横島さんが修行を始めて二週間が過ぎた。
「くっ!!」
「ほら、戻りが遅い!」
横島さんと小竜姫が剣を交えている。
あれから横島さんの修行は午前中に霊力の基礎的な訓練を行い、午後からは剣術、もしくは実戦形式の稽古をしている。
横島さんは修行を始めてからメキメキと力をつけてきている。
とはいえ小竜姫との力の差は歴然で生傷の絶えない日々を送っている。
わたしの方は横島さんほどではないが以前よりはよくなっていると思う。
そして今は横島さんと小竜姫の試合を見守っている。
と言ってもただ見ている訳ではなく、自分の能力を使って二人の一挙一動を分析している。
そして以前とは違い周りの様子もうかがっている。
実践では一対一ばかりではないことを想定してのことだ。
とはいえここには横島さんと小竜姫と鬼門の二人ぐらいしかいないのであまり修行にはならないのだが・・・
やらないよりはましということで行っている。
しかし小竜姫が手加減しているとはいえ横島さんもだいぶ様になってきたものだ。
そしてそれを日々感じているのかこの頃小竜姫の機嫌がすこぶるいい。
まるで子供の成長を見守る母親のようだ。
・・・母親というには包容力が一部足りないような気がするが・・・胸とか・・・
チャキ・・・
「ヒャクメ?今不埒なことを考えませんでしたか?」
「そ、そんなことないのね〜。」
小竜姫はいつの間にかわたしの首に神剣を突きつけていた。
「本当ですか?」
「ほ、本当なのね〜。誰も小竜姫の胸のことなんて考えてないのね〜。そう、決して小竜姫の胸の無さは小学生並なんて考えてないのね〜。」
わたしの言葉を聞いた瞬間、小竜姫が笑顔になった。それと同時に周辺の気温が下がった。
「・・・言い残すことは無いですね?」
「ちょ、ちょっと待つのね〜!!ああ、横島さんも両手を合わせて『南無〜』なんて言ってないで助けてほしいのね〜!!わ、わたしが悪かったのね〜!小竜姫の胸は小学生並なんていうのは嘘なのね〜!小竜姫の胸はちゃんとあるのね〜!!そう、たとえるならば中学一年生並みに!!」
「・・・もはや語るまい・・・」
小竜姫はそう一言だけ呟くと・・・
ガシッ!!
「やめて、よして、助けてなのね〜!!」
わたしの後ろ襟を掴んで別室へと引きずって行った。
「どうしました?護ってばかりでは相手は引いてくれませんよ?」
「くっ!!」
俺は小竜姫様の剣を何とか防いでいる。
と言うか防がせてもらっている。
小竜姫様が手加減してくれているおかげで防げているのが本当のところだ。
「許して欲しいのね〜。」
「ほら、脇が甘い!」
「ぐわっ!!」
俺は何とか攻撃に移ろうとするがその攻撃は当然のように防がれ一撃を入れられてしまう。
「腕がだるくなってきたのね〜。」
「がむしゃらに攻撃すれば良いというわけではありません。相手をよく見て隙を窺いなさい。そしてその隙を逃さず攻撃に移りなさい。」
「はいっ!!」
そして再び剣を交える。相手をよく見る。小竜姫様の攻撃は休むことなく降りかかってくる。・・・ん?よく見てみると小竜姫様の攻撃が一定のリズムで行われていることがわかった。そしてそれが一瞬だけ途切れることがあることにも・・・
「!ここだっ!!」
俺は渾身の力をこめて霊波刀を振り下ろす。
ガシィィ!!
しかしそれは当然のように小竜姫様の神剣によって防がれた。
「無視しないで欲しいのね〜。」
「いい一撃でした。しかし一撃で止まってしまったのは減点ですね。それも相手から見れば隙になります。今後は気をつけるように。」
「は、はい!」
そして俺たちは剣を収めた。
「酷いのね〜。」
「しかし短期間でよくここまで成長したものです。」
「そうなんですか?自分ではよくわからないんですが。」
「お〜い。」
「ええ、横島さんは日々成長していますよ。だいぶ剣にも慣れてきたようですし、ある程度の実戦にも耐えられるくらいのものにはなってますから安心してください。」
「そうですか。ありがとうございます。それと・・・」
「?なんですか?」
「ヒャクメはさっきから何をしてるんですか?」
俺はさっきから何かしらを叫んでいたヒャクメに視線を向けながら聞いてみた。
「ああ、気にしないでください。ただの精神修行ですから。」
「でもあの格好は・・・」
ヒャクメは両手に水の入ったバケツを持ちながら立っていた。あたかも一昔前の学校で悪さをした小学生のように。
まあそれは百歩譲っていいとしよう。
ただ・・・なんで体操着!?しかもかぼちゃブルマ!?胸に『1-2ひゃくめ』とか書いてあるし!?
