十二話『窮極変神仮面!!中編』
「ふぁぁぁ・・・・・・よく寝たなぁー」
と、いたって暢気なことを言いつつ優太郎は目を醒ました。
どういうわけか、少々疲れているかわりにすこぶる気分が良い。
まるで思いっきり体を動かしストレス発散したような感じだ。
体の方は、ただ単に二度寝したせいで、寝疲れているのだろうと優太郎は結論付けた。
「・・・・・・なんだ令子さんたちいたんですか・・・・・・起してくれても良かったのに」
優太郎は病室の椅子に座っていた令子たちに気が付いた。
じーっと皆が優太郎を見つめている、だが、妙に顔色が悪い。
なにか、異形の怪物にでも出くわしたかのように驚きと恐れの混じった表情である。
そんな令子たちに優太郎は多少困惑しつつ、
「あれ? なんか雰囲気が暗いようだけど、どうしました?」
令子はジッと優太郎を見つめながら訊ねる。
「ねえ芦さん」
有無を言わせない、いやに重い圧力。
そのプレッシャーに優太郎は微妙に怯える。
(実は身体はなんともなかったけど、検査で癌が見つかったとか!?)
なかなか話しずらそうな様子に優太郎は思わずそんな想像をしてしまう。
天涯孤独な若者に医者が非常な宣告をする様子に似ていたのだ。
意を決したように令子は言った。
「・・・・・・正義の味方ってパンツ被って、半裸で闘うものなの?」
「はぁ?」
優太郎にはその質問の意図が理解できなかった。
話は病魔と変神仮面の世にも残酷な戦いの最中に戻る。
突如現れた変態に敵味方はどうしていいかわからない。
まるで時が凍ったかのように無音である。
変神仮面は被ったブーメランパンツの間に流れる緩やかなウェーブの掛かった白い長髪をふさっと撫で上げ。
「ふむ。病と闘ういたいけな病人に取り付く病魔め・・・・・・この変神仮面が浄化しよう!!」
のっしのっしと軽快な足取りで変神仮面は病魔へと近づいていく。
鍛えられた上半身の乳首がピクピクと動く。
まるで威圧するかのごとく。
「くけぇ?」
病魔に取り付かれた男が宙に浮かんだ病院の備品を変神仮面に向かって飛ばす。
本能的かあるいは取り付かれた男の意思か、変神仮面を敵として認識したようだ。
まあ、ブーメランパンツを被ったブリーフ男を見れば誰だって敵意を向ける。
「フォウ!!フォウ!!フォォォォォウッ!!!」
気合の入った咆哮を上げながら飛び交うTV、椅子、テーブルを軽く蹴り壊し、変身仮面は進んで行く。
両手をカポーンカポーンとクロスさせながら、変神仮面はニヤリとパンツの下で微笑んだ。
「病魔を滅するには直接、霊波を叩き込むのが一番!喰らえ!!」
その瞬間、病魔に取り付かれた男はこれ以上無いほどの恐怖を知る。
「変神仮面!お稲荷バーニングホーリーフラッシュS(シェイク)!!!」
変神仮面の手が病魔の顔をキャッチする。
そのまま、おもむろに病魔に取り付かれた男は変神仮面のもっこりブリーフに顔を突っ込まれ。
「シェイク!シェイク!シェイク!シェイク!シェイクぅぅぅ!!」
どこか楽しげな変神仮面。
「ぎょぎゃぁぁぁぁぁ~~~!!」
神々しい光を放つパンツの中で非常に激しい上下運動を体験させられた。
どうやらパンツの中から放たれた光を直接、口から流し込んで体内を浄化しているようだ。
神々しさも敬虔さもない荒々しくも雄雄しい儀式。
「おえぇぇぇ・・・・・・」
あまりにも惨い光景に横島は口元を押さえ、外へと駆け出す・・・・・・たぶんトイレだろう。
見れば付き添いのDrも気を失っている。
なまじ強靭な精神の持ち主の令子はこの醜悪な世界に一人取り残されていた。
「ふう・・・・・・浄化完了」
一分ばかり、この世の地獄を味わった病人。
パンツから開放された瞬間、口から霊体が抜け出そうになっていたのを令子は確認した。
病魔もしっかりと浄化されたが精神もしっかりとあっちに逝ったらしい・・・・・・これなら病魔に取り付かれていたほうが幾分かマシだったかもしれない。
この病人はこの後重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)としてこの病院にもうしばらく入院する羽目になる。
哀れ。
「では、さらば!」
シュタっと片手を挙げ、トウっとばかりに変神仮面は病室の窓から飛び出していく。
ちなみにここの病室は5階である。
「ってちょっと待て!?」
我に返った令子が窓に駆け寄った時には変神仮面は影も形もなかったのである。
結局、優太郎は何も分からなかった。
令子の質問の意図も、それに秘められた重大な意味も。
本人にとってはまったく見に覚えの無いことだし、令子たちも認めたくない現実だった。
詳しく追求せずに優太郎はそのままさっさと退院してしまったのである。
そして・・・・・・数日後。
「変神仮面!!スーパーチマキプレスゥッ!!」
「ぎょんわぁぁぁ!?!?!?」
都内の某映画館。
偶然おキヌが取り込まれた『幕末の狼』というC級時代劇映画の中。
モンタージュという妖怪がフィルムの中の登場人物を襲っていたときである。
「神界最速変神仮面!お呼びと在らば即、参上!!」
とばかりに現れ、モンタージュと発禁処分な戦闘を繰り広げたのである。
偶然この映画館に居合わせた観客が大挙として黄色い救急車で運ばれたのは言うまでもない。
また、別の日。
令子が北海道の山林に出る雪女の除霊を受けた際。
