インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「二人三脚でやり直そう 〜第二十三話〜(GS)」

いしゅたる (2006-10-06 01:35/2006-10-06 01:54)
BACK< >NEXT


「っだあああぁぁぁああっ!?」

「ほらほら横島さん! 逃げてばかりいないで、反撃したらどうです!?」

「そんな暇ないっスーッ!」

 ――霊峰、妙神山修行場――

 その修行場たる異界空間に、一人の情けない男の悲鳴が響き渡っていた。

 そして――


「はっはっは。情けない姿だなおい。それでも俺の息子か?」

「当然のように茶ァすすってんじゃねえクソ親父ィィィッ!」


 なぜか、横島大樹がそこにいた。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第二十三話 妙神山の父兄参観?〜


 ――時は数時間前に遡る――

 太陽が中天に差し掛かる頃、横島は簡素な手荷物片手に、歩きなれた妙神山の登山道を登っていた。
 道なき道とでも言うべきか。道と呼ぶのも憚られる、一歩踏み外せばあの世行き間違いなしというほど険しい道を、横島は淀みない足取りで進む。
 が、その道も、見れば真新しい土や岩で固められていた。

 そういえば、一度全壊した妙神山修行場を再建する為に、重機が出入りしていたような記憶がある。だがその為には、道を大幅に広げる必要があったはずだ。
 ならば、おそらく建築業者が撤収する際に、広げた道を元通りにしてもらったのだろう。この険しい登山道を上り下りするのも、修行のうちと言うことなのかもしれない。

 そんなとりとめのないことを考えているうち――開けた場所に出た。目の前には、中国風の建築様式に巨大な鬼面の門構え。

「よぉ。来たぜ」

 妙神山修行場の入り口――その鬼門に向かって、軽く挨拶した。

『おお、横島ではないか』

『珍しいのう。今日は何をしに?』

 横島の挨拶に、鬼門は言葉通りに珍しそうに訊ねてきた。

「ちょっと暇ができたんでな。稽古つけてもらいに」

 と、横島が答えた途端――


『『……………………』』


 鬼門、沈黙。そして――


『のう右の。これはツッコミを入れるところなのか……? 人間の『お笑い』とやらは、我にはわからぬ』

「待てっ!」

『それは我とて同じだ、左の。素直に成長したと喜ぶべきかもしれぬが、いかんせん奴は芸人……確かにおぬしの言う通り、ツッコミ待ちでボケをかましたと見るべきやもしれぬ』

