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▽レス始

「二人三脚でやり直そう 〜第三十一話〜(GS)」

いしゅたる (2006-12-10 00:32)
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「ちょっ……おキヌちゃん、それ本気!?」

 煌々と輝く満月の下。
 突然のおキヌの言葉に、横島は見るからに困惑していた。
 しかし、その横島の質問に、おキヌは迷うことなく「はい」と頷いた。

「霊能力があって、GS免許未取得者で、メドーサに顔が割れていない……横島さんとピートさんが候補から外れたなら、私しか残ってないじゃないですか」

「危険だ! メドーサのいる場所なんだぞ!」

「だからです」

 声を荒げる横島に、おキヌはその目を真正面から受け止め、きっぱりとした態度で答えた。

「横島さんの言う通り、メドーサは危険です。でも、その手元にはあの人たちがいるんです」

「そりゃ……そうだけど……」

 決然と言うおキヌに、横島は彼女の言いたいことを悟り、言葉に詰まった。

「放ってはおけないのは、横島さんも一緒でしょう? もう知り合ってしまったんですし、何より『以前の結果』を知っている以上は尚更のことです。そして、横島さんはメドーサに顔が割れてるから白龍会に行くことはできない。だから、行くなら私しかいないんです」

「そこまでして潜入調査にこだわらなくてもいいじゃないか! それでおキヌちゃんが危険に晒されるのは……!」

「今回だけじゃないんですよ?」

「……え?」

 台詞を遮っておキヌが口にした言葉は、横島はすぐには理解できなかった。

「わかりきってることじゃないですか。危険なんて、今回に限らずこれから何度も訪れるんだって。この業界にいる限りは当たり前のように出てくる危険から、魔族の関わってくる大きな危険まで。
 そして、最終的には――魔神と向き合う絶望的な危険までも」

「…………っ!」

 おキヌの言ったことに、絶句する横島。彼女は今目の前にある危険だけでなく、最終的に自分たちが立ち向かうべき危険のことまで見据えて言っているのだ。
 そしてそれは、おキヌが自らの意思で、その危険に立ち向かうと宣言しているということだ。

「一緒に逆行してきたからには、私にも小さくない役割が……他の誰にも出来ない役割があるはずです。その役割は、これから起こることを考えれば、危険の付きまとうものでないはずがありません。
 ですから、メドーサと係わり合う程度の危険は……乗り越えられなければ、その程度の能力もないようでは、なんにもならないじゃないですか」

「けど……」

「……そんなに私が信用できませんか?」

「!」

 どこか悲しそうに苦笑するおキヌの顔を見て、横島は一瞬、二の句を告げられなくなった。その一瞬で、彼女はなおも言葉を重ねる。

「私一人じゃ危険は乗り越えられないと思ってますか? ……そうですよね。横島さんがそう思うのは当たり前です。だって私、ネクロマンサーの笛がないと何もできないんですから」

 自嘲気味に笑い、「でも、それじゃ駄目なんです」と続けた。

「……そう。駄目なんです。
 横島さんが、私を守ろうって一生懸命になってくれているのは知っています。そのために傷付いて血を流したことも、一度や二度じゃないですから。
 それでも横島さんは、私を守るのをやめようとしない。
 だから私は、頑張らなきゃいけないんです。横島さんに守られてばかりの弱い私から、横島さんの助けになれる強い私になるために。横島さんの流す血が、少しでも減るように。
 ……隣に立てるまでとは言いません。守ってもらわずに済むぐらいとも言いません。ただせめて、同じ戦場に立てるぐらいには強くありたいんです。もう、横島さんが月に行った時や、アシュタロスの時みたいに、同じ戦場に立つことさえ許してもらえないのは――嫌ですから。
 だからこの危険にも、あえて立ち向かって行きたいんです」

「おキヌちゃん……」

 おキヌの決意を前に、しかし横島はいまだ困惑していた。

 知らなかった――というわけではない。自分のことに対し、おキヌが何を考えていたかは……彼女の立場を自分に置き換えてみれば、ある程度は予測もつくというものだ。
 が、だからといって、その主張を丸々受け入れたくはなかった。戦う場において、どこかしら危うさの残る彼女を見てると、どうしても心配が拭えないのだ。
 それに――

「おキヌちゃんはおキヌちゃんで、誰にもできない大事な役割があるじゃないか……」

 彼女はわかっているのだろうか。それがどれほど重要なものか。

「おキヌちゃんは、事務所の掃除をしていればいい。俺たちが帰ってきた時のために、美味しい料理を作ってくれていればいい。たまにでいいから、俺の部屋を片付けに来てくれればいい。
 おキヌちゃんがそうしてくれているから、俺も美神さんも安心して戦いに出られるんだ。帰れる場所があって、そこにおキヌちゃんがいる。だから、俺たちは絶対に帰ろうって気になれるんだ。
 おキヌちゃんは、俺たちの帰る場所を守る……それでいいじゃないか」

 彼女は横島と美神にとって、絶対的な『日常の守護者』だ。悪霊の除霊を始め、魔族との戦いまでも含めた明らかな『非日常』。そこから『日常』に戻る、そのための場所を守るのが、彼女が果たすべき――彼女しか果たせない役割だった。

