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▽レス始

「がんばれ、横島君!! 8ぺーじ目 (GS)」

灯月 (2006-09-23 23:28/2006-09-25 20:57)
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「メドーサさぁ〜ん!」

「甘いね!!」

べし! 撃墜。

「横島! 逃げんじゃねぇ!! 俺と闘えぇ!!」

「あらあら、雪之丞ったら激しいんだから。代わりにあたしが相手したげましょーか? なんなら横島とまとめて、三人でもいいわよ。
あ、これって3P? きゃ、恥ずかしい☆」

「「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」


がんばれ、横島君!! 〜横島君と霊能修行〜


横島忠夫。高校一年。一人暮らし。両親は海外赴任。現在ちょっと変わったお宅で子守のバイト中。
の、はずが。
何故か今、とある道場で鍛えられてます。
実は先日行った海で妖怪との出来事を話したら、雇い主が言いました。

「君にはゴーストスイーパー並の霊力がある。どうかね、その力を磨いて娘たちを守ってやってくれないか?」

ゴーストスイーパーになれ、と。
アシュタロスさんたちは魔族。
それが他人、特にゴーストスイーパー関係者に見付かるとやばいということは聞かされている。
それなのになぜ俺にゴーストスイーパーを目指せというのか?
ゴーストスイーパーにはGS協会という組織があって、全員という訳ではないがそのほとんどがそこに身を置いている。
当然ながら様々な情報が集まり、またそこから依頼が来るのだと。
なので、子供たちを守るためにも一応敵であるゴーストスイーパーの内部にいた方が動きを把握しやすく、何かあったときに対処しやすい。
そういった理由のようだ。
それにもし、万が一にでも子供が襲われた場合闘う術を持たない俺では守りきれない。
アシュタロスさんも常時子供たちに付いているわけではないし、ブレスレットを外せば強力な力を使えようともやはりまだまだお子様。
経験豊富なゴーストスイーパーと対等に遣り合える可能性は少ない。
俺もルシオラちゃんたちが危険な目に会うのは出来る限りは避けたいし。
そんなわけで承諾して。
アシュタロスさんの部下が師範を勤める道場を紹介してもらったんですが…。

白竜会。森と塀に囲まれた広大な敷地。道場だけでその敷地内のかなりの割合を占めている。
アシュタロスさんの部下、そこの師範も当然魔族。
伝説やゲームで頻繁に聞く名前。メドーサさん。
長い髪したきつい顔立ちの美人さん。ちょっと年増っぽいがそれはそれで色気があってOK!!
道場の一室、アシュタロスさんが俺を紹介するのをつまらなそうに眺めている。

「…というわけで、よろしく頼むぞ、メドーサ」

「了解しました……」

「これからお願いしますね、メドーサさぁん!!」

気付いたら飛びついてました。すぐに蹴り落とされたけど。
その日から俺はそこに通うことになりました。
行くのは週三日。毎日じゃないのは子供たちが反対したから。
いつも家にいたからなぁ。俺がいないというのは想像した事も無かったんだろう。
最終的にパピリオちゃんの一言「パパなんてきらいでちゅ!!」で、その日数に落ち着いたわけです。
白竜会の胴着を着て、メドーサさんの直接の弟子三人と一緒に鍛えられることになった。
もともと白竜会は霊能修行を前提として、徒手空拳の戦い方を教えている。
つまりこの道場の門下生は全員が少なからず霊力を持っているという事。
その中でもメドーサさんの直接の弟子というのは高い力を誇っているらしい。
よく知らないが魔装術と言う、凄い術も教えてもらっているというし。
その三人以外にも指導はするが、本格的なものになるとメドーサさんの力に耐え切れないからあまり関わらないとか。
俺は事情が事情なので一応メドーサさんの弟子って事なんだけど…。
紹介された「弟子」を見て、やめときゃと良かったと心底思った。

「鎌田勘九朗よ。あら〜、可愛いわね。手取り足取り教えてあげるわよ。うふ」

「伊達雪之丞だ!」

一人、おかま。怪しい笑顔を向けないで下さい。一人、強面。鋭い殺気を向けるな!

「もう一人いるだけどねぇ。あの馬鹿は術を暴走させて入院中さ」

肩をすくめるメドーサさん。
そのもう一人は陰念という奴で。
術の暴走の原因は勘九朗の寝技から逃げようと、死に物狂いにもがいた結果だとこっそり雪之丞が教えてくれた。
……顔も知らんが陰念、君に非は無いと思うぞ。
で、早速修行開始ですが。
あのー。体力作りとか一切無しで、いきなり取っ組み合いですか?