「だから待てっ! つか芸人て!」

『うむ! ならばここはひとつ!』

『またまたご冗談を〜と裏手でツッコミ入れるべきかとっ!』

「入れんでええわあああああっ!」

 絶叫を持って突っ込んだ横島の声が、妙神山に響いた。
 そんな横島の様子に、鬼門はキョトンとした表情になる。

『む? ボケではないというのか?』

『ならば本気ということか? いったいどういう風の吹き回しだ、横島のくせに』

「横島のくせにって……いくらなんでも、影の薄いキャラ決定戦最有力候補に挙げられるおめーらに、そこまで卑下される謂れはねーぞ」

『『ちょ! なんだその決定戦は!』』

 ちなみに、他の最有力候補には、誰もが予想している通りにタイガー寅吉が挙げられる。今はまだ登場していないが。

 さすがに聞き捨てならなかったのか、抗議の声を上げる鬼門。しかしその時――


 ぎぃ……

「どうしたのですか? 騒がしいですね」


 鬼門を開け、中から小竜姫が顔を出した。

「こんにちは小竜姫さま! いやー、相変わらずお美しごぶるぁっ!?」

 毎度のことながら、一瞬で目の前まで移動してその手を取る横島に、即座に肘をみぞおちに叩き込む小竜姫。

「ああ、やっぱり横島さんでしたか。何度も言いますけど、私に無礼を働いたら仏罰を下しますので気をつけてくださいね」

「ふぁい……」

 地面に突っ伏してピクピクと痙攣しながら、横島は弱々しく頷いた。

『まったく……進歩しないのー』

『こやつの辞書に進歩などという単語が存在するとも思えぬが』

 そんな横島の背中に、鬼門の容赦ない言葉が投げかけられた。


「稽古……ですか?」

 居間に通された横島は、小竜姫とちゃぶ台を挟んで向き合い、鬼門にも言ったことを改めて小竜姫に伝えた。

「それは、私としても望むところですが……どうして急に?」

「GS試験に向けてってとこっスかねー」

 出されたお茶をズズッ、とすすりながら、気の抜けた調子で答える。

「……実は何日か前、ちょっと出会った連中がいまして。
 おキヌちゃんが顔見知りだって言ってたから、一緒になって歓談してたんスけど……そいつら、GS試験に出るらしいんスよ。で、俺もGS助手してますから、受けようと思ってることを話したら――なんか、いい試合しようみたいな話の流れになりまして」

「無様な試合はできない、ということですか」

「まあそんなトコっス」

 と答えたが、本当の動機はもう少し複雑だ。
 彼らの所属する白龍会は、メドーサの魔手の只中にある。雪之丞たち三人以外の全てが石化させられる前に、どうにかメドーサとの関係を断たせたい。それが無理ならば、最悪、GS試験において勘九郎を止められるほどには強くなっておきたい。
 その為には、最低でも『栄光の手』を完全な形に戻さなければならない。あわよくば、文珠を生成できるようにまでなれば御の字である。

「わかりました。私も武神のはしくれ、そういう理由なら全力をもってあなたを鍛えてあげましょう」

「うへ……できれば手加減してくれればな〜とか……

「何か?」

「いえ、なんでもないっス!」

 小竜姫の『全力』の言葉に反応し、急に気弱になる横島。そのつぶやきを聞きとがめられ、慌てて首を横に振る。

「……ところで、今日は一人ですか? 美神さんやおキヌさんは一緒ではないようですが」

「今日の除霊は男がいてもあまり意味ないらしいんで。俺一人だけ暇出されたんスよ」

 美神とおキヌは、唐巣の協力要請により、避暑地のテニスコートの除霊に行っている。除霊対象は太平洋戦争直前の女子テニスプレーヤーなのだが、開戦によって夢が断たれ、その無念で自縛しているのだそうだ。テニスの試合によって成仏させるということなので、当然のごとく、男子である横島はお呼びではなかった。

「ほんとは俺だった付いて行きたかったっスよ……なにせ……女子テニスといえば、激しい運動で翻るスカートが定番じゃないっスか! 白日の下で輝く白いスコート! 健康的な白いフトモモ!しかも美神さんもおキヌちゃんも、一級品の美女美少女なんスよ!? それを堪能できんなんてどこの拷問っスか!」

「血涙流して意味不明なこと主張しないでくださいっ!」

 ずごすっ。

「ぬごっ!?」

 血の涙を流す顔をぐぐっと近付け、拳を握って力説する横島に、小竜姫はたまらずに肘を落とした。横島はちゃぶ台の上に沈む。

「まったく……たまに真面目なこと言ったかと思えば、すぐこれなんですから……ほらほら、いつまでも寝てないで修行場に行きましょう。早速始めますよ」

「ね、寝かせたのは小竜姫さまでしょーが……」

 頭のてっぺんから血をだくだくと流しながら、横島はむっくりと起き上がり、修行場に向かう彼女の後に続いた。

 そして、いつもの銭湯風味な脱衣場――もとい、更衣室に辿り着き、番台に座る小竜姫の視線を背中に受けながら、人民服っぽい妙神山の修行用霊衣に着替えるため服を脱ぐ。

(別に、見られて減るもんじゃないけど……小竜姫さまに見られながらってのも、なんかくすぐったいなー)

 美術の授業で、女子の前でも惜しげもなく裸体を晒した男が、今更何を言うか。逆行前の彼のクラスメイトが聞いたらそう突っ込まれそうなことを考えながら、ちらりと小竜姫に視線を向ける。
 長年ここで管理人をしている彼女にしてみたら、修行者の着替えなどそれこそ見慣れたものなのだろう。半裸になっている横島を見ても、平然としたものだ。

(俺の着替え見ても、何の反応もなしかー)

