インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「学校対抗試合の舞台裏・中編(GS+オリキャラ)」

いりあす (2006-12-04 01:06/2006-12-04 07:39)
BACK< >NEXT

「ん〜〜〜っ、終わった終わった〜〜!」
 連休二日目の夜。今日も今日とて美神令子は、ボッタクリな除霊に精を出していたようだ。と言ってもそこはゴールデンウィーク、周りが休んでいるのに額に汗する大仕事をするほど酔狂な彼女でもなく(別に、平日でもサボれる時はとことんサボるのが彼女でもあるのだが)、依頼料金にしてン百万程度の軽い除霊を済ませての帰りである。
「イヤー、くらいあんと殿のお宅にさしたる被害が出ぬうちに除霊できて何よりでござるな」
「ホント言うとちょっとは被害が出た方が報酬も増えたんだけど、しょうがないわね」
「美神、往来の真ん中でそういうこと言わない方がいいと思うけど……」
 などと言いながら、駐車場に停めた車に向かって歩いている美神・シロ・タマモの三名。なお、事務所のメンバーが5人に増えた上、美智恵&ひのめだの西条だの荷物だのの事も考え、最近はそれなりに中の広い、あと屋根付きの車を新たに購入している(作者注:車種は読者の皆様のご想像にお任せします)
「おキヌちゃんもいない事だし、晩ご飯はどこかで食べて帰ろっか? この時間帯だと、あんまり高いお店は開いてないと思うけど」
「お、いいのでござるか? いやしかし、あまり高いレストランだと拙者達手元不如意にて……」
「ご飯代ぐらい出してあげるわよ。今日の報酬に比べたら安いもんだし」
「……え゛? み、美神が晩ご飯をおごってくれる?」
「あだだ! 何故拙者の顔をつねるのでござるか!?」
 よほどビックリしたのか、なぜかタマモはシロの顔をつねって夢かうつつかを確かめていた。
「あ、あのねえ………各自自腹にしたら、あんた達私の目の前でみみっちいメニューで食べるしかないでしょうが! そんな前で高い料理食べたって、恨みっぽい視線で不味く感じちゃうじゃない」
「…なるほど、一理あるわね」
「……と言っても、あんまり高いメニューは却下だからね」
 確かに美神令子は我が道を行く唯我独尊の人ではあるが、孤高の人にはなりきれないところがある。これでも横島が夕飯をたかりに来るのは嫌がらないし、一人で高い酒飲んで高い料理食べる生活に何とはない寂寥感を感じたりするところもある。だから彼女、みんなでテーブルの上の料理をつつき合う食事というのが、一人で食べる豪華ディナーより時として美味しく感じるという事が分かっているのだ。が、“寂しがりなんですね♪”なんて言われたりしたら、相手がおキヌだったら真っ赤になって否定し、横島に言われたら真っ赤になるまで殴るだろうが。
「あ、拙者和風ステーキセットを所望いたす!」
「私は厚揚げ料理の美味しいお店がいいなあ……」
「あんた達、オゴリと分かった途端調子いいわね……」
 とか言いつつ、珍しく苦笑しながら美神が車の鍵を開けた時……

「え?」
「い?」
「あれ?」
「なんト?」
「おや?」
「あらら」

 隣の車のドアを開けて乗り込もうとしていた、色黒の女・大男・金髪優男の三人組と鉢合わせした。


「…なんであんた達がここにいるのよ」
「なんでって、除霊の帰りに決まってるワケ。おたくこのメンバーを見て、高級レストランで優雅にディナーだとか思ってんの?」
 後ろにいるタイガーを後ろ指で示しながら、半眼になって言い返す小笠原エミ。
「……わっしがいなかったら完璧にデートに見えるんじゃろうノー」
「ま、まあまあ……」
 いじけるタイガーをなだめるピートである。
「で、そっちこそ人数足りなくない? ひょっとして横島とおキヌちゃん、デートでも行った?」
「ンなわけあるかっ! ……って、ちょっと」
 夜の街中で大声を張り上げてから、美神はあることに気付いた。
「ピートにタイガーって、横島クンと一緒に妙神山じゃなかったっけ?」
「ああ、あの件ですか? こうやって除霊の仕事を外せないんで、断ったんです」
「右に同じなんジャー。まだまだ、噂に聞く荒行を受けるには修行が足りませんからノー」
 確かにこのタイガーだと、妙神山の修行にはついて行けないかもね……と、内心ひどい評価を下す美神。いや、実力的なものより、性格的な問題の方が大きいと見ているのだが。
「ふーん……じゃ、横島クン一人で妙神山へ?」
「それでしたらあ…………一人で行かれたみたいですよ? 僕もタイガーも見送ったわけではありませんが」
 最初はピート、正直に“愛子さんと一緒に行きました”と言いかけたのだ。が、彼の第六感……いや、それを超えるセブンセンシズがその危険を察知して、危険な部位を口にする寸前でセリフを変えたのだった。
「ざ、残念だったんジャー。わっしも魔理サンとデ……ゴホンゲフン、除霊の仕事がなければついて行きたかったんじゃがノー」
「ふ〜ん……一人で小竜姫やパピリオに会いに行ったワケ? 横島のヤツ」
 横で話を聞いていたエミはそう横槍を入れ……た直後に、肌に鳥肌が立つのを感じた。
「あ、さ、さ〜て、晩ご飯でも食べに行くワケ。ピートにタイガー、24時間のファミレスでいいわね?」
「え、あ、そうですね。ニンニク抜きを頼めるところにして下さいね」
「わ、わっしはボリュームのある店の方が……」
 そう言い合いながら、エミ達はいつものワゴン車に乗り込み、そそくさと駐車場を出て行った。


「ねえシロにタマモ……今ピート、何か言いかけてやめたわよね?」
 深呼吸しながらボソリと言う美神に、二人はイヤな気配を感じた。
「さ、さて? 拙者、夕餉のことで頭が一杯でござって……」
「で、でも確かにそんな気がしたようなしないような……」
「………………ま、いいか。それより晩ご飯よ、ほら乗って乗って」
 三度ばかり深呼吸してから、美神は何事もなかったかのように笑って車のロックを外す。その笑顔からは、何の殺気も怒気も感じない。が、シロとタマモには理解できた……横島が帰ってきたら、この件に関して凄まじい勢いで尋問ないし拷問が行われるであろう事が。
「とりあえず、“小鳩バーガー”のストックを用意しとかないと……」
 事によっては“霊体引きずり出してしばきまくりの刑”すらありそうだと、後ろでその独り言を聞いたシロ・タマモの二人は直感した。もっともこの刑は、ヒャクメ発案の“文珠で幽体離脱予防”によって実現することはなかったのだが…………


   『学校対抗試合の舞台裏・中編』 Written by いりあす


 タイムテーブルは少し戻って、連休二日前の夜の美神除霊事務所・玄関前。
「ごめんねお姉ちゃん、こんな事に協力してもらっちゃって」
 自分のアパートに戻る早苗を見送るべく外に出てから、おキヌは頭を下げた。
「別に気にするほどの事でもねえだよ。おキヌちゃんがこんな事を頼んでくるなんて、それなりの決心があっての事に決まってるだものな」
 先ほど美神と横島の前で早苗が頼んだこと――“何も言わずにおキヌを貸してほしい”と言うのは、半分は真実であり半分は虚偽だ。確かに早苗はおキヌを連れ出す。けど、それは二人が一緒にどこかへ行くというわけではないのだ。早苗はおキヌを連れ出し――そして、送り出すだけ。そう、この義妹が行きたがっている場所――妙神山へ。
「けんど、本当に大丈夫だべか? その妙神山の修行って、命に関わるぐらい荒っぽいんだろ? せめて美神さんか横島か、二人のうちどっちかにはこそっと話しておいた方がいいんでないか?」
「それはダメ。誰かに話したらきっと一騒ぎ起きちゃうもの。そしたら、少なくとも美神さんと横島さんのどちらか一人はついて来ちゃう……それじゃ、意味がないの。勇気を出して、一人でやり抜かないと」
「ふ〜ん……」
(きっとあの時、美神さんから離れて妙神山へ行ったっていう横島さんも、似たようなことを思ってたのかもしれないなあ……)


 前々から、漠然と不安は感じていた。
 自分は、いつも置いてけぼりにされているんじゃないか?
 あの二人について行くことができない。
 美神と横島が危険な目に遭っているのに、自分は後ろで応援しているだけ。
 危険をくぐり抜けて意気揚々と、あるいは傷ついて戻ってくる二人を出迎えることしかできない。
 二人の間にある強い絆に、どうしても立ち入ることができない――

 そんな不安を、そしてやるせなさをおキヌは心のどこかで抱いていた。


「私、まだまだ半人前だからね。美神さんや横島さんに追いつくためには、自分の力で頑張らないといけないから……二人が一緒にいてくれると安心できるけど、でもそれじゃ美神さんや横島さんに甘えることになっちゃう」
「半人前、だなんて……わたすは、そんな事はないと思うけどな」
 早苗も、おキヌから美神事務所に戻ってからの活躍は聞いている。聞いている限り、おキヌが半人前だとはどうしても思えないのだが。
「半人前なのよ。私、一人で除霊をうまくできた例しもないし、悪霊をやっつけるのは美神さんや横島さんの役目だし」
「そだら事はねえだよ。ほら、この前の交通事故の自縛霊を成仏させたのなんて、あの二人にゃ地球が砕け散ったってできっこねえだ」
「あれは、あの霊(ひと)があの世(あっち)へ行こうとしていたのを、ちょっと後押ししただけ。いつもはそれでもいいのかも知れないけど……でも、それだけじゃダメなの」

