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▽レス始

「光と影のカプリス 第40話(GS)」

クロト (2006-11-20 18:38)
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 黒いタキシードに身を固めた壮年の男性が、人目を忍ぶようにして夜の街路を歩いていた。
 端正な顔立ちをしていたが、今は苦痛にゆがんでいる。ひどく疲れているようにも見えた。
 服の何ヶ所かは血に染まっており、コンビニの袋を提げた右手の爪はいびつな形にひび割れている。まるで殺し合いでもしてきたかのようだ。

「くそっ、あの人狼め。犬っころの分際で最強の吸血鬼の1人である余にここまでの手傷を負わせるとは……」

 ピートの父親のブラドー伯爵である。
 タマモが感じた「アンデッド系の臭い」の発生源だ。ゾンビやグールと一緒にするのは失礼なほどの高等な不死族だが、タマモは「純血の吸血鬼」の臭いは初めてなのでそこまで区別できなかったのである。
 以前ピートに咬まれて服従の魔法をかけられたのだが、父親の意地にかけてそれを破り、彼に復讐するために苦労して日本までやって来たのだ。
 おかげでだいぶ消耗してしまったが、それでも1対1なら普通に戦えば勝つ自信がある。あの時は咬み合い勝負に行ったから負けただけで、地力では純血の吸血鬼である自分の方がはるかにまさっているのだ。
 しかしピートは仲間を大勢連れていた。今の自分では不覚を取るかも知れない。
 そこでまずは優秀な下僕を何人かつくることにしたのだが、その第1号が人狼族の男というのは悪くなかった。
 人間より強いぶん下僕にするのは大変だが、1度吸血鬼化してしまえば人間のGSなど足元にも及ぶまい。
 腰に剣を吊り下げていたが、別に脅威には感じなかった。そんなもので自分を倒せるわけがないし、ブラドー自身も爪を長く伸ばして鋭利な刃物に変えることができる。人間と違って人狼は丈夫だから、血を吸う前に多少傷つけても支障はない。
 人狼がわざわざ夜の公園に行ってくれたのも好都合だった。ブラドーは現在の世界情勢には疎いが、人前で吸血行為に及ぶのは宜しくない事くらいは理解している。
 たかが人狼1匹相手に背後から奇襲するなど、世界の王となるべき者がすることではない。ブラドーは人狼の正面から堂々と姿を見せ、吸血鬼の一族となる栄誉について語り始めた。
 ところがくだんの人狼は野蛮にも、彼の話をまともに聞こうともせずに斬りかかってきたのである。

「腕前はたいしたことなかったが、あの剣は反則じゃないのか、くそ……」

 ブラドーの爪もけしてナマクラではないはずなのに、人狼が持っていたシミターみたいな剣はそれをまとめて叩き割ってくれたのだ。
 おそるべき霊剣で、ブラドーといえどもまともに斬られれば致命傷になるだろう。貴族のたしなみとして西洋剣術を修めていたから良かったが、そうでなければ今ごろ命はなかったに違いない。
 接近戦は不利だ。ブラドーは空中に飛び上がって、魔力砲で叩きのめすことにした。人狼は遠距離攻撃の手段を持たないから、これなら一方的に打ち倒すことができる。
 ところが人狼が気合をこめて剣を一閃すると、そこから何枚もの霊波刃が飛び出してきたのだ!
 魔力弾と相殺されたおかげで全部は食らわなかったが、傷口から大量の魔力を吸い取られた。
 この獲物は危険すぎる。そう判断したブラドーは、ほうほうのていでそのまま逃走したのだった。

「このままでは済まさんからな、犬め……!」

 しかし今は身を隠さねばならない。空を飛んで逃げたから人狼といえども臭いで追うことは出来まいが、この街にはピート達もいる。いま出くわしたら今度こそ殺されるだろう。
 もはや下僕をつくるどころではなかった。一刻も早く隠れ家に戻って体を休めなくては。

