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「二人三脚でやり直そう 〜第二十八話〜(GS)」

いしゅたる (2006-11-23 14:59/2006-11-24 07:13)
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 ――東京、品川駅――

 おキヌ、小竜姫、銀一の三人は、乗った新幹線がそこに到着するなり、飛ぶようにして降りた。もはや、日は沈んでいる。

「銀一さん、ありがとうございました。私はここから飛んで行きます。さ、おキヌさん」

 礼を言う間も惜しいとばかりに早口にまくし立て、おキヌの手を引こうとする小竜姫。新幹線が東京に入るなり、ただ事ならぬ強大な霊圧を東京湾の方から感じ、「もしや殿下を狙う者!?」と焦っていた。
 しかしそれに対し、おキヌの方は――

「いえ、小竜姫さまは先に行っててください。人間一人抱えては、その分現場への到着が遅れるんじゃないですか?」

 小竜姫よりも若干落ち着いていた。この辺は、逆行前の記憶を持つがゆえの余裕かもしれない。
 『以前』は自分は重量のない霊体だったので、高速で飛ぶ小竜姫に掴まってても問題なかったのだが、今は生き返って肉体を持つ身である。そんな自分を抱えていては、それだけ飛行速度が落ちると考えていた。

「私に出来るのは、ネクロマンサーの笛を吹くことだけです。霊が相手ならともかく、今回のような状況では、大して戦力にならないかと……それより、一刻も早く小竜姫さまが現場に着く方が重要だと思います」

 今回の事件の相手がメドーサであることは、おキヌには既にわかっていることだった。そして、その相手の危険性も熟知している。どう考えても、おキヌを連れて時間をロスしながら到着するより、小竜姫が一人先行して現場に到着した方が良かった。
 そのことは、小竜姫にもわかったのだろう。「わかりました」と頷くと、そのまま飛び上がり、東京湾に向かって高速で飛んでいった。

 ものの数秒でその背が見えなくなると、おキヌは改めて銀一の方に向き直った。

「なんだか慌しくてすいません……ここまで送ってくれて、ありがとうございました」

「いいって。しっかし、本当に空飛んで行ったなぁ……神様ってのは本当のことだったのか」

 東京に戻ってきて気分が切り替わったのかどうかはわからないが、銀一は最初に会った時のような方言ではなく、標準語になっていた。

「はい。下界に降りる時は、目立たないようにああいう普通の格好してますけど」

「はあ、そうなんだ……
 だけど、今日は驚きの連続だったなあ。まさか、小学校の転校以来会う事のなかった横っちの知り合いに会うなんて思わなかったし、しかもその片方が神様で、横っちは横っちでGSの卵になってるなんて……正直、理解が追いつけんわ。
 ……なんて事務所だったっけ?」

「美神令子除霊事務所です。機会があったら、今度事務所に……あれ?」

 言いかけ、おキヌは首を捻った。そういえば、今回の事件で事務所は爆破されるのではなかったのだろうか。場合によっては回避できたのだろうが、今のおキヌには確認する手段はない。
 だが、銀一はそんなおキヌの様子には気付いた風もなく、愛想笑いを浮かべた。

「はは。それじゃ、お言葉に甘えて今度のオフにでも……って言いたいところだけどな」

 と、台詞の途中で愛想笑いをやめ、その表情が真剣なものになった。

「横っち、今事件に巻き込まれてるんだろ? しかも、神様が出張ってくるほどの」

「え? ……あ、はい」

 銀一の押し殺した声音に、おキヌは何か嫌な予感がした。なんとなく、次に出てくる言葉が予想できる。

「……俺にとって、横っちは小学校の頃の一番の親友だったんだ。そいつが危ない目に遭ってるってのに、のうのうと過ごしてなんていられない。せっかく居場所がわかったってのに、再会する前に死なれでもしたら寝覚めが悪くなる」