「体力なんて、体動かしてれば勝手に付くんだよ。文句言わずにさっさとやりな」

無茶言わないで下さい、メドーサさん!!

「行くぜ、横島!! お前の力を見せてみろ!!」

そしてかかって来るな、雪之丞!!
俺は霊力の使い方さえも知らないんだぞ!?
手刀に正拳、回し蹴り、飛び膝、肘鉄。フックにアッパー、ボディブロー。
もの凄いスピードで繰り出されるそれらを、かわす事に徹する。
反撃? 無理です。
頬を掠める風圧すら痛いのに。身を捩ってぎりぎりで攻撃をやり過ごす状態。
正直、そんな余裕ありません。

「おらぁ! どうした、横島!? 逃げてるだけじゃ勝てねぇぞ!!」

あほー!! 俺は強くなりたいとは思っても基本的には暴力反対なんだよ!!
結局その日は一方的に追いかけてくる雪之丞から、逃げるだけで終わりました。
ああもう、お前なんか雪でいい! ポチとか犬の名前を呼ぶ要領で!
ごめんなさい、本日やったこと霊能関係ない。
へとへとになって家に帰ると、子供たちはすでに就寝時間。
限界まで俺を待ってたようだけど、睡魔に負けてダウンとのこと。
アシュタロスさんもまだ帰っていない。
代わりに、なんかいました。見慣れないもの。
……土偶?

「おお、お前が横島だな。アシュ様から聞いておる。わしはドグラ、お前の教育係じゃ!!」

腹減ってるし眠かったので、ゴミ袋に詰めてハニワ兵に後を頼んで飯食って、寝た。


翌朝。やっぱいました。

「な、なんじゃお前は!? いきなりゴミ袋に叩き込みよって! しかもその後ごみ箱に…!! 生ごみの臭いで鼻がもげるかと思ったわ!! ハニワ兵はいくら言っても出そうとせんし!」

朝っぱらからぎゃーぎゃーと。半泣きで喚いて元気なことだ。
子供たちも興味深そうにその様子を見守っている。
ルシオラちゃん、手にしたドライバーは離そうね? 知的好奇心がうずくのは分かるけど。

「で、なんなんだ、お前?」

「それは私から説明しよう! これの名はドグラ・マグラ! 私が作り出した私の部下だ。こう見えても演算能力はかなりのものだぞ?」

いや、歯を光らせても知りませんから。

「はあ。確か教育係とか言ってましたけど。どー言うことっすか?」

「ふむ。霊能力は体を鍛えるだけでは意味が無い。道場に通うだけでは少々心もとないのでね。霊能の基礎について学んだ方が良いと思ったのだ。
そこでドグラの存在を思い…いやいや出番だと! 家にいるときはドグラに基礎を教えてもらうと良い!」

「……確かに道場も基礎知識も俺には必要でしょうし、それはわかりました。
けど、アシュタロスさん? もしかして俺に色々用事を作って自分は子供独り占め!とか、そんな馬鹿なことは考えてませんよね?」

「……………………………ハッハッハッ、イヤダナァヨコシマクンタラ。ソンナコトカケラモカンガエテマセンヨー」

うぉい。俺の目を見て否定しろ。
家を空けるのが不安になってきた。

という訳で、道場+基礎勉強な日々なのですが。


「よぉこぉしぃまぁぁぁぁぁぁ!!」

「くんじゃねぇ〜〜!!」

ぐぎぃ!!

道場、着いた途端餓えた獣のごとく飛び掛ってくる雪。偶然突き出し靴裏が偶然奴の顔面を捉えて。

「ふふふ、流石だな横島。見事なカウンター。それでこそ俺のライバルだ!」

「誰がいつお前のライバルになった、誰がいつ!?」

「ああ、来たかい。ま、死なない程度に頑張りな」

「メドーサさぁん! 今日も美人ですねぇ〜〜!!」

べし! ぐりぐり!

