四話『びるどあっぷ・すもーるだうん』
「なあ、横島君」
ツナギの作業着姿の優太郎は訊ねた。
「どうした芦?」
答える横島は白いシャツにニッカボッカ。
お互い、工事のおっちゃんスタイルである。
「最近、こういう目に遭うの多くない?」
「だな・・・・・・」
ピッケルを振り下ろしながら横島は頷いた。
ことのきっかけは除霊にドジッた令子が霊能力の底上げのために妙神山に登ったことがはじまりである。
まあ、ぶっちゃけると修行の際、いつものノリで暴れていたのがいけなかった。
妙神山の管理人、小竜姫の逆鱗についうっかり触れちゃって、龍に変化した小竜姫が大暴走。
その暴れっぷりは特撮怪獣映画顔負けであったと優太郎は思う。
何とか暴れる小竜姫を止めたのはいいが、修行場は半壊。
令子が修復の手配をすることでそこは治まったのだが。
優太郎と横島はバイトと壊した償いも兼ね、妙神山再建のお手伝いをしているのだ。
「兄さんがたも大変やな〜」
ふよふよと弁当を運んでくる二頭身の噺家みたいな格好の物体。
ある意味小竜姫を暴走させた原因である、横島の霊能が実体化した影法師(シャドウ)。
横島シャドウである。
本来自意識をもたないはずのシャドウだがどういうわけか横島シャドウは自我を持っていた。
しかも本体以上に欲望に忠実であり、極めてスケベである。
なぜか今も実体化し、工事に参加している。
「ああ、もうお昼の時間か・・・・・・ありがとうヨコシャド君」
「おう芦の兄い、今日は幕の内弁当やで」
やたらとノリのいい横島シャドウ。
優太郎は略してヨコシャド君と呼んで仲良くしている。
「おいシャドウ?俺の弁当は?」
「ほれ、さっさと食うて、すぐに仕事しいや」
「ち、なんか俺の扱いひどくね?」
本体をないがしろにするシャドウになにかしっくりしないものを感じる横島。
物怖じしない性格の横島シャドウは工事のおっちゃんや小竜姫、優太郎にはやたらフレンドリーに接するが、本体の横島に関してはかなりぞんざいに扱う。
ぶつぶつ、横島はもう少し本体に敬意を払えと呟きながら弁当をパクつく。
「ふ〜、労働の後の食事は美味いなぁ」
薬缶から麦茶を直接飲みながら、優太郎は呟いた。
土建屋生活一週間、ずいぶんと優太郎も馴染んだものである。
「あ、横島さんに芦さん、どうもお疲れ様でした」
修行場完成の労いに小竜姫は声をかける。
「おお!小竜姫様〜〜〜!!」
小竜姫の声に横島が反応し、すぐさま飛びかかろうとする。
「やめい!折角作り直した修行場を壊す気か!」
ゴメスッ!
令子譲りの落下式エルボーを横島に下した優太郎。
顔面が岩にのめりこんでいるが横島なら3分もあれば復活するだろう。
優太郎は爽やかに額の汗を拭いながら、
「で、何か御用ですか小竜姫様」
礼儀正しく訊ねる。
見た目は20代前半の美少女だが、実際はかなり格の高い武神様だ。
逆鱗に触れさえしなければ真っ当な性格ではあるが。
ある程度オカルトを齧っている優太郎はそれ相応の態度で接そうと心がけている。
「いえ、単純にお礼を言いに来ただけですので。そう緊張しないでください」
「いえ僕はただ単に、きちんと礼儀正しくしようとしているだけなので・・・・・・そこの横島君とは違って」
まだ地面に倒れている横島に視線を落す。
どんな立場の存在にたいしても、美人か美人でないかの基準だけで行動する横島もある意味大した者だと言えるのだが。
小竜姫も苦笑して横島を見る。
「この少年も随分な変り種のようですね。私も長いこと生きていましたが、このような人間を見るのは初めてです」
「そうですね。横島君みたいな人間は世界中廻っても彼だけしか存在しないと思います。いや、歴史上彼の他に存在していないかもしれません」
何気に酷いことを言う優太郎。
まあ、横島ほど煩悩に忠実な存在はいないだろうとかねてから考えていたのも一因である。
「横島さんもアレさえなければいい人なんでしょうが・・・・・・」
「そーですねー」
横島を肴に世間話の花が咲く。
話は横島と優太郎が関わった除霊から、その身辺の話にシフトしていく。
「で、横島君の時給が255円なんですよ・・・・・・」
「う〜ん、私には今の通貨の価値が分からないですね。江戸の通貨ならいくらぐらいですか?」
「江戸時代ですか・・・・・・せいぜい4〜6文くらいですか。雇うほうも雇うほうですが、雇われるほうも常軌を逸してますね」
「江戸時代の丁稚奉公より安いんじゃないでしょうか?」
