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「Make a wish(GS)」

岐阜海運夢組 (2006-10-06 18:01)
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横島がワルキューレの部屋に転がり込んで、二ヶ月半くらい。


二人はソファに座ってテレビを見つつ、まったり夕食後のひと時を過ごしていた。
画面には、病気の再現ドラマで視聴者の恐怖を煽る、ちょっとばかり悪趣味なメディカルホラー番組が映っている。


「なぁ、忠夫」


「ん? 何?」


「この、胸が腫れているような感覚とか、ひりひりするとかの症状、最近、私、心当たりがあるんだが……」


「え?」


『何と! 優子さんがこの時感じていたのは、乳癌の前触れだったのです!』


「…………」


「…………」


めちゃめちゃ怖いですよね。こういう時って。


…………翌日…………

二人は病院にいた。
番組の最後の「早期発見が、あなたを救うのです」というフレーズに従って、とりあえず検査を受けることにしたのだ。
こんな時、だいたい人は二種類に分かれる。
一つは、見慣れない検査機器や数値を見て異常にテンションが上がり、「ちょwww バリウムいちご味www」とか言うタイプ。
もう一つは、必要以上に疑心暗鬼になって、「先生、私、いつ死ぬんですか?」と言ってしまうようなタイプ。

「…………忠夫…………私が死んだら、泣いてくれるか?」

ワルキューレはバリバリの後者になっていた。
清々しいまでの超マイナス思考の結果、もう近々死ぬことが前提になってしまっている。
周りの空気もどんより重く、はたから見たら、「この人はもうこの世の者ではないのでは?」と思うような勢いである。

「…………だ、大丈夫だって。ほら、昨日の番組、絶対誇張されてるから! きっとほとんどの項目、関係無いから!」

青い顔で沈んでいるワルキューレを、横島は何とか励まそうとする。
そう、冷静に考えればそうなのだ。ああいう番組では、視聴者を煽るために症例は好き勝手に脚色されて、誰でも心当たりがありそうなことを、製作者は何個か混ぜるものなのだ。

「……全部当たってたんだ……」

だが、全部該当してしまえば、救いようが無い。
迫りくる死の恐怖に、ワルキューレは今にも崩れ落ちそうだ。

「最近、何だか普通にしてても疲れが溜まるし、喉もよく乾くし……」

ワルキューレの頭の中に、嫌な心当たりがバンバン浮かんでくる。

「便秘も結構あるし、胸焼けとか、吐き気もしょっちゅうだし…………」

そこまで考えたところで、昨日の番組の優子さんが頭をよぎる。
再現ドラマで、彼女は最後、吐き気を訴えて病院に行き、癌が全身に転移していることを知った。ということは……。

「きっと私も胃に転移してるんだ……もう手遅れ……」

ナーバスさに拍車をかけるように、彼女の頭はどんどん嫌な材料が見つけていく。

「月のものも遅れてるし……肌も荒れ気味だし……すでに全身に……」

絶望的な未来予想図に、ワルキューレの目の前が真っ暗になる。
ここまで行くと、横島としても慰めようが無い。

「そう言えば昨日、仕事中に急に寝てしまってびっくりされた……もしかして脳にも……」

ワルキューレのマイナス思考も最高潮になった。
とうとう、再現ドラマを超えたレベルまで症状が進む。
明らかに考えすぎである。
が、そんな自覚の無い本人にしてみれば、死の恐怖に直面しているわけで。
大きな恐怖に駆られると、人は普段では考えられない行動を取るものであるわけで。
ワルキューレもまた然りなわけで。

「忠夫、『愛している』と言ってくれ!」

青いを通り越して白くなった顔で、隣に座る横島に詰め寄り、とんでもないことを言い出した。

「えぇ? こ、ここで?」

当然ながら、横島は躊躇する。
ここは病院の待合室。他の患者さんもたくさんいるのだ。そんなことをすれば一気に注目の的になるし、なにより痛すぎる。
周囲の人全員に「欧米かよ!」と心の中で突っ込まれることは確実だ。
しかし、切羽詰っているワルキューレにはそんなことは関係ない。
真剣な顔で、さらに詰め寄る。

「早く! 私にはもう、時間が無いんだ!」

横島の肩をゆすりながら、ワルキューレは急かす。
「『愛してる』って言うまで許さんぞゴルァ!」という勢いだ。拳銃を持ち出すのも時間の問題だろう。
だが、ムードも何もあったもんではないこの状況で、そんなことを言えるはずが無い。
かと言って、このままではさらに人目が集まって、もっと恥ずかしいことになるし、銃を持ち出された日には、もうこの病院に来れない。
横島は何とか己を奮い立たせ、覚悟を決めて、言葉を絞り出す。