 ちょっと残念、などと思っていると、小竜姫が口を開いた。

「横島さん、今日はどんな修行を希望しますか?」

「んー……」

 問われ、少し考える。

「とりあえず、霊力を上げられれば上げたいですね。それ以外のことは小竜姫さまに任せます。あんまキツいのは遠慮したいっスけど」

「…………わかりました」

 最後の一言で、小竜姫は呆れたようにため息一つ。ひそかに「この性根も叩き直さないといけませんね……」と心に誓ったのだが、それは横島にはあずかり知らぬことであった。

(それにしても……)

 小竜姫と二人っきり。この状況をして、しかし横島は普段のような妄想に入ることはなかった。脳裏をかすめる映像は、いつものふしだらな妄想ではなく――


 ――たかしまさんっ――


 パイパーに幼児化された時の、自分を呼ぶ彼女の言葉。あの時の記憶は、元に戻った今でもしっかりと脳裏に焼きついている。

(たかしまって……やっぱあの高島なのかな……)

 それは、横島の前世での名前である。ヒャクメが美神の能力を間借りして平安京に行った時に知ったことだ。あいにくと横島は途中から気を失い、さらにはその後の経緯は美神の口からは語られることはなかったので、平安京で何があったのかは長い間謎のままであった。
 ――もっとも、それはその後に《模》の文珠でアシュタロスの記憶をトレースして、横島の知るところとなったのだが。

 さておき、もし彼女の言っていた「たかしま」が「横島の前世の高島」であるなら、美神と同様、小竜姫とも前世からの縁ということになる。しかもメフィストから転生した美神と違い、小竜姫はまぎれもない当人だ。
 ならば――

「すなわち! 俺と小竜姫さまは、前世から結ば――「はい? 私がどうしました?」うひゃうっ!?」

 いきなり自分の名前を呼ばれた小竜姫が、小首を傾げた。他意もなく短くつぶやいたその言葉に、横島はハッとなり絶叫を中断した。またもや、知らぬ間に声に出すところだったらしい。

「い、いえ、なんでもないっス!」

 そう答えると、急いで人民服を着る。ぱぱっと着替えを済ませると、小竜姫が女子更衣室とを仕切る壁の上にひょいっと乗った。

「では行きましょうか。まずは準備運動した後、半刻ほど瞑想して集中力を高めてもらいます」

 そう言って、身軽な足取りで壁の上を歩き出した。


 ――そして、瞑想をしている時である。
 『それ』が来やがったのは――


「……あら?」

「ん? どうしたんスか?」

 唐突に、更衣室――と言うかその向こう――に目を向けた小竜姫に、横島は瞑想を中断して顔を上げた。

「誰かが鬼門の試しを突破したみたいです。珍しいですね、一日に複数の修行者が来るなんて。
 私は少し行って来ますので、横島さんはここで瞑想を続けてください」

 とは言われたものの――横島は、なぜか背中にむず痒いものを感じた。
 なんというか、それは悪寒に近かった。絶対に放っておけない何かがあるような気がする。

「ちょっと待ってください。俺も行かせてください」

「え? でも――」

「なんかや〜な予感がするんスよ。いいじゃないっスか。一緒に行かせてください」

「……しょうがないですね」

 苦笑し、小竜姫は同行を許可した。
 二人は揃って修行場を後にし、入り口へと向かう。

 そして、二人が向かった先にいたのは――


「よう、忠夫」

「親父ィッ!?」


 そう――横島大樹、その人であった。


「お久しぶりです小竜姫さま。相変わらず可愛らしいお姿ですな。あなたなら、美の女神でも通用されたでしょうに」

「あら、お上手ですね」

 出会い頭の口説き文句。しかし小竜姫には通じた様子もなく、単なる社交辞令として受け取ったのか、にっこりと微笑むだけだ。

「な、なんで親父が……つーか、鬼門の試しを突破したのかよ」

「ああ、あれか。弱かったぞ?」

 こともなげに言う大樹。鬼門もあれで、一般人からしてみればだいぶ強いはずなのだが。

(役に立たねーなぁ……霊能者でもない一般人にやられるなよ)