「しかし何が悲しくてあんな薄汚い廃ビルの地下にこそこそ隠れねばならんのだ……」

 人、それを自業自得という。


 一方、人類の支配をもくろむ悪の吸血鬼を撃退するという奇功を立てた人狼の剣士だが。こちらも公園から離れて人通りのない路地裏に移動していた。戦いで騒音を立てたので、人が来る前に退散したのである。どうやらあまり人目につきたくないらしい。
 それも当然だろう、彼こそが例の通り魔事件の犯人なのだから。本日の獲物を求めて街中を徘徊していたところで、偶然ブラドーに出会ったのだ。
 名前を犬飼ポチといって、人狼の里から秘宝の剣「八房」を盗んで抜け出してきた男である。江戸時代の浪人のような格好をして、頭には編み笠をかぶっていた。

「くくくく、吸血鬼の魔力か……思わぬ拾いものだったな。人間の霊力よりずっといい……!」

 霊波刃が吸ったエネルギーは剣の使い手の物になるようだ。犬飼はブラドーと戦う前に比べて霊圧が一回り強くなっていた。
 彼も相殺しきれなかった魔力弾を受けたためかなりの傷を負っているのだが、そんな事はどうでもいいかのように、夜空に輝く月を見上げて哄笑した。

「しかしさすがは妖刀『八房』、吸血鬼をものともせぬとは……! これなら新たなる『狼王』誕生の日は近い! くはははははは!!」

 これこそ犬飼が辻斬りを繰り返していた理由である。
 妖刀が吸収したエネルギーを体内に蓄え、それを起爆剤として人狼族が太古の昔に封印された「大神(おおかみ)」の力を解放しようというのだ。
 しかもさっきの件は彼に1つの知見をもたらしていた。一般人を大勢襲うより、霊力が強い者少数を襲う方が効率が良いということである。考えてみれば辻斬りなんてそう頻繁にやれる事ではないのだから、獲物はより美味しいものを厳選すべきだろう。
 まずは先ほどの吸血鬼を追いたい所だが、臭いは途切れていたし、魔力弾の傷が癒えるまで今少し時間がかかる。

「まあいい、臭いは覚えたからな。次に会った時は必ず狩ってやる……!」

 犬飼は再び月を見上げて、高笑いしながら物騒な誓いを立てるのだった。


「……てなことがあったんだよ。おまえらも夜出歩く時は気をつけろよ」

 その翌日。霊能部の設立は保留になったものの除霊委員が会合を持つこと自体は全会一致で可決していたので、横島はさっそく他のメンバーに昨夜の出来事を教えていた。
 キヌとピートに話せば令子と唐巣にも伝わる。くだんの人狼とアンデッドが辻斬りかどうかは分からないのだからむやみに言い広めるわけにはいかないが、この2人には報せておいた方がいいだろう。

「へえ、そんなことがあったんですか……あ、そういえば昨日先生にGS協会から協力要請が来てましたけど、横島さんたちの所には来ましたか?」

 昨日の夕方ごろ協会から唐巣に電話があって、辻斬り犯捜査の件で今日オカルトGメン事務所に出向いて欲しいと依頼されたらしい。
 今回の辻斬り事件の被害者は切り口が普通と違うというだけでなく、運良く命が助かった者もまるで生気を根こそぎ吸い取られたかのような衰弱ぶりを示していた。それでオカGが警察に検視を依頼されたのだが、被害者と検視報告書を見た美智恵もやはり小竜姫と同じ結論に達していた。
 1日も早く犯人を捕らえなければ、犠牲者が増えるのはもちろん霊刀自体が強くなってますます危険になっていく。しかし美智恵1人では手が足りないため、死津喪比女の時と同じようにGS協会を通して応援を依頼したのだ。

「いや、うちには来てねーよ。まだ無名だからかな?」

 小竜姫の正体は一般には秘密だから、開業したばかりの小山事務所の実力を知る者は少ない。美智恵が直接声をかけるのならともかく、協会を通しての正式な依頼だから、無資格者をルーキーが補佐してやっているような事務所の名を挙げるわけにはいかないのだ。
 しかしオカルトGメンとGS協会はある意味商売敵だから、美智恵が協会の頭越しに直接個々のGSに仕事を依頼するのはケンカを売ってるようなものだし、当のGS達にも迷惑がかかる事になる。