 ネクロマンサーとして、少しは自信を持ってもいいと思う。悪霊を浄化して、霊障を解決して、人様に迷惑をかける妖怪にお仕置きする………そんな“日常”の中なら、少しは役に立てるという自惚れはある。
 でも、それだけではダメなのだ。一般社会では非常識にしか見えない毎日でも、美神や横島にとっては“日常”なのだ。しかし、そんな日常は時として中断させられる。超絶的な力を持った大妖怪が、美神の力がもたらす突然のタイムトラベルが、神族や魔族のところからこぼれ落ちる争乱の火種が、彼女たちを“非日常”に引きずり込んでしまう。そして、そんな“非日常”の戦いの中で、駆け出しのネクロマンサー、そして半人前のGSアシスタントに過ぎない自分ができる事はあまりに少ない。
 もし、あの時……アシュタロスとの長い戦いのような事があったらどうなるだろう? あの時、自分の最愛の人――少し前までならともかく、今ならそう言い切れる。もっとも、目の前の義姉を含めた親しい人達の前ではまだ口にしづらいが――横島は、恋人を失って号泣した。あんな事が、また繰り返されるかも知れない。
 だから、自分にできる事がもっとたくさん欲しい。そう、いざとなったら、美神の代わりに自分が彼の隣で危険に立ち向かえるぐらいに………

「……って事かな。だからね、少しでも横島さんや美神さんの力になれるようにならないと」
「なるほど。つまり、公私ともに横島のパートナーになりたいって事だな」
「あ、う……!?」
 全く違う事を言っているようで、実は核心を突いた早苗の指摘におキヌは絶句した。
「ま、がんばんなよ。アイツの彼女に納まるのは難しい事じゃないかも知れねえけど、アイツを独り占めするのは骨が折れそうだからな」
「な、な、ななな何の事でせう?」
「いや、別にトボケるほどの事でもねえだろ? おキヌちゃんがアイツにホレる気持ちってのも、少しは分かるつもりだしな」
 そう言いながら、早苗はウインクしておキヌの背中をポンポンと叩いた。


 早苗は別に、横島そのものを嫌ってはいない。
 ただ、横島の無節操な助平ぶりが好きになれないだけ。
 具体的には、初対面の相手にキスを迫ったり、やたらと手だの肩だのに触れたがったり、何のためらいもなく風呂を覗いたり。
 どうも、あの最悪の第一印象が焼き付いてしまって、会えば口喧嘩の絶えない仲ではある。

 でも、彼女だって横島の良さは知っているつもりだ。
 あの死津喪比女の脅威に故郷がさらされた時、早苗が見た彼の文字通りの奮迅ぶり。
 あの日、人骨温泉のホテルが死津喪比女の起こした地震で壊された時、横島が助けてくれなかったら自分は瓦礫の下敷きになって死んでいただろう。
 とても人間のものとは思えない信じられないバカ力で、避難者を救い出すべく瓦礫をどけて回っていた彼の姿は、美神もおキヌも知らない、彼女だけが見た光景。
 地震や東京の大パニックのせいで報道等は一切されなかったが、あの時あの場所で横島に救われた命はどれだけあっただろうか?
 でも彼は、皆の無事を確認するや、すぐさま早苗の手を取ってその場を走り去って――今まさに美神を手にかけようとしていた死津喪比女の花の一つに、あのライフルの銃弾を撃ち込んだのだ。暴れ馬のように揺れるシェルビー・コブラの助手席から、ただの一撃で。

 今まさに自分を押しつぶそうとしていたコンクリートの塊を霊波刀で吹っ飛ばす姿とか。
 生き埋めになりかけた人達を必死で救い出し、怯える人達を励ます様子とか。
 おキヌを救う事ができなかった(とあの時は思っていた)彼の、怒りと哀しみの入り混じった表情とか。
 最初に出会った時のバカっぷりがウソのような真剣な眼差しとか。
 後になってから思い起こすたびに、あれは反則だよなあ………と早苗は思うのだ。


(あんな所を見ちまったら、そりゃホレるだな。私だって、第一印象がアレでなかったらグラついてたべ)
「? お姉ちゃん、何か言った?」
「あ、いや、何でもねえだよ、何でも」
 おキヌが不思議そうに自分の顔をのぞき込んでいるのに気づき、早苗は慌てて誤魔化した。でも、顔がほんの少し……いや、かなり紅潮しているのは誤魔化せなかったかも知れない。
「でも、何か顔が赤くない?」
「う゛……」

(な、なななな、なんでわたすはそこで“ポッ”なんてしてるんだべか〜〜!? ちちち、違うんだべ〜! わたすは山田君っていう歴とした彼氏持ちなんだ〜〜! 横島なんかにドキドキなんてしてねえだ〜〜〜!!)
「お姉ちゃんって、時々横島さんに似てるなあ……」
 頭を抱えて不思議な踊りを始めた早苗を見ながら、おキヌはそんな感想を抱いた。


 そんなこんなで、おキヌが選んだ妙神山での修行は今日で3日目。
「さて、5日間を予定してました修行ももう3日目の午後になりました。三部構成で行う修行は、ただ今第二部の“霊能の修行”ですが」
 と、いつものただっ広い異界空間の修行所で、小竜姫は説明する。ちなみに、パピリオの眷属の蝶を霊団に見立てた“ネクロマンサーの修行”は、昨日のうちにひとまず修了している。
「人の中に眠っている才能を引き出すという作業は、器と水のようなものです。抽象的な言い方をさせてもらえば、器という本来の才能に注がれている水、それがその人の実力だとイメージしてみて下さい」
「ふんふん」
 よく分かっているのかは微妙だが、おキヌは小竜姫の説明にうなずく。ただ今、彼女はいつもの巫女服から妙神山の本来の修行服である詰め襟のチャイナ服に着替えている。つまり、この修行はいよいよ本番だという事だ。
「この例えで言うなら、人の能力を高める方法というのは、二つ……器の空いている部分に水を注ぎ足すか、器そのものを大きくするか。これから行う“あの修行”はこのうちの前者、つまり人が本来持っている才能を引き出す修行だと考えて下さい」
「“あの修行”って、美神さんが受けた“あの修行”ですよね?」
「そうですよ。ただし、三本勝負に勝ち抜いたら力を与えるというのは、その人が本来持っている器を測る意味もあるんです。才能に見合うだけの能力を備えていない人から無理矢理力を引き出したら、その人は逆に手に入れた力に呑まれてしまう――そう、あの鎌田勘九郎さんのように、ね」
 メドーサに魅入られ、力に魅せられ、最後は魔族に堕してしまったあの妙にカマっぽい男の姿が、二人の脳裏を同時によぎる。
「正直に言いますが、おキヌちゃん。あなたには、美神さんや横島さんのような天性の素質はありません。ですが、あなたが300年間の魂の遍歴を通して培ったネクロマンサーとしての素養が備わっているのもまた事実。ですから、あなたを妙神山の特級修練の資格有りと認めましょう。大丈夫、あなたは自分の力に振り回されたりはしませんよ」
 それは保証します、と小竜姫は太鼓判を押した。

 ちなみに、先ほど挙げた修行法の二つ目……“器そのものを大きくする”修行というのは、例を挙げれば横島・雪之丞・美神の三人が斉天大聖相手に受けた『ウルトラスペシャルデンジャラス&ハード修業コース』の事である。が、これは各自の力の器そのものをブッ叩いて形を変えるような――つまり、本人に眠っている素養を無理矢理引っ張り出すような――物であって、よほど大きな壁にブチ当たった実力者でなければ紹介する事のない物騒な代物だから、おキヌには教えるわけにはいかなかった。何せ、彼女にはまだまだ普通の修行で伸びる余地があるのだ。


「さてと、それではこの法円の上に立って下さい」
 そう言って、小竜姫はいつぞやの美神の修行の時にも使った法円を示す。
「えっと、この法円で私の『影法師(シャドウ)』を抜き出すんでしたっけ?」
「そういう事です。あ、それから前もって断っておきますが」
 法円に歩み寄るおキヌを眺めながら、小竜姫はポンと手を叩いた。
「三本勝負の相手は、剛練武と禍刀羅守ではありませんからそのつもりでいて下さいね」
「え? 違うんですか?」
「おキヌちゃんは美神さんの修行の時にあの二鬼を見ていますからね。弱点を見つける眼力を養うのも修行のうちですから、その点をハンディに与えるわけにはいきません」
「そ、そーですか……そうですよね」
 知っている相手でないと知らされ、おキヌの緊張がワンランク高まった。なお、横島の修行の時にあの二鬼を出したのは、『影法師』を使ったこの修行ではなかった事と、倒す事自体よりも倒し方を測るためのトライアルだった事に起因している事を付記しておく。
「相手はこれから、ランダムに抽選して決めますからね。心配しなくたって、絶対勝てっこない相手は用意してませんよ……あ、皆さんアシュタロスの事件の後でうちの手伝いをしてくれている方々なんですけど」
 そう言って小竜姫は、どこからともなく商店街の福引きのガラガラを取り出した。どうやら、これでおキヌの対戦相手を無作為抽選するつもりらしい。
「それはそうと、早く法円の上に」
「あ、そうでした。ど、どんな『影法師』さんが出てきてくれるのかなあ……」
 別の意味で緊張しながら、おキヌは『影法師』を呼び出すための法円に立つ。と同時に法円が淡い光を放ち、その光に包まれた彼女の身体から霊格、霊力、その他の力が抜き出されて具現化されてゆく――