「たぶん・・・・・・美神さん生粋の守銭奴だから。案外、この工事も経費を浮かせてるかもしれませんよ。建築費かなんかケチって・・・・・・」
その言葉は笑えない。
笑顔が一瞬で凍りつき、優太郎と小竜姫は渋い顔で互いに頷きあった。
「工事の後で不備が見つかったらすぐさまご連絡ください」
「・・・・・・よろしくお願いします」
泣きそうな表情で小竜姫頭を下げた。
「ふぁぁぁ?イッテーぞ芦!」
起き上がった横島は小竜姫と談話している優太郎に詰め寄った。
頭を叩かれて、今まで気絶していたらしい。
優太郎は悪気無く横島に言う。
「また調子に乗って逆鱗にでも触れたらどうする気だい。もう美神さんはいないから、小竜姫様が暴走しても止められないんだぞ」
「逆鱗に触れなきゃいいんだろーが!」
「その前に女性を見たら飛び掛る癖を直せー!」
「無理や!」
「言い切るな〜!」
まるで兄弟喧嘩のようにポカスカと叩き合う二人。
しばらく不毛など突きあいがつづくが。
「もらった!!」
「なんとー!?」
優太郎が横島の背後に回りこんだ。
喚く横島をキャメルクラッチで締める優太郎。
しばし、横島がジタバタ足掻くが。
「巨星、墜つ・・・・・・」
ごきゃっとひどい音が妙神山に響いた。
「じゃ、お二人ともお元気で・・・・・・」
修復された妙神山の門の前まで見送りに出てくれた小竜姫。
今日で修行場の建て直しが終わり、工事の人たちはとうに撤収している。
最後まで残っていたのは優太郎と横島である。
「ああ〜小竜姫様。僕と一夜の熱い抱擁を〜〜〜!!!」
荒縄で市中引き回しの罪人の如く縛られた横島。
縄を振りほどこうとするががっちりと縛られ解けない。
「この阿呆。妄想ばっか言ってないでさっさと東京に帰るぞ・・・・・・僕は神仏戦隊仏○ンジャーのビデオを見なければならないんだから」
「勝手に一人で見てろよ!?」
「仏○ンジャーを馬鹿にするのか!?それに君を残しとくと小竜姫様が迷惑するだろうが」
優太郎が縄をを引っ張って横島を歩かせる。
「小竜姫様〜〜〜」
「達者でな〜芦の兄い〜あのボンキュッポンのねーちゃんにもよろしゅうなぁ」
叫ぶ横島に横島シャドウが扇子を振って見送っている。
なんでも抜き出した霊力が意外と多かったらしく、本体(マスター)が居なくてもあと2、3日は現界できるらしい。
スキル単独行動Aでも持っているのだろうか?
「さぁ、帰ろうか」
「いやじゃぁぁぁ!!!小竜姫様とあ〜んなことやこ〜んなことを・・・・・・ぶべらッ!?」
妄想を叫んでいるところに小竜姫の投げた神剣の柄が横島の頭へと直撃した。
「ふぅ、事務所についたぞ横島君」
跨っていた大型バイクから優太郎は降りる。
「くっそ〜しがみつくのが美人の姉ちゃんなら文句ねぇのにぃ!」
「・・・・・・電車賃がもったいないからって僕を呼び出しといてその言い草はないだろうが」
ぼやく横島に文句を言う優太郎。
妙神山から帰還した二人は一夜明けてから事務所に顔を出すことにしたのだ。
自前で交通手段を持っている優太郎は事務所に来るついでに横島を拾ってきたのである。
薄給ゆえ電車賃すらままならないことのある横島を哀れんでの行動だったが。
「この馬鹿。人が折角、交通費節減してやってるのに。タクシー代とろうか?」
「いえ、芦様々でございます!なにとぞこれからも御バイクに乗せていただきとうございます」
怪しげな尊敬語に軽い頭痛を覚えながら優太郎は横島と共に事務所に入った。
「おはようございます」
「ちーっす!」
二人は朝の挨拶を言い、いつもならおキヌが挨拶を返してくれるのだが。
「ああ、ユータローさんに横島さ〜ん!?」
おキヌが慌てた表情で横島に抱きついた。
良く見れば涙さえ浮かべている。
「え、あ、一体どうしたのおキヌちゃん?」
突然、抱きつかれてうろたえる横島。
セクハラで女性に抱きつくのは慣れていても、抱きつれるのは慣れていないのである。
おキヌの頭を擦りながら訊ねる。
「あの・・・・・・美神さんは?」
その言葉と共に、所長室の扉がキィっと開く。
「お〜、ゆーたろーによこちま〜!」
一人の幼女がテトテトと横島に近づく。
おかっぱより少々長い赤毛、整った顔立ち。
そしてどこか雇い主に似た容貌。
優太郎は信じられない物を見たかのように驚愕した顔でおキヌの訊ねた。
「え〜と、このどこかで見たような、一見可愛らしいけど将来金にがめつく、タカビーでドSになりそうな少女は誰だい?」
信じたくない言葉がおキヌから語られる。