「知りませんよ。あの子が勝手に着たんですから。」
「その辺はお約束だから聞いちゃ駄目なのね〜。ってそれはいいからもう勘弁して欲しいのね〜。」
ヒャクメは情けない声を上げながらそう懇願した。
「駄目ですよ。これも修行なんですからがんばってください。」
「こんな小学生みたいな修行はいやなのね〜!!て言うかこの頃芸風が変なのね〜!!」
それは同感。
「芸風ってなんですか!!少しでも修行に役立つようにしてあげてるんです!!いいんですよ私は。いつものように仏罰を下しても。」
「!!これでいいからいつもの仏罰という名の体罰は勘弁して欲しいのね〜!!」
これも充分体罰だと思うのは気のせいか?
「う〜〜、情けないのね〜。」
「まったくだな。」
「やっぱり普通のブルマにしておけば横島さんを悩殺出来たかもしれないのに・・・失敗したのね〜。奇をてらい過ぎたのね〜。」
「そっちかよ!!」
「ねえ、横島さんはブルマに上着は入れる派?それとも入れない派?」
「あ、あほなこと聞くなーーーー!!」
「あははは!!横島さん顔が真っ赤なのね〜。かわいいのね〜。んっ?」
俺をおちょくっていたヒャクメが突然なにかに気がついたように声をあげた。
「どうしました?」
「誰かが鬼門の試しの儀を受けてるのね〜。」
「おや、この間美神さんたちが来たばかりだというのに早いですね。しかしヒャクメ?こんな状態でも修行を続けていたんですね?」
「ふっふっふ。当然なのね〜。」
ヒャクメが得意顔で答えるが・・・体操服で両手にバケツ持ちながらなのでかなりまぬけだ。
「ふむ。今回はそれに免じて罰はもういいでしょう。バケツを放していいですよ。」
「助かったのね〜。あっ、鬼門が負けたのね〜。」
「そのようですね。横島さんすみません。ちょっと行ってきますから休憩していてください。」
「はい。わかりました。」
そう言って小竜姫様は修行場を出て行った。
「それでヒャクメ?その修行者はどんな人なんだ?鬼門に勝てるんだから結構強い人なんだろう?」
「ふふ、横島さんもよく知ってる人なのね〜。」
ヒャクメはなにかを勿体ぶるように笑顔で答えた。
「?誰だ?」
「ふふふ、そ・れ・は・エミさんなのね〜!」
ヒャクメは楽しそうに俺の師匠の一人の名を言った。
「あら?久しぶりなワケ。それとこの間は急にキャンセルして悪かったワケ。」
「いえ、気にしないでください。」
俺たちは久しぶりに会うエミさんと今までの話をした。
「ふ〜ん。大変だったワケ。しかしあれから連絡しても留守だったからどうしたかと思えば妙神山に来ていたとは。それで?修行のほうはどうなワケ?」
「ええ、なんとかこの霊波刀に慣れてこれたとは思います。」
俺は霊波刀を出してエミさんに見せながら言う。
「横島さんがんばってるのね〜。」
「ええ、横島さんはこちらが驚くぐらいに日々成長していますよ。」
ヒャクメと小竜姫様が続けてそう言った。正直、少し照れる。
「ふ〜ん。これがその霊波刀・・・今思ったんだけど、さっきの話だとこれはあの霊気の盾の変形だって言ってたけど、剣以外には変化出来ないワケ?」
「それはやったことがないのでわかりませんね。」
エミさんの言葉に小竜姫様は何かを考え込むような、ヒャクメは面白そうな顔を浮かべた。
「それは面白そうなのね〜。横島さん、ちょっとやってみるのね〜。」
「おいおい、そんな簡単に言うけど・・・」
「いえ、やってみる価値はあるかもしれません。」
俺の言葉が終わらないうちに小竜姫様が声を上げた。
「横島さんの話だとサイキック・ソーサーの変化は強い思い、イメージによってなったものと思われますので、ない話ではありません。」
「でも、どうやれば?」
「とりあえず自分にあった武器が欲しいって強くイメージするのね〜。かなり抽象的だからうまくいかないかもしれないけど。まあ、減るもんじゃないしチャレンジあるのみなのね〜。」
ヒャクメがそう言うと三人から期待に満ちた視線が送られてきた。
正直・・・勘弁してください。
泣き言を言ってもどうしようもないので俺はとりあえず言われたとうりにイメージを浮かべる。
武器が・・・俺にあった武器が・・・欲しい!!
