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「上を向いて歩いていこう その6(GS+ときメモ1)」

hanlucky (2006-12-27 07:43/2006-12-27 07:44)
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「はい、タッチ〜! 次、お前が鬼な!!」

------春夏秋冬、季節は巡る。

「え〜! また、僕〜! つ〜か、一度も鬼になっていないヤツいるんですけど〜。」

------校舎では、少年達のかけ声や、足音が響く。

「……なんで、皆、俺を見んだよ! わかったよ、俺が代わりに鬼になればいいんだろ!」

------合図と同時に、遊びの鬼ごっこが始まる。

「は〜、大体、あのバカ女に比べたら、俺が他のヤツにお・く・れ・を……」

------遊びの鬼ごっこは終わりを迎え、

「……誰が、バカ女なの〜? 横島くん、令子よくわかんないから、教えてくれない?」

------本当の鬼ごっこが始まる。

「助けて〜〜〜〜!!!」
「待ちなさいよ〜〜!!」


横島忠夫7歳、下克上は遠い。


------上を向いて歩いていこう その6------


「だ、大丈夫だったか〜、横っち。」
「あ、あ〜。チャイムがなって助かった〜。」

昼休みも終わり、残る授業は体育。
体操服に着替えた横島達は、体育館に向かって行く。

「しっかし、横っちが羨ましいぜ! あの美神令子と知り合いだなんてな〜!」
「なんで!? あんな暴力……」

横島が、挙動不審な行動、辺りを見渡しながら言い直す。

「あんな暴力女の何がいいのかわからん!」
「はぁ〜!? 美神令子っていや〜、4年生の中、いやこの学校でもナンバーワンの可愛さって評判なんだぞ!!」

どっこから仕入れてきたのか、横島の友達である早乙女君が、どこから出したのか、メモ帳を片手に自信満々に語る。メモ帳の表紙には『ザ・好雄網』と書いてある。

「確かに可愛いかもしれんが、あの性格じゃぁ、相殺どころか、マイナスだっつ〜の!」
「しかも、彼女に告白した男子は数知れず、そして、飛ぶ鳥を落とすがごとくの……」
「聞いてないし……つか、よっしー。お前は本当に、小学生か?」

この春、新しく友達になった男子であったが、深い付き合いはさけた方がいいと子供ながらに思った横島。
とりあえず早乙女を無視して、先に体育館シューズを履いて中に入る。

「おいおい、待てよ〜。まぁ、聞けって! 確かに男子にはものすごく、冷たい女だが、女子、正確には自分を慕ってくれる女子にはけっこうやさしい〜んだぜ!」
「へいへい、それぐらい知ってるよって…この時間って1年生だけが体育館使うんだよな〜?」
「ん〜、レクレーションなんじゃね?」

体育館に入ると、確かに自分たちの学年はいるのだが、もう一クラス、上級生の組がいる。

「お〜い、お前らはこっちこっち!」
「あ、先生だ、行こうぜ、横っち!」

先生に呼ばれ、横島達が、向かうと、上級生達がその反対方向へ集まって行く。
まずは、整列、次に準備運動と行い、先生の話が始まる。

「……まぁ、そんなわけで、体力測定も終わったし、今日は、ドッチボールでもするか〜!」
「横っち、チャンスだ!! ここで、活躍、そして女子を守りかっこいい所を!!」
「お、おう。」

早乙女の勢いに思わずうなずく横島。
チーム分けはクラス対抗戦になったようだ。

「よっしゃー!! 皆、気合い入れて行くぞ!!」

笛と同時に皆が、コートの後ろの方へ集まる。
だが、小学生といえど30人もいれば、全員が後ろへいけるわけもなく------

「うわ!」  「しまった!?」
   「きゃっ!?」

「やべっ!?」

と序盤は両チーム、投げればまず相手をアウトにしていく。
そして、自ずと運動神経のいい者達が残ってくる。

「……大分減ったな〜。」
「まぁ、向こうもおなじもんだろ?」

早乙女は一度外野になったが、復活して再びコートにもどって居た。
横島は、幾度狙われても回避のみで、一度もボールに当たらずにいる。

「つーか横っちも、避けてばっかじゃなくてたまにはとってくれよ〜。」
「ん〜、そんな事言われてもな〜かわすのは得意なんだけど〜」

勝負は着々と進んで行く。
途中、勝負を早くするためボールが2個に増えたため、運動神経の良い者も続々と脱落しはじめる。
早乙女は女子にかっこいい所を見せたいのか、奮起し外野になってもすぐに内野に復活したりしていた。
そして、横島だが------


