絶体絶命、これが今の状況を示すのに最も適した四文字熟語であろう。そう、三人は今正に絶体絶命なのだ。
切り抜けられる可能性は時を増すごとに磨り減っていく。それでもあがき続けようとする根性娘もいるようだが……
「パスポートなら此処に在る出ちゅ!」
「偽造したパスポートがな」
イギリスではわざと発射時刻ギリギリでカウンターへ行き、急いでいるよう見せかけて乗り切った三人ではあったが、日本の警備は厳重である。
パスポートの偽造もばれて、それでも尚食いかかる少女マウスの姿こそ密入国者には見えないが、警察にはそれほど関係がなかった。
「あれ? ……もちかちてこのパスポート……やっぱり! 飛行機に乗る時持ってた奴と違いまちゅ! 盗まれたんでちゅ!」
挙句の果てにはこんな情けなさ過ぎる発言までマウスの口から飛び出した。
だが、これはカモフラージュである。マウスが狙っている嘘は、まだ別にあるのだ。
「ほら、今なら罰せずに見逃してやるから、君たちは早くイギリスへ帰るんだ。もう出てしまう頃だぞ」
そこへきて、マウスがため息をついた。これは演技であり、マリアに対するサインでもあった。
マリアはそれを見て、予め用意していたあるものを解き放つ。それは小さなポットに押し込まれた、『手作り』低級霊だ。
低級霊は空へと舞い上がった後、マウスに向かって突撃してきた!
「遅い!」
ここで少女マウスが動く。長袖の服の内ポケットに隠してあるマウスブラスターが一瞬で敵に向けられ、引き金が引かれた。
「スナイプ!」
マウスの声に合わせて、魔力の弾がまるでスナイパーライフルかのような高速回転を見せながら低級霊を貫いた。
先程とは一転、マウスは真剣そうな表情(演技)を警備員に向けて、口を開く。
「本当のことを言いまちゅ。後ろにいるマウチュのお母さんはイギリスでGSをやっていて、マウチュもそのお手伝いをしていたんでちゅ。
それで昨日私たちは、ある大きな仕事を引き受けまちた。それも途中まではうまく行ってたんでちゅけど、マウチュがミスをちてちまって、
敵の集団に追われる身になったんでちゅ。それでもちもの時にと渡されていたパスポートを使って日本へ逃げてきまちた。
でもまちゃかそれが偽造品だったなんて……すいまちぇん! 本当にすいまちぇんでちた!」
(うぬ。マウスが堂々と嘘が付けるようになってわしは嬉しいぞ!)
(黙ってろでちゅ)
内心そんな会話を繰り広げながら、マウスが頭を下げる。そして密かに、手作り低級霊を解放させた。
「おくさん、本当ですか?」
二人いる警備員のうちの一人が、そうマリアに問いかけた。マリアは警備員二人の背後を見つめるだけで、何も言わない。
「どうなんですか、おくさん?」
やはり無言であったが、そこでマリアの瞳が急にきりっとした鋭いものへと変貌した!
「危ない!」
マリアが先程のマウスのように懐から霊銃(マウス製特殊弾入り)を取り出して警備員たちの方へ向け、発砲する。
二度引き金が引かれ、警備員の背後に回っていた二体の手作り低級霊が消滅した。
「おいおい、どうやらマジみたいだな……」
やれやれといった風に相棒に話しかける右側の警備員。左側の方は、いきなりの銃撃に放心状態である。
その時、警備員が持っているトランシーバーに連絡が入った。その内容は警備員だけでなく、マウス達をも驚愕させる内容。
『突然町に悪霊の集団が現れた。至急GSを呼んだが、このままじゃ市民が危ない。非難させるから手伝ってくれ!』
マウスの脳内に閃光が走る。嘘が本当になってしまうかもしれないという状況、場合によっては身元を調べられるかもしれない。
つまり、即急に行動を起こさなければいけなくなったのだ。これは場合によってはこの上ないチャンスにもなるのだから。
「わたち達が向かいまちゅ! やらちぇてくだちゃい!」
マウスが警備員の腕を掴んで、上目遣いにそう言う。しばし迷ったような警備員であったが、数秒後、首を縦に振った。
「急がないとそれだけ被害が大きくなる。頼んだぞ」
「! ハイでちゅ!」
マウスとマリアが駆け出そうとする。が、
「それと……」
何か他にも言うことがあるようである警備員に、マウスが振り向く。
「最近はロボットでも子供が生めるんだな」
「!」
見抜かれていた嘘を指摘されて、マウスの心臓が一度大きく動いた。得体の知れない警備員である。
「だけど、今は君たちが便りなんだ。身元は何であれ、実力はあるらしいからな」
警備員の男はポケットからタバコ(いいのだろうか?)を取り出して、ライターで火をつけ口にくわえた。ふいに、背中を向ける。
「市民の命、預けたぜ」
「……はいでちゅ!」
マウスとマリアが今度こそ走り出す。放心状態の相棒にため息をつきつつ、「決まったぁ……」などと警備員の男は握りこぶしを作った。
その頃、市街地内で霊の集団から逃げ回っている青年がいた。
「助けてーーー! 美神さぁぁん!」
なんとも情けない声を上げる青年はその名を、横島忠夫と言う。
後書きっぽい雑談
やはり開始早々から読者を引き込めるSSはいいなぁと思いながら『壱』の更新です。
前回同様少し短めですが、区切りは付け所を間違うと読み疲れの原因になるので気を使っています。
手ごろに読めて面白い、をコンセプトにやっていこうと思っているので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
レスのご返答っぽい雑談
ZXさん
試作型です。プロトパピリオでございます。
今回すごい警備員が登場しました。この後も、やたらすごい名無しキャラクターが何人か登場する予定です。
ZEROSさん
僕が書くSSはオリジナル色が非常に強いです。
でもそれがわかるほどには書いてきた経験があるので、ある程度なら質の保障もできるつもりです。
titoさん
原作とは異なる六年間の間、マリアは異なる成長を遂げています。
わかりやすく言えば、より人間らしくなったという感じです。もちろんギャグも言えます。
.さん
設定だけにしないよう頑張ります。
ちなみに次回はけっこう熱い(?)感じに出来るような気がします。
somosomoさん
カオスは爺馬鹿です。今回はストーリー上出番台詞一つだけでしたが、これからいろいろな『レッドカード』を見せてくれるはず……。
次回はマウス嬢と横島の独壇場になる予定です。あくまで主人公はマウス嬢ですが、原作同様横島も主人公クラスではあります。
DOMさん
仰ったとおり、この後マウス嬢がやりたい放題暴れてくださいます。引っ掻き回すどころが完全に捻じ曲げちゃってくれるので、ご期待ください。実は裏で『横島をロリコンにする』計画を考案中だったりしてます。