 ふしゅるるる〜〜〜〜っ……

「あの……これが、私の『影法師』さん、ですよね……?」
「そ、そうですね………な、なかなか勇ましい『影法師』ですね……」
 おキヌより一回り……いや三回りほど大きなシルエット。白い小袖とくくり袴の上からいかめしい江戸時代風の具足を着込み、手には背丈の倍近い大薙刀を背負い、仏神の四天王を模した天冠を額に着けた、見るも勇壮な女武者の姿、そしてその容貌は―――

 ふしゅるるる〜〜〜〜っ……

「な、何だか女華姫さまに……私の昔の友達にそっくりなんですが……」
「『影法師』は色々な要素を具体化した存在ですから、時にはその人の守護霊や守護神、あるいは宿星がその姿に影響を及ぼす事もありますよ。もちろん、その人にとって特に親しい人がいたらその姿に仮託した外見になる事もある……と聞いてはいるんですが」
 ここまでおキヌのイメージとはかけ離れた『影法師』が出てきてしまったせいか、小竜姫の説明もどこかたどたどしかった。
「と、とにかく修行を始めましょう。それでは、まずは最初のお相手から……」
 そう言って、小竜姫はガラガラを回し始める。じゃらじゃらと音をたてながら二回転ほどしたところで、玉が一個コロリと転がり出てきた。出てきた玉に書かれた言葉は……“四”である。なお、これは文珠ではないので念のため。

「四番ですね。それでは四番、グーラー! おいでなさい!」
「え゛? グーラ……」
 とおキヌが聞き返す間もなく、イギリスのストーンヘンジのような環状列石の中央にしつらえた闘場から光が溢れ……
「ハアイ! お呼び?」
 そこから現れたのは、小麦色の肌にカールしたプラチナブロンド、額の髪の分け目から伸びる角――いつか巻き込まれた事件で出会った妖怪、食人鬼女ことグーラーだった。もっとも、以前出会ったときはトップレスで無遠慮に外にさらしていた豊かな胸に、今回はサラシを巻き付けての登場である。
「グ、グーラー……さん?」
「ありゃ、誰かと思ったらあの時のネクロマンサーのお嬢ちゃんじゃない? こんな所で奇遇だねぇ。横島の奴、元気してる?」
 グーラーの方もグーラーの方で、キッチリおキヌの事を覚えていてくれたらしい。
「ど、どうしてグーラーさんがここに?」
「ん? ああ、バイトだよ、バイト。あの事件からこっち人間食うのをやめたもんだからさ、普通に人間と同じような物を食べなきゃならなくってね。あんた達に押しつけられたガルーダのガキンチョ達の面倒も見なきゃなんないし、色々と先立つ物が必要なんだよ。まして、人間の社会に紛れ込んで生活していくにはなおさらさ」
「人間の社会に、って……じゃ、じゃあ普通にお仕事して生活費を?」
「ん、チョイと姿を変えて田舎暮らしだね。仕事ったって猟師とか牧場の手伝いとか、食い物を直接稼げそうなあたりを色々さ。牛、鶏、豚、馬に羊に熊にイノシシ、色々食ったもんだけど、今日びの文明慣れしてマズくなった人間よりはマシかもね」
「な、なるほど……」

 余談ながら、おキヌの生まれ育った江戸時代の日本というのは基本的に肉食がタブー視されていたのだが、それでも田舎では名称を誤魔化したりして(例えば、ウサギを1羽2羽と鳥の数え方で数えたり)ちょくちょく食べたりしたらしいから、田舎育ちのおキヌにはあまり肉食への嫌忌はないようだ(何たって、幽霊時代から肉じゃが作っていたぐらいだからして)。

「あのグーラーさん、お知り合いなようですが……」
「ん? ああ大丈夫、知り合いだからって手加減なんてしないって。この子とはちょっとしたライバル関係みたいなもんだからね」
「? ライバル関係?」
「あ、あの小竜姫さま、その点はあまり追及しないで下さい……」
 慌てておキヌが間に入ったのも無理からぬ事、何と言ってもライバル関係の焦点になっているのは横島の事なのだから。かつて横島が彼女に呑ませる事で事件解決への糸口とした“恋”の文珠の効果はもう残っていないが、それ抜きでグーラーは純粋に横島に対して好感を持っている。

「で、修行だっけ? 確か修行者の霊能力を具現化した分身と戦うとか何とか……どわあっ!?

 ふしゅるるる〜〜〜〜っ

 女華姫そっくりの影法師をいきなりアップで見てしまったグーラー、驚いた拍子に尻餅までついた。
「な、何、ゴーレム? え゛? これが? お嬢ちゃんの分身?」
「は、はい……そうです」
「あ、そう……ああ、ビックリした。もっと可愛らしい分身だと思ってたよ」
「……すみません」
 別に彼女のせいではないのだが、それでもおキヌは謝った。


「それでは、始めます! 影法師が対戦相手に有効打を一撃入れる事ができれば合格とします。負けたら普通は死にますし、運が良くても霊能力は失いますからゆめゆめ油断のないように」
「はい!」
「OK!」
「制限時間無制限、一本勝負! はじめ!!」
 小竜姫の右手が振り下ろされたところで、修行の幕は開けた。

「さ〜て、行くよっ!」
 まずはグーラーが先手を取った。大薙刀を斜めに構えて迎え撃つ姿勢の影法師に飛びかかり、真上から鋭い爪の一撃を見舞う。影法師はその攻撃を、薙刀を水平に差し出して受け止めた。そのまま両者、そのままの姿勢で力比べを始める。
「ぐぬぬぬ……」
「んん、ん〜〜!」
(ふしゅるるる〜〜〜〜っ!)
 影法師は一気にグーラーをはね飛ばそうと力を込めるが、パワーが足りないのかグーラーをはじき出す事ができない。
「どうしたんだい? このゴツい分身は見た目だけのハリボテかい!?」
 ニヤリと笑ったグーラー、不意に力を緩めて半歩だけ退いた。必然的に、斜め上に押し上げようとしていた影法師は伸び上がる形で体勢が泳ぐ。
「そらよ!」
「うっ!?」
 がら空きに伸びた影法師の胴に、グーラーの狙い澄ましたミドルキックが食い込んだ。容赦のない一撃に、影法師の巨体が傾ぐ。
「ホラホラ、続けていくよ! そら、そら、そらっ!」
「わっ!? きゃっ! あうっ!」
 ひるんだ影法師に、立て続けにグーラーのラッシュ攻撃。必死でガードしようとするものの、さばききれずに拳や脚が影法師にヒットし、それに同調していたおキヌが苦悶の声をあげる。
「う……このままじゃ、負けちゃう……攻めなきゃ!」
 おキヌの意志を受け、受け太刀一方だった影法師が反撃に出る。腕を振り回して至近距離にいたグーラーを払い除け、そこへ大薙刀で斬りつける。一閃、二閃、三閃! しかし、決して速いとはお世辞にも言えないスピードの斬撃だった。グーラーは横薙ぎの一撃をバックステップでかわし、斜め上に跳ね上げる二撃目を上半身を落としてやりすごし、真上から襲ってくる三撃目が当たるより速く、逆に一歩半ほど間合いを詰めて薙刀の柄を腕で受け止めた。
「はん! へたっぴいだね!」
 そしてそのまま彼女の脚が上がり、前蹴りが影法師の鳩尾あたりにクリーンヒットした。
「あ……っ!?」
 影法師が吹っ飛ばされるのとほぼ同時に、おキヌが自分の胸の下を押さえて両膝をガクリと崩した。霊体へのダメージが身体にもフィードバックしたのか、苦しげに咳き込むおキヌを冷ややかに見つめるグーラー。
「お嬢ちゃん、悪いけどあんた弱いよ。その程度じゃ、横島の足手まといにしかならないよ」
「そんな事は……わかって…るんです……」
 軽く咳き込みながら、それでも彼女なりに鋭い眼光でグーラーを睨み据えながら、おキヌは必死で立ち上がる。それに合わせるように、仰向けに倒れていた影法師も再び立ち上がった。


「――! 今、ほんの少しだけ、霊力が上がった……」
 腕を組んで二人(?)の戦いを見守っていた小竜姫が、半眼になっていた瞼を開いた。


「確かに私、今はまだ横島さんや美神さんの力になれてないって……本当に大事なときに足手まといに……ううん、足手まといどころか連れて行ってすらもらえないって分かってるんです……でも、このままじゃいけないって思ったんだから、ここにいるんじゃないですか!」
 薙刀を構え直して、影法師が再び前進する。そして、前にも増して激しい勢いで薙刀を振り回しだした。今度はさっきとは違う、防御の事など考えない猛攻撃である。
「ふうん? ま、分かってるからこそ、こんなキツい修行を受けるんだろうけどね。よ、は、と!」
「そうですっ! だから私、美神さんに追いつかないと! そうしないと―――!」
 本人の意志を反映したかのように、影法師が次々と攻め立てる。そのラッシュを的確にさばきながら、逆にグーラーが影法師の顔面に綺麗な右ストレートを食らわせた。
「つっ! ま、まだまだっ!」
「ち! まだやるつもりなのかい?」
 カウンターをさらに何発か貰いながらも、おキヌは戦意を捨てない。ダメージを受けながらも、影法師の攻撃の勢いは衰えを見せない。連続切りを全て外した後に、5回に渡って繰り出された突きが、グーラーの身を僅かにかすめる。
「くっ…! 大した根性だよ、ここまで痛めつけられといて!」
 不撓不屈と言うには大げさだが、おキヌの影法師の食い下がりぶりにグーラーがほんの少し苛立ちの表情を見せた。そして、6回目の突きを半身になって避け、そのまま一歩前に踏み込む。
「でも、これで終わりだよ!!」
 その勢いで、再び影法師にカウンターの一撃を食らわせる。今度はパンチではない、爪を伸ばしての貫手である。薄いスチールぐらいなら容易に引き裂く事のできるその必殺の一撃を、無防備な影法師の喉笛に叩き込む――

 ガキン!!