「それってもしかして……連れて行ってもらいたいってことですか?」

 おキヌは自分の抱いた不安を、言葉にして銀一にぶつけた。その言葉を真正面から受け止め、おキヌの予想通り、銀一は首肯した。

「俺が行っても何の役にも立たないことぐらいわかる。命の危険があるってこともわかる。けど、せめて見届けさせて欲しい。このまま帰るなんて、できそうもないんだ」

「うーん……」

 言われ、おキヌは考え込んだ。現場にはメドーサという強力かつ凶悪な魔族がいて、対して銀一は素人どころかまるっきりの一般人。普通なら連れて行かないところではあるのだが、銀一の気持ちはよくわかる。何せ、おキヌも対魔族戦闘では、お世辞にも役に立てるとは言えないからだ。月の時も、あのアシュタロスの時も、何もできなかった。
 それでさえ、おキヌはもどかしさでどうにかなりそうだったのだ。もしあの時、見届けることさえ許されなかったとしたら……そう思うと、おキヌの心は息が詰まるほどにざわめく。

 ――だから。

「……わかりました。けど、影響の届かない場所から盗み見するだけですよ?」

「十分だよ」

 彼女の譲歩した言葉に、銀一は力強く頷いた。
 おキヌとて、自分の実力でメドーサの前に出ようなどとは思っていない。助けになれないで済めばまだマシで、最悪、足を引っ張ることになってしまう。ならば、銀一の傍で彼を守っていた方が、現場慣れしている分だけ役に立てるだろう。

「それじゃあ行きましょう。場所は……あちらの方角です」

「とりあえず、駅から出てタクシーに乗った方が早いか。電車だと遠回りになる」

 東京の交通事情なら、銀一の方に一日の長がある。おキヌは彼の先導に従い、改札口へと向かった。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第二十八話 プリンス・オブ・ドラゴン!!【その3】〜


 空中で対峙する魔族とアフロ吸血鬼。
 煌々と輝く月は満月。味方たる吸血鬼――ブラドーが最大の力を発揮できる状況だが、それでも相手の霊圧はかなりのものだ。一人で相手させるには心許ないが、だからといって空を飛ぶ手段を持たない美神たちが加勢できるはずもない。

(……どーしたもんかしらね……)

 美神自身、ここまで散財したのは初めてである。加えて、地上の連中には攻撃手段がないと高をくくっているのか、敵の注意はブラドーの方へ向いている。……まあ、攻撃手段がほとんどないのは間違いないので、腹立たしいことに敵の態度は至極正しいものであった。
 ともあれ、美神にとっては今回の敵は、それもあってとことんまで気に食わない存在であった。相手がどれほど強力な敵であろうと、一矢報いなければ溜飲が下がらない。

(せめて、小学生なみの悪口で神経逆撫でしてやろーかしら)

 などと大人気ないことを考え始め――ふと、隣で霊圧が上がってるのに気付いた。

「よ、横島クン!?」

 思わず声を上げる。視線を向けた先にいた横島は、両足の下に霊気を具現化させ、まるでサーフボードのような巨大な楕円形のサイキック・ソーサーを作り出していた。そのサイキック・ソーサーは横島を乗せた形で、地面からわずかに浮いていた。

「よっしゃ成功! ブルー・スラ……じゃない、名付けてサイキック・ボード! 美神さん、こいつでブラドーを援護してきます!」

「ちょっ……待ちなさい!」

 が――その声が届く前に、横島は行動を開始してしまった。一旦あさっての方向に飛んで行き、少し離れたところでUターン。距離を取ってから加速するつもりだったのだろう。そのまま戻ってきて、美神たちの上空を通過する頃にはかなりのスピードになっていた。

「ンなことに霊気を使ってたら、体の霊的防御が犠牲になるじゃないの! 危険だからその技やめなさいよ!」

 頭を押さえ、巨大サイキック・ソーサーの風圧から自慢の髪を守りつつ、通り過ぎる横島に怒鳴りつける。
 しかし――

「M○RZ戦闘教義指導要綱13番『一撃必殺』!」

 その怒鳴り声は、調子に乗って遠ざかる横島には届いていない様子だった。


(つーかおちゃらけて勝てる相手じゃねーよな)

 ネタ台詞を吐きながら美神たちの上空を通過した直後、横島は突然、スイッチが切り替わったかのように表情を引き締めた。

(……小竜姫さまがいつ来るかもわからん以上、出来ることは全部やらんと)

