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「マウチュ! 天使と悪魔な女の子『零』(GS)」

缶コーヒーのボスの手下 (2006-12-17 23:03/2006-12-18 00:36)
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「完成……じゃな」
「イエス、ドクター・カオス」

外が水の落ちる音と、目に写る空を一瞬だけ二つに割ることのできる光が支配している雨の日のこと。
明かりの目立つ暗い部屋の中で、ヨーロッパの魔王と呼ばれた男が目を輝かせる。彼の発明が、完成したのだ。
そこら辺に落ちていそうなガラクタばかりを集めて作られ、絶対に必要であったピースも埋められた装置は淡く光っている。

「じゃが……」

数秒後、輝いていたはずの男の瞳はある種深刻な色を出し、その光を失わせた。理由は明確に存在している。
それは彼が今実行しようとしている事、魂の入れ替え操作が原因だ。
別に装置に問題があるわけではない。ガラクタといえど設計は完璧で、実際にカエルとネズミの魂を入れ替えるのに成功してもいる。
なら何が問題であるのか……それは男、ドクター・カオスが入れ替わろうとしている体であった。
見た目は年齢九歳前後としか言いようのない若さの、それも魔族の女の子。いろんな意味で、問題がありすぎる。

「やはり、別の体を捜すべきではなかろうか?」
「応えはノーです、ドクター・カオス。あなたが、魔族の男性の体を獲得できる可能性は、一パーセント以下です」

カオスに対する、彼の造り上げた最高傑作の返答は確かだ。
カエルやネズミならともかく、数百年の時を生きた男、ドクター・カオスの魂を受け入れられるのは、神族または魔族でしか有り得ない。
だからこそ装置に取り込まれている魔族の少女の姿があるのだが、少女の体を手に入れたのは奇跡に近い出来事によるもの。
二度目は到底有り得ない、そんな奇跡だ。カオスが経験した何よりも奇怪な出来事であったと言えるだろう。
カオスが魔族の体を獲得できた理由、ずばりそれは、道端で拾っただけ。幸運も幸運、奇跡だった。
しかも少女はその後、安易に魂を入れ替えられる状態、つまり仮死状態に陥ったのだ。入れ替えを行うのには最適である。
またカオスにとって、数千年の時を生きることのできる魔族の体は最適だった。女の子であるという条件を除けば、最高の体に違いない。

「……そうじゃな。始めようぞ」
「イエス、ドクター・カオス」

カオスは服を脱ぎ、裸身の少女と対になる器、カオスポットに入った。正面のポットに魔族の少女の体がある。
灰色の髪のショートカット、華奢な胸や腕や足。カオスの心は、強く動揺していた。

「始めます、ドクター・カオス」

カオスは無言で頷く。それを見たアンドロイド、マリアが機動スイッチを押す。
少し五月蝿い機械音が鳴り始め、ガラクタの装置から熱処理による煙が噴出す。ポットの中に、半透明の水溶液が流れ込んできた。
カオスは目を問じ、大きく息を吸い込む。その後全身が水溶液で満たされ、カオスに一分間ほどの無呼吸を強いられる。
その間カオスと少女の魂が完全にリンクされ、入れ替わるための動作へと装置が移行しようとした時、事件は起こった。

(!? まさか!)

なんと、仮死状態であった少女の意識が此処に来て回復したのである。
それまで無のままだった繋がっている感覚が、急に処理しきれないほどの強大な威圧感へと変わり、カオスは息を吐きかけた。
絶え間なく少女から送られてくる、強い存在への執着がカオスを支配する。だがしかし、装置は止まらない。
遂にカオスの魂が体を離れ、少女の体内へと踏み入ろうとするが、少女の魂はその場を離れようとしなかった。
ガラクタの装置は止まらずカオスの魂を押し込もうとしている。カオスはここで、諦めてしまう事を選んだ。
何に対して諦めるか、それは、魂を入れ替えて少女の体を支配することへの諦めだ。理由は単に、少女の魂が出てこないからではない。

(生きたいのならば、生きてみるが良い!)

カオスは少女の、自分自身であろうとする意思に負けたのである。途端、少女の入っているポットが砕け散った。
意識が戻り、鎖から解き放たれた少女がゆっくりと顔を上げる。その視線の先で、カオスの魂が装置の負荷により消滅しようとしている。
それが解ったからなのか、少女は手を伸ばして、カオスの魂を掴み、飲み込んだ!
覚醒した少女の体内。そこに踏み入ることを許されたカオスの魂は、ゆっくりと少女の魂の前まで移動したが、それだけだった。
カオスに少女を支配する気は、もうない。ただそこでじっと、少女の行く末を見届けるべく漂い続けること、それがカオスの選んだ道である。
カオスにとって、少女の体内は非常に心地が良かった。老いぼれた肉体の中では思い出せなかった数百年の全てが、今では手に取るように思い出せた。

(世代交代じゃな)

これが、魂を満たすことの出来たカオスの抱いた答え。生きる希望と新しい夢こそが、カオスの鎖を解き放った希望である。

(この際、少女を跡継ぎに育ててみるのも良いかのぉ?)