「えっ!?」
「これは――!」
 次の瞬間、グーラーと小竜姫の二人が目を見開いた。今まではカウンターを食らう一方だった影法師が、身をひねって貫手を肩で受けていたのだ。そして、貫手は鎧の肩当てに僅かに食い込んだところで止まっていた。
「やあああああっ!!」
 おキヌが気合いの叫びをあげると同時に、薙刀を離した影法師の片手がグーラーを殴りつけていた。とっさにガードして後ろに飛んだものの、ほんの少しだけグーラーの腕が痺れる。
「私、美神さんに追いつく! 追いついて―――!!」
 美神さんに追いついて、横島さんの隣に………と心の中だけで叫びながら、おキヌは無言の気合いと共に影法師を動かす。思わぬ反撃にひるんだグーラーは再びその攻撃をしのぎながら反撃のタイミングを測る。
(ふしゅるるるるる〜〜っ!!)
「何っ!? さっきより速い……いや、違う! 一撃ごとに、速く、なってる!?」
 次第に、グーラーの身体を薙刀の刃がかすめる頻度が増えてゆく。そのうち二撃が彼女の肌を切り裂き、明らかに人間のものとは違う色の血がにじんだ。

「思ったより速いですね……流石は、霊力の成長期だけありますね」
 徐々に様相を変えてゆく優劣を眺めながら、小竜姫はやや予想外そうに感心した。

「……そういう事かい! ここで戦っていれば、それだけで少しずつあの分身が学習していくって事か! だったら、ノラリクラリとやってたら本気で逆転しちまう!」
「いける……? 少しずつだけど、動きが軽くなってる……! よーし、霊力がまだ充分なうちに……!」
 試合開始に比べて明らかに速さを増したおキヌの影法師が、ここで一気に勝負をつけるべく薙刀を上段に振りかぶり、唐竹割りに振り下ろす! グーラーもその一撃の危険に気付き、僅かに腰を落としながら再び前に踏み込む。

 がしっ!!

 この一撃を、グーラーは先ほど同様に薙刀の柄の部分で受けた。両腕を頭上でクロスさせて柄を受け止め、そして間髪入れずに右ローキックを飛ばす! 狙うは影法師の体重(?)が乗っている前足である。

 がす!!

「つ……!」
「うっ!?」
 影法師が体重を後ろに戻しながら前足を内側に向けたため、グーラーの蹴りは足払いにはならなかった。いや、キック自体も影法師の脛当てに当たり、二人の脚にそれぞれ軽い痛みが走る。そして、彼女の右脚が振り抜かれた直後に影法師の前足は再び地に着いた。
「てやあぁぁぁっ!!」
「しまった……!?」
 そして、影法師が体勢を立て直すと同時に引き戻していた薙刀が真横に振るわれる。低い姿勢をとっていたグーラーは回避に移る事ができず……

 バシッ!

 刃でこそないが、薙刀の柄の刃元近くで思い切り殴り飛ばされた。そして、さらにもう一度振るわれた薙刀の刃が、ついに彼女を捉えた。

 ザン!!

「ぐあ……っ!?」
 そして血を流しながら、グーラーはついに地面に倒れたのである。


「勝負あり! 第一の試練、合格です!」
 小竜姫が高らかに宣言したところで、影法師は薙刀を戻しておキヌの傍らに戻ってゆく。ややあって、倒れていたグーラーが立ち上がった。
「あいてて……やられたよ。試合やりながら成長するなんて、ハンデきついんでないかい、小竜姫?」
「そういう性質の修行ですからね。特におキヌちゃんぐらいの年の人間は、霊力の成長も速いですから」
 グーラーにヒーリングを施しながら、小竜姫は苦笑した。

 この影法師を使った修行は、かつて小竜姫が美神に説明したように“ここ(異界空間の闘場)では直接、霊力を鍛えることができる”タイプの修行である。これは、勝てばパワーを授けるとかそういうレベルの話ではなく、文字通りの意味である。
 つまり、ここで影法師を戦わせるテスト形式の修行というのは、実は戦っている間にも影法師が経験を蓄積してほんの少しずつながら能力を高めてゆく事も可能なのである。“コツコツやるのは好みじゃない”と明言していた美神にしても(現に、三本勝負は全てかなりの短期戦だった)、影法師を使った修行をしていない横島にしてもその点には気付いていなかったが。事実、おキヌの影法師の能力は数字にすればほんの数パーセントながら総合的な戦闘力が向上していた。

「それにしてもさ、横島の名前を出した途端にやる気が上がってたね」
 ヒーリングで傷がすっかり癒えた事を確認しながら、グーラーは苦笑する。そして、何気ない足取りで法円の中のおキヌに近づき、至近距離まで近づいてからパッとおキヌの耳元に顔を近づけた。
(それって、やっぱり女になった効果ってヤツなのかい?)
「――――!!!」
 その言葉をボソッと囁かれた次の瞬間、おキヌの顔は物凄い勢いで上気した。
「な、な、な、何の事でせう!?」
(あ〜、やっぱりね。でもあたしさ、人食い鬼なんてやってる職業(?)柄、人間の調子とか何となくニオイで分かるんだよね〜。生娘かそうでないか、ってのもさ)
「……あ、あうあう……」
(ま、その辺りは内緒にしといてやるよ。でもさ、横島と正真正銘くっつくとなると前途多難だろうよ、がんばんな)
 そう耳元で告げて、グーラーは彼女の肩をポンと叩きながらその場を離れた。

「それじゃ、あたしはこれでお役御免だね。やっと、この胸のキツい状態から解放されるってもんだよ。小竜姫も、なんで胸を隠させるかねえ」
「当たり前です! ここは厳粛な修行場です、トップレスなんて公序良俗に反します! って、だからこの場で外さないように!」
 愚痴りながら胸のサラシを早速外そうとするグーラーを、小竜姫が厳格な表情で止めた。
「ひょっとして、あたしの胸に嫉妬かい? そりゃ確かに、あたしの胸は2フィートと11インチあるけどさ」
「嫉妬なんてしてません! 私だって、これでも胸回りは二尺八寸あるんですっ!」
「う……負けてる……私、二尺七寸五分……」
 茶化すグーラー、不機嫌そうに言い返す小竜姫、口惜しそうなおキヌ。なお、お暇な読者諸賢には各自センチメートルに換算してみて下さい―――作者注。

「そんじゃ、あたしゃ帰るよ。お嬢ちゃん――おキヌだっけ? この後もしっかりやんなよ」
 そう言い残して、グーラーはこの闘場に現れた時の逆をなぞるように光の中に消えていった。そして彼女が帰っていったあとの闘場には、銀色の光の塊が残される。その光はふわりと浮き上がり、影法師を銀色の光に包む。
「それでは、合格の証に最初の力を授けましょう」
 銀色の光は、影法師の中に染み込むように消えた。そして光が消えると同時に――影法師の着けていた鎧がバラバラにはじけ飛んだ。
「え? ええっ!? しょ、小竜姫さま、具足が、具足がっ!!」
「落ち着いて! 影法師自体の防御力が上がったので、必要の無くなった鎧を捨てたんです。ですから、防御力と同時に霊力の迅速性も大きく向上しています」
「そ、そうなんですか……?」

 ふしゅるるる〜〜〜〜っ

 確かに、鎧を外して白装束に赤いタスキがけという姿になった影法師は、以前よりは身軽そうだ………が、顔が女華姫のままなので今ひとつ実感できなかった。


「それでは、張り切って第二試合と行きましょうか。次の対戦相手は……っと」
 再び持ち出したガラガラを、小竜姫はジャラジャラ音も高らかに回す。出てきた玉は“七”。
「対戦相手七番! ヤーム、イーム! 出番ですよ!」
 小竜姫の呼びかけに答えるように、再び闘場が光る。そして、その光が治まった後には―――
「おーし! 出番だぜイーム……って、あれ?」
「あ、あ、アニキ、いつかの幽霊のお嬢ちゃんなんだな」
 小鬼のような風貌の小男と、プテラノドンのような面相をしたやせ形の男が立っていた。剣こそ帯びていないものの、服装は小竜姫の色違いである。現在は天龍童子付きになっている下級の竜族、ヤームとイームである。小男がヤームでノッポがイームなので、念のため。

「あ、今度はこのお二人が……って、二人なんですか!?」
「説明しておきますね。ヤームとイームは二人一組ですが、あなたと直接戦うのはどちらか一人だけです。入れ替わり立ち替わり掛かってくる二人両方から一本取れば合格です。二人同時に影法師に攻撃を仕掛けたらその場で合格ですから、二人ともそのつもりで」
「へい! それじゃ、影法師の相手だあああっ!?
ひゃぁあ゛あ゛っ!? ア、アニキ、何なんだなコイツ!?」
(ふしゅるるる〜〜〜〜っ)
「なんでみんな私の影法師を見た途端にビックリ仰天するんですかあっ!?」
 ヤームとイームは、影法師と向かい合った直後に数歩後ずさっていた。まあ、無理もあるまい。見た目が可憐なおキヌとこの影法師では、ギャップが大きすぎる。


「え〜、それでは気を取り直して……はじめ!」
 小竜姫の号令と振り下ろされた右手が、第二の試練の幕を切る。
「よ〜し、まずは俺からだ! 悪いけど嬢ちゃん、手加減はしねーぜ!」
 対戦相手の凸凹コンビのうち、まずはヤームが身長の3倍近い長さの熊手を片手に一歩前に出る。これに対して、おキヌの影法師も油断無く薙刀を構えた。
「行くぜ! まず、こいつは小手調べだ!!」
 ヤームの頭から生えた一対の角が、前に向かって伸びる。そしてその角が光るが速いか、二本の角の間から霊波がレーザービームよろしく発射された。
「きゃあああっ!?」
 さっきの第一試合で手に入れたスピードを生かして、その霊波弾を横っ飛びでかわす影法師。その影法師に、今度はヤームは熊手を構えて飛びかかる。

 キン! ガン! ガキッ!