 そんなことを考えつつ、ブラドーばかりを警戒してこちらを無視しているメドーサへと、高速で迫る。
 このサイキック・ボードはぶっつけ本番の技だった。だが、技術的にはそれほど難しい技ではない。手の平にサイキック・ソーサーを展開する要領で足の裏でサイキック・ソーサーを作り、いつもより余計に霊力を使って大きくするだけだったからだ。
 最大の問題は自分自身を乗せて飛ばすための制御力だが、それもどうにかなっている。ここまで色々と霊力を使った上でのこの大技は、肉体の霊的防御を犠牲にしなければ出来ない芸当ではあったが――まあ、普段の自分の霊的防御力とメドーサの攻撃力を考えれば、それを犠牲にしようとしまいと結果は同じだろう。

(チャンスは一回! 注意がブラドーに行ってる今だけだ!)

 メドーサの背後から迫る、迫る、迫る――

(今っ!)

 わざわざ口に出すという愚は冒さない。軌道、スピード、距離の全てがボードをぶつけるための最高の状態となった瞬間、両足をボードから離した。
 が――その時、メドーサが横目でちらりとこちらを見た。

(――気付かれた!)

 しかし、一旦自分の制御下から離れたボードは、軌道を修正することなく、そのまま真っ直ぐメドーサへと向かう。

「ちぃっ!」

 気付いたメドーサは舌打ちしつつ、ボードを避けた。そして、避けたメドーサは今、慣性の法則でなおも空中を飛ぶ横島の目の前に来ていた。
 ――だが。

(うまくいった!?)

 横島は望外の成果に、内心で喜びの声を上げた。
 奇襲は『予定通り』失敗。元より、あの百戦錬磨のメドーサが、この程度の奇襲を察知できないはずはないのだ。
 ――本命は次である。
 実は今のソーサー、わずかに軌道をずらしていた。結果、相手の避ける方向をある程度こちらでコントロールした形になった。慣性の法則により横島自身が飛んでいく方向に、メドーサが来るように。

(……メドーサにしては、随分あっさりと誘導通りに動いたな。ま、俺を人間ごときと侮って警戒してないせいだろーけど)

 単なる推測だが、おそらくそれで間違いあるまい。メドーサに限らず、多くの神魔族は人間の力量を見下す傾向にあるのだから。
 まったく、都合の良いことである。
 ともあれソーサーを手放したことで、霊力に余裕ができる。間髪入れず、栄光の手を作り出さんと、残った霊力を右手にかき集めた。

(このまま、栄光の手でメドーサに……!)

 急速に右手に霊力を集める。メドーサは迎撃のため、刺叉を構える。
 そうしている間にも、どんどんとメドーサとの距離は縮まり――


「その胸で死なせてくださいおねーさまーっ!」

「なっ!? なんなんだお前はーっ!」


 そのまま、横島はメドーサの胸へと顔をうずめた。

(…………あれ?)

 こんなことするつもりじゃなかったのになー、と横島は胸中で首を捻った。と同時に、谷間にうずめたその頭を、グリグリと動かして堪能する。

「あったかいなー! やーらかいなー!」

「はっ、離せこんクソガキ!」

「げぶっ!?」

 ゲンコツ一発。メドーサのわりと威力の篭った一撃で、横島はあっさりとその胸から頭を離すこととなり、万有引力の法則のまま地面に落下していった。

「ああっ! そんな一瞬だけやなんて! あーでもわりとえー感触やったし、これはこれでぇぇぇっ!」

「時と場合と相手を考えろこのスカポンタンッ!」

 ずごすっ!