反射的に飛びつけば無言で蹴り落とされて、ハイヒールでぐりぐり。あぁ、なんかヤバイ方向に目覚めそう。

「あらぁ〜、大丈夫? あたしが慰めてあげるわ〜☆」

「ひぃぃぃぃ!? いぃえぇ! 結構です、平気です!! だから抱きしめないで手を這わさないで!! うあぁ、自分で着替えますから服を脱がさないでぇっ!?」

はぁはぁはぁはぁ!
ま、毎回毎回。勘九朗から逃げるのは命がけだ。
見てないで助けろ雪! 指を咥えて残念そうな顔しない勘九朗!!
着替えて、ストレッチして。
待ってましたとばかりに雪に腕を引っ張られて、対峙させられる。
個人的にはメドーサさんの方が良いんですが。滅多に相手してくれないしなぁ。
何故かこいつは俺が気に入ったようで。一方的にライバル視して、いつも相手をさせられる。おかげで重度のマザコンだとか、そんなどうでもいい個人情報入手。
勘九朗と一緒で道場では実力上位のくせに、素人の俺なんかと組み手して楽しいのか?
一度見せてもらった魔装術を使えば俺なんて瞬殺のくせに、発動させようともしないし。
いや、強いけどあれな勘九朗とやりたくないだけかもしれんが。

「いっくぜぇ!!」

気合のこもった声。一瞬にして間合いが詰められる!
霊力の乗った拳、蹴り。
避けることに徹する。
反撃はしない。余計なこと考えたらそこで確実に終わるからだ。
そもそも俺は親がああとは言え、全くの一般市民。暴力を振るう事に対して抵抗がある。
第一霊力さえまともに使えないど素人の攻撃を簡単に喰らってくれるほど甘い相手か? 雪が。
幸い反射神経は人並み以上。クリーンヒットを避けるくらいは何とかできる。
……霊力篭ってるから、掠っただけでも痛いけどな!
ゴーストスイーパー試験も試験生同士の試合って聞いたし、だったら逃げ回って相手の体力と霊力の消費を誘おう。
うん! 俺らしい戦い方だ!!

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ! どうした、横島!? 今日も逃げの一手かぁ!!」

お前はどこぞスタンド使いかと問いたくなるラッシュ。ただし、霊波砲。

「ひぃ! お前、危ないだろーがぁ!!」

いくら道場内はメドーサさんの結界のおかげで損傷が出ないようになってるからって。
これはやりすぎだろ! ほら、他の人のところにも飛んでいってるから。流れ弾になってるから。

「はっ、問題なく避けてる奴が何言いやがる!?」

少しは周囲を視界に入れろ!! そして俺も一杯一杯なんだよ!!

だん!

「あう…、しまった!」

背には壁。追い詰められた!!
前には雪。その両手の平は淡く、だが確実にヤバイ光が宿っている。
じりじり距離を詰めながら、危ない笑みを浮かべている。

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

キュドドドドドドドドドドドド!!

霊波砲が、雨のように。

ドグラが言っていた。霊力は誰でも持っていると。ただそれを自覚しているかしていないか。強いか弱いか、その差があるだけだと。
まず集中する事、イメージする事。ある、と自覚する事。
コンプレックスのときに、無意識に霊力を発動させていた。だから下地は出来ている。
左手。お守り。光。熱さ。
集中する、イメージする。力を、自覚する。
何かが、集まってくる感覚。

きた!

霊波砲はパピリオちゃんに比べれば、遅い。弱い。
息を吐く、吸う。
俺に当たるだろうものだけを、淡く光りだした左腕で薙ぐ。
びりびりとするが、腕自体に怪我は無い。

「へぇ、やるじゃねぇか!!」

やけに嬉しそうに笑って。突っ込んでくる。

「喰らえぇ!!」

「っさせるか!!」

ごがぁ!! 鈍い音。打ち付けられた拳。雪の方が威力は上。当然だが。
何とか防いだものの、威力は殺しきれず俺の体は後退させられる。
正直、殴り合いはきつい。圧倒的に不利だ。素人の俺と戦闘狂の雪。勝敗なんて見えている。
蹴りをかわす、肘がくる。受け流せば、手刀が。
真正面から遣り合うのは向いてないぞ、俺!