 ――だが。
 横島がそれを主張し続けるのは――

「本当は……横島さんもわかってるんじゃないですか?」

 おキヌの言葉に、横島は一瞬ビクリと体を奮わせた。

「今この世界で、これから起こることを知っているのは二人だけです。その片割れの私が、起こることに何の行動も起こさず、ただ家事だけをやってるなんて……そんなこと、できるわけないじゃないですか。
 横島さんが美神さんのサポートという『以前の役割』をこなしながら、同時に『以前と同じ失敗』を繰り返さないように頑張っているなら……私も、『以前の役割』だけじゃない何かをしなければならないんです。
 認めてください。もう、前と同じ役割だけをやっているわけにはいかないってことを。一人で何もかも背負おうとしないでください。私もいるんですから」

 ――欺瞞だった。横島の、自分に対する。

 おキヌの言う通り、全部わかっていたのだ、最初から。
 逆行したのが、自分一人ではない時点で。

 おキヌにも危険を承知で手伝ってもらえれば、より確実に迫る危険を乗り越えることができるというのに――そこから目を逸らし、逃げていた。危険の及ばない場所からサポートしてくれるだけで十分だと、自分を欺き続けていた。
 この何もかもが似て非なる世界で、唯一自分の知っている通りの人がいなくなることが……怖かったから。

(……ああ、そうか)

 そこまで自覚し――ふと気付いた。

 逆行してきて、今まで歩んできた道の何もかもが、全て無かったことにされたと……そう思っていた。
 だが、それは間違いだったのだ。確かに無かったことにされたことはあまりに多いが、それでも無かったことになっていないものが、一つだけあった。

 それが、目の前の少女だった。

 考えて見れば、彼女はいつだって横島や美神の傍にいた。力がなく、逃げることしかできなくても、それでも一生懸命頑張って二人をサポートしていた。彼女がただそこにいるだけで、何度も勇気付けられた。

 ――横島の知っている通りのそんな彼女が、今目の前にいる。
 そして、変わらぬままの一生懸命さで、横島の役に立ちたいと言っているのだ。


 ならば……横島にとって、言える言葉は一つしかない。


「……わかったよ」

 横島は「ふぅ」とため息をつき、彼女の意見を尊重した。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第三十一話 青い思い出は猫の楽園に〜


 翌日、銀一は仕事があるというので、朝になったらマネージャーと共に早々に下山した。

「協力できることあったら、いつでも連絡してくれてええで」

 帰り際、そう言ってプライベート用の携帯電話番号を書いたメモを、横島、美神、おキヌにそれぞれ渡した。
 その三人は、竜神王が帰ってくるのを待つために妙神山に残っている。小竜姫が言うには、天龍の事件のこともあって、会議が長引いているのだそうだ。
 待っている間、ただ何もせず時間を潰すというのももったいないということで、小竜姫は横島に稽古をつけると言い出した。横島は渋々ながらも承諾し、いつもの修行用の人民服に着替え、小竜姫と共に修行場へと行った。
 残ったのは美神とおキヌだが、おキヌはそこで、自分が白龍会に行くことを話した。

「……ま、いいわよ」

 あまり気が進まない様子ではあったが、意外とあっさり承諾をもらえた。
 聞けば、おキヌを潜入させることは元々考えていたらしい。だが横島と同じで、その危険性からおキヌには行ってもらいたくないというのが正直なところだったそうだ。
 それでも本人が行く気になったのなら、これも仕事のうちと割り切って考えるようにしていたとのこと。

「けど、危なくなったらすぐに逃げなさいね。死んじゃったらなんにもならないから」

 それでも心配なのは変わりないらしく、そう念を押す美神。おキヌは「わかってますって」と苦笑しながら答えた。

「けど、そうすると学校にも連携取ってもらわないとね」

「え? なんでですか?」

 ぽつりとこぼした美神のつぶやきに、おキヌはきょとんとした様子で訊ねた。

「……GS試験までそれほど時間はないわ。白龍会がメドーサと繋がっているのなら、そこに手勢を送り込むことも十分考えられる。場合によっては、おキヌちゃんも受験させられることになるかもしれない。
 けど六道女学院は、基本的に在学中の受験を認めていない。しかも白龍会は住み込みが基本だって話だから、潜入捜査中は学校に行けなくなる」

「えっと……つまり、便宜を図ってもらうってことですか? 休学とか、受験とかの」

「そういうこと。ま、それに関しては私の方がなんとか話を通してみるわ。六道のおばさまを相手にするのは正直勘弁してもらいたいところだけど、小竜姫さまの名前を出せば悪いようにはならないでしょ」

「ありがとうございます」

 気の滅入る仕事を前に苦笑する美神。おキヌはそれを引き受けてくれる美神に、ぺこりと頭を下げた。

「いいのよ。危険に送り出すのはこっちの方なんだもの。
 ああそうそう、連絡役も必要ね。調査の途中経過をこっちに伝えるパイプが欲しいわ」

「連絡役……ですか」

「そう。そのあたりは、近畿クンにでも手伝ってもらおうかしら? 役作りのための見学って名目なら、一、二回ぐらいは訪問しても不自然じゃないでしょ」

「はぁ……でも、私が言うのもなんですけど、危険じゃないんですか?」

「近畿クンは売れっ子の芸能人だから、その辺の心配はいらないでしょ。もし白龍会で彼に何かあったら、真っ先にマスコミ関係から注目集めるだろうし。メドーサにとっても、それは不都合なはずよ」

