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「光と影のカプリス 第29話(GS)」

クロト (2006-10-01 18:24/2006-10-01 21:59)
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 地下空洞を出てバイクを置いた所まで戻った横島は、そこでようやく人心地ついたかのように手を挙げて大きく伸びをした。
 時刻はまだ昼前だが、すごく長い時間あの中にいたように感じる。やはりいつもの除霊とは全く違うハードさとシビアさだった。
 もちろんこんなのは特別中の特別で、これを基準にして職業選択をするつもりはない。しかしかなり疲れたから、帰るのはちょっと休んでからにしたかった。
 タマモにその旨を訊ねると、仔狐はいつも通りのものぐさな態度で了承した。

「いいんじゃない? 私も疲れたから昼寝したいし」
「そっか。じゃあ下に降ろすぞ」

 横島は道路脇の林に入って木の根元にタマモをそっと下ろすと、自分もその傍らに座り込んだ。何となく誰かと話をしたくなってカリンを呼び出す。

「どうした? もうご褒美が欲しくなったのか?」
「違うわ!」

 カリンの軽口を横島が力いっぱい否定する。まったく、いくら自分でも24時間煩悩してるわけじゃないと言うのに。
 確かにひどく疲れた時はナニをしたくなるという俗説もあるし、それを否定する気もないが、今はどちらかというと精神の方が疲れているのだから。

「ところでカリン、体は大丈夫か?」
「ああ、話くらいはできるが」

 カリンはまだきつそうだったが、動けないとか我慢できないとかいう程ではないらしい。横島の隣、タマモの反対側に腰を下ろした。

「勘九郎たちのことが吹っ切れないのか?」
「……よく分かったな」

 横島はカリンに内心を言い当てられて、かなり驚いたようだった。
 人が殺される所をまともに見たのは初めてだ。しかも仲間の手で。いろいろと前後の事情がありはしたが、簡単に忘れられるようなことではない。
 カリンはひと呼吸入れてから、横島の心のしこりを解きほぐすかのようにゆっくりと話し始めた。

「……私はおまえだからな。
 陰念は巻き添えだったが、勘九郎はハーピーに殺されても仕方なかったと思う。
 それに2人とも捕まれば死刑だろうし、大した苦しみを味わわずに死ねたのはむしろ幸運だったかも知れん」

 陰念が殺されたのは災難だったと思うが、ハーピーも独断で自爆ボタンを押されてはたまったものではなかろう。そもそもなぜ勘九郎があのタイミングで火角結界を起動させたのかが不分明だ。
 それに2人はいやいやメドーサに従っていたのではなさそうだから、仮にあの場で生き延びたならしかるべき裁きを受けねばなるまい。中国の法律は知らないが、日本の法律ならまず死刑だ。勘九郎はそれが分かっていたのかも知れない。
 その点雪之丞は直接風水師を殺したのではないし、情報を提供しただけでなく自ら戦いに赴いている。功績は多大だし再犯のおそれもないから、仮に逮捕されても大した罰は受けないだろう。

「何にせよ、おまえが負い目を感じることはない。喜ぶのは不謹慎だが、間違った事は何もしていないのだから」
「そっか……そうだな。何だか気が楽になった、ありがとさん」

 横島がようやく得心して大きく息をつくと、カリンもそれに倣って表情をゆるめた。
 そして微妙に話の流れを変える。

「しかし今回の戦いは不本意だったな。あんな闇討ちみたいな真似はしたくなかったのだが」
「え、そうなのか?」

 横島は話の内容自体より、カリンが自分にグチっぽいことを言ってきた事の方に驚いた。

「でもメドーサに不意打ちするって言い出したのはおまえじゃんか」

 その当然の指摘に、カリンがちょっと苦い顔になって言い訳めいたことを口にする。

「なにぶん相手が相手だったからな。あれ以外に手がなかったんだ。
 ただそういうやり方ばかりしてると人間の格調が低くなるし、地力を磨く努力を怠るケースが多いからな。結局は身のためにならん。だから好きじゃないんだ」
「……よく分からんのだが」