「とどめだ、横島!!」

雪が飛び掛って来るのと、

「やってるようだね、お前達」

道場の入り口にメドーサさんが顔を出したのは、ほぼ同時。

「メドーサさぁん、見に来てくれたんですかぁ〜!?」

「ぐわぁ!」

「しつこい!」

素晴しいまでの反応速度でメドーサさんにダイブな俺。いきなり標的がいなくなって派手にすっ転ぶ雪。まるで虫でも追い払うかのように俺を叩き落すメドーサさん。

「仲が良いわねぇ。羨ましいわ」

そんな俺たちを眺めて、勘九朗が微笑んだ。


「全く、あんたは。毎回毎回、懲りないねぇ」

道場の外。休憩所を兼ねた小さな庭。
一休みしようという勘九朗の提案でメドーサさんを含め、俺達は思い思いに腰を下ろしている。

「いやぁ、美人がいるのに何も反応しないのは男として間違ってるというか、本能的な反射というか…」

呆れ返ったメドーサさんに、曖昧に返す。

「その粘り強さは認めるけどね。あんた如きじゃ、私に触れられないのは自分でもわかってるだろう?」

「ええまぁ。だからこそ安心して飛びかかれるというか」

「お前、蹴り落とされるの前提でかかって行ってんのか!?」

「あらやだ、横島ってばもしかして――マゾ?」

「違うわ!!」

疑わしい目を向ける勘九朗に大声で否定する。
雪もメドーサさんも微妙な顔して人を見ない!! 距離もとらないで。切なくなる。

「ホントに女の人襲ったらまずいだろうが! でもこんな美人が目の前にいるのに何もしないなんて男が廃る!!」

「ああ、だから一応行動は起こすけど絶対手を出せない相手にしている、と?」

「そうだよ。それに……子供の教育上、悪いしなぁ」

「子持ちだったのか!?」

「違うわ!!」

本日二度目の突っ込み。今度の相手は雪だ。

「子守のバイトしてるって、この前言っただろうが!」

俺も言葉に、雪も勘九朗もああと納得した。
メドーサさんだけ何故かもの凄くいや〜な表情したけど。
そういえばこの人アシュタロスさんの部下だし。ルシオラちゃんたちの事、知ってんのかな?

その後、些細な会話を交わして稽古を再開。
勘九朗に襲われました。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!? 寝技はやめてぇ!!」

「遠慮しなくてもいいのよ? あ、そうか! そーよねぇ、横島も男の子だもんね☆
いいわ、私が受けてあげる。さぁ、ガンガン攻めてきなさい!!」

「ちょっと待てぇ! 明らかに言葉に宿る意味が違うだろ!?
恥らう表情はやめろ! 寄せて上げるのも禁止! へそチラも嫌ぁぁぁ!!」

どこの次元の拷問ですか。
気付いたらメドーサさんはいないし、雪も逃げ出してるし、直視してしまった会長は脈が止まりそうだし。
散々でした。

稽古のない日は家でれっつれっすん。
でも教師は土偶なので正直やる気が出ません。どうすればいいですか!?