「そういうものなんですか?」

「そういうものなの。……ところでさ」

 その話が終わった途端、美神は急に声のトーンを落として話題を変えてきた。どことなく、目が剣呑なものになっている。

「はい?」

「おキヌちゃん、私に何か隠し事してない……? 横島クンと一緒に」

「……やっぱりわかっちゃいましたか?」

 あっさりと認めるおキヌに、美神は意外とばかりに鼻白み、それまで出していたわずかな圧迫感を霧散させた。

「隠してたわりには、あっさり認めるわね」

「だって美神さんですもの。それに、私も横島さんも、隠し事が得意なわけじゃないですし」

「ふーん……で? 話してくれるの?」

「ごめんなさい。今はできません」

 美神の問いに、おキヌは頭を下げ、やんわりと拒絶の意を表した。

「でも、いつか必ず、話せる時が来ると思います。美神さんはもどかしいかもしれませんけど……それまでは、我慢してもらっていると助かります」

「……何よ。そう正直に言われちゃうと、追求する気にもなれないじゃない」

 美神は不満げにぼやくが、その顔には苦笑が浮かんでいる。それっきり、その話は追求されることはなかった。


 その後、暇を持て余した美神も小竜姫の修行を受けると言い出し、おキヌも見学としてついて行った。
 やがて、修行場からは小竜姫とおキヌが出てきて、疲労でくたくたになった横島と美神がその後ろを追従していた。

 竜神王が戻ってきたのは、折り良くそんな時だった。彼はどことなく天龍を彷彿とさせる大仰な態度で美神たちを労うと、ヤームとイームに正式な辞令を、美神には神通ヌンチャクを下賜した。
 美神が望んだのは、強力な武器である。竜神族の武器が貰えるならば、大幅なパワーアップを見込めるということだろう。事実、美神が貰った神通ヌンチャクは、人間に与えることを前提として作られた物とはいえ、竜神族の作である。そこらに出回っている武器よりは遥かに強かった。
 使いこなすには熟練を要する物ではあるが、道具を使うことに高い才能を持つ美神のこと、使いこなすまでにそう時間はかからないであろう。ちなみにこの神通ヌンチャク、平行未来において香港で小竜姫から渡されたものと同一であるが、あの時は緊急で貸してもらっただけなので、後で返していた。

 そしておキヌだが、彼女は今回何もしていないと主張し、褒美を賜ることを拒否した。しかしこの場において何も与えないというのも竜神王の沽券に関わることなので、彼は代わりとして、おキヌの頭に手を当てて霊力回路を少しだけ広げた。霊力そのものを上げたわけではないが、これにより霊波の出力が上がったことになる。
 ――水道の蛇口を回して水量を増やしたようなもの、と言えばわかりやすいかもしれない。

 そして、横島への褒美であるが――

「明日の午前八時ぐらいで良いか?」

「大丈夫っスよ」

 訊ねてきた竜神王の言葉に、横島は礼儀も何もあったもんじゃない口調で答えた。横で小竜姫が青褪めていたが、竜神王は気にしてないとばかりににっこりと笑い、頷いた。

「……まったく、何考えてんのかしらね……」

「私にはわかりますけど」

 横島の思考が読めずに不満顔の美神に対し、おキヌは得意げに微笑んだ。

「横島さんは、女性と子供には特に優しいんですよ」

 それが答えの全てだとばかりに、その微笑を満面の笑みに変えた。


 ――そんなわけで、下山して一夜明けた翌朝――

 横島と小竜姫は、吊革に掴まって電車に揺られていた。
 その正面の座席には、スーツを着た中年紳士と、俗界の子供服に身を包んだ天龍が座っていた。横島はのほほんとしていたが、小竜姫はガチガチに固まっている。

「しかし、余に望む褒美が、『天龍を連れて一日付き合うこと』とは……このような褒美を望んだ者は初めてだ。何を考えておる?」

「うむ。それは余も聞きたいところだぞ?」

 中年紳士の問いに、天龍も乗ってくる。しかし横島は、「ま、すぐにわかりますって」と笑うばかりだ。
 その横の小竜姫といえば、「りゅ、竜神王陛下の道行きに、こんな雑然とした乗り物を使うなんて……」などと青い顔でブツブツ呟いている。
 そう――目の前の中年紳士こそ、竜神王その人だった。朝八時きっかりに横島の家を訪ね、その足でここにいる。
 九時前の電車の中は人が多く、しかも駅に停まるたびに増えていっていた。小竜姫は、あまりの人込みにいつ竜神王が不快感を表さないか、気が気でなかった。
 しかし、その竜神王当人といえば。

「ふむ……しばし来ておらぬうちに、俗界は随分便利になったものだな」

 と、人込みなど気にした様子もなく、電車という交通機関に対してしきりに感心するばかりだった。
 やがて――

「ここで降りますよ」

 横島がそう言うと、電車が停まった。増えに増えて限界ぎりぎりまで乗り込んだ乗客は、その駅で一斉に降りる。横島たちも、その人々の流れに従い、電車を降りた。
 階段に殺到し、狭いホームにまで溢れ返る人込み。一行は適当なところで小休止を取り、その流れを見送る。
 やがて、ほとんどの人間がいなくなった。残っているのは、数えるほどしかいない電車待ちの人間たちだけだ。