 横島による鬼門の評価、最底辺継続中。ヒャクメに並ぶ評価の低さだった。「ひどいのねー」

「それで、大樹さんも修行をご希望で?」

「いえ。今回は仕事の都合で一時帰国したのですが、用事の後に会おうと思った忠夫が留守だったので。
 部下に行き先を調べさせたらこちらにいるとのことでしたので、ちょうど良い機会だから、息子が普段どのようにして修行しているのか、見学させてもらおうと思ったのですよ」

「まあ、そうでしたか……しかし、そのために鬼門の試しまで突破するなんて、凄い方ですね」

「はっはっはっ。可愛い息子のためなら、親はいくらでも強くなれるものですよ」

「嘘だ。ぜってー嘘だ」

 小竜姫と談笑する大樹に、横島は半眼で突っ込んだ。この父のことだ。目当ては小竜姫に違いない。
 だが、相対する小竜姫は、そんなことには気付く様子もない。

「そういうことなら、見学を許可しましょう。横島さん、戻って修行の再開です」

 言って背を向ける小竜姫に、横島と大樹は並んで後をついていった。
 横島は、隣を歩く父に、小竜姫に聞こえない程度の声でぽつりと話しかける。

「……おふくろに言いつけるぞ」

「忠夫……お前、父さん裏切ったりしないよな?」

「げ……」

 その瞬間、横島の首筋に、ぶっといナイフが突きつけられていた。いつの間に動いたのか、さっぱりわからない。その父の表情には、非常に濃い殺気が浮かび上がっている。

「うぐ……」

 しばし、硬直して睨み返す。ややあって――

「そのナイフはお前に土産だ」

 唐突に殺気を消し、にかっと笑った。

「レアメタルの採掘現場を襲ってきたゲリラから巻き上げたもんだ。何人も殺してるワザ物だぞ!」

 言って、ナイフを横島に手渡す。受け取った横島の方は、そのごく短い時間で精神的に疲労したのか、ぜーぜーと肩で息をしていた。

「……何をやってるんですか、何を……」

 だが、二人のやり取りは、武神である小竜姫には気配で筒抜けだった。


「さて、それでは組み手を始めましょう。今回は私が相手に――って、何いきなり逃げてるんですか」

 異界空間に戻っての第一声。小竜姫の言葉を聞くと同時、横島は回れ右していた。小竜姫はその襟首を掴み、逃走を阻止する。

「いややー! 剛練武や禍刀羅守ならともかく、小竜姫さまと組み手なんて、死ねゆーてるもんやんかー!」

「失礼ですねっ! 今まで私が相手を務めて、死んだことなんてないじゃないですか!」

「死んだことがあってたまるかーっ!」

 というか、小竜姫が修行として横島の相手をしたのは、最初の二週間の修行の最終日と、死津喪比女を倒した直後の『お仕置き』の時だけである。横島にとっては後者の印象が特に強く、トラウマ級の経験になっていた。自業自得でしかないが。

「はっはっはっ。情けないなぁ忠夫は」

 そんな師弟を、大樹は生暖かい目で見守っていた。


 ――というわけで、冒頭のシーンへと繋がる。


「のおおおおおおおおっ!?」

「逃げ足だけは素晴らしいですね。しかしそれだけでは勝てませんよ?」

 小竜姫の放った必殺の一撃を、横島はマト○ックスっぽいアクロバティックな動きでかわした。

「避けられるということは、私の動きは見えているのでしょう。ならば一手二手先を読み、攻撃と攻撃の間隙を見つけ出せば、あとは攻撃の意思一つでおのずと反撃へと繋がります」

 実際、横島は小竜姫に対し、それをやったことがあるのだ。影法師を使った、かの最終試験において。
 あの時は小竜姫が相当手加減していたからこそ出来たことで、今はそこまでは手加減しているわけではないのだが――それでも、横島とてあの時と同じというわけではない。できないはずがなかった。