「で、だな。霊能力というものは個人によって持ちえる性質・資質が違い。その結果、得意とする……」

「お兄ちゃん、ほら見てぇ〜」

「上手に描けたね、ルシオラちゃん」

「おにーちゃん、おにーちゃん! パピリオちゃんも描いたでちゅー!」

「ハニワ兵とお姉ちゃんたち? パピリオちゃんも上手だよ〜。ベスパちゃんはこれはパパかな?」

「うん。次はねぇ、お兄ちゃん描いてあげる」

「て、話を聞かんか、そこー!!」

怒られた。
リビング。ドグラの講義を受けつつ、子供とじゃれ合っていた俺にとうとう痺れを切らしたらしい。
だってなぁ、土偶なんぞと向き合ってお勉強なんて楽しくもなんとも無いし。内容もつまらないし。
それに道場に通い出したせいで遊べなくて、皆にも不満が溜まってるみたいだからちゃんと相手しないと…。
ドグラは先が思いやられるなどと、ぶちぶち呟いている。
知識が必要だということは理解しているがやはり張り合う相手がいないせいか、いまいち身が入らない。
それでも少しは進歩してるんだけど。
光る腕――コンプレックスを倒したアレ――は一応、集中すればそれなりに使えるようになった。
が、ドグラ曰くアレは非常に効率が悪いらしい。霊力の。
威力こそあるものの、その実、器に溜まった水をぶちまけるのに似ているという。
アレは俺の持っている霊力を常時放出しつづけることで、威力を得る。
つまりアレを発動させていると、その間どんどん俺の霊力は減っていく。相手にヒットするしないに関わらず。
しかも霊波砲のように打ち出すことが出来ないから、接近戦でしか使えない。
威力はあるが、見事に使えない技と言うことだ。
ドグラは言う。
力を安定させ、集中させ、一定に保て、と。
垂れ流すのではなく、留めたままにしておく事が必要だと。
それを受けて、頑張って特訓しました。
使えるようになったのが、六角形の盾?かな。
手の平程の大きさで淡く発光するそれは、見た目がずいぶんときれいでルシオラちゃんたちに好評。
強度もあるし、投げれば着弾した途端に爆発する。結構な破壊力もある。
サイキックソーサーと名付けてみました。
ちなみに雪にはまだ教えていない。言ったが最後、嬉々として挑んでくるだろうから。間違いなく。
出来たときは嬉しかったが、これもどうやら手放しで喜べるものではないようだ。
まず、これを作ると体全体を無意識で覆っている霊的な防御が無くなる。こっちに全部行くから。
なので相手の攻撃はソーサーで防がなければならなくなるが、四方八方からこられたら確実に死ぬ。
そして破壊力は高いものの、逆にその高さから迂闊に投げられない。
下手したら俺自身が巻き込まれる可能性がある。ある程度距離をとって投げるのが理想だろう。
これも、微妙に使い辛い。改良の余地がありすぎる。
こんなんばっかか、俺の力は?
そしてドグラに聞いたところによると、俺はどうやら無意識にアシュタロスさんから貰ったお守りを精神集中の要に、霊力のブースターに使っているらしい。
だから左手に力が出やすい。
試しに右腕に霊力を集めてみようとしたが上手くいかなかった。お守りを外しても同じ。
だからお守りを狙われたら――そうでなくても、たとえ偶然にでも壊されてしまったら、おそらく何も出来なくなるから気を付けろと。
お守りが無くても霊力を使えるように修行したほうが良いんだろうが。如何せん、俺は完璧な素人だ。
一度にあれやこれやとやっても上手くいかない。
まずは力に慣れる事。ある程度使いこなせるようになる事。
中途半端に本格的な修行を始めてもGS試験には間に合わないし、だったら合格してから身に付けていけば良い。
俺の目的はルシオラちゃんたちを守ることなんだから。


そんな愉快な日常で、ある日アシュタロスさんが言いました。いい笑顔で。

「メドーサとその弟子を家に招待しよう」

メドーサさんはアシュタロスさんの部下で、その弟子とも顔を合わせておいた方が何かと都合が良いと。
子供たちを守る者が多いのは良いことだし、それがメドーサさんの弟子ならば尚更。
それに彼らがGSになったとき、色々と協力してもらうことになるかもしれない。
それがアシュタロスさんの言い分。
早い話が根回し。

「へぇ。ちゃんと考えてるんすね。俺はまたてっきり、その場の思いつきかと…って、アシュタロスさん?」

「と、当然では無いか横島君! 可愛い子供たちの為なのだから!!」

……だから目を見て言え、おっさん。
思いつきで行動して結局自分の首を絞めるという事実に、いい加減気付いて欲しい。

そーゆーわけで、メドーサさんと雪・勘九朗を我が家にご招待。

お客さんということで子供たちはおおはしゃぎ!
前日の夜から楽しみでたまらなかったようだ。
雪と勘九朗も快諾。メドーサさんは少々渋っていたようだが、アシュタロスさんには逆らえず承諾。

「普通の家だな」

「ええ、普通ね」

門の前。雪と勘九朗がさりげなく失礼なことを言っている。

「お前らな、どんなだと思ってたんだよ?」

「だって、メドーサ様の上司って事はもっと高位な魔族でしょう? だから、ねぇ?」

「おどろおどろしい所かと思ったぜ」

ジト目で睨む俺に悪びれた風もなく答える。
メドーサさんは面白くも無さそうに後ろから着いてくる。その全身が来たくて来たわけじゃないと訴えていた。
扉を開けると、おめかしした子供たち。