「じゃ、行きましょうか」

 そう言った横島の先導で、階段を下りて改札口を通る。そのまま一行が辿り着いた場所は――

「よ、横島! ここはまさか!」

 電車を降りた人間のほとんどがここを目指していたのであろう。入り口にぎっしりと人間が群がっていたその施設の威容を見た天龍は、喜色を顔いっぱいに浮かべ、キラキラとした目で横島を見上げた。竜神王と小竜姫は、「ほう」だの「はぁ〜」だのと感嘆の声を上げている。
 横島は、期待の目を向けてきた天龍にサムズアップすると――

「おう。ここが、お前が行きたがっていた『東京デジャブーランド』だ!」

 答えたと同時、午前九時の開園時間になったのか、人込みが急に動き始めた。


「お、おお! ひ、人がいっぱいじゃ! 皆、楽しそうじゃのう!」

「こらこら天龍。あまりはしゃぐと、迷子になるぞ」

 四人分の一日フリーチケットを購入し、入場ゲートをくぐった途端、天龍が騒ぎ出した。竜神王が、それをやんわりとたしなめる。
 ちなみに購入代金は、全て横島持ちである。彼の収入からしたら洒落にならない痛手なのだが――まあ、お礼に小判の一枚でも貰えれば、たったそれだけでも十分以上の黒字であろうという打算があったりする。
 いわゆる、先行投資というやつだ。本当に小判が貰えるかどうかはわからないが。

「ここが……殿下の言ってたデジャブーランドですか」

 横島の隣に立つ小竜姫も、初めて見る日本最大のテーマパークに、戸惑いを隠せない。彼らの目の前では、物珍しさにあっちこっち飛び回る天龍に、竜神王が見失わないよう付いて行っている。

「あの……横島さん、聞いていいですか?」

「ん? なんです?」

「いくら殿下がここに来たがっていたからって、なんで横島さんが自分の分の褒美を使ってまで、殿下の希望を叶えようとするのですか?」

「変ですか?」

「変……というより、意外に思いましたので。私はてっきり、最近GS試験に向けて力を求めていたようでしたので、美神さんのように何かの武具を要求するかと思ってました。
 あるいは……そうですね。横島さんですし、惚れ薬とか?」

 ――ピシリ。

 小竜姫が何気なく言った言葉に、横島が固まった。
 それを見て、小竜姫が「あ、いくらなんでも感想が素直過ぎたかも……」などと軽く後悔したが――次の瞬間。

「その手があったかあああああっ!」

 往来で突然、両手で頭を抱えて絶叫した。

「アホ! アホ! 俺のアホ! この世の全ての男の夢が手に入るチャンスやったんやないかー! やり直しを要求するーっ!」

「……落ち着いてください」

「のうあっ!?」

 ざっくりと脳天に神剣を突き刺され、ぴゅーぴゅーと血の噴水を噴出しながら動きを止める横島。しかし小竜姫は気にした様子もなく、何事も無かったかのように話を続ける。

「それで最初の質問に戻りますが、なんでこんなことを? 自分に対する褒美という形で殿下の望みを叶えるのも不思議ですが……そもそも、殿下が狙われたばかりだというのにこれは、少々軽率ではありませんか?」

「や、そりゃ心配ないっしょ」

 眉根を寄せる小竜姫に、横島はあっけらかんと答え、既に遠ざかりつつある竜神王の背中に視線を向けた。ちなみに頭の血は、なぜか既に止まっている。

「だってほら。あそこに最強の護衛がいることだし」

「……確かに、竜神王陛下が傍にいる時に刺客が来たりはしないでしょうけど……」

「それに第一さ……小竜姫さま、周りを見てくださいよ」

「?」

 言われ、小竜姫は周囲を見回した。カップルらしき男女の二人組、友人らしい連れ立った数人の女性、修学旅行か何かだと思われる学生服の集団……その中でも特に、小さな子供を連れた親子連れが多数見受けられる。

「神界じゃどーだか知らないけど……少なくとも俗界では、天龍ぐらいの子供は親に遊びに連れてってもらうのが定番なんスよ」

 ともすれば独り言にも取られかねない、ぽつりとした台詞。それを耳にした小竜姫は、驚いたように目を見開き、横島を見た。

「ま、子供は笑ってるのが一番ってことで」

 視線を向けられた横島は、そう言って小竜姫に悪戯っぽい笑みを向けた。

「横島さん……」

「あ、天龍たちを見失いますよ。行きましょう」

「は、はいっ」

 横島の言葉に、天龍と竜神王の姿が雑踏に消えそうになっていたのに気付き、小竜姫は慌てて駆け出した。

 ――正直に言えば、横島は少し考え違いをしている。
 子供とはいえ、天龍は700歳を越す竜神族であり、次期竜神王である。本来ならばとっくに子供らしい時期を通り越し、見た目の幼さとは裏腹に、次期竜神王としてふさわしい者となるための英才教育を施されるところだ。
 なので、子供は子供らしくなどという言葉を当てはめ、人間の基準で人間の子供と同等に扱おうというのは、勘違いもいいところだった。

