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「GSユータロー極楽大作戦九話(GS)」

ミアフ (2006-10-18 23:56)
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九話『ばっと・ごっと・ふぁーざー后


大地を揺るがし、ネズミの王が出現した。

「あ、あれがパイパーの本体だっていうのか!?」

優太郎はパイパー本体から放たれる、強大な魔力に怯えていた。
優太郎自身は一般人並の霊能力しか持っていない。
だが、令子の除霊作業を手伝ううちに、自身の霊感は確実に研ぎ澄まされていたのだ。
そのため、初めて出会った本当の魔族の恐ろしさを感じ取り、知らず知らず、身体が震える。

「ほーほっほ!おいらが怖いか?恐ろしいか?」

パイパーが出現したことで、怯えていたネズミ達もまた集まってきた。

「ネズミ共!結界を食い破れッ!」

ぢゅぅぅぅ!

パイパーの号令によって、万単位のネズミが共鳴し合い、結界へと体当たりをし始める。

「く、横島、破魔札を!?」
「わかった、芦!」

横島が荷物の中から破魔札を取り出す。
優太郎はそれを結界にへばりついているネズミに叩き付けた。

「離れろッ!!」

一般人の優太郎が使う破魔札。
最低限の効力しか発揮しないが、それでもネズミを数十匹消し飛ばすくらいは可能だった。
半ばヤケクソ気味に破魔札を使用する。

「くくく・・・・・・いつまで持つかな?こっちには無数に眷属がいるんだ。
お前達のような単なる人間がどこまでやれるか見ものだな」

嘲るようにパイパーが笑う。
向かってくるネズミを蹴散らしながら優太郎が反論する。

「く、裏をかかれたけど、時間さえ稼げば神父達が戻ってくる。それまで持ちこたえればこっちに勝機が

ある。なんとか手持ちの道具で凌ぐぞ横島」

「つーか、唐巣神父にDrカオスはどうしたんだ!?あいつらがお前を退治しに行ったはずだろうがッ!?」

横島の言葉にパイパーはご丁寧なことに語りだす。

「あーはっはっは!あの二人かい!?あの二人はねぇ・・・・・・」


丁度、ネズミの一団が地上の優太郎達を襲っていた頃。

唐巣とカオスは襲ってくるロボットから逃げるため、コースター用の狭い通路を走り抜け、地底湖のような場所へと辿り着いた。

「ぜぇ、はぁ・・・・・・どうやら木偶人形共は振り切ったようだな」

胸を押さえカオスが呼吸を整えていた。
普段から肉体労働は従者である二人の娘に任せきりだった。
全力で走るなんてそれこそ数十年振りだった。

(頭脳労働担当と言えど、それなりに身体は動かしておく必要があるようだな・・・・・・今回の騒動にケリがついたら、スポーツジムにでも通うか・・・・・・)

思わずそんなことを考えている。

「ふぅ、唐巣。お主は元気そうだな」

「ん?私だってそれなりに鍛えていたからね。これくらいじゃ、へばってられんよ」

唐巣は大して疲労もないようだ。
まあ、80Kgもあるパイルバンカーを愛用するくらいだ。
カオスに比べれば体力は有り余っているのだろう。

「しかし、広いな・・・・・・」

辿り着いた地底湖を唐巣は見回す。
無数の風船がプカプカと浮かび、星が瞬くように照明が点灯している。
地底湖の水はせいぜい唐巣の膝まででお世辞にも深いとはいえないが、その面積は広かった。
広さはちょっとした体育館くらい。
本来は大きなアトラクションを置いておくのか、所々にケーブルが剥き出しになっている。

