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▽レス始

「がんばれ、横島君!! 9ぺーじ目 (GS)」

灯月 (2006-10-26 23:57/2007-04-22 17:22)
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「これはどうでちゅかー? 似合いまちゅ?」

こてんと首を傾げてパピリオちゃん。
試着した可愛いワンピース。くるりとターン。

「さっきのとどう違うのじゃ? 同じではないか」

ずばっと。愛想の無い、呆れた一言。

「……こーゆー時はほめるものでちゅ!」

ばご!!
小気味良い音ともに。パピリオちゃんの小さな拳が、少年の顔面にめり込んだ。


がんばれ、横島君!! 〜横島君と竜の皇子〜


「あー、あれ。 ほら、あそこ、公園かなぁ〜?」

「ホントだぁ。 おねーちゃん、あれ風船?」

「うわぁ、ひこーきひこーき!」

ルシオラちゃん、ベスパちゃん、パピリオちゃん。皆、テンション高く、物珍しそうにあたりを見渡す。
しっかり手を繋いでいなければ、興味を持ったものにすぐさま駆け寄って行ってしまう。
今日は始めて徒歩でのお出かけだ。
目的地は駅近くのデパート。
皆大きくなってきて。そろそろ自分の部屋もいるだろうから、その為に必要な家具や日用品を揃えに行くのだ。
お出かけといえばいつも車を使っていたから、じっくり景色を眺めることが出来ず。
その点、徒歩は子供に合わせてゆっくり行ける。
その分はぐれない様に気を付けねばならないが、喜んでいるので良しとしよう。
喜んでいるのはもう一人。
アシュタロスさん。
左手にパピリオちゃん、右手にベスパちゃん。
パピリオちゃんはルシオラちゃんと手を繋いで。そしてルシオラちゃんは俺と手を繋ぎ。
もの凄くご機嫌な顔をしている。
実は本日のお出かけ、半分はアシュタロスさんの為。
つい先日、勘九朗に襲われた――本人はキレイな体のままだ!と言い張っている――ショックで塞ぎ込んでいて。
壁に向かい膝を抱えてぶつぶつと呟くその姿が非常に鬱陶しい哀れだったのと、メドーサさんに何とかしてくれと頼まれたから。
だから元気付けようと、このお出かけを提案した。
案の定すぐ立ち直った。
子供たちが寄り道したがるだろうからと、少し速い時間に家を出たが。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり。子供の気の向くまま、うろうろと。
一時間経過した現在。ようやく三分の二。
途中大きな公園を見付けて遊びたいと騒がれたけど、何とか我慢してもらった。
しょんぼりする子供に混じってアシュタロスさんまでうな垂れてたけどな!
一番の大人が目的を見失ってどうする!?
なるべく人の少ない、危険の無いように車も少ない道を選びながらてくてくと。
曲がり角、急に飛び出してきた誰かとぶつかった。

「うわ!?」

「ぎゃ!?」

転んだのは相手の方。
気付かなかったのは子供だから。俺の膝にようやく届く程度の背丈。

「ごめんな、大丈夫か?」

目線を合わせようとしゃがみ込ん込めば、眼前に鋭い切っ先が突きつけられた。

「おのれ、無礼者〜!!」

半泣きで剣を構えるその姿。
凛々しいとはお世辞にも言えない。結構情けないぞ。
まだまだ幼い男の子。青みの濃い紫の髪に角? 和装に近くも異国情緒溢れる民族衣装。
ああ、そういえばこの子の気配も人間のそれでは無い。
アシュタロスさんとは真逆の感じを受ける。

「悪かったって。ほら泣くな泣くな」

「余を子供扱いするな!」

ハンカチを差し出せばぱしんと払われる。
話し方から察するにお偉いさんの子か? プライドも高そうだ。
う〜う〜唸りながら睨みつけてくる子供に、どうしたもんかと肩をすくめれば。
いつの間に後ろに回りこんだか、アシュタロスさんが少年の小さな体をひょいと抱き上げた。