 カリンが何やら難しいことをぶつくさ並べ出したが、むろん横島には半分も理解できなかった。カリンは苦笑して、

「じゃあ簡単に言ってやろう。卑怯者が女にもてると思うか?」

 まことに単純明快かつ急所を突いた発言で横島は少し青くなったが、それでも多少の反論を試みる。

「な、なかなかピンポイントなたとえかましてくれるじゃねーか。でもバカ正直にしてたらすぐやられちゃうんじゃないのか? ほら、俺ってもともと美神さんの丁稚だし」
「そうだな、だからバランスの問題だと思う。
 知っているが使わない、という辺りが私の理想なんだが、私も未熟だからまだまだ無理だな」
「……」

 言い分を認めてもらえたのはいいが、何やら果てしなく大きな課題を出されたような気がする。横島は対応に困ったが、カリンにはそこまでの意図はなかったらしく、また話題を変えてきた。

「ところでタマモ殿のあれには驚いたな。妖狐の変化がいくら精妙とはいえ、あんな器用な使い方は考えたこともなかった」

 それは横島も同感だった。やりようによってはもっと色々なことができるかも知れない。

「でもタマモのことだから、その度にお揚げよこせって言うんだろーな。高いすし屋でとかでなかったら別にいいんだけど」
「あははは、違いない」

 カリンは楽しそうにころころ笑って相槌を打ったが、その直後に横島が断じて承服できないことを口にした。

「もしかしたら、私も活躍したからこれでご褒美はチャラね、とか言ってくるかも知れないな?」
「な、なんつー理不尽な想像すんだおまえってヤツは!?」

 横島がカリンにつかみかからんばかりの勢いでがあーっと吼える。
 しかしカリンは別に怯みも動じもせず、いたずらっぽい笑顔のまま、

「すまんすまん、そう怒るな。そんなこと入れ知恵したりしないから。
 私だってちゃんと出す気でいるんだ。
 何なら今ここで渡そうか?」
「……え、ホ、ホントに!?」

 横島の動きがぴたりと止まる。心なしか、カリンの顔がいつもより艶っぽいように見えた。
 ついできょろきょろと辺りを見渡す。人影はないしタマモは寝ているし場所もまあ悪くない。カリンが約束の履行を言い出してもおかしくはなかった。
 それでも横島が何だか落ち着かない様子なのは、そんな美味しい事態には慣れてないからという悲しい理由だったりする。

「気が乗らないなら後にしてもいいが?」
「いや、今でいい」

 横島は即答した。せっかくくれるというものを後回しにするのは、何となく男らしくないし。

「そうか。じゃ、失礼するぞ」

 カリンが横島の脚をまたいで向かい合う姿勢になる。両手でそっと横島の顔をはさんだ。

「あー……目をつぶってくれるか?」

 カリンは緊張しているのか、それとも照れているのか。頬が少し紅潮して瞳も潤んでいた。一応彼女にとってはファーストキスということになるわけだから……かどうかは分からないが。
 横島はその表情をもう少し見ていたいと思ったが、さすがにそんなことを言い出すほど野暮ではない。おとなしく言われた通り目を閉じる。

「横島……体もきつかったろうによく最後までがんばったな。おまえの影法師として生まれたことを誇りに思う」

 そんな言葉が聞こえたあと、少女の顔が近づいてくる気配を感じた。
 それは5秒か、せいぜい10秒ほどの唇が触れ合うだけのキスだったけれど。約束だからという義務感ではなく、言葉通りの気持ちを持ってくれていることが確かに伝わってくる、とてもやさしいキスだった。


 横島とタマモがホテルに帰ると、先に着いていた唐巣から意外なことを聞かされた。

「せっかく香港まで来たんだ。1日ぐらい観光をして行こうかと思っているんだが、君たちはどうする?」

 唐巣がオカルトGメン日本支部に電話をかけて聞いてみたところ、例の霊障はどうにか始末がついたそうだ。美智恵たちはまだ東京に戻っていないが、唐巣たちが行く必要はないと言う。
 くわしい事情までは分からなかったが、それだけ聞けば十分だ。唐巣の方も香港での事件は無事解決したとだけ話して電話を切った。
 しかしこれで急いで日本に帰る必要はなくなったわけだから、少しくらい遊んで行っても構わないだろう。

「そうっスか、じゃあ俺もご一緒します。タマモはどうする?」

 横島も特に異存はない。同意して隣の狐少女を顧みた。

「別にいいわよ」

 タマモの返事は相変わらずあっさりしていたが、唐巣は気にすることもなく頷いて、

「うむ。じゃあ忘れないうちに君たちだけで行動していた間の分の報告書だけ、メモ程度でいいから先に書いておいてくれたまえ。それが済んだら、ちょっと遅くなったがお昼にしよう」
「わかりました」

