書を捨て、町に出よう!!
……、では無く。
横島達は、何処に行くでもなく、ブラブラと町を彷徨っていた。
つまり、ちゃんとしたデートなんかぶっちゃけしたことが無い横島に、地に足の着いたデートプランなど考えられるわけも無く、考える物考える物全てが、実現が難しいデートプランだったりで。
とりあえず、町に出てみれば、何かあるんじゃないかなぁー?
と、言うわけで、ウインドウショッピングと言う、何とも妥当なデートに雪崩れ込んでしまったのである。
さて、先の話で、でぇと、と言う言葉を考えて居なかった……、否、考えてはいたものの、使わなかった横島だったが、そこら辺を意識すればするほど、やっぱり気になってしまうのが、人の常であるもので……。
やっぱりデートだよなー。
なんて思っていたところに、
「えへへ、やっぱりこれって、デ、デートなのかなぁ」
そんな言葉が横から聞こえてくれば、そらぁやっぱり気に成りますでしょう?
雪乃とすれば無意識に口に出してしまった言葉でしたから、返答があるだなんて思っても見ない事だった訳でありまして。
「そ、そうだな、デート、だな」
と、そんな事を言われたら、二十七本の乙女回路のスイッチがガチリガチリと音を鳴らし、乙女炉心が乙女小宇宙を生成するのも当たり前の事だった訳で。
そんな訳だから、横島が、
デートなのにこんなんじゃ全くの遺憾で、イカン!
とか、考えていても。
「〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪」
今の雪乃は、ただ横島の隣に居られるだけで幸せだったりするからして、横島の努力は結構、実ってなかったりするのだった。
GS横島!!
極楽トンボ大作戦!!
十七話
町をゆっくりと歩く。
触れ合う程に近くにいると、それだけで、ただそれだけで、心がほのかに温かみを感じた。
何か目的がある訳でもなく、ただ町を歩いているだけなのに、ああ、こんなに満たされる。
町は、日曜だと言うのに忙しなく流れ、町の喧騒は平日のそれ以上だった。
そんな中に、二人は居て、私だけが、伊達雪乃だけが感じていることかもしれないが。
ゆったりとした、穏やかな時間が流れている、と、そう感じた。
隣に横島が、居るだけなのに、ね。
私は、今、きっと、綺麗な笑顔で笑えているはずだ。
「ねえ、横島」
「ん?」
私は隣で唸り続けていた横島を呼んだ。
「新しい洋服、買おうと思うんだけどさ、その、一緒に選んでくれない、かな?」
とりあえずの指針を横島に打診する。
勿論、ありったけの勇気で、だ。
「お、おう」
横島は、ちょっとだけ困ったような顔をすると、いいぜ、と笑った。
「えへへ、じゃ、行こっ!」
そう言って横島の腕を強引に掴むと、そのまま抱えるようにして歩き出した。
「ちょ!ちょっ!まっ!ゆ、雪!」
あはは♪慌ててる慌ててる♪
ちょっと強引で恥ずかしいけど、それはもう許してもらいたいと思う。
私はおそらく赤いであろう頬を隠すように、横島の腕に顔を押し付けた。
「ほら、横島!これ、如何かな?」
「あー、いいんじゃないか?」
「じゃ、これなんか如何?」
「うん、似合ってるんじゃないか?」
「じゃあさ、じゃあさ、これは?」
「いいと思うぞー」
…………。
………。
……。
…。
「むぅぅ#」
伊達雪乃は、怒っていた。
小さい頬を、精一杯大きく膨らまし、紅く染めて。
擬音にするならば、プンスカ、と言う表現が一番正しいだろう。
何故、怒っているのか?
それは、まあ、当然横島の所為なのだが。
つまりこう言う事だ。
雪乃は、横島と一緒に服を選びたいのだ、それは勿論、気になる異性(この場合、勿論横島の事)に、選んでもらって、それを来た自分を、「可愛いよ」だとか、「綺麗だ」だとか、言って欲しい、そんな気持ちから来ている。
何とも可愛い乙女心じゃないか。
しかし、横島の態度は淡白なもの、横島からは選んでくれないし、雪乃がこれは如何?とか打診してみても、横島は当たり障りのない返事をするばかり、怒るのも無理は無い。
そりゃあ、横島が悪い。
しかし、悪いにも悪いなりに理由があるからで。
横島としてはこう言う理由があったりもする。
雪乃は、文句無しの美人で、身長が150あるかないかだったとしても、でる所はでている、というか自己主張が激しいし、引っ込んでいるところは引っ込んで、しかも欠かさず続けている修練の御蔭か……、まあ、なんだ、つまり。
一言で言うなら、物凄い、のだ。
そんな彼女が、「じゃあ、着替えてみるね♪」とか、言って、薄い布のカーテン一枚で遮られただけの試着室で、着替えてたりするのだ。
気にならない事があろうか?否、無い!反語
雪乃が着替えている間、天使と悪魔が脳内で戦ってみたり、無意識にカーテンを捲ろうとしている左手と格闘してみたり、と、色々大変だったのだ。
そもそも、横島のような女性経験が略皆無な男が、婦人服売り場に連れてこられ、女性に服の好みだとか、意見だとか求められても、
それは、無理って物だろう?