「この神気は…そうか竜神族。しかもかなり高位の竜神だな」

しげしげ子供を観察して、ぽっそり呟くアシュタロスさん。
いきなり自分を抱き上げた腕から逃れようとじたばたしていた子供は、そのセリフにえへん!と胸を張った。

「そうじゃ! 余の名は天竜童子。恐れ多くもかしこくも…天地四海あまたの竜族の王にして仏法の守護者竜神王の世継ぎ、天龍童子なるぞ!!
……わかったらさっさと降ろすのじゃ」

「王様の子供だからえらそーなんですねぇ」

「う〜と、王子様? ……絵本とちがぁ〜う」

「絵本の王子様はもっとかっこよかったでちゅよぉ」

「…ベスパよりちっちゃいよ? あの子」

「こ、このぉ無礼者ぉ〜!!」

好き勝手言われていたくプライドを傷付けられたか、震える声で手にした剣を振り回す。
危ないから、没収。
そしたらさらに泣かれました。

「うえぇ〜ん! 余の…ぐすっ、余の剣じゃあ、返すのじゃ。えぐぅ……」

「男の子なのに泣くなんてかっこ悪いでちゅ!」

「な!? 余は、余は強い子じゃ! 泣いてなどおらん!!」

パピリオちゃん。びしりと指を突きつけての一言。
天龍はあわてて乱暴に涙を拭いて言い返す。
おお、泣き止んだ。
アシュタロスさんもほっとしたようだ。そりゃ、だっこしてるのに泣かれたらなー。

「それにしてもどうして竜神の王子が俗界にいるのだね? 君のような身分のものは普通天界で過ごしているだろうに」

魔神のくせにここにいる己の事は棚上げして、アシュタロスさん。
問われて天龍はどこ決まり悪そうに視線をさ迷わす。
父である竜神王が地上の竜神との会議の為にこちらに来ることになり、無理やりくっついきて。
しかも会議中預けられた先から黙って抜け出してきたと。
理由はテレビに映っていたデジャブーランドに行きたかったから。
抜け出したは良いものの、思いっきり道に迷って走り回っているうちに俺にぶつかり現在に至ると。
まんま世間知らずな金持ちのわがまま小僧の行動だ。

「どうします? 一人で放り出すのも危ないですよ?」

「う〜む。地上の竜神の中には仏道に帰依した竜神王を疎ましく思うものもいるからね。
下手をすれば命を狙われる可能性もあるだろう」

「なんか…神様も大変ですねぇ」

俺とアシュタロスさんがシリアスな会話を交わしている横で、子供たちは天龍ときゃいきゃい楽しく騒いでいる。

「ほう、パピリオたちはこれからでぱーとに行くのか?」

「そうでちゅよ。 お買い物するんでちゅ!」

「あのね、新しい家具とお洋服を買うのよ。ルシオラは新しいご本もほしいの!」

「うん、それでね。デパートのレストランでご飯食べるんだって。パパが言ってたよ」

「……いいのう、人間の子は。生まれてから七百年、父上はいつも忙しくて遊んでもらったことなどほとんど無い」

「天ちゃん、さびしかったんでちゅかー?」

「な! 無礼な、余は寂しくなんか無い!!」

「あ、意地はってるー♪」

両手を振り上げ追いかける天龍、高く笑いながら逃げる三姉妹。

「ふむ。彼も一緒に連れて行こう」

その様子を見守りながら、アシュタロスさんが呟いた。

「いいんですか? 神族に関わるのはまずいんじゃ」

「このままここに残していくわけにもいかないだろう? 第一もし天龍童子に何かあれば竜神族が出てくる。この付近を調べられれば、その方がまずい。
それに、娘たちが仲良くなったようだしな」

