『次は三回戦、横島選手対陰念選手!!』
アナウンサーの実況が入る。
俺は既に試合場に入り陰念と向かい合っている。
「くっくっく・・・さっきのカリは返しておかねぇとな。」
陰念はすでにいつものいやらしい笑みを浮かべている。
「・・・」
俺は陰念の言葉になにも返さず、ただ開始の合図を待っている。
すでにこいつには語る言葉も無い。
「へっ!ビビッて言葉もねぇか!安心しな、すぐに終わる!!」
陰念の安っぽい台詞を聞き流していると、
「試合開始!!」
審判の開始を告げる言葉が聞こえた。
「ずあっ!!」
陰念が右手からタイガーとの試合でも使った変形の霊波砲を撃ってきた。
それは寸分の狂いも無く俺に迫ってくる。
「・・・」
俺はそれをギリギリのところでかわし、前に出る。
「なっ!?」
俺がよけたことか前に出てきたことか、あるいはその両方か、理由はわからないが陰念が驚きの声をあげる。
俺は右手にサイキック・ソーサーを出し、それを変形させる。
そしてそれを目の前にまで迫った陰念の顔に・・・叩きつける!!
スッパァァァァァァァン・・・・・
「へぶっ!?」
乾いた音と共に陰念の叫びが聞こえた。
「・・・どうした?すぐ終わるんじゃないのか?」
俺は少し距離を取ると、そう言った。
「て、てめぇ!!舐めてんのか!?」
陰念は鼻を押さえながらそう叫ぶ。
「舐める?なにが?」
「なにがじゃねぇ!!てめぇ、何のつもりでそんなもん使ってやがる!?」
陰念は俺の得物を見ながらそう言った。
「いや、別に。お前さん相手にはちょうど良いかと思って・・・嫌いか?ハリセン。」
俺はそういいながら右手に出した霊波ハリセン、別名霊ハリセンを見た。
「くぅぅぅぅぅ!!な、舐めやがって!!!」
俺の言葉に陰念は逆上し、襲い掛かってくる。
「何を怒ってるんだ?お前と同じ事をしようとしてるだけなのに・・・」
俺はその攻撃を避けながら、そう呟いた。
スパァァァァン!!
ハリセンが再び乾いた音を立てる。
「て、てんめぇ〜!!!」
陰念は打撃のせいか、それとも感情の高ぶりのせいか顔を赤くする。
「あ、頭にきたぜ!!てめぇは殺してやる!!」
陰念はそう言うと、
「はーーーーーーッ!!!!」
ゴッ!!!
雄叫びと共に凄まじい霊波が陰念を包み込む。
「!?」
俺はその様子を見たことがあった。あれは・・・
バシィィィ!!!
俺の思考をよそに陰念は霊波で体を覆い付くし、その姿を巨大な化け物に変えた。
「・・・魔装術ってやつか・・・」
俺はヒャクメと契約して神装術を得たときのヒャクメの説明を思い出した。
悪魔と契約した者だけが使える術。
ヒャクメが参考にしたらしく、たしかに神装術の発動とよく似ている。
「くらえっ!!」
魔物と化した陰念がそのコブシを振り下ろしてくる。
確かに威力はありそうだが・・・
「遅い!!」
スパァァァァン!!
俺は避けながらハリセンを振り下ろした。
しかし、陰念はその攻撃には微動だにしない。
「ちっ・・・!!パワーが大きすぎて思うように動けん・・・!!だが・・・」
「くっ!?」
俺のハリセンを持った右手が軽い痛みを訴えた。
ちっ!余波でこれかよ!!
でも動けない痛みじゃない。しかしハリセンはもう効かないな・・・どうするか・・・
「くっくっく、なぶり殺しにしてやる。」
陰念はそう言いながら俺を見下している。
こいつは・・・いっぺんその根性叩きなおさんといかんな・・・
ん?叩きなおす?・・・そうだな、あれを使うか・・・
俺が次の攻撃手段を決めると同時に、
「死ねぇぇぇ!!!」
陰念は叫び声に近い大声を叫びながら再びコブシを振り下ろしてくる。
俺はそれを避けながら右手に出したサイキック・ソーサーを広げた。
ゴバァァ!!!
コブシは先ほどまで俺のいた場所に凄まじい音を立てながら振り下ろされた。
「なっ!?」
陰念は俺の右手を見て一瞬動きを止めた。チャンス!!
「フッ!!」
俺はその隙にサイキック・ソーサーをたたみ、陰念の右腕に振り下ろした!!
ズバン!!