 そう。勘違いもいいところ――だったはずなのだが。

「ち、父上! あれに見えるのはマッキーキャットではありませんか!」

「むう。あれは猫……か? なんと面妖な着ぐるみか……」

 はしゃぐ天龍は見た目通りのお子様でしかなく。
 それを微笑みと共に見守る竜神王も、どこにでもいるただの父親にしか見えない。
 ……双方、喋り方は少々古臭いが。

「……やっぱ、俺たちがいるのは野暮ですね」

「え?」

「ちょっと待っててください」

 横島はそう言って、小竜姫を置いて竜神王のところへと向かった。横島は竜神王と二、三言葉を交わすと、彼と共に戻ってきた。

「小竜姫よ」

「は、はいっ!」

「これより別行動を取ろう。余は天龍と共にいるので、お前はお前で楽しんで行くが良い」

「え? し、しかしそれでは……」

「余に護衛は必要あるまい?」

「…………わかりました。竜神王陛下、どうかお気をつけて」

「相変わらず硬いのう」

 まるで戦に出るのを見送るかのような台詞に、竜神王は苦笑した。

「では、天龍が待ちくたびれるといかんのでな。余はもう行く」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「楽しんで来てくださいよー」

 小竜姫と横島に見送られ、竜神王は天龍の元へと向かった。天龍は戻ってきた父の手を取り、前方の城を指差しながら、その手を力ずくで引っ張っていった。
 後に残された二人は、その親子の背中を見送ると、目を合わせてくすりと笑った。

「それじゃ、俺たちも行きましょうか」

「……私には、この施設のことはよくわからないんですが」

「俺もそれほど詳しいわけじゃないっスけど……まあ、どうにかなるでしょ」

「というより、陛下と殿下も勝手がわからないはずですが……やはり、一緒にいた方が良かったのでは?」

 心配そうにつぶやく小竜姫に、横島は反対に、心配いらないとばかりに快活に笑った。

「それこそ心配ないっスよ。子供は遊びの天才ですから、わからなくても自分で楽しみ方を見つけますって」

 そもそも、四人それぞれが手渡されたパンフレットには、アトラクション一つ一つの簡単な説明が載っているのだ。それを見れば、わからないことなど大分少なくなるだろう。

「とりあえず、まずはアレにしてみましょーか」

 そう言って横島が指差したのは、レールの絡まった岩山というデザインのアトラクション施設だった。


 ―― 一時間後――

「小竜姫さまー。ジュース買って来ましたよー」

「あ……すみません」

 手近なベンチで休んでいる小竜姫に、両手にそれぞれジュースを持った横島が小走りに駆け寄ってきた。
 青い顔をしている彼女に右手の缶ジュースを渡し、その隣に腰を下ろす。

「……人間は……なんと恐ろしい遊びを思いつくのでしょうか……」

「あっははは。意外っすね、小竜姫さまが絶叫マシーン苦手だなんて」

 そう。横島が最初に選んだアトラクションは、いわゆる絶叫マシーンと呼ばれる部類のものだった。開園時間直後だったおかげで、さほど待つことなく(それでも30分近く待たされたが)アトラクションに乗り込むことが出来たのだが、そこで小竜姫の絶叫が響き渡ったのだった。
 それで、いきなり最初からグロッキー状態になっているというわけである。

「メドーサの時なんか、空飛びながらアクロバティックな動きを超高速でこなしてたもんだから、あれぐらいだとむしろ物足りないんじゃないかって思ってましたけど」

「自分で動くのと動くものに乗るのとは違います……」

 心底意外そうに言う横島に、小竜姫は間髪入れずに反論した。

「もう二度と、あんなものには乗せないでください。寿命が縮みます……」

「あはは。でも怖がってる小竜姫さまも、なんだか新鮮で可愛かったっスよ」

「な!?」

 横島の何気ない一言に、真っ赤になって驚く小竜姫。
 ちなみに横島の方は、別段気取っていたわけではない。むしろ「寿命が縮むって、神族の寿命が少し縮んでもあまり影響ないんじゃ?」とか考えながらの発言だったので、何気なくナチュラルに口から突いて出た言葉だった。

「わっ! す、すんまへんっした! 怒らんといてくださいーっ!」

 そして、当の横島といえば、小竜姫の顔が赤くなったのを見て怒ったのだと勘違いしていた。

「あ、べ、別に怒ってるわけでは……」

「お、怒ってないんスか?」

「ええ」

「よかった〜」

 横島はホッと胸を撫で下ろした。

「んじゃ、絶叫マシーンは抜きで行きましょうか。他にも色々見所ありますから。あの蒸気船なんてどうです?」

「小さな船旅といったところでしょうか? あれなら私でも楽しめそうですね。では、お願いします」

 そして、横島の先導で、二人は蒸気船に乗り込んで、小さな船旅を楽しんだ。

 その後も色々と周り、お化け屋敷型アトラクションで小竜姫が暴れかけたり、マッキーキャットの着ぐるみに握手されて真っ赤になったり、カートに乗るアトラクションで操縦を間違えてパニックになったりと、多少のハプニングはあったが――
 横島と小竜姫は、おおむね平和に楽しい時間を過ごすことに成功していた。