「そら、そら、そらよ!」
「きゃっ!? わっ、わわっ!」
 突き込まれる熊手を、薙刀の柄を熊手の爪の間に噛ませる形で影法師が受け止める。最後の三合目を力一杯押し返して、僅かにヤームの体勢が崩れたところに、今度はこちらから大きく薙刀を振るう。
「ええ――いっ!」
(ふしゅるるるっ!!)

 すかっ!

 真横に振るった薙刀は、ヤームの頭上を素通りした。
「……あれ?」
「嬢ちゃん、長物振り回すだけじゃ俺たちには勝てねーぜ!」
 空振りして逆に姿勢を崩した影法師に、再びヤームの熊手が突き出される。その一撃を、再び薙刀の柄で受け止める影法師だが、すかさずヤームの角が前に倒れる。

 バチバチッ!!!

「ああぁ―――っ!!?」
 再び発射された霊波の一撃が、今度は影法師に命中した。避けきれなかった影法師がはね飛ばされると共に、法円の中のおキヌの身体を電気ショックのような衝撃が走る。
「く……ま、まだまだ――っ!!」
 出力が弱かったためか直撃ではなかったためか、それとも第一戦で防御力が上がった恩恵か。おキヌが痛みをこらえてヤームに向き直ると、すぐさま影法師は立て直して反撃に出る。

 ガキッ! ギャリ! ブゥン!

 一度開いた間合いを詰め直して突きを二回入れ、さらに袈裟懸けに薙刀を叩きつける。その連続攻撃をヤームは全て熊手の柄で受け流し、後ろに跳びすさって間合いを取る。
「だから、大振りすぎて怖くないんだってーの! しかし、けっこう粘りやがんな……」
 追い打ちで斜め上に跳ね上げてくる薙刀をもう一度受け止めながら、ほんの少しだけ後ろに視線を向ける。
「よーし、交代だ! イーム!」
 そう呼ばわってから、ヤームはササッと後ろへ下がっていった。
「え? あ……あ、そうか!」
 キョトンとしたおキヌがハタと気がついたところで、相方のイームが剣を片手に迫ってきていた。
「こ、こ、今度は俺が相手なんだな!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
 別に乱取り稽古の類ではないのだが、それでも挨拶してしまうのはおキヌちゃんの性だろう。
「あ、お、お願いするんだな。とおっ!!」
 釣られてペコリと一礼してから、イームは剣を握った手を前に突き出した。その次の瞬間、腕がグンと伸びて影法師に襲いかかる!
「わ、わっ!?」

 キィン!

 とっさに薙刀を斜めに振って剣を払い除ける影法師。ところがどっこい、その直後に今度は逆腕が伸びてきて、影法師の顔面に綺麗なストレートを食らわせた。
「あうっ!?」
 顔を殴られてのけぞる影法師、同じく殴られたような衝撃を受けて、思わず頬を押さえるおキヌ。
「あ、ご、ご、ゴメンなんだな」
 思わず謝ってしまう、気の小さいイーム。彼は妻子持ちらしいが、家庭ではどういう顔をしているのかなかなか興味のあるところだ。
「大丈夫ですっ! 行って!」
(ふしゅるるる〜〜〜!!)
 別に顔を殴られて怒るおキヌでもないが、物凄い形相で(元々物凄いご面相なのだが)影法師が斬りかかってくるので、下っ端とは言え龍族のはずのイームはたじろいだ。
「ひ、ひええっ!?」
 狼狽しながらも、振り下ろされた薙刀を剣で受け止めるイーム。
「おいイーム、何をそんなにビビってるんでぇ!?」
「だ、だ、だってアニキ、し、し、至近距離だと迫力がありすぎるんだな!」
「なんでそこまで怯えられなくちゃいけないんですかぁっ!?」
(ふしゅるるる〜〜〜〜………)
 何だか自分の影法師というより、昔の親友をけなされているような気がして、おキヌは思わず声を荒げる。
「あ、いや、よ、よ、よく見るとあ、あ、愛嬌のある顔なんだな」
「だからってご機嫌とってどーするんだ!?」
 押し合いへし合いをしながらおべっかを言うイームに後ろから突っ込みを入れるヤーム。
「だいたい考えてみろ、こんな見た目だけ強面の影法師より、メドーサの方がよっぽど怖かっただろーが! あいつは見た目はさほどでもなかったが、内側からにじみ出てくる妖気がとんでもなかったぞ!」
「そ、そうですよう! 女華姫さまは見た目によらず心の優しい方だったんですよっ!」
「あ、あのおキヌちゃん……そのお姫様の事を力説されてもどうにもならないんですが……」
 だんだんズレてきた言い争いの趣旨に、小竜姫も思わず突っ込みを入れてしまった。

「ああもう、まどろっこしい! おいイーム下がれ! 俺が代わる!」
 まだ力比べを続けている二人(?)に苛立ったヤーム、言うが早いか二人の間に割って入ってきた。
「わわっ!? あ、あ、アニキ、せ、せっかちなんだな!」
 二人と同時に斬り結んだら即座に反則負けで合格になってしまうので、イームが慌てて後ろに飛び退く。
「〜〜! ヤ、ヤーム……それは急ぎすぎですよ……」
 連携の悪さに、小竜姫も思わず額を掌でペシッと叩いてしまった。

「何はともあれ、どおりゃあ〜〜っ!
「わああ〜〜っ!?」
 力一杯振り上げた熊手を、これまた力の限りに振り下ろす。危険を察して影法師は避けたので、熊手は避けた後の石畳を破壊して石の破片を盛大にバラ撒いた。
「ホラ見ろイーム! こいつは見た目は怖いが、見た目ほど怖くはないっ! ビビるんじゃねえ!」
「わ、わ、わかったんだなアニキ!」
「こ、この人達に“見た目が怖い”って言われる女華姫さまって……」
 こんなやり取りをしながらも、ヤームと影法師は数合渡り合っていた。

「ふ…ん、さっきのグーラーの時ほど飛躍的な向上は望めませんか。成長の限界が近づくと、伸びにくくなるものでもありますし」
 容易に優劣の動かない試合を脇で眺めながら、小竜姫は独り論評する。
「でも、霊力だけが成長の対象ではありませんからね。さて、おキヌちゃんがその辺りを伸ばせるかどうか……」

「ちくしょう、この嬢ちゃん結構しぶといぜ! おいイーム、交代だ!」
「わ、わ、わかったんだな!」
 苛立った様子でヤームがまたパッと下がり、影法師が体勢を立て直したところでイームが向かってきた。
「!」
「ん? これは……」
 おキヌの眉がピクリと動き、小竜姫の表情は明らかに動いた。が、二人が言葉を続ける間もなく、イームが薙刀をかいくぐって剣で斬りつけてきた。
「で、で、でえ〜〜い!」
「くっ!?」
 真後ろに飛び退いてかわそうとした影法師だが、これは軽率である。なぜなら、影法師の動きに合わせるようにイームの腕がスルスルと伸びてきたからだ。必然的に、影法師はその剣から逃げ切る事ができない――!
「―――!!」
 イームの剣が追いかけてくるのを見た瞬間、おキヌもその事に思い至った。剣に斬られる直前にその事に気付けたのは僥倖と言っていい。下がる足を止めて、逆に前に一歩切り返す時間が残されたからだ。

 がすっ!

「ぐ……っ!」
 刃で斬られる事はギリギリで避けられたが、脇腹に剣の鍔が食い込むのは避けようがなかった。おキヌの脇腹にも鈍い痛みが走るが、委細構わずに彼女は影法師を動かす。

 バシッ!

「わだっ!?」
 薙刀の柄の部分が、イームの頭を殴りつけていた。すぐさま小竜姫の方を見るおキヌだが、小竜姫は腕組みしたまま無言で頭を横に振る――“まだ浅い”という事らしい。
「お、おい! イーム、大丈夫か!?」
「だ、だ、大丈夫、なんだな!」
「よっしゃ、交代だ! 俺が出る!」
 そして、またもやイームが下がるのを待つのももどかしげに、ヤームが影法師に躍りかかった。
「おりゃあ〜〜〜っ!!」
「きゃっ!?」
 イームとほぼ入れ違いに飛んできたヤームの霊波弾を、影法師はまたも横っ飛びでかわした。そこへ突き出されてくる熊手を、これまた薙刀で受け止める。
「そいや! せいや! はいやっ!」
「わっ!? とっ!? あうっ!?」
(ふしゅるるる〜〜!?)
 今度は、先ほどのような打ち合いにはならなかった。ヤームが猛然と攻撃を加え、おキヌの影法師はそれをじっと耐える。

「どうした嬢ちゃん!? 逃げ回ってるばっかりじゃ勝てねーぞ!?」
「く………!」
 ヤームの至近距離で放った霊波弾を、彼の右脇に回り込む形で回避する影法師――
「! あの子……」
 その様子が何かを待っているように見える事に、傍らの小竜姫は気付いた。

「く〜っ! 一体どこまで粘りやがんだ!? さすがの俺様も、ちょっとバテて来たぜ」
 有効打を入れる事ができないまま膠着した勝負に、元々気の長い方ではないヤームは苛立ちを隠せない。
「イーム、代われ! 切りがねえ!」
 そう相方に呼ばわって、またも後ろに飛んで下がる。そして、イームがそれに応えて前に出てくる―――
 これまでは、そう推移していたのだ。

「今だわ!! やああああぁぁ―――っ!!!」
(ふしゅるるる〜〜〜っっ!!)
「えっ!?」
「何っ!?」
「これは――!」
 おキヌが狙っていたのは、実はここだったのだ。二人の性格の違いに根ざす、タッチワークの隙。
 イームからヤームに代わるとき、二人の攻撃があわや交錯しかける。
 ヤームからイームに代わるとき、逆に二人の攻撃に空白の時間が生まれる――
 そして、後者の時に二人がほんの短時間ながら無防備に近くなる事を、これまでの渡り合いから彼女は気がついていた。そしてもちろん、審判を務める小竜姫も。

 ザシュ!! バシュ!!