「------見える!------甘いな!------無駄無駄!!」


圧倒的な回避率を見せて、全てのボールを避けていた。

「------!? しま……った、すまん、横っち。」

主力の早乙女がこの終盤でアウトになってしまい、いっきに横島のチームは総崩れを起こす。
気がつけば、内野には横島一人。

「あと、ひとり! あと、ひとり!」

相手チームにはまだ、5人残っている。

「ここで、漢、魅せろ〜横っち!!」
「んな事言われてもって、ゲ!?」

気がつけば、向こう側にいた上級生達も何人か見学している。
そしてその中に見知った顔------美神令子。

「ね、ね、令子〜あの子ちょ〜おもしろい動きするんだけど!」

美神の周りの友達が横島を指差しながらしゃべっている。
その友達に何か言い返している美神。

「------!? あぶなっ!?」
「なんで、それをよけんだよ!!」

うまく挟み撃ちにされて、前後同時に来たボールを軟体動物か!って具合にかわす。

「あはは! 何、あの動き! ちょーウケるんだけど!」

美神の友達達が笑ってる中、美神一人が笑っていない。
その表情------変えてやる。

「------無愛想な顔してんな。」

美神と、その周りの女子を見るのは終了。
今からは、ボールをかわす事だけに集中。
集中するのは慣れている。この2年間、それが日課なのだから。

「これなら------どうだ!!」

相手のチームがうまく外野と連携を組み横島を追いつめる。
しかし、無駄だ。
すでにスイッチが入っている。

「…後ろからも。」

たかが、二方向からの攻撃。
この集中力を持ってすれば、回避は可能。

「あぶねっ!?」
「くそっ! あと少し!!」

だが、体がついていかない。
想像では全く態勢は揺らいでいないが、実際はなんとかかわせる程度。
しかし、ギャラリーは今のもかわす横島に驚愕する。

「絶対、当ててやる!!」

相手チームはもう一回!と、横島をかく乱していく。
そうだ、二度目はない。

「……見てろ。」

いつもすました顔して。
いつも怒った顔しか見てないけど。

「……あんまし、認めたくないけど。」

あくまで視線はボールを持った相手を定めている。
だが、頭に浮かぶのは女の子達、そしてその中にいた美神。

「横っち! 当たる!?」

追いつめられたのか横島の足が止まり、ボールが横島に向かって飛んでくる。
回避は間に合わない。

「集------」

横島がここで初めて、相手が投げつけてきたボールをキャッチする事に成功する。

「------中!!」

そして、後ろから来たボールをキャッチしたボールでうまく自身の外野へと弾く。

「よくやったーー!!」
  「やった、やった!!」
     「よっしゃーー!!」
   「ナイス!!」「横っち…俺の活躍が……」


歓声が上がる。
今までひたすら、回避しかしていなかった横島がボールを掴んだだけでなく、そのボールを盾にして、挽回のチャンスを作ったのだ。
横島はすかさず、態勢を立て直して、敵陣地に狙いを定める。


「ほんま……」


------さぁ、反撃だ。


「黙ってたら……」


------ターゲットにボールが向かう。


「可愛いのに。」


歓声の中、横島が知らず知らずポツリと呟く。


「------ん?」


バシュコーン!!


「ぶげっ!? な、んでやね、ん……」

横島の顔の左側には丸いあとがついている。
そして足下にはバレーボール。

「な、なに、今の?」
「あれ、あたしのボールは……?」
「……さぁ、何かしら? それよりもう、戻らない?」

クラス対抗ドッチボール、最高潮の盛り上がりの中、横島の気絶で幕を下ろす。


「う、う〜ん……」
「ほら、いい加減おきなさいよ!」
「うげっ!」

横島のみぞおちに激痛がはしる。
飛び上がる横島。

「なにすんね------何をするんでしょうか、美神さん?」
「ほら、さっさと帰るわよ。」

辺りを見渡せば、ここが保健室だと分かる。

「なっさけないわね〜。体育の最中、顔面にボールがきたぐらいで気絶なんて。」
「……あれ? 俺が投げたボールと、味方が持ってたボール…」

美神は横島の言葉を無視して、二つランドセルを投げつける。
それを律儀にキャッチする横島。

「ほら、このアタシが待っててあげたんだから荷物持ちぐらいしなさいよ!」
「別にまっててくれって------はい、かしこまりました!!」

ちゃちゃっとするって感じに美神は意気揚々と横島の前を歩いて行く。
美神の家と横島の家は反対側なのだが、そんな事は関係ない。
既に横島に抵抗の意思はなく、決して軽いとはいえないランドセルを二つ持ち続ける。

