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▽レス始

「二人三脚でやり直そう 〜番外編その2〜(GS)」

いしゅたる (2006-10-15 19:52/2006-11-23 23:11)
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 ――氷室キヌには日課がある。


 午後八時。六道女学院学生寮。部屋着だったおキヌは、自分の部屋で着替えを始めた。
 パジャマに……ではない。除霊時の馴染みのスタイルである巫女服にだ。
 ルームメイトの弓かおりは、それについて特に何か言う素振りはない。もはや慣れっこであった。

 六道女学院編入の際、おキヌにあてがわれた部屋は、当初は余った空き部屋であった。しかし編入したその日に起きた愛子の事件をきっかけに、クラスメイトのかおりと仲を深めたため、数日後には彼女と学校との承諾を得て相部屋となったのだ。

「じゃあ弓さん、体のこと、お願いします」

 慣れた手つきでぱっぱと着替え終えたおキヌは、かおりにそう言ってベッドに体を横たえた。

「毎日飽きませんわね」

「日課ですから」

 弓の言葉に対し微笑と共に答え、おキヌはそっと目を閉じた。
 そして――両脇に鬼火を従えた彼女の霊体が、肉体から遊離する。

「……相変わらず、見事な離脱と実体化ですね」

『この服装じゃないと、こうはいかないんですけど』

 そう苦笑するその姿は、ほんの少し透けている以外は、肉体に入っている時とほとんど見分けがつかない。300年も巫女姿でいたせいか、この服装が一番輪郭がはっきり表せる。それ以外の服装では、いまいち輪郭にムラができるのだ。

 ♪〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜〜

 突然、どこからか音楽が鳴り始めた。かおりは驚いた様子もなく、机の上に置いてあった携帯電話を取り、そのディスプレイに視線を落とす。

「一文字さん? ……はい、もしもし。どうしたんですの? ……はぁ? 宿題なんて、自分の力でやるべきですわ。そもそも、電話では説明できるものにも限界あるでしょう。わざわざそんな遠いところから通学してないで、私のように寮に入れば良いものを……
 まあいいでしょう。で? どこがわからないんですの?」

 文句を言いつつも、結局相談に乗るかおり。その様子に、おキヌは微笑を浮かべた。

『では行って来ますね』

 教科書とノートを取り出しつつ説明を始めるかおりにそう言うと、彼女は目線と手振りだけで「行ってらっしゃい」と返してきた。そして、おキヌは窓をすり抜けて外へ出た。

 さて、今日はどこに行こうか――そんなことを考えながら、おキヌはふよふよと空の散歩を始めた。
 もっとも、霊体の抜けた肉体は生命維持能力が欠如してしまうため、慣れたおキヌでも、せいぜいが長くて二時間が限界なのだが。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜番外編その2 おキヌの空中散歩道〜


 彼女のこの日課は、六道女学院に編入してすぐに始まったことである。
 最初は、逆行前に世話になっていた『ご近所浮遊霊親睦会』が気になって、様子を見に行っただけであった。しかしそれがきっかけとなり、幽霊時代の感覚が懐かしくなって、バイトでない日の夜は、こうして幽体離脱しての空中散歩を日課とするようになった。
 ……寮の門限の関係から、生身での夜間外出ができないというのも理由の一つではあるが。

『今日はどこに行こうかしら』

 口元に指を当てて、んーと考える。

『とりあえず、美神さんのところに行ってみよっと』

 つぶやいて、電柱より少し高い程度の高さを、ふよふよと飛んでいく。
 東京の空は狭い。おキヌが飛んでいる高さよりも高い建物など、腐るほどある。間違ってどこかのビルの中に壁抜けで入ってしまえば、幽霊だなんだのと大騒ぎになるだろう。気をつけなきゃ、と思いながら、ビルとビルの間をすり抜けるように進む。
 ビル街を抜けると、障害物はほとんどなくなった。しかし、美神の事務所がある場所も、ビル街の中だ。またすぐに、コンクリートジャングルに突入することになるだろう。
 ふと、空を見上げる――