「ぎゃーすっ!」

 横島の体が地面に激突するその直前、横合いから放たれた美神の足がその延髄を直撃した。
 アスファルトの地面を二、三度バウンドし、倒れ伏す横島。
 が――

「何するんスか美神さんっ!」

 顔中血まみれにしながらガバッと起き上がった。上空からその様子を見下ろすメドーサは、顔を引きつらせている。

「それはこっちの台詞だ! 珍しくシリアス顔で敵に突っ込んだかと思えば、単にセクハラしに行っただけか!」

「かんにんやー! しかたなかったんやー! 奇襲しに行ったはいーんやけど、あまりのフェロモンに我を忘れて……」

「「どーゆー自我の構造してるんだアンタはあああっ!」」

 美神とメドーサ、敵味方二つの声が見事に揃った。
 メドーサに至っては、苛立たしげにボリボリと髪を掻く。

「ったく……なんなんだい。調子狂うじゃないか、あのガ……キッ!?」

 台詞を最後まで言い終わるより前に。
 背後から迫ってきた魔力砲を咄嗟に察知し、急ぎ回避に移るメドーサ。
 そこには、開いた右手をメドーサに向けるアフロの姿。

「……余を忘れてもらっては困るな」

 その言葉には答えず、メドーサはただ「チッ」と舌打ちして睨む。
 そして、おもむろに魔力砲でブラドーを牽制。ブラドーが回避行動に移ったところで、距離を詰めて刺叉(さすまた)を突き出す。
 しかし、刺叉は空を切った。直前にバンパイアミストで霧に変化したのだ。霧はメドーサの背後に流れて行き、そこで再びブラドーの姿を取る。

「吸血鬼か。面倒だねぇ」

「面倒で済むと思っているのであれば、おめでたいことだ。……コウモリよ」

 つまらなさそうに吐き捨てるメドーサに、ブラドーは不適に返す。そして、どこからともなく、無数のコウモリがブラドーの周囲に集まってきた。

「700年振りに目覚めて早数ヶ月……いまだ全盛期の力を振るえぬといえど、今宵は満月。吸血鬼の力が最大限に発揮される夜だ。貴様がどれほどの使い手かは知らぬが、ただで済むとは思わないことだな。


 ……さあ行くぞ。歌い踊れ蛇女。豚のような悲鳴をあげろ」

 どこぞの吸血鬼の台詞をパクったところで、その頭がアフロではまったく様にならないブラドーであった。


 ――それからブラドーとメドーサが戦い始め、打ち合うこと十数合――

 最初の台詞こそ、ド○フのようなアフロで決まらなかったものの、ブラドーの言葉はまさしく真実だった。

 メドーサが離れた距離から魔力砲を放つと、ブラドーは同じく魔力砲で迎撃する。しかし力はメドーサの方が上らしく相殺しきれなかったが、互いの魔力砲がぶつかった瞬間、その時発生した閃光に紛れてバンパイアミストで移動する。
 すかさず別の場所で実体化するが、見れば同時にその手の爪が真っ赤に染まっていた。メドーサに向かってその爪を振るうと、その赤い爪から血の飛沫が放たれ、刃と化してメドーサを襲った。
 メドーサが刺叉で血の刃を打ち落とすと、ブラドーはその一瞬の隙に懐に潜り込み、再び爪を赤くして振るう。しかしメドーサがその腕を刺叉の柄で受け止めると、振り抜かれることのなかった爪は血の刃を飛ばすことなく終わった。
 そのまま受け止めずに避けようとすれば、振り抜かれた爪から放たれた血の刃は、確実にメドーサの喉元を切り裂いていたであろう。
 そして、メドーサは受け止めた箇所を軸にして刺叉を操り、ブラドーの手を弾くと同時にその切っ先を突き出した。
 迫り来る刺叉の切っ先を前に、ブラドーは一瞬でコウモリたちを呼び寄せて盾にし、その影に隠れた一瞬で霧に変化する。コウモリたちを突き抜けた刺叉は、霧になったブラドーを捉えることなく空を切った。ブラドーは再び、少し離れた位置で実体化する。

 とまあ、こんな感じの攻防が続いているのだ。なにげに技のバリエーションも増えているし、普段のお馬鹿っぷりからは想像も出来ないほど、高度な戦いを演じている。

「なかなかやるじゃないのさ、吸血鬼」

「これぐらい出来ねば、美神の折檻が待ってるからな。丁稚はつらいものだ」

「……言ってて情けなくならないのかい?」

「……もう慣れた」

 呆れた様子のメドーサに、目の幅いっぱいの涙を流して答えるブラドー。なかなかに哀愁を誘う表情だ。

「哀れやなー」

 それを地上から見上げる横島は、同情の篭りまくった声でつぶやく。

「押しているのかしら?」

「や、わかんないっスよ」

 隣で同じように見上げる美神。その独り言のようなつぶやきに、横島が答える。
 彼らの背後では、ヤームとイームが天龍の前で膝をつき、涙ながらに謝罪していた。二人の言い分を、鷹揚に頷きながら聞いている天龍の様子から察するに、あっちの方は心配いらないだろう。