「神界最速変神仮面、参る!!」
「く、この男の魂、妾の霊気でも凍てつかない!?」
パンツ二枚の男が吹雪きで凍りつかないのに雪女は驚愕の声を上げる。
「この胸に宿る燃え滾る正義は消せんのだ。ご婦人、少しばかり悪さが過ぎたな・・・・・・相応の罰をこの変神仮面が下す!セィッ!!」
ビシっと雪女を指差し、変神仮面は宙を舞った。
勢いを殺さず、半裸の変神仮面がそのパンツに包まれたお稲荷さんを雪女の顔に押し付ける。
「必殺・ぬくもりアタック!!」
そのじっとりとしたぬくもりに雪女の身体が溶け始めた。
雪女はこれ以上無い憐れな悲鳴を上げる。
「嫌ァァァァァぬくぃぃぃ~~~!!!」
余談だが凍りついた唐巣やピート、横島を『必殺・ぬくもりアタック』で溶かした変神仮面。
やられた人間は泡を吹いて、現実逃避してしまった・・・・・・
と色々な事件が大小とあるが、変神仮面は大活躍。
経費0の報酬と美神除霊事務所の所員の精神に多大なダメージを与えることとなった。
「皆さん、最近妙にやつれてません?」
と、事務所で机でだれていた令子たちに優太郎は訊ねた。
原因は優太郎(変神仮面)のあまりにもおぞましい戦いである。
「・・・・・・こいつ、まったく気づいてねぇのかよ・・・・・・」
胸焼けするような嫌な記憶を頭から追いやり横島は哀れみのこもった視線を優太郎に送る。
今まで、変神仮面が現れるのは優太郎が気絶あるいは周囲から消えている間だけ。
しかも優太郎本人には変身中の記憶が一切ないのだ。
優太郎もなにかおかしいなとは思っているが、真実を教えるにはあまりにも残酷なため、誰も何もいえないのだ。
流石の美神も、変神仮面を使って荒稼ぎする気は起きなかった。
精神衛生上、変神仮面の闘いはすこぶる危険だ。
「・・・・・・やっぱり、芦さんは何かに取り憑かれているようね」
はぁっとため息を吐く令子。
変神仮面のおかげで夜も満足に眠れない。
夢の中でお稲荷さんやチマキが総出演していたのだ。
今朝みた夢では「それは私のお稲荷さんだ」と変神仮面のそれを握ってしまうという悪夢を見たばかり。
令子の手元には憑かれた原因であろう首都高あらしの事後調査の資料。
調査資料には首都高あらしの妖魔、韋駄天の姿が描かれている。
「韋駄天・・・・・・ですか?」
資料を覗き込んでいたおキヌが疑問付きで呟く。
「ええ、仏教の神の一種で、分かり易く言うと天界の宅配便屋さんみたいな一族ね。
ものすごい脚の速さで有名なの」
「それじゃ、首都高あらしは神様がしているんですか・・・・・・」
おキヌの言葉に優太郎が反応した。
「いえ、韋駄天はそのようなことをする存在ではありません!神が仏道を背いて人を襲う不祥事なんてあってはいけないんですよ!」
「ユータローさん?」
おキヌが優太郎の力説に戸惑う。
優太郎は熱弁を振るい韋駄天について語る。
「韋駄天は善き神です!あのような事件はすぐさま収拾します!!」
「どーやら、芦さんに取っ憑いているのも韋駄天のようね」
「は!? 今僕はなにを?」
また記憶が飛んでいる優太郎。
どうも身体を操られている間の記憶は無いらしい。
しきりに頭を捻っている優太郎を尻目に令子は推測を始める。
(どうも芦さんに取り憑いたのは、首都高あらしを止める為にやって来た善玉の韋駄天のようね。
つまり、悪の韋駄天の所業をとめるために派遣されたわけか・・・・・・
あのバイク事故のとき、憑依かなにかを芦さんにする必要があって・・・・・・)
そのまま、なぜか変態ヒーロー・変神仮面として活躍しているのだ。
それを考え込んでいると電話がかかってきた。
令子はその電話を反射的に取り・・・・・・
「首都高あらし!?」
優太郎の眼がキラリと輝いた。
あとがき
ちょっと短いですが変神仮面の活躍編です。
原作技は一つしか出てないのでイメージは各自で補ってください(待て!
しっかし、こんな除霊法でやられてしまったら死んでも死に切れないな・・・・・・
特に雪女さんとか。
今回の一番の被害者は病魔に取り憑かれた男でしょう。
まっとうに除霊されてれば、PTSDに為らずにすんだのに。
レス返し
木藤さん
お稲荷率50%です。
ヨコシマンと違い、周囲の被害が酷いのが変神仮面なので。
チマキだと多分見えてるでしょう。アレが・・・・・・
内海一弘さん
芦原さんは灯月さんとこですよ~
こちらは原作準拠で芦ですから。
あれはazumaさんのレスで決定。
恨むならazumaさんを恨んでください(○投げッス)
スケベビッチ・オンナスキーさん
唐巣さんは破門ですからね・・・・・・一応カトリックっぽいですが。
不幸な方に幸せをがこのSSのメインテーマですから。
まあ、某所でそれなりにかっこよく書いた人は出番少ない予定ですが。
u^さん
美神除霊事務所には地獄絵図です。
当の本人は気づかず幸せですが。
azumaさん
GT○なバイクです・・・・・・文化祭のバザーで売り出されたのを購入しました。
優太郎は信心深いですから。
能力は横島君と対になるように考えてます。
横島が放出、具現、文珠だから・・・・・・まずは強化系から。
とろもろさん
見るもの全てに等しく絶望を・・・・・・
正義なのにある意味窮極の悪が変神仮面クオリティ。
お稲荷さんにチマキはお約束。
後編は苦悶地獄が出せると良いな。