『お星様、ぜんぜん見えないなぁ』

 夜であるにもかかわらず、見える星がほとんどない。地上の光が強くて、星の光を打ち消してしまっているのだ。文明の発達により、夜の闇が少なくなったことによる弊害とでも言うべきか……都市部ではよくある話である。
 少なくとも、おキヌの生きていた時代では、首都である江戸でさえこのようなことはなかった。時代の移り変わりを改めて実感し、少し寂しい気分になる。

『……あれ?』

 と――その時、見上げた月に一瞬影が入った気がした。
 よく目を凝らしてみると、夜空を飛ぶ黒い影がいた。月光を反射して輝くあのアッシュブロンドの髪は――

『ブラドーさん?』

「む?」

 声をかけてみると、彼は反応しておキヌの方へと視線を向けた。間違いなくブラドーであった。

「誰かと思えば氷室ではないか。また幽体離脱して散歩か?」

『はい。そう言うブラドーさんもお散歩ですか?』

「うむ。良い月夜なのでな……」

 彼はそう言って、月を見上げて眩しそうに目を細めた。確かに、満月ではないにしても、煌々と輝く月はおキヌの目から見ても綺麗だった。

『そうですね〜。綺麗な月です』

「そうだろう? ああも見事な月を見ていると、余のような夜の眷属は気分が昂揚するものだ。高笑いの一つも上げたくなるほどにな……ふっ……
 ボハハハハハーッ!」

『きゃっ!?』

 両手を胸の前でクロスさせ、突然変な笑い声を上げたブラドーに、おキヌはびっくりして思わず声を上げた。

『突然どうしたんですか、ブラドーさん?』

「うむ。以前テレビに登場していた、やたら派手な格好の霊能者がやっていた決めポーズと高笑いだ。なかなか格好良いと思ったので、早速真似させてもらったところだ。ボハハハハハーッ!」

『なんかよくわかりませんが、楽しそうですねー』

「氷室もやってみるか? ボハハハハーッ!」

『ぼははははーっ』

 空の上で怪しい笑い声を上げる二人。そのうち、刀を持った和風の死神が出てきそうな気配である。

『それで、ブラドーさんはこれからどこ行くんですか?』

「うむ……急な仕事が入ってもなんだしな。カオスとのチェスでもようやっと一勝拾えたことだし、そろそろ戻ろうかと思っている」

 どうやら、機嫌が良いのは月のせいだけではなかったらしい。

『そうですかー。カオスさんには負け続きでしたしね。私はこれから事務所に顔出しておこうかなって思ってるんですけど、一緒に行きませんか?』

「そうだな。そうしておこう」

 そして二人は、並んで美神の事務所へと向かった。


 到着したのは、それから程なくしてのことだった。ブラドーは屋上に降り、そのまま扉を開けて中へと消えて行った。おキヌはわざわざ扉から入る必要もないので、壁抜けで直接事務所に入ろうと、すぅーっとビルの脇に飛んでいく。
 と――そこで、壁に張り付いている男が見えた。
 指先から微量に霊波を放出して壁に張り付くという、無駄に器用な芸当。アメコミの蜘蛛男も真っ青な腕前で壁をよじ登るのは、彼女の想い人――横島忠夫であった。
 その向かう先は言うまでもないだろう。湯気の立ち上る小窓――事務所のバスルームである。見たところ、美神が入浴中であるらしく、彼はそれを覗こうとしているようだ。

(もう……懲りないんだから)

 おキヌは頬を膨らませ、どうしようかと考える。

(驚かしちゃいましょう)

 ふとした悪戯を思いつき、事務所の一階下、出雲商事のトイレに壁抜けして侵入する。

『おじゃましま〜す』

 幸いにも人はおらず、驚かれることもなかった。そのまま、横島がいるであろう地点に当たりをつけ、つつと寄って行く。
 少し集中して霊波を探る。おキヌは幽体離脱状態の方が、肉体の枷に囚われることがない分、霊感が強くなる傾向があった。横島の霊波は、一歩右、二メートルほど下の方から感じられた。
 微妙な位置修正をして、タイミングを計る。一メートル、八十センチ、六十センチ……

(そろそろかな?)

