヌを無視することにして、厄珍はカオスに訊ねた。

「さて……な。だが、今言った王道とやらも、れっきとした可能性の一つじゃ。ま、真実は神のみぞ知る……といったところかのう」

 カオスはそう答え、ニィッとしたストイックな笑みを浮かべた。


 ――あとがき――


 読者の皆様、新年明けましておめでとうございます♪ 年をまたいでのテレサ編、とりあえずこれにて終了です。
 次回は番外編か、それとも白龍の華麗なる日々【ふつかめ】にいくか、まだ未定ですが……とりあえず、タイガー登場までに二、三話やっておきます。

 ではレス返しー。


○1. スケベビッチ・オンナスキーさん
 原作ってなんでしょうかw マリアは変な電波受信してまーす♪ ……これからも受信し続けるかどーかはわかりませんが(^^;

○2. スカートメックリンガーさん
 おキヌちゃん親衛隊ですか……実際に結成予定入れてたりしますw その中にテレサや華が入るかどうかは……どうしましょ?

○3. 山の影さん
 さすがに今回はあの武人像は出てきませんでしたがw まあ、そのポジションに華が入ってたようなもんですがねー。

○4. ばーばろさん
 やっぱりギャグ系二次創作やってる以上、一回はNGワードネタ入れたいものですw ちなみに便所でのことは、カオスの名誉のため伏せておきます(ぁ

○5. 文月さん
 このマリアを素にするかどーかは……うーん、どうしましょう。一応修理完了させましたけど……カオスですから、まだバグ残ってても不思議じゃないですしねw
 前回の続きは、書いてる本人さえ予測不可能でした(マテ

○6. ショウさん
 おキヌちゃんは今回で霊波砲をマスターしちゃいましたが、次のステップに行くのはまだ時間かかります。……ステップクリアに必要なのは霊波砲だけじゃないんですよー(^^;

○7. いりあすさん
 壊れマリア、意外に好評ですねー。今後もどっかしら壊れたままの方がいいかも? 美神さんに関しては、まーやっぱり原作のタイトルで『GS美神』を謳ってる以上、彼女をないがしろにするわけにはいきませんので……やっぱり介入させちゃいました(^^;

○8. 秋桜さん
 華さんに太陽……さてどうでしょう? 実は、おキヌちゃんと白龍会の間に入る緩衝材として考え付いたキャラなので、GS試験以降はあまり活躍を考えてなかったり……うーん、出した以上はちゃんと最後まで面倒見てあげないとなぁ(^^;

○9. 内海一弘さん
 横島くんの態度が普通なのは……さて、真相はどんなとこでしょーねw もっとも彼の場合、美神さんやルシオラが惚れ薬使った場合でも、結果は一緒だったでしょーけど♪

○10. とろもろさん
 一応、しばらくはキヌ華セットは外せませんねー。なにせ、白龍会との緩衝材ですから。あと、このシリーズの神=私って構図は、あまりにメタ過ぎるんでNGです(^^;

○11. Februaryさん
 あ、そういえばマリアも山崎さんの声でしたね。メドレンジャー……「フラワーレッド」「シルクホワイト」「ダテブラック」「インネングリーン」「カマピンク」ってところでしょーか? ……陰念だけ語呂悪いですがw


 レス返し終了ー。では次回三十六話、もしくは番外編でお会いしましょう♪

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