「ごわっ!?」
「だあっ!?」
 二人がすれ違うその瞬間を、狙い澄ました影法師の薙刀が横一文字に薙ぎ払い、二人の胴を一気に切り裂いた。


「勝負あり! 第二の試練も合格です!」
 さっきと同様に小竜姫の宣言が、戦いの終わりを告げた。
「あ、あたたた……ちくしょう、やられちまったぜ……」
「ま、ま、負けちまったんだな……」
 斬られたところを押さえながら、口惜しそうに起きあがるヤームとイーム。さすが竜族と言うべきか、一本こそ取られたもののほんの軽傷らしい。
「二人とも、交代のしかたが悪いですよ。あれでは、すぐにその隙を突かれてしまいます」
「それはそうなんですがねえ、小竜姫さま……」
「あ、あ、ああいう試合形式は、な、な、慣れていないんだな……」
「ま、まあまあ……」
 負けた二人をまずは軽く叱責する小竜姫に、それを止めるおキヌ。

「あ、そうだ! 天龍童子殿下は、お元気ですか?」
 小竜姫のお小言がまだ続きそうな気配があったので、おキヌは話題を変えてみる。
「おう、殿下か? 相変わらずお元気だぞ。天界は退屈らしくて、嬢ちゃん達に会いたがっておられたぞ」
「で、で、デジャブーランドに美神達の“あとらくしょん”ができたと聞いて、い、行きたがっておられたんだな。りゅ、龍神王様のお許しが出たら、こ、こ、ここにいるパピリオって子と一緒に遊びに行くって仰っておられたんだな」
「え? パピリオちゃんと?」
「殿下には年の近い遊び友達が少ないですからね。先日妙神山の修行場の落成式をやった時に、父(小竜姫の父、玉龍三太子のこと)にくっついて下界に来た時に意気投合したみたいなんです」
 年が近いと言っても見た目の話で、実年齢で言うと天龍童子は700歳でパピリオは1歳そこそこなのだが。ちなみに小竜姫は玉龍が下界での仕事を終えてから産まれた娘なので、1400歳を越してはいない。


「んじゃ、俺たちはこれで帰るぜ。横島の奴にも、よろしくな」
「そ、そ、そのうち殿下と一緒に、で、で、デジャブーランドに遊びに行くんだな。そ、その時はよろしく頼むんだな」
「は、はい! 殿下にもよろしくって伝えておいて下さいね!」
 そんな挨拶を交わしながら、ヤームとイームは帰っていった。後には、今度は蒼白い光の塊が残される。
「それでは、第二の力を授けます!」
 さっきと同様に、光の塊が女華姫そっくりの影法師に吸い込まれてゆく。そして……

 パキィィィィン!

 ……影法師の手に握られていた薙刀が、光と共に粉々に砕けた。
「わわわわっ! しょ、しょ、小竜姫さま! な、な、薙刀が壊れちゃったんだなっ!」
「おキヌちゃん、イームの言葉づかいが伝染ってますよ? 落ち着いて、ほら見てください」
「え?」
 うろたえるおキヌをなだめながら、小竜姫は影法師を指差す。彼女がそっちに視線を移すと、光の粒子になった薙刀の破片がまた凝縮し……影法師の右手に握られた一本の太刀の姿に変わっていた。
「これは……?」
「薙刀が太刀に変わりましたね。これで攻撃力もさることながら、正確性と集中力がグンと上がっています」
 その言葉に応えるかのように、影法師が太刀を鞘から抜く。白日の下にさらされた刃は、薙刀の時よりずっと鋭そうに見えた。


「さて、それでは第三試合ですが」
「や、やっぱり小竜姫さまと、ですか?」
「そうですね。最初はそのつもりはありませんでしたが、おキヌちゃんの戦いぶりを見て気が変わりました」
 事もなげに、小竜姫は自分が相手だと明言した。

 実のところ、小竜姫はおキヌがここまでやるとは思っていなかった。
 彼女は戦闘要員としての力はさしたる事はないから、恐らく第一試合を勝ち抜けるかどうかが精一杯だろう、と思っていた。
 とは言っても決して知らぬ仲ではないから、負けたとはいえ命や全ての力を奪うような事はせず、ひとまずこの修行を打ち切る、という目論見だった。
 が、彼女は自分の思った以上に成長している。成長もさることながら、普段おっとりした彼女に似合わぬ意気込みが感じ取れる。

 となれば、最後の試練は自分が相手役を務めなければ、かえって彼女に対して失礼になるだろう……
 騎士道や武士道に近いメンタリティを持った武神らしく、小竜姫はそんな事を考えていた。


「さて、それでは始めましょうか。心配しなくても、超加速は使いませんよ」
 そう言いながら、小竜姫は影法師――実体を伴わない、より純粋な霊体に近い存在と言える姿に変身する。おキヌの影法師には既にヒーリングが施され、恨みっこ無しとして万全の体勢が与えられている。
「それでは、行きます!」
 言うが早いか、小竜姫は剣を抜いて影法師に斬りかかる。その動きは流麗にして迅速、おキヌには全く隙を見出す事ができなかった。
「きゃ……!?」

 キィン! ガキン! カィン!

 本当にギリギリのところで、立て続けに三撃入ってきた神剣を、辛うじて太刀で受け止める。その都度飛び散る火花は、霊力の衝突によるものか、それとも剣同士が打ち合った衝撃を具現化したものなのか。
「や、やっぱり強い……守ってたら負けちゃう! 攻めなきゃ!」
 そう意を決したおキヌに合わせて、影法師が反撃に出る。間合いこそ狭くなったものの俊敏かつ正確になった太刀筋で、小竜姫に立て続けに斬りつけた。
「おっ、悪く、ない、判断、ですね。でも、まだまだ甘いですよ!」
 六合までその打ち込みを受け止め、あるいは受け流し、最後の七合目を鍔迫り合いに持ち込んだ。そのまま力比べを始める両者だが、ここで全力で押し込もうとすると相手が変化してきた時に体勢を崩してしまう。このあたりは加減の難しいところだと言える……が、その辺に疎いおキヌの影法師は明らかに全力で押し込んでいた。
「甘い!」
「あっ……!?」
 力みかえった影法師の姿勢に気付いた小竜姫が身をひねってその力を逸らし、がら空きになった胴にミドルキックを叩きつけた。
「あうっ!?」
 強烈な一撃を食らって吹っ飛ぶ影法師だが、すぐさま起き上がって小竜姫に斬りかかる。
「いい気合いです。でも、気合いだけでは私には勝てませんよ」
 袈裟懸けを受け止め、逆胴を跳ね返し、突きを受け流す。そして、そのまま突っ込んでくる影法師の額に肘撃ちを叩き込み、またもや吹っ飛ばした。

「……分かりませんね。何がそこまで、あなたに力への執着を抱かせるんですか?」
 なおも起き上がって太刀を構える影法師を見据えながら、怪訝そうな表情で小竜姫は尋ねた。
「美神さんと横島さんが最前線で敵と戦い、あなたが後ろで励まし、助け、支援する。あなた達の関係はそれがベストだと、私は思っていたんですが…それを無理に崩そうとするのは、かえって危険だと思いますよ?」
「…………そのくらいの事は、私だって知ってるんです」
 少しの沈黙の後で、そう返答が返ってきた。いつもより少し低い感じの声色と共に、影法師が再び打ち掛かってくる。
「でも、それは“私たち三人”のベストであって“私”のベストじゃないんです。私だって……私だって、二人と並んで立ちたいって、思ってるんです!」


 彼の――横島の姿が、彼女の脳裏をチラリとよぎる。
 霊波刀を構え、あるいは文珠を握りしめて、美神と並んで敵に立ち向かう横島の後ろ姿。
 二人の並んで立っている姿を見るたびに、心のどこかがチクリと痛んでいた。

 除霊の時だけに限った事じゃない。大勢の人達が、彼の隣にいる。
 毎日のようにシロのサンポに付き合わされ、小鳩と一緒に学校に登校し、愛子の隣で授業を受け、そしてまた美神の隣で除霊――
 自分が隣にいられる事なんて、顧みれば他の人達に比べるとずっと少ない。
 確かにあの日、自分の気持ちをありったけ伝えた。抱かれもした。
 でも、だからって全てが満ち足りたわけじゃない。むしろ、心の中の何とはない飢餓感を自覚するようになって。


 影法師が小竜姫に向かって激しく斬りかかっている間にも、彼女の言葉は続いている。
「そうしないと……そうでないと、美神さんに取られちゃう……!」
「は? い、一体何の話……」
 ほんの少しだが太刀筋の速くなった斬り込みを受け止める一方で、何を言っているのかワケが分からなくなり、混乱しながらも霊圧を放って影法師をはじき飛ばす小竜姫。


 “あの日”の翌日、美神が横島と入れ替わっている事に気がついて、慄然とした。
 美神が横島を好いているのは、前々からよく知っていた。
 だから“あの日”、とんでもないタイミングで二人の秘め事を見られたからには、黙っていないだろうとも思っていた。
 でも、本気で自分と同じ事を試みているのを見ると、心がザワつかずにはいられなかった。
 あの二人に、とても強い絆があるという事は分かっている。
 自分が二人と出会う前、そして自分が記憶喪失だった頃、二人の間に何があったのかもよく知らない。
 そんな二人の間には、どこか割り込めないものがあった。
 でも、今は違う。少なくとも、もう譲れない。


「気がついたんです! ずっと一緒にいるためには、今の自分のままじゃダメなんだって! もっとたくさんの事をできるようにならなきゃ!」
「え゛? え゛? それって……?」
 固有名詞を口に出さないままのおキヌの独白に、小竜姫は彼女が誰の事を言っているのか何となく気付いた。
(横島さんのことを言ってる!? 彼のために、わざわざこんな――?)
「だから、決めたんです! もっと強くなって、あの人と一緒に、困難に立ち向かえるようになるって! 一緒に歩いて、一緒に笑って、一緒に泣くんだって!」

 バシュゥゥゥ……!!