 おキヌは壁抜けをして、ビルの外へと顔だけ出した。

『ばあっ!』

「わわっ!?」

 すぐ目の前に、驚いた横島の顔があった。距離にして10センチ足らず。絶妙のタイミングだった。
 集中を乱された彼は、霊波を利用して壁に張り付くことができなくなり、取っ掛かりを失って真っ逆さま。べしゃ、とトマトが潰れたような音と共に、地面に赤い花が咲いた。

「……横島クン?」

 その音を聞きつけたのか、小窓から美神が顔を覗かせた。

『あ、美神さんこんばんはー』

「おキヌちゃんじゃない。今日はバイト入れてなかったはずだけど、どうしたの?」

『はい。ちょっと散歩に』

「ふーん。幽体離脱して夜空の散歩かぁ。おキヌちゃんらしいわね。でも、早く戻っておきなさいよ。霊体の抜けた肉体なんて、そう長く保つもんじゃないから。
 ……あ、そだ。明日は夕方に除霊の予定入ってるから、いつもより早めに来てね。下で花になってるバカにも、そう伝えておいて」

『はーい』

 おキヌが素直な返事を返すと、美神は顔を引っ込めてバスルームの小窓を閉めた。先ほどまで外に漏れていた湯気も出てこなくなる。
 おキヌはすーっと地上まで降りると、地面に這いつくばって倒れている横島に、前かがみになって顔を近づけた。

『横島さーん。生きてますかー?』

「こ、殺す気ですかおキヌちゃん……?」

『変なことするからですよ。それに、私が驚かさないでも、最後は一緒だったと思いますよ?』

「たとえそうだとしても、一瞬だけでも美神さんの裸体が拝めた方がいいに決まっとるわい!」

 がばっと起き上がり、脳天からぴゅーぴゅーと血の噴水を上げ、さらに血涙まで流して力説する横島。おキヌは『この人は……』と呆れ顔だ。

「それに、困難を乗り越えて手にしたお宝こそが至宝! こんな怪我など気にするべくもない! いつか! 遥か遠き至宝を手に入れるその時まで! 俺は挑戦し続ける!」

『……言葉だけなら格好良いんですけどねー……
 でも横島さんって、私がお風呂に入っていても、覗こうとはしませんよね?』

 言外に『私は魅力ないんですか?』と含めながら問うおキヌ。しかし横島は、思いもよらない質問をされたとばかりにきょとんとした。

「そんなことするわけないだろ。だって……おキヌちゃん覗いたら、俺完全に悪者やん」

「私ならいいのかっ!」

 かこんっ!

「へぶっ!?」

 至極あっさりと答えた横島に、即座に直上から風呂桶が投げ落とされた。それを脳天にくらい、再び撃沈する横島。心なしか、噴水の量が増えている。

『大丈夫ですか?』

「ほっといていーわよ、そんなバカ」

 黙して答えない横島に代わり、バスルームの小窓から顔を出した美神が冷たく答えた。そして、ぴしゃりと小窓を閉める。

『あーあ。美神さん怒っちゃいましたよ?』

「……うーん……かんにんやー……しかたなかったんやー……うーん……」

 横島は沈んだままうわごとを繰り返す。おキヌは『しょうがないですねー』と苦笑し、ふよふよと浮き上がると、壁抜けで事務所に入って行って救急箱を取ってくる。
 慣れた手つきで簡単な応急手当を済まし、いまだ意識を取り戻さない横島の耳にそっと囁く。