そして俺の右手に霊力が集まり、何かを形作る。
「お、なにかできるのね〜。」
そしてそれは一つの形を取り、俺の右手に収まる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
それを見て俺たちは言葉を失った。なぜなら・・・・
「な、なんでハリセンなんだーーー!!」
「あ〜はっはっはっ!!よ、横島さんはやっぱり骨の髄までツッコミなのね〜。」
ヒャクメ爆笑。やかまし!!
「これは・・・予想外なワケ。」
エミさん絶句。俺もそんな感じです。
「横島さん、これは?」
小竜姫様はてな顔。うう、そんな真面目に聞かれても。
「これはハリセンです。お笑いなんかでツッコミが使う道具の一つで音は凄いですが威力はいまいちですね。まあ、地味に痛いですが。」
「そ、そうなんですか・・・」
小竜姫様困り顔に変化。うう、その視線が痛い。
「と、とりあえず威力を試してみましょう。横島さん、そこの岩に攻撃してみてください。」
「はい。」
俺は返事をするとハリセンを岩に振り下ろした。
パシーーン!!
小気味いい音があたりに響く。そして岩は・・・・当然のように変化なし。
「・・・」
俺はそれを確認すると自分の手のひらに軽くハリセンを振り下ろす。
パシーーン!
再び小気味いい音が響くだけ。俺の手のひらに変化はなく、地味に痛みが走るだけ。
「・・・どうやら普通のハリセンと変わらないみたいです。」
「そ、そうですか・・・」
小竜姫様は額にでっかい汗を浮かべてそう言った。
「ま、まあもう少し霊力をこめれば低級霊ぐらいは祓えるかもしれないワケ。」
エミさんがそうフォローしてくれるが・・・ハリセンで除霊・・・まぬけすぎる・・・
「ははははは!そ、そういえば以前ナイトメアに横島さんが取り付かれたときナイトメアが横島さんの影法師を中途半端に呼び出して使わせていたのね〜。や、やっぱり横島さんは骨の髄までツッコミ魂全開なのね〜!!」
ヒャクメが笑いすぎて目に涙を浮かべながらそう言った。
「・・・横島さん?ナイトメアと戦ったんですか?」
「ええ、まあ。あの時は・・・」
俺はナイトメアと戦ったときに事を小竜姫様に説明した。
「ふ、ふふふふ・・・そうですか・・・そんなことが・・・」
俺の話を聞くと小竜姫様は久しぶりに微笑んだ・・・あの、目は笑っていない微笑を・・・
「あ、横島さん、このハリセン借りますね。」
「は、はい!!」
そして俺の手からハリセンを受け取るとゆっくりと未だに笑い転げているヒャクメに近づいていった。
「ヒャクメ?」
「ははは、は?な!なんなのね〜!?」
ヒャクメはようやく小竜姫様の変化に気がついて体を強張らせる。
「ナイトメアを退治したそうですね?」
「!!そ、それがどうかしたのね〜!?」
「話によるとずいぶん見事に事を進めたようですね?」
「た、たまにはわたしも頑張るのね〜。」
小竜姫様の言葉にびびりながらもヒャクメは言葉を返す。
「ふふふ、でも・・・」
「でも?」
「肝心なところでミスをして横島さんにナイトメアを取り付かせてしまったんですって?」
「そ、そそそれは・・・」
その言葉と同時にヒャクメから大量の汗が流れる。・・・ありゃあ冷や汗だな。
「なにをそんなにあわててるんですか?本当なら悪魔に遅れを取るような神族は一から徹底的に鍛えなおしてあげるんですが、横島さんも無事なようですし、これで許してあげますよ。」
そう言ってヒャクメにハリセンを見せる。
「ちょ、ちょっと待って欲しいのね〜!!」
ヒャクメが本格的に慌て出す。無理もない。俺のハリセンは小竜姫様が霊気を込めたらしくありえない光を放っている。そしてなぜか『精神注入!!』と言う文字が刻まれていた。
「大丈夫ですよ?音が大きいだけで地味に痛いだけみたいですから。なんせハリセンですし。」
「そ、それは既にハリセンじゃないのね〜!!そんなので叩かれたらただじゃ済まないのね〜!!か、勘弁して欲しいのね〜!!」
そう懇願するヒャクメに・・・
「問答無用(は〜と)。」
にっこりと笑みを浮かべた小竜姫様はハリセン?を振り下ろした。
ズドン!!!!