「にしても、随分いい戦いするじゃない。これから満月の日は稼ぎ時ね」

「…………」

 美神の言葉に、横島は返す言葉を持っていなかった。どうやらブラドーは、知らぬ間に来月から満月の夜限定で使い潰されるのが確定したらしい。横島はひそかに、胸中で十字を切ってやった。あーめん。

「しっかし、戦闘に参加できないってのはもどかしいわねー。せめて地上で戦いなさいってのよ。事務所壊されたお礼ぐらいさせなさいよ」

 額に井桁を浮かべ、半眼で空を睨む美神。

「無茶言わんといてくださいよ。空飛べる相手が、わざわざ地上に降りて戦うわけないじゃないっスか。あれに届きそうな飛び道具といえば、俺の場合ならサイキック・ソーサーっスけど、美神さんは霊体ボーガンぐらいしかないでしょ?」

「あんたに言われるまでもなく、ンなことわかってるわよ。けど、私の飛び道具が霊体ボーガンだけだと思ったら大間違いよ?」

「へ?」

 言うが早いか、美神は停めてあったボートに飛び乗った。そして、座席の下をごそごそとまさぐり、中から取り出したのは――

「ちょっ……美神さんっ!?」

「散財の痛みを思い知れ蛇ババァッ! ファイアッ!」

 ボンッ!

 叫び、引き金を引く美神。その肩に担がれた黒光りする砲身から、情け容赦のない破壊の火が放たれた。
 全長1メートルをゆうに越えるその武器は――バズーカ砲だった。
 横島は思わず「銃刀法ーっ!」と叫びそうになったが、美神のやることである。そのことに思い至り、諦観に近い(というか諦観そのもの)の思いで、その言葉を飲み込んだ。

(あーそーだった。今更こんなことで驚いてちゃいけないよなー)

 そして、横島は砲弾の行く先に視線を向ける。そこには、ブラドーの背中――があったのだが、横島が見た時には既に霧になっていた。
 バズーカの砲弾は霧になったブラドーを突き抜け、その向こう側にいたメドーサへと迫る。

「くっ!」

 メドーサは、驚異的な反応速度でそれを避けた。そして、キッと美神の方に視線を向ける。

「はっ! 不意打ちで少しは肝を冷やしたかしら? けど、これで終わりと思わないことね!」

 美神は怯むことなく、それどころか挑発までして、足元から次なる武器を拾い上げた。今度はパンツァーファウストである。
 見れば、同じパンツァーファウストがさらにいくつか、ロケットランチャーも3つほど、グレネードランチャーもあり、さらには迫撃砲まであったりする。さすがに横島は、この人は一人でどこかと戦争するつもりなのか? と顔を青ざめさせた。
 まあ、平行未来での話とはいえ、核兵器を買ってしかも使ったような人だ。その気になれば、個人で一国相手にできるかもしれない。無茶苦茶な話ではあるが。

 美神は遠慮も何もあった様子もなく、次々に武器を持ち替えてはメドーサに向けて発射する。

「クズが……いい気になってるんじゃないよ!」

 息もつかせぬ連続放火にさらされ、メドーサは苛立たしげに吼ると、反撃とばかりに魔力砲を放った。

「横島クン!」

「ういっす!」

 美神が呼ぶと同時、横島は美神の前に立ち、サイキック・ソーサーを展開して魔力砲を受け止めた。

「ぐっ!」

 が――昼に弾けたものが、今はその威力に押されている。横島の顔が、苦悶に歪んだ。
 メドーサがあの時より威力を上げて放ったのか、あるいは横島の霊力が消耗されたせいでソーサーの強度が落ちているのか、それとも両方か――いずれにしろ、これでは防ぎ切れそうもなく、わずかコンマ数秒でソーサーを突き抜けるだろう。
 迷ったのは一瞬。その一瞬で、横島は手首を捻ってソーサーの角度を変えた。ソーサーを打ち砕くはずだった魔力砲はその軌道をずらすだけに終わる結果となり、横島の背後の海面に盛大な水しぶきを上げるにとどまった。
 今の一瞬で死の危険を感じ取った横島は、ダラダラと脂汗を垂れ流し、ガチガチと歯を鳴らす。