「はい。そうっすね」


天龍を一緒に連れて行くことに。
子供たちは嬉しそうに同意して。天龍自身もつんけんした態度をとりながらも、まんざらでも無さそうだった。


「ここがでぱーとか……」

「おっきいでちゅねー」

パピリオちゃんと天龍。デパートを見上げてぽかーんと口を開く。
二人、はぐれないようにしっかり手を繋いでいる。

「まず、何から見ますか?」

「家具にしよう。配達してもらえば良いし。服などはその後だな」

「っすね。荷物になるし。
はい、皆行くよー。人が多いからはぐれないように気を付けるんだよ?」

「「「はぁ〜い」」」

ルシオラちゃんたちはいつもと同じ素直な返事。
天龍だけが子供扱いするなとそっぽを向いて、ちゃんとお返事しなさい!とパピリオちゃんに注意された。
ああ、同じ年頃の子を相手にするのって初めてだもんなぁ。
姉妹の中じゃあ、一番下でいつも注意される側だし。
きっと嬉しいんだろう。うんうん。

「じゃ、行きますか」

微笑んで、デパートへGO!


最初に買うのはベッド。
けどその前に。

「余の服を買うのか?」

思ってもいなかった言葉に、少年は目を丸くする。
その民族衣装的な格好は目立つのだ。
戸惑ってはいたものの、天龍に害を成そうとしているのもがいるかもしれない以上、目立つのは避けるべきだと説明した。
本人も、「小竜姫に見付かるのはいやじゃ…!」と激しく怯えて納得してくれたし。
買ったのはTシャツとパーカー。ジーンズ、スニーカー。
見立てにはルシオラちゃんたちも参加。
角と髪色はどうしようも無いが、それさえ抜けばどこから見ても普通の子供。
元の服と剣は紙袋の中に収めている。
こんな服を着るのは初めてなんだろう、やはり。
鏡の前で己の姿を確認し、照れ隠しに生意気な態度を取ってもいてもその顔は嬉しさで歪むのを止められない。
感情を隠すのがずんぶん下手なようだ。
それから、寝具売り場。
たくさんのベッドや、これでもかと豊富なシーツ類。
天龍含めた子供たち。ぽかーんと口を開けたまま、立ち尽くしている。
仕方が無いと思う。
服も何もかも、常にアシュタロスさんが大量に買ってきてどれが良いか?と選ぶのだ。
子供たちは新しいものが増えるのは、そういうものだと思っているみたいだし。
店に来て自分で選ぶのは、今日が初めて。

「あっちおっきーの発見! 行くでちゅよ、天ちゃん!!」

「誰が天ちゃんじゃ! 余の名は天龍じゃ!!」

言い合いながらも、楽しそうに駆け出す二人。

「あ、パピリオちゃん、天龍!」

「お兄ちゃん、あっち! 見に行こう」

パピリオちゃんたちを追おうとすれば、ルシオラちゃんに引き止められて。
そのままずるずる連れて行かれる。

「はい、パパ。向こうに行こうね」

「はっはっは〜。どこでも行くぞ、べスパ」

首を巡らせればアシュタロスさんはべスパちゃんに手を引かれ、上機嫌に棚の向こうに姿を消すところで。
早速ばらばらかい。


ルシオラちゃんはこのベッドがいい、こっちは収納が出来る。このシーツは色がきれい、この模様が可愛いと。
ひとつひとつ手にとって、じっくり吟味。
よく女は買い物が長いと言うが、それは子供でも例外では無いらしい。
一度見たものをもう一度見直して、行ったり来たり。
この棚の枕を見るのはこれで三度目だ。
パピリオちゃんと天龍、迷子になって無いかな? 大丈夫かな? さっきから時々子供の声が響いているから、ちゃんとこの売り場にいるんだろうけど。
……アシュタロスさんははしゃぎすぎてないか? 馬鹿やってないか? 不安だ。
一緒にいるのがべスパちゃん一人だけってのも。いや、逆にべスパちゃんがいてくれてよかったのか?
時折奇声が聞こえ、その直後に鈍い音がしてるし。
ナイスだ、べスパちゃん!
いくらデパートが広くても、同じ階の同じ売り場にいれば会わないなんてことは無いわけで。

「きゃー、ふかふかでちゅ〜♪」

「おお、ホントじゃ。なかなか良いのう」

お子ちゃま二人、発見!