ふよふよと浮かんでいた風船の一つを唐巣は思わず掴んだ。

「んん!?」

その風船を見て、唐巣は眼を丸くした。

「どうした唐巣?」

カオスもその風船を覗き込み。

「これは、美神君の顔?」

そう、その風船には唐巣の弟子、美神令子の顔が描かれていた。

「これは・・・・・・もしやこの風船は、美神君の記憶と年齢なのか!」

風船を手にした唐巣は地底湖を見回した。
地底湖には無数、それこそ数百の風船が漂っていた。
全てパイパーに記憶と年齢を奪われた人間だとすると、相当の数になる。
奪われた自分の記憶と年齢が詰まった風船もどこかにあるかもしれない。

カオスが令子の風船を見て呟く。

「パイパーの魔力で防護されておるな。おそらく、この風船をどうにかすれば、パイパーに子供にされた

人間を元に戻せるだろうが、普通の方法では無理だな」

その言葉に唐巣は金の針を取り出した。

「これで割るべきか?」

カオスは頷く。

「うむ。その針ならば可能だろう」

「なら、割ってみるか」

割と躊躇い無く風船に針を近づける唐巣。
唐巣がその風船を割ろうとした瞬間。

「やらせんよ〜〜!!」

「「パイパーッ!?」」

パイパーの分身が天井からぬっと現れ、金の針目指して急降下してくる。

「おわっと!」

ぽちゃん。

パイパーの突撃を唐巣は辛うじてかわす。
だが、その拍子に金の針がどこかへすっ飛んでしまった。
薄暗い地底湖では水の中に落とした金の針を探すのはそれこそ至難の業だろう。
しかし、パイパーはにやりと笑った。

「ほーっほっほ!まあいい。金の針は後でじっくりと探せばいいさ」

パイパーは魔力砲を天井へ向けて放った。

「どこを狙っている?」

攻撃を警戒していた唐巣とカオスはその行動に眉を潜める。
砕けた天井の一部が唐巣達が入ってきた地底湖の入り口を封鎖する。

「人間ってのは不便な生き物さ・・・・・・これで、お前らの脱出は不可能になったぞ。
あとはお前らが飢え死にでもした頃に金の針を探せばいいだけさ」

下卑た笑みをパイパー浮かべる。
肉体を持つ人間は幽体であるパイパーのように壁をすり抜けたりは出来ない。
つまり、この地底湖から出れるのはパイパーだけなのだ。

「人間相手に兵糧攻めか・・・・・・魔族としてはせこい策を使うのう」

カオスが挑発するようにパイパーを嘲る。
だがパイパーは高笑いするだけで歯牙にかけない。

「なんとでも言ってろ。貴様らにはここから出る術はないのさ。あとは上にいる目障りな連中を始末すれば、おいらを追ってくる人間はいなくなる。
その後、世界中の人間を子供に変えてやるよ・・・・・・ほーっほっほ!」

パイパーの身体がゆっくりと宙に溶けていく。

「待て!パイパー!」

唐巣の声も虚しく、パイパーは高笑いしながら去っていく。


パイパーの言葉に優太郎達の表情は絶望に染まった。
唐巣もカオスも助けにはこれないだろう。
かといって、霊能力者でもない優太郎達ではパイパーを倒すことなど不可能。
唯一できるとすれば、この場を脱出し、なんとか他のGSに救援を呼ぶことくらいだろう。
このネズミの軍団から突破することが出来ればだが。

「くっそ〜彼女も出来ないのにネズ公に齧られ、俺はここで死ぬんか〜!?」

「横島!お前もくだらないこと言ってないでこの事態打開するようなアイディアを考えろ!」

「んなこと言っても・・・・・・」

結界に張り付いてくるネズミを破魔札で消し飛ばしながら優太郎は横島に聞く。

「なにか持ってきている道具で役に立ちそうなものはないのか?」

「えーと、えーと!?」

横島が荷物を漁る。
除霊道具の他に銃器も幾つかあったが、この状況では大して役に立つまい。

「お!芦、これなんてどうだ!?」

横島が取り出したのは所謂パイナップル・・・・・・手榴弾である。
今ある道具の中では一番殺傷力のあるアイテムだ。

「よし、それを投げたら、結界を持って外の車まで逃げよう!そしたら、六道さんのところにでも逃げ込むんだ」

数少ない、知り合いのGSの名前を挙げる。
GSとして六道冥子は役に立たないかもしれないが、六道自体がGSとして強大な門閥を持っている。
その力を借りればパイパーを退治することは可能かもしれない。