 遊んでいると時間の過ぎ去るのは早いもので。

 気が付くと、日は既に落ちて夜の帳が訪れていた。

 今、天龍と竜神王は、色とりどりのネオンに彩られたマスコットキャラクターたちのパレードを眺めていた。天空には、打ち上げられた花火がところ狭しと舞い散っている。

「おおっ! 綺麗でございますな、父上! 見てるだけで、楽しげな気分になります!」

「うむ。このような催事、神界でもまず目にすることはできん。見事なものじゃ。……おっと天龍。飛び出すでないぞ」

 鮮やかな幻想の行列を前に、ともすれば飛び出しかねないほどに身を乗り出す天龍と、息子と同じように感心しながらそれを押しとどめる竜神王。

「天龍よ」

「はい?」

「楽しいか?」

「もちろんにございます!」

 父の問いに答える天龍の顔は、満面の笑みをたたえていた。その言葉が心からのものであることは、容易に見て取れる。

「父上……余は、天龍は、きっと今日という日を忘れることはないでしょう」

「……天龍?」

「父上……知っての通り、天龍は先日、角が生え変わり成人しました。これからは立派な世継ぎとなるべく、日々研鑽する毎日を迎えることでしょう。
 思えば、父上はいつも公務で忙しく、父上に構ってもらった記憶はあまりに少なすぎました。……正直に言います。天龍は寂しゅうございました。ですが……今日やっと、父上に子供らしく甘えることができました。今日のことは、これからの天龍にとって何よりの糧となりましょう。
 天龍は今日を最後に、子供を卒業し大人になります。今日一日、親として付き合ってくださったこと、心より感謝いたします。そして見守っていてくだされ。天龍は必ずや、父上の後を継ぐにふさわしい竜神となりましょうぞ」

 その、見た目の幼さからは想像もつかない大人びた言葉――おそらく、無理して大人っぽい言葉遣いを演じているのだろうが――を耳にし、竜神王は驚きに目を丸くした。
 が、それも一瞬のこと。次の瞬間、竜神王は、望外の喜びとばかりに破顔一笑した。

「くっ……ふふふ。天龍よ、立派なことを言うようになったな。余にとって、これほど嬉しいことはない」

 そう言って――ふと、その笑顔を消し、表情に陰りを見せる。

「だが、余は親としては誇れるものではなかったのであろうな……公務を理由に、息子との語らいを無碍にしすぎた。今日このような体験をして、初めてそれに気付いた愚かな父親だ。だがそれだけに、今日のことは生涯忘れ得ぬ思い出となろう……すまなんだ、天龍。そしてありがとう、いまだ余を父と呼び慕ってくれて」

「父上……いや、何も言いますまい。今は竜神族の王家などという肩書きを忘れ、ただ一組の親子となって楽しみましょうぞ」

「そうだな……積もる話は、また後としよう。感謝せねばならんな、横島には……」

「はい。天龍もそう思います」

 竜神王の目から、キラリと光る何かが、一つだけ零れ落ちた。天龍はそんな父の言葉に、微笑んで頷いた。

「天龍と一緒に一日付き合うこと……か。まったく、褒美として何を望むかと思えば、粋な演出をしてくれる。
 しかしこれでは、むしろ余と天龍こそが褒美を貰ったに等しい。今日のことは、我が生涯五指に入るほどに印象深い日となろう。それほどに充実した一日であった」

「父上……天龍は、横島が気に入りました。横島こそ、我が家臣にしたく思います」

「うむ。余も、あやつを我が眷属に迎え入れたく思う。あやつが人間としての生を全うした後、神格を与え竜神族となれるよう手を尽くしてみようではないか。……無論、本人の希望あってこその話じゃが」

「その時が楽しみでございます」

「……気が早いぞ、天龍。本人の希望あってこそ、と今言ったばかりであろう。しかし……そうなると、あやつには改めて褒美を賜らねばなるまい。さて、何が良いか……」

 言いながら、顎に手を当てて考え込む竜神王。話しているうちに、パレードはいつのまにか遠ざかっていってしまっている。花火の放つ光だけが、名残惜しそうに彼らの顔を照らしていた。

「父上。小判ならばありますが?」

 と言って、懐から小判を一枚取り出す天龍。

「それも良かろうが……寿命の長い我ら神族に、生涯忘れられぬであろう思い出をくれた人物じゃ。その謝意を示すものとしては、いささか足りまい。まあ、今日使った金銭に関してはあやつの懐から出たものらしいから、その小判はとりあえず代金として渡しておくのが筋ではあろうが」

「ならば、何を持って礼としましょうか?」

「それは追々考えるとしよう。決まった時にでも、小竜姫を遣わしてやれば良い」

 今は、残された時間を楽しむため、意識をそちらに集中させよう。
 竜神王は息子の手を引き、もはや視界から消えてしまったパレードを追いかけて走り出した。


「今日は世話になった」

 午後九時三十分――閉園時間三十分前。
 遊びに来た客たちも三々五々に帰り始め、あれだけ賑やかだったデジャブーランドは、どこか名残惜しげな寂寥感に包まれている。

「いやー、楽しんでもらえて良かったっス」

 竜神王の言葉に、対面する横島は笑顔で答えた。
 横島の目の前にいる竜神王こそ、来た時と変わらない格好だったが……その右隣にいる天龍はマッキーキャットを真似たネコミミキャップをかぶっており、手にはネコを模した風船が三つほど握られている。