「「「いらっしゃいませ〜♪」」」

にこにこ笑顔でお出迎え。可愛らしくちょこんと、お辞儀。

「お迎えしてくれたんだー。ありがとうね。ほら雪と勘九朗とメドーサさんだよー」

「はじめましてー」

「上がってくださいでちゅー」

「早く早くぅ」

上機嫌で手を引く子供たちに戸惑いながらも三人、大人しく後に着いて行く。
リビングでもやはりにこやかなアシュタロスさんに迎えられ、完全に拍子抜けしたらしい。
子供たちもフレンドリーな表情を見せるアシュタロスさんも、魔族のイメージとは程遠い。
魔族という言葉から連想するのは不吉な存在で、それならメドーサさんの方が納得できる。
固まってしまっている弟子二人を尻目に、メドーサさんはさっさとソファに腰を降ろす。
ソファはふかふかで座り心地は悪くないはずだが、緊張のせいか顔色は優れない。
そんな二人に構う事なく、話し始めるアシュタロスさん。

「始めまして、私はアシュタロス。そこにいるメドーサの上司だ。人間としても生活しているので、そちらの名は芦原優太郎。
こっちにいるのが私の娘達。ルシオラ、ベスパ、パピリオだ。
メドーサの弟子である君たちとは、これからも顔を合わせる機会があるだろうから仲良くしてやってくれ」

ごく普通の挨拶。落ち着いた物腰。柔らかな態度。
眼前のアシュタロスさんに毒気を抜かれたらしい雪と勘九朗は、「はぁ」と間抜けな声を返す。
出身はどこだとか、普段は何をしているかとか。ありきたりな世間話で二人の緊張もすっかりほぐれたらしい。
特に勘九朗なんて熱っぽくアシュタロスさんの事見てるぞー。はっはっはっ。
食事の頃にはもういつものペースを取り戻した。
雪、お代わりなら沢山あるからがっつくな!
勘九朗、雪の口の周りを拭おうとするのは良いけどここでは止めろ! 何というか…情操教育上悪すぎる!!
メドーサさんは我関せずを貫いて、何も言ってくれないし。
はしゃぎまくった子供たちは今まで見たことの無いタイプの二人――当たり前だ!――に、興味津々で色々話しかけてるし。
パピリオちゃんは雪が気に入ったのか、食事が終わった途端ゲームの相手をさせている。
プレイしているのは多人数向けのシューティング。
何でガキの相手をと、ぶつくさ言っていた雪も熱くなって張り合って。
勘九朗の傍にはルシオラちゃんとベスパちゃん。談笑しているのだが、何か変な事吹き込まれないか心配なんですけど。
メドーサさんはなにやらドグラと話し込んでいる。あ、いや――一方的に愚痴をこぼしているドグラにうんざりして酒呑んでる。
まあ。思ったよりも馴染んだ様で、良かった。
そんな風に、俺がほっと息をついていると。
忘れてました。アシュタロスさんが何もしないわけ無かったんだよな。
何誇らしげに子供たちのアルバム持ってきてるんですか?
見て欲しいんですね? 褒めて欲しいんですね? それは分かりますけど、空気とか読んで下さい! そして相手も選んで下さい!!
あんたに今近付いていってるのは思考とか嗜好がヤバイ奴です!!
ほら、浮かぶ笑顔からして怪しいし! 子供たちも離れたでしょう!?
だから喜々としてアルバムを開かないで下さい!!
俺の心からの叫びも、周囲の意味あり気な沈黙も気付かずに。
アシュタロスさんは、とっても楽しそうにアルバムを見せ始めました。
勘九朗に。

「ふふふふふ! 可愛いだろう、私の娘は!! もはや地上に舞い降りた最後の天使!!」

「あら、ほんと♪ もっと見たいわぁ。そうだ、アシュ様のお部屋でゆっくり見せて下さらない?」

熱く語るアシュタロスさんに、愛想良く頷きながらさりげなくデンジャラスな提案をかます勘九朗。

時が――凍った。

何も知らない。いや気付く素振りもないアシュタロスさんは、上機嫌に頷きやがりました。

「いいだろう! 我が娘たちの愛くるしさ、心行くまで教えてあげよう!!」

「ま、嬉しい。それじゃあ、朝までたっぷり付き合いますわー」

笑顔な2人。笑顔の意味は正反対だろうけど。
アシュタロスさんに案内されて階段を上っていく勘九朗がちらりとこちらを振り返って、人差し指を口に持っていくジェスチャー。
そんな事しなくても、きっと誰も何も言わない。
現に皆、黙って見送ったわけだし。
完全にその姿が見えなくって、ようやく時は動き出す。
重苦しい沈黙を破ったのは雪の深いため息。
同時にTV画面から派手な爆音が聞こえ、雪が使用していたキャラクターが死亡したと悟ったがどうでもいいらしい。
パピリオちゃんもルシオラちゃんもゲームに集中してる振りして、目が泳いでるしな。