「おキヌちゃん!れーこちゃんとピートを連れて飛んで逃げて!子供二人くらいならなんとか飛べるだろ!?」

「わかりました横島さん!」

横島の言葉でおキヌが二人を抱きかかえて結界の外へと飛び出していく。
それをパイパーが魔力砲で狙い打とうとするが。

「やらせるかよ!このハゲピエロッ!!これでも喰らえ!!」

ピンを抜いた手榴弾を優太郎が投げつけた。
本体であるネズミの頭部で爆発がおこる。

「か・・・ぁ!?この、人間風情がッ!!」

ネズミから生えたパイパーが苦しげに本体の頭部を擦った。
単なる物理的な攻撃でも、実体があるパイパーの本体には効果があったようだ。
もう一発、手榴弾を投げつけながら優太郎と横島は電車ごっこよろしく、結界のロープを掴んで駆け出した。

「三十六計逃げるにしかず、だ!!」

「逃げ足なら誰にも負けん!!」

それこそ、陸上選手並に速度で逃亡する優太郎と横島。
逃げる際に破魔札を盛大にばら撒くなど、やたらと逃走することに対する手際がいい。

「く、追え!追うんだネズミ共!!」

パイパーが眷属のネズミ達に号令を下す。
破魔札の乱舞によって、大半が阻まれているがそれでもネズミが百匹単位で二人を追う。
眷属に混じりながら、パイパーも逃走する二人を追いかけた。


その様子を天空から見ていた者が二人。
魔法科学の粋を集めた飛行機械に彼らは搭乗していた。

「・・・・・・チャンスは一度だ・・・・・・確実にしとめろ」

「一撃で仕留める・・・・・・この距離なら外さんよ!!」

ガション。

巨大なパイルバンカーの引き金が引かれる。
そして、飛行機械カオスフライヤーカスタムは巨大なネズミに向かって急降下をし始めた。


遊園地の前に止めてあるワゴン車に向かって逃げていた優太郎と横島。
ときおり後ろから迫ってくるネズミに手榴弾を投げつつ牽制を図っていたが、ぎりぎり追いつかれそうだった。