 こうして横島たちは残務と昼食のあと、とりあえず繁華街の散策やお土産の購入も兼ねたショッピングを楽しんだのだった。
 が、しかし……。


「やれやれ、エミさんには参ったなぁ。別に嫌いじゃないんだけど……」

 危ういところでエミの毒牙から免れたピートが香港の街路で額の汗を拭っていると、突然人ごみを割って若い女性が駆け出してきた。

「助けてーーー!」

 誰かに追われているらしい。女性はピートをみつけると、その背中にすがりついて助けを求めた。赤の他人の、まして特に強そうにも見えない優男のピートをなぜ巻き込んだのかは不明である。どうせ助けてもらうならやはり美形が良かったのか?
 女性は歳のころは20歳くらい、令子をちょっと(かなり?)善良にしたような感じの美女である。気弱そうに見えるのは、単に今追われているからだろう。
 横島なら速攻でナンパにかかる所だが、ピートにそういう趣味はない。しかし追われている女性を放置できる性格でもなかった。
 黒服に黒グラサンという、いかにもそれっぽい服装の男2人が走ってくる。いや、5mほど離れた位置からいきなり霊波砲を撃ってきた。

「霊波攻撃!?」

 驚いたピートが自分もダンピール・フラッシュで迎撃する。2つの霊波弾が空中で激突して、大きな爆音と派手な爆煙をまき散らした。
 それで男たちの視界が遮られた隙に、女性がピートの腕を取って走り出す。しばらく走って人影の少ない裏通りに入ったところで足を止め、荒くなった呼吸を整えた。

「危ないところをありがとうございました。あなたも霊能力者なんですね」

 女性がピートに深々と頭を下げる。礼儀正しい態度だが、この台詞から考えるに彼女はピートの実力を察した上で助けを乞うたわけではないようだ。
 もしピートが一般人だったら黒服にぶっ飛ばされていたのだが、まあその辺は王道とかお約束というものなのだろう。
 ピートが追われていた理由をただすと、女性はさすがに表情を引き締めて、

「私は白麗といいます。さっきの連中はオカルト犯罪結社『嘘八百』の殺し屋なんです」
「オカルト犯罪結社、ですか……」

 しかも殺し屋とは。ピートは背筋に冷や汗がひとすじ伝うのを感じた。

「はい。GSだった父がその活動を察知して組織に戦いを挑んだんですが、仲間の裏切りに遭い、私にこのディスクを預けて行方不明になってしまったんです」

 そう言ってポーチから1枚のフロッピーディスクを取り出してピートに見せる。おそらくはすでに殺されているだろう父の面影を思い出したのか、白麗と名乗った女性の表情は重く沈んでいた。
 しかしすぐに気を取り直して説明を再開する。

「何とかこれを信頼できる当局に引き渡したいのですが、香港ではどこに組織の手が伸びているか分かりません。できれば日本のGS協会に渡したいんです」

 そういうことならピートに彼女を見捨てる理由はない。一緒に戦ってくれとか言われたらさすがに困るが、唐巣にFDを渡すだけで済むのだからお安い御用だ。

「分かりました。僕自身は見習いですが、僕の先生は日本でも高名なGSです。きっと協力してくれると思いますよ」
「あああっ、私ったら私ったら、何ってツイてるのかしらっ!?」

 確かにこれは宝くじで1億円当てるより確率の低い遭遇だろう。白麗がぱーっと明るい笑顔で感動を表明する。
 だがそれを簡単に許すほど組織とやらは甘くなかった。
 警告もなく2人の足元にエネルギー波がぶち当たる。いや、2人がとっさに飛びのかなければ足をやられていただろう。
 ピートと白麗がそちらを見上げると、目の前の5階建てくらいのマンションの屋上に1人の女性が立っていた。ライダースーツのような服を着て、頭部のほとんどをヘルメットで隠している。言うまでもなく、「嘘八百」の殺し屋だ。