「はいはい。もうお風呂入って寝る時間だよー? あ、メドーサさんと雪は今日泊まって。その方が皆も喜ぶし」

俺の言葉に2人は顔を見合わせたが、仕方がないという風に頷いてくれた。
ゲームを片付けてお風呂の準備。
ハニワ兵はすでに、メドーサさんたちが使う部屋の掃除に向かっている。
ルシオラちゃんパピリオちゃんにお風呂場に行くように促して。一人、窓の外をやたら遠い眼で眺めていたベスパちゃんに声をかけた。

「ベスパちゃん、お風呂だよ?」

「お兄ちゃん、無知とかおろかって哀しいね」

しみじみ。重いセリフに俺も心の底から同意した。

「お兄ちゃんもそう思うよ。でもどんなに無知で愚かな人にも救いはあるはずだから!」

「うん、わかった! ベスパがんばる!!」

どうやら元気になってくれたらしい。
その後はいつものように子供たちをお風呂に入れて、いつものように絵本を読んで寝かしつけました。
でも最近、頭や体を洗うのも着替えるのも自分でする!って言うようになったから少し寂しい。
特にお姉ちゃん、2人。
自分で何でもやりたがる年になってきたかなぁ。
そんな事をメドーサさんと雪に言ったら「お前は母親か?」と呆れられた。
……俺、変なのかなぁ?

夜半。
どこからか盛大な悲鳴とか派手な物音とか聞こえてきましたが、誰も確認しようとは思わなかったようです。


朝。眩しい光を取り入れようと丁度リビングから庭の見える窓にかかったカーテンを一気に引いて――
見てしまいました。庭先に転がっているもの。
乱れた服と髪。体中に紅い痕をつけ精も根も尽き果てた感漂うアシュタロスさん。ボロ屑みたいになっているくせに結構良い顔している勘九朗。
………。
カーテンを閉じて、朝食の準備をしているであろうハニワ兵がいるキッチンへと向かった。
起き出してきた子供たちとメドーサさんと雪を席につかせて、一緒に朝ご飯。
ご飯は出来るだけ皆で食べるのが暗黙の了解。
オムレツとトーストを口いっぱいに頬張るパピリオちゃんの口元を拭いて、おかわりをねだるルシオラちゃんのコップにミルクを注いだり。
ベスパちゃんはアシュタロスさんの姿を探してか、少しばかりきょろきょろしていたが、今は落ち着いてジャムたっぷりのトーストをかじっている。
小食なのかオムレツのみを片付けたメドーサさんはコーヒーを飲み干して、満足そうにほうっと息をつく。

「静かでいい朝だねぇ」

その一言には、何やら色んなものが含まれている様に思えた。

「そうですね、メドーサさん。……庭、どうしようかな?」

「桜があったね、確か? 紫色の桜ってのも乙なもんだよ」

殆ど独り言みたいな俺の言葉。メドーサさんが珍しく柔らかな笑顔で返してれた。

「俺は手当たり次第に男を襲う化け桜にならなきゃどうでもいい」

二枚目のトーストを食べ終えて、三杯目のミルクをコップに注ぎながら雪。

「そうかぁ」

子供たちはすでに朝のアニメを見る為リビングへと移動している。
何体かのハニワ兵が食器を洗い始め、別のハニワ兵が洗濯でもするのか奥へ向かっている。
どこからか小鳥達のさえずり。犬の声。
朝の光景に相応しい眩しく静かで、そして適度に賑やかな音。
いい一日になりそうだ。


人望って、大切なんですね。痛感しました。


続く


後書と言う名の言い訳

うぬ! 登場人物が多くなると子供達の出番が減る&満遍なく描写しようとしておかしくなります。精進、精進!
今回、一応霊能修行でした。GS試験編は来年に持ち越しです!!(どんだけかかるんだ)
次回はまた芦原家メイン。次々回が霊能関係。十二月にうらめん予定なんで…。このうらめんを書きたいが為にGS試験が延期と(苦笑)。
陰念の出番が無いのはもうそういう運命だと。次々回辺りでちゃんと登場させられたら良いなぁ。メドさんももっと書きたいしー。…頑張ろう。
では、皆様。ここまで読んで下さってありがとうございました!!

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