「あとちょっとなのに!」

「うわぁぁぁーまだピー!!なのに死にたくねぇーよー!!」

残酷な現実に優太郎は悔しがり、横島は嘆く。
苦情を叫んだところで、大抵現状は変わらない。
が、その声に応える者がいた。

「小僧共、良く頑張った!あとは私達が引き受ける!」

頭上からどこかで聞いた声が聴こえた。
風を切る音と共に、一瞬、何かの影が二人の頭上をよぎる。

「今だッ!!飛べ唐巣ッ!!」

「応ッッッ!!」

高速で飛行する物体から一陣の影が飛び出し、二人を追っていたパイパーの本体に肉薄する。

「貴様は!あの神父!?」

驚愕の声を上げるパイパー。
今、自分の本体の頭部に跨っているのは地下に閉じ込めておいたはずの唐巣だった。
多少、土ぼこりに汚れた唐巣はニヤリと笑った。

「悪魔パイパー、チェックメイトだ・・・・・・撃ち抜けェ!!」

唐巣がパイルバンカーをパイパーへと押し付けた。

ズドムッ。

炸薬の破裂音が響き、ダマスクス製の杭がパイパーの本体の頭部を打ち砕く。

「あぎゃぁぁぁぁぁ!?」

パイパーの断末魔。
唐巣が口元にニヒルな微笑を浮けべ、一言。

「主の御心は悪魔でも受け入れる・・・・・・安らかに眠れ」

「馬鹿な・・・・・・このおいらがこ、こんなにあっさり・・・・・・」

「・・・・・・ハレルヤ」

ボシュゥゥゥ・・・・・・

パイパーの身体が一瞬で弾け飛び、痕跡も残さず消え去った。
そこに立つのは十字を切って神に祈る破戒僧がただ一人。

数百年を逃げ延びた悪魔パイパーは金の針を手にすることなく天の国へと送られた。


カオスフライヤーCを着陸させ、カオスはにかっと笑う。

「お主らも弱体化しているとはいえ、魔族の一員相手に良く頑張ったな」

唐巣と同じく、泥で薄汚れたカオスは優太郎と横島を労った。

「あの・・・・・・パイパーの話だと、二人共、地下に閉じ込められていたんじゃ?」

「そうだ、てっきり嵌められたと思ってたんすけど」

二人の疑問に祈りを捧げ終わった唐巣がやって来て。

「ああ、あの時はしてやられたと思ったよ・・・・・・けどね」

唐巣はパイルバンカーを擦る。

「慌ててこのパイルバンカーで天井に穴を開けたんだよ。地底といっても人工の建築物。
天井が純粋な土砂じゃなくて、鉄筋で作られてたのが幸いした。
穴さえあけば空洞になっているからね。 
あけた穴から外に出て、Drが遠隔操作で呼んだ飛行機械で君達のところへ向かってたんだ」

「このカオスフライヤーはテレパシーに拠る遠隔操作が可能でな。
念のため近くに呼んでおいて正解だった。これが無ければ、パイパーの不意もつけんかったろうし、小僧達のピンチにも間に合わなかっただろうしな」

はっはっはと笑う唐巣とカオス。
それを見た優太郎と横島は安堵からか、身体の力が抜け、地面にへたり込む。
GSの助手と言っても、ここまで命に関わるような大仕事は初めてだった。

「おい、俺、もう疲れきったんだけど、芦」

「奇遇だね・・・・・・僕の方も今更ながら腰が抜けたよ」

顔を見合わせ、優太郎と横島は力ない笑みを交し合った。
二人共、緊張が解けて脱力感に襲われていた。

「ったく、いい若い者が、これしきのことでへばるとはな・・・・・・」

見た目は三十路、実年齢千歳の若作りのカオス。
最近の若者の軟弱さに嘆いている。
それに苦笑していた唐巣が二人に告げる。

「あーそうしてへたり込んでいること、悪いんだけど、これからちょっとドブさらいするのに手を貸して

もらえるかい?」

「「はい?」」

「ああ、カートのアトラクションの地底湖に金の針を落しちゃってね。金の針がないと、美神君達、被害

者を元に戻せないから、早く見つけないと・・・・・・」

横島が唐巣に訊ねる。

「その地底湖、ちなみにどのくらいの広さなんスか?」

「う〜ん大体、ウチの教会の礼拝堂くらいの広さかな」

こじんまりした唐巣の教会とはいえ、それなりに広さがある。
そこでをほんの小さな針を一本探す・・・・・・正直気が滅入る作業だ。

「じゃあ行こうか二人共・・・・・・」

「せめて、もうちょっと休んでから・・・・・・」

横島のボヤキはナチュラルにスルー。
それから半日、優太郎達4人は地下に潜ってドブさらいに従事することになった。


翌日。
美神除霊事務所のオフィス。
自分の身体を触りながら美神令子はため息をつく。

「ああー結局赤字じゃないの・・・・・・」

パイパー退治に掛かった経費・・・・・・主に御札代や結界ロープ。
総額で一億を越える額になる。
自分は子供にされ緊急事態だったとはいえ、他人から守銭奴と呼ばれる令子にとっては手痛い出費だった。