 空気が変わった。
 おキヌは全く意識していなかったが、小竜姫はその原因にすぐさま思い至った。
 影法師から放たれる霊圧が上がってゆく。
 それも、美神や横島から放たれるそれと遜色のない霊圧だ。
「な…100マイト、110マイト、120マイト、130マイト……!?」
「私、GSとしてもあの人のパートナーになるって決めたんです! 自分に素質がないとか、分不相応だとか、そんな事であきらめたくない!」

 ふしゅる―――っ!!

 次の瞬間、影法師が動いた。それも、先ほどまでとは全く違うスピードで。

「なっ……!? は、速――」

「それでも私は――横島さんと一緒にいたいんです――――!!」


 武神・小竜姫も、彼女の告白に気を取られたところにこの一撃は全く虚を突かれた。

 ズバァァァ………ッ!

 影法師の振り抜いた太刀の一撃が、まともに彼女の胴を捉えていた。


「お、お見事です……最後の試練も、合格です……」
「え? え? 私、勝ったん……ですか?」
 おキヌが我に返った時、小竜姫はいつもの姿に戻って身体の砂埃を手で払っていた。彼女の傍らでは、刀を振り抜いたままの姿勢で影法師が静止している。
「勝ったんですかって……覚えてないんですか?」
「す、すみません。私、無我夢中で何が何だか……」
「無我夢中って……まあ……そういうものなのかも知れませんね……」
 勇敢な武人が初陣に臨んだ時など、時として無我夢中で戦っていたせいでその間の経過を何一つ覚えていないという事もあるという。今の彼女こそ、そういうものだったのかも知れない……と小竜姫は思った。

「人間というのは、大したものですね」
「え?」
「人を好きになる事で、あそこまで強くなれるんですから」
「あ、う……」
 その指摘で、自分が口走った事を思いだしたらしい。おキヌは顔どころか、首筋や手の甲まで真っ赤になった。
「あ、ああ、ゴメンなさい。別に冷やかしてるわけじゃないんです。ただ、感心しただけなんですから。ホントに、最後の一撃は別人のように見事でしたよ」
 実のところ、龍神である小竜姫には人間の恋愛感情というのが肌で理解できないところがある。でも、あの横島忠夫という奇妙奇天烈な若者には、不思議と人の心を惹きつけるものがあるという事も何となく理解できるのだ。自分が彼に対して抱いている“惹きつけられる気持ち”が恋愛感情と言っていいのかは、恋愛に疎い小竜姫にはよく分からないのだが。

「まあ、それはそれとして……合格した褒賞として、あなたの持っている才能を引き出しましょうか」
 そう言いながら小竜姫は影法師に手を当て、何かを口ずさみ始める。と同時に、影法師は眩い光を放ち始めた。
「我、武神小竜姫の名において、この者の中で眠りし力、今こそ目覚めるべし……!」
「ま、まぶし……っ!」
 カメラのストロボのような光に、思わずおキヌは目を閉じた。やがて、瞼越しに届く光が弱まってゆく。
「……終わりましたよ」
「は、はい……」
 小竜姫に告げられ、おキヌはこわごわと顔を覆っていた手をどけ、おそるおそる目を開き――半眼まで開いたところで、目を大きく見開いた。

「こ、これが私の影法師……なんですか?」
「そうですよ。力をつけた事で、あなたの本来の霊格が姿になって現れたんです」
 そこに立っていた影法師は、外見が一変していた。
 装束はそのままに、姿だけが変わっている。彫りが浅めの、均整の取れた顔立ち。スレンダーかつ出るところは出ている体型に、スラリと伸びた手足。腰まで伸ばしたつややかな緑の黒髪。白い小袖と袴に紅いたすき、額に黄金造りの天冠、手には金銀で飾りをあしらった刃渡り三尺の太刀。
 その外見は、おキヌがあと5〜6歳成長すればこのような造形になるだろうと思える姿をしていた。
「それにしても、ここまで劇的に姿が変わる影法師は初めて見ました」
「あ、あはは……」
 その指摘については、おキヌは苦笑するしかなかったワケで。


(おキヌちゃんは、本来なら人柱になった後は土地神になるはずだったと聞いていましたが……)
 と、影法師を見ながら小竜姫は考える。
(彼女が何のトラブルも無く神格を得ていたら、こういう出で立ちになっていたのかも知れませんね)
 が、それは一つの可能性に過ぎない。過去の“たられば”をあれこれ考えていても、それを気安く手繰るわけにはいかないのだから……


「さてと。何はともあれ第二の修行“霊能の修行”も修了です」
「はい、ありがとうございました!」
 闘場から銭湯風の更衣室に引き上げてから、おキヌは深々と一礼した。その姿は、元の巫女装束に戻っている。
「少し休憩したら、次の修行に移りますよ。第三の修行“体術の修行”は、今おキヌちゃんにとって一番のウィークポイントに対する修行ですから、決して楽にはいきませんよ」
「あ、あはは……お手柔らかにお願いしま」
「どわだああぁぁぁぁっ!!」
「す……?」「えっ?」
 二人の会話は、外から聞こえてきた叫び声によって中断させられた。
「小竜姫さま、今のは……?」
「左の鬼門の声ですね。一体何があったんでしょうか?」
 二人は顔を見合わせ、そして“女”ののれんをくぐって外へ駆け出した。


「こ、こ、小娘! お、お主は一体何を考えておるのだっ!?」
「カンニンや、カンニン。これ見よがしに扉に顔が彫ってあるから、目に防犯カメラでも仕込んであるんかと思うたんや。まさか生きてる扉やとは気付かんかった、カンニンな」
 首から下の身体に目をさすられながら、左の鬼門が文句を言っていた。その正面では、一人の女性が上方風の言葉遣いをしながらペコペコ頭を下げていた。厚めのシャツにズボン、ハーフブーツ姿。頭の後ろで結構な長さの髪をまとめ上げている。背中には横島のものよりは幾分小さいナップザックがある。
「だからと言って、物も言わずにいきなり目つぶしとは失敬な! こんな無礼な修行者は美神令子以来だ!」
「え? 美神令子って、あの美神令子? へ〜、あの美神令子も、ここで修行やっとったんか〜」
 ちょっと感心した様子で、彼女はあたりの殺風景な光景を見回した。

「初めて見る顔ですね。おキヌちゃん、知ってますか?」
「いえ、知らない人です。私や横島さんと同じぐらいの年の人ですね」
 扉の脇に何故か作られていた郵便受けから、小竜姫とおキヌは様子を窺っていたりする。

「で、私もここで修行受けたいんやけど、入れてくれる?」
「入れてやっても構わぬが、まずはお主の力量を試させてもらうぞ!!」
「うむっ! 中に入りたくば、我ら両の鬼門を見事倒してみせよっ!!」
 左の鬼門が身構えると同時に、右の鬼門も動きだした。
「おっ、入門テストっちゅう事やな。生半可な実力のヤツは門前払いってか」
「その通りだ!! さあ、かかって来い!!」
「あ、チョイ待ち。準備ぐらいさせてえな」
 そう言って両名を制してから、彼女は背中に背負ったナップザックを下ろした。中から取りだしたのは、二本の扇と一本のロープである。

「小竜姫さま、あれは……」
「神通扇と呪縛ロープですね。見た感じ、武器を使った直接戦闘を得意にしているようです」
 郵便受けからでは見づらいのか、門の屋根の上から一人と二鬼のやり取りを見ているおキヌと小竜姫である。

「「いざ参るっ!!」」
 二本の神通扇を呪縛ロープで結びつけた少女に、両の鬼門が襲いかかった。いきなり両者とも片足を高く上げ、彼女を踏みつぶそうとする。
「わぁお! 荒っぽいテストやな〜」

 ズズン!!