「こら、商品で遊んじゃだめでしょ?」

大きなベッドの上、ぽんぽん跳ねていた二人をがっしり捕獲。
パピリオちゃんは素直にごめんなさいを言ったが、天竜はぷいっとそっぽを向いた。
そしてまたその態度をパピリオちゃんに咎められる。
なんつーか、お姉ちゃんぶってる? 
天龍を叱ってふふんと胸を張ってるパピリオちゃんと、叱られてムス〜っとしてる天龍。
微笑ましいなぁ。アシュタロスさんが見たら喜びそうだ。
とりあえず、子供三人引き連れて商品を見て回ることに。
ルシオラちゃんはともかくパピリオちゃんは遊ぶのに夢中で、どれがいいのか全く見てなかったみたいだし。
それを聞いた天龍にからかわれて、拳でやり返す。天龍も当然やり返して。
ヒートアップしてきたら俺とルシオラちゃんで引き離して、宥める。
その様子を見た店員さんや他の客がくすくす笑っている。
仲の良い兄弟ねと、言われたからやはり兄弟に見られてるんだ。
なんとなく嬉しい。
全員、手を繋いでアシュタロスさんたちとも合流して。
ベッドを選んで、新しいクローゼットやタンスを選んで。
配達を頼んで、次は服。
女の子たちはこれを一番の楽しみにしていたようだ。
……洋服関係は家具選びよりも時間がかかった。
凄いね、女の子。
あれも良いこっちも捨て難い。ああ、やっぱりそっちの方が良いかな?
何度も試着室を入っては出てを繰り返す。
アシュタロスさんは喜々として付き合い。俺は子供たちに合わせるのは慣れているので問題なかったが。
天龍は余計な一言を口にしてはパピリオちゃんに殴られていた。
すっかり仲良くなって。ホント可愛らしい光景だ。
後ろでアシュタロスさんが嫉妬する程に。このおっさんは…!。
まあ、まだ暴走していないので良しとしよう。
俺だって公衆の面前で暴力振るいたくないわけだし。
ルシオラちゃんたちはそれぞれ何着か自分の好きなものを選んで、買って。
よほど嬉しいのだろう、服の入った紙袋を自分で持つといって聞かない。
家具でも服でもアシュタロスさんの決めた範囲から『選ぶ』のではなく、自分で自由に『選ぶ』のとではやはり違う。
しっかり個性と趣味が出た。
ルシオラちゃんは実用性重視で機能美に溢れたデザインを好み。
べスパちゃんはシンプル・イズ・ベスト。無駄な装飾はお気に召さないらしい。
パピリオちゃんは可愛さ第一。とにかく自分の気に入るデザインで決める。
買い物が終わってようやく空腹を悟った子供たち、雛のようにご飯が食べたい!と言い出した。
少し遅いがお昼ご飯。
レストランやお食事処が並ぶ階。
どこが良いかと見て回る。
休日。デパート。レストラン。この条件が揃っていればたいてい混んでいるものだ。
落ち着いた感じの純和風といった店に決定。
目立たない一角、さらには周囲の照明も押さえ気味。それゆえ優雅な風情を醸し、なんとも上品な印象を受けた。
良い感じに席が空いている。
子供たちはお子様ご膳という、和風お子様ランチ。
あんみつとおまけのおもちゃもついているらしい。
俺とアシュタロスさんはおすすめ定食。店頭の見本が美味しそうだったので。
窓際の席の為、お子様たちは見事に窓にへばりついていた。
あれは来るときに見たとか、あそこはなんだろう?とか。指をさしあい、もう夢中。
アシュタロスさんはそんな様子をカメラに収めたそうにしていたが、カメラの類を持っていくことは却下しているので物凄く残念な表情をしていた。
デパートの中で幼女を写真に収める男。――通報される、確実に。
窓の外に気を取られていても、ご飯がくれば別。
目の前に並べられた丸みを帯びた四角の盆。その上の彩り豊かな料理。
女の子は「ほぅ」とため息をもらし、天龍も感心した面持ちだ。
おまけのおもちゃ、女の子は小さなぬいぐるみ。天龍はミニカー。
手の平に乗るそれを少し微妙な顔で見ていたが何も言わずにポケットに仕舞うところを見ると、気に入ったのかもしれない。
お子様ご膳は全員、舌に合ったようだ。
好き嫌いの多いパピリオちゃんもきれいに平らげている。
おいしい?と問えばおいしい!と返ってくる。
デザートを食べて。猫みたいに目を細めて。
次は屋上。
こういったデパートの屋上には概ねゲームセンターなど、遊べる場所があるのだ。
子供向けのコーナーで、どれが良いかと見て回る。
あれがしたいこれがしたいという子供たち。アシュタロスさんはメロメロな表情でお金を出して。
そのうち、やや高年齢向けのゲームにも興味を持ち出した。
まずルシオラちゃんが脳のトレーニングを謳い文句にしたクイズゲームをやりだして。
べスパちゃんはガンアクション系のゲームが気に入ったらしい。大人顔負けの銃捌きで高得点を叩き出し。
パピリオちゃんは天龍とパズルゲームで対戦。
はじめはやり方がわからなかった天龍も、コツを掴んだらしくだんだんとパピリオちゃんと並び始めている。
俺とアシュタロスさんはその様子を近くのベンチからのんびりと眺め。