「もう美神さんたら、無事に元に戻れたんですから、素直に喜んだらどうです?」

丁度お茶を淹れてきたおキヌが頭を抱える令子に声をかける。

「一応、依頼されていた企業さんからは報酬を貰ったんでしょう?それでいいじゃないですか、もう」

令子が不承不承に頷いた。

「確かにね・・・・・・でも、それだけでも御札代くらいにしかならないし、パイパーに掛かってた懸賞

金は先生とDrカオスがもってっちゃったし〜〜〜折角の大型依頼で賞金と依頼料の二重取りだったに〜〜〜ああ、あのくそ悪魔ッ!!」

おキヌが淹れてきたお茶を令子はがぶりと飲んだ。
それを苦笑いで見守るおキヌ。
美神除霊事務所は平和だった。


「芦さん、横島さん、先生、このたびは本当にご迷惑をかけました」

唐巣教会に集まった優太郎と横島にピートは頭を下げる。
いくら優太郎達を庇ったからとはいえ、パイパーに子供化された自分の面倒を見、パイパーとやり合ったのだ。
感謝してもしたりない。

「まあ気にするなよピート。つーか、お前に感謝されたって嬉しくねーし」

「相変わらずだな横島・・・・・・」

女性以外には興味ない横島。

「ふむ、まあ、パイパーを倒した打ち上げだからね。偶には男だけで飲みにいくのも楽しいものだよ・・・・・・横島君だけはノンアルコールだけどね」

と、唐巣がパンパンに膨らんだ財布を見せびらかす。
ちなみに唐巣の外見は元の冴えない中年ではなく、二十代後半の美青年である。
パイパーによって年齢を奪われた被害者は殆ど元に戻った。
ちなみに殆どと言うのは、例外として年齢を奪われた後死亡したり、風船が見つからなかったりした人間が僅かだが存在したからである。
唐巣の方は後者だった。
結局、唐巣の年齢の風船は行方知れず。
どこへ行ったかは不明だった。
だが、当人である唐巣は喜んでたりする。
悪魔の仕業とはいえ、喪った大切な物が再び手に入ったのである。
もう絶対に手放すものかと日がな手入れを怠らない。

「そうですね。さっさと飲みに行こうか皆さん」

優太郎が唐巣達を促す。
唐巣は若返ったおかげか、多少なりとも金銭問題に関してシビアになった。
そのため、何もしてないのにパイパーの懸賞金をなし崩しで手に入れようとした不届きな弟子を叱り飛ばし、きっちりと正当な報酬を自分の懐に納めたのである。
今日はその懸賞金を元に、頑張った優太郎達を労う飲み会を開催する予定だった。

「さあ、買いたてのBMWに乗ってくれ。ふ、ふ、ふ。ちょっと飛ばしていくぞ!!」

そのまんまの意味で若返った唐巣はパイパーの懸賞金で購入した車に優太郎達を乗せた。
性格も良い意味で若返ったようだ。
これならば、念願だった嫁さんも訪れるかもしれない。


唐巣和宏の新しい門出に幸あれ。


東京都某所。
地下数百メートルに存在するカオスの秘密研究所日本支部。

「今帰ったぞ、マリア。テレサ」

ほんの数日留守にしただけだったが、作りかけだった研究所はすっかりと完成していた。

「おかえりなさい・Drカオス」

「あら、マスター。おかえり」

カオスの愛娘達が作業を止め、出迎える。
カオスは二人の娘にコートとステッキを預け、

「うむ。予定通り、金の針は手に入れた、香港の支部に作っていた、改修型の実働はこれで可能だ」

研究所のリクライニングルームでくつろいでいた男女に声をかけた。

「お、流石はヨーロッパの魔王様。やっぱりアンタは天才だな」

男の方がカオスを労う言葉をかける。
カオスはその言葉にフンと鼻を鳴らす。

「天才など、努力の足りん怠け者が作った言葉だ。私ほど、努力している人間はおらんぞ。
やりたいことをするには人生の時間が足りないから、自身を不老不死にし、興味があることにはありったけ力を注ぎ込む。
どちからというと、秀才というほうが似合っとる」