『……私でしたら、横島さんになら覗かれてもいいんですけどね』

 相手に意識があったら絶対に言えない台詞である。おキヌは口にした直後、茹蛸のように顔を真っ赤にして、逃げるようにその場を後にした。

『聞かれてないですよね? 聞かれてませんでしたよね? きゃーっ! きゃーっ!』

 両手で頬を押さえ、いやんいやんと体ごと顔を左右に振る幽霊巫女の姿が、夜空にあった。


 数分後、おキヌの姿は事務所近くの商店街にあるスーパーマルヤスにあった。
 鬼火を従えて浮いている巫女少女の姿に、一部の客はぎょっとした表情になっているものの、大多数は気にした様子もない。

「よっ、おキヌちゃん。今夜は幽霊かい?」

「ほいほい体を留守にするもんじゃないよ。誰かに悪戯されないうちに戻ったらどうだい?」

 それどころか、このように気さくに話しかける人もいる。事務所や横島のアパートで頻繁に料理を作るおキヌである。毎日のように利用しているこの商店街では、幽体離脱時の姿も含めて、もはや顔馴染みになっていた。

「ほいよ。お線香にライターだね。全部で525円だ」

『あの……また明日、学校帰りに来ますんで、お代はその時でもいいですか?』

「おう、いいぜ。おキヌちゃんなら信用できるからな」

 レジ打ちをしていた店長は、人の良い笑みを浮かべて鷹揚に頷いた。

『すみません、本当に……』

「いいってことよ」

 この日、おキヌはうっかりして財布を忘れていた。壁抜けする時に実体のある物品を携帯していると引っ掛かってしまうので、幽体離脱する時は何も持ち歩かない癖がついていたのだ。今日はそれが裏目に出た。

『……ちょっと遅れちゃったかも』

 外に出て街頭の時計を見ながら、ぽつりとつぶやく。そのまま、マルヤスのビニール袋を両手で持ったままふよふよと飛んで行き、向かう先は高速道路の高架下。

 しばらくして目的の場所に到着し、ひょっこりと顔を覗かせてみると、そこには無数の浮遊霊が集まっていた。そのほとんどがお年寄りで、若い姿の幽霊はごくわずかだ。……まあ今の時代、若い身空で幽霊になる人間はほとんどいないのだが。

『こんばんはー。遅れてごめんなさい』

『おー! おキヌちゃん!』

『待っとったぞい! 早よこっちゃ来て座りい!』

『今日は柱の方ですか……?』

 テンション高く出迎える幽霊たちに、おキヌは恐る恐るといった様子で訊ねた。彼らは皆、高架下の柱に尻をくっつけ、真横になって座っている。
 いわく、幽霊に上も下もないのだから、趣向を凝らさないと面白くないのだそうだ。天井に逆さまになって座っていたこともある。

『おキヌちゃん、こっちゃ座れ!』

『あつかましいぞ、じーさん!』

『それじゃ、私も失礼して……』

 と、おキヌは体勢を入れ替えて、誘われるままに彼らの中にちょこんと座る。

『えー、恒例13日の金曜日ご近所浮遊霊親睦会、今回も沢山の参加をいただき、これからもますますのご健康を……』

『わしら全員もう死んどるって』

『待て待て。おキヌちゃんは生霊じゃぞ』

『おお、そうじゃったそうじゃった』

 かっかっかっ、と笑う浮遊霊一同。幽霊のくせに無駄に明るい。

『私、お線香持って来ました。楽しくやりましょう!』

 持って来たマルヤスの袋から線香を取り出すおキヌ。ライターで火をつけ、コンクリートの柱に空いている穴を適当に探し出し、そこに差し込んだ。線香の煙が真横――もっとも、横になってるのは彼らの方なのだから、煙の方向は正確には真上なのだが――に流れている。