「わ、ワルキューレ、愛してるぞ……」

何とかやり遂げたが、周りの視線が痛い。
特に視界のはしで目をきらきらさせながら自分たちを見ている少女が痛い。
見て見ぬフリをしてくれている大人たちの中で、「まぁ! 私もこんな恋、してみたい!」と言わんばかりに見つめてくる、無邪気な視線が痛い。
しかし、この瞬間がこの世で最後になるかもしれないワルキューレは、さらなる要求を繰り出してきた。

「…………じゃあ、証明してくれ…………」

うっとり目を閉じ、軽く顎を上げ、今度はキスを催促する。
衆人環視、待合室の視線を一身に浴びながら、恋人にキス。
さすがにこれは、覚悟に時間がかかる。
ワルキューレの前に、自分が恥ずかしさで死ぬかもしれない。
が、彼も男である。
愛する人のためなら、いくらでも強くなれるのだ。
再び覚悟を決めて、ワルキューレに向かって近づいていく。
少しずつ、少しずつ。ゆっくりと。

………ちゅ………

唇が重なった。
なんだか、平井堅の歌が流れ、世界の中心で愛を叫びだしそうな雰囲気である。
「おかーさーん! 見て見て!」とさっきの少女が母親を呼びに行っているのが聞こえる。
お母さん、その子の目を塞いでやってください。教育に悪いです。
しばらくそうしたあと、唇を離す。

「ワルキューレさーん。検査結果が出たので診察室へどうぞー」

ちょうど、看護婦さんが呼びに来た。
ワルキューレが椅子から立ち上がる。

「じゃあ、行ってくる」

そう言って、覚悟したように、諦めたように、しかし少し満足したように笑ってから、ワルキューレは横島に背中を向けた。
背中に背負った哀愁は、さながら特攻隊の若者である。
そして、そのまま診察室のカーテンに消えていく。

(…………何だこれ?)

何の変哲も無い待合室で、二人だけ恋愛映画ごっこをしている現実に、横島はそんなことを思ったが、誰も応えてくれる人なんていなかったのさ。


数時間後、横島とワルキューレは夕日を背中に受けながら、手を繋いで帰り道を歩いていた。
二人とも黙りこくって、ちらちらとお互いを見やっている。
これだけ聞くと、二人の間がギクシャクしているように思えるが、二人とも足取りは非常に軽く、表情は緩んでいた。
結局、検査の結果心配していたような病気は一切無く、ワルキューレの心配は杞憂に終わったのだ。
しかし、それだけが二人がこんな雰囲気になっている理由ではなかった。

「…………忠夫」

「ん?」

「そこの本屋、寄ろう」

「あ、ああ」

ワルキューレの希望で、本屋に入る。
二人が向かったのは、育児・出産のコーナー。
そう、今日の検査で、ワルキューレのお腹に、赤ちゃんがいることがわかったのだ。
ワルキューレの訴えていた体の不調や、異常にナーバスになっていた理由は、ただの”つわり”だったのである。
おかげで医者の先生に癌と勘違いしていたことを呆れられ、看護婦さんたちには大爆笑された。
もっとも、そのあとみんな「おめでとう」と言ってくれたが。
そのあと紹介された産婦人科に行き、今後気をつけることと、マタニティセミナーや両親教室のことを説明してもらい、次の検診を予約してきた。
妊娠六週目。エコー写真では、まだ白い点にしかなっていない。
そんな小さな体でも、母親の体調は大きく変化してしまう。
生命一つ作り出すということは、それはそれは凄いことなのである。

「二千九百円になりまーす」

何冊か本を買い込んで、店を出る。
もちろん、ずっと手は繋いだまま。
そして、また二人とも押し黙って歩き出す。
これからのことを考えると、大変なことはたくさんある。
横島はまだ未成年だし、ワルキューレのお腹はこれからどんどん膨らんでくるし、仕事も休まなければならないし、知り合いたちの反応も

気になる。
しかし、そんな憂鬱なことを差し引いても、二人は幸せだった。
力を合わせれば、何とかなるだろう。
そんな気がする。
甘い考えと思うなら思うがいい。
どうせ、波風の立たない人生なんて、送れるはずも無い二人だ。
面倒なことは一つ一つ、片付けていけばいい。
今、ワルキューレのお腹ですくすく育っている、この子のためなら、何でも出来る。
二人の住むアパートが見えてきた。
そこで、横島が不意に口を開く。