「ムダよ、おたくたち組織から逃げられると思ってるワケ?
 いえピート! あんたのことは好きだったけど、その女に手を貸すなら死んでもらうしかないワケ!!」

 その言葉とともに女性の全身が強く輝き、さっきとは段違いに強烈な波動が放たれた。ピートはとっさに白麗を突き飛ばすと同時に跳躍してその攻撃を回避する。
 いったん3階の壁を蹴って加速し直し、一気に屋上まで躍り上がった。両腕を水平に開いて宙を翔けるその姿は、さながら地表すれすれを飛びかうツバメのようだ。

「武羅怒式除霊術奥義、水鳥天舞ーーー!!」

 ありていはバンパイアハーフの飛行能力なのだが、初対面の相手の前で空を飛んで見せるのは問題なので、霊術によるハイジャンプという体裁にしたのである。中国拳法の達人には似たようなエピソードがあることだし。

「なっ……こんな高さまで跳んで来るなんて!?」
「残念です。あなたが霊能力を悪用して殺し屋をやっていただなんて……!」

 ピートが空中で体ごと回転して、サッカーのオーバーヘッドキックのような蹴りを女性の肩口に決める。不意を突かれた殺し屋はそれをまともに食らって声もなく倒れた。
 だが彼女は囮に過ぎなかった。ピートが屋上でひと息ついている間に、地上では最初に現れた黒服の1人が白麗に追いついていたのだ。しかし今度はいきなり攻撃しようとはせず、サングラスを外して声をかける。

「鬼ごっこはここまでだ。命が惜しかったらおとなしくディスクを渡すんだな」
「あ、あなたは……! ヤン、あなたがどうして?」

 どうやら知り合いだったらしい。青ざめた白麗が詰問するが、ヤンと呼ばれた男は自嘲気味に軽く首を振って、

「今さら話すことはねえ。ディスクを渡す気がないのなら……死ねっ!!」

 男が身構えてハーッ!と息吹を発すると、その全身が悪魔のようなおどろおどろしい姿に変貌した。恐怖に身をすくませる白麗。

「白麗さん! 今いきま……!?」

 ピートは慌ててマンションから飛び降りようと足に力をこめたが、背後から炎のような殺気を感じて反射的に振り向く。
 その視線の先には、着古した青いGジャンとGパンに身を包んだ一見さえない少年が立っていた。だが状況から言って彼も「嘘八百」の殺し屋、決して油断していい相手ではない。
 その証拠に、少年の右拳はオレンジ色の不思議な光芒を放っているではないか。

「ピート貴様……外国でまでこの不可解なほどのモテっぷり、もはや許せん。天と地としっ○マスクに成り代わって、この俺が成敗してくれるわ!!」

 少年は深い怒りに顔を歪ませていたが、あふれる激情はそれだけでは発散しきれなかったらしい。右手のオーラがさらに輝きを強め、しかも拳だけでなく腕全体、肩の辺りまで広がっていく。そのすさまじいパワーは半吸血鬼であるピートに生命の危機を感じさせるほどだった。

「刻んでやる! 俺の、この俺の怒りをッ!!」
「な、何なんですかあなたはーーっ!?」

 獣のように飛びかかってくる少年から必死で逃げ回るピート。相手が白麗を狙った殺し屋なら彼もためらわずに戦えるのだが、どうも毛色が違うので戸惑っているのだ。これが少年の策だとしたら、歳に似合わぬ知略派だと言えるだろう。
 一方白麗も苦戦していた。隠し持っていた父の形見の霊剣を振り回しているのだが、しょせんは素人。素手とはいえ殺し屋にかなうわけがない。
 それに一瞬気を取られたのがピートの敗因になった。体ごと飛び込んで来た少年の右拳がもろに顔面にめりこむ。

「ぐふっ……う、うわあぁーっ!!」

 その勢いでピートが床を踏みはずして外に落ちた。殴られたダメージが深いのか身動きもできないようで、そのまま地面に落ちれば即死は免れないだろう。

「ピ……ピートさん!!」

 白麗はその場面を見るにたえず、思わず目をそらした。彼はもともと無関係だったのに何てことをするのか。いや、その部外者を巻き込んでしまった自分の身勝手さにも激しい憤りを覚えていた。