 できないはずはないのだが――

「無理いいいいいいっ!」

 その横島は、泣きべそかいて逃げ回るしかしなかった。
 もっとも、横島が逃げに徹しているのは、言うまでもなくいつかの『お仕置き』の恐怖を引きずっているからである。
 だが悲しいかな、小竜姫はそれを理解していない。そんな情けない弟子の様子に、小竜姫は胸中で嘆息する。
 しかし実際、彼はサイキック・ソーサーや栄光の手を駆使して、その逃げ足と併せて小竜姫の攻撃を凌ぎ続けている。これだけの芸当が出来るのに、頭から無理と決め付けてやらないのでは話にならない。
 なおも攻撃の手を緩めずに続けながら、小竜姫は「どうしましょうか……」と頭を捻っていた。

(まずは、やれば出来るんだから無理なんかじゃない、と自信をつけさせるべきでしょうか? 親の前でもありますし、やはり――)

 彼女はちらりと、茶をすすっている彼の父親に目を向けた。
 と――その時。

「おーい忠夫。いいこと教えてやろうか? 小竜姫さまは、急所を狙う一撃の時は必ず目元が鋭くなるんだ。顔をよく見ていけばいーんだぞ」

(――って見切られてる!?)

 いきなり癖を見破ってアドバイスする大樹に、小竜姫は戦慄を覚えた。一体何者なのか、この人は?
 しかも、小竜姫にショックを与える台詞はそれだけに終わらなかった。

「んなこたーわーっとるわい! 伊達に全部避けてないわ! つーか、まばたき一つから乳の揺れ方まで、小竜姫さまみたいな美人の動作を、俺が見逃すわきゃねーだろ!」

「えええっ!?」

 父に返す横島の言葉に、今度こそ小竜姫は声を上げて驚いた。なにげに恥ずかしいこと言われた気もするが。

(こっちにも見切られてたーっ!?)

 見えるのと見切るのとでは、レベルが違う。見えているとは思ってはいたが、よもやその上にまで行っていたとは――いや、確かに全部避けているのだから、予想してしかるべきだったか。
 さすがに全力を出せば、見切る見切らない以前に視認することさえできなくなるだろうが――ともあれ、これはつまり、手加減のレベルを下方向に間違えていたということなのだろうか?

(……って、ちょっと待ってください)

 小竜姫は、はたと考え込む。それ以前に、全部見切っておいて反撃しないとは、どういうことなのだろうか。
 これはあれだろうか。武神相手とはいえ、女性に手を上げることはできないということなのだろうか。だとすれば、女性としては嬉しいのかもしれないが、あいにくと彼女は武神。


 それは――屈辱以外の何物でもない。


(ふ……ふふふ……そうですか。そーゆーことですか。嘗められたものですね、私も)

 ――といっても、横島は実際には、以前に小竜姫と試合した時にしっかりと攻撃していたのだが。残念ながら今の小竜姫は、そのことを思い出す精神的余裕はなかったようだ。


「――わかりました」


 ぴたり、と攻撃の手を止め、小竜姫はわずかに俯いて神剣を鞘に収めた。
 やっとわかってくれたか、とばかりに安堵の表情を浮かべた横島だが、しかし次の瞬間には「ひっ!?」と再び怯えた顔になった。


「どーやら横島さんにはー、まず先にー、修行以外の部分からやり直さないといけないらしいですねー」


 横島の顔が見る間に青くなっていった。


     ※現在、意識改善という名の破壊活動が行われてます。しばらくお待ちください。


「――さて」

 修行用の異界空間――その中で、ひとしきり暴れて落ち着いた小竜姫は、腰に手を当てて足元の消し炭を見下ろしていた。

「女性に手を上げたくない……というあなたの優しさは、確かにあなたの財産と呼べるものでしょう。
 しかし、それも時と場所を選ぶべきです。私は確かに女ではありますが、それ以前に武神です。稽古をつけてもらう時ぐらいは、男も女もなく接してください」

 周囲には何もなかった。武闘円も、変な形の岩も、何もかもなくなり、ただ地平線のみが広がっている。その何もない空間に二本の足で立つのは、小竜姫と――なぜか無傷の大樹だけ。