「ふふ、平和だ。親子の休日・買い物編というのも悪くない! そう思わないかね、横島君?」

「そうっすねぇ。皆楽しそうだし、友達も出来たし。来てよかったっすね」

でれでれ笑顔のアシュタロスさんに肯定を返し、喉が渇いたのでジュースでも買おうかと席を外して――
戻ってきたら、アシュタロスさんがおろおろしてました。
……嫌〜な予感。
的中。パピリオちゃんと天龍がいません。迷子です。
あははははは、油断してたー!! これまでは出掛けてもちゃんといたから。
アシュタロスさん曰く神族や魔族の怪しい気配がしなかったから、そっち絡みの誘拐・拉致ではないだろうと。
それが唯一の救いなのか?

「あ…し原さんはここにいて下さい。俺やパピリオちゃんが戻ってきたときに入れ違いにならないように!
ルシオラちゃんベスパちゃん! パパの傍にいてね? パパが馬鹿な事しないように見張ってて!!」

「うん! 任せて、お兄ちゃん!!」

「了解よ!!」

「ええ! ちょ、横島君!? 最後の台詞なんかおかしくない? ねぇ!?」

「じゃあ、行って来るから!!」

背後で響いた喚き声を無視して駆け出した。


店員さんに子供を見なかったか聞いて、行きそうな所をしらみつぶしに駆け回る!
パピリオちゃんは一人ではそうでも無いけど、誰かが傍に居ればむやみに行動的になるタイプだから。
屋上の一階下は本屋に雑貨に絵画などが売ってある。いませんでした。
その下はご飯を食べた階。店がある分捜すスペースは狭くて助かるが、人が多い。いなかったし。
どこだー! パピリオちゃん、天龍!!
誘拐…ではないと思う。知らない人にはついていかないように厳しく言ってるし。危ない時には封印解いて良いし。それに大声出す、と思うし。
天龍だってあのプライドの高さから、そうほいほい人について行く様な事は……。
多分デパートから出るなんて事はしていないだろうし、二人とも。
迷子のアナウンスを頼もうかと思ったが、あまり目立つのは避けたい。
あああああ!! 心配だぁっ!!
ほんっと、どこにいるんだぁ!!
思わず頭を掻き毟りたくなった。
子供専門の店が並ぶ階。小さな子が好みそうな装飾が全体に施された、明るい場所。
おもちゃも売ってるし、居そうな気がするんだけど。
きょろきょろ。辺りを見回していると、聞き覚えのある声。小さいけれど、聞こえた。

「うあぁ〜〜〜ん。おにぃちゃあん、おねぇちゃあぁん、パパ〜〜!」

「う、うう! な、泣くなパピリオ! 泣きやむのじゃ!! ぐす、ぐすっ…」

棚に囲まれた向こう側。居た!
店員さんが困った顔であやしている!!