「そういえば、アンタ、何よアレ!? あの変な動きは〜まるで猿ね。」
「うるさいな〜、かわしてんだからそれでいいやんか!!」

美神は何か良い事があったのか、横島をバカにしながらもいつもより声のトーンが高い。

(やっぱ、こんな女なんか可愛くない!!)

美神の機嫌がいいのは分かるが、言われている事はいつもと変わらない。
凄く不満になりながらも、といっても、途中で帰る事はない。

「さぁ、到着したけど。」
「何、不機嫌そうな声だして……あぁ、そうそう。」

美神の家に着く頃にはすっかり不機嫌になっていた横島。

「------ま、最後の動きは少しよかったわよ。」
「……え?」

マンションの入り口につき、いきなり褒められて頭が真っ白になる。

(この女が俺を褒めるなんて何があったっていうんだ、大体さっきから機嫌がよかったりそれ以上に保健室で俺が起きるまでまっていたなんて、まさか!?これはラブコメっていうヤツなんか!?というとこれはいわゆる一緒に帰るというフラグで、まさかこの女!?俺に惚れとるんじゃ!?そんなバカな!?しかしいいのか!?確かに顔は可愛いかもしれが、性格は鬼であり、昼休みもリアル鬼ごっこを繰り広げさせられるような女なんだぞ!?落ち着け、いきなり女子に告白されてっふげし!?」
「------さっきからだまってりゃ、中々言ってくれてるじゃない?」

護身用のヨーヨーが横島の顔面を痛打する。

「そんな!? まさか心を読むなんて霊能力!?」
「途中から声に出てるわよ。それより……死ぬ?」

美神のヨーヨーが変幻自在に動き、横島を幻惑する。
そして、その牙が横島を切り裂こうとした瞬間------

「------令子、こんな所でみっともないから止めなさい!」

救いの神はいた。

「ママ〜、だってコイツが私の悪口を言うんだもん!」
「だからといって、お年頃の女の子がそんな簡単に暴力をふるうんじゃありません。」

美智恵が令子を諭しながら、横島に軽く謝罪する。

「そうそう、今晩、少し前から新しく弟子になった子を、夕飯に招待してるんだから令子も手伝ってね。」
「また〜?」

現在の美智恵は、新しい若手GSの育成に力を入れていて、この2年間ですでに何人ものGSを見習いから一人前へと育てている。

「今回の子は今までで一番の才能を持っているかもね〜、やっぱり才能を持った子を育てるというのは楽しいわ。」

美智恵は新しい弟子に素質の高さに上機嫌のようだ。

「そうだわ、忠夫君も一緒に夕飯の方どう? せっかくだし神父にも会っておいてもらっても損はないわね。」
「え! で、でも…」
「そうと決まれば、はい、いらっしゃい!」

横島が、美神が怖いから帰ろうとする前に美智恵に手を握られ引っ張られて行く。
美神も不満だが、母親には逆らえない。
美智恵は部屋に入ってすぐに唐巣に電話をかけ、料理に取りかかる。

「そういえば、最近調子の方はどう?」

包丁でリズムを取りながら、横島の体の調子を聞く。

「ここ最近はとくに変化なしです。いつも通り、霊力コントロールの反復練習だけで。」
「今は、しっかり基礎固めってとこね。あの人らしいわ。」

あれから2年の月日が流れている。
その間、唐巣が横島に新しい事を覚えさせる事はなかった。
理由は横島がまだ幼い事と、そしてなにより霊力の貯蔵量が少ない事。

「俺って才能ないんかな〜。」
「ま、アタシに比べたらないんじゃない?」
「令子! 忠夫君、GSというものは、1年、2年で基礎ができるほど簡単なものじゃないのよ。焦る必要なんてないわ。大丈夫、あなたはこれからの人なのよ、私の言葉じゃ信用出来ない?」

軽く沈んでいた横島を、美智恵は励ます。
チューブラーに憑かれる事がどれだけのハンデキャップになるかなど痛いほど身にしみている。
だから今、横島の気持ちがどのようなものかよく分かる。

