約一ヶ月前
犬神族 隠れ里
蝋燭の灯りが、ゆらり、ゆらりと揺れている。
寝所の布団には、小さい子供が静かに眠っている。
その顔色は、既に精気を失っており、蒼白。
元々は炎のように紅い髪だったのだろう、その髪は、所々色素が薄れ、白くなっていた。
その幼い命は、失われかけていた。
「……、ううむ、今日、明日が峠じゃろう、しかし、越えることが出来たとしても、此処までの症状は聞いたことが無い、
何かしらの障害が残る可能性がある、犬塚よ、覚悟をしておけ」
白衣を着た初老の男は、呆然と立ち尽くす、父親、犬塚タロウに声をかける。
「…………長老、助かる……、助かる方法は?」
「……、人狼としての生命力……、それに賭けるしか……」
そのまま言葉を濁す。
「…………」
唇を噛み締める、握り締めた拳からは血が滴り落ちる。
「……、一つ」
「一つだけじゃが……、無い事も無い」
「!?」
「天狗、天狗の霊薬さえあれば……」
「天狗の……、霊薬……」
草鞋をきつく縛り付ける。
ぎゅ、ぎゅ、と、踏みしめると、脇に置いてあった編み笠を手を取り、立ち上がる。
暗い夜道を音も無く歩く。
時間は、余りに少ない。
タロウは、焦りが腹から這い上がってくるのを感じた。
掌は汗で濡れ、呼吸は乱れている。
娘の看病で疲れきった身体に鞭を撃つ、今が自らの生涯を賭ける時だとでも言うかの如く。
その時、タロウの前に立ちふさがる者がいた。
「……犬飼」
その者は犬飼ポチ、タロウの幼馴染にして、好敵手である。
「犬塚よ、行くのだな?」
「うむ」
「貴様と拙者の勝負は、決着しておらん」
犬飼が、ぎり、と、歯を噛み締める。
「勿論、拙者とて死ぬ気で行くわけでは無い」
「では、決着は」
「うむ、その時に……」
タロウは前を見据える。
「シロよ……、父が、父が必ず助ける!」
と、その時である。
夜であった筈の、空が明るい。
「!?こ、これは!?まだ、明けるには早い筈だ!」
「!?犬塚!あれを!!」
犬飼が空を指し示す。
そこには、天まで伸びるような光の柱。
あの方角は……!?
「シロ!!」
タロウは我を忘れて我が子の元へ向かった。
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
十八話
あれから一ヶ月。
森に二人の男女、男は着流しに二本差しで、武士の様相を呈していた。
女は年の頃、15、6程であろうか、女、と言うよりは、少女と言った方が正しいかもしれない。
前髪は燃える様に紅く、後ろ髪は、透き通るような長い銀色、さらさらと光を跳ね返し、輝いている。
眉はキリリ、と、意志の強さを表すように切れ上がり、瞳は力強く光を湛えている。
スラリと通った鼻筋に、淡く色付いた唇、美少女である。
身体は少女と言うには余りにも成熟し、色香が体から滲み出るようだ、しかし、それを淫靡にさせないのは、この少女の健康的な笑顔と、「もののふ!」と書かれたTシャツの所為に違いない。間違いない。
しかし、十人に聞いたら、十人が美人と答える、そんな美少女だった。
「シロよ、本当に行くのか」
「父上、拙者、己の力を試してみたいのでござる、それに、きっと世界には拙者を必要としてくれる御仁がいる筈でござる」
シロと呼ばれた少女は、目を輝かせて、父、タロウに夢を話す。
「そして拙者は、必ず、必ず、でっかい女になるでござる!」
ギュ、と、拳を握り締めるシロ。
ざっぱ~~ん、一瞬、日本海の荒れた海が見えた気がした。
「シ!シロよ!!」
タロウは娘の拳を覆うように握る。
感動したのか?