「パピリオちゃん! 天龍!」

慌てて声をかければ、パピリオちゃんが飛びついてきた。

「おに〜ちゃあん! うえぇぇぇぇぇぇん……」

勢い良くこぼれる涙。いつもならすぐに抱き上げてあげるんだけど…。

「パピリオちゃん、天龍? お兄ちゃん、言ったよね。迷子にならないように勝手にどこか行かないでって。皆と一緒にいようねって? ちゃんと聞いてた?」

「あ、あうぅ…。それはぁ……」

「聞いてなかったの?」

「……聞いてまちた」

「天龍は?」

「う…。余も聞いてたのじゃ」

「じゃあ、どうして勝手に居なくなるの!?」

「ふぇ、えぇぇ」

こんなに怒ったのは正直初めてで、パピリオちゃんも先程とは違った意味でまた涙を溢れさせている。
天龍も固まって、目を潤ませて。
俺がため息をつけば、二人の体は大袈裟に震えて。

「お兄ちゃんがどうして怒ってるか、わかる?」

「かってに居なくなったから、でちゅ」

「余とパピリオが迷子になったから」

「じゃあ、こういう時はなんて言うの?」

パピリオちゃんと天龍、顔を見合わせると頭を下げて――

「「ごめんなさい」」

素直な謝罪に俺は頷いて。
俺たちのやり取りを感心した面持ちでも見守っていた店員さんにお礼を言って、その場を後にした。


屋上に戻ったら、心配していたアシュタロスさんが抱きついてきて。
一通り抱擁を済ませれば、一変して真面目な顔つきで珍しく――本当に珍しくパピリオちゃんを叱った。
内容は俺とほぼ同じようなものだったが、それゆえどれほど心配していたのか良くわかる。
パピリオちゃんも天龍も、迷子になる事がそれだけ大変な事だとわかったようだ。
神妙な顔をして大人しく叱られていた。
そのうちに天龍が、自分が他の所に行こうと言ったのだと言い出し。
パピリオちゃんも自分こそ先にと誘ったのだと。
お互いを庇いあって、何故か喧嘩に発展。
いや、譲り合おうよ。
途端にほのぼのした争いを眺めていると、突然天龍の角が生え変わった。
これが竜神族の大人になったしるし、らしい。
喧嘩の事などすっかり忘れて飛び跳ねて喜んでいる天龍のを見て、アシュタロスさんが一言。

「ふ。まだまだだな」

なお、一体何を見てそう言ったのかは子供たちの教育上よろしく無いので割愛。
ちなみにアシュタロスさんはその直後に、天龍の一撃で沈められました。
……ま、擬態は解けなかったみたいだから別に良いけど。
そして急に大人びた目で、

「迎えが来たから帰るのじゃ」

屋上のフェンス。下を眺めて。
地上までかなりの距離があるのに、見えた。
黒づくめの大男、二人。その間に挟まれた赤毛。
人とは違う存在ゆえか、それとも元からそうなのか。
何故か非常に目立つ。
だから周りに人が溢れていてもすぐにわかった。
俺とアシュタロスさんは頷いたが子供たち――主にパピリオちゃんがいやだいやだと泣き始める。

「いーやーでーちゅー!! もっと遊ぶでちゅ、天ちゃん帰ったらだめでちゅ〜!!」

皆で宥めても聞いてくれない。
もげるんじゃないかと思うほど激しく首を振って、叫ぶ。
こうなったらパピリオちゃんは聞いてくれない。
どうしようかなと困り果てていると、天龍がパピリオちゃんの前に進み出た。

「泣き止むのじゃ、パピリオ。
余はまたここに来る。パピリオたちに会いにくるのじゃ。絶対に」

「天ちゃん…。ホントでちゅか?」

「余はうそはつかぬ。約束じゃ!」

「わかったでちゅ。じゃあ、指きりするでちゅよ」

「指きり? どうやるのじゃ、それは?」

こーやるんでちゅよと、小指を絡ませて。時々声を詰まらせならも「指きった!」まで言い終えて。
切ない様な嬉しい様な、優しい光景。
パピリオちゃんと天龍はえへへとお互い笑いあって。
俺の、下まで送っていこうか?という言葉にも天龍は首を振って。
初めて会ってからまだ数時間しかたっていないと言うのに、ずいぶんしっかり声で世話になったと告げた。

「天ちゃん絶対また会いまちょーね!」

背を向けて、行こうとする天龍を呼び止めて。

ちゅう。

可愛らしくキスをした。
あっはっはっは。パピリオちゃんたらもう。
天龍は真っ赤になって、俺の後ろのアシュタロスさんは久方ぶりに殺気レヴェルMAXですよ?

