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▽レス始

「上を向いて歩いていこう その2(GS)」

hanlucky (2006-11-28 07:51/2006-11-28 08:35)
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夜のような暗闇の中、一人、忠夫は走り続けていた。

「はぁ…はぁ…はぁ……」

その姿は、何かを探しているようにも、何かから逃げ出しているようにも見える。
暗い暗い闇は続いていく。

『ただお〜』

その声に忠夫は、はっとし、辺りを見渡す。
そして、声を発した者の後ろ姿を見つけ、急いで駆け寄りそのまま抱きつく。

「お父さん!! 生きていたんや! よかっ――」
『――あれ〜? なんでお前は生きているんだ?』
「う、うわぁぁぁあああ!!?」

抱きついた者の傷だらけの体、流れ出す血、そしてその亡霊のような目が忠夫を後ろへと反射的に下がらせる。
それを、父のような者が逃がさないと、捕まえてくる。

『ただお〜何で、逃げるんだ〜?』
「はぁ、はぁ! たすけ……助けて!!」

永遠か、それとも一瞬だったか、ひたすら逃げ惑い続けて、前方に人影を見つける。
それが忠夫の知っているものだったのか、そのまま人影のほうへ向かう。

「――お母さん!? お母さん! お父さんが!!」
『ふふ、どうしたの、そんなに慌てて?』

忠夫を優しく抱きしめ、母は、頭を撫でながらあやす。

「お父さんが、体中から血がいっぱいで!! 目が…変なんや!? まるで、死んでるみたいに!?」
『あら、失礼ね? それじゃ、まるで――』

忠夫の顔を上げさせ、自分の顔を見せるようにする母のような者。

『――私も死んでるみたいじゃない?』


――上を向いて歩いていこう その2――


「――!!!」

最早なんと言っているかも分からないような、断末魔のような叫び声が部屋に響き渡る。

「横島忠夫君、起きるんだ!! 忠夫君!!」

唐巣は、悪夢にうなされている忠夫を、なんとか起こそうと体を揺さぶりながら、声をかける。
最初は暴れていた忠夫だったが、一瞬、体を起こした瞬間に目を覚ます。

「う――っう、はぁ――っつ――っく!?……はぁ……はぁ……」
「気がついたかね? 大丈夫、まずは落ち着きなさい。」

唐巣はほっと一息つくと、忠夫をゆっくりと上体を寝かそうとする。
忠夫は何か言いたげだが、唐巣はそれを制して、まずは深呼吸をするようと忠夫の精神を少しでも安定させようとする。

「少しは落ち着いたかな?……あぁ、そうだ、まずは自己紹介から始めないか?、私の名前は唐巣和弘、これでも教会の神父さんでね、唐巣神父と呼んでもらえるとうれしいかな?」

目の前に現れた、三十前後の男に動揺しながらも、いきなり自己紹介が始まったので、とりあえず自分の名前を言った方がいいと考える忠夫。

「忠夫……横島忠夫や。」

唐巣は了解の合図の代わりに笑顔を送り、まずは世間話から始める。
それは、少しでも自分への警戒を緩くすると同時に、忠夫の精神状態を落ち着かせる意味合いを兼ねていた。
そして、唐巣は慎重に忠夫の様子を見ながら切り出す。

「……どんな夢をみていたのかな?」
「…え〜と、う〜んと……なんかとっても怖い夢だったんは覚えてるんやけど……思い出せへん。」
「そっか、無理に思い出そうとしなくていいよ。じゃあ、昨日の事は覚えているかな?」

その問いに対して、返ってきた答えは唐巣の予想通りに答えであった。

「……それも思い出せへん」

誰が忠夫を攻められるか?
あの出来事は幼い少年に理解する事などできようがないのだから。
故に、本能は現実を拒否する。

「……やはり、か。」

唐巣は、忠夫が目覚めてから世間話をしていく内に、どこかずれている忠夫を見て、記憶がないのではという可能性を見いだした。
そしてこの天の采配に、感謝すべきか恨むべきか、唐巣は知らずに知らずのうちに胸の前で十字を切る。

(誤れば、少年の生を壊してしまう……)

そう、事実を伝えるべきか、それとも――

(だが、それはあまりにも卑怯ではないか!!)

――全てを無かった事にするか。

卑怯とは、忠夫に対してか、それとも唐巣自身に対して、はたまた両方か。
自分の意思ではなかったとは言え、両親の命を奪ったのは紛れも無く、忠夫の霊力という事。
それを唐巣自身の口から言いたくない弱さ。
このまま知らず知らずのうちに忘れて、逃げようとする忠夫。

「なぁ、唐巣神父〜? ずっと聞きたかったんやけど、お父ちゃんや、お母ちゃんはどこなん?」

しかし、忠夫の霊力が原因というのは一つの事実ではあってもそれが全てではない。
唐巣がもう少し早くチューブラーを倒していれば、という一つの事実もある。
仲間のGS達がもう少し使える連中であったならば、というまた一つの事実。