「よ、よくも……よくも私を助けてくれたピートさんまで!!」

 今まで逃げ腰だったその両目に闘志の輝きが宿る、と同時に白麗の全身から白い煙のような霊気がほとばしった。

「……! 眠っていた力が目覚めたのか……!?」

 その気迫と霊圧にたじろいだヤンが1歩退く。何だかヤバいことになってきたようだ。
 白麗が振り上げた霊剣がまばゆいばかりの閃光に包まれる。

「許さない……あの世で父さんとピートさんに詫びなさいっ!!」

 振り下ろした霊剣から放たれた光の衝撃波がヤンを吹っ飛ばし、ビルの壁にたたきつけた。ヤンはそのままずるりと座り込んで身じろぎもしない。もはや死を覚悟したかのようだ。
 しかし白麗は気づいていた。彼は今の一撃をかわそうとせず、わざとまともに受けたのだということに。

「ヤン、あなた今わざと……?」

 白麗が駆け寄ってそう訊ねると、ヤンはうつむいていた顔を重そうに持ち上げた。その口元から赤い血が大量にこぼれ落ちる。
 その血をぬぐおうともせず、ヤンはガキ大将のような目で白麗を見上げた。

「ぐはっ……だ、誰がそんなことするかよ。ケンカ別れした元師匠に立てる義理なんざねえ。
 た、ただあのころ……あんたが作ってくれたメシは……う、美味かったから、な。お、俺は力に溺れて落ちぶれちまったが、あんたならき、きっと、が、ふ」

 ヤンの頭ががくりと落ちる。こと切れたようだ。

「ヤ、ヤンーーーー!!」

 白麗がその顔をかき抱いて慟哭する。服が血で汚れるのも構わずに。
 やがて泣き止んだ白麗はゆっくりとヤンの体を路面に横たえると、決意にみちた眼差しで天を睨んだ。

「『嘘八百』……絶対に許さない!!」


「カァーーーットォォ!!」

 釣り師が座るような折り畳み式の椅子に腰掛けたひげ面の中年男性がメガホン越しに声をあげる。なんと、今までの死闘はすべて映画の撮影だったのだ。
 死んだはずのヤンも何食わぬ顔で起き上がって、どこからか取り出した色紙を手に白麗にサインをねだっている。
 だがそんなヤンに横から怒鳴りつける男がいた。

「くぉら雪之丞ーー! てめー落ち込んでると思って気を使ってたのに、ずいぶんと余裕があるじゃねーか!!」

 ピートを屋上から突き落とした少年の役をしていた横島である。
 もともとはメドーサと戦った日の夕方、外出から戻った雪之丞に「映画のエキストラ、というかスタントをしてみないか?」と言われたのが発端だ。それで少しでも彼の気がまぎれれば、という理由で横島たちは承諾したのだが、当の雪之丞がやけにミーハーなことをしているのが気に障ったのである。
 ちなみに鬼道は教師の仕事を休んで来た身なのでとっくに日本に帰っているし、タマモは目立つことは避けた方がいいので出ていない。

「う、うるせー! 俺はいつまでもうじうじしてるのは性分じゃねーんだよ」

 もちろんそれが雪之丞の本心であるかどうかは分からない。あるいは自分を鼓舞するために、無理して明るく振舞っているだけかも知れないのだ。しかしもしそうだったとしても、横島の態度は決して間違いではないであろう。

「そりゃおまえはカッコいい役だからいーけどよ、俺なんかいいとこ1つもねーんだぞ? 次のシーンなんて白麗ちゃんとピートにボコられるだけだし。ちくしょー、俺にも白麗ちゃんとの絡みのシーンやらせろ! これでギャラが同じなんてどー考えても不公平だ」

 悔しさのあまり監督に詰め寄ろうとした横島だが、それはカリンに後ろから耳を引っ張られたのでできなかった。

「その辺にしておけ。外国まで来て恥をさらすな」

 さっきまで白麗が持っていた剣を肩の後ろにしまいながらため息をつくカリン。
 最初に彼女が持っていた剣はただの模造刀だが、ヤンを倒すときに使ったのはデザイアブリンガーなのだ。カリンが横島の後ろから抱きついて背中に胸をすりつけることで出力を上げてやったのである。

(まったく、何で私がこんなことしなきゃいけないのか)