加速状態に入ったカオスの脳が自問自答を繰り広げる。勝敗は、圧倒的な戦力差により片が付いた。

(新たな魔王の名は……カオス二世……カオス供帖弔Δ未ァ

遂には少女の命名にまで思考が手を出したとき、事件は起こる。とはいっても、ただネズミの鳴き声が響いただけなのだが。
しかし、その鳴き声がカオスに電波を届けてしまったのである。少女とマリアの、衝撃の出会いの最中であるにも関わらずだ。

(チュウチュウ……カオチュウ……カオチュ……は、流石に幼すぎるじゃろうか?)

ねずみの存在がカオスの脳を駆け巡る。そして彼は、一つのひらめきに達した。

この日から、ある種生まれ変わった少女とアンドロイド、そして爺との生活が始まったのである。
少女の名はマウス。いつか魔女か女王となるであろう少女の名は、ドクター・マウス。


それから、六年の歳月が流れる。マウスは、少しだけ背が伸びた。
マリアに愛を与えられ、カオスに病的な愛(レッドカード)を与えられて、魔物としてはすくすくと育っている。それは事実なのだが……。

「なかなか思いつきまちぇんねぇ……」

場所は飛行機の中、マウスはおもちゃのような派手な柄の銃を片手に、考え事をしていた。
お題は、その華奢な腕に握られている銃『マウスブラスター』のパワーアップに関するネタの考案である。

「魔力による弾の形成以外で威力を増大させられる方法、現実的に可能な範囲で何かないでちょうか?」

マウスブラスターは現時点でのマウスの最高傑作であり、それを改良するのが彼女は大好きだ。
六年の時の中でマウスは、立派なマッドサイエンティストに成長してしまったのである。

(やはりわしはチャージ式にするのが良いと思うのじゃが?)

「爺は黙ってるでちゅ。マウチュはもっと効率のいい方法を考えてるんでちゅ」

自分の名をマウチュと読んでしまうクセのあるマウスは、自分の中で生きているもう一つの魂、カオスに対してあまり容赦がない。
信頼しているからこそではあるが、それ以上に大きな理由は……

「ドクター・カオス。男性的な幼い考えで、マウスの邪魔をするのはやめて下さい」

マウス以上に、マウスの隣に座る女性アンドロイド、マリアが容赦しないからだ。

(……世代交代の波は高いのぅ)

「言葉で表現するなら、あなたには一生乗れないビッグウェーブです。ミスター・カオス」

もはやいじめの域に達している言葉によって、カオスの心にまた一つ傷が付く。が、

「大丈夫でちゅ。おじいちゃんにはマウチュが着いてまちゅから、ビッグウェーブも楽々でちゅ!」

最後には必ずマウスによる優しい言葉が投げられるため、カオスは傷付くどころが幸せ最前線であった。
幸せなのはマウスも同じである。大好きな家族と共に向かう日本に、彼女は心を躍らせているのだ。
イギリスを離れて三人が訪れるのは、今最も栄えている口の一つである日本。
偽造したパスポートによる密入国を行っていることなど、忘れてしまうほどにマウスはドキドキしていた。


ネズミ、マウス。少女にその名が与えられたのは、果たして運命であったのだろうか?

この世のどこかに潜んでいるだろうある男ならば、マウスのことをこう呼ぶだろう。『失敗作』だと。


後書き的雑談会

どうも、始めまして。自動販売機のあったか〜いの飲み物が熱すぎて飲めない缶コーヒーのボスの手下です。

さてさて、いきなり付箋張りまくりなわけですが、カンの良い方なら直ぐにあることに気付いてしまうんではなかろうと内心ビクビクしております。あんまり気付かれるとまずいんです。

近作は、GS物としては非常に珍しい、横島が主人公じゃない再構成ものです。
明らかにパピリオなマウスの口調が何を意味しているのか、これは簡単にバレてそうなので触れないことにします。
言ってみればマウスはオリキャラというよりも、IF(もしも)の世界に生まれる可能性が形を成した存在です。
ですから彼女は、原作と異なる『新しい展開』を生み出す製造機のような活躍をしてもらう予定です。
最終的には、原作とまったく異なる形でクライマックスを迎えることになるでしょう。
それと最後に、マウスご一行が日本を訪れたのは、原作でカオスが日本に来るずっと前です。この年代設定が最初の改変キーワードなのです。

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