『おーっ! さすがおキヌちゃん! 気が利くのう!』

 そして始まる大騒ぎ。テンションの高いまま始まるのは、カラオケ大会だった。
 歌えや踊れやと、ノリノリの幽霊たち。おキヌも一緒になって童謡を口ずさむ。

『ときにおキヌちゃんや』

『はい?』

 他の爺様が年甲斐もなくパンクを歌っているところで、一人が話しかけてきた。おキヌは小首をかしげ、それに応じる。

『300年も幽霊やっとったんじゃろう? それが今になって生き返って、どんな気分じゃ?』

『おうおう。そりゃ俺も聞きたいねぇ。江戸時代とは違う感覚も少なくないだろう?』

『そうですねー……』

 顎に指を当て、考え込むおキヌ。江戸時代と違う感覚も少なくないどころか、同じ感覚を探す方が苦労するぐらいだ。

『まず感じたのは、文明の発達ですかねー。特にお米の炊き方なんか、昔はお釜に火をかけて、ずっと火加減を見てなきゃならなかったのに、今では電気炊飯器でボタン一つですから。
 便利になった反面、少し寂しいというか物足りないというか……あ、でも、それで手が空いた分、他のお料理にも集中できるようになったので、不満はないですよ』

『ああ、そりゃあたしらにもわかるわねぇ。電気炊飯器なんて、出てきたのはここ数十年の話だし。あたしらが若い頃は、まだお釜でご飯炊いてたものさ』

 おキヌの言葉に、お婆さんの一人が同意した。

『あと、食べ物に不自由しない時代になってたっていうのは嬉しいですねー。飽食の時代で食べ物を大事にしないとか言われてますが、子供が飢えで死ぬことのない世の中っていうのは、それだけでもいい世の中だと思います。
 それに、治安もいいですね。昔みたいに、盗賊団が暴れまわってるとかそういうことはありませんので。私の村も、それで親をなくした孤児が沢山いましたから、その分治安のいい今の日本は素晴らしいと思えます。……私もその孤児の一人でしたけど』

『おキヌちゃん……』

『あ』

 自分の話で場がしんみりしてしまったことに気付き、おキヌは『いけない』と思った。

『いえ、もう昔のことですし、今の私にはいっぱい家族ができたから辛くないですよ?
 横島さんも美神さんも優しいし、私を引き取ってくれた氷室のお養父さんやお養母さんや早苗お義姉ちゃんも、みんな大好きです。学校でも弓さんや一文字さんや愛子さんっていうお友達もできましたし……むしろ、もうとっくの昔に一度死んだ私がこんな幸せになっていいのかなって……思っちゃうぐらいですから』

(でも……だから時々、不安になっちゃうんですよね。こんな私が、これ以上の幸せを望んでいいのかって。横島さんと……想い通じることができたらいいなんて、そんなことを考えていいのかって)

 胸中で付け足し、苦笑する。

『いいんじゃよ、幸せになっても』

 だが、そこに優しく語り掛けてくる老人がいた。最初に親睦会の音頭を取った老人である。

『人は誰だって幸せになる権利があるもんじゃ。生きているとか死んでいるとか関係あるもんかい』

『そうそう。特におキヌちゃんぐらいいい子なら、幸せになれない方が間違っとる』

『案外、おキヌちゃんを人身御供にした道士とやらも、そう思ってたのかもなぁ。でなければ、後で生き返れるよう仕掛けを残したりしとらんかったと思うぞい』

『まったくじゃて。かっかっかっ』

 老人の尻馬に乗り、次々とおキヌに励ましの言葉をかける一同。最後には、全員揃って快活に笑った。

『皆さん……』

 その数々の言葉に、おキヌは目の端にわずかに涙を滲ませ――

『ありがとうございますっ!』

 ぺこりと勢い良く頭を下げた。

『いよぉしっ! 今日はおキヌちゃんの為に歌うぞい!』

『さっきまでやってたことと同じじゃねーか!』

『細かいことは気にするねぃ! ほらほら、歌え踊れぃ!』

『よっしゃあ! それじゃ、一番手はわしじゃ! 突撃ラブハート! 俺の歌を聴けぇ!』

『なんじゃそりゃ! 爺さん、年考えろ!』

『幽霊に年もくそもあるかい!』

『そういう問題じゃねえっ!』

『そいじゃ、その次はあたしが歌おうかねぇ。愛・おぼえてますかで』

『こっちもかいっ!? なんじゃこのオタク爺ィ&婆ァどもは!?』

 そして、再び始まるどんちゃん騒ぎ。テンションが先ほどまでより微妙に高いのは、気のせいだろうか。
 おキヌはそんなご近所浮遊霊の面々の優しさに、胸にじーんと暖かいものを感じた。