 とカリンはぼやいていたが、彼女から数メートルほど離れた位置で話をしているエミと監督は彼女とは対照的にかなり上機嫌だった。

「いやあ、皆さんのおかげで迫力のある絵が撮れましたよ。SFXなしでここまでやれちゃうなんてね」

 と手放しで褒める監督に、エミがフッと笑って髪をかき上げてみせる。

「まあ一流を名乗るGSならこの位できて当然なワケ。令子みたいな大根には無理かも知れないけどね。ホーッホホホ!」

 彼女にとってスタントのギャラなど微々たるもので、それでも出演を引き受けたのにはこんな裏があったようだ。この映画が日本で公開されたあと、丁々発止の口ゲンカがまた始まるのだろう。
 ちなみにそのとき横島とピート、雪之丞の間でもずいぶんと醜いケンカが起こったらしいが、それはまた別のお話。


 ―――つづく。

 香港編おしまいですー。
 女優さんとは仲良くなれませんでした。霊障とか事故とか起こすと某大作と同じ展開になっちゃいますしねぇ。
 次はしずもん……かな??
 ではレス返しを。

○零式さん
>キ○タマンににてる
 そんなこと言ったらタマモに燃やされますよ(ぉ

○黒覆面(赤)さん
 別の作品へのレスではないかと思います……って、もう突っ込み入ってますね。

○いしゅたるさん
 はじめまして、よろしくお願いします。
 私の拙文に影響を受けたところがあるなどと、恐縮の至りでございます。特にシリアスに決めてるなんて仰られると(^^;
 いしゅたるさんの作品は意表を突かれる所が多く、面白く読ませていただいております。
>ヨコタマン
 会心のネーミングですから(ぇ
>勘九郎と陰念
 いろいろ考えましたが、最終的にはああいう形になりました。勘九郎はともかく陰念は哀れすぎたかも知れません(^^;;

○名称詐称主義さん
>ハーピー
 はい、強力な味方のはずが実は獅子身中の虫だったわけです。
 彼女はメドーサの部下じゃなくて同盟者ですから、勘九郎と一緒に死ぬ義理はなかったのです。
>ユッキーの立場
 法律には詳しくないのですが、彼自身が直接悪事を働いたわけではないので、そう重い罰にはならないと思うのですよ。日本は中国と犯罪者引渡条約を結んでないのですが、代理処罰で日本が裁判をするとしたら、たぶん執行猶予がつくのでは。つくということにしました<マテ
>唐須神父のところの弟子3号?
 そうなんですよねぇ。GSとしての実力はGS試験で証明されてますが、身元引受人はいないわけですから。
 その辺は先をお待ち下さいー。
>清算
 タマモの本心が明らかになるのはもうちょっと先です。

○読石さん
>陰念
 せめて来世はいい所に生まれるように筆者も祈っております<超マテ
>人弧一体は横タマの相性(愛情?)が、強くなればなるほど強くなれそうなので
 はい、まさに愛のなせる技ですから。

○通りすがりのヘタレさん
>カオスとマリア
 そもそも来日すらしてませんからねぇ(酷)。
 GS美神は登場人物が多いので、筆者の腕では捌き切れないのです○(_ _○)
>先が長いことを考えれば、むしろこの終わり方こそしっくり来るのか
 そう思っていただければありがたいです。
>この話ではヨコタマンを手に入れた(マテ)横島
 使うたびに金銭的な代償を支払う必要がありそうですがw

○whiteangelさん
>横島って、どんな時も煩悩(セクハラ)が最優先なんだね
 それでこそ横島ですから。
 彼の煩悩がなくなったなら、宇宙意志が令子辺りを脱がせてでも復活させようとするでしょうw

○遊鬼さん
 筆者は基本的にギャグで軽い傾向の話を書く人なんですが、たまには違ったものも書いてみようかと。
 勘九郎は死ぬ覚悟決めてましたからまだいいとして、やはり陰念は可哀そうでしたかねぇ。
 ユッキーは少なくとも表面的には立ち直ったようです。

○TA phoenixさん
 香港編は思ったより長かったです(^^;
>勘九郎と陰念
 はい、あの段階でメドーサの部下でいた以上、普通の社会復帰は本人も考えていなかったかと思います。
 ハーピーの行動は我が身可愛さもありますが、人間ごときの思惑に巻き込まれたくなかったというのもありますねぇ。メドさんの同盟者ですから、勘九郎はある意味格下に当たりますし。
>勘九郎はメドーサの強さに心酔し過ぎたのだと思います
 そうですねぇ、それが過ぎて人の道どころか人間を辞めるハメになってしまったのでしょう。
>カリンとタマモ
 カリンはもともと物語の主人公の1人なのですが、タマモがここまで強くなるとは出した頃には想像すらしてませんでした(^^;
>生き返ったおキヌちゃんや魔鈴さん
 は、筆者もお二方にはさらなる活躍を期待しております。
 期待してはいるのですが○(_ _○)

