あの後・・・あの戦いの後・・・横島さんは眠り続けた。
殿下の力で体の怪我は治ったが、霊力を限界以上に使用したために今はただ眠り続けている。
戦いはあっけなく幕を閉じた。
目覚めたばかりとはいえ殿下の力は圧倒的だった。
一撃。ただの一撃で殿下の言う「ケリ」はついた。
メドーサはその力の前に退いていった。
そして、わたし達は眠り続ける横島さんをつれて妙神山に戻ったのが昨日。
一日経っても横島さんは眠り続けている。
ここは妙神山の一室。霊的に清められたこの場所は横島さんの回復にはうってつけだ。
「横島さん・・・・」
横島さんはただ眠っているだけ。いつものようにただ眠っているだけ。
わたしの力で明日には目覚めるとわかっているのに。なのに・・・
なのになんでこんなに不安になるんだろう。
早く目覚めて欲しい。いつものように声をかけて欲しい。
わたしはただ・・・それだけを願っている。
スッ・・・
「横島さんの様子はどうですか?」
わずかに戸が開く音がすると小竜姫が部屋に入ってきた。
「まだ眠ったままなのね〜。」
「そうですか・・・」
そして小竜姫はそう言うと横島さんの眠っている布団をはさんでわたしと向かい合う形で座る。
「それで・・・あなたはなにを落ち込んでいるんですか?」
「えっ?なっ、なんのことなのね〜?」
わたしは驚いて小竜姫を見る。
「そんな顔をしていればわかります。言ってみなさい。言葉にすれば多少は気が楽になるものですよ。」
小竜姫は優しい顔でこちらを見ている。
「・・・」
「・・・」
小竜姫はただわたしの言葉を待っている。
わたしが悩んでいるのはお見通し、か。ふふ、わたしの負けなのね〜。
「わたしは・・・なにも出来なかったのね〜。」
「・・・」
「あの時、ううん!違うのね〜。横島さんの所に行ったときから、ずっと・・・横島さんを幸せにしてみせるって、横島さんに力を与えてしまったわたしの罪を償うって決めてたのに・・・わたしはなにも出来なかったのね〜!!」
わたしは自分の罪を償うために横島さんのところに行った。それから数ヶ月の間にいろんなことがあった。
危ない目にもあった。
嬉しいこともあった。
怒ったことも、怒られたこともあった。
いろんな人にあった。
それが楽しくて・・・横島さんといることがなによりも楽しくて、わたしはその時をただ楽しんでいた。
その結果がこれ。
横島さんを命の危機にさらし、わたしはのうのうと無傷でここにいる。
「わたしはもっと横島さんの力になれたのに・・・横島さんの成長を手助けできたのに何もしなかったのね〜!!そのせいで横島さんが!横島さんが!!」
わたしはどんどんと言葉が激しくなっていっていることが自分でもわかった。
でも止めることは出来なかった。わたしの眼から流れ落ちる涙と一緒で・・・
「わたしのせいなのね〜。わたしのミスが横島さんに力を与えてしまったから横島さんがこんな目にあったのね〜!!わたしが!!わたしが!!うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もう限界だった。わたしはあふれる涙をそのままに横島さんへと泣きついた。
「うっ、うっ、・・・」
「私はそうは思いません。」
「えっ?」
いままで黙って話を聞いていた小竜姫がそう言った。
「あなたが何もしてこなかった、何も出来なかったとは私は思いません。」
「でもっ!」
「あなたは近くにいたからわからないみたいですが、気がつきませんか?」
気がつく?
「何がなのね〜?」
「思い出して見なさい。横島さんが始めてここを訪れたときのことを。」
初めて横島さんと会った日・・・
「あの時の横島さんはあまり笑いませんでした。緊張していたのもあったのでしょうが、それでもただ、苦笑いを浮かべるぐらいでした。」
「・・・」
「そして次にあったとき私は驚きました。あの少年がこんな顔をするんだと・・・」
確かに横島さんは始めて妙神山に来たときはあまり笑顔を浮かべなかった・・・
「そして昨日あったとき、私の中で横島さんの価値が変わりました。」
「・・・」
わたしは黙って小竜姫の次の言葉を待つ。
「それまでの横島さんはわたしの大切な弟子でした。彼の道を示すことが私の務めだと思っていました。でも、昨日の戦いを、横島さんの信念を目にした時に彼は私が誇れるほどの人になっていました。」
「でも!それは横島さんの力であってわたしが何かしたわけじゃないのね〜。」
「まだわかりませんか?横島さんがそこまでの力を、信念を得たのにあなたと過ごしたときが確かに関わっているんですよ?」
「それは・・・」
「わたしは誇りに思います。彼を弟子に持てたことを!そしてあなたも誇りなさい!あなたはそんな彼に護るべき大切な人と認められているんですよ!!」
小竜姫の言葉が心に響く。
「でも、わたしは横島さんを護りたかったのね〜・・・・」
「それならあなたも彼に負けないように努力しなさい。護られるだけでは嫌だというなら己を鍛えなさい。長いときを生きる私達は横島さんのように急成長は出来ませんが、あなたの能力を全て活かせるように考え、実行しなさい。」
「わたしの力?」
「そうです。あなたには確かに戦う力は無いかもしれません。それでも、メドーサの戦いで見せたように使いようでは確かに力になるのです。それもせずただここで泣き崩れるのは私が、横島さんの師である私が許しません!!」
そう言って小竜姫はわたしに真剣な視線を向ける。
わたしは・・・その視線を真っ向から受け止める!!