「ミギャ!!」
何かとんでもないものが落とされたような轟音と何かにつぶされたような叫びが聞こえたが俺とエミさんは怖くて既にそちらを見ていられなかった。
ヒャクメ・・・成仏しろよ・・・
あとがき
今回は久しぶりにギャグでした。まあハリセンは以前出したことがあったんでそんなにおかしくはないと思います。一応サイキック・ソーサーが更に変化できることを書く上で一番自然かな?と思ったので。ちなみにほかの候補としてはぴこぴこハンマーとか考えましたがあまりにあほらしいので却下しました。完璧に思い付きですね。そして今回のコスプレは王道の体操着!!の更に古いかぼちゃブルマでした。別に意味はありません。ただヒャクメのブルマ姿は想像できない・・・と言うかちょっときついものを感じたので少し変化させただけでした。ちと古すぎましたかね?
レス返し
始めにご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
内海一弘様
今回も地味なお仕置きから始まりましたが、いつもの仏罰も下りました。こういったのも久しぶりです〜。栄光の手は正直微妙です。一応機能的には今回の話から変化は可能ですので覚えてもあんまり意味がありません。どうしたものか検討中です。う〜ん、悩む。
名称詐称主義様
鋭い!!鋭すぎます!!それは考えていました。一応可能です。しかしあれだけの文章でそれを予測するとは・・・脱帽です。
究極超人あ〜○様
ヒャクメは現状の能力強化と多様化を目指します。戦闘面で使える能力を強化しますので新技は無いかもしれません。うう、今後の課題ですね。
亀豚様
今回は久しぶりにいつもの仏罰が下りました。それでも最初の仏罰はヒャクメにボケる気力があるようなので軽めでした。しかし・・・本当に久しぶりに書いた気がします。
零式様
零式様!今回はいかがだったでしょうか?足りましたか?それともまだですか?そしていい加減小竜姫様の胸ネタはうんざりですか!?再び意味はないです。しかしいい加減胸ネタが続いていますのでなにか打開策を考えなくては・・・
うけけ様
久しぶりにギャグでした。リハビリ中です。そういいながら次回は再びほのぼのかな?まだ分かりませんがぼちぼち修行終了します。そして今回はヒャクメのコスプレは・・・あえてふれません。想像できない・・・
SS様
某漫画とはエロイムエッサイム〜エロイムエッサイム〜と魔方陣に唱えて仲間を呼び出す漫画です。うう、本当に歳がばれそうだ。今回のヒャクメのコスプレは如何だったでしょうか?
紅蓮様
前回の小竜姫様の照れる姿は結構好評みたいです。自分で書いておいてなんですが確かにあんまりありませんものね。そして今回はギャグでした。いつもの小竜姫様はいかがだったでしょうか?
耶麻様
誤字のご指摘ありがとうございす。自分でも一応チェックは入れるのですがなかなか気がつくことが出来ません。うう、どうしてなんでしょうか?本気で疑問です。
への様
確かにヒャクメにも向けられている言葉ですね。ヒャクメが命を危険にさらしてまでも横島君を護ろうとする、その姿に横島君はなにを思うか・・・う〜ん、いつか書かせていただきます。貴重なご意見ありがとうございました。
寝羊様
やはり課題はスルーですか・・・お約束ですね。そして今回はギャグでした。そしてコスヒャクは違う意味でマニアック?にしてみました。相変わらず意味のないことをさせてみました。