「グワァァァ!」
今度は効果があったらしく陰念は叫び声をあげた。
俺は変形させたサイキック・ソーサーに視線を向けた。
そこには巨大な扇が握られていた。
「げっ、横島の奴、本気なワケ・・・」
エミさんは横島さんのサイキック・ソーサーを見てそう呟いた。
「おっきな扇子ですね〜。」
おキヌちゃんはその姿を見てそのままの感想を口にした。
横島さんの今使っているサイキック・ソーサー、あれは『覇璃扇』。
横島さんが妙神山での修行中に小竜姫から聞いた武器の中から形に出来たものの一つだ。
もとは護身用の武器である鉄扇。横島さんは相手を傷つけるのを嫌うため、柔術などで使われ、使いようによっては相手を傷つけずにすむと小竜姫が進めたのがきっかけだった。
結果は・・・失敗。
横島さんは本来の大きさで鉄扇を出すことが出来なかった。
その巨体ゆえ本来の柔術で使われる動きはできない。そして動きも単調。叩くこと、そして扇を広げて攻撃を防ぐことしか出来なかった。
しかしその破壊力は横島さんのサイキック・ソーサーの中でも最強だった。
(・・・決まったのね〜。)
「へ?なにがです?」
(相手はあの魔装術で攻撃力が向上した分、スピードが無いのね〜。横島さんはそれを完璧に見切ってるし、あの厄介な鎧を打ち破ることが出来た。勝負は見えたのね〜。)
わたしはおキヌちゃんにそう説明すると、視線を再び試合場へ向ける。
ズバン!!
そこでは横島さんの何度目かの攻撃が陰念にきまっていた。
「どうだ?少しはやられる側の痛みがわかったか?」
俺は陰念を見つめながらそう言った。
陰念の魔装術はすでにボロボロ。攻撃のたびに霊気がその箇所を再び覆いつくすが、それも既に限界らしくかなり霊波が薄いところが眼に見えてわかる。
「て、てめぇ何ぞに俺が負けるわけがねぇ!!そうだ!!俺は強くなったんだ!!雪乃丞や勘九郎よりも俺はつえぇんだ!!」
陰念は俺の言葉を聞かず、叫び声を上げながら再び俺に渾身の力を込めたコブシを振り下ろした。
ドッ!!!
俺はそれを避けた。もう攻撃する必要は無い。これで終わりだろう。
陰念は力を込めすぎたらしく、自爆する形でダメージを受けたようだ。
「グワァァァァァァァ!!」
「陰念!!魔装術を解け!!手遅れになるぞ!!」
「!?」
試合場の外から男の声が聞こえたが俺はそれに見向きもせず、陰念に視線を向けていた。
陰念は獣のような声をあげながら苦しんでいる。
魔装術はまるでスライムのような物体になりながら崩れを落ちていく。
「こ、これが魔装術の副作用か・・・」
俺は呆然とその様子を見ていた。
「クケェーーーー!!」
そして最終的に陰念だったものは本物の魔物と化した。
「グゲギャアアアーッ!!」
「!?お、おい!!」
魔物は突然振り返ると試合場を覆う結界を破壊し始めた。
魔物はただ闇雲にコブシを振るっていく。
「あ、あぶねぇ!!」
俺はそのコブシの先にいた審判の一人に飛びつく形で助けた。その瞬間・・・
ゴバァ!!!
「グ・・・ウ・・・」
ズシャ!!
凄まじい威力の霊波砲が魔物に直撃し、魔物は動きを止めた。
俺はその霊波砲を撃った奴に視線を向けた。
そこにはトイレで陰念と共にいた大男が立っていた。
あとがき
じ、時間が掛かった・・・とりあえず陰念は退場です。横島君のサイキック・ソーサーの変形は巨大な扇、通称覇璃扇(はりせん)です。もとネタ分かる人多いだろうな〜。これでサイキック・ソーサーの変形はとりあえず打ち止めです。次は試合後の話と、上手くいけばピートVSユッキーです。おそらく上手くいかない可能性のほうが高いでしょうが・・・
追伸
スケベビッチ・オンナスキー様のご指摘により誤字を訂正いたしました。
スケベビッチ・オンナスキー様、ご指摘ありがとうございました。
レス返し
始めにご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
アイク様
ご意見非常に揺さぶられました。個人的には大鎌は大好きです。グロー○ンサー2の主人公しかり、某漫画の十本刀しかり。大好きなんですが今回はこっちにしました。うう、いつか使いたいものです。
寝羊様
すばらしい雄叫びありがとうございます!!ちなみ陰念の台詞は間違いないはずです。原作と同じ台詞使いましたから・・・おそらく相手が目上の場合はあんな口調になるのだと思います。あれだけでしたけどね。
夢識様
結局暴走させました。ここらで勘九郎の出番が欲しかったので。原因は少しいじりました。次でそれについての横島君の葛藤を書きたいと思います。お楽しみにー
への様
誤字のご指摘ありがとうございました。訂正させていただきました。今回はあまり横島君の葛藤を書きませんでしたが次で少し書きたいと思います。しかし義憤ですか・・・言われてみれば納得です。
内海一弘様
ヒャクメ無しでも問題なしでした。陰念はスピードでかなり劣るようでしたので問題無しにしました。次はユッキーなんですが・・・ヒャクメを再び参戦させようか悩んでます。
・・・どうしましょう?
ジェミナス様
さ、さすがにあの会話を聞いてしまうと怒りが違う方向に行ってしまいそうだったので。あれ異常会話を続けると横島君が切れてしまいそうだった。とでも考えてください。ちなみに今回の横島君の怒りはキレるところまで言っていません。かなり後でそれは使いたいと思ってますので、お楽しみに〜。