「そうなんですかー。美神さんの所にも電話がありましたけど、じゃあ今日は横島さんたちは来ないんですね」

 キヌは少し残念そうだ。横島にとっては幸運なことかも知れなかったが。
 ピートも相手の土俵で戦えるカリンと小竜姫が参加しないことに勿体なさそうな顔をしたが、さほど深刻には考えていない―――仮に犯人の霊刀使いがその人狼やアンデッドだったとしても、空中から霊波砲で攻撃すれば倒すのは容易だから。
 実はその戦法は通用しないことは彼の父が身をもって示してくれているのだが、残念ながらピートはその事実を知らない。

「ま、うちが行かなくても支部長さんたちが本気になりゃすぐ片づくだろーけどな」

 と横島がひどく楽観的な観測を口にする。
 何しろあの死津喪比女を軽く滅ぼしたチームが再結成されるのだ。辻斬りなんぞ束になってもひとひねりだろう。
 横島もカリンと2人で辻斬り1人に当たるなら、多少の霊力差はくつがえす自信はある。しかしわざわざ強い霊刀使いとケンカしたいと思うほど仕事熱心ではないから、呼ばれなかった事にむしろ安堵していたりするのだった。
 ―――まあ、横島だからそんなもんである。


 その日の夕方、日暮れごろ。オカルトGメンオフィスにはピートが言っていた通り、美智恵が呼び集めた日本トップクラスのGSが勢ぞろいしていた。
 彼女とその娘の令子、そして氷室キヌ、六道冥子、小笠原エミ、魔鈴めぐみという錚々たるメンツである。しかしなぜか唐巣とピート、雪之丞の姿は見えなかった。
 謹直な唐巣が連絡もなく遅刻するとは珍しい。美智恵は教会に電話を入れてみたが、受話器を取る者はいなかった。
 少し胸騒ぎがしたが、すでにこれだけの人数に来てもらった後である。美智恵は旧師のことはとりあえず頭から追い出して、予定通り依頼の内容の説明を始めた。

「……ということで、被害者はすでに10人。例外なく刃物でズタズタに切られています」
「―――! これ、霊刀で斬られた傷ね。ママ」

 資料として配布された写真を見ていた令子がそう言って顔を上げる。
 美智恵は「仕事中はそう呼ぶのはやめなさい」と公私の区別を強調しつつも、娘の眼力の確かさには満足して頷いた。

「霊刀は使えば使うほどその力を増すわ。一刻も早く犯人を捕らえないと手強くなる一方なのよ」

 そして今度はぐるっと出席者の顔を見回して、

「しかし皆さんも知っての通り、今オカルトGメン日本支部の実働人員は私1人しかいません。そこで今回も皆さんにご協力をお願いしたという次第です」

 と説明を結ぶ。
 彼女がいう実働人員とは、事務員などを除いた現場で実際に除霊に当たる霊能者という意味である。それがまだ美智恵1人しかいないというのがオカGの厳しい人員事情を物語っていた。
 それはともかく、出席者の中でエミだけは美智恵と初対面である。そしてオカGの日本上陸でかなりの実害を受けてきた人物でもあった。
 ある時系列と違って美形の半吸血鬼が来ていないので話をまじめに聞いてはいたが、その顔つきは決して好意的なものではなかった。

「オカルトGメンができて以来、警察は払いがシブいのよねー。
 というかこの仕事って報酬ちゃんと出るの?」

 警察から見るとオカGは人数が少ないから急ぎの仕事には向かないが、何せ無料だから値切りのネタには最適である。そのせいでエミは不利な交渉を強いられているのだ。
 それでもまともな依頼料を支払うなら、エミもこれ以上嫌味を並べる気はなかったが……。

「……。一応謝金は出ますけれど……」

 しかしこの話題になると美智恵も顔色が冴えなくなる。タダで仕事を手伝えというほどオカGも偉ぶってはいないが、内部の職員との兼ね合いもあってその報酬は少なめだ。オカGの備品を貸し出すことはできるし保険の類も整っているから赤字をかぶせるような事はないが、令子やエミといった一流どころが満足できる金額はとうてい出せなかった。
 といってエミが強欲というわけではない。時には命を的にして戦うのだから相応の報酬を求めるのは当然のことで、唐巣や冥子、魔鈴のような金銭面を気にしないタイプの方が少数派なのだ。死津喪比女の時は部外者はこの冥子と魔鈴だけだったので問題にはならなかったけれど。