「横島! 余は俗界が気に入ったぞ! 機会があればまた遊びに来るから、その時はまた案内いたせ!」

「殿下……御身はあなた一人のものではないのです。先日のような軽はずみな行動は、もうなさらないでください」

「機会があればと言ったであろう。もうあのようなことはせん。……というか」

 たしなめる小竜姫に、天龍は不機嫌顔で答える。そして、小竜姫の格好を上から下まで眺めた。
 今、小竜姫は天龍と同じネコミミキャップをかぶっていて、両手ででっかいマッキーキャットのぬいぐるみを抱えている。しかもその手首に提げられた紙袋からは、何やら色々なグッズが溢れていた。
 天龍の土産……というわけではない。なぜなら、天龍たちと横島たちは、今この場で合流したばかりなのだから。ついでに付け加えるなら、ベージュ色のセーターの下には、ロナルドドッグのTシャツが着用されてたりする。

「……お前にだけは、デジャブーランドに行くことをとやかく言われたくないよーな気がするのだが?」

 半眼で睨む天龍に、小竜姫は答えず、逃げるように視線を明後日の方向に向けた。その様子を、竜神王と横島は苦笑して眺めていた。

「ま、小竜姫さまも思ったより楽しんでもらえたようで、何よりっス。個人的には、絶叫マシーンできゃーきゃー叫んでる小竜姫さまをもっと見たかったんですが……」

「なっ!」

「ほほぅ。小竜姫よ、お前は絶叫マシーンが苦手じゃったか」

「小竜姫にも苦手なものがあったのか……」

「あ、あれは! 苦手というより……あの……その……」

 横島の言葉に、小竜姫は真っ赤になって絶句し、竜神王と天龍は妙な感心をしている。そんな生暖かい視線を向けてくる二人に、何か上手い言い訳をしようと必死になっている小竜姫が微笑ましい。

「と、とにかく! 今日はもういいでしょう!? 帰りますよ、陛下! 殿下!」

 有無を言わさぬ剣幕でまくし立て、のしのしとゲートに向かって歩き出す小竜姫。しかしぬいぐるみを抱いたままでは、微笑ましさしか際立たない。
 残された三人は苦笑して肩をすくめ、彼女に続いてゲートをくぐった。ゲートから数十メートルほど離れると、竜神王、天龍、小竜姫の三人は改めて横島に礼を言い、テレポートで妙神山へと戻った。

「さってと。俺も帰るか」

 つぶやき、駅へと歩き始める。その足取りは軽く、表情はすっきりとしたものであった。
 それほど時間も経たないうち、やがて駅へと辿り着く。

「……あれ?」

 横島は、そこで佇む人影を見て、目を丸くした。

「あ、横島さん」

 こちらに気付き、そう呼びかけてくるのは――

「おキヌちゃん? なんでここに?」

 そう。私服姿のおキヌであった。

「迎えに来たんです。きっと、丸一日遊んでて疲れてるだろうと思いまして」

「……もしかして、バレバレだった?」

「はい。と言っても、私だけみたいでしたけど」

「なんでわかったの?」

「天龍童子ってデジャブーランドに行きたがってたって話じゃないですか。それで、横島さんが一日付き合って欲しいって言ったから、きっとここなんじゃないかなって思ったんです」

「あー……なるほど。それじゃ、この時間に出てくるってのもわかってたの?」

「はい。あの子は立場上、滅多にこっちに来れないと思いましたから……横島さんなら、閉園ギリギリまで遊ばせてあげると思ったんですよ。もっとも、こっちに着いたのは九時頃でしたので、少しだけ待つことになっちゃいましたけど」

「うわ、そこまで読まれてたのか……かなわないな、おキヌちゃんには」

 彼女の的確な読みに、横島は苦笑した。

「わかりますよ。だって、横島さんのことはずっと見てますから……」

「ん? 何か言った?」

「い、いいえ! なんでもないです!」

 ぽつりと小声で言った台詞は、横島には聞こえていなかった。おキヌは顔を真っ赤にして、横島の問いを否定する。

「それじゃ、横島さん……帰りましょうか」

「ん。そうしようか。さすがに疲れたから」

 おキヌの言葉に答え、横島は「んー」と伸びをした。

「……なんかご機嫌ですね?」

「あ、わかる?」

 訝しむおキヌに、横島はニカッと屈託の無い笑みを浮かべ、ポケットの中に手を入れた。

「ま、今日は十分以上に元が取れたからさ」

 言いながら横島がポケットから取り出したのは、金色に輝く一枚の小判だった。それを見たおキヌは、しばし目をぱちくりさせたが、やがて優しく微笑んだ。

「良かったですね、横島さん♪」

「ありがと、おキヌちゃん。これがいくらになるかはわからんけど……ま、どんなに安くても十万二十万じゃきかんだろ。デジャブーランドの一日パスなんて、何枚でも買えるなぁ。
 あ、そだ。今度、おキヌちゃんもデジャブーランドに連れてってあげようか。今日はここまで来て何もせずに帰るなんて勿体無いことしたんだから、せめてね」

「私が勝手に来たんで、気にすることなんてないんですが……でも、ありがとうございます。楽しみにしてますね。けど私、白龍会に行くことになったから、その約束が果たされるのはGS試験の後ですね」

「あちゃ。そっかぁ……やべ、俺覚えてられっかな?」

 しまったなぁとばかりに、ボリボリと後頭部を掻く。

「ま、ともかく腹減っちまったよ。帰ったらおキヌちゃんの手料理でも食べたいな」

「もう。横島さんったら、遊んでばかりでお夕食忘れてたんですか? しょうがないですね……スーパー、まだ開いてたかしら……?」

 そんな会話を続けながら、二人の姿は駅の中へと消えて行った。


 ――ちなみに余談ではあるが。
 先程の発言が完全なデートのお誘いであったことに横島自身が気付いたのは、丸一日以上経った後のことであった。
 自室で悶え、隣の部屋の受験生から怒鳴られたのは、さほど重要なことではないが。