 そして――それから30分ほども経った頃だろうか。
 おキヌは歌の途切れたタイミングを見計らって、立ち上がった。

『すいません、皆さん。私、そろそろ帰らないと……』

『おう。もうそんな時間か』

『いつまでも体から離れてられねぇからなぁ。残念だわい』

『私も、本当は皆さんともっと一緒にいたいんですけど……』

 おキヌはそう言って、寂しそうに顔を伏せた。

『そう言うなって。おキヌちゃんに無理させて、霊体の抜けた体の方に病気になられたり死なれちまったんじゃあ、俺たちの方が悪者じゃねえか。ほらほら、体が健康なうちに、早いとこ帰りなって』

『はい。それでは皆さん、また来ますから。お体に気をつけて……っていうのも変ですね。祓われないよう気をつけてください』

『はっはっはっ。GSのとこでバイトしているおキヌちゃんが言うと、説得力あるなあ。いつでも来なさい。待っとるぞい』

『はいっ!』

 おキヌは頷き、手を振りながらその場を後にした。
 時刻はもう十時も近い。体から抜けているのも、そろそろ限界だった。


『ただいまー』

 窓をすり抜け、寮の自室へと戻ったおキヌ。ベッドに横たわった彼女の体の横では、かおりがそれに霊波を当てていた。

「遅いですわよ。あなたの体、血の気が失せてますわ。早いところ戻りなさいな」

『あ、はい』

 少しばかりイラついた様子のかおりに、おキヌは慌てて自分の体に霊体を重ねた。
 体の感覚が、霊体から肉体のそれへと移るにつれ、二時間少々放置されていた肉体に蓄積された負担が感じられるようになる。

「……ふわぁ。今日は結構危なかったみたいですねー」

「何を他人事みたいに言ってるんですか。私が霊波を当ててなければ、少なくとも病院行きでしたわよ」

「すいません、ご迷惑をおかけして……」

「そう思うのでしたら、控えることですわ」

「あはは……」

 半眼で睨んでくるかおりに、おキヌは乾いた笑いを返すしかできない。
 次からはもう少し早く帰ってこよう――そう思うと同時、同じことを何度思ったのかと思い返すおキヌだった。
 結局、この日課はやめられそうにもないし、そもそもやめる気にもなれなかった。なんだかんだで、夜の空中散歩やご近所浮遊霊親睦会も、結構楽しんでやっているのだから。

「また、次もお願いします。弓さんの好きなチョコクレープおごりますから」

「バナナクレープですわ。間違えないでください」

 訂正しつつも、幽体離脱を制止するまでは言葉にしない。結局それで許すあたり、かおりもおキヌには甘かった。
 彼女の態度に苦笑する。甘えて悪いとは思いつつも、おキヌはその優しさが嬉しかった。

「――はいっ」

 そう頷き、おキヌはにっこりと笑った。


 ――あとがき――


 というわけで、おキヌちゃんの空中散歩でした。ほとんど起伏のない話でしたが、ぶっちゃけ、幽霊バージョンのおキヌちゃんとご近所浮遊霊が書きたかっただけですw
 この番外編は、前回と違って特に本編と関わりがあるわけではありません。……とゆーか、前回の番外編は番外編にしなかった方が良かったなーと思ってます。後悔先に立たず。しょぼん。

 ではレス返しー。


○1. shizukiさん
 やはり、最大のライバルはルシオラ以外にありえないでしょうねw この後は小鳩は確定として、他に意外な人物を争奪戦に加えてみようかと思ってます。……香港編の後になりますが^^;

○2. 秋桜さん
 恋愛のパワーバランスは、調整に苦労しそうです^^;