「それじゃ話にならないわね。悪いけど私はパス」

 とエミが立ち上がると、隣に座っていた冥子がつまらなさそうにそのスカートの裾をつまんだ。

「えー、エミちゃん帰るの〜〜〜? 一緒にお仕事しましょうよ〜〜〜」
「イヤよ、私はあんたと違って人生シビアに生きてんの。だいたい私たちオカルトはプロだけど、剣術は素人なのよ? あんたは式神が守ってくれるかも知れないけど、私はそーはいかないんだから」

 とエミが冥子の手を振り払ってまくし立てた。彼女も人並み以上の運動神経を持ってはいるが、辻斬りの腕次第では一撃で殺されるという事もありえる。むろん簡単に先手を取らせる気はないが、報酬と危険度が釣り合わない仕事はノーサンキューだ。

「……そーいえば令子、あんたずいぶんおとなしいわね?」

 自分よりずっとがめついはずの令子がひとことも文句を言わない事に不審を感じたエミがライバルの顔を訝しげに見つめ出す。その視線の意味を察した令子は顔を真っ赤にして怒鳴り返した。

「うるさいわね! 私だってお金ばかり追いかけてるわけじゃないのよ」

 本当は美智恵の泣き落としに負けただけなのだが、そんな事を素直に白状するほど令子はバカ正直ではない。
 エミはちょっと意外そうな顔をしたが、だからといって方針を変更するほどのことでもないわけで。

「ふうん、ま、いいわ。せいぜい気をつけなさいね」

 とオカGオフィスを出て行った。


「…………。みなさんは協力していただけますか?」

 部屋に残った4人に美智恵が改めて応援を依頼する。エミが帰ったのは残念だろうし、冥子たちに対しても気まずいものがあっただろうが、感情を押し殺した毅然とした態度は現場指揮官として申し分のないものだった。

「あ、はい。あんまり役に立たないかも知れませんけど」
「みんなと一緒だったら〜〜〜」
「これも良き魔女の務めですから」

 キヌは令子の従業員として来ている身だし、冥子と魔鈴は前回も同じ条件でやっている。別に不満はなかった。

「ありがとうございます。それでは説明を続けますので、資料の3ページ目を開いて下さい。犯行の日時と場所を地図に落としたものなのですが……」

 美智恵が感謝の言葉を述べて、いよいよ犯人逮捕に向けた具体的な行動の話に移る。犯行パターンを分析して次の出現地点を予測しようというのだ。
 彼は満月の前後、場所は23区内を円を描くように移動している。意図は不明だが非常に分かりやすい動き方で、待ち伏せするのは容易だった。

 ―――バタン!

 そこへ不意に入り口の扉を乱暴に押し開ける音が響いた。今話していることの内容が内容だけに、美智恵たちが一斉にざわめき立って身構える。
 その5対の視線の先に現れたのは。もしやと危惧された辻斬りなどではなく、体に何ヶ所かの切り傷を負ってぐったりしている唐巣と、それを肩で支えるピートの姿だった。


 美智恵はキヌに唐巣の手当てを頼むと、ピートから直接事情を聞くことにした。雪之丞がいないのが気がかりだったが、その理由はすぐ明らかになるはずだ。
 ピートもそのために来たのだから否は無い。早口で経過を話し始める。

「実は教会が例の辻斬りに襲われたんです。それもただの人間じゃなくて人狼の剣士に!」
「人狼の剣士ですって!?」

 美智恵がさっと顔色を変えた。そんなものが相手では、人間用の作戦計画など全く通用しないではないか。

「はい、時代劇に出て来る浪人みたいな格好をしたやつでした。どうやら斬った相手から霊力を吸い取るのが目的みたいで……!」

 教会を襲ったのはもちろん犬飼ポチである。彼は最初ブラドーを標的にしていたのだが、ブラドーは用心深くコンビニで買った消臭剤を隠れ家にまいていたので発見できなかった。それで似た臭いを持ったピートに目をつけたのである。
 十字架が苦手なはずの吸血鬼が教会にいるのを不思議には思ったが、まあささいなことだ。
 礼拝堂の扉を開けて中に入った犬飼は、唐巣や雪之丞と打ち合わせをしていたピートを見てにやりと犬歯をむき出した。