「…………」

 小竜姫の口上に、しかし返事はなかった。

「返事をする気力も残ってませんか? ……まあいいでしょう。
 ともかく、今度稽古で手を抜いたら……わかりますよね?」

 消し炭がびくっと動いた。その反応に、小竜姫はにっこりと微笑む。

「……その様子では、今日の修行は無理みたいですね。ご飯の用意してますので、回復したらお茶の間にいらしてください。
 それじゃ行きましょうか、大樹さん」

「そうですな。ところで、息子の普段について色々と聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」

 促す小竜姫に、大樹は頷いてその横に並んだ。さりげなく、肩に手を回している。

 ――ピクリ。

 消し炭が動いた。

「ええ、構いませんよ。でも、会う機会が多いわけではないので、それほど大したお話はできないと思いますが……」

「それでも、別居中の私よりは接点が多いでしょう。ささ、詳しいことはお茶の間で。二人っきりでじっくりと話を楽しもうじゃありませんか」


「……待てや親父……」


 ゆらり、と。
 消し炭――いや、横島が立ち上がった。
 その言葉に振り返る二人。小竜姫は、これほど早く復活するとは思ってなかったようで、軽く驚いている。対して大樹の方は、激戦を前に昂揚した雪之丞のように、不敵な笑みを浮かべていた。
 横島は、ぱっぱと体の炭をはたき落としながら、眼前の父親を睨む。

「どうした、忠夫?」

「とぼけんなよ。猫かぶってても、親父の考えることなんて手に取るようにわかるぞ」

 父親を見るその目は、はっきりとした敵意。それを受ける大樹の目も、同じく鋭い敵意をたたえていた。

「あの……お二人とも? 一体何を……」

 その二人の、とても親子のそれとは思えない険悪な雰囲気に、小竜姫は狼狽した。しかし二人は、そんな小竜姫は視界に入っていない様子で。

「ほう……ならどうする?」

「決まってる……


 小竜姫さまに先に目をつけたのは俺だっ! 親父の思い通りにはさせんっ!」

「何の話をしてるんですかっ!?」

「お前、おキヌちゃんはどうするつもりだ……? まあそれはともかく――

 そういうことなら、力ずくで止めてみろ! できなければ、小竜姫さまは俺が頂く!」

「だから何の話をっ!? てゆーか何の景品ですか私っ!?」

 勝手にヒートアップする親子。置いていかれた感のある小竜姫は、状況がわからず混乱するばかりだ。

「二度目の敗北を噛み締めろおおおおおっ!」

「奇跡は二度も起こらんぞおおおおおっ!」

 異界空間に響く二つの咆哮。闘争本能をむき出しにした親子は、激しく激突し――

「……なんなんでしょうね、この親子は……」

 小竜姫は、深く嘆息した。


 ――台所に、ことことと鍋が煮える音と醤油の香りが充満する。
 小竜姫は、鼻歌を歌いながら、おたまを片手に料理にいそしんでいた。

        「親父は女のことしか考えていない! だから俺、横島忠夫は粛清すると宣言した!」

        「エゴだよ、それは!」

 作る料理は五人分。小竜姫と横島親子、そしてたまに忘れることがある鬼門の二人。
 ちなみに、彼女の武術の師匠で妙神山のトップである斉天大聖は、現在は神界にいる。どうせ新作ゲーム目当てで近いうちに帰ってくるだろうが、今日のところは彼の分を用意する必要もないだろう。

        「ここで終わりにするか、続けるか……忠夫!」

        「まだだ! まだ終わらんよ!」

 作った料理を小皿に少し移し、味見をしてみる。もう数百年も作り続けていた味だ。客に出して恥ずかしいものとは思っていない。
 脇にある釜を見れば、じゅうじゅうと噴いている。
 はじめちょろちょろなかぱっぱ、じゅうじゅうふいたら火を引いて、赤子泣いてもふたとるな――古くから伝わるその言葉通り、小竜姫は釜にかけられていた火を弱めた。これで、釜の中の米の余計な水分が取れたら、ご飯の炊き上がり。完璧である。

        「性交を遊びと考える貴様にはわかるまい! 俺の体を通して出るこの力が!」

        「な、なに!? 動け、俺の体! なぜ動かん!?」

 とはいえ――どんな料理でも、出来立てが一番美味しいものである。果たしてあの二人は、料理が美味しいうちに戻って来られるだろうか?