「あら、インターホンが鳴ってるわ。令子、お願い。」
「は〜い、さて神父さんかな、それとも〜。」

美神が玄関の方へと向かって行く。
外に誰がいるのかと、穴を覗き込むとそこには学生服の見知らぬ青年。

「あ! はい、おまたせしました!」

とりあえず、外面用の態度で玄関を開く。

「お邪魔します…ん? あぁ、君が先生のお子さんの令子ちゃんか、よろしく、僕の名前は西城輝彦っていうんだ。これからよろしくね。」

西条は笑顔で手をさしだし美神と握手をする。

「は、はい!」

ちょっと焦りながらも、しっかり手を握り返した後、リビングの方へ案内する。

「あら、ようこそいらっしゃい、西条くん。」
「はい、今日はごちそうになります、先生!……こちらのお子さんは?」

西条が言っているのはもちろん横島の事。

「うふふ、私の兄弟弟子の横島忠夫君よ。」
「え!? 先生の!?」

確かに立場上横島は美智恵の兄弟弟子になる。

「そうか、という事は君もGSを目指しているのか? よろしく。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」

軽い自己紹介も終わった後、
しばらくしてから唐巣も訪れる。
ここでも、西条と唐巣が互いに名乗り合う。

「いや〜、遅れてすまなかったね。」
「神父、どうぞ席についてください。」

皆で、いただきますをし、夕食を食べる。
食卓で飛び交う世間話。

「……そういえば、西条君は今年GS試験を受けたんだって?」
「はい、残念ながら次席でおわっちゃいましたけど…」

毎年1000人以上の受験生が居る中、次席を取るだけでも十二分に大した事なのだが、西条は首席を取れなかった事を悔しがっていた。

「次席でも、すごいと思います! もっと早くからママが教えてたら、必ず首席になってたと思うな〜。」

美神は西条を褒め讃えるが、ここで、横島が美神に対して微妙な違和感を感じる。

「そうだね、そうなれるように、これからも宜しくお願いします!」
「はい、こちらこそ。」

その後も、美神がやたら西条に対して積極的に話しかけているのが横島には印象的に残っていた。

「それじゃ〜そろそろ僕らはおいとまするかな?」

夕食も終わり、しばらく談話してると唐巣が時計を見ながら切り出す。
玄関の方へ向かう横島と唐巣、そしてそれを見送る美智恵。

「それじゃぁ、今日はごちそうになったよ、美智恵君。」
「ごちそうさまでした〜。」
「いえ、こんなものでよかったらまた来てください。」

笑顔で美神家を後にする二人。

「ふ〜、今日はおいしかったね。」
「……うん。」

夜空には無数の星が光っている。

「……忠夫君、何かあったのかい?」
「別に。」

横島の様子が夕飯の際に、少しおかしかった事は分かっていたが、大体理由は想像出来る。

「そうか……忠夫君、一つ良い事を教えてあげよう。」

話してくれるなら、相談に乗るし、話してくれないというのは、それは少し寂しいことだが、

「悩むという事は良い事なんだよ。人は悩みを持ち、苦しみ、悲しみ、だけど、それに向き合って成長して行くんだ。」
「う、うん。」

今はどんどん悩んだ方がいい。
勉強や運動、恋愛や友達関係、そして、将来の事。

「これから先、色々な壁が立ちふさがってくると思う。中には、一人では超えられない壁だってあるかもしれない。だから、僕からのお願いを聞いてくれないか?」
「え? どんなお願い?」

唐巣は夜空を見上げ、そして横島の事を見つめる。

「一人で越えられない壁だって、仲間がいれば超えられる。それを忘れないで欲しい。」

すでに横島は、過酷な運命の渦の中に飲み込まれている。
そこから救い出す事が一体どれだけ大変か。

「君にもいずれできるはずだ……」

だから、少年には必要なんだ。
共に戦う者が。共に抗う者が。

「------かけがえのない戦友(仲間)というものがね。」


------上を向いて歩いていこう その6・完------


あとがき

とりあえず、約2年話がとびました。
原作までまだ10年近く……先は長い。

あの横島と美神をうまく動かしてくれる人をこの人しかいない!って感じで、早乙女好雄くんにゲスト出演してもらいました。
女好きの早乙女好雄に感化され、横島はその道へと……

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