「あっ、ああああああぶなーっ!」

「よっしよくやった! それじゃ最後の一発! 発射!」

「ってそれですか!?」

 乗りに乗った美神の声と同時、横島が即座に立ち直ってツッコミを入れる。美神の横には、いったいいつの間に用意した(とゆーかどこにしまってあった)のか、時代遅れな大砲が鎮座していた。しかも既に導火線に火がついていて、横島のツッコミが入った頃には、既に火は砲身の中に入っていったところであった。
 間髪入れず、「どんっ!」と大きな音を響かせ、大砲が発射される。その砲弾は「ひゅるるる〜」という間の抜けた音と共に、今までの苛烈な連続放火などどこ吹く風とばかりに、ゆっくりとメドーサに向かって行った。

「馬鹿にしてんのかい!」

 メドーサが怒鳴り、刺叉を振るってで砲弾をはじく。
 ――刹那――


 ドォォォォォン!


 砲弾は、超至近距離にいたメドーサを巻き込んで爆発した。そして、色とりどりの鮮やかな火の粉を「パラパラパラパラ……」という音と共に周囲に撒き散らす。
 それを見上げ、美神が口にした言葉といえば――


「たーまやーっ! あはははっ!」


 要するに、花火であった。少し離れたところでは、比較的メドーサに近い場所にいたブラドーが、火の粉を浴びて燃え始めたマントを一生懸命消火している。
 そして、花火の中心近くにいたメドーサといえば――こんがりと焦げていた。よく見ると、こめかみがピクピクと痙攣している。

「なーんだ残念。そこのブラドーみたいに、ド○フっぽいアフロになるかと思ったんだけど」

「本当に……馬鹿にしてるのかい……?」

「はんっ! あんたにゃ事務所壊された恨みがあるのよ! これぐらいコキ下ろしてやらなきゃ気が済まないのよ!」

「いい度胸だ……死んでも文句は受け付けないよ!」

 叫び、右手に魔力を集中させるメドーサ。魔力砲を放つつもりなのだろう。
 が――

「その台詞――」

「そっくりそのまま、貴様に返してやろう」

 美神の言葉尻を、メドーサの背後に迫ったブラドーが引き継いだ。同時、その爪を振るう。
 振り返ったメドーサがすかさず刺叉で受け止め、はじく。その勢いのまま距離を開け、ブラドーと正面から対峙し――