「・・・わたしは決めていたのね〜!横島さんを幸せにしてみせるって!!そのためならなんだってしてやるのね〜!!」
わたしはその言葉に心で付け足す。ずっと・・・横島さんといたいから・・・そのためなら!!
「その言葉確かに。さて、私は準備があるのであなたはちゃんと横島さんに付いているんですよ?」
「それはもちろんだけど、準備ってなんなのね〜?」
「修行の準備です。横島さんはきっと今回の事から、私にさらなる修行を求めるでしょうから。」
確かに横島さんならそう言うだろう。
自分が危険だったからじゃなくて、わたし達が危険な目にあったから・・・
だから横島さんはさらに護るための力を求めるだろう。
でも・・・
「確かにそうだと思うのね〜。でもそれだけじゃないのね〜?」
ギクッ!!
わたしは小竜姫からそんな音が聞こえた気がした。
「な、なんのことですか?」
「おおかた、横島さんが出した霊気の剣を見て、今度は霊力だけじゃなくて剣術の修行もしようとか考えてるのね〜?」
ギクギクッ!!
「そ、そそそそんなことはありませんよ?」
・・・小竜姫・・・あなた、解かり易過ぎるのね〜・・・・
「まあいいのね〜。わたしも横島さんの新しい力には興味があるのね〜。でも・・・」
「でも?」
「わたしも一緒にやるのね〜。」
もう置いて行かれたくはない!わたしも横島さんの力になりたいのだから!!
「ふふ、そうですね。わかりました。許可しましょう。」
そう言って小竜姫は部屋を出て行こうとする。
「小竜姫・・・ありがとうなのね〜。」
わたしは小竜姫に、友に礼を言った。
元気付けてくれたことに、わたしのするべき事を思い出させてくれたことに。
スッ・・・
小竜姫はなにも言わず戸を閉めた。ただ、優しい笑顔を浮かべながら。
あとがき
うう、今回もシリアス風味。ギャグが!!ヒャクメのコスプレが!!ぜ〜ぜ〜落ち着け私!!今回はヒャクメと小竜姫様の友情と言うか掛け合いでした。次回は・・・実は修行に入ってもいいんですがもう一つ天龍パパ、つまり竜神王を出して後日談を書こうか悩んでいます。どうしましょうか?
追伸
寝羊様、kamui08様、への様のご指摘を訂正いたしました。ご指摘ありがとうございました。
レス返し
初めに、ご意見、ご感想を寄せていただいた皆様に感謝を・・・
寝羊様
天龍の戦闘シーンはありませんでした。そのかわり今回はヒャクメ、小竜姫様メインでこんな感じに仕上がりました。前回一応天龍編は終わりだったんで後日談です。期待されていたのなら申し訳ありません。
恐竜帝国様
確かに厳密には終わってませんね。一応メドーサとの戦闘が終了なのでそう考えました。しかし後日談は実は後二つぐらい書けそうなんです。うう、どうしましょうか?
零式様
原作では結構臨死体験してますけどここの横島君は初です。いやまて、冥子ちゃんのところでしてるか。
にゃら様
横島君は今回出番無しです。前回がんばったんで休憩です。しかし今回はあんまりギャグ無しでした。最後に少しあるだけですね。どっちかっていうとシリアス&ほのぼのでしょうか。
紅蓮様
天龍がんばりました。出番ありませんでしたけど。うう、書こうかは悩んだんですけど結局こうしました。いかがだったでしょうか?
ジェミナス様
次のメドーサとの鉢合わせは少々頭が痛いです。それと横島君の霊波刀は名前は考えてません。おそらく原作とは違うと思います。一応理由もありますし・・・
への様
違和感は確かに。もう少し脇にも目をやらないとダメですね。ヒャクメの戦闘シーンは結構前から考えていました。今後は・・・うう、悩みは増えるばかりです。
空牙様
はじめまして。前回の話は私がこの作品を書き始めた当初から頭の片隅にあったものでした。一応私的には満足のいく物だったので楽しんでいただけたのなら幸いです。今後ともよろしくお願い致します。
亀豚様
今回は小竜姫様がヒャクメを励まし、諭す話でした。小竜姫様が今後どのような修行をするか・・・どうしましょうか?
甚六様
小竜姫様の横島君の評価が上がりました。今後どのように発展するかは未定です。しかし、横島君をめぐって小竜姫様が動いたらヒャクメとおキヌちゃんは大変そうですね。
うけけ様
横島君のご褒美で実は後日談のもうひとつの構想が浮かびました。ひとつの話として日の目を見るかはわかりませんが、どちらにしろそれは使うつもりです。ご意見ありがとうございます。
EVE様
今回は後日談でした。前回が熱い展開だったので今回はこんな感じで。メドーサ編は実はギャグも考えていたんですがギャグが続いたのでシリアスに・・・まあギャグは思い付きだったのでおそらく今後もメドーサが出てくる話はシリアス風味だと思います。
kamui08様
それです!!刺す又です!悩みがひとつ減りました。ありがとうございます。訂正をかけようかとも思ったんですが、時間がたちすぎたのと、作品としては自分的に満足いくものだったのでこのままにしました。今後はそうさせていただきます。
内海一弘様
天龍の戦闘シーンはありませんでした。申し訳ありません。ただ、今後天龍は少しだけ間接的に関わると思います。後日談をもうひとつ書けばそちらに出番は考えています。
DARC様
その台詞が全てを締めくくりました。展開としては原作と同じなんですが、覚悟が違うため生まれた台詞でした。気に入っていただけたなら幸いです。