「その考え方が天才の証だと俺は思うんだけどね」

男は隣にいた女に意見を求めた。

「なあ、この中で実質的な最年長としてはどう思う?」

「私は興味ないわよ・・・・・・ちなみに」

「ちなみに?」

女は眦を吊り上げ。

「レディの年齢を言うのはデリカシー不足よ」

「お、悪い」

男はたははと苦笑い。

「アンタとは1000年来の付き合いだけど、そーいうとこは昔から変わらないわね・・・・・・まあ、そこが気に入っている部分でもあるんだけどね」

「ん、そっか・・・・・・」

そう言い、女は男の身体にしな垂れかかる。
男は手馴れた様子で女の金糸のような見事な髪を手で軽く梳く。
その姿はとても幸せそうに思えた。

「ったく、所構わずいちゃつきおって・・・・・・」

カオスは二人の姿に羨望と懐かしさを感じながら、金の針を取り出した。
それは700年来の友人の願いを叶える大切なアイテムである。
それを小さな小箱にしまった。

(これの出番はもっと後・・・・・・錬金術師として、時の根源を開く鍵。腕が鳴るな)


その頃、研究所の一角。
棺桶に入ったまま、ヴラドーはとある漫画を読んでいた。
日本に来てから、ヴラドーには特にやる事はなく、暇つぶしにTVアニメや週刊誌を読むようになっていた。
今読んでいたそれは、錬金術で造れた怪物を、錬金術で造られた武器で退治する少年少女のバトル漫画。
摩訶不思議な武器と緻密に描かれている戦闘の描写にヴラドーはのめり込んでいく。

「む!?なんと、こんなエレガントな服装があるとは!?」

ヴラドーが声を上げたのは、主人公である偽善者少年のライバル、『蝶人』の服装だった。
バレエ用の全身タイツをさらにきわどくしたようなスーツ。
ぶっちゃけ、真っ当なセンスの持ち主ならノーセンキューな格好である。
だが、ヴラドーはえらくそれを気に入ったらしい。

「うむ。この服装を余のイメージにあったように作り直してみるか!」

どこからか針と糸を取り出し、ちくちくと縫い始める。
意外と裁縫が得意だったりするヴラドー。
男寡も数百年。
家事一般はわりかしお手の物だったりする。
ズレたセンスの真祖の吸血鬼が『蝶人』に変わる日は近いかもしれない。


あとがき

いやーパイパーはあっさり退場。
初期の構想ではヘル○ングネタでいきたかったんですが、もう先に使われちゃったので没に。
まあ、若唐巣はその内、真っ当に活躍させるつもりなのでご期待ください。
後唐巣さんには結婚していただこうかと考えています。
苦労人には幸せを、がこのSSのテーマだったりするので。
私が某所で書いているヴラドーはゲーマーだったので、今回はアニメ、漫画おたくに。
攻撃方法も近接ではなく遠距離戦にする予定。
次回では謎の男女と優太郎達の邂逅と、霊能力の開花編へ・・・・・・
こんな駄文を読んでくれる方、ありがとうございます。
ネタとか要望があったら取り入れていきたいので、レスとかでリクエストしてください。
レスがあるとやる気と文章の完成度がちょっとだけ上昇しますんで。
あと試験的に書き方を代えてみました。

レス返し


内海一弘さん

今回は金の針を手に入れるための檻に。
救援を断つため、待機組みを襲うことにしました。


azumaさん

実はおキヌちゃんが可愛らしいのでつけたままにしていたんです。
杭打ち機は描写はありませんが、地下から脱出という重要な役目を担いました。
本当は元ネタの空気入れ機能も使用したかったのですが。

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