――絶対、幸せになれ

その言葉が、唐巣の頭をよぎる。
この少年に対して、そして、その言葉に対して、どの返答が正解なのか?
いや、正解というもの自体があるのかも分からない。
だが、答えないわけにはいかない。

――生まれてきて、ありがとう

(あぁ――そうだ。)

あの感謝の言葉を少年に伝えないわけにはいかない。
それだけの思いがあの言葉に詰まっている。
だから、逃げるわけにはいかない。

「いいかい、忠夫君、よく聞いてほしいんだ。」
「え、ん?」

正しくはないのかもしれない。
だが、決して間違いじゃないはずだ。

「キミのご両親はね……」

それを伝えるという事で、少年に大きな罪が降り掛かるというのなら、一緒に背負おう。
少年一人では重すぎる、だから少年が拒んでも、無理矢理背負ってやる。

「キミを守って亡くなられた。」
「……へ?」

自分は逃げない、逃げるわけにはいかない。そして少年も逃がすわけにはいかない。
もし、ここで逃げたら、本当にダメになる。
だからここで、言うのは、また一つの事実。
両親は忠夫を助けるために亡くなったという一つの事実。
今はそれだけでいい。

「ご両親の最後の言葉……今度こそ、忘れないでくれ。」

あぁ、そうか。
唐巣はやっと理解する。
だから横島大樹は最後にそう言ったのだろう。

――忠夫…負けんなよ

「絶対、幸せになれ。」

現実から、何よりも己自身から逃げないように。
だから負けるな、と。

「生まれてきて、ありがとう」


その後が大変であった。
幼い子供が、両親の死を、理解以前に認める事など普通しない。
説得は、その日だけではうまくいかず、長期戦になると思われた。
だが、それでも唐巣は根気よく忠夫と向き合い、忠夫もいつまでも両親が姿を現さないという事実から、唐巣の話を聞くようになってきた。
話を聞いてくれれば、次はゆっくりと、認めさせていく。
そして――

「唐巣神父……俺、ダメダメや……」
「……一体、どうしてだい?」

忠夫が、唐巣に対して、普通に話してくれるまでどれだけ大変だったか、感慨深いものを感じながら唐巣は、理由を尋ねる。

「父ちゃんの最後の言葉、忘れるなんて……ホンマダメダメやん……」
「だが、忠夫君、キミはもう知っているはずだ。なら、それでいいじゃないのかな?」

逃げたくなるのも当然なのだ。
だが、今、忠夫はそれをようやくその事実に立ち向かい認めようとしている。
だったら、今はそれでいいはずだ。

「……幸せにならなくちゃ。」

それは独り言だったのだろう。
唐巣は聞かなかった振りをして、ようやくと、これからの事を切り出そうとする。

「ところで、忠夫君。今から話すのはキミの今の体の事だ――」

忠夫の現在の状況。
今はチューブラーの浸食を抑えるため、餌となる霊力を応急処置として仮封印しているが、ここで取るべき選択肢は二つ。
一つは霊力を完全に封印して、一般人として過ごす。
もう一つは寄生しているチューブラーを倒す。
前者は簡単なようだが、もし忠夫に記憶が戻った時、忠夫は道しるべを見失うだろう。
後者は、道は険しく困難であるが、目的地は見えている。

「このまま、一般の人として、生きる方が遥かに楽だが――」
「決まってるやん!! ここで、逃げるわけにはいかんやろ!! それに、俺は負けへん!!」

それは幼きが故、無知が故なのかもれしない。
だが、唐巣はそれでいいと思っている。
既に忠夫はこの世界に入り込んでしまっているのだ。
それを途中で追い返すのは無粋。

(この子には才能がある。ならば、道を示すのが私の役目。)

罪悪感を感じなくてはいけないのだろう。
小さな子供を魑魅魍魎の世界にいさせ続けるのを。
しかし、これでも最悪の二番目だ。
忠夫の霊力(生きる糧)を奪う。
これが最も最悪なのだから。

「ならば、私に手伝わせてくれないか?」

唐巣は思い出す。
昔、彼女がチューブラーを倒せたのは、運が良かったからだけではない。
――諦めなかったからだ。

「え?……うん……正直……どうしていいかわからへんし……え〜と、お願いします!!」

あれは奇跡じゃなかった。
だから、もう一度出来るはず。

「うん、こちらこそよろしく。」

忠夫と唐巣がようやく今、握手をする。


――上を向いて歩いていこう その2完――


あとがき

おまたせしました、hanluckyです。

第一話が、あまりにも勢いだけだったんで反省っす。
そのせいで、今回は、状況確認に重点を置きました。
次回から、少しは話が動いていくので勘弁してください。

早く、忠夫から横島にもどしたいです。(子供は書きづらいな〜)
ちなみに年齢は横島は5歳前後。
唐巣は、30前後になっております。

とりあえず、いろいろと先も考え始めてますので、どうぞ最後まで見捨てないで宜しくお願いします。

追伸
――が?に化けるのは何故に?

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