 ――おまけ――


 神界に帰る竜神王と天龍を見送った後、小竜姫は自分の部屋に戻っていた。
 紙袋の中から、買っておいた様々なグッズを取り出す。その中の一つである写真立て――左上と右下に、それぞれマッキーキャットとマニーキャットが配置してあるやつだ――を手に取ると、園内で撮った写真をその中に入れた。
 小竜姫はかなりの数に上ろうかという程のグッズをてきぱきと片付けると、部屋の中央に布団を敷いた。服を脱ぎ、いつもの寝巻きではなく、今日購入したばかりのデジャブーキャラのパジャマを着る。

 あとは明かりを消して布団に入るだけ――という段階になり、小竜姫はふと写真立てに目を向けた。

「……おやすみなさい」

 応える者はいないのに、自然とそんな言葉が口を突いて出た。そのことに自身で軽く驚きつつも、明かりを消して布団に入る。
 やがて、静かな寝息が聞こえてきた。しかしそれを聞くのは、部屋の隅に置かれた大きなマッキーキャットのぬいぐるみと、写真立てに納まった写真だけであった。

 写真に誰が写っていたのかは……言うだけ野暮だろう。


 ――あとがき――


 というわけで、三十一話をここにお送りします。今現在『機動戦士ガンダム戦場の絆』にハマりまくってるいしゅたるです。
 今回、ところどころでちょっと地の文が多くなってしまった感があります……そのあたり、読みづらいかもしれませんorz
 さて、次回はおキヌちゃんの白龍会入門と、人工幽霊壱号の話になる予定です。……でも人工幽霊の方は、さらりと流して終わらせちゃうかも(^^;
 ところで横島くんとおキヌちゃんの最後のやり取りって、ほぼ完全に夫婦の会話に見えてしまうのは作者の贔屓目でしょうか?(汗

 ではレス返しー。


○1. ジンさん
 多くの逆行ものでは、ルシオラが死んだ悲劇のみを挙げてますけど、それ以外のかけがえのない大切な思い出は、横島くんにとって決して少なくなかったはずです。私もジンさんと同じく、それら全てよりもルシオラのことを優先する横島くんは、ちょっと納得いかないものでして。というわけで、相反する二つの感情を同居させてみました。

○2. 秋桜さん
 猿人類が微妙に人類になったって……そりゃひどいです(^^; おキヌちゃん奮闘記録は、GS試験編までに何回か入れるつもりですー。

○3. ショウさん
 このシリーズの基本コンセプトは、どこかの光画部部長の言う「意表を突く!」ですのでw でも今回のは前々から微妙に伏線張っていたりしてて、気付いた人がどこかにいてもおかしくないかなーと思ってましたw

○4. 山の影さん
 聞いたら横島くんは怒るかもしれませんけど、たぶんそれが横島くんに伝わることはないと思います。伝わっても、アシュ編直前とかじゃないかと。心眼に関しては、最初は出す予定はなかったですが、やっぱり出すことにしました。どのタイミングで出るかはわかりませんが、少なくともGS試験編までには登場させますー。

○5. 食用人外さん
 今後もなかなかのサプライズをお贈りできるよう頑張ってみます。とゆーか、この次のサプライズも、既に脳内に用意してるんですがw

○6. 雪龍さん
 小隆起は問答無用調停装置なので、戦力としてはむしろプラスとゆー解釈です。……某メ○ンテっぽい自爆装置ですが。

○7. ミアフさん
 ネタは基本的に一発限りですので、貧乳連結システムは今後登場予定ありません。ご安心をw もっとも、斬○刀ネタはあと一回、竜巻○艦刀とゆー形で出す予定ですが。ちなみに、馬が誰になるかは秘密ですw

○8. とろもろさん
 白龍会はまだ無事ですよー。雪之丞の「ママに似ている」は、やってみようかと思ってます。つーかこれやんないと、雪之丞じゃないし(マテ

○9. 内海一弘さん
 勘九郎×華ですか!? それは私も予想してませんでした……盲点です。やる予定はありませんが、ネタとしてとっておきましょう(ぇー

○10. 長岐栄さん
 メドーサは横島と戦っている。四人組も横島と会っている。けど四人組はメドーサが横島と戦ったことは知らないし、メドーサも四人組が横島と会ったことがあるなんてことは知らない。この状況を保ったままにできるかどうかがネックですねー。

○11. 夢職さん
 そりゃー離れてましたから、アレには巻き込まれませんですねw おキヌちゃんはすごいことになる予定です(何

○12. いりあすさん
 横島くんとおキヌちゃんに課せられた使命は、本人たちには知られるわけにはいかないです。なので、二人がそれを知ることはない(予定)ですよー。

○13. 文月さん
 GSって空飛べるキャラが結構いますからねー。ピートとか雪之丞とかマリアとか冥子(シンダラ)とか同期合体美神&横島とかw 最近寒くなりましたね。体調管理には気をつけます。


 レス返し終了〜。では次回三十二話でお会いしましょう♪

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