○3. 山の影さん
 おキヌちゃんはなんだかんだでこの作品のメインヒロインですからねー。頑張りますよ?
 確かに、コスプレGSは少なくなさそうですね。ぶっちゃけ、エミもコスプレですしw

○4. MASAさん
 初めまして! 初感想ありがとうございます♪
 アシュを『模』した横島……素で忘れてました(汗) 確かに、絶対勝てる相手じゃないですね……

○5. SSさん
 最高と言ってもらえて嬉しいですw 美神さんもそろそろ意識し始めるでしょうね。パイパーの時のこともありましたし。

○6. 内海一弘さん
 さて、最終的な決着はどうなるでしょうか? そこまで末永くお付き合いくださいw ……そこまで私が断筆しないことを祈りつつ(ぉ

○7. 亀豚さん
 ルシオラ、ちょっといい女にしすぎちゃいましたかねー。おキヌちゃん、かなり厳しくなっちゃったかも^^;

○8. 零式さん
 ルシオラの胸ネタは、小竜姫さま以上にポピュラーですからw

○9. ふりいだむさん
 初めまして! 初感想ありがとうございます♪
 そういえば、声優同じでしたねー。違和感ないですね確かにw

○10. わーくんさん
 ハーレムENDですかー。さてそれは彼女達が許すかどうかw ルシオラとおキヌちゃん(とついでに美神さん)だったらお互いを認めはするかもしれないでしょうが、その他の女性が入るのは拒みそう。

○11. 盗猫さん
 今の時点では、確かに勝ち目はないでしょうねー。けど、ルシオラが出てくるまで結構長い時間一緒にいられますから、その間にどこまで差を埋められるかが勝負といったところですかw

○12. ミアフさん
 メフィストの格好を見た美神さんが平安時代に行った時が、作者としても楽しみですw

○13. ジェミナスさん
 そうですね。美神さんが横島くんの力を認めれば、やはり原作よりも素直になれるかもしれません。素直になった美神さんは侮れませんよ?w

○14. バビルさん
 初めまして! 初感想ありがとうございます♪
 うわ! このサイトを代表された!? そんな大層な作品じゃないですよー(>_<) 応援、ありがとうございますw

○15. AQさん
 ま、まあまあそう言わずに。美神さんだって、可愛いところ沢山あるんですよ? ……マイナス面が目立ちまくってるのは否定できませんが^^;

○16. とろもろさん
 順位はだいたいそんなところですねー。横タロスは完全に忘れてました(汗) だって、戦闘面で活躍した記憶がなかったから……w

○17. 食用人外さん
 全て良し!!! 一行レスでも構いませんよーw

○18. wataさん
 初めまして! 初感想ありがとうございます♪
 両方とも頑張ってもらいますよー。ルシオラ(横島内バージョン)も、あと2回ほど登場を予定してます。

○19. 武志さん
 初めまして! 初感想ありがとうございます♪
 原作読み返してみましたが、確かにそんなこと言ってましたねー。けど、夢の中だからハイラしか出せないって言ってたのに、暴走したら全部出せましたってのもおかしいような気もしますが^^; 原作からして矛盾かかえてるんだから、細かいことは気にしない方向で(ぇー

○20. スケベビッチ・オンナスキーさん
 今回のポイントは、確かにその辺ですねー。美神さんとの絆が深くなってないというよりも、他の二人の絆が深くなったから、相対的に浅い感じがするだけだと思います。少なくとも作者的には、美神さんは原作よりも絆深いつもりですし^^;

○21. 長岐栄さん
 横島争奪戦は言わずもがなですが、おキヌちゃん争奪戦の方も何人か参加させるつもりです。やっぱり恋愛模様は引っ掻き回された方が面白いですからw ネタに関しては、知らなくても本筋には関係ない程度がいいですかねw


 レス返し終了〜。では次回、第二十六話天龍編でお会いしましょう。……その前に短編に寄り道する可能性が大ですが^^;

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