「・・・・・・美神さんです」
優太郎と横島の目の前は真っ暗になった。
東京都、とあるマンションの地下。
旧日本軍が掘った大規模な防空壕の跡地。
数百メートルもの膨大な空間には様々な機材が運び込まれ、一部は居住スペースとして改装されている。
「おい、マリア。そのスパコンは左の端末に接続したまえ。テレサは演算装置と量産機用の機材を持って来い」
カオスは二人の助手に指示を飛ばす。
マリアはコンピューターらしき物体を抱え、テレサは機材の詰まった箱を運搬している。
その後ろでは自分の寝床を作っているヴラドー。
棺桶のベット、隣には14インチのTVとDVDプレイヤー。
その脇には小さい本棚と冷蔵庫。
棺桶の中には最高級羽毛枕と布団。
目覚まし時計が棺桶の上に載っているのはご愛嬌だ。
居住スペースをせっせと整えているのは黒髪の男と金髪の女。
男の方はそういう工事に手馴れているのかやたらと手際がいい。
ガス管やら水道管、電気系統の機材をいとも簡単に照り付けていた。
女は男の指示に従ってレンチだのドライバーだのを手渡している。
「・・・・・・ん?」
台所の設営を行っていた男は何かに気づいたように頭を上げた。
その様子に女は訊ねた。
「どうしたの?」
「・・・・・・まずいな。俺の予測(スケジュール)より3日ばかり早いぞ」
その声に気づいたのかカオスが男に聞いた。
「もしや、彼奴が動いたのか?」
「ああ、張っておいた結界に引っかかった。しまったな。あれを手に入れなければちょっと不味いのに」
男の焦りに女も眉を潜める。
「でも、今の時点であなたが動くのは不味いんじゃないの?奴の目に留まるのはまだ・・・・・・」
「なら、私が行こう」
マントを羽織ったカオスが頷く。
愛用の魔銃を握り、仕込み杖をマントの中に収めた。
「フライヤーを使うぞ。だがマリアとテレサは機材の設置のため置いていく」
「大丈夫か?あの二人がいないとなると少々辛いだろう」
男の言葉に不敵に笑うカオス。
「私を誰だと思っているのかね。私こそ北欧にその名を轟かせた『ヨーロッパの魔王』Drカオスだぞ。
なにも心配することはない。任せておきたまえ」
はっはっはと笑うカオスを見てヴラドーは呟いた。
「肝心な所でポカするのがあやつの欠点なのだがなぁ・・・・・・」
あとがき
妙神山でのバイト生活の巻〜。
優太郎と横島の間には兄弟の絆にも似た友情が芽生えております。
始めの予定ではここで優太郎の霊能が開花するはずでしたが。
能力開花はもう少しあとということで。
次回は初めての強敵パイパー編。
次からはある物を求めてピンでカオスが動きます。
カッコいいマッドサイエンティストはお嫌いですか?
レス返し
SSさん
個人的に若カオスはクールで知的な男だと思ってます。
老カオスはおちゃめで風格ある男だと思います。
このSSでは根源を追求する錬金術師的な存在の予定。
・・・・・・もちろんあとで壊しますが。
レイジさん
実はあの存在は不完全ながら生きてます。
そのため、謎の二人組みの一団は第三勢力になります。
次回は闘う錬金術師登場!
ZRさん
某所のSSはパソコンのデータが飛んだのでしばらくはこちらのをメインに更新します。
一応某所のSSはプロットだけは残ってるので書く気はあります。
スケベビッチ・オンナスキーさん
まあモロバレの二人組みですが(笑)
実はテレサの存在は結構重要な存在だったりします。
後々、それこそ世界を変える程重要に。
ZEROSさん
・・・・・・いや〜実は三話のタイトルがそれの予定だったり。
私のデンパが伝播した?
あとヴラドーは実は復活したてでそこいらのヘッポコ吸血鬼よりまし程度の魔力しかなかったりがあっさりと負けた理由です。
その根拠は聖なる力に目覚めていないピートとほぼ互角の戦いしかできなかった原作です。
真祖と言うからにはGSのヘタレの代名詞のピートくらいあっさり倒せそうです(マテ!
内海一弘さん
歴史改変は結構前から進んでいます。
具体的には700年前の地獄炉事件からカオスは第三勢力に取り込まれていたり。
ある物の作成のためカオスが引き抜かれました。
そのうち本編中で中世編をするのでお楽しみに。
azumaさん
ヴラドーが謎の二人組みに協力する理由が愛した者を亡くした故にだったり。
第三勢力はまさしく敵だったり味方だったりします。
メリットがあれば魔族と組んだり神族と組んだり、GSの手助けをしたり。
最終的には全てを敵に廻しますが。