「やはり昨日の奴とは別人か……だが霊能者が2人もおまけについているとは有り難いな」
「誰だ!?」

 扉の方に目を向けた唐巣たちが瞬時に戦闘態勢に入る。何しろアポなしで来たこの来訪者は殺気を隠そうともしていないのだ。
 浪人風のいでたちに、腰に差した刀。どう見てもこの男が辻斬りの犯人だが、路上で人を斬るだけではあきたらず民家の襲撃まで始めたというのか?
 彼の目線から自分が目当てらしいと感じたピートが、

「妖怪……人狼か!?」

 男の霊気は明らかに人間と質が異なる。今日の横島の話からすれば人狼かアンデッドだが、ゾンビの類には見えなかった。なら人狼の方だろう。
 人狼は昼間は普通の獣になると聞くが、この侵入者から感じる霊圧はかなりのものだ。もう夕暮れ時だし、レベルアップすれば何とかなるのかも知れない。
 男の標的が自分だとすると「昨日の奴」というのが誰のことなのかも気になるが、今は彼の動きに神経を集中するべきだろう。

「どうやら全部分かっているようだな。なら御託はいるまい、死ね!」
「何!?」

 男が振るった日本刀から何枚もの刃が飛んで来る。唐巣たちはとっさに横に飛び、あるいは体をかがめて避けたが、3人の真ん中にいた唐巣はかわし切れず、肩と腿に傷を受けた。

「くっ……これは!?」

 痛みに思わず膝をついた唐巣だが、同時に妙な感触を味わっていた。

「先生、大丈夫ですか!?」
「2人とも気をつけろ! あの刃で斬られると霊力を吸われる」
「何ですって!?」

 霊波刃を飛ばして来るだけでも危険なのに、そんなおまけまでついているとは。これでは空中から一方的に攻撃するという手法は通用しない。
 接近戦を挑まれずに済むという利点はあるが、傷ついた師匠を置き捨てて飛びまわるのは弟子としていかがなものか。

「野郎!」

 雪之丞が魔装術を発動し、手加減抜きの連続霊波砲を叩き込む。殺す気で来た化け物相手に情けは無用、というかそうしなければこちらが殺られる事を雪之丞は本能的に理解していたのだ。

「ふん、ちょこざいな!」

 しかし犬飼が刀を振り回すと、再び霊波刃が放たれて雪之丞の霊波弾をあっさりと斬りつぶしていく。
 正確には相打ちだったが、余った刃が1枚雪之丞の方に飛んで来た。

「ちっ!」

 反射的に顔を腕でかばう雪之丞。直後に閃光がその右腕を叩く。魔装のおかげで斬られはしなかったが、にぶい衝撃で腕が痺れた。
 ちなみに八房は霊刀以外なら何でも斬れると言われているが、ここでいう霊刀とは「霊力を帯びた武器・防具」という意味である。それなりの強度を持っていれば耐えることは可能だ。

(こ、こいつ……強え!)

 雪之丞が内心で驚嘆する。スピードやパワーはともかく、この手数の多さはとんでもなく厄介だ。あるいは勘九郎以上かも知れない。

「でも2人でならっ!」

 とピートが唐巣を背後にかばいながらもダンピールフラッシュで参戦する。さすがの犬飼もこの横撃には対応できず、顔や胸にまともに食らってよろめいた。

「どうだ!?」
「おのれ、こしゃくな!」

 しかしピートの魔力弾はブラドーのそれよりは弱いし、逆に犬飼はブラドーの魔力を吸って強くなっている。すぐさま立ち直って再び八房を振るった。
 後ろに唐巣がいるから、ピートは逃げるわけにはいかない。魔力砲で迎撃するしかなかったが、そこに雪之丞が割り込んだ。

「ぐおあっ!!」

 8つの斬撃を全身に浴びた雪之丞が痛みにうめく。GS試験以後も修業は続けていたおかげで斬られてはいないが、衝撃で目がくらんだ。
 それでもすぐに体を起こして、後ろのピートに方針の変更を提案する。