 そう文句を言いながらも、ギリギリのタイミングで彼女は迫り来る足の裏をかわした。
「なあ鬼門さん、このテストってどこまですれば合格なん? すっ転んだら合格? それとも立ち上がれなくなるまで痛めつけな合格にしてくれんの?」
「心配せずとも、我々を一度地面に倒せば合格だっ!!」
「まあお主の様な小娘にはそれも叶わぬ事だがなっ!!」
 そう叫びながら、今度は殴りかかってくる両の鬼門。
「ひゅう、怖っ!」
 とても怖がっているとは思えない口ぶりで、右の鬼門のパンチを避ける。そして、その鬼門の手に飛び上がって左の鬼門のパンチをかわした。そして、彼女は二人の間をすり抜けるように地面に着地し、そのままゴロゴロと転がって門に――ちょうど、両の鬼門の合わせのあたりに張り付いた。
「ぬうう! 小娘め! 少しはやるではないか!!」
「だが小娘、逃げ回ってばかりでは中には入れんぞ!!」
 そう叫ぶ鬼門達だが、なぜか首から下の力士の部分が指差した方向には彼女はいない。
「………お?」
 門の上のおキヌと小竜姫には見えなかったが、彼女はキョトンとした表情だった。

「小竜姫さま、ひょっとして……」
「そうです。鬼門は、門の顔からしか物が見えません。ですから、死角が多いんですよ」
 美神がこの試練を合格した時も、鬼門の顔に目隠しをしての勝利だった事を二人はほぼ同時に思い出した。

「ふ……ん、な〜るほど、そういうワケやな」
 そういう鬼門のウィークポイントに気付いた彼女、ニヤリと笑って門から少し離れたところに立ち上がる。
「ぬうっ! いい度胸だ、覚悟を決めたかっ!!」
「さあ、どこからでもかかってくるがいいっ!!」
 やっと彼女の姿を見つける事ができた両の鬼門、その後ろ姿(鬼門にはそう見える)に向かってビシリと指を差す。
「せやな。そうさせてもらうわ……はああ……っ!!」
 そう飄々と言いつつ、彼女は霊力を高めだした。

「霊力……あれ? 霊圧はそんなでもないのに……」
「そうですね……霊圧こそ60マイトそこそこですが、シャープないい霊力です」
 美神の威圧感バリバリなそれとは全く違う霊圧を、門の上のおキヌ&小竜姫も感じていた。

「ぬおおお〜〜〜っ!!」
 まずは、いきなり目つぶしを食らった左の鬼門が先に動いた。風切り音をたてながら、打ち下ろしの左ストレートが彼女を襲う。
「おわっと!? こんなん食らったら、即死んでまうやん!」
 そう言いながらも、少女は素早く横っ飛びでそのパンチをかわし、あろう事か次のステップでその左腕に飛び乗った。そして、そのままジャンプして左の鬼門の懐に飛び込んだ。
「てりゃ! せいっ! はいっ!!」
 そして空中で、立て続けに畳んだ神通扇で胸板を殴りつける。右で一撃、左で二撃目、そして三撃目は両の扇で水月に突きをブチかました。そして、彼女は空中でバク転しながら見事に着地する。
「ぐ、ぐおお……!?」
 ただ殴られたのではなく、霊波をこめて殴られたのではたまらない。胸を押さえながら、フラフラと後ずさりする左の鬼門。そして、その隙を彼女は見逃さなかった。
「そ〜れっ!!」
 呪縛ロープで結びつけられた神通扇の片方を持ち、もう片方を軽く振り回してから投げつけたのだ。二本の神通扇は回転しながら飛び……左の鬼門の両脚に絡みついた。
「ぬ、ぬおおおおっ!?」
 足元がフラついたところにこれは、たまったものではない。そのまま脚がもつれた左の鬼門、バランスを崩して背中から倒れ込んだ。
「おおっ!? 左のぉぉッ!?」
 後ろで控えていた右の鬼門が驚きの声を(彼女の後ろで)あげながら、拳を固めて向かってくる。今度は彼女、素手でそれに向き直った。
「馬鹿め! 得物無しで我らに勝てると思うなっ!!」
「そりゃ、そうやろうな」
 そう軽く返しながら、彼女はポケットから二枚の破魔札を取り出した。
「ぬおおりゃああああっ!!」
 その間に、左の鬼門は頭上で両手を組み合わせ、一気に真下に振り下ろす! まともに食らえば文字通りペシャンコになるであろうその一撃を、彼女は下がるどころか腕の間に滑り込む形で避けた。そして、彼女の目の前には片膝突いた左の鬼門の土手っ腹が広がっている――
「はああああ……っ!!」
「!」
「あれは……っ!」
 彼女の両手が霊気で淡い光を放つのを、小竜姫とおキヌの二人は鬼門の肩越しに辛うじて見る事ができた。

「でいっ! だあっ! はいっ! ちぇいさあぁ――!!」
 右手に破魔札を構えて掌底、踏み込んで斜め前に打ち抜く左ストレート、身体を一回転させて右後ろ回し蹴り、そして左前蹴り! その四連打が全て鬼門の腹を直撃した。しかも、最後の左前蹴りには足の裏に二枚目の破魔札が貼り付いている。
「どわ―――っ!!??」
 右の鬼門もこれには耐えられず、2メートルほど吹っ飛ばされて背中から倒れ込んだ。
「はい、一丁上がりっと」
 両の鬼門がそろってダウンした事を確認してから、少女は腰に手を当ててニヤッと笑った。


「お見事です」
「ん?」
 彼女が声の方向に振り返った時、すでに開けられた扉のところに小竜姫が立っていた。その少し後ろには、おキヌもいる。
「ここまで鮮やかな戦いぶりは、久しぶりに見させていただきました。合格までの所要時間も、歴代ベスト5に入っていますよ」
「そりゃあ、おおきに。ちなみに、ベストタイムは?」
「歴代一位ですか? 8秒ですよ」
 言うまでもなく、これは美神の立てたレコードである。
「ふ〜ん……ま、目隠しして足引っかければそのくらいでも勝てるやろうな」
「その事ですが、そうしなかったのは何か理由でも? 鬼門は門の顔を通してしか物が見えないという事、気付いていたんでしょう?」
「ん……いや、別に大した理由やないんやけど、この門って入門テストだけでなくって、適性検査も兼ねてるんやないかな〜って思ったんよ」
 そう言いながら彼女は頬を指でポリポリと掻く。
「弱点を見抜いて、それを突いて勝つか、気付かないまま正面突破で勝つか……でもせっかくやったら、“弱点に気付いて、それでも正面からぶっ飛ばして勝つ”って合格の仕方がオモロいかなって思って」
「なかなか無茶な事をしますねえ。負けたらどうするつもりだったんですか」
 とんでもない事をあっけらかんと言う目の前の不敵な少女に、小竜姫は少し呆れた。


「ともあれ、テストは合格です。中へどうぞ」
 『あいててて……』とか言ってる鬼門をよそに、小竜姫は門を大開きにする。彼女の方はというと、神通扇と呪縛ロープを回収してナップザックを担ぎ直したところだった。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私はこの妙神山修業場の管理人、小竜姫です。こちらは、今日霊能の修行にお見えになっている修行者で……」
「私、氷室キヌって言います。おキヌって呼んでくださいね」
 中華風の礼をする小竜姫の横で、おキヌはペコリと頭を下げた。それにつられて、彼女の方も頭を軽く下げる。そして、彼女は背筋を伸ばしながら、頭に手を伸ばして髪をくくっていたリボンを外す。束縛から解放されてバサリと伸びた黒い髪が、膝の裏あたりまで伸びた。


「私の名前は夏子。大阪市立天王寺高校3年、霊能部主将“真田 夏子”や。よろしくな、お二人さん」


 そう名を告げ、彼女はニッと笑った。


「まだ、つづきます!」byおキヌ


 追記


「どわ――――っ!!??」
 ドーム型野球場よりまだ広い畳敷きの道場で、横島が悲鳴をあげながら逃げ回っていた。
「お〜い横島ク〜ン、逃げ回っていないでかかって来いよ〜〜」
「……その通り。逃げるだけでは勝負には勝てん」
「ええい、それでもお主はワシの弟子か! そりゃああ!!」
「勝てるかああああっ!!! ギャワ―――!!!」
 ……むしろ、斉天大聖・天蓬元帥・捲簾大将の三人を相手に逃げおおせている横島を賞賛すべきだろう。
「頑張るでちゅよ、ヨコシマ〜〜!」
「頑張れ、横島君! パピリオの前だ、いいところ見せろ!」
「気安く言ってんじゃね〜ぞジークぅぅぅ!!!!」
 傍らで気楽な野次馬をしているパピリオとジークに対して、文句を言えるのも流石であろう。


「あっちは賑やかで、楽しそうねえ……」
「いや、僕にはとてもそうは思えないんだけど……」
「ホラホラ、集中力を乱しちゃいけないのね〜!」
 隣の小部屋(それでも200畳はある)では、愛子・玉龍三太子・ヒャクメの三人が地味〜な修養をしていた。


 あとがき


 またもやお待たせしました、いりあすです。

 中編は視点をおキヌちゃんの側に移して、彼女のパワーアップまでの裏話を書いてみました。おキヌちゃんが横島君と対決した時の技のうち二つほど、原型的なものを少しだけ出してみたりしています。

 とりあえず……彼女、出しちゃいました。これは、おキヌちゃんの妙神山の修行を思いついた次の瞬間、考えついてしまった事です。あああ、でもここまで書いた以上はもう後戻りできないっ! 最後まで書けるかな……正直自信はありませんが、このシリーズゆっくり書いていきたいと思ってます。どうぞ気長にお待ち下さい。


>スケベビッチ・オンナスキー様

 ある意味、横島に惹かれないのはモブキャラだけって気もしますからねえ。早苗や西条だって、心底横島が嫌いってわけではないと思ってるいりあすです。

 あとサイファーって、柄が剣状に持つのとトンファー状に持つの、二本ありますからね。イラストによって、両方の持ち方が確認できたと思うんですよね。(なお、いりあすはナム○プから入った口です)

>kurage様

 どうもお褒めいただき恐縮です。でも、書いた本人からすれば突っ込みどころの山だと思って常にビクビクしてるんですよホント。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMIT1~] COiq COsI