「なあ、ワルキューレ」

横島はそれだけ言って足を止め、ワルキューレに向かい合う。

「幸せになろうな」

繋いだ手に少し力をこめた。
それで、ワルキューレは横島が言いたいことを、何となく理解する。

「…………うん。よろしく頼む」

そう答えてから、彼女は横島に腕を絡めてきた。
幸せになるのだ。この男と。この子と。自分たちのやり方で。
これから。もっと。

この数日後、二人は恋人から夫婦になった。


…………妊娠発覚の日の夜…………

姉がコスプレに目覚めたことを知った日から、ジークは休暇をとって、実家で休養していた。
さらにあの後、秘書課の女性陣に聞いてみたところ、どうやら姉が付き合っているのは失踪中の横島忠夫で、毎晩それはもうえらいことになっているらしい。
姉の相手が知っている人間だけに、その場面を想像すると、非常に生々しくて大変に嫌だ。
しかも、一回想像してしまうと、しばらく頭から離れない。

「…………こんな恋愛してみてぇ…………」

想像を振り払うために借りてきたDVDを一人で見ながら、ぼそっと呟く。
見ているのは、「助けてください!」というセリフが話題になった映画である。
画面では、ちょうどそのシーンが流れていた。
感動的だ。
やはり恋愛はこうでなくては。
生々しすぎるものであってはいけないのだ。
煩悩に従いすぎてはいけないのだ。
間違ってもコスプレなど必要ない!
ジークは強くそう思う。
だいたい、なぜ自分が衣裳を買いに行かなくてはならないのか。
なぜ「領収書、上様で」と言って領収書を切らなければならないのか。
なぜ宅配便のラベルに「衣類」と書かなければならないのか……。

プルルルルルルルルル! プルルルルルルルルル!

ジークがそんな思考にふけっていると、電話が鳴りだした。
あわててDVDの一時停止ボタンを押して、電話を取る。

「はい」

『何だ、ジーク。帰っていたのか』

最悪なことに電話をかけて来たのは、ジークが実家に引きこもる原因を作った姉だった。
ジークはガクガクブルブル震えだす。
顔からは血の気が引き、全身で冷や汗をかいている。
この前のワルキューレの電話は、ジークにかなりのトラウマを残したようだ。

「あの、姉上、何の、御用でしょうか?」

とりあえず、用件だけ聞いてさっさと切ってしまおう。
ジークはそう考えて、震える声で用件を聞く。

『何故そんなに怯えている? ……まあいい、倉庫に、私たちが使ったベビー用品があっただろう? ガラガラとか。ベビーカーとか。あれを一式送ってくれ』

ベビー用品?
ジークの中に、嫌な予感が生まれる。
姉が、ベビー用品を必要としている。
姉は、横島忠夫と同棲している。
横島忠夫は、改造人間もびっくりの煩悩魔人である。
そして、コスプレ。
以上から推測すると……。

「あ、姉上。それは……横島さんと……?」

恐る恐るジークは聞いてみる。
心の中では、確率は低いとわかっていながらも「友達が……」という言葉を期待している。
しかし、現実はやはり非情であった。

『……何だ、知っていたのか……まあ、つまりは、そういうことだ。忠夫と、そういうことになった。』

聞きたくない答えが返ってくる。
つまり、近い将来、それを使うということだ。
目から滝のように涙が出てくる。
だが、そんな精神状態でも、気を利かせた行動ができるのが、ジークという男である。
こういうことは、本人たちが、自分のタイミングで周りに知らせるのが一番良いと、ちゃんと理解している。
間違っても言いふらしたりはしない。

「わかりました……一応、父上やみんなには、黙っておきますね……」

『ああ、そうしてくれ。やはりこういうことは、私たちが直接言うべきことだからな……頼んだぞ』

「わかりました……」

電話を切る。
テレビの前に戻る。
画面では、少年が恋人を胸に抱きながら号泣していた。
恋愛とは、こうあるべきなのだ。
間違っても、コスプレなどは必要ない。
しかし、姉が幸せそうならば、それでいいではないか。
諦めにも似た気持ちで、DVDのリモコンを手に取る。

「赤ちゃんプレイ…………か…………」

呟いて、再生ボタンを押した。
ジークは凄まじい勘違いをしていたが、そんなこと誰も知っちゃいなかった。


おしまい。


あとがき
どうも、そよ風の宅配便、岐阜海運夢組です。キャッチフレーズは今考えました。初めての全年齢対象。これくらいならいいですよね?
二話で終わらせようと思っていた話ですが、せっかく三話目も書いたことだし、何とかキリ良く終わらせてあげようと頑張っています。が、見ての通り苦しんでます。
書いてる途中でギャグなのか何なのか、さっぱりわからなくなってしまいました。
考えたことを考えたとおり書くって、ごっさ難しい。
「でもまあ、ニュアンスみたいなものは伝わってきたよ」という方がいれば幸いです。
上手くなりてぇ……。
では、次の最終話で、また。

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