「うちの丁稚ごときに押されるなんて、大したことないわねおばはん! バストがタレて戦いのジャマなんじゃないのっ!?」

「こ……殺すっ!」

 何か気にしているところでも突かれたのか、眼下から聞こえてきた小学生並みの野次に反応するメドーサ。

「余所見とは迂闊だな……」

 が、その隙を突き、距離を詰めるブラドー。

「くっ!」

 メドーサは急上昇し、ブラドーの接近攻撃をかわす。直後に身を翻し、ブラドーの背後を取る。

「吸血鬼ふぜいが……あの女ともども死になっ!」

 そして、超至近距離で魔力砲を発射。魔力砲はブラドーの胴体を貫通し、そのまま美神の方へと迫る。
 美神は軽くステップを踏み、それを危なげなくかわした。
 が――

「……なんだ? 手応えが……」

 胴体に大穴を開けたブラドーを前に、しかしメドーサは訝しげに眉根を寄せた。
 次の瞬間――

「……ふっ」

 肩越しにメドーサを見たブラドーが、嘲笑を浮かべた。次の瞬間、その体が無数のコウモリへと変わる。

「なっ!? これは――」

「囮だ」

 声は、メドーサの背後から発せられた。ブラドーは完全に、メドーサの背後を取った。

「余の勝ちのようだな」

「……そう思うんなら、とっとととどめを刺すことだね」

「言われずとも」

 言って、ブラドーは魔力砲を放たんと右手に魔力を込め――


 ――ぞぶり。


「……っ!?」

 その右手が、突如現れたビッグ・イーターに噛まれた。
 ビッグ・イーターの尾は、いまだ背中を見せるメドーサの長い髪に繋がっている。

「こ、これは……!」

 うめく間も、その右手から石化が始まっていた。ブラドーは急速に石化する右手を押さえ、メドーサを睨みつける。

「まったく……人間と吸血鬼なんて、あたしから見ればクズも同然だったから手加減してやりゃあ、調子に乗ってくれて……背後を取った程度で油断するなんて三流以下だよ? あたしは、髪の毛からビッグ・イーターを無限に生み出すことができるんだ。残念だったね」

「ぐ……不覚……」

 そのつぶやきを残し――ブラドーは、全身を石へと変えた。そのまま、地面へと落下する。
 それを見た美神と横島は青ざめる。

「やばいわよ横島クン! 砕けたりしたら、元にもどらないわ!」

「や、やっぱり!?」

 二人はそう言いながら、ブラドーの下へと走り出す。
 が――

「はん! 次はあんたらだよ!」

 その言葉と共に、二人の前方に魔力砲が降ってきた。

「くっ!」

 魔力砲が地面に着弾した爆風で、二人の足が一瞬止まる。
 しかし、その一瞬が命取り。もはや、落下するブラドーを受け止めるのは不可能になってしまった。

「やばい……!」

 ――しかし。

『『心配無用!』』

 その声が耳に届き、見てみればブラドーの落下地点に鬼が二人。
 その鬼――鬼門は、落ちてきたブラドーを危なげなくキャッチした。

「鬼門!」

『『うむ!』』

 歓声を上げる美神に、力強くサムズアップする鬼門たち。
 しかし――続く言葉は。

「いたのあんたら!?」

「あ、すっかり忘れてた」

「しまった! 影が薄かったからノーマークだった!」

『『えええっ!?』』

 美神、横島、メドーサの三人が次々に放った非情な言葉に、ビッグ・イーターに噛まれたわけでもないのにピシリと石化する。
 そのまま、二人揃って地面に膝をつき、地面に「の」の字を書き始める。

『なあ、右の。我らの存在意義って……』

『言うな、左の……』

 つぶやきながら、さめざめと泣き始める鬼二人。うっとーしーことこの上ない。
 美神たちとメドーサは、それを華麗にスルーし、再び視線を絡み合わせる。

「さて、それじゃ次はあんたらの番だよ」

 メドーサは右手に魔力砲を放つべく、魔力を集中させる。その位置は空の上にあり、美神たちの攻撃範囲を完全に外れていた。
 そして――魔力砲が発射される。

「素直に食らわないわよ!」

 美神はそれをかわそうと身を捻り――


 ドォォッ!


 しかしその魔力砲は、美神に届く前に爆発した。美神と横島の方には、少しばかりの爆風が届いただけで、何のダメージもない。

「……え?」

 予想外のことに、目をぱちくりさせる美神。その目の前には――神剣を構える、赤い髪の少女の姿。

「小竜姫さま!?」

 横島が歓声を上げる。そう――その少女は、まごうことなき小竜姫であった。

「仏道を乱し、殿下に仇なす者はこの小竜姫が許しません! 私が来た以上、もはや往くことも退くことも……」

 声高に名乗りを上げる小竜姫――だが、その口上は最後まで言い終わることなくぶつ切りにされた。
 小竜姫の視線が、メドーサのある一点に向けられる。

「…………おまえは竜族危険人物ブラックリスト『は』の5番、全国指名手配中、女蜴叉(メドーサ)……」

「……どこ見て言ってるんだい?」

 メドーサはジト目で小竜姫を睨みつつ、さりげなく手で胸を隠した。


 ――あとがき――


 2週間以上も空けてしまいました……すいません。ブラドーの戦闘シーンがまったく思い浮かばず、四苦八苦してました。スランプかもしれません。
 ともあれお待たせしました。二十八話をここにお贈りします。もー少し進めるつもりでしたが、文章量的に一話としてこれぐらいで終わらせた方がいいという基準を一応持ってるんで、あとは次回に持ち越しで。
 巨乳が相手なので、次回は「!壊!」がつきますw 乞うご期待w
 ……そういえば、ブラドーの一人称って「余」だったんですよね……今更気付きました。今回からそうしてるんで、前回までの分は順次修正しときます。