「……まあ、結構いい試合しているようですし、あれも修行の一環として身になるでしょうね」

 そうつぶやく小竜姫は、どことなく投げやりだった。


 ――あとがき――

 すいません。ログにある犬雀氏の除霊委員シリーズを読破したら、ものっそ更新遅くなってしまいました……二十二話が次ページまでいっちゃってるし、ダメダメですね私(>_<)

 というわけで、今回はちょっとした修行の話。「庭球霊ファイナルステージ!」「父帰る!」を同時進行させました。といっても前者はまったく描写してませんが^^; ちなみに、「機械じかけの愛が止まらない!」は別パターンで後回しにします。こっちもまた意表をついた展開にしますので、イベント発生(?)までお待ちくださいw
 とりあえず、今回はまともに修行やって、大樹と親子喧嘩して終わろうかなーと思ってたら……あれ? また小竜姫さまが暴走してる? そんな予定なかったのになーと頭を捻りつつ。

 そして次回からナイトメア編。ここでまた意外なキャラが登場してフラグが立ちます。ナイトメア編のフラグ予定は、おキヌちゃん、美神さん、???といったところかなー。???に誰が入るのかは見てのお楽しみw

 ではレス返しー。


○1. 麒山悠青さん
 いえ、超のつくお兄様たちのことですw

○2. とろもろさん
 白龍会メンバーは、それぞれGS側につく経緯は一通り考えてます。最終的には全員生き残りますので、お楽しみにw

○4. ひでよしさん
 ご指摘ありがとうございました。これからも、至らないところがあればご指摘くださると嬉しいです。

○6. 零式さん
 最初はハニワ兵柄のパジャマにしようと思ったんですが……勘九郎ですし、自然とこーなっちゃいました^^;

○7. 内海一弘さん
 それはきっと、普通の休日。そう思って描いたお話でした。非日常を生きる彼らだからこそ、描きたいと思ったわけです。

○8. スケベビッチ・オンナスキーさん
 白龍会メンバーは、実は陰念も含めて三人とも好きだったりします。だから、全員生き残らせる方向で考えてます。
 ちなみに、マッチョダンディーで正解ですw

○9. 山の影さん
 雪之丞の選曲は、スパロボ系というより、絶叫系でチョイスしました。力むあまりにぶち切れそうなほど血管を浮かび上がらせ、熱唱する雪之丞がイメージできればw 白龍会の方は、かなり異色な展開を用意してます。お楽しみにw

○10. SSさん
 助けます。連中は死なせません。

○11. 亀豚さん
 白龍会の方は、横島くんよりおキヌちゃんの方が活躍するかも? 二人とも頑張りますよー。あの場にエミがいたのは……ピートの追っかけ?

○12. 秋桜さん
 陰念は目立たせる予定ですよー。この人に頑張ってもらって、せいぜい横×キヌの邪魔をしてもらいます。もちろん、二人の絆を深めるハードルという形でw

○13. AQさん
 ちなみに、騒いでいたのはクラスメイトに限った話ではありませんよー。校門でしたので。横島くんのアレは、全校に知れ渡ってるということでひとつw
 誤字報告ありがとうございました。修正しておきました。

○14. akiさん
 白龍会に関しては、この邂逅から本格的に相違が出てきます。この先の展開を楽しみにしててくださいw

○15. 万尾塚さん
 櫛に関しては、しばらくおキヌちゃんの髪を梳く程度しか出番ありません。あれがキーアイテムとして日の目を見るのは、だいぶ後になります。きっとその頃には忘れられてるだろーなーってぐらい後で^^;

○黒覆面(赤)さん
 えっと……別作品に誤爆していたので、こちらで拾わせていただきます。
 メド様フラグはどうでしょうかね? 彼女もできれば生き残らせたいのですが、さてどーするべきか。一応、方策は決まってるんですけどね^^;


 レス返し終了ー。では皆さん、次回二十四話ナイトメア編でお会いしましょー。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

PCpylg}Wz O~yz Yahoo yV NTT-X Store

z[y[W NWbgJ[h COiq [ COsI COze