「元気でね!」

「う、うむ。パピリオもな……」

赤い顔のまま駆け出す。
ドアの向こうに消えていく小さな背中を、パピリオちゃんはずっと見ていた。
背後を振り向けば。
ああ、やっぱり。
アシュタロスさんが殺気を放ったまま硬直してる。器用な。
ルシオラちゃんとベスパちゃんが突いたり声をかけたりしているが、元に戻る気配は無い。
……この人いっそこのまま固まっててくれないかなぁ?
一瞬心の底からそう思ったけれど、流石にそれはまずいか。
他の人にも迷惑かかるしなぁ。
仕方が無いので左手に霊力を集めて、

ずどむっ!!

「っうぐばぁ!!??」

「うわぁ、すごーいお兄ちゃん! にぶい音がしたよ!」

「手がね、ぴかぁって光ってたぁ!」

「お兄ちゃん、かっこいいでちゅ〜!」

鳩尾を押さえて呻く父親を無視して、尊敬の眼差しを送る子供たち。
何というか、自業自得なんだけど。哀れな。

「げぇほ、げほっ! 横島君、いくらなんでもこれは酷く無いかい?」

「そんな事より、買い物まだ全部終わって無いでしょう? ついでだから地下で晩御飯のおかず買って帰りますよ」

「そんな事って…横島君!? キスだよ、キス? 可愛い娘が…娘がぁ!!」

よよよ…と膝を突いて泣き出すアシュタロスさん。
あーもー、この駄目大人は!

「いいじゃないですか! 子供の成長を見守るのが親ってもんでしょう!?」

「でもでも! 私以外の男にちゅうってぇ! 嗚呼このまま他の、どこの馬の骨とも知れない男のお嫁さんになる☆とか言い出したら!
――許さん! パパは認めんぞぉ!!」

空に向かって吼えるな。皆見てる。

「ちったぁ成長してください! この馬鹿親父!!」

「だって…! 横島君は哀しくないのかね、寂しくないのかね!? 子供たちが離れていくのが! 他の男に取られるのが!!」

まぁ、そりゃー少しは思うけど。
けどそれは仕方の無いことだし、認めるしか無いだろう? ――相手がよほど悪い奴じゃない限り。

「はいはい、わかりましたから泣かないで下さい。愚痴なら帰ってからいくらでも付き合ってあげますから。
今日は子供たちと楽しいショッピングでしょう? ほら、行きますよ」

今だぐずぐず言ってるアシュタロスさんの背中を軽く叩いて、立ち上がらせて。
買い物を続行しました。
可愛い子供たちに囲まれて、アシュタロスさんの機嫌も浮上したみたいだし。
パピリオちゃんも少し寂しそうだったけど、帰る頃には元気を取り戻してくれた。
初めて別れを経験して、少し成長したようだ。
うん、今日も良い一日でした!


アシュタロスさんの愚痴は、結局日付が変わって朝日が昇るまで続きました。


続く


後書きと言う名の言い訳

新しい本棚を入れるために部屋を片付けていたら、うっかり掃除にハマリ一週間ほどPCに触らなかった今日この頃。
今回の目的、アシュ様に優しく。でも主役は蝶と龍。
天龍は普通の子供っぽく書いてみましたが…。蛍と蜂が影薄かったです。残念。
本当は小竜姫も登場予定でしたが、初対面で横島君の首に剣を突きつける第一印象最悪な人になってしまったので没。
次回はメドさん一味が再登場です。
では皆様、ここまで読んで下さってありがとうございました!!

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