 ではレス返しー。


○1. 盗猫さん
 ブラドーのあの台詞は勢いで書いただけなんですが、思いのほか好評で戸惑ってます(^^;

○2. 山の影さん
 夏子の登場は一応考えてはいますが、まだ後の話になりますね。原作では回想シーンで一度出たっきりだから、どういうキャラ付けしようか迷ってますが。
 天龍の髪は、カラーで見たことなかったから赤髪ってことにしちゃいました……紫だったんですか……

○3. アイクさん
 きっと、イーグル号が美神さん(主役だし)で、ジャガー号が横島くん(ボインちゃん好きだし)で、ベアー号がブラドー(余りものの端役)だと思いますw

○4. ミアフさん
 ブラドーは来月から満月限定でコキ使われることが確定しました。これで丁稚根性が魂の髄まで染み込むことでしょうw

○5. ジェミナスさん
 ブラドーvsメドーサは、意外とまともに進みましたね。むしろ、美神と横島が不真面目だった気がw

○6. がちゃぴんさん
 とりあえず、日は沈んでます。……そういえば、事務所が壊れてから日没まで、どうしてたんだろう?

○7. wataさん
 夏子はまだ先になりますね。どういう扱いにするべきか迷ってるというのもありますが(^^;

○8. 秋桜さん
 ブラドーはお馬鹿さんですので、決めようと思えば思うほど様にならない仕様ですw

○9. 長岐栄さん
 銀ちゃんもおキヌちゃん争奪戦に参戦させよーかなーって思ってますw そして、予定ではさらにあと一人参戦予定。……もっとも、最後の一人に関しては誰も予想できないと思いますが(ニヤリ
 ちなみに、三人目の参戦は意外と近いです。

○10. ncroさん
 満月なので技のバリエーションも増えて、結構メドーサと戦えました。最後は不覚を取ってしまいましたが。

○11. とろもろさん
 原作でも大阪いってましたしねー。永遠の謎ですw メドーサがトラウマになるほどのセクハラは、さすがに無理でしたw

○12. スケベビッチ・オンナスキーさん
 禁断の召喚呪文は、今後使う機会があるかどうか微妙です(^^; まあ、なくても小竜姫さまは壊れますけど(ぇー

○13. 黒覆面(赤)さん
 銀ちゃんは今回直接的には関わりません。彼に関しては天龍編終了後に。

○14. 西山さん
 もちろん、元ネタは無能警官バリヤーですよ? 今度、問答無用調停装置エドゲイン君一号とか鬼門叩き機とか鬼門挟み機とか、横島くんに作らせてみよーかなーとか思ったりw

○15. わーくんさん
 ブラドーはかっこいいやらアホらしいやらで、意外と見せ場あるかもです。今回はこれで退場ですが(^^;

○16. 内海一弘さん
 銀ちゃんは一緒に東京です。しかもおキヌちゃんと一緒に戦場に向かってます。さてどーなることやらw

○17. 琉翠さん
 夜じゃないと出番ないですからねー。自然、昼間が舞台の時は登場しないんです。忘れられるのも無理ないかと(^^;

○18. MR.Hさん
 メインヒロインは間違いなくおキヌちゃんですからね。他のキャラにもスポット当てたいので、おキヌちゃんばかり贔屓にってわけにはいかないのが難点ですけど……心配なさらなくても、最終的には横島くんの隣に立ってもらいますよー。

○19. 木藤さん
 なるほど。東“京”を目指して“京”都に向かって爆走したわけですかw 意外な新説です! きっとR・田中一郎みたいなことしてたんでしょうねーw

 レス返し終了ー。では次回、壊れ表記つきでお会いしましょうw

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