○KOS-MOSさん
>人狐一体
 通学なんかで使ったら横島君がしっ○マスクに殺されますがなw

○あきさん
 人狐一体は単にタマモが羽根つき胸甲に変化してるだけなので、攻撃を受ければ普通に傷つきます。
 説明が不足だったようで申し訳ないです。

○ncroさん
 やはー、ハーピーに援軍がつくとはうれしい限りでございますですm(_ _)m

○kamui08さん
 アシュ編のかっこいい横島なら神父も文句ないんでしょうけどw

○内海一弘さん
>妙に笑える名前ですね
 何となく2人の本質を示してるような気がするのですよ<マテ
>勘九朗と陰念
 火角結界使うのに事前確認するわけにもいきませんからねぇ。
>映画編
 前作では割愛したので書いてみましたー。

○とろもろさん
>というか、ヨコタマンだから、そんな状態になったと言うのかな?
 メドーサ組は意志疎通がなってなかったのが敗因でしたかねぇ。
>陰念
 どちらにしても即死ですから、そんなに痛くはなかったかと(酷)。
>ご褒美
 結局決定権はタマモにあるという、何とも立場の低い横島君でしたw

○KEIZUさん
>それと共に納得もできました
 そう言っていただけて筆者も胸を撫で下ろしてます。
>ヨコタマン
 鋭意努力いたしますm(_ _)m
>次はシリアスが続いたのでギャグメインですかね?
 はい、もともとこの物語はライトギャグですから(?)。

○kouさん
>人が死んでしまった事
 そうですねぇ、唐巣やエミはともかく横島はショックを受けたようです。
 成長とまではいかなかったようですが(^^;
>地上はカリンで自分はタマモと合体して上から符で爆撃
 飛べない相手に対しては絶対的に有利ですねぇ。
 ただバイト代よりタマモへの報酬の方が高いかも知れませんw
>符の中の力は元々横島の物ですからそれを電池代わりに使う若しくは、その為の符を作って術を使うとか
 うーん。霊的防御はともかく、攻撃に回すほどの補充はむずかしそうです。それだけのお札をつくるのも大変そうですし。
 でも横島君が成長すればそうした発想もするかも知れませんねぇ。
>オカマ退場
 もとはと言えばメドさんが黙って逃走したせいなんですよねぇ。
 もっと部下に気遣いしてれば勝てたかも知れないのに(ぇ
>陰念
 彼には冥福を祈るしかないです○(_ _○)
>風水盤破壊
 メドーサが小竜姫を倒して戻ってくる可能性があった段階では、アジア魔界化を防ぐには風水盤本体を壊す以外の方法はなかったのですが、敵を全員倒したのなら針だけ取っ払えば済むことで、確かに本体は壊さなくても問題ありませんねぇ。
 しかし唐巣から見れば風水盤なんぞ悪魔の道具ですし、特に思い直すこともなく最初の方針のまま行っちゃったわけですね。これは軽率と言えるかも知れません。
 しかしこの事件の詳細は一般公開はされないでしょうから、抗議とかは来ないものと思われます。仮に来ても「全人類のためにあえて壊した」と言えば先方もそう強くは出られないかと。メドーサもまだ生きてますし。
 小竜姫さまは状況が変わる前に敗退しているので、そちら関係のお叱りはありません。そちら関係ではw
 まあデタント壊しかねないアイテムなので、むしろ積極的に壊せと言ってきた可能性もありますが。
>ハーピーの行動
 そう言っていただけると安心します。
 愚かだったのは、いきなりムチャクチャなことされたので頭に血が上ったからでしょう。
>しずもん
 次回書く予定ですー。
 美智恵さんは……ネタバレ禁止事項です。ただおキヌを見殺しにしたら周囲の白眼視は必至でしょうねぇ。
>カリンのアクション
 すいません、今回はできませんでしたm(_ _)m
 横島が霊能使う時は出られない上に、角が生えてるので人間キャラとしては使えませんし○(_ _○)
 何かネタを思いついたら書いてみたいと思います。

   ではまた。

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