「父上~~!!」
「シロよ~~!!」
抱き合う二人。
ざっぱ~~ん、やはり日本海の荒れた海が見えた。
「見るのだ、シロよ!」
シロの肩に手を回したタロウが、空を指差す。
「ち、父上?」
シロが空を仰ぐ。
「あれだ、あの星だ……、御主はあの星になるのだ!人狼の星に……!」
「ちちうえぇぇ~~!!」
ちなみに、今は昼だ、星など見えない。
一ヶ月前、光の柱に慌てて帰った、タロウが見たものは、奇跡としか言いようが無いものだった。
家の前に着いた時、既に光は収まっていた。
タロウはシロを寝かせてある寝所に駆ける。
玄関の引き戸を「ええい!じれったい!」と一刀両断。
草鞋を脱ぐ事は忘れなかったが、「くわ~~!!こ、この!結び目が!!」と、草鞋を駄目にした。
襖など、何するものぞ、「きぇぇぇぇい!!」と、気合を飛ばし、吹き飛ばす。
「シロォォォォォォォォ!!」
がばぁ!!
娘の安否を確認するために、布団を剥ぐ。
絶句。
そこには幼い娘ではなく、若い娘がいるではないか。
長い銀髪、赤い前髪。
匂いは愛娘、シロの物であるが……、シロを産み落としてこの世を去った、妻の匂いでもあった。
この娘は、いったい?
!?もしや……?
一つだけ、思いついたことがあった。
超回復。
人狼の、娘の生きようとする力が、きっと奇跡を起こしたに違いない!
タロウは一人、涙した。
そして……、
「ぶふっ!?」
タロウは血を噴いた。
鼻から。
シロは床に伏せっているとき、浴衣を着ていた。勿論子供用だ。
それがいきなりぐんぐんと成長したのだ。
身体は大きくなり、手足は伸び、胸や尻は膨らんだ。
子供用の浴衣には堪えられるはずの無いボリュームだったのだ、勿論、肢体は浴衣の外へ零れてしまう。
熱が出ていたその身体は汗ばみ、長いその銀髪が、汗で肌に吸い付く姿は、何とも言えない艶やかさだった。
それを、それをである。
妻に先立たれ、後妻も無く、常にストイックに生きてきた男が見たら如何なるか?
つまり、鼻血で気絶しても、それは必然であったわけである。
「犬塚!!シロは如何なっ……!ぶふぁっ!!」
この犬飼、実は独身で……
中略
やはり、鼻血で気絶しても、それは必然であったわけである。
ちなみにこの時、シロは寝ていたのでは無かった。
子供用の浴衣を着ていたわけであり、ぐんぐんと成長するにしたがって、やはり胴回りも大きくなるのは当たり前である。
胴回りが大きくなったら、子供が締めていた帯は、やはり窮屈になる、窮屈になるとやはり、苦しいものでありまして。
デビ○マンや、キュー○ィーハニーの変身のように、服が破れてくれる訳も無く。
つまり、そう、シロは気絶していた。
「では、父上!行って来るでござるよ!!」
そう言ってシロは駆け出した。
物凄い速さで。
そりゃもう、凄い速さで。
当ての無い武者修行の旅の筈なのに。
まるで目的地に一直線。
何故かって?
そりゃ勿論本当は目的があるからであって。
「せ~んせ~~~~~~~いっ!!!!今、ぷりちーな弟子が行くでござるよ~~~♪」
つまり、そう言う事である。
「このぐらまらすな肢体で誘惑でござる~~~♪」
ドップラー効果も飛び越えて、やってくるよ犬塚シロ。
二時間後
「ふぃー、疲れたー」
卓袱台の脇に持っていた鞄を置く。
殆ど何も入ってない、もう一つの鞄をほおリ投げると、横島は畳に寝転がった。
「はい、お疲れ様」
玄関で靴をそろえていた雪乃が遅れて部屋に入る。
雪乃は座ろうともせず、台所でエプロンをつけると、やかんでお湯を沸かし始めた。
「お茶、飲むでしょ?」
おー、と、寝転がった横島からの返答。
「あ、お弁当箱だして、洗っちゃうから」
再度、おー、と、返答があり、横島が二つの鞄から一つずつ弁当箱を引っ張り出す。
引っ張り出した弁当箱を手に、横島は雪乃に言う。
「弁当箱くらい俺が洗うから、雪はちょっとゆっくりしろよ」
別にいいのに、と言う雪乃を強引に座らせると、横島は空の弁当箱を洗い始めた。
座ったまま、エプロンを外す雪乃、横島が洗物をしているのを、じぃ、と見ている。
あ、なんかちょっと幸せかも。
時々、家事をやってくれる旦那様って感じ……、だ、旦那様……。
……えへ。
と、その時である。
「せんせぇ~~~~~~~~~~~!!!!」
遠くから、大地を揺るがすような、否、実際アパートは揺れたのだが……、近所迷惑をまるっきり考えていないような爆音が聞こえた。
むしろ音と言うよりは、衝撃波である。
ぐらっ!