そんな訳で、あと何回かデートをするうちに、慣れるだろうからそれまで、ちょっと待ってて欲しい、そんなような事を横島が言って、漸く雪乃の機嫌も快方に向かったのだった。
「あ、そうだ」
雪乃の機嫌が治り、遅い昼食も終え、またブラブラとウインドウショッピングをしていた時だった。
雑貨屋の前で、雪乃が突然立ち止まる。
「横島、そういえば、マグカップ、淵のところ欠けてたよね」
「ん?そうなのか?」
「そうなの、キリンのやつ」
「へー、知らなかった」
「もー、何で知らないのよ、口付ける時に欠けたところ当たるじゃない」
「そーか?いくら俺でも気が付くと思うけど……」
「って、ああ、そうか」
横島はなるほど、と、手を叩いた。
「なによ」
「雪は、いつも左手でマグカップ持つだろ」
「……、あー、そっか、取っ手を持つ手が違えば口付けるとこも違う、か」
「ん、でも、この際だし、マグカップ、買って行くか?」
「……、ぺ、ペアが、いいなぁ」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、雪乃は頬を染めた。
「そ、そうだな、最近こっちに居る事も多いし……」
「じゃ、じゃあ、行こ?」
こうして、横島の部屋の台所には、ペアのマグカップが寄り添うように置かれているのが見られることになるのだった。
それを見たS竜姫とか、Tマモだとかが、「私もペアのものが欲しい〜!」等と暴れる、事になるのだが、それはまたのお話に。
既に日は傾き始め、空は茜色に染まる。
二人は、東京タワーに来ていた。
展望台の上、びゅうびゅうと風が吹き荒れるそこに、二人は立っていた。
窺うような雪乃の視線を、横島は感じていた。
「今日さ、夢を見たんだ」
横島が独白する。
「アイツの夢」
「…………!」
雪乃が息を呑むのが解る。
「最近見ることが無かったのに、さ」
「……そうか」
「嬉しかった、夢の中だとしても、アイツに逢えて」
「それは、良かったな」
「ああ」
風が、ぴたり、と、止んだ。
横島は夕日を睨む。
「お前と此処で夕日を見るのは二回目だな」
「ああ」
「あれは、今迄生きてきた中で、一番効いた」
横島は左頬を掻いて、苦笑した。
「あたりまえだろ、ありったけ、だったからな」
二人は、声を上げて笑った。
「俺はさ、お前がいなかったら、多分駄目になってたと思う」
「ああ」
「死のうと思ったことも何度もあった」
「ああ」
「でも、死ぬ勇気も、覚悟も無かった」
「ああ」
「あいつが転生する可能性ってやつに縋って生きてた」
「そうだったな」
「俺が、人間のカテゴリーから外れた時、あいつが、ルシオラが転生することが無くなったと解ったあの日……」
「俺はお前の事を好敵手で、親友だと思ってる、気にするな」
「……それに、俺はただ殴っただけだ」
「それでも、十分に伝わった」
「……それにぼろぼろ、泣きながらだったしな」
くつくつと横島が笑う。
「そ、それは忘れろっつったろーが!!」
気が付けば日は既に沈み、夜の帳が下りていた。
「沈んじまったな」
「ああ」
「また」
「そうだな、また来ようぜ」
じゃあ、ルシオラ、また、来るよ。
二人は東京タワーを後にする。
「……雪之丞」
「ん?」
「サンキュな」
「けっ!何を今更……」
帰り道
横島の手には、パンパンに膨らんだビニール袋がぶら下がっている。
長ネギが、収まりきらずにピョン、と、飛び出している。
「雪、今日の晩飯は?」
「んー、和風ハンバーグ、かな?」
「お、いいね、じゃあ俺、大根、摩るよ」
「ん、ありがと」
ニコ、と、雪乃が笑う。
「さ、早く帰らないと!二人がお腹すかせて待ってる」
「あー、今日の事、冷かされるんだろうなぁ」
横島が溜息を吐くと、雪乃がくすくすと笑う。
「うん、冷かされるのは、横島に任せる、存分に冷かされて、私の分は取って置かなくていいよ?」
「うわ!ひでぇ!」
二人で笑いあう、帰り道、それはとても幸福に満ちたものだと思った。
あとがき
わーい、書き上がったー。
……、ふふふ……、本当だったら既に十七話はUPしている筈なんだ……。
くそっ!後書きまで書いたのに、消えやがって!!
俺に恨みでもあんのかよぅ!!……ありそう。
和風ハンバーグ、食べたい。←心の叫び
今、ウイルス性の胃腸炎にかかっている為に、脂っこい物が食べられません。
……、と、言うより、昨日の牛丼で悪化しました(涙
ああ、和風ハンバーグ食べたい。
内海一弘様、kamui08様、東雲様、ゆん様、レンジ様、秋桜様、焔片様、ミアフ様。
レス、ありがとうございます!
忘れられてるかなー?と、思っていたので、反響があったのが嬉しく思います。
ぼ、僕にもまだ、帰れる場所があるんだ!こんなに嬉しいことは無いよ!
いえすまいすいーてす、まいすいーてぇす♪あいわなげっばーっくうぇあゆーあー♪
だれもーひとりではーいきられないー♪
ではでは!次回もこのチャンネルに〜!!
スィッチィィ!オ『ばっちこ〜い!!』