「ピート、このままじゃジリ貧だ。俺がここで奴を引きつけるから、おまえは旦那を連れてオカGに行け!」

 このまま飛び道具を撃ち合っていたらこちらが先にへたばるだろうが、素手の間合いまで踏み込めるとも思えない。しかしピートが霧になれば、唐巣を連れて脱出することはできる。
 ピートが霧化で連れて行けるのは1人だけだが、雪之丞も空を飛べるから逃げることは可能……と言いたいところだが、人狼の脚を引き離せるほど速くはないし、かといって下手に高度を上げ過ぎたら標的全員を見失った犬飼が地上で何をするか分からない。
 よって、気は進まないが援軍が来るまで自分が囮になることにしたのだ。今オカGオフィスにGSが集まっているはずだから、そう長時間待たされることはなかろう。

「分かった、頼んだぞ雪之丞!!」

 悩んでいる暇はない。ピートは唐巣を包み込むようにしてバンパイアミストを発動すると、2人一緒に八房の斬撃がつくった壁の割れ目から抜け出したのだった。


「―――というわけで、今雪之丞が1人で戦ってるんです。すぐに応援を!! 小……小山さんの事務所が教会から近いのでそちらにも電話で頼みましたけど、ヤツは強いですから」

 小竜姫は簡単な説明だけで行くと言ってくれたが、今の彼女には封印が施されていて人間並みの力しかない。あの刀の性能は教えたから簡単に遅れを取ることはないだろうが、彼女達だけではやはり不安だ。
 それほど急ぐならオカGへの連絡も電話で済ませれば良さそうなものだが、唐巣を保護してもらう場所も必要だからあえて直接出向いたのである。

「分かりました。さいわいみんな揃ってますし、すぐに行きます」

 むろん美智恵もこの事態を放置するわけにはいかない。キヌには唐巣の看護を兼ねて留守番役を頼むと、残りの全員に出動を要請したのだった。


 ―――つづく。

 フェンリル編です。ギャグ分とラヴ分が不足気味です(ぉ
 西条がいないのでエミは不参加になりました。そしてブラドーの運命はいかに?
 ではレス返しを。

○遊鬼さん
 おキヌちゃんが除霊委員に入るのは必然です。あとはいつバカップルが発覚するかですな。
 辻斬りは大方の予想通り犬飼ですが、ブラドーさんが何故か出て来てワリ食いました。
 シロは近いうちに出て来ます。フェンリル編で出さないわけにはいきませんので(^^;

○とろもろさん
>横島君専属マネージャー
 そうすると現状ではピートの方が孤独なわけですな(ぇー
>おキヌちゃん
 前の学校でもモテてたようですから、ここでもモテそうですね。
 しかし横島も彼女持ちの身ですからあまり口出しもできませんし、どうなる事やら。
>たとえべつの事務所所属でも、変な事に、無償で巻き込まれたり、こき使われたり、たかられたりする可能性が
 事件に巻き込まれるのは横島君の体質なので仕方ないのです。
 神父の赤貧体質には及びませんが(酷)。
>美神(令子)は、無事?、隠し金山の場所を人狼の長老から聞き出す事が出来るのでしょうか?
 それが出来れば彼女もここ最近のストレスが一気に発散されるんでしょうけど……さて。

○whiteangelさん
 原作でもタマモはシロとの初対面時はもろケンカ腰でしたからねぇ。
 ヘアバンドをえっちな事に使うほど横島君も堕ちてない……と思います。

○kouさん
 たまもんは狐ですから犬は嫌いです。シロと会うかどうかは先をお待ち下さいませー。
 アンデッドの正体は誰にも予想できなかったようで胸を撫で下ろしてます(ぉぃ
>霊能部
 何かあったら問題になる、という点は現状でも同じですが、素人が増えたらより面倒になりますからねぇ。
 特に横島は唐巣からGS本免許もらってますから、泥かぶる可能性は高いです。
>胸を触られてもしばらく説得を続けるとは
 しばらくといっても秒単位ではありますが、かなり仲良くなってるのは事実ですねー。
 果たして究極のG行為を実現することはできるのか!?<マテ

○博仏さん
 アンデッドの正体はピートパパでした。さすがに八房にはかないませんでしたが。
>カリンの横島撃退率が急降下しているような
 キスまでした仲ですし、というか真横から突然でしたから。
 とどめの一発があるかどうかは内緒ですー。

○HALさん
>ジャック・ザ・リパー
 そうですね、こいつの性能では八房には太刀打ち出来ないと思います。100マイトも出せませんし。
>シメサバ丸
 おキヌちゃんが今も持ってます。詳しくは第13話を参照して下さい<マテ
>オカルトGメンがらみ
 魔鈴も冥子も登場です。果たして活躍できるのか?<超マテ
>シロ
 横島に弟子入りなんてタマモは認めないでしょうからねぇ。

○alcさん
 ブラドーさんもアンラッキーな方でした。

○ばーばろさん
 タマモはお揚げと愛に生きる少女ですからこれでいいのです(ぇー
 小竜姫さまの内心は乙女の秘密です。
>カリンたん・・・人前じゃなければいいのか?
 良くはありませんけど、シバかれるのを放置するほど怒ったりはしないのです。

○kkhnさん
 は、確かに事務所から事務所への協力依頼なら報酬折半でもおかしくありませんな。令子がそんな形を認めればですけど(^^;
 シロは幼児状態では横島より霊力低いと思われます。

○KOS-MOSさん
>ヘアバンド
 確かに原作でも令子は心眼を欲しがってましたねぇ。
 でもこのヘアバンドは令子には何の役にも立たないので、小竜姫に睨まれるリスクかぶってまでして取り上げる価値はないのですよー。
 ねたまれてシバかれるかも知れませんけどw
>シロ
 剣士はいますけど霊波刀使いはいませんからねぇ。どうなるんでしょ<マテ
>なんか最近横島撃墜率がさがって、おさわりが増えてない?
 増えてますねぇ。こんないい思いする横島なんて横島じゃないです(ぉ

○内海一弘さん
 は、おキヌちゃんは今まで影うすかった分がんばってほしいものです。
 辻斬りは犬飼でした。

○ロムさん
 横タマ分は必ずや近いうちに補充しますんで、も少し待って下さーいm(_ _)m

○アレクサエルさん
 お誉めいただきありがとうございます。
 今後とも宜しくお願いします。

○取りすがりのヘタレさん
 西条は出て来ても見せ場なさそうだしなー(酷)。
 妖刀決戦……令子や横島なら共倒れを期待しそうですねぇ。
 彼女がいるくせに他の女性にも好かれてる横島には、存分に天誅を下してやってください(ぇ

○LINUSさん
 犬飼は原作通り敵であります。
 ブラドーが今後どう動くかはまだ秘密ですー。

○適当さん
>勘九郎
 さすがにもう土に還っておりますです。
 というかゾンビにされたらあまりに無残ですし(^^;

○KEIZUさん
 お心遣いありがとうございます。
 ブラドーの今後の活躍にご期待下さい(大嘘)。

○casaさん
 過分なお褒めに預かり恐縮でありますー。
>霊能部
 まともな部員ならいいんですが、ピートの追っかけじゃ困るんですよねぇ。主に横島がw
 しかし確かに外部顧問を置けば問題はかなり解決しそうですねー。愛子がそのうち思いつくかも知れません。
>南部グループ?
 そのうち出ると思うですよー、そのうち(逃)。

○TA phoenixさん
 アンデッドといっても最高位のやつでしたから。負けましたけど(^^;
>シロが出てきたら大惨事は必至ですね。主に横島君にとってのw
 令子がいればガン飛ばし1発で終わるんですけどねぇ。
 横島君ではどうなることやら。

○読石さん
>彼らが卒業したら愛子しか居ませんし
 そのときは愛子も横島にくっついてOL妖怪にクラスチェンジするかも知れませんな。
>横タマ(バカップル)が学校で馬脚を現さ無かった事に驚きました
 横島もその危険性がよく分かっていたという事でしょうか。

○れんさん
 そうですねぇ、テストして霊力も霊能もまるでない人はダメというのは確かにいいかも知れません。安全を理由にすれば偉ぶってるとは言われないでしょうし。
 愛子の策略にご期待下さい(!?)。

   ではまた。

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