がしゃ~~ん!!
部屋が大きく揺れ、ガラス製のコップは無残にもシンクに破片を撒き散らした。
「あいたっ!」
横島の右手の人差し指に、赤い球が出来る。
シンクに散らばったガラスの破片で指を切ったのだ。
「あっ!大丈夫?」
駆け寄る雪乃、横島の右手を取る。
「ああ、全然、こんなの舐めときゃ治るって」
心配そうに人差し指を見つめる雪乃に、横島は笑った。
「それより破片をあつめ『ちゅぷ……』ね、え……と」
人差し指が生温かい何かに包まれた、勿論目の前にあるのだ、何なのかは横島にだって解る。
しかし、その脳髄を駆け上がっていくような、感触に横島はついていけなかった。
「んぅ、らいりょうう?」
雪乃は、横島の人差し指を咥えていた。
「……、あ、ああ」
横島はそんな返事しか出来なかった。
雪乃の頬が紅い、雪乃も自分が何をしているか、どのような意味があるのか、解っているのだ。
雪乃の舌が人差し指を慈しむ様に這う。
「ゆ、雪……」
横島は雪乃の頬に左手を伸ばす。
「んぅ、ちゅぱ……」
触れた左手が、ゆっくりと、頬を撫ぜる。
頬から首筋へ、ゆっくりと、ゆっくりと下に。
首筋から鎖骨、そして肩へ、横島の手が、雪乃の肩を掴んだ。
「ん、よ、よこしま」
いつの間にか指を放していた雪乃が、横島を見つめ、そして、目を閉じた。
最早、言葉など何の意味も成さない、そこにあるべきなのは、行動あるのみ。
そして横島は、雪乃に覆いかぶさるように……。
「せんせぇ~~~~!!」
バギン!!
時が止まった。
あとがき
ふふふ!見えていることが逆に恐怖だろう?
どうも、球道です。
シロ、出てきました。
シロのメッシュの髪型に対して独自の解釈を入れてみました、ありえねぇ、と、自分も思いました。
あ、あと、シロが高熱を発し、父が天狗に薬を貰いに行くシーンですが、原作と大きく異なっております。
そこの所は、『あー、まあ平行世界って話だしね、多少の差異があるんでしょ?』と、納得していただけたら幸いです。
最近、内容がヤバくなりがちな傾向が……、ど、どこから十五禁なんだろうか??
正直、解りません、教えてください。
kamui08様
>隠し味がとっても良かったです。
そう言っていただけると、混入して良かったと思えます。
苦味は甘さを引き立たせるためには必要ですからね、菓子業界では必須です。
Bonze様
>あんま~い!
摂取しすぎますと、精神体に悪影響がでる恐れがあります、用法用量を守って正しくお読みください。
ゆん様
>このままくっつけコノヤロー!
私もそう思います。
東雲様
>デートの描写がリアルっぽくて好きです。
……、リアルなんでしょうか……?私は余りしたこと無いので解らないです(涙)
内海一弘様
>甘いですね。
>けどまだまだいけますよ!!
ええっ!?まだいけるんですか!?胸焼けとか起こしたりしてませんか?貴方の体が心配です。
焔片様
>雪乃とお揃いのマグカップ……うらやましい。
私のベスト萌えシチュエーションのうちの一つです、気に入って頂けましたでしょうか?
孔明様
>あなたも相当な策士ですな(笑)
ふっふっふっ、孔明様ほどではありませんぜー。
さてさて、結局、横島はやっちゃったのでしょうか?はたまた未遂で終わってしまったのでしょうか?
その答えは、次回!
GS横島!!極楽トンボ大作戦!!第十九話